【負炎】敵、逃すなかれ
マスター名:周利 芽乃香
シナリオ形態: ショート
無料
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2009/10/21 00:46



■オープニング本文

●芹内の思案
 北面においてアヤカシからの攻撃急増は、理穴における魔の森活発化の報と時を同じくしていた。
「‥‥」
 前線から寄せられた報告を前に、芹内禅之正は腕を組む。
 報告書の多くは、守備隊の戦勝を報せるものだ。にも関わらず、彼は眉間に皺を寄せた。彼の懸念は、勝敗にあったのでは無い。問題は、報告書の多くに共通する敵の動きだった。
 敵はいずれも、守備隊と一戦を交えるや否や、躊躇なく退却しているのだ。あまりに、逃げっぷりが良過ぎる。
「‥‥ふむ」
 敵の目的は、陽動か。あるいは、威力偵察や準備攻撃の類であろうか。
 思案し、正座する彼の膝前には、そうした報告書の他にもう一枚、書状が置かれている。理穴よりの援軍要請だ。
(陽動か。陽動であろう‥‥が)
 問題は確証である。
 援軍を送るのは構わぬ。
 構わぬ、が。援軍を送るとしても、おいそれと出す訳に行かぬ理由がある。
 というのも、理穴より届けられた書状によれば、彼の地では補給物資が不足がちであると記されている。である以上、大軍を送りつける訳にはいかない。援軍を送るとしても、援軍は少数精鋭でなくてはならないであろう。
 だがもし仮に、昨今の攻撃が威嚇で無く全面攻勢の為の下準備であったなら。精鋭を引き抜く事による即応力の低下は、そのまま被害の増大に直結する。
「打てる手は、打っておかねばならんな」
 こくりと首を傾いで、彼は座を立った。

●草の者
 気負わぬ様子でふらりと庭へ出た芹内は、整えられた庭木に目を遣った。紅葉にはまだ早いが、池に映った椛の葉が美しい。
 庭を愛でる芹内王の姿は、公務に疲れた心身を休めているようにも見えた――が。
「石蕗君か」
 待ち人がいたようだ。
 石蕗と呼ばれた人物は芹内王の傍らに跪いて配下の礼を示した。その影から性別は伺えぬ。芹内王が使う草の者の一人、その名も便宜上のものであった。

 石蕗は主にしか聞こえぬ程の小声で用向きを告げた。
「殿、彼奴らの足取りを捉えましてございます」
 素早く記憶を辿る。石蕗が追っていたのは守備隊が遭遇したアヤカシのひとつ、小鬼の集団だった。都・仁生の東方面に何度か現れては即撤退を繰り返している。小鬼は臆病な傾向が強いアヤカシと聞くが、それにしてもアッサリ逃げ過ぎているのが解せぬと印象に残っていた。
 手渡された地図には×印と日付が墨で記されている。報告書で伝えられた守備隊との遭遇場所だ。ひとつだけ朱墨の×印には今日の日付、そこが現在の潜伏地だと石蕗は述べる。
 地図上の黒文字日付を眺めて、王は草の意図を悟った。

●一網打尽
 此度、石蕗が携えた情報を基に芹内王が次の出没地点と目星を付けたのは、仁生にある大通りのひとつだ。昼間は市が立ち大勢の人々で賑わう通りなのだが、夜には殆ど人通りがない。辻斬り強盗の類も出ないような閑散とした場所である。
 石蕗が付けた印の日付から推測される移動方向と進行速度から推測でき、過去に守備隊が遭遇した場所との共通項にも一致する。そして、戦闘にも適した場所であった。

 集団は五十ばかりの小鬼で形成されている。全員何らかの武装をしているが、棍棒を持っているだけのものから合戦場でくすねて来たかの様相まで様々だ。
 昼間賑わうような場所に夜間現れては騒ぎを起こし、守備隊をおびき出すと一目散に逃げてゆく。戦闘は形ばかりの反撃にとどめ、逃走を優先する傾向が強い。アヤカシは人を喰らうと言うが、この小鬼の集団は人を襲うでなし警備を呼ぶだけ呼んで逃げ去る傍迷惑な奴らであった。
 ‥‥まぁ、おかげで未だ被害者が出ていないのではあるが。

 これまで守備隊が逃してきたのは出没の通報を受けてから駆けつけた事によるものが大きい。弱いアヤカシの部類に入る小鬼、後手にさえまわらなければ有利に戦えるはずだ。
 だが守備隊はひとところのみを護る兵ではない。一箇所で待ち伏せれば他所が手薄になる。
「‥‥ふむ。開拓者を雇うか」
「周辺の家々には戸締りを行い外出を控える旨、通達しておきます」
 石蕗配下の働きにより、一般人を巻き込む心配もない。
 あとは確実に倒すのみ。
 芹内王はギルドへ討伐依頼の使いを出したのだった。


■参加者一覧
小野 咬竜(ia0038
24歳・男・サ
百舌鳥(ia0429
26歳・男・サ
真田空也(ia0777
18歳・男・泰
紫焔 遊羽(ia1017
21歳・女・巫
氷(ia1083
29歳・男・陰
錐丸(ia2150
21歳・男・志
紅虎(ia3387
15歳・女・泰
橘 楓子(ia4243
24歳・女・陰
夜蝶(ia5354
18歳・女・シ
一宮 朱莉(ia5391
18歳・女・弓


■リプレイ本文

 開拓者ギルドを通じて十名の者が芹内王の命を請けた。
 対する小鬼達は五十近くの集団だと言う。開拓者達は念入りに作戦を纏め上げると、準備の為に一旦別れた。
 王が予測した決戦の地で再び落ち合う事を約して。

●潜伏
 通りが夕日に染まる頃、錐丸(ia2150)が一足早く姿を見せた。
 昼間は賑わっていた市も次々店を畳み始めており人通りも減ってきている。夜になれば更に閑散とするだろうか。
 明るいうちに場の広さと隠れられる場所、通りへの経路を確認していくと、氷(ia1083)が街路樹の前で思案していた。
 小鬼達が出現する方向、撤退する向きはいずこか。罠を仕掛けるにあたり、的確に囲い込める位置を。
 やがて次々と仲間達が集まって来た。各々、逃げ足の速い悪戯者を引き止める為の道具を手にしている。
「こそこそ逃げ回る‥‥なんぞ、せっこいやっちゃなぁ」
「ほんに、訝しい事じゃのう‥‥」
 荒縄を手に紫焔遊羽(ia1017)が呟くと、愛しい女の独り言を聞きつけた小野咬竜(ia0038)が懐手で思案を始めた。
(「鬼共にそんな知性があるとも思えぬし、よしんばあった所で戯れるなどという平和な嫌がらせをする訳がない‥‥」)
 どうにも真意の解らぬ行動に思えた。ゆったり紫煙を燻らせた百舌鳥(ia0429)は咬竜に煙管を回して右目を閉じる。
(「餓鬼共‥‥何しようとしてんだ?」)
 遭遇時にわからなければ、倒した後に死体を漁ってでも手がかりを得たかった。
「厄介だなぁ」
 ふわぁと欠伸してぼやく氷の危惧は、敵の行動が不可解な点にもある。
(「陽動を見せて、罠にかける‥‥か、こっちを警戒と緊張で疲弊させる手か?」)
 頭の良いアヤカシであれば油断は禁物、易々と見破られては意味がない。眠そうな瞳の奥は荒縄を結ぶに適した木を見極めるべく真剣な光を宿す。
 荒縄を結ぶ木を定めた開拓者達は、縄の片方をしっかりと木に結びつけた。長く伸ばして地に垂らす。土を被せて目立たぬように偽装した。
「せっかく仕掛けた罠も、反対側をすり抜けられたら泣くに泣けないしねぇ」
 相変わらず眠たげな眼で、鋭い指摘をする氷。罠だけでは五十体は確保できぬから、しっかり囲い込める配置を割り出して最寄の遮蔽物に身を潜めた。

「嫌がらせ目的で守備隊の人達をからかうなんて、性質の悪いアヤカシだねっ」
 民家の軒下で待機している紅虎(ia3387)は、傍らの夜蝶(ia5354)に小声で話しかけた。人を馬鹿にしたような卑怯な連中は絶対に懲らしめないとと、ひそやかな話し声だが紅虎の語気には微かに憤りが伺える。
 夜蝶は静かに前方を見つめていた。
(「一人で何でもできるわけではないし‥‥仲間と協力して、1匹でも多くアヤカシを滅していこう‥‥」)
 無表情な横顔からは何を考えているか判別できないが、仲間への信頼を胸に撒菱の筒を握り締め静かに時を待つ。
 民家の対角上、防火桶を積んだ影に隠れるは、橘楓子(ia4243)と真田空也(ia0777)。
「逃げる相手を追い掛け回すのは、あたしの趣味じゃないんだけどねぇ」
 ――なんて、我侭は言ってらんないか。
 婀娜っぽい笑みを浮かべた楓子。弦の具合を確かめていた空也は、妙に納得できる言葉に思わず苦笑した。
 成程これほどの美女であれば世の男性が放ってはいないだろう。
「悪戯をしては逃げるだけなんて何処ぞの悪餓鬼みたいなアヤカシは、一匹残らずお仕置きしてあげなきゃね」
 否、怖いけれど面倒見の良い近所の姐さん、かもしれない。洒脱な物言いが小気味良くもあった。
 縄を括りつけた木の影では一宮朱莉(ia5391)が、やや緊張した面持ちで潜んでいる。
(「落ち着いて‥‥出来る。私には出来る‥‥大丈夫‥‥練習した‥‥」)
 歴戦の猛者の中、開拓者になって間もない自分。対峙するアヤカシを思えば知らず胸の鼓動が高くなれど、繰り返し自らに言い聞かせて心を静めようと努める。
 錐丸は心配ないという風に朱莉に並び立つと義姉を託した。
「姉貴の事、頼んだぜ」
 拠点長の暖かな声色に勇気付けられて、朱莉はしっかりと頷いたのだった。

●来襲
 ひっそりと辺りが静まり返った夜闇の頃――
 王配下の石蕗達があらかじめ人払いをしていた為、人はおろか野良犬一匹通りかからぬ閑散とした大通りの空気が震えた。
(「‥‥来たみたいだね」)
 空也は気配を感じた方向に目を凝らした。闇の中、がやがやと近づいて来る、音。上手く掛かってくれれば良いがと、罠を発動する紅虎の辺りに意識を向けた。
 各々、決戦の刻を感じ取って精神を研ぎ澄ましていた。
 物音の方向へ意識を集中させた錐丸は敵の質量を探る。五十近い数、その全てが罠の結界内に入り終えるのを慎重に待った。
 普段の表情とは打って変わった戦士の顔付きで、朱莉は広い通りを凝視した。その横には遊羽、長より託された彼の人の義姉。
「‥‥必ず、守る」
 長との約束、開拓者の矜持。
 口元に扇子を添えて小さく頷いた遊羽は愛しき人の無事を願う。恋人は五十体もの小鬼達を引き寄せる囮役の一人、危険な大見得を切ろうとしている人――
 腕を組み戦の始まりを計っている咬竜。
「さぁて、咬竜さんよ。ちと狭いが、戦といこうや。ついてこれるかい?」
 空也から受け取った止血剤を懐に入れ、同じく引き寄せ役となる百舌鳥が何事もないかのように軽口を叩くと、無論よと咬竜も余裕の笑みを見せる。
 何も知らない小鬼達は大通りの真ん中まで進むと、大声を上げ始めた。
 夜中に大声で騒がれては周囲に住まう者は堪ったものではないだろう。人の言葉を話せぬ鬼達の喚き声は意味が通じぬ分なおのこと不快に感じられて、紅虎は僅かに眉を顰めた。叱り付けてやりたいのをぐっと堪え、手に持った縄を握り締める。
 あと少し。全てのアヤカシが手中に入るまで。
 開拓者達は静かに時が満ちるのを待った。一呼吸一刻が如き長き時間を、焦る事なく待ち続けた。

 縄の結び目付近、錐丸がいる辺りで小さく灯りが点き、消えた。

「「おぉぉぉぉぉぉ!!」」
 息を合わせ小鬼達へ向かって行った二人のサムライが雄叫びを上げた。
 充分に引き付けて誘い込まれた小鬼の内数体が、対抗心をむき出して男達へ突進してゆく。残りはてんでばらばらに逃げ始めた――が。
 ぶすり、鈍い音を立てて深々と地に突き立った矢に一瞬たじろいで止まる。強弓を曳く空也の牽制だ。立ち止まった先頭は後ろからなだれ込む小鬼共に押されて遭えなく潰される。
 それでも尚、我先にと逃走を図ろうとする知性なきアヤカシの浅ましさに、錐丸は嘆息混じりに小鬼共の前へ立ちはだかった。
「いらっしゃいませ‥‥と。此処で潰しておかねェと後々困るんだよ…悪ィな」
 炎を纏わせた一閃で横薙ぎに切り払う。小鬼共は逃げんと一塊になっていたから堪らない、傷付き弱った小鬼の上を踏み越えんとする地獄絵図と化した。
 右往左往する小鬼達、結界は十重二十重に巡らせてある。
「さぁ‥‥蝶舞う戦を始めようか‥‥」
 物と一体化していた影がゆらりと動いた。
 すっと眼を細めて近付く小鬼共に視線を当てた夜蝶、おもむろに撒菱を放った。怯んだ敵に追い討ちの手裏剣を打ち確実に仕留めてゆく。
 その隙に罠の荒縄を強く引き固定し終えた紅虎が体勢を立て直して前へ出た。
「散々人に迷惑かけといて、逃げようなんて虫が良すぎるよっ!」
 渾身の拳に小鬼の体が歪む。育ての親に授けられた泰拳士の技、名の由来。養親の願い通りの強き心、そして正しい心を併せ持った一撃が敵を沈めていった。
 矢の対角線上、向かって来る小鬼達に空也が不敵に言い放つ。
「俺から逃げようったぁいい度胸じゃねーか!」
 言いざま、撒菱をぶちまけた。そのまま突進した小鬼達は足元の鋭い痛みに醜い声を上げた。痛みを物ともせず近付く鬼には長身を生かした鋭い蹴りを喰らわせる。
「ちょこまかと逃げるんじゃないよ、ったく面倒な奴等だねぇ」
 撒菱の結界を抜けて来た小鬼を一瞥して、楓子が符を打った。カマイタチに切り裂かれて倒れる鬼には目もくれず、次の逃亡者を捕捉する。
 攻撃に集中しつつも、楓子の瞳は大局を見失う事なく敵の様子を見極める。騒いで逃げる事を目的としたアヤカシ達に、弓を手にした者は見当たらぬ。
 だが、この中に――指揮官がいるはず。
 アヤカシとしては弱い部類に入る小鬼が集まったとて単なる烏合の衆に過ぎぬが、接敵後即逃走などという統制取れた行動には率いる者がいるはずだった。

 巫女の舞が仲間達を力づける。
「ゆぅにできる、少しの‥‥お手伝いや♪」
 開いた扇子を水平に構え、術を舞う。力を与え傷を癒す。懸命に仲間達を支援する視線の先には、愛し御方。
「そらそら、逃げるでない。焔鬼の剣の錆となるがよい!!」
 焔の髪を靡かせて挑発する咬竜の太刀捌きにたたらを踏む小鬼達。してやったりと子供のような笑み浮かべ、下ろす刃で敵を討つ。
 敵を一手に引き受ける恋人の雄姿を見つめ舞う巫女に付き従い、朱莉は弦を曳き絞る。
 お傍を離れず、必ずや護ってみせる。
 潜伏時の様子が別人のような落ち着いた手付きで、流れるように敵を射掛けた。そこには普段の穏やかな娘の姿はない、凛とした戦士がそこにいた。
「はっ!俺を討ちたきゃ頭か心の臓を潰さねぇとなぁ!」
 死をも厭わぬその気魄に小鬼達は一瞬竦んだ。
 両手に太刀構え、我流で暴れる百舌鳥の太刀筋は無茶苦茶だ。故に予想が付けられず、手当たり次第に斬り倒されてゆく。
「テメーら、ぎゃーぎゃー喚くな。逝きたい奴はかかってこい!」
 怖気づき逃げる小鬼にも容赦はしない。封じし瞳を解放した捨て身の太刀は鬼神の如き無慈悲さで敵を屠る。
 乱戦の中を抜けようとした小鬼の前へ素早く回り込む夜蝶。
「悪いが‥‥逃がすつもりは、ない‥‥」
 突如現れた影、アヤカシの滅を司る者は黒き蝶が如く。
 一太刀浴びせられ倒れ臥すアヤカシには、何が起こったか理解できぬままだったに違いない。
 逃す訳にはいかない。醜く喚き立てる小鬼共。
「テメェらは渡っちまったンだよ‥‥地獄への大通りをな‥‥後戻りはさせねェぞ」
 大きく薙いだ焔刀の一撃に吹き飛ぶ小鬼達。
 さて、仕上げだ。錐丸は懐からヴォトカを取り出すと、小鬼達目掛けてぶち撒ける。
「っと。酔いが回ったかい?‥‥じゃぁな」
 酒濡れの小鬼達は、氷が具現化した炎虎に喰い尽くされた。

 鬼達は確実にその姿を減らし、包囲され、一所へ集められていた。
 最早統制など取れていない。我先にと逃れようとする小鬼達の中、ひときわ強引な、生き残る為に味方をも倒して逃れようとする外道がいる事に遊羽は気付いた。
 よくよく目を凝らす。見た目は似たようなものだが、間違いなく他の小鬼達よりも手練れだ。
「おった!あれや、あれが大将や!」
 遊羽の叫びに楓子が呪縛符を撃った。朱莉に次々と射掛けられながらも、多少の傷など物ともせず掻い潜る大将格。
 逃走可能な唯一の場と言わんばかりに必死の形相で近付いて来る外道に向かって、ばらりと扇子を開いた遊羽が見得を切った。
「逃がさせんよってなぁっ!」
 瞬間、遊羽に肉薄した大将の周辺が揺らいだ。苦痛に身を捩じらせ一瞬止まった大将の隙を逃さず、朱莉が取り押さえたのだった。

●殲滅
 小鬼型アヤカシ四十八体、全滅。付近に被害損壊なし。
 開拓者側に負傷者は出たが、その場で癒せる程度の軽傷で済んだ。
「ん、お疲れ。怪我した人は居るかい?」
 皆それぞれに傷を負っていた。
 仲間を見渡した氷、咬竜と目が合った。そのまま視線をずらすと小柄な遊羽。
「‥‥あ?巫女さんの治癒がいいって?」
「ま、そこはそれ‥‥と。頼むわ」
 苦笑して傷口を示す錐丸に符を施している氷の傍で百舌鳥は煙管を吹かす。
(「喋れる知能は無し、か‥‥」)
 捕らえた大将に人の言葉を話すだけの知能はなかった。止めを刺し死体を漁ったが手がかりになるものもなく。
 小鬼達は何をしようとしていたのだろうか。
 仕掛けた罠を外す夜蝶と朱莉、空也はアヤカシの残骸を一所に固めている。アヤカシは無なるもの、やがて時が経てば風化してゆくだろう。
「じゃあ、あたしは付近の住民に知らせて安心させてくるね」
 いかに夜中といえど、これだけの騒ぎがあれば住民もさぞ不安だったに違いない。紅虎は民家へ報告に向かった。
 少女の紅の髪を見送って、楓子はきな臭い情勢に思いを馳せた。
(「この結果がどう影響するのか‥‥神のみぞ知る、かしらねぇ」)