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■オープニング本文 突如、緑茂の里へ集まり始めたアヤカシの群れ。 当該国である理穴は勿論、周辺国家からも援軍を派遣する大事態となっている。 出征する開拓者に対し、開拓者ギルドは万商店を通じて武器防具消耗品の無料支給を行っている――のだが。 ●捨てる神あれば拾う神あり? 万商店から出て来た開拓者の男、すこぶる機嫌が悪かった。 「けっ、また竹槍かよ‥‥」 どうやら支給品に不満があるようだ。 片手に持っている竹槍は、彼には無用の長物らしい。折ろうとしたものの曲りなりにも武器、簡単には折れなくて男は忌々しげに舌打ちをする。 やがて男は竹槍を道端へぞんざいに投げ捨てた。 『ミィ‥‥ツ‥‥ケ‥‥タ‥‥』 気のせいか、風の音がそんな風に聞こえた。 殺気を感じて振り向くと、骨。アヤカシだ! 男はさっき捨てたばかりの竹槍を拾おうと道端に視線を向けた‥‥が、竹槍は鉢巻を締めた骨が手に取っている! 諦めて徒手空拳で戦うべく構えた男だが、飛んで来た鎌を避けるのが精一杯の不利な状況だ。早々に見切りを付けて一目散に逃げ出した。 ●いっき 開拓者ギルド。 「はァ?支給した武器防具を装備したアヤカシが暴れてる?」 係は面倒臭そうに同僚から報告を受け取った。 最近『武装したアヤカシが暴れている』『何か見た事のある武器を持っている』等々、神楽内でアヤカシ発生の報告が相次いでいたのだが、今回、無記名投書によって報告された目撃談によると、廃棄された支給品を装備しているという。 過去の報告と合わせ、係は情報を整理し始めた。 アヤカシは骨型。 集団で活動しており、報告のあった竹槍等の近接武器を装備したアヤカシが三体、草刈鎌を手にしたアヤカシが二体が確認されている。 廃棄物、遺失物、放置されているギルド支給品で武装している模様。しかし何故か白褌を身に付けたアヤカシの報告例はない。 発生地点は様々、特定は困難かと思われる。 「ふン‥‥結構いるな。これ討伐依頼出す奴ァいねェのか?」 ここは仕事を斡旋する場所で、依頼人が居らねば依頼は成立しない。 目撃情報の書類を手に筆の尻で頭を掻いていた係は、暫し考えたのち報酬欄を空白にして依頼書を作成し始めた。 無責任なものである。貼り出すまでに依頼人が決まれば良しとばかりに筆を走らせる。 「アヤカシは、見つける所から始めなきゃならないんですか?」 覗き込んできた同僚の突っ込みに、係は「ンなこたねェよ」たいした事でもなさそうに返した。 「要らん支給品を拾いに来ンだろ?呼びゃァいいじゃねェか」 こっちの都合の良い場所へな。 係はニヤリと笑うが動くのは開拓者だ。同僚は未だ空白のままの欄を指差した。 「依頼人は誰になるのです?」 「支給品の不始末だ、開拓者も無関係ではないわな」 開拓者ギルド支給品の受け取り手、それは開拓者に違いなく不法投棄した輩も又然り。 連帯責任だとアッサリ断じて、空白だらけの依頼書は作成された。さて‥‥この顛末や如何に。 |
■参加者一覧
崔(ia0015)
24歳・男・泰
天宮 琴羽(ia0097)
15歳・女・巫
滋藤 御門(ia0167)
17歳・男・陰
犬神・彼方(ia0218)
25歳・女・陰
花焔(ia5344)
25歳・女・シ
露羽(ia5413)
23歳・男・シ
夜叉刀(ia6428)
17歳・男・サ
炎鷲(ia6468)
18歳・男・志 |
■リプレイ本文 ●もったいないおばけ 集まった開拓者の面々は、何とも言えない面持ちで互いに顔を見合わせた。 「捨てられた支給品を利用しているアヤカシ、ですか」 そんな言い伝えをどこかで――紫の瞳を伏せ穏やかに思案する炎鷲(ia6468)が思い出したのは。 もったいないお化け。 そうそう、子供の頃に言われたっけと頷く一同。 「物を大切にしないと罰が当たるってぇいうのぉは本当だったんだなぁ‥‥ま、アヤカシだけどな」 「いらなくても捨てちゃだめです。捨てるくらいなら売れってお姉ちゃんも言ってましたし」 犬神・彼方(ia0218)がしみじみ言えば、姉から贈られた羽の髪飾りを揺らして天宮琴羽(ia0097)も力説した。 そう、竹槍は売れるのだ。万商店での売却価格、一本百文也。 「許せんな」 百文もの物品を安易に破棄する輩が。 何て奴らだと憤る崔(ia0015)は只今居候生活中。居候のご他聞に漏れず、何かと慎ましやかに生きている‥‥というのに、そいつらときたら。 露羽(ia5413)も困惑気味だ。 「無料だからと言って、捨てるのはどうなんでしょう‥‥」 しかもアヤカシが拾っているという。本来開拓者を支援するものなのに、実際に役立てているのがアヤカシというのは複雑な気分ですねと困った笑顔を浮かべた。 そうですよねと滋藤御門(ia0167)、責めるだけでなく「がっかりする気持ちもわかりますが」と不心得者へも心を向けた。 「‥‥ともあれ、粗末に扱うから、こうして化けて出たのでしょう。アヤカシを放ってはおけませんし、退治に協力します」 「街中に変なのうろつかせてるのも開拓者として問題だしねー」 ちゃっちゃと倒しちゃいましょと無駄のない所作で仕度を始める花焔(ia5344)。 「くくく‥‥‥‥面白いねぇ」 夜叉刀(ia6428)が含み笑いを洩らす。アヤカシが出たなら残らず倒すまでと、紫煙を燻らせ不敵な笑みを浮かべた。 ●入れ食い さて、原っぱにやって来た一行。 ここならと見繕ったのは、見通しが良くそれでいて隠れるに適した遮蔽物もある場所だ。街外れなれば戦闘に一般人を巻き込む心配もない。 (「いかにもアヤカシが出そうな場所‥‥だな」) 荒野に現れた骨アヤカシの姿を思い描く崔の傍で、仲間達がそれぞれ持ち寄った道具を取り出し始めた。 鍋のふた、巫女袴、もふらのぬいぐるみ‥‥ (「‥‥ぅわぁお」) ぬいぐるみをだきゅした巫女袴姿の乙女な骨アヤカシを想像してしまった。 御門は靴を捨てる振りをしながら小さく「ごめんなさい」と謝った。作戦だとは言え、物を捨てる事が心苦しい。持って来たもふらのぬいぐるみとは目を合わさずに、囮にする支給品の中へ紛れ込ませる。 「なんだか、すごい格好になりそうですねー」 苦笑する琴羽が見ているのは、旗。持ち込んだ炎鷲は筆を片手に少し考えて、徐に文字を書き込んだ。 『もったいないお化け』 「アヤカシの見た目を面白くしようと思っているわけではありませんよ?えぇ、断じて」 にこり。 人畜無害そうな、炎鷲の温和な微笑みが物凄く怪しい。書き込んだ文言が更に怪しかった。 総数二十個もの支給品を放置して、各々隠れて待機する。 待つ事暫し。何処からともなくガシャガシャと骨が五体現れた―― 「お?‥‥敵さんのお出ましだぜ‥‥」 「引っかかってくれるかねぇ」 小声で交わす夜叉刀と彼方の視線の先には鎌を持った狂骨。 お守りを手に笠を被り巫女袴を腕に掛けて隙間に旗を差し込むと、もふらのぬいぐるみを、だきゅ。 残念、巫女袴は腕に通すものではなくて足に穿くものだ。 「あれじゃぁ鎌ぁ投げられねぇよぉな」 自ら両手を完全に封じた鎌狂骨、もう一体は鉢巻と旗を選び正しく装備した――が。 背に挿した旗には炎鷲が書いた『もったいないお化け』の文字。両手にぬいぐるみを一個ずつ抱き締めている。狂骨達は大真面目なのだろうが何だか愛嬌があって、アヤカシでなければ良かったのにと、くすりと笑った琴羽はつい考えてしまった。 ぶかぶかの靴を履いては脱げを繰り返す様子を面白そうに眺める露羽は、じれったい思いで靴を履かせてやりたくなってきて、うずうずしている。 一方、竹槍狂骨達は鍋のふたを奪い合っていた。何がお気に召したのかはよく解らないが、とにかく二個しかない蓋を三体で取り合っていた。 何だか、子供が玩具を取り合っているみたいだ――が、そこはアヤカシ、物は道具。 首尾よく鍋のふたを獲得した骨は、崔の目論見通り竹槍をそっちのけで装備してご満悦の様子だ。取り逸れた一体は別のお宝を探して囮廃棄物を漁り始め、ダーツを自らの頭に挿した。 いつでも飛び出せるよう警戒を続けながら、あんな所に挿すなんて痛くないのでしょうねと考える御門。 「うーん‥‥予想はしてたけど、凄い格好に仕上がったわね‥‥」 靴を手に嵌めたり巫女袴を被ったり、ぬいぐるみを肋骨に仕舞い込んだり。『ホイホイ』と書かれた旗を振り回しているアヤカシ達の姿を見て、花焔が溜息をついた。 「さぁて、行くぜぇ!」 炎鷲と崔に一声掛けた夜叉刀が先陣を切って飛び込んだ。三名が狙うは竹槍狂骨達だ。 「てめぇら!かかってこいやぁ!」 威勢よく二刀から斬撃を繰り出す夜叉刀にアヤカシ達が一斉に散る。崔と炎鷲はそれぞれ一体の竹槍持ちに接敵した。 「あなたがたは僕達がお相手しますよ」 下がった鎌狂骨を取り囲む術士陣とシノビ達。露羽に支援を舞う琴羽と並び立ち、『もったいないお化け』と書かれた旗を靡かせた鎌狂骨に御門が符を放つ。符から女の姿に変化した式が狂骨に抱きついて動きを阻む。 「犬の神に従い、我が牙ぁに其の牙を重ねよ!霊青打ぁ!」 符を乗せた彼方の長槍に、狂骨は中に納めたぬいぐるみごと肋骨を持っていかれてよろめいた。 すかさず狙い定めた風魔手裏剣を打ち込む花焔、同じく投擲した露羽は次の瞬間狂骨に接近し、抜いた刀に重心を置いて身体ごとアヤカシに叩き込んだ。見事な連携に鎌狂骨一体が崩れ落ちる。 敵の数が減ったのを視認し、改めて相対する狂骨に向き直る炎鷲。あと一体が倒れるまで、竹槍持ちを抑えておかなければならない‥‥のだが。 この狂骨、鍋のふたを構えて防御に徹している。 少々堅くなったのは仕方なし、願わくば囮に使った品物は回収したいものと苦笑して、薄い刀身を骨の間に食ませて払う。丈夫さを兼ね備えた名刀はアヤカシの骨を綺麗に断ち切っていった。 一体を気功波で先制攻撃した崔は敵が怯んだ隙に肉薄、七節棍をばらりと打ち付けると反撃を避けて飛び退る。対手との間合いの差に注意して、次の一撃を‥‥おや。 狂骨、取り落としたもふらのぬいぐるみを拾うのに懸命だった。 「‥‥拾いモンの方が大事かい!」 ハリセン代わりに七節棍で、崔渾身の突っ込みが炸裂! 鍋のふたやら骨やら散らばらせた狂骨は掻き集める事ばかりに気を取られ、反撃する気配すらない。一方、頭にダーツを挿した狂骨は、何を思ったか竹槍を夜叉刀へ投げつけた。 「コラ、竹槍投げるたぁ、どういう了見だ!」 頭に刺さったダーツの効果‥‥なのだろうか。夜叉刀の抗議などお構いなしに、手当たり次第に装備品を投げつける様子は、どことなく自棄っぱちに見えなくもない。 次々投げつけられる物品をかわしつつ自棄っぱち狂骨に接近した夜叉刀は、両手の得物で叩き斬った。頭にダーツを挿した狂骨はじたばた暴れていて器用に避ける。他の竹槍狂骨よりも回避が得意なようだ。 「‥‥ちッ、ダーツの効果が頭に回ってんのかよ!」 毒づき振りかぶった一太刀がまともに入って、自棄っぱち狂骨は崩れながら我が身を投げ始めた。 何だか色々凄い事になっている様子を横目に、琴羽は巫女の力を放つ。目標は巫女袴を腕に嵌めた狂骨。 手の自由が利かない巫女袴狂骨は大きく仰け反ると反撃した。 「捨てちゃだめー!」 『ホイホイ』と書かれた旗が飛んできて思わず叱る。一応戦闘中――のはず、なのだが、長屋の夫婦喧嘩みたいになってきた。 「そろそろぉ終わりにしようかぁね。犬の神に従い、我が敵に喰らいつけぇ!斬撃符!」 彼方の符に巫女袴狂骨が沈んだ。竹槍狂骨達を押さえている仲間の方も、ほぼ片が付いたようだ。ほどなく原っぱは物だけが転がっているばかりになった。 ●物は大切に 一同、暫し何とも言えない沈黙の中を顔見合わせた。 アヤカシを退治したはずなのに、何やら物を粗末に扱ったような錯覚に陥ってしまう。 もったいないお化けなアヤカシ。その一因は開拓者にもあった。 「すぐ使わないからって捨てるなんて、判ってない子が増えたものね。何でも考え様、使い道はあるものよ」 捨てた輩は同業者。嘆かわしいと艶やかに肩を竦める花焔。アヤカシが装備していた物には万商店で引き取って貰える物も多い。 「まったく‥‥支給品ぐらい大切にしやがれってんだ」 ――とは、投擲の被害を一番受けた夜叉刀の言。呆れた口調に妙な実感が籠る。 皆して支給品を回収する事にした。 (「壊れちゃった物は残念ですけど、使って壊れたんだから道具も本望なのかな?」) ありがとうと感謝を込めて、底の抜けた靴を持ち上げた琴羽。 「これからぁは、家でも物を粗末に扱うとアヤカシがくるぞーってぇ、教育しとかないとぉいけないかぁな」 勿体無い勿体無い‥‥呟きながら笠を拾い上げる彼方。狂骨達が装備していた物も拾い集めて、露羽は再利用できないものかと考える。 「誰しも、無下に扱われると恨みを抱くもの‥‥この捨てられた支給品にも心があるとすれば、同じかもしれませんね」 ギルドで引き取って貰えないか依頼達成報告がてら持っていこうと言うと、炎鷲が再発抑制を呼びかけましょうと提案した。 「効果があるかは分かりませんが、ギルドに支給品を捨てないよう注意を呼びかける張り紙でもしましょうか」 「同じ事を起こさない為にも、良い案だと思いますよ」 御門が微笑み、花焔も凄くいいと思うと賛成の意を表した。 「決して物が豊かな訳じゃない、あたし達は志体のお陰で優遇されてるんだから」 ギルドへ戻り依頼の達成を報告すると、係は「そりゃァいいな」と張り紙製作を快諾した。 「んじゃァ、ギルドと万商店に張り紙を貼るように手配しておくか。ご苦労さん」 皆が回収してきた道具類は受け取らず、適当に処分してくれと言う。ついでのように、万商店に返すのは具合が悪かろうと売却用に道具屋を紹介してくれた。 「結局、依頼人って誰だったのでしょうね‥‥」 「報酬ってどこから出るんでしょう‥‥?お姉ちゃんにも聞いてみたら『他の依頼の報酬ちょっとずつ抜いてるんじゃないでしょうね』‥‥って言ってましたけど‥‥」 ギルドを出て、紹介された道具屋への道すがら、最後まで空欄だった依頼書の依頼人欄と報酬について語り合う。琴羽の姉の予想に「まさか」と笑う一同だったが―― 結局、ギルドから報酬の話はないままだった。 その代わり――鍋のふたや壊れ物まで、随分高く売れた事を付け加えておく。 |