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■オープニング本文 ※このシナリオは初夢シナリオです。オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 ※このシナリオは、シナリオリクエストにより承っております。 ●夢の記憶 開拓者と呼ばれていた。 でも未開の地を開墾していたのではなくて、寧ろ開けた場所で暮らしていた。 青い空に浮かんだ大地は天儀と呼ばれていて、神道の歌舞みたいな名前の街は時代劇のセットを連想させた。 人助けしたり、化け物退治したり‥‥時には未開の地を探索したり。 便利屋のような事をしていた。 危険な事もあったけれど、シタイというのを持っていたから、開拓者になるのが当然だと思って‥‥ 開拓者‥‥開拓者って、何だろう―― ●うつしよ輪廻 「‥‥ああ‥‥今日も‥‥依頼‥‥入ってたっけ‥‥」 寝惚けた口で発した、自らの声に驚いて目が覚めた。 西暦2015年1月――某所。 いつも通りの朝、あなたは毛布を抱えてがばりと身を起こした。 また、あの夢を見た。 此処とは違う奇妙な場所で生活している夢だ。 半目のまま、鏡の前でブラッシングしながら考える――だんだん覚醒する頭で判断するに、当然ながら鏡に映るのは紛う事なき自身の姿だ。夢の中の自分とは全く違う。 もしや自分の願望なのだろうか。あるいは直近の記憶が夢に形成されるという事もあり得る。 「最近、あの手のサブカル見たかなぁ‥‥」 時代劇とかゲームとか。記憶を辿るものの、影響を受けそうな情報に思い当たる節はない。 身支度を済ませて部屋を出る。いつもと変わらない一日の始まりだ。 連日同じ夢を見る。 気にはなったが、そんなこと身近な友達にも相談するのは躊躇われた。きっと一笑に付されるのがオチだ。 「だからって、これもどうかと思うけど‥‥」 こっそり検索エンジンにキーワードを入力する。 『天儀』『志体』『開拓者』 恥ずかしいから後で履歴を消しておこう、どうせヒットなんてしないんだから。 そう自嘲しながらエンターキーを押したあなたに表示されたのは―― 「嘘‥‥」 同じ場所の夢を見ている者がいた。 天儀を実在する場所だと信じ、開拓者を前世の姿だと信じている者もいる。 あの夢は、本当に自分なのだろうか――あなたの混乱は深まるばかりだった。 |
■参加者一覧
雪ノ下 真沙羅(ia0224)
18歳・女・志
柚乃(ia0638)
17歳・女・巫
平野 拾(ia3527)
19歳・女・志
平野 譲治(ia5226)
15歳・男・陰
ネオン・L・メサイア(ia8051)
26歳・女・シ
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
明王院 未楡(ib0349)
34歳・女・サ
呂宇子(ib9059)
18歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ●望郷 姉さん―― そう呼ばれて、違うと言おうとしたが躊躇った。 何故なら彼は、少女と同じ赤い髪に角を生やした女性の姿をしていたのだから―― 枕元に置いていたスマホのアラーム音で目が覚めた。 岡島 良平は、彼を姉と呼ぶ少女よりも勝気な感じの男勝りなおねーちゃんになっていた。 (リョウコ、って呼ばれてたな‥‥) 名に漢字を当てはめるなら呂宇子(ib9059)、だろうか。決してありきたりな文字列ではないのに、何故か不思議と頭に馴染む。 癖のある黒髪をわしゃりつつ、彼はぼんやり考える。 (何だこのシンクロ感‥‥前世の夢、なのか?) 自ら立てた仮説に良平は呆然とし――手の中の固い感触で我に返った。 「‥‥って、ヤバイもうこんな時間か!」 バイト前に図書館でレポートを進めておかないと! 直でバイトに行くつもりで、動きやすく小ざっぱりとした恰好に着替えてジャケットを羽織って部屋を出る。 「今日バイトだから!」 マフラーを巻きつつ出掛けに母親に帰りが遅くなると言い置いた良平は、呂宇子もこんな装いを好みそうだなと考えて苦笑した。 そして夕方――結局レポートは殆ど捗らぬまま、良平は混み始めたラーメン屋でキャベツを刻んでいたりする。 (俺、双子の妹、いたよな) 図書館では検索アプリを起動しようと何度もスマホを覗き込む。夢の中の設定が妙に気に掛かってしまってレポートどころではなかったのだ。 その点、店内では忙しいから夢の事など忘れていられ―― (沖縄か‥‥) 空いた席の食器を回収したついでにダスターでテーブルを拭いていた良平は、壁のポスターに目を遣った。 旅行会社とビールメーカーがタイアップした、よくある企画ポスターだ。青い海に情緒溢れる沖縄建築の色鮮やかな屋根、妙に心に掛かるのは、夢に見た光景に似ているからかもしれない。 (金、貯めれば、行けるかな‥‥) 「良平、出前頼むわ!」 「あいよ!」 厨房から飛んだ声に応え、良平は岡持ちとヘルメットを抱えて店を飛び出した。 いつか、旅費が貯まったら沖縄に行ってみよう。 でもその前に――ダメ元で妹を探してみるのも悪くない。 ●本気 カフェの扉を開けると、長い黒髪をポニーに纏めた少女が笑顔で出迎えた。 「いらっしゃいませ♪」 初々しさが残るスタッフは、高校生アルバイトの御陰 桜(ib0271)だ。 客が抱えたキャリーの中に居るロングコートチワワにもようこそと笑いかけ、彼女は客らを窓際の席へと案内する。そこは併設された屋外のドッグランが一望できる特等席だ。 「こんにちは、アズキちゃん♪」 キャリーから出して貰った茶毛のチワワに挨拶し、桜は常連客へメニュー票を差し出した。 「松山様はいつものものでよろしいでしょうか? わんちゃん向けの新しいメニューができましたが、アズキちゃんにいかがですか?」 じゃあそれで、と応える客へにこやかにお辞儀して、桜はキッチンに下がった。 松山氏の視線は、ドッグランに向いている。愛犬の友犬が来ていないかチェックしているのだろうなどと考えつつ、桜は材料や調味を犬向けに作ってあるパンケーキに足型の焼印を押してクリームを添えた。松山氏用のカフェモカと共に窓際席へと持ってゆく。 「お待たせしました♪」 「ありがとう、桜ちゃん。今日は学校はいいのかい?」 適当な大きさにパンケーキを切り分けつつ、松山氏は桜に問うた。 桜がこの店で働き始めて一年余になるだろうか。平日は午後から土日は終日店にいる桜は、すっかりカフェの看板娘だ。 「授業は真面目に受けてますよ」 小首を傾げて桜が言う。 確か、親御さんと約束していたのだったな、この娘は。 「成績が下がったらバイトを辞めさせられるんだっけ?」 「ええ、私の本気を見られているんです」 幼い頃から、桜は犬と共に在る美女の夢を見てきた。 相棒と呼ばれる犬達に憧れて飼いたいとねだった事もあったけれど、桜の両親は頑として聞いてはくれなかった。 「厳しいご両親だね」 「生き物を飼う事は命を預かる事ですから‥‥当然の条件だと思っています」 桜が飼う以上は、桜が責任を持たねばならない。 だから桜の両親は、自身で稼いだお金で飼い、世話をする事を条件として飼育を認めてくれた。 「それで、どんな子を飼うのか決めているの?」 「まだ‥‥でも、休みの日に行ったお店で目が合ったコがいて‥‥」 つぶらな瞳が可愛くてと語る少女に、本当に犬が好きなんだねと笑う松山氏。 友達にも言われますと返した桜は松山氏には言わなかったけれど、その柴犬の仔犬と縁が繋がっている予感がしているのだった。 ●恋人 夢の中で、ある娘を囲っていた。 同居ではない。愛人にしていたのだ。 そんな、教師としてあるまじき自分。あれは、私の願望なのか、それとも―― 朝の電車は戦場だ。 昼間は女性専用車両などというものがあるが朝にそんなものはなく、老若男女が入り乱れ、一本すら乗り遅れまいとすし詰めに乗り込む。 そんな朝の通学電車で、柊 沙耶は困惑していた。 (偶然、ですよね‥‥) 周囲に埋もれる背丈の沙耶の尻を、誰かが撫でていた。 元々、身長が150cmにも満たない小柄な身体である。尻など撫でようとすれば相手は膝を折って屈まなければなるまい。なのに、何処から。 ラッシュ時の混雑は小柄な沙耶にとってかなりの恐怖だ。何せ相手の胸元辺りまでしか背がないから、囲まれてしまうと逃げられないのだ。だから沙耶は早めに出入り口付近を陣取って――尻に手が当たっている。 (わざわざ触る人なんて‥‥もう少々、様子を見て‥‥) クラリネットのケースをぎゅっと抱えて躊躇っていた沙耶の思考は、聞き覚えのある声に遮られた。 「私の可愛い生徒に、何をしてくれているのかな?」 「荒明先生!?」 吹奏楽部顧問の教師、荒明 音緒が隅の座席から手を伸ばしていた男の腕を捻り上げる。 現行犯で釈明しようもない男は顔を真っ赤にしていた。男に怒りを向ける事も忘れて音緒を見上げている小柄な沙耶を、女教師は守るように壁際に囲い込んで言う。 「沙耶、こういう時は我慢しなくていいんだぞ」 「す、すみません‥‥先生、ありがとう、ございます‥‥」 沙耶の声がだんだん小さくなってゆき、代わりに頬が赤く染まった。 今朝も見た、不思議な夢。 (あの夢の中、私を抱いていた方は‥‥) 思い出す雰囲気。この感覚に、とてもよく似ている――勿論、そんな事、先生に言えやしないのだけれども。 放課後。 「沙耶、済まないが手伝ってくれないか」 顧問に呼び止められて、吹奏楽部の部長はほんの少し緊張した。何せ今朝の今日である。 楽器店から届いたばかりの管楽器を荷解きしつつ、音緒は沙耶に言った。 「息入れをしたいんだが、クラリネットは私より沙耶の方が良いだろう」 試し吹きをしてくれないかと真新しいクラリネットを示す音緒へ従順に頷いて、沙耶は自前のリードをマウスピースに装着する。 その間に音緒はオーボエのリードを削り始めた。その器用な指先や試しに鳴らしてみる口元へ、沙耶はつい視線を向けてしまっては目を逸らす。 「如何したんだ、沙耶。何だか妙に落ち着かない様子だが‥‥むぅっ!?」 怪訝そうな音緒の視線に耐え切れず、沙耶は無意識に駆け寄って唇を重ねていた。 夢の中、ある娘を囲っていた。 その娘はきっと、沙耶。そして囲っていたのは、私―― 「あ、の‥‥」 何て事をと沙耶が謝る間もなかった。抱き寄せられて、唇を奪われる。 抗う意思もなく全てを委ね、沙耶は確信した。ああ、この腕なのだ――と。 「こんな悪い娘には、お仕置きが必要だな? そうだろう、沙耶♪ いいや‥‥」 ぞくりとするような嗜虐的な笑みを浮かべ、ネオン・L・メサイア(ia8051)は雪ノ下 真沙羅(ia0224)の名を呼んだ。 もう逃がさない、離さない。 かつて天儀で愛し合った仲なのだから―― ●温もり あの人に、逢いたい。 夢の中、あたたかな腕の中、私に安らぎをくれるあの人に―― 冷たい家庭だった。 明王院 未楡(ib0349)が生まれ育ったのは、古いしきたりに縛られた男性偏重の家だった。 厳格かつ男尊女卑の父、夫に逆らえぬ母。両親は兄ばかりを大切にし、未楡を省みる事はなかった。 (高校だって、世間体で通わされてるだけ) 大人びた身体を露出の強い衣装に包み、未楡は深夜の街を歩く。 遊び歩いたって両親が心配してくれるはずもなかった。娘が傷物になろうと、たとえ死んでしまっても、悲しんでくれる両親ではなかった。 長男である兄ばかりを重んじる家だった。兄だけは蔑ろにされる未楡を庇ってくれたけれど、その兄も未楡を庇って事故死した。 (『お前が死ねばよかったのだ』‥‥か) 本当に、兄の代わりに命を落としていれば良かったのだと思う。 いっそ――このまま、どこかで死んでしまおうか。 自暴自棄になった時、あの人はいつも未楡を諌めるように見つめている。 大柄で一見怖そうな、だけど心根は誰よりも温かな人。 (あの人が、私の‥‥夫) 冷めた自分が釘を刺す。 世の中そんなに甘いはずがない、只の願望に過ぎないと。 だけど、すがりたい。すがらずにはいられない――あの人に、逢いたい。 (天儀‥‥) 同じ夢を見ている人達がいるのだと、先日ネットで知った。 だから、命尽きる前に、道を踏み外す前に、会って話を聞いてみたいと思う。 想いを今度こそ叶えるために。 夢の中の私が悔いた、綺麗なままで結ばれたかった、その想いを。 ●縁 霊峰富士山を臨む名所とされるとある駅のホームに、若い男女が荷物を抱えて佇んでいる。 「危ない危ない! 寝過ごす所だったねー」 「間に合った‥‥」 車内でうたたねしていて慌てて降車したのだろう。寝起きの様子が伺える二人の荷物は慌てて纏めたように見えた。 平野 強に、姉さん女房の宏美はからかうように笑って言った。 「あ、でも強の寝顔可愛かったな」 照れた様子でぼさぼさの短髪を掻き揚げた強は観光地が描かれた紙袋から明太子の箱をつかみ出した。縦に突っ込んでしまったので中の偏りが気になる。とんとんと偏りを直しつつ、強ははにかんで言った。 「買い過ぎたかもしれないねー」 明太子のほかにも、たこ焼きや林檎など、紙袋には各地で購入した沢山の土産物が入っていた。挙句、車中で食べたらしい包み紙まで入っている。 ベンチで紙袋の中身を整理しながら、強は言った。 「先に自宅へ送っておこうか」 新婚旅行はまだまだ続く。土産を宅配便で送り、平野夫婦は駅を出た。 夫婦が目指したのは富士山を臨める名所だ。 「良い眺め。お仕事の合間を縫ってもらって、悪かったね‥‥いや、天儀の彼風に言うなら、ありがとなりよ、かな」 「ううん、気にしないで。休める時に休んでおかないとね。それに‥‥こちらこそ、ありがとなのですっ」 ――ていう感じ?と、宏美は強にふふりと微笑う。 拾(ia3527)の記憶を持つ宏美と平野 譲治(ia5226)の記憶を持つ強。二人は天儀の記憶を共有する者同士だ。 ウェブデザイナーと警察官の恋。生まれ育った環境も年齢も職業さえも交わる事がなかったであろう二人が、夢の記憶を縁に結婚を決めた時、当然周囲は――殊に宏美の父は猛反対した。しかし宏美は父譲りの頑固さで親族を説得し、二人は無事祝福されての夫婦となった。 初めて出逢った頃よりも、強はたくましくなったと思う。彼に言わせれば、譲治の意識を感じるようになって気弱さが薄らいだのだと言うけれど、宏美はどんな強も強だと思う。 二人で仲良く茶菓子を交換こしていると、家族旅行中らしき蒼い髪の少女が此方を見ている。 「あの‥‥天儀、知ってるの?」 さらりとした長い髪を揺らして、ショートパンツの小学生が話しかけてきた。 少女は柚那と名乗り、何度も不思議な夢を見るのだと語る。 「こう‥‥何度も、だと‥‥気になって」 「それはきっと、天儀の記憶ね」 宏美の言葉で、柚那は何だか泣き出しそうな表情をした。 やっと――分かってくれる人が、いた。夢の中の自分のこと。柚乃(ia0638)という少女のことを。 資産家の父と休暇の令嬢の母の間に生まれた柚那は、愛情には恵まれていたけれど満たされぬ想いも抱えていた。 いつも見る、不思議な夢。 毎朝髪を結ってくれる母にも、名門小学校の級友達にも信じて貰えない、夢。習い事の合間を縫って両親や兄達に話してみても、蒼い髪も紫の瞳はご先祖さまの血を色濃く受け継いでいるからだで片付けられてしまって。 だけど柚那はそれだけじゃないような気がして、ずっと気になっていたのだ。 「柚那、巫女だったり武僧だったりしたの」 「おいらは陰陽師だったなりよ♪ 今ウェブデザイナーをしているのも、陰陽術みたいなものだからなりっ!」 強が天儀口調で応えた。 十歳の少女にはまだ早いかもしれないけれど、平野夫婦は柚那に連絡先を教えて展望台を後にする。 柚乃の記憶を持つ少女が、いつか同じ記憶を持つ人達と再びすれ違う日が来る事を祈って。 温泉旅館に到着した夫婦は今日の宿で寛いでいた。 「やー、畳が一番なりよねっ! なははっ♪」 譲治の口調でごろりと大の字になる強の様子が子供っぽくて、宏美はくすくす笑う。 ごろんごろんと寝返り打って、強は座布団の上に頬杖をついた。 「そだ、一個聞いて良いなりか?」 「何、かな?」 「‥‥んと、彼も、だと思うんだけど、僕で良かったの、かな?」 何だか真面目な顔をしていた。 天儀の記憶を持っていると言っても、現世では平野強という別の人格だ。だから強は確かめておきたかった――のだけど。 宏美は眉間にほんの少し皺を寄せた。あのね、と言い置いて続ける。 「拾も、辰野 宏美も、貴方だから、好きになったのよ。だからそこは、ちゃーんと、自信持っててよね!」 「そっか‥‥いや、おうっ!ありがと、なのだっ!」 腕にぎゅっと抱きついた妻の髪を撫でて、強は広い額に口付けて言った。 「拾も宏美も、おいら、大好きなのだっ!」 結婚するなら父のような人がいいと思っていた。 父の強さに憧れ、目指し、警察官を志した――というのに、人生というのは分からないものだ。 だけどきっと、それが縁というものなのだ。 |