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■オープニング本文 もふらさま。天儀に於いて神の御使いとされる生物。 食いしん坊でなまけもの、そして意外に力持ち。農作業に愛玩用にと多くの人に愛されている身近な生物である。 開拓者ギルドでは出征者の戦地での癒しを目的に、件の生物を模した玩具を支給している――のだが。 ●支給品 「梨佳、お前な‥‥」 係は頭を抱えて言った。 梨佳と呼ばれた目の前の少女は、何を言われているのか解らなくて、きょとんとしている。 「これは何だ?」 「あたしのお昼ですが‥‥?」 二人の目の前には干飯と梅干、梨佳の貰い物。 開拓者ギルドも太っ腹ですよね〜なんぞと暢気にのたまう少女に、係の雷が落ちた。 「戦わんお前が万商店行ってどうする!」 「えぇ〜!ご飯配ってるって聞いたからー!」 ちなみにこの梨佳、開拓者ギルドの職員でもなく、ただの一般人である。 「あ、そぉでした〜」 万屋商店の暁さんから言伝預かってますと梨佳、あくまでもマイペースに話を変えた。毒気を抜かれた係が先を促すと、倉庫から支給品がいくつか消えたのだと暁からの明細を手渡した。 「紛失‥‥食料品が多いな、鼠にでも食われたか‥‥それと‥‥もふらのぬいぐるみ三個、か‥‥」 「かわいーですよね〜もふらのぬいぐるみ♪」 欲しいですと、ほんにゃり笑う梨佳を前にすると難しく考える気も失せた。 まあこれ位なら重要な損害でもないだろうと、帳簿に明細書を挟み込んで「もう貰いに行くなよ」やんわりお小言を締める。はぁいと返事した少女をくしゃりと撫でて、係は自身の業務に戻って行った。 ●偽もふら もっふもっふもっふ‥‥‥‥ 妙な鼻歌を歌いながら梨佳がギルドの掃除をしている。誰に頼まれた訳でもないが、こうして日々雑用をこなすのが少女の日課である。 いつか開拓者ギルドの係になる事、梨佳の目標。 下積みのつもりで嬉々として雑用を引き受ける少女を、ギルド側は正規の職員とは認めていない。掃除とて一般人立ち入り禁止の場所は任されておらず、業務に関わる事はないのだが、追い出す事がないのも又事実であった。 もっふもっふもっふ‥‥‥‥ 鼻歌混じりに箒を動かす梨佳の側を、開拓者が笑顔で通り過ぎてゆく。 戦時中で慌しい中、梨佳の存在は暢気な雰囲気作り程度には役立っているのかもしれない。 「もふ?」 梨佳の鼻歌が止まった。入口に息を切らせた男が駆け込んできたのだ。係達が苦しげに座り込む男へ駆け寄ったのを認めて、茶の用意に向かう。 「通りでもふらさまが座り込んでいて動かないんだ!」 背中で男の声が聞こえた。 もふらさまは三体。大きいのと小さいのとその中間。 仲良く寄り添い通りのど真ん中に座り込んでいて、荷車が通れない。人通りも渋滞し大変迷惑だ。 飼い主がいないかと声を掛けてみたが、それらしい人はいない。退けようにも、小さいのはともかく大きいのは力自慢が数人掛かりで何とかなるかどうか‥‥そのうち誰かが「志体持ちに頼もう」と言い出した。 「‥‥で、俺が走って来たんだよ」 すっかり落ち着いた男は梨佳から茶を受け取ると一口啜った。 「もふらさまが通りの真ん中で三体纏めて生まれた‥‥妙ですな」 精霊力の凝固した生命体であるもふらさまであれ、通常の生物と変わりはない。そう易々とぽこぽこ生まれたりはしないものだから、何か原因があるのだろうと係が首を捻る。『もふらさま移送』と書いた依頼書を作成しながら詳細を尋ねた。 「そのもふらさま、何か特徴らしきものはありませんでしたか?」 「そうだなぁ‥‥何となくだが、鼻が乾いているように見えたな。作り物みたいな、不自然な鼻って感じがした」 「作り物、ですか」 「それって‥‥」 思わず梨佳が漏らした言葉を窘める事も忘れ、係は慌てて帳簿から暁の明細書を取り出す。 「紛失三個、出現三体‥‥まさかな」 本物ならば力仕事、アヤカシならば討伐を。 判断は現場に向かった者に任せるとし、急遽開拓者が集められたのだった。 |
■参加者一覧
江崎・美鈴(ia0838)
17歳・女・泰
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
ロウザ(ia1065)
16歳・女・サ
氷(ia1083)
29歳・男・陰
奏音(ia5213)
13歳・女・陰
橋澄 朱鷺子(ia6844)
23歳・女・弓
玖守 真音(ia7117)
17歳・男・志
千羽夜(ia7831)
17歳・女・シ |
■リプレイ本文 ● おっきいの、ちゅうくらいの、ちっさいの。 もふんと通りに並んでいた。 「はいはい、開拓者ギルドからお触れですよ〜っと」 氷(ia1083)が緊迫感に欠ける先触れで野次馬の人垣を退けてゆくと毛の塊が三つ。 いや、おっきいのは遠目にも見えたけど。近くで見るとやっぱりでかい。 「おおもふら!ちゅもふら!ちいもふら!」 ぴっ!ぴっ!ぴしっ! 指差し確認ヨシ♪ロウザ(ia1065)は満足気に、にーっと笑った。 「もふらさま〜なの〜♪」 奏音(ia5213)の三倍はあろうかという大もふら。身を仰け反らせて見上げる奏音を大もふらの背中に乗っけたら微笑ましい図になろうか。 (「通りの真ん中でのんびり鎮座してるだなんて、これは絶好のもふもふチャンs‥‥」) ‥‥こほん。 取り繕うように咳払いで誤魔化した千羽夜(ia7831)は拳を握り締めた。 「街の皆が困っている由々しき事態、全力を尽くすわ!」 「通りのど真ん中を占拠されちゃ迷惑だよなー」 必要以上に肩に力が入っているように見えるのは初依頼だからだろうか、などと気遣った反応を示す玖守真音(ia7117)。 「早々にご退場願います、ってね!」 でも、その前に。 「もふらさまが三匹‥‥突然変異って線はないんかな?」 氷の指摘は尤もだった。 倒してみたら本物でした、なんて落ちだと街中を敵に回してしまう。 「きっと縫い目見えたり目の下に悪者線があるに違いないもん!」 本物でなく、もふらのぬいぐるみのアヤカシであるならば、必ず証拠があるはず! 艶やかな黒髪を靡かせた美少女‥‥もとい美少年、天河ふしぎ(ia1037)が力説した。 皆して大中小をじっと見つめてみた。 たいへんもふもふだ。地肌が毛に埋もれていて縫い目の有無はわからない。のんびり居眠りなどしている三体の目元は瞑っていて、心地良さそうだ。つられた氷がふわぁと生欠伸。 「こんな時は、本物と見比べるのです」 橋澄朱鷺子(ia6844)が取り出したのは『もふらのぬいぐるみ』、やけに毛並みが良い気がするのは強化に出して、もふ度を上げているからだ。 そうだと皆が一斉にぬいぐるみを取り出す様は戦闘前には見えないが、開拓者達は大真面目。 「どれももふもふしてるけど、やっぱり朱鷺子さんのぬいぐるみのもふ度は半端ないわ」 ごくり。千羽夜の手が伸びかけるが、仕事後のお楽しみに取っておこうと寸での所で思い留まった。 ぬいぐるみが本物になったらこんな感じになるのだろうか。否、本物を模したものがぬいぐるみで、似ているのは当然で‥‥あれ? わしわし頭を掻く真音。手にしていたぬいぐるみと小もふらを見比べていた江崎・美鈴(ia0838)、遂に我慢できなくなって手を伸ばした。 「綿入れの場所どこだろう?」 もふもふもふ‥‥眠っていた小もふらの目が見開いた。傍に居たふしぎが小さく声を上げる。 「‥‥ん、なんだ?ふしぎちゃん」 「ふしぎちゃんって言うなっ!」 お約束な遣り取りをしながら小もふらを暫くまさぐっていた美鈴が切れた。 「うにゃうー!解せぬっ!」 どうやら見つからなかったらしい。叫んだ美鈴と小もふらの目が合った。 どんより。 濁った目をしていた。それはもうどんよりとした生気のない目で、美鈴を見つめている。 (「猫の方がよっぽど可愛いっ!」) 思わず小もふらをぶつけていた。 『ふもーん』 妙な鳴き声を上げて大もふらにぶつかった小もふらは、もふんと跳ね返って戻って来た。僅かな衝撃で目を覚ました大がゆっくり瞼を上げる。 『ふも〜?』 やっぱり鳴き声が変。起き掛けに中もふらを踏んづけて、中の目覚めは最悪だ。更に、キッと睨んだに違いない中の瞳も加害者大の目も虚ろ。 目覚めたもふら達はアヤカシに間違いなかった! ● 「その正体、このゴーグルがお見通しなんだからなっ!」 頭のゴーグルに手を遣って、ふしぎが中もふらへ向かった! 『ふも?』 中もふらが首を傾げている。 目つきがよろしくない!キモ可愛い?寧ろ可愛くない!なのに‥‥何だろう、この気持ちは。 「そのふかふか具合‥‥枕に丁度良さそうだなぁ」 ふわぁと氷は生欠伸。そーっと枕――じゃない、もふらに近付いて手を伸ばした。 もふり。 毛に指を埋めても、中もふらは嫌がる様子もない。暢気に『ふも〜』などと鳴くもので、遠慮なくもふもふ触って感触を確かめる。 「‥‥マジで枕に持って帰って良い?」 三尺強の偽もふらを抱きかかえた氷に負けじとふしぎが横から抱き締めた。 「まずはこいつを‥‥お、押さえにかかってるだけだからな!」 だきゅ。 『ふも〜♪』 「わぁ、もふもふだ‥‥偽者と分かってても、やっぱり反則だぞ‥‥あ、アヤカシか確かめてただけだからなっ!」 もっふりと、中もふらに顔を埋めたふしぎは必死に言い繕うけれど、紅潮した頬と手付きは嘘をつけなくて。 「ぁぅ〜奏音も〜もふもふぅ♪で〜ぎゅぅ〜〜ぅ♪♪なの〜」 てってと大もふらに近付いた奏音は体ごと抱きついた。そのまま器用によじよじと登ってゆく。 「おーい、大丈夫かー?」 無害そうでも相手はアヤカシだ。地上の真音が心配しているが、奏音は「だいじょぶ〜」せっせと登ってゆく。毛を攫まれても痛くはないのか、大もふらが嫌がる様子はない。 「もふもふなの〜♪」 漸く背中に登り付き、おっきな偽もふらの被毛にすりすりしている、ちっちゃい奏音の図に野次馬から緊張感のない声が挙がった。 嗚呼、何という癒し空間、見ている方まで和んでしまいそうだ。 (「だ、抱きつきたい‥‥」) 「何か変ではありませんか?」 ふらふらと大もふらに近付きかけた千羽夜は、朱鷺子の声に我に返った。 確かに偽もふら達はもふもふのふかふかではあるけれど、皆が皆大好きというはずはないだろう。強化もふらぬいのご利益か、朱鷺子は至って冷静だ。半端ないもふ度のぬいぐるみを振り振りして千羽夜を引き寄せると、品の良い眉根を寄せて言った。 「見た目はもふらさまですがアヤカシです。特殊な効果があるのかもしれません」 まあ、暫く様子を見ていよう。楽しそうだし。 (「だい、ちゅう、しょー?」) 一方、偽もふらを目覚めさせた張本人は三体をまじまじ見つめて何やら考えていた。 「‥‥とーてむもふら、できないか?」 見てみたいな。 いやいや、仕事が先だな、うん。 だけど、美鈴の独り言はしっかり皆に聞こえていた。皆の視線が美鈴に集まる。 「え?おまえら、みんなみてからするのかっ!?」 一斉に頷く面々。 「ろうざも、みたいぞ、とーてむもふら♪」 神獣が重なって神柱と為す。もふらさまを神様と解釈しているロウザは、にこにこしながら徐に中もふらへ近付いた。 「ちゅもふら、おおもふらに、のっける!」 『も?ふも〜っ!!』 ロウザの見事な上手投げ。ふもーん、と中もふらは空を舞った。 「うわっ、奏音ー!避けろー!」 「は〜い〜?」 ぼふん。 奏音が大と中の間に挟まれた!オロオロと見上げる真音の心配を他所に、毛の間から顔を覗かせて、一同一安心。 「それにしてもおとなしいよなー」 大の上でまったりし始めた中もふらがあまりに暢気すぎて苦笑する真音に、美鈴が抱いていた小もふらを突き出した。 「姿がもふらだからってアヤカシだぞ?」 『ふも?』 「うん。けどこれならもうひとつ、いけそうかなって」 意味の解っていない小もふらの頭をちょっと撫でて、江崎の姉様ヨロシクなと距離を取った。刀を構え炎を刀身に纏わせる。 その構えは‥‥意図を察した美鈴が小もふらを投げた。 「チャー、シュー、メン、大盛り!」 『ふも〜〜〜っ!!!』 「掛け声違わないか!?」 「勢いだ、勢い!」 ふも〜んと甲高い鳴き声を残して、小もふらが宙を跳んだ。 ぽふん。 「お〜ないすしょっと」 中もふらの上に収まった小もふらは、ふもふも鳴いている。小手をかざして見上げた氷が実感の籠らない掛け声と一緒にまばらな拍手をすると、遠目に見ていた野次馬達も喜んで喝采し始めた。 おっきいの、ちゅうくらいの、ちっさいの。 三体積みあがって親子亀のような、とーてむもふら。 何やら見世物のようになってきたが、これはアヤカシ退治‥‥のはずだ、多分。 ● 「あれ、随分鳴いてない?」 頂点の小もふらが鳴き続けている。小もふらに触発されたか、大と中も落ち着きがなくなってきた。そろそろ頃合かもしれない。 今一度人払いを施して、遠巻きに見つめる野次馬達の中、開拓者達は本来の仕事を開始した。 「おおもふら!ろうざと、すもー、する!ちから、くらべる!」 「相撲か!それは楽しそうだ!」 「おい、あの姉ちゃん相撲取るらしいぞ!」 新たな見世物にどよめく野次馬達。大きく四股を踏んだロウザが野次馬達にニカッと笑って「ろうざ、がんばる!」などと言うものだから、更に盛り上がる一方だ。 応援を満面の笑顔で応えたロウザは、大もふらにがっしと組み付いた。神たるものとの力比べが嬉しくてロウザは興奮気味だ。いつもより張り切って全力でぶちかます。 「わはは!つっぱり!つっぱり!」 『ふ〜も〜!』 懸命に堪える大もふらだが、前脚が浮いている。だんだん後脚で立っているみたいになってきて、上に載っていた中と小がころりと落ちた。 「もふらと猫の間には、すごく分厚い越えられない壁があるっ!」 『ふもっ!!』 「‥‥へ?江崎の姉様、猫好き?‥‥っと!」 『ふも!!!』 落ちてきた小もふらを、真音へ向かって思いっきり蹴り飛ばす美鈴。考える間もなく飛んで来た小もふらを打ち返す真音との間で蹴鞠のようになっている。そのうち鳴き声を上げなくなったと思ったら、いつの間にかぬいぐるみに戻っていた。 「虐待に見えないかなぁ〜」 「観客の皆さんもアヤカシ退治だと解ってくださいます」 隣の蹴鞠を横目に、中もふらと距離を取る氷と朱鷺子。氷は「ま、アヤカシだし」気持ちを切り替えて、符から虎を形作る。流れるように射掛ける朱鷺子の手付きは確かで、標的の中もふらの側にいるふしぎをものともせずに矢を放った。 『ふーもー!』 苦しげに呻くアヤカシの側で、中もふらに話しかけているふしぎは涙の別れの真っ最中だ。 「ごめん‥‥街の平和を守る為にも、僕はお前達を放っておく事は出来ない」 伏せていた顔を上げた。艶やかな黒髪がさらりと揺れて、白肌と朱唇を際立てる。壮絶なまでの美貌は悲壮な決意にも曇る事なく、絶世の美少年は斬馬刀を抜き放った。 「炎精招来‥‥紅・葉・剣、紅蓮Vの字斬り!」 お願い、もう一度あの可愛い姿に戻るんだ‥‥心の中で号泣していたふしぎの目に遂に涙が光った。 ぽふん。 白い頭身に紅葉の如き赤い光を散らしながら、中もふらはぬいぐるみへ。 「やっぱアヤカシか‥‥倒したら普通のぬいぐるみになってしまったなぁ」 ちょっと残念そうに氷が呟いた。 最後に残ったのは大もふら。 「ロウザちゃん、羨まし‥‥じゃなかった、頑張れー!」 本音を少々滲ませながら千羽夜が応援するものだから、ロウザはますます張り切って大もふらの喉に手を掛けた。 「いまだ!ちはや!かのん!ぎゅっておす!」 「もふもふチャンス!」 「ぐいぐい〜って押すの〜♪」 後脚直立状態の大もふらに三名が一斉に抱きついてぐいぐい。 ぐいぐい。ぐいぐい。もふもふ。 「すごい、もふもふだ!」 「‥‥はふっ。なんてもふもふっぷりかしら‥‥このまま埋もれて死んでもいいわ」 念願のもふもふを体感した千羽夜はうっとり。年頃の娘さんにはあるまじきものまで出しかけて恍惚としている。 「千羽夜〜しんじゃだめ〜なの〜」 とは言え、奏音も大もふらにすりすり。 もふもふ。すりすり。くんくん。 くんくん‥‥? 「ロウザちゃん?」 「‥‥ん?‥‥におい、ちがう!」 ロウザの野生の勘が偽もふらを見抜いた!というか、この期に及んでアヤカシだと気付いた! 神様と対戦していたつもりでいたロウザはちょっと怒った。大柄なロウザが更に大きく見えるくらいの気魄を漲らせて、大もふらの鼻面を鷲づかみにした。 『ぐも?』 「おまえ、もふら、ちがう!」 『ぐも〜!!』 犬の躾をする時のように鼻面を攫んだロウザは、そのまま少し吊り上げて手を離した。 「あぅ〜ロウザ〜千羽夜が〜」 あくまでのんびりしているが、奏音は慌てているはずだ。何せ千羽夜が大もふらの下敷きになってしまったのだから! 「ちはや、どこだ?」 大もふらの下だ。もそもそと毛を掻き分けて救出された千羽夜は‥‥ 「だいじょ〜ぶ〜?」 「幸せ‥‥」 へらり。符を貼り付けられた千羽夜は「悔い無し!」な末期の笑みを浮かべていた―― 「がるぅぅ!おおもふら!ちはやの、かたき!」 最早完全に怒ったロウザは鉄爪を両手に猛獣の構えを見せた。自分がその一端を担った事は棚に上げて、雄叫び一声、正面から突っ込んだ。 「かみさま、ばける!これ、わるいこと!ろうざ、ゆるさない!」 遂に本気を出した大もふら、ロウザの斬撃をがっしり受け止める。その隙に両脇から千羽夜と奏音が援護する。 「もふもふっぷりは未練だけど‥‥仕事はきっちりこなすわ!」 「かわいいけれど〜もっともふもふしていたいけど〜しかたがないのです」 断ち切るように飛び退った千羽夜が飛苦無を投げると、大もふらがそちらへ気を逸らした。すかさず反対側から奏音が砕魂符を打ち込む。これならぬいぐるみに戻っても壊れたりはしないだろうと配慮しての事であった。 「傷だらけの〜ぬいぐるみになっちゃうのは〜かわいそ〜なのです〜」 小さな陰陽師の優しい攻撃。アヤカシは苦しそうだが、基になったぬいぐるみは喜んでいるかもしれない。 三方同時に攻撃を受けた大もふらは、ぼんっと縮まって、ぬいぐるみへと戻ったのだった。 ● 戦場を掃き清めて、通りの片隅に石を積む。 「何をしているのですか?」 半端ないもふ度のぬいぐるみを千羽夜に預けた朱鷺子が美鈴に尋ねた。神妙な顔で「もふらさま供養」と答えた美鈴は黙祷を捧げた後、真顔で言った。。 「コレで第二第三のにせもふらが現れるという展開だと嫌だな‥‥」 「現れるなら人のいない場所がいいねぇ〜草原とか」 氷が言うと「枕にするつもりでは」と思えてしまうから不思議だ。千羽夜と一緒にぬいぐるみをもふりながら、美鈴はまったりと「出たら蹴り飛ばしてやる」などと言ったものだ。 「あ、おかえりなさいです〜」 もふもふ鼻歌を歌っていた梨佳が開拓者達を認めて出迎えた。 「梨佳、いつもお疲れ様‥‥もっふもふ♪もっふもふ♪」 つられて鼻歌を口ずさんだふしぎ、仲間の視線に気付いて慌てて否定する‥‥が、多分皆わかっているはずだ。彼がツンデレさんだという事を。ふしぎと真音から比較用に持っていたぬいぐるみを貰って、梨佳は大喜びだ。 ちなみにアヤカシが憑いていた三個は、氷が売却すると言って引き取った。いつか巡り巡って曰く付きの玩具が現れる日が来る‥‥かもしれない。 |