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■オープニング本文 石鏡・伊堂。 三位湖の北に存在する、石鏡の古都。 神殿を抱え、厳かにして、敬虔な人々の住まう都市。しかしそこは、一攫千金を狙う開拓者たちもまた、多く集まる場所でもあった。 古くに信託を受けたと伝えられる、歴史ある神殿。そしてその内部には、いまだ発見されぬ財宝が隠されているとも。それを求める者たちが絶えず、多くの開拓者たちはこの場所に赴き、無謀な夢へと挑んでは、戻る事無く内部で果てる者もまた多かった。 さて、伊堂の神殿は、都市の住民たちにより管理されている。が、部外者が勝手に入り込んでは内部を荒らされぬようにと、神殿の本殿は多くが部外者の立ち入りを禁じ、近づくことさえままならない。無理に入ろうとすると、武装した警備の者に追い返される。 そして本殿の周囲には、数多くの拝殿や幣殿、祭具や書物を保管した保管庫が存在した。伊堂の住民とはいえ、隅から隅までを完全に把握しているわけではない。必ずどこかに抜け道があり、そしてそこから侵入した盗人により、様々なものを盗まれる事も少なくはなかった。 最近になって、伊堂の周辺地域にある拝殿の一つ。その地下より、神像が発見されていた。神殿内部は、いまだ全容が明らかになっていない。しかし、伊堂の人々にとっては、失われし遺物の発見と言う事で、これを大事に保存していく所存だった。 だったのだが‥‥。 保存しようとしたその矢先、事件が起きた。 その拝殿‥‥名前が見当たらないので、仮に付けられた名前が「地門殿」‥‥、それ自体はそれほど大きくは無い。むしろ、仮名の元となった「地下へと続く扉」と、「地下に広がる迷宮」の方が広いくらい。 内部は確かに、宝の山であった。伊堂の本殿内の宝物庫では見られない、様々な宝物が貯蔵されていた。 地下倉庫の奥へと進むと、そこには更なる扉、それも厳重に封じられた扉があった。 それを開いたところ、そこには鎧兜や武器に混じり、像が飾られていたのだ。人やケモノ、アヤカシ、もふらさま、その他あらゆる幻に出てくるような怪物や異形の存在を模った、いくつもの像が。そしてそれらには、宝石や金銀で装飾が為されていた。 保存担当者たちは、これらを見つけてまず喜び、そして気を引き締めた。またぞろ盗む者が出てくるに違いない。ならば、盗まれないように守らねばならない。 だがある日。 伊堂の本部。地門殿へと向った調査・保全隊が、夕方になっても戻らない。何事かと思って向ったところ、その地門殿内部は鮮血にまみれていた。 像のいくつかは倒れ、砕けているものもあった。立てかけられていた鎧兜も、いくつかは倒れ散らばっている。 それだけでない。おそらく殺されただろう調査隊の皆は、姿を消していた。そして鮮血は、神像が保管されていた部屋の奥、さらなる奥へと続く隠し扉へと続き、暗黒の中に消えていた。 捜索隊は松明を手に、その奥へと進んだが‥‥突然何物かに襲われ、そして命を消されてしまった。 「‥‥というわけで、これ以上伊堂の市民を失うわけには行かないのです」 伊堂の、神殿保存・管理担当の男・財版が、やや慇懃に、しかし悲しみを感じさせる声で君たちへと訴えかけていた。 財版の言うには、武装した警備兵が十名以上、暗闇の中で一気に殺されたというのだ。 唯一逃げ帰った警備兵もまた、ひどい怪我を負っていた。そして彼もまた、この事を伝えた後に亡くなった。 彼の傷は、刀、または武器によるものらしい。 もとは、迷宮内の奥の部屋にて。まず松明を持っていた二人の兵が、いきなり刀を投げつけられて松明を取り落とした事から殺戮が始まった。 そして、兵士たちが取り落とした松明を踏んで、明かりを消した襲撃者は、一方的に殺戮を行ったのだ。兵の一人は刀に切りつけられ、吹っ飛ばされた。無我夢中で走ったところ、なんとか出口までたどり着き‥‥といった事らしい。 「諸君らには、この拝殿地下の、迷宮内に潜む何物かを退治してもらいたいのです。この正体が何か、迷宮のどこに潜んでいるのか、それはさっぱり分りません。しかし、開拓者の諸君なら、このようなこそ泥をどうにかする事は出来るものと存じます」 そう言って、財版は金の入った袋を取り出した。 「この通り、報酬は十分に用意しました。そして、入用のものがありましたら可能な限り用意しましょう。この謎の惨殺者を退治していただきたい。よろしくお願いします」 |
■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034)
21歳・女・泰
朧楼月 天忌(ia0291)
23歳・男・サ
蘭 志狼(ia0805)
29歳・男・サ
輝夜(ia1150)
15歳・女・サ
錐丸(ia2150)
21歳・男・志
空音(ia3513)
18歳・女・巫 |
■リプレイ本文 「それで? 人数は何人だったアルか?」 泰拳士・梢・飛鈴(ia0034)。彼女の問いかけに、伊堂の関係者は書類をめくり確認した。 「‥‥ああ、ありました。最初は六名、調べに向かった時は八名‥‥ですね」 「全部で十四人。それを一人を残し全員‥‥」 「うむ。後から入った者たちは、警備兵として戦闘訓練も受けているはず。それを殺してしまうとは、かなりの戦闘能力を持っているに相違あるまい」 サムライ、蘭 志狼(ia0805)が、梢に続き言った。厳しそうな顔つきが、より厳しく引き締まる。 『地門殿』に入った者たち。まずはその数を確認するため、二人は警備の担当者に確認を取っていた。 別の場所では、輝夜(ia1150)、小柄な黒髪の少女サムライが別の書類を見せてもらっていた。判明しているだけの地図、および発見物の目録を閲覧し、その写しを受け取る。 「ふむ‥‥これで、なくなっているものが無いかを確認できるじゃろう」 しかし、油の入ったビンはあまりもらえなかった。 「連中、ケチだとは思わぬか?」 「まあ、あまり愛想は良くないアルね」 警備担当者の事務的な態度には、少々の反発を覚えてしまう二人だった。 「しかし、これで調査の糸口もつかめるだろう」と、志狼。 これらが、解決の手がかりになるといいのだが。 「オメエと組むのは初めてだな、錐丸(ia2150)。ま、一つよろしく頼むぜ」 「おう、お前の背中はまかしときな。朧楼月 天忌(ia0291)」 錐丸と呼ばれた猛き志士は、サムライ・朧楼月へと請合った。 二人は、奇妙に対照的だった。錐丸の髪は金で、瞳は赤色。逆に朧楼月は赤い髪に金色の瞳を持っている。 「それにしても、怖そうな門ですねえ。『地獄殿』と呼ばれるだけはあります」 空音(ia3513)、黒髪と黒き瞳、そして優しげな口調を持つ巫女。これから入る遺跡を目の前にして、彼女は神妙な眼差しでそれを見ていた。 「さあ、それじゃあ入りましょう。怖いですけど、がんばらなくっちゃ!」 「‥‥のう、空音」と、輝夜。 「は、はいっ! なんですか輝夜様?」 「この門の名前は『地獄殿』ではなく、『地門殿』だ。それに汝、『加護結界』を我と志狼にかけてくれるのではなかったのか?」 「え? ‥‥あっ、忘れてました!」 「‥‥まあ、幸先はそう悪くない‥‥と願いたいアルね」 梢がつぶやく。しかしそれで、緊張した空気が少しほぐれたのを皆はなんとなく感じ取っていた。 死臭が漂っている。それに含まれているのは、殺気めいた不穏な空気。 石造りの通路を、志狼と輝夜、錐丸と梢、空音と朧楼月‥‥といった隊列を組んで、開拓者たちは注意深く進む。 空音は手鎖、朧楼月は業物を手にしており、後ろからの不意打ちに備えていた。錐丸は刀を持ち、梢は腕に手甲・飛手をはめている。気配を探りつつ、梢は周囲へと眼を光らせていた。 先頭を行く志狼と輝夜は、それぞれ長槍・羅漢とバトルアックスを得物として携えていた。それには松明がくくられており、炎の明かりが暗闇に視界を投げかけていた。が、それでも死臭と不穏な空気は払いきれない。 「ふむ‥‥ここが件の部屋か」最初に輝夜が入り込み、斧と、斧に縛り付けた松明をかざしつつつぶやいた。左手のガードで、いきなりの攻撃から防御するのもわすれてはいない。 探索の果てに、一行は大きな部屋に入り込んだ。近くの壁には、火を付けられていない松明が松明入れに入れられている。それに火をつけると、部屋がようやく見渡せる程度には視界を確保できた。 「不吉な気配がするな」 志狼の第一印象が、それだった。そこは紛れもなく宝物庫、もしくはそれに近しい目的の部屋に相違ない。朽ちて壊れた壷やら道具やらが並べられている棚もあれば、粉々になった何かの残骸もある。全てを見て回るには、少し時間がかかるだろう。 「さて‥‥この部屋の奥へと進んだら、そこで皆は襲われた‥‥って事だよなあ?」 朧楼月が、近くに立てかけてあった武器に触りながら言った。それらは古く、錆が浮いている。いくつかは錆びきってしまい、ぼろぼろで使い物にならない。が、中にはまだ使えそうなものも見受けられた。 「‥‥あまり、値打ちものっぽいのはなさそうアルねえ」 ぼやくような口調で、梢もまたつぶやく。そこにあったのは、確かに古代の遺物。しかし、そのほとんどが壊れていた。 「‥‥いないな。少なくとも、怪しげな亀裂や穴は無し。ま、鬼さんが怖くて奥へと逃げ込んだ‥‥って事かな?」 錐丸の赤い目が、更に奥へと続く部屋の扉へ向けられた。 床には、乾いた大量の血痕があり、それが扉へと続いている。血の滴るものを、何かが引きずったかのように。 「きゃっ!」 突然、空音が叫んだ。そして、大きな衝撃音。 尻餅をつきへたり込んでいる彼女へと駆けつけた皆は、彼女が倒れた鎧に押し倒されているのを見た。 「‥‥ふええ、すみません〜。倒しちゃいました〜」 「? この台座‥‥?」 輝夜が、台座と、空音にかぶさり壊れた鎧とを見つつ神妙な顔になった。 「こ、壊しちゃいました? ど、どうしましょう!」 空音の言葉を無視して、輝夜は目録を取り出し、見比べる。 「‥‥発見された鎧は五体。そのうちここにあるのは、二体だけ、か‥‥」 「‥‥匂うな」 「ああ。どうやら、敵に段々近づいては来ているな」 志狼と錐丸は、奥の通路へと眼をやった。 乾いた血痕は廊下へと続き、開拓者たちをすぐに十字路へと導いた。そしてそこには、やはり血痕があった。 「死体は?」 「見当たらない。となると‥‥」 梢の問いに、志狼が答える。が、それを言い切らないうち。 「待て! ‥‥何か居る!」 錐丸が、それを制した。 「『心眼』で捕らえた! 右の廊下の奥に、動く何かがいる!」 開拓者たちは、十字路の右、廊下の奥へと眼をやった。松明の炎だけでは暗くて良く分らないが、そこには開け放たれた扉があり、その奥に更なる深淵と暗黒とが広がっていた。 だが、暗黒からは怖気が立上ってくる。十分な明かりがなく、なおかつ『敵』の姿も見定められない事に、開拓者たちは一抹の不安、そして若干の焦りを禁じえない。 かしゃ、かしゃ。 まるで、人形か何かが踊っているかのよう。奇妙な足音めいた音が、部屋からかすかに聞こえてくる。 刹那。 「!」 空を切り、何かが飛んできた。 それは、槍。柄の短い投げ槍が、部屋から投擲されてきたのだ。 「かわせっ!」 槍は空を切って、廊下の後ろへと飛んでいった。カランという音とともに、古びた槍が廊下の床に転がる。 「はっ!」 代わりに、梢は苦無を投げつけた。が、手ごたえはない。 「どうやらあいつが、今回の元凶ってわけか!」 確信とともに、彼女はうめいた。拳を握りなおし、来るべき戦いの時へと思いを馳せる。 長く、短い一瞬後。 悪夢のような嫌な殺気と、呪われた墓場からの死臭が、開拓者たちへと襲い掛かった。 そして、松明の炎の中。沸いて出たそれらは、開拓者たちへと走りよって来た! そいつらは、三体いた。そしてそいつらの身体は、先刻の宝物庫に飾られていた鎧のそれ。手の槍や剣も、おそらくは宝物庫にあったものだろう。 輝夜の目録には、壊れていない鎧が揃いで五体、武器は五、六本発見されたと記されていた。そしてそれらは、持ち帰り研究されるとも。 それがちょうど、三体分なくなっていた。全員がここで、確信した。 「‥‥間違いない! あのアヤカシが犯人だ!」 その確信を、志狼が代弁した。 アヤカシ‥‥亡霊武者は、怖気を感じさせる気配を振りまきつつ、突進してくる。 だが、開拓者たちは先刻の宝物庫へと後退し、そして陣形を広げていた。ここならば、広がって戦うことが出来る。 宝物庫に入り込んだ亡霊武者たちへ、開拓者たちは迎撃するために襲いかかった! 亡霊武者は、鎧兜がそのまま浮き上がり、動いているような様相をしていた。それを見た志狼と輝夜、そして錐丸は、瘴気の塊が鎧兜を着込んでいるようだと思った。ともすれば、兜の装飾であろう宝石が、まるで目玉のようにギラリと光っているようにも見える。兜はそれぞれ、動物の意匠が施されていた。猪の牙、大きな鹿の角、そして広げた蝶の翼。 そのうちの一体、「猪」が、志狼へと剣を振りかぶり、切りかかる! それをなんとかかわした志狼は、愛用の槍、羅漢の柄をしっかりと握って反撃を開始した。 「猪」の身体、ないしはそれを構成している鎧の一部を、羅漢の刃が貫く。肩口の装甲が切り裂かれたものの、亡霊武者はひるむ様子を見せない。 逆に、そいつから何かが聞こえてきた。呪い、貶し、侮蔑し、嘲り、罵る声。それは志狼の脳裏にひどく響く。 「貴様‥‥知るがいい。この俺に、小細工は通じぬとな!」 わずかに心動かされたものの、志狼にはそれは通用しなかった。槍を構えなおし、改めて志狼はアヤカシへと構える。 「猪」の隣には、槍を持った「鹿」の兜の亡霊武者が居た。そいつは錐丸へと長柄の槍で切り付け、突き、そして薙ぎ払わんとしていた。 「‥‥俺にゃ躊躇ってモンがなくてね‥‥真っ二つになりたきゃ好きに突っ込んで来いや!」 刀でその攻撃を防御し、払っていた錐丸だが、中々反撃の機会が見出せない。 「これなら‥‥どうだ!」 刀で上に切り上げ、槍の穂先を弾き飛ばした。すかさず胴体の隙間に切りつけようとした錐丸だが、「鹿」は槍の穂先でない方を用い、錐丸の足元を薙ぎ払った。 「しまっ‥‥た!」 思わず、転んでしまう錐丸。倒れた時に、刀が手から離れてしまった。鋭い槍の穂先が、彼の命をも突き刺そうとしたその時。 「化け物野郎、こっちを見やがれ!」 朧楼月の『咆哮』が、「鹿」の気を引いた。すかさず、彼の手にある刃、業物が切りつけられる。それが一閃されると同時に、「鹿」の右腕は切断され、石の床の上に転がり落ちた! が、それでも亡霊武者はひるむ様子を見せない。残った腕で槍を握り締め、柄の部分で朧楼月の胴体部分を薙ぎ払った。 「ぐはっ!」 強烈な一撃が、朧楼月を弾きとばす。その先には、錐丸がいた。絡み合うようにして、二人は石の床の上を転がる。 朧楼月の口の中に、血の味が広がった。内臓をやられたらしい。 三体目のアヤカシ、「蝶」と相対し切り結ぶは、輝夜。彼女の持つ斧の鋭い刃が、松明の炎を受けて鈍く光っている。 「直撃‥‥させるっ! 『両斬剣』!」 練力により、新たなる力が輝夜にみなぎり、戦斧の刃を介してそれは放たれた。アヤカシ・亡霊武者「蝶」へと、彼女は重たい斧の一撃を放った。 斬! 室内の空気そのものが切断されるような、そんな音がした。それとともに、亡霊武者「蝶」の胴体は両断され、床に転がった。 「きゃあっ!」 が、その時。輝夜は聞いた。空音の悲鳴を。 残りの亡霊武者「鹿」が、戦っている最中に空音を見つけ、そちらに接近していたのだ。志狼は「猪」と戦闘中。朧楼月と錐丸は、片腕の「鹿」に弾き飛ばされている。空音を助けられる者はいなかった。 ただ一人を除き。 「『気功掌』!」 手の平に集中させた「気」。梢はそれを、槍を振りかぶった亡霊武者の胴体へと放ったのだ。 掌から放たれた「気」は、亡霊武者、ないしは鎧に取り付いているアヤカシへと多大なる痛手を与えたかのように、そいつの足元をぐらつかせた。 攻撃対象を梢に変更した亡霊武者は、先刻のように槍を用い薙ぎ払おうとした。が、後ろへと下がり、梢はその攻撃をかわす。 「待っていろ! すぐにこやつを倒し、援護する!」 梢の様子を見て、志狼は叫んだ。が、亡霊武者「猪」は、それを阻むように立ちはだかっている。 「猪」の大剣と、志狼の槍・羅漢とが切り結び、打ち合い、互いに一撃を加えんと繰り出される。アヤカシの剣が振り下ろされ、刃が切りつけられるたび、志狼の槍がそれを防いでいた。 羅漢による一撃は、鎧の胴体部へと集中して放っていた。ただでさえぼろぼろの状態で飾られていた鎧、それに対し、強力な一撃を何度も加えれば、どんどん強度は落ちる。鎧そのものを破壊してしまえば、このアヤカシを滅する事は可能だろう。 とはいえ、志狼自身もかなり危うく、追い詰められているのも事実。 「不動」をかけておかねば、そして「加護結界」がなければ、一撃を食らっただろうな‥‥。 脳裏にそんな事を思いつつ、瞬間。 「はーっ!」 気合一閃、羅漢の鋭い穂先が、「猪」の兜をとらえ、真っ二つに。すかさず、槍の柄を脚に絡めて、それをひねる。 両足をもつれさせ、「猪」の亡霊武者は倒れた。それと同時に、鎧の胴体部も割れ、粉みじんとなる。頭部と胴体を失い、二体目の亡霊武者も沈黙した。 残る、片腕の亡霊武者「蝶」。蝶の羽の飾りがついた兜は、かなり醜悪であり、見る者の気分をも悪くさせていた。 当然、槍の一撃を回避し続けている梢も同様だ。が、「蝶」は知ることとなった。 自身の両足を、後ろから来た者たちにより切断された、という事を。 「ざまあ見やがれ、この糞アヤカシが!」 「てめぇはすぐに、引導を渡してやる。覚悟しな!」 空音の神風恩寵により、二人は回復した。そして、後ろから攻撃をしかけたのだ。だがそれでも、亡霊武者は立ち上がらんとする。 そこへ、とどめの二発が放たれた。一発目は、輝夜が投げつけた、油の入ったビン。二発目は、空音の放った『火種』。 三体目の亡霊武者が火だるまになる様を、開拓者たちはじっと見守っていた。 「死体は、全て確認した。間違いなく、あのアヤカシどもに殺されたのだろう」 志狼が、件の警備担当者へと説明する。三体の亡霊武者を倒した後、皆は更に調査を続行した。やがて皆は、十三人分の遺体を発見し、それが犠牲者たちである事を確認していた。 続き、輝夜もまた言った。 「おそらくは、外から瘴気が入り込み、宝物庫の鎧兜にアヤカシが憑依したのじゃろう。で、そいつらが動き出し‥‥」 調査隊の皆を襲った。それが今回の事件の真相だろうと、皆は結論付けた。 「ふむ‥‥そうですか」 担当者が、報告を受けつつうなずいた。事務的な口調なれど、それでもどこか肩を落とし、落ち込んでいるようにも見える。 「‥‥ありがとうございました。これは、私の個人的な礼の言葉です」 今後、遺跡そのものの調査は続行されるという。だが、二度とこんな事が起こらないで欲しい、とも担当者は言っていた。 「‥‥もう二度と、あんなひどい事は起こらないで欲しいです」 帰り際、暮れなずむ中に佇む「地門殿」を見て、空音は一人つぶやいた。それは、静かに、しかし深く、周囲に染み入っていた。 |