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■オープニング本文 天儀天輪宗の氏族を中心として成立した王国――東房。 その成立の経緯からもわかるように、東房の国教は天儀天輪宗である。 しかし国内には他教だって存在する。勿論、新興宗教も、だ。 ●毛布羅神社 最近、ごく一部の人間にのみ噂になっている神社がある。 天儀天輪宗を国教とする東房に存在し、しかも奉るのはもふらという稀有な神社であった。 名を毛布羅神社という。 元々は別の名前だったのだが、今の宮司が大々的にもふらを奉り始めて以降は毛布羅神社が通り名になってしまっていた。 「もふらさまは神の御遣いでありながら、人々に尽くしてくださる有難い精霊様なのです」 参拝者のいない狭い境内を掃き清めながら、宮司が一人しかいない巫女に説いている。 天儀全土で神の御遣いとされ大切にされているもふらは、瘴気の少ない場所ならば割と何処ででも見かける精霊だ。牽引力が強いため、古くから農作業や荷運びなどの力仕事にも利用されてきた、人々の暮らしに根付いた生物でもある。食いしん坊で怠けものの個体が多くて俗っぽい印象が強いから、神獣というよりは寧ろ家畜に近い感覚の人の方が多いかもしれない。 「ふわもこでころんころんの、人々を和ませる愛くるしい御姿。緊張も解ける、もふ〜というあの鳴き声‥‥」 目尻を下げて語り続ける宮司の顔が目に見えるようだ。離れた場所で落ち葉を集めていた巫女は、溜息ひとつ吐いて鳥居を見上げた。 扁額が『毛布羅神社』に変わっている。 ただでさえ宮司と巫女の二人しかいない小さな神社であった。巫女とてもふらを大切にする気持ちは持ち合わせているし、宮司のもふら好きに関して咎める気はない。しかし御社を改造し神社の名まで変えて、一体この宮司は何処へ向かおうとしているのか。 「もふらさまがおわすのは清浄の証、もふらさまがお生まれになるような、清い御社を作りましょう」 言ってる事は間違ってない、と思う。が、イラつくのは何故だろう。 きっと参拝者がいない閑古鳥だからだ、と巫女は思った。 東房にある神社という事もあって元々参拝者は少ない。それが宮司が御社の改造を施して以降、参拝に訪れる人が更に減った。 「宮司様、私思うのですけど‥‥」 年始の惨敗が今年の行く末を示していた。まともな参拝客は来ず、来たのはまるごともふらを着込んだマニアだけ――という年明けの有様。このままではこの神社は潰れる。 宮司は箒を抱えた恰好で巫女を見た。 「はい?」 「御社の維持の為に、毛布羅様の御姿をお借りできませんでしょうか?」 巫女の提案に暫し耳を傾けた宮司は、箒を放り出して社務所に駆け込んで行った。 ●もふら御籤 所変わって――延石寺。 東房の南方にそびえる山の中腹に建立された延石寺は天儀天輪宗の寺院のひとつである。この寺の名物は出湯と、山の麓より続く二千百段にも及ぶ長い階段。湯治場という側面もある事から、この長い階段には小規模な寺町が形成されている。 その延石寺で、若い尼僧達が麓の噂に花を咲かせていた。 「もふら御籤でしょ?」 「そうそう、張子のもふらさまの口元から御神籤が出てくる絡繰でね、結果が面白いの」 「えー、わたし普通のしか出たことない!」 ――もふら、みくじ? 初めて聞いた静波(iz0271)が尼僧達に尋ねてみると、何でも延石寺の麓に御籤機を置いている小さな神社があるのだという。 人ほどの大きさもある張子のもふらさまは、その神社の御神体を模した白毛赤鬣で糸目をした姿をしていて、温和そうな顔の口元に薄い切れ目が入っている。張子の前においてある小さな賽銭箱に金子を入れると、どういう仕組みなのか、張子の口元から御籤が一枚排出されるそうだ。 御籤は大吉や吉などの一般的な結果から、もふら運なる運勢の結果までわかるものまで様々あるらしい。 「もふら運‥‥」 良い結果が出たなら、もふら一頭お世話してみようかしらん。 一瞬、神楽の港を思い浮かべた静波は尼僧達に場所を尋ねて、行ってみる事にした。 静波達は知らない。毛布羅神社が東房ギルドに『中の人』の求人を出していた事を―― |
■参加者一覧 / 羅喉丸(ia0347) / 柚乃(ia0638) / 御陰 桜(ib0271) / エルレーン(ib7455) / ラグナ・グラウシード(ib8459) / ジョハル(ib9784) / 戸隠 菫(ib9794) / ルース・エリコット(ic0005) / シンディア・エリコット(ic1045) |
■リプレイ本文 ●神様が見てる!? 鳥居の前で、ちっこい子が息を呑んで立ち尽くしていた。 「ここ‥‥が、モフラ神社‥‥です、か」 ギルドで求人が出ていた神社だ。 仕事は請けなかったものの、場所の説明に興味を惹かれてルース・エリコット(ic0005)はやって来た――が、初めての場所に気圧されている。 「た‥‥頼もーう‥‥」 道場破りみたいな台詞を消極的に呟いて、ルースは鳥居をくぐった。 来るのが少し早かったのだろうか、昼前の神社は人の気配がない。だが、それが却って神域の静かさをより一層感じ取れる。 自然が珍しいルースにとって、神社は自然の塊だ。温まり始めた石畳の上にしゃがんでみたり、太い注連縄が巻かれた大樹を延々見上げてみたり。 「い、いつ見ても‥‥ふ、不思議‥‥」 天儀の寺社仏閣を参拝する時のいつもの癖で、あちこち寄り道しているルースの様子を、社務所の方からじっと見つめている視線があった。 (あら、ルースちゃん!?) ルースの姉、シンディア・エリコット(ic1045)である。 張子のもふら御籤機の中で待機していたシンディアは、糸目もふらの隙間から妹の様子を眺めていた。 今回、毛布羅神社からの依頼を請けたのは二名。従って、彼女はもう一人と交代で張子の中に入る事になっている。 御籤機役でなければ妹の傍に駆け寄るところなのだけれど、シンディアは身動きできずに中にいる。 おや、ルースが社務所に近づいて来た。 「わ、わ‥‥これ、が‥‥モフラ様の、おみくじ‥‥」 誰にも見られていないという安心があるのだろうか、人見知りな妹の瞳がいつもより輝いて見えた。実際、ルースはやたらと気合を入れている。 「し、勝負‥‥で、です!」 百文を手に、おずおずと賽銭箱へ入れた。 両手を合わせたルースちゃん、何を念じているのかしら――と、ここでシンディアの悪戯心がうずうず。 (ちょっとくらい、いいわよね?) 張子の排出口から御籤を半分出して、そのまま御籤を握ったままにしてみた! 「‥‥は、はわっ!?」 お賽銭入れた。御神籤出てきた。なのに途中で突っかえている!? 突然のハプニングに、さながら小動物のルースは、早々におろおろ涙目になっている。 隙間から見える妹の狼狽えた顔がおかしくて、シンディアは悪いと思いつつもつい微笑みを零した。 「か、神様‥‥!?」 助けてなのか許してなのか、ルースの声が切迫してきた辺りで、漸くシンディアは御籤から手を離した。 「今年も、良き都市であるといいわ‥‥いや、いいな」 勢いあまってぺたんと尻餅を突いたルースへ、毛布羅様からのありがたい御声が。 驚くルースに、シンディアは更に天の声を重ねた。 「ルース・エリコットよ。恋人とは仲良くな」 「は‥‥はい!!」 慌てて立ち上がり、ぺこりとお辞儀したルースは慌てて境内を逃げ出した。 「か、神様‥‥は見てる、です。悪さでき、ない‥‥」 「おや、何だか楽しそうですね?」 慌てふためく妹を見送って笑い声を零していたシンディアに、ジョハル(ib9784)が交代を告げにやって来た。 ●天儀滅亡の危機! 聞くところによると、その神社には面白い御籤機があるという。 噂を聞きつけやって来たエルレーン(ib7455)が、マニアの聖地と成り果てて久しい毛布羅神社にやってきた。 「へえ、かわったおみくじなんだね‥‥もふらさまかあ、かぁいいな♪」 彼女もまた、もふらさま大好き乙女だから、ある意味マニアの聖地来訪かもしれない――が、今回の彼女は初詣仕様の晴れ姿。 初春めでたい桜色の振袖に金糸を織り込んだ豪華な帯を合わせ、真っ白なふわもこ襟巻きを纏う。活動的なショートカットに飾った摘み細工の髪飾りも愛らしい、誰もが振り返る美少女振りだ。 「おっみくじ、おっみくじっ♪ その前に‥‥お賽銭、奮発しちゃう☆」 エルレーンは帯揚げと揃いの色した巾着から財布を取り出した。もふらみくじは楽しみだけども、その前に此処の神様にご挨拶しなければ。 お年玉の相場くらい、万商店でならちょっとした良い小物が買える程の額を躊躇なく取り出して、エルレーンは躊躇なく賽銭箱に投入した。 鈴緒を握り、重々しい音を鳴らして彼女は毛布羅様に祈る。 (‥‥神様) 心を無にして祈りに集中する。自然と、緑の髪した青年の姿が思い浮かんだ。 今は反目し合う、かつての兄弟子。会えば馬鹿だ貧乳だと罵り合うばかりだけど――それでも、本当は仲良くしたくて。 (‥‥いつか、ラグナと。昔みたいになれますように) そんな妹弟子の可愛らしい祈りは、当の兄弟子の登場にぶっ壊された! 「もっふらさま、はりこー? のっ、もっふらさっまっ」 期待120%、もふら馬鹿丸出しのアドリブソングを引っさげて、ラグナ・グラウシード(ib8459)が境内を闊歩している。 背を向け意識を集中していたというのに、何故こんなにも鮮明にお馬鹿な気配を探知してしまうのか。 拝の姿勢のまま固まってぷるぷるしている妹弟子の存在など露知らず、ラグナはその欲望に従うまま真っ直ぐに御籤機を目指した。 「おおぅ、もふらさま、かぁいいお!」 年始参拝のマニア達と似たような叫びを上げている。 恥ずかしい、これが同門の兄弟子なのか――と、当の兄弟子はここで漸く拝殿前のスレンダーな晴れ着娘が打ち震えているのに気がついた。 「おっやー? 馬子にも衣装とは言うが‥‥ふわもこ襟巻きで貧乳隠してるつもりか?」 「何よ! そんなんじゃないもん馬鹿ラグナっ!!」 その言葉、そっくり返してやる! 紋付袴の背に負い紐でうさぬいのうさみたんを負うた、どこぞの肝っ玉母さんみたいな恰好のラグナに拳を握り、エルレーンは耐えた。ここは神域、参拝に来て騒ぎを起こすのは本意ではない。 「さーって、馬鹿に構ってないで、おみくじ引こうっと☆」 勤めてさりげなく、ラグナの傍にあるもふらみくじに近づいた――が、おとなげない兄弟子がエルレーンの行く手を阻んだ! 「引かせん! 私より先に、このもふらさまには触れさせんッ!!」 言うや、ラグナは賽銭箱へ金子を入れて、張子のもふらに抱きついた!! (‥‥え!?) 一方、急に揺れた張子もふらの中では、ジョハルが少々面食らっている。 なにやら騒がしい参拝客だとは感じたが、喧嘩するほど仲が良いという類のものだろうと微笑ましく様子を伺っていたのだが――賽銭も入った事だし、とりあえず一枚、排出しておこう。 ジョハルは束の一番上にあった御籤を張子の口から押し出した。なお、ジョハルは視力が不自由な為、御籤の結果には一切関与していない。 「‥‥‥‥」 外では男女二人が押し黙っている。 重苦しいような、笑いを堪えているような、何とも微妙な気配が漂ってくる――いったい何があったのだ。 「どうだったかな?」 毛布羅様を思わせる、低く優しい声音でジョハルは外の二人に話しかけた。 「あっはっははっは!!!!!」 「私に恋人ができない天儀とかもう即滅べ!」 同時に聞こえて来た男女の声。どうやら恋愛運のよくない籤だったようだ。 御籤機の前ではラグナが『【凶】恋愛:わろし/結婚:見込みなし』の御籤を握り締めて滂沱の涙を流していた。重ねて言うが、ジョハルの選択に他意はない。これぞ神の導き、運の為せる結果なのだ。 「恋愛運か‥‥背中を押してあげたかったけど‥‥ごめんね」 悔し涙に濡れていたラグナは、包み込むような優しい声音に気がついた。 あたりを見渡すも間近にいるのは貧乳小娘ただ一人、という事は――もふらさま!? 「今は結果が悪いかもしれないけれど、天儀が滅ばない限り、きっとどこかに貴方の縁は繋がっているよ」 「もふらさま‥‥! ありがとうもふらさまッ!!!!!」 ――天儀滅亡の危機は、小さな社におわす張子のもふらさまに拠って守られた!? ●神様に願うこと 毛布羅神社にも参拝数の波はある。 わんこ連れだからと、御陰 桜(ib0271)は人の少ない時を選んでやって来た。お供は闘鬼犬の桃と又鬼犬の雪夜である。 (今年も元気で楽しく過ごせますように♪) (もっと桜様の力になれますように) (たのしいこといっぱいだといいな〜) 忍犬二頭とお参りを済ませて、桜は社務所へ移動する。話には聞いていたが、もふらさまを模した御籤機は意外と大きくて愛らしい姿をしていた。 「これなら桃達にも引けるかしら♪」 そんな事を呟きながら、まずは一枚、桜の分。 すっと出てきた籤を見て、桜は艶やかな笑みを浮かべた。 「【モテ吉】? 人生最大級のモテ期だなんて、今まで以上にモテちゃうってコト?」 それは困ったわねと首を傾げた。 桜にとって恋愛は、好きな人が出来るかの方が重要だから、他者からモテる数については関心ないのだ。 「モテるなら、もふもふなコ達にモテる方が嬉しいわねぇ?」 「みょふ‥‥?」 桜に撫でられた雪夜が、慣れない人の発声で繰り返そうとして噛んだ。あぅんと鼻を鳴らした雪夜の様子を、桃が「まだまだね」と言いたげな姉の様子で見つめている。 「さて、桃たちのはっと‥‥?」 今年の相棒たちに、素敵な結果は出たかな――? もふらづくしの敷地内を、羅喉丸(ia0347)が歩いている。 (あの御神体‥‥) 話に聞いて想像していたものよりは意外と普通だなと思いながら辺りを眺めていた羅喉丸だが、御神体の像にだけは多少の驚きを覚えずにはいられなかった。 御前試合の会場前に居座っている、あれに似ている。 (毛布衛門‥‥まさかいわれのある、立派なもふらさまだったのか) ――まさかな。 即座に否定した。本もふは鎧兜で恰好を付けているが、あれは普通のもふらさまだ。白毛赤鬣のもふらさまは珍しくないし、糸目だって探せばいるに違いない。 ともあれ、は出店ひとつない静かな境内を通って社務所へ向かった。なるほど、御籤機が張子のもふらになっている。 一回分の賽銭を入れると、糸目もふらの口元から御籤が排出された。 「【かわ吉】か、噂通り、かわっているな」 駄洒落ではない、念のため。 結び棚に御籤を括りつけ、もう少し早い時期に御籤機を導入していれば毛布羅神社も少しは賑わったかもしれないなと、閑散とした境内を歩いてゆく。 天儀を揺るがす決戦の前ならいざ知らず、今や神頼みも開拓者も必要のない状況になり始めていた。 (まあ、平和になって、強大な力が要らなくなったというのは、いいことだが) 脅かすものがなくなったとしても、彼はただ黙々と鍛錬を極めるだけだ。 川の近くや鳥皮か――御籤の内容を思い出しつつ、羅喉丸は今晩は焼き鳥にするかなどと考えながら寺町を後にしたのだった。 * 日が傾き始めた毛布羅神社へ、戸隠 菫(ib9794)が静波や尼僧達と連れ立ってやって来た。 「もふら御籤かー。ほんとに狛犬さままでもふらさまなんだね!」 菫は感心しつつ視線を鳥居の上に向けた。 確かに扁額まで『毛布羅神社』になっている。静波や延石寺の尼僧達に元の名前を尋ねてみたけれど、誰ひとり以前の社名を知っている者はいなかった。 (存在感、薄かったんだね‥‥) ほろり。 鳥居の下で立ち尽くしていると、何処からともなく声がした。 「ほっほっほ‥‥」 「毛布羅様!?」 「わしは神様じゃ★」 声に驚く静波はともかく、菫は注意深く辺りを観察した――と、手水舎の辺りに猫又がいる。 赤いリボンを結んだ、真っ白な猫又だ。開拓者にとってはすっかり見慣れた感のある猫又だが、本来はそうそう人前に姿を現す獣ではない。ましてリボンを結んでいるという事は、人の手が入った猫又だという事だ。 「んもう、見つかっちゃった★」 菫の視線に気付いて、柚乃(ia0638)は笑いながら術を解いた。 「あけましておめでとうございます★」 人の姿に戻った柚乃は呉服屋の看板娘に相応しい晴れ着姿で、肩元にはお馴染み伊邪那を襟巻きにして巻いている。 「お馴染みの、謎のご隠居さまでも良かったけど‥‥っ」 今日は本物を連れてきているから。驚かせている間は隠れていた、ものすごいもふらの八曜丸が手水舎の陰から出て来て、藤色の毛並みをふるりと揺らした。 「ここじゃ神様もふ」 やる気満々ドヤ顔で言う八曜丸だ。 確かに。ありがたく手を合わせて、顔見合わせて笑った。 社務所で尼僧達が呼んでいる。慌てて菫は静波と柚乃の手を引いて駆け出した。 早くお引きなさいよと、先に御籤を引いていた尼僧達が御籤機を囲んでわくわくと待っているので、まずは静波が引いてみる。 「えっと、私は‥‥【吉】運の良くなる向きあり。努力すれば必ず通じる、だそうです」 「そうだね。今年も頑張ってね」 御籤機から発せられた柔らかい声音に尼僧達が色めきたった。待っていたのはこれが目当てか。 「はい、努力を惜しまず、頑張ります!」 一方、柚乃は御籤を二つ折りにして困惑し、菫は御籤を開いたまま難しい顔をしていた。 「どうだったかな?」 「なんか、こういうのが出たんですけど‥‥?」 優しい声音のもふらさまに問われて柚乃が開いた御籤を、覗き込んだ尼僧達は大騒ぎだ。 「【モテ吉】なんて初めて見たわ!」 「すごい! 何て羨ましい!!」 「ねえ貴女、意中の方は!?」 すっかり乙女化した尼僧達を他所に、柚乃は困っているし八曜丸は拗ね気味だ。 「久々にお出かけしたのに、もふ」 ある意味、柚乃の御籤結果の方が菫が引いたものの状況に合っているみたいだ。 静波にどうでしたかと尋ねられ、菫は『もふら運【凶】』の御籤を見せてこっそり言った。 「んー、もふら運、凶だって。関係に亀裂が入るって書いてあるんだけど、あれ見てると‥‥ねえ」 大きな声では言えません。 それにこれはもふら運。対象がもふらさま限定なら良いや、と菫はあっさり御籤を畳んだ。さっさと結び棚に向かいつつ、彼女は静波に言った。 「今、家族の中にもふらさまはいないからねー 亀裂が入るような関係はないって事で」 それよりも早く祈願を済ませようと、参拝中の皆の中に混じる。 激変だった去りし年。今年はこれからの希望を生み出す年になりますように。 (あたし自身も、希望を生み出せるように努力するよ) 真摯に誓う。宗派や教えに関係ない、自身への誓い。 「さ、甘いもの食べに行こっ! 美味しい甘味処見つけたんだ。お汁粉が絶品なんだよ!」 菫の提案に華やいだ声が上がる。娘達は賑やかに毛布羅神社から去っていった。 |