たった一つの殺し方:参
マスター名:塩田多弾砲
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/03 21:37



■オープニング本文

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 首なしの死体。
 石鏡、陽天にて発生した、奇妙な事件。
 それは、被害者が全員首を切断された状態で発見されていた。
 最初は画家の伴 仮真。
 そして、伴の使用人、賀等 栗緒。
 その後日には、作家の当麻 瑞葉。
 更に、蒲生商店の店員、五里 幸吉。
 彼らは皆、「黒作」と呼ばれる男に関わり、首を切り落とされた状態で発見されたのだ。
そして、その首は例外なくアヤカシに、大首となりて周囲に脅威を振りまいた。

 が、その中で黒作以外に怪しき者が一人。
 伴の双子の兄弟で、明賀商会の会長、明賀 長一郎。
 伴に似ており、黒作に伴とともに拉致され、怪我をしつつ逃げてきた、という。
 が、明賀は伴と顔が似ており、生前の伴とは仲が悪かった。
 そのような中。最初に殺されていた伴、および栗緒が、本人ではないのでは‥‥という疑いがもたれてきた。
 そして、明賀にその事を問い詰めようとしていたその時。黒作からの手紙が来て、明賀、もしくは明賀を名乗る男は、逃げるようにどこかへと消えた。
 更にもう一つ判明したのは、黒作という男について。彼には、皆をこのように殺すだけの理由も、能力も無いという事。

「というわけで、皆様に‥‥おそらくこの件に関しては最後の依頼をお願いに来ました」
 半ばやつれた、既におなじみになった顔が君たちの前に座っていた。彼の体中には、包帯が巻かれていた。
「私もあれから、人を雇って独自に調査をしました。幸吉を‥‥彼を失った事が予想以上に堪えましてね。犯人が誰であれ、その理由を明らかにして、そして殺人者にふさわしく投獄されない限りは‥‥悔しくて眠れません」
 こうして、蒲生譲二郎、蒲生商店の店主は判明した事を君たちへと語り始めた。

 幸吉の首無し死体、そして幸吉の首がアヤカシ化したことで、この事件は蒲生商店にも関係してしまった。
 そして、会長が居なくなった明賀商会もまた、大混乱に陥っている。運営は有能な幹部により何とかなっているが、自分から行方不明になった明賀が怪しいと思うのは明らかだった。
 譲二郎は、密偵を雇った。とにかく行方不明になった明賀、あるいは明賀に成りすましている誰かの足取りを追うために。
 そして、自分は明賀商会にて。明賀と、伴との関係を詳しく問いただしていた。
 
「それによると、伴先生は‥‥過去に明賀殿と商会の後継者争いをした事があったそうです。伴先生の方が長男でしたし、商業のことも勉強熱心でしたから、彼が継ぐものだと誰もが予想していたのですが‥‥」
 しかし、そうはならなかった。旅好きで商業の事など全く勉強していない明賀だったが、彼は天性の商売人であった。旅先にて何人もの知り合いを作っては、彼または彼女と自己流のやり方で取引し、それらを成功させていたのだ。
 逆に伴は、ほとんどの取引をうまくまとめる事が出来なかった。彼は人付き合いが下手で、要領が悪く、客より自分のために商売をもちかける態度が明らかだったのだが、本人はそれに全く気づいていなかったのだ。
 かくして、後継者は明賀に選ばれた。これが原因で伴は散々明賀と喧嘩をし、互いに憎みあい、禍根を残し、離れて暮らす事に。
 そして、伴は画家として生計を立てることになった。それが、十年ほど前の事。

「更に、密偵からの情報なのですが。十年ほど前に、鳩羅様と伴様とは、どうも逢引されていたらしいのです。鳩羅様にその事を伺いましたが、教えてはいただけませんでした。ともかく、彼女が過去に、当麻先生と伴先生との事で何か起こり、それを知っているのは間違いありません」
 譲二郎は、いったん息を整え、話を続けた。
「そして、その数日後。密偵は明賀先生の居場所を突き止めました。ですが‥‥」
 落ち合う約束の場所に、密偵は現れた。が、彼は何者かに切りつけられで、虫の息だった。

 陽天の郊外にある、小高い丘。うっそうと木々が生い茂るそこには、かつて使われていただろう山小屋があった。近所の人々の話によるとそこに、二人組の男が向かうのを目撃したという。
 蒲生からその情報を得た密偵は、その山小屋を探し出し、中に入り込んだ。すると、中に何かを発見したらしい。
「彼は、息も絶え絶えの様子でした。そして、一言告げると‥‥そのまま息を引き取りました」
 その一言とは、「首無しの死体を見た」。
 
「いてもたってもいられなくなり、私は山小屋へと向かいました。すると、そこには火が付けられておりました」
 次いで、何者かが逃げていくのもちらりと見えた。
 小屋の火は、まだ燃え始めでそれほどひどくはなっていない。が、消すのも遅すぎた。
 燃える小屋に飛び込んだ譲二郎は、そこで発見した。首が切り落とされた死体があった。証拠になるだろうと、すぐに死体を抱えて小屋の外へと引きずり出し、その際に手近の書付をも手にする。
 なんとか、死体を安全な場所まで引っ張った彼だが、死体を検分する暇は無かった。
 アヤカシが、襲ってきたためだ。

「この書付。焼け焦げてはいますが、真犯人が証拠隠滅のために小屋ごと燃やそうとしたに違いありません」
 襲ってきたアヤカシは、骨鎧の群れ。そして、大首。
 十体以上の骨鎧が武器を持って襲ってきたため、死体を調べる暇などなかったのだ。切り付けられて逃げ出した後、現れた大首にかみつかれ、逃げる事がやっとであった。

「‥‥みなさん。ほとんど焼け焦げてしまいましたが、この書付には陽天近くの村の位置が記されています。おそらく、密偵を殺した男、死体の首を切り落とした男‥‥黒作か、あるいはそれを名乗る真犯人かもしれない男は、そこに逃げ込んでいるのでしょう。皆様にお願いしたいのは二つ‥‥」

:死体のある小屋のアヤカシを退治し、死体の確認。
:犯人が逃げたと思われる村へ向かい、犯人の捕縛。

「それと、鳩羅様に関しては‥‥おそらく誠意を込めてお願いすれば、話してくれるかもしれません。なぜ話したくないのかまではわかりませんが、きっと何か理由があるのでしょう。ともかく‥‥」
 彼は、頭を下げた。
「黒作でも、その他の者でも、この事件の犯人を捕らえ、最後にしてください。どうか、幸吉の仇を‥‥お願いします」


■参加者一覧
樹邑 鴻(ia0483
21歳・男・泰
蘭 志狼(ia0805
29歳・男・サ
衛島 雫(ia1241
23歳・女・サ
吉田伊也(ia2045
24歳・女・巫
橘 楓子(ia4243
24歳・女・陰
風鬼(ia5399
23歳・女・シ


■リプレイ本文

「‥‥蒲生殿」
 蒲生邸。
 その客間にて、一人のサムライが出された茶でのどを潤していた。
 そのサムライ‥‥蘭 志狼(ia0805)は、邸宅の主であり今回の依頼者でもある商人と、先刻より言葉を交わしていた。
「幸吉殿に関しては、気の毒な事をしたな」
「‥‥はい、蘭様。幸吉は知っての通り、単純で愚直でしたが、それだけ正直でもありました。まだ、商人としても、人としても。色々と教えてやりたかったのですが‥‥」
 その落ち込み方は、周囲の空気も淀むかのよう。以前にも彼の依頼で仕事をした事のある志狼は、以前と異なる彼の姿を見た。
 以前は、利を追及する傾向が強いと思っていたが、今の彼は、明らかに利よりも人を優先している。
「‥‥変わるもの、だな。」
「はい? 何か?」
「いや、喪った重さは、後から来るものだ、と思ってな」
 返答しつつ、また茶を一口。
「ところで、蘭様。他の皆様は?」
「少しばかり、調べる事がある。じきに戻ってくることだろう」

 明賀商会。
 そこに努める、古株の従業員に。あるいは、引退し隠居した従業員に。
 シノビの風鬼(ia5399)が、その二人に話を聞いていた。
「ふむ、すると栗緒は、もとは盗賊だったのですね?」
「はい。最初に仮真様‥‥いや、伴様を襲ったのですが、捕まりまして」
「ですが、伴様が哀れに思ったため、個人の用心棒として雇ったのです」
 なんでも栗緒は、もとはそれなりに実力のある剣士だったらしい。が、アヤカシと戦い重傷を負い、片足を引きずるようになってしまったという。
 伴‥‥を名乗る前の、明賀商会の長男。『明賀 仮真』。彼はそんな栗緒を気の毒に思い、警備員として雇った。そこから二人は、互いに信頼関係を築きあげ、現在に至るというわけだ。
 明賀家長男、仮真は、次男の長一郎と跡目争いをして破れ、家を出て画家になった。その際に『明賀』の苗字を捨て、伴を名乗った。
 風鬼が二人の老人から、そこまでの事を聞きだしていた。
「で、その跡目争いの時、何かあったんですかね?」
「いえ、わしらもそこまでは。ただ‥‥」
「ただ、ワシが小耳に挟んだ噂では、仮真様が女性で問題を起こしたとか。当時健在だった先代の大旦那様がそれを知り激怒されて‥‥」
「なるほど、勘当したと」
 その起こした女性の問題とはなんだろうか。風鬼は、別の場所にいる仲間がそれを聞きだす事を期待していた。
 
「で、あんたほどの美人なら、さぞや男にもてただろうねえ」
 再び、蒲生邸。
 その一室には、当麻 鳩羅。そして机を挟み、妖艶な美女が一人。
「え? いえ、そんな事は‥‥」
「隠さない隠さない。女同士、遠慮は無しだ。仲間が調べものする間、待たなきゃならないんでね。退屈だから、話し相手になって欲しかったんだが‥‥迷惑かい?」
 橘 楓子(ia4243)が微笑む。
「いえ、私もあなたとお喋りしたいです」
「ならばちょうどいい。恋の話に男の話、ちょっとした内緒話もあったら、お互いに腹を割って話そうじゃあないか」
「内緒話‥‥ですか?」
「女にゃひとつやふたつ、秘密にしたい過去があるもんさ。ま、あたしにゃ山ほどあるけどねぇ、ふふ」
 が、楓子のその言葉を聞いた時。鳩羅の表情が曇った。
「‥‥あなたにも、あるんですね。‥‥秘密にしたい、過去が」
「?」
 訝しげに、楓子は鳩羅を見た。
 そこにあったのは、悲しげな、思い出したくない事を指摘されたかのような、悲痛な表情。
 直感で、楓子は確信した。鳩羅は、この事件に関する何かを知っている。
「‥‥何か、あったのかい。もしも話したくない事なら‥‥」
「いいえ。あなたになら、話しても良いです。というか‥‥同じ女性として、聞いてください。おそらく、この事が事件に少なからず関係しているかもしれませんし」
「? どういう事だい?」
「蒲生様から、前に聞かれました。何か知ってはいないかと。私にとって、それは殿方には聞かせたくない話だったので、その場はお断りしたのです。ひょっとしたら、蒲生様から『その件を聞いて欲しい』と頼まれたのでは、と思いまして」
「‥‥ああ、その通りだ。だが、先にあたしも言っとくよ。この事は、仲間には内緒にしとく。肝心な部分はね」
「はい‥‥」
 病弱で、弱そうな印象を与える鳩羅。
 だがその顔には、強さめいた何かが漂い出てきた。
 それは、外で控えていた吉田伊也(ia2045)にも、どことなく伝わってきた。

「なるほど、ねえ」
 伊也は、屋敷の一角、小さな狭い部屋にて、楓子とともにいた。
 鳩羅の話を聞き、そして部屋から退散した楓子は、伊也とともに、小さな別の部屋で聞いた事を整理していた。
「伴と逢引していた‥‥というのが、実は望まぬ行為だったとはね。伴は最初に不意をつき、鳩羅を薬で眠らせて、その隙にあられの無い姿にして写生し‥‥」
 自分に逆らったらそれをばら撒くと脅し、伴はたびたび鳩羅を呼び出しては逢引していたという。気が弱く、この事を誰にも知られたくない鳩羅は、伴に従うしかなかったのだ。
「伴は、以前から慕ってたらしいですが‥‥最低な男ですね」
 伊也の言葉に、楓子も頷く。
「全くだ。けど、鳩羅の旦那‥‥なかなか男じゃないか。生きていたら、ちょいと惚れそうだよ」
 その事を知り、鳩羅を助けたのが当麻だった。彼は伴の手から鳩羅を救わんと向かっていき、伴の家で栗緒と争い、絵を燃やし‥‥。
「‥‥伴を叩きのめし、二度とこんな事をさせないよう約束させた。鳩羅は当麻に感謝し、そして二人は結ばれたと。栗緒の手の甲の火傷は、その時のものらしい」
「じゃあ、楓子さん。当麻を殺したのは‥‥」
「間違いないね。伴だろうさ」
 そして、その伴は今のところ、「黒作」に殺されたことになっているが‥‥。
「どうやら、黒幕がどんな奴かははっきりしたと見て良いだろうよ」
 確信した口調で、楓子は呟いた。

 秦拳士、樹邑 鴻(ia0483)。
 サムライの女傑、衛島 雫(ia1241)。
 この二人の視線の先には、山小屋があった。そして、山小屋と二人の間には、骨の怪物‥‥アヤカシの姿があった。志狼の咆哮にて、寄ってきたものだ。
 二人の後ろには、四人の仲間たちがいる。鴻の隣に進み出た志狼は、長槍「羅漢」を両手で構えた。それとともに、鴻も篭手に包まれた両拳を握り締め、雫は珠刀「阿見」の切っ先をアヤカシどもへと向ける。
「いざ!」
 雫の声とともに、開拓者たちはアヤカシの群れへと切り込んだ!

 既に咆哮を用い、古びた鎧を着込んだ骸骨の群れの注意は引いた。そして、錆びた刀を抜いたそいつらへと、雫は切り込み‥‥。数刻後、勝負はついた。
 楓子が呪縛符でその動きを止め、雫と志狼、そして鴻が攻撃する。経験豊富な開拓者たちにとって、この程度の骨鎧など敵ではない。ましてや動きを封じられていたならば、倒す事はなお容易。
 槍で最後の骨鎧を叩きのめし、志狼も息を整えた。鎧を残し霧散するアヤカシを見つつ、肝心の存在を探す。
 かつて山小屋があった場所は、いまは消し炭しか残っていない。そして、その周辺には木々が生い茂り、隠れるには困らない。だが、近くにいるはずだ。伊也の瘴索結界が、その存在を看破している。ならば、出てくるのは時間の問題、のはず。
「どうした! 俺たちはここにいるぞ!」
 志狼が改めて、咆哮にて確認すべきそれを、倒すべきそれを誘い出そうとする。
 一瞬の刹那、物陰より現れたそれが、汚らしい歯をむき出しにして噛み付こうとした!

「それで? どうなったんですか?」
 譲二郎が、手足を洗うための水を用意しながら、開拓者たちへと言葉を促した。
「ああ。山小屋近くの木陰に、その大首は潜んでいた。が、俺が空気撃で撃ち落し‥‥」
「で、あたしが砕魂符で倒したよ。もちろん、人相は確認してね」
 鴻の言葉をさえぎり、楓子が譲二郎へと返答した。
 開拓者たちは、山小屋でアヤカシを退治し、死体の確認を行った後。一度戻ってきたのだ。
「で、譲二郎。首無し死体も発見し、検分した」と、雫。
「この前の事から、死体検分に詳しい者に話を聞いてきた。それによると、生前の火傷には肉が盛り上がるなどするが、死後に出来た火傷はそうはならないから、区別がつくそうだ」
「左様ですか。それで、死体の手の甲には?」
「あった。それも生前の火傷の痕がな。足や二の腕など、むき出しの部分にも別に火傷痕があったが、それらは手の甲のそれと違うものだった」
 雫は、鴻とともに死体を検分した時の事を思い出しながら語った。その時の、遺体に手を合わせて調べる鴻の様子が、印象深く記憶に残っている。
 その鴻も、続けて言った。
「俺も調べたが、雫の言うとおりだった。それに、首の切断面も荒っぽいそれだったな。おそらく鋸か何かで切り落としたんじゃないかと思う」
「‥‥となると、山小屋の死体は」
「そうだな、譲二郎殿。首の人相も一致した。あの死体と大首は、栗緒だ」
 志狼は、静かに目を閉じ‥‥そして、見開いた。
「そして、推測が正しければ。村にて待ち構えているのは明賀‥‥に成りすました、伴の筈。皆、十分に用心して参ろう」
 志狼の言葉に、仲間たちは頷いた。

 その村は、荒れていた。
 瘴気はそれほどでもないが、アヤカシが出現するにふさわしい気配を漂わせている。
 広さはそれほどでもない。事前に聞いた話では、作物が取れなくなり、そのまま住民が捨てて現在に至ったものらしい。それを証明するように、畑には大量の雑草が生えており、作物を植えられる状態に無い。
「‥‥いますね、中心部の屋敷に誰か立てこもっているようです」
 伊也が、瘴策結界で村全体の瘴気と、内部にいる生物とを調べ、
「建物の数は、そう多くない。けど、中心にある屋敷の周りに、十体くらい骨がたかってるねえ」
 人魂で鳥を召還した楓子が、空から村を偵察する。その地形、中心部の屋敷の位置と、アヤカシの数とが、彼女の視覚に伝わってきた。
 状況は把握した。あとは、実行あるのみ。
「‥‥此処で終わらせる。蘭 志狼、推して参る!」
 蘭が、アヤカシの群れへと向かって走り出した。それに続き、開拓者たちも村の中心へと切り込んでいった!

 蒲生邸。
 譲二郎、鳩羅、お里。そして蒲生商店に、明賀商会の関係者たち。
 警邏隊に押さえられ、その前に引き出された事件の真犯人は、猿轡をかまされていた。
「アヤカシを倒し、屋敷内部に潜んでいたんですがね。私が影縛りで捕らえ、縛り上げたんですわ。もっとも、舌を噛み切って自殺しようとしたので、猿轡をかませましたが」
 風鬼が、皆に対して事の次第を説明していた。
「‥‥なぜ、どうしてこんな事を。説明してください、伴先生!」
 譲二郎が、犯人に対して叫んだ。が、伴は視線をそらし、答えようとはしなかった。

「‥‥ふう、やれやれ。とんだ事件だったねぇ」
 開拓者たちが警邏へと伴を引き渡し、悲しみにくれる蒲生邸からの帰り道。楓子はぼそりとつぶやいた。
 今回の事件。犯人は「伴 仮真」。
 動機は、明賀に対しては「跡目争いに破れた事から」。当麻に対しては「鳩羅を奪われた事から」。
 そのため、まずはかつて勤めていた「黒作」という取るに足らない男を呼び寄せ、彼が全ての犯人であるように計画を立てた。
「‥‥最初の事件。まず、伴は自分の家に明賀を拉致し、黒作を誘き出した。そして、黒作と明賀を殺害。首を切断し、伴は自分自身が明賀に成りすました」
「そして、栗緒は屋敷の蔵に隠れ住む事にした。ほとぼりが冷めた頃に、別人に成りすまして明賀の屋敷に移り住むために」
 伴を尋問し、自白させた内容を思い出しつつ、風鬼と雫が言った。
「そして、次の事件。黒作が犯人と思わせつつ、同じ方法で当麻さんもまた殺した。このまま何もなければ、明賀に成りすまして商会をモノに、ひいては鳩羅さんもモノにできると考えたけど‥‥」
「第三の事件。蒲生商店の幸吉が、伴の住居近くをうろついているのを知り、この事がバレたのかと勘違い。で、これもまた黒作のせいにしようと同じ殺し方で殺し、わざわざ首を持ち帰ったわけだけど、こいつがあだになったわけだ」
 二人に続き、伊也と楓子が呟く。
「そして、明賀に化けている自分に疑いがかかると、隠れていた栗緒に命じ、黒作からの手紙をでっちあげ、『自分は、まだ黒作に狙われている』と自作自演。なんとか逃れようと試みた」
「で、今回。後が無いと判断した栗緒は、伴に自首を勧めた。が、それを良しとしない伴は栗緒を逆に殺害。その死体を自分に仕立てて『黒作が自分を殺した』と、逃れようとしたものの、独自に調査していた蒲生商店の密偵にそれを見つかってしまった」
 最後に、鴻と志狼。
「幸いにも、こやつはアヤカシを操る能力など無かった。だが‥‥こやつを人として、許せはしない。我欲のために人を殺害し、その罪を死者に着せようなどと‥‥!」
 雫の拳が、まだぎゅっと強く握られている。震えるほどに強く握られたその拳に、隣を歩く風鬼は感じ取っていた。雫の強い、怒りの感情を。
「こいつのせいで、全く関係の無い幸吉さんまでも犠牲に。やれやれ、お里さんも気の毒ですよ」と、伊也。
「そうだな。それに、蒲生殿もまた無念だろう。今までともに仕事をしていた相手に、大切な従業員を殺されたのだからな‥‥」かぶりを振りつつ、志狼が伊也の言葉に続き言った。
「そして、最後まで付いてきた栗緒ですら殺した。商会の跡継ぎや、好きだった女性。こんな事をしてまで、手に入れたかったのか?」
 信じられぬといった表情で、鴻もまたかぶりを振る。
「今回出た、大首たちは‥‥まるで、犠牲者たちの無念が形になったようにも見えたな。非道な人間に傷つけられ、救いを求めていたかのように思えてならない」
 雫が、空を仰いだ。雲が晴れて、日光が地面を照らし出している。
「黒幕は、捕まえる事が出来た。犠牲者たちは、救われただろうか?」
 雫の問いに、誰も答えられなかった。
 だが、誰もが同じ事を思い、願っていた。
 失われた命は、あまりにも多い。だからこそ、遺族には良い未来が待っている事を願わずにはいられない、と。

 後日。蒲生商店も明賀商会も、時間が経って再び商いの日常へと戻っていった。
 鳩羅もまた、悲しみを乗り越えて自分なりに働き出し、お里もまた幸吉を喪った悲しみを克服し、今も茶店で働いている。
 そして、獄中の伴。彼は囚人同士のつまらぬいざこざが原因で死亡した。
 死体は検分され、それは伴本人である事が確認された。が、その死を悼む者は、誰一人としていなかったという。