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■オープニング本文 首筋を撫でた風にぞくっとした。 一年で最も寒さ厳しい時期。吐いた息は濃く白く、指先はかじかんで氷のよう。 こんな時は――家の中でぬくぬく?それとも、外で元気に駆け回る? ●もっふりのんびりしよう 神楽の開拓者ギルド。 曇天の外を眺めつつ、梨佳はいつものように、もふもふ鼻歌を口ずさみながら開拓者ギルドの掃除をしていた。 入口からは寒風は吹き込んで来る。おお寒いとギルドへやって来た依頼人や開拓者達が席に着いた頃に熱い茶を出すと、皆ほっとした表情を見せた。 もっふもっふもっふ‥‥‥ 鼻歌に合わせて箒を使うと何だか楽しくて、何時の間にやら癖になってしまった梨佳だ。 もふもふ歌っていると、入口に見た事のある少年が姿を見せた。 「ヒデさん、今日はどうしたんですか〜?」 もふら牧場で働く少年に、梨佳は声を掛けた。 「あーこないだはありがとな」 新年早々偽もふら退治に開拓者を借り出した事に謝辞を述べ、ヒデは入口に立ったまま「今日は依頼じゃないんだけどな」と続けた。 「お仕事じゃないんですか?」 「うん、遊びに来ないかなって」 誘いに来たらしい。開拓者達が集まっている辺りへ「相棒と来ないか?」と声を掛ける。 「うち、すっげぇ広いから、龍も羽伸ばせるし思いっきり遊ばせられるぜ」 ヒデが働くもふら牧場は神楽郊外にある。東に山を臨み近隣に民家のない場所だ。多少大騒ぎしても大丈夫だろう。 「もふらさまは元気ですか〜?」 「うちのもふら達?相変わらずもふもふもふもふ煩くってさ‥‥」 そうだ、もふら達とおしくらまんじゅうしないかとヒデが提案した。 もっふりした毛に埋もれるのはさぞ暖かかろう。わあと梨佳は目を輝かせる。 遊びの誘いなので報酬は出ないけれど、朋友と過ごす一日は珠玉の時となるのではないだろうか。 そう言って、少年少女は開拓者達に誘いを掛けたのであった。 |
■参加者一覧 / 天津疾也(ia0019) / 斎賀・東雲(ia0101) / 犬神・彼方(ia0218) / 真亡・雫(ia0432) / 橘 琉璃(ia0472) / 柚乃(ia0638) / 葛切 カズラ(ia0725) / 玖堂 柚李葉(ia0859) / 鬼啼里 鎮璃(ia0871) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 氷(ia1083) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 巴 渓(ia1334) / 喪越(ia1670) / 水津(ia2177) / ルオウ(ia2445) / 倉城 紬(ia5229) / 海神・閃(ia5305) / 設楽 万理(ia5443) / 菊池 志郎(ia5584) / 鈴木 透子(ia5664) / 太刀花(ia6079) / からす(ia6525) / 亘 夕凪(ia8154) / 久我・御言(ia8629) |
■リプレイ本文 ●もっふり 神楽であれ郊外ともなると街らしさはなりを潜める。目の前には長閑な景色が広がっていた。 見渡す限りの草原に点在する、もふもふもふ。 「‥‥もふ‥‥?」 亘夕凪(ia8154)の発した呟きに、傍で控えていた竜胆が頚を傾げるような仕草をした。 普段は冷静沈着、不動の落ち着きを見せている夕凪が、そわそわしているようだ。 目の前の、もふもふ。 隠れ可愛い物好きの心に火が付いた! 「済まないね竜胆、ちょっともふ成分補充させて貰うよ」 すぐ戻るからと一言残し、夕凪いそいそともふら達の中へ消えた。ヒデは主の帰りを大人しく待っている温厚な雄甲龍の首筋を撫でてやりながら、思わず感嘆の声を上げた。 「すっげぇなー龍いっぱいじゃん!」 「おーおー、仰山あつまっとるなあ、これだけ朋友が多いと圧巻なものやな」 ぐるりと見渡し、天津疾也(ia0019)が楽しげに少年へ同意した。 総勢二十五名の開拓者、それぞれが一体ずつ朋友を同行させていて、更に牧場のもふら達やヒデや梨佳もいる。随分と賑やかな休日になりそうだった。 初期支給の龍を己の相棒としている者は多い。龍と言うと手なずけるのも難しい獰猛な印象があるが、意外とおとなしかったり主に対して従順な龍も多いものだ。 「強面で気難しい所もありますが、先生は敵ではありませんよ」 気難しいお爺ちゃんといった風情の駿龍・隠逸を遠巻きに牧場のもふら達に、菊池志郎(ia5584)は穏やかに語りかけた。蒼灰色の身体や顔には多くの傷が残っている隠逸は、志郎の師の代から戦場を駆けていた歴戦の士。長い年月が育んだ雰囲気は厳かで、志郎は彼を先達として敬い礼を以て接している。 害意がないと伝わったものか、仔もふらが一頭、隠逸の足元へ寄ってきた。一日が終わる頃には仲良くなれると良いのだが。 「まくらがいっぱい‥‥」 盛大に欠伸した氷(ia1083)の目に映るのは、野の褥ともふまくら。普段から眠そうな瞼を更にとろとろに下げて、ふらふらと枕さん達に引き寄せられてゆく。 そんな氷とは逆方向へ向かう青い鬣のもふらさまが一頭。氷の朋友、もふらの水‥‥なのだが様子が変だ。 「どうせなら女の子の友人に拾われる方がいいもふ」 いきなりの絶縁宣言。 青もふらは仲間の群れに混ざって行ってしまったが、もふまくらに魅了された氷は水の離脱に気付かない。 行きは連れ有り、帰りは一人‥‥とならなければ良いのだが。 「‥‥もふもふまくら‥‥」 案外、新しい枕さんを拾っているかもしれない? 牧場のもふら達に埋もれて幸せに浸る氷と然程離れていない場所にも遭難者約一名。 「梨佳、こんにちわ!今日はたっぷりもふ……楽しもうね!」 天河ふしぎ(ia1037)は、うっとり埋もれたままもふ毛の波に沈みかけていた梨佳に手を差し伸べた。はっと我に返った梨佳の眼前に現れたのは漆黒の土偶ゴーレム。 「ほら、花鳥風月も挨拶」 ふしぎに影のように付き従っている細身の土偶ゴーレムは花鳥風月と言う名らしい。ぴこんと目を光らせて、花鳥風月は礼儀正しく辞儀をした。 「わぁ、カッコいいですね〜♪ご一緒にもふもふしましょー」 「もふもふ‥‥って、べっ別にもふもふするのが好きとか、そういう訳じゃないんだからなっ!」 顔が真っ赤なふしぎは今日も良いツン具合。 再びもふ枕に沈もうと、ふしぎの手を引いた梨佳の誘いは充分に魅力的だったけれど、もっと魅力的な遊びが待っている。 「行こう梨佳、花鳥風月、今僕達の絆は結ばれたっ!」 さあ、皆でおしくらもふらを始めよう。 「んじゃ始めるぜー」 ヒデは牧場のもふら達を集めて、真ん中に餌を持った開拓者達と梨佳を立たせた。 「?」 状況が飲み込めない梨佳はきょろきょろと左右の顔を見上げているが、開拓者達とて判っていなかったりする。 お構いなしで、ヒデはもふら達を放した。 「「「ごはんもふー!!」」」 「きゃぁぁぁあ〜!!!」 もふらさまは自らぶつかって来てくれるので、まみれるも良し抱きつくも良し‥‥などと、暢気な事を言っていられるのは志体持ちくらいかもしれない。 殺到するもふら達から餌を守り切らなくても構わないが、四方八方から食いしん坊が特攻してくるので注意が必要だ。早々に餌を取られた一般人は、もふらの渦に揉みくちゃになっている。 海神・閃(ia5305)が慌てて梨佳を引っ張り上げた。 「大丈夫ですか?」 「‥‥あ、閃さん!」 先日はどうもと、過日同行した依頼の話に花を咲かせる二人。念願のもふもふですねと笑う閃に、梨佳は嬉しいような困ったような微妙な表情で答えた。 「おしくら饅頭って、こんな激しい遊びでしたっけ‥‥?」 意外と荒っぽい遊びではあるけれど、大勢でやるほど楽しい遊びでもある。 佐伯柚李葉(ia0859)は駿龍の花謳の首に抱きついておしくらもふら。救出された梨佳が懲りずに再びもふらに埋もれてゆくのをくすくす笑って見守って。 「もし、梨佳ちゃんの元に来てくれるならどんな子が良い?」 ん〜と、と悩む梨佳に柚李葉は「お日さま色の子が良いな」温かで気持ちの優しいもふらさまがやって来そうだ。 そうだ、花謳は大きいけれど、顔だけもっふり埋もれさせてしまおう。 「花謳、花謳‥‥」 名を呼びながらぎゅうっと抱きつくと、心優しい駿龍は「きゅぅ」と応えた。甘えた鳴き声に笑んだ柚李葉の心に浮かぶのは、養父母の事。 佐伯の両親は自分が甘えられないのを知ってて花謳をくれたのかもしれない‥‥そう思うと、尚の事愛おしくて。 (「これから、だよね 一緒に色んな所へ行こうね」) もう一度、花謳と一緒にもふらの波に身をゆだねた。 おしくらもふらを堪能している柚乃(ia0638)はご機嫌で炎龍のヒムカに手を振った。もふらさまももふもふも、勿論ヒムカも大好きだ。 もふらさまの温もりを感じて癒されているのは礼野真夢紀(ia1144)、駿龍の鈴麗との久々の行楽だ。見慣れぬ珍しい朋友を連れている開拓者も多く、興味津々でいる。 人間達と同じくらいの大きさの朋友も、人と一緒におしくらもふら。 「うっわぁ、もっふもふだぁ♪‥‥べっ、別に気持ちよくなんか無いんだぞっ」 真っ赤になって否定するふしぎの素直でない言葉に、花鳥風月の目がぴこーんと赤く光った。 ●まったり 派手に始まったおしくらもふらを眺めるのも休日の過ごし方だ。 「偶にはのんびりするのもいいものだね」 炎龍の秋葉と共に草原へ横になる久我・御言(ia8629)。晴れた空を流れる雲、それから地上の雲達をのんびりと見遣って、秋葉に顔を向けた。 種の違うもの同士で言葉は解らぬものの、秋葉と御言は戦友だ。生まれた時は違えども、死せし時は共にと誓い合った‥‥と言うと義兄弟のようだが、実際に共に戦い生死を分かち合う間柄である。 (「今こうして戦いの合間の平和を享受する‥‥」) 彼らはこの時間を作る為に戦っている。未だ見ぬ、何処かの誰かの為に戦う心意気。 「それを再認識する場としてこの時間は貴重である。そう思う御言であった‥‥」 解説師の転寝の呟きは穏やかで、安らぎに満ちている。 のんびり日向ぼっこをしている志郎と隠逸、目を細めた隠逸の様子に志郎もまた目を細め。 「ちょっと寒いけど気持ちいいですね、先生」 先生こと隠逸の足元には仔もふらが。初めのうちこそ遠慮があった仔もふらも慣れたと見えて、ころころもふもふ隠逸にじゃれてくる。 過ぎた甘えに硬直する隠逸と、遠慮しておろおろする志郎。そんな二人の困惑などお構いなしに、仔もふらは隠逸の背によじ登ろうと懸命だ。 周囲の様子を興味深げに見渡した小柄な人型の朋友。 人妖の刻無に、真亡・雫(ia0432)は「行ってきなよ」と声を掛けた。 「こういうのは皆とじゃないとできないんだから」 「ボクはもう少し静かな方が好きだけど‥‥ま、まぁマスターがそういうなら参加します」 内心では興味津々で遊んでみたい刻無なのだが、雫を置いて離れるのにも躊躇いがあって。振り返りながらおしくらもふらの団体に混ざって行った。 笑顔で刻無を見送った雫は、おっかなびっくり楽しそうに遊び始めた人妖を微笑ましく見つめた。 (「キミとは楼港の防衛戦の後で一緒になったんだよね」) 陰殻国の氏族争いに端を発したきな臭い戦で獅子奮闘の活躍をし、上級アヤカシ鳥雷獅子を撃破した勇者へ贈られた人妖。それが雫の許へ来た刻無だった。出逢って間もない朋友は、中性的な一見大人しそうな印象を与える容姿をしているけれど、自身をしっかりと持った小さな友人だ。 (「お互いまだまだ知りたい事はたくさんあるけど‥‥焦らずゆっくりと」) 信頼を築くのには時間が掛かるものだから。 時に対して関心を寄せる朋友の姿を遠目に、刻無が信頼してくれるような立派なパートナーになろうと気持ちを新たにする雫だ。 広い場所で、朋友と思い思いの休日を過ごす者も多い。 おもむろに設楽万理(ia5443)が切り出した。 「さて吉良よ」 神妙な顔付きで始まった主のお説教を、忍犬の吉良はお座りの姿勢で拝聴した。 「貴方はウチに来た当初から食べては寝て勝手に散歩に行き‥‥の生活を繰り返し、全然成長していません」 (「それはご主人が龍とばっか依頼に行くからだよ‥‥」) 物言わぬ犬、心中でこっそり反論する。そもそも吉良は万理が「犬を飼いたい」という願望を満たすが為に引き取られた忍犬であり、適正や能力育成などは万理自身後回しにしていたのだが。 吉良の気持ちを知ってか知らずか、万理は滔々と続けた。 「今の貴方は普通の犬でも出来る事しか出来ません。今日はいい機会です、能力開発しましょうか」 いきなり火を吐けとは言いませんがと続けた万理に「龍じゃないんだから」と内心突っ込む吉良には構わず、万理は容赦なく矢を射上げて『取って来い』を始めた。 (「むちゃっす〜」) 現役開拓者弓術師の矢は速く高く遠く飛んでゆく。泣き言半分ながらも懸命に訓練をこなそうとする吉良は健気だ。 それを横目に、太刀花(ia6079)は忍犬の現八へ球を『取って来い』こちらはごく平和な交流を楽しんでいる。 主従共に楽しむと言えば、水津(ia2177)と、鬼火玉の魔女が焔。 「私は今猛烈に燃えています!!いくですよぷよちゃん!!私と一緒に何処までも燃え上がるですっ!!」 愛称をぷよと言う魔女が焔の顔立ちは、何処か主の水津に似ている。焔に心酔する辺りもそっくりだ。揃って牧場の片隅で火焔遊びに興じている、少々危ないかもしれないが、火事さえ起こさなければ気にしない方向で。 もふ成分補給完了で竜胆の許へ戻った夕凪は、牧場のもふら達を驚かさないように気をつけながら空の散歩。ひとしきり飛んだ後は、広い原にのんびりと寛いで。 竜胆が夕凪に頚を乗せて来た。 「‥‥ん?浮気はもう済んだよ」 彼が頚を乗せて来るのは構って欲しいという合図。今日はもう、ずっと竜胆だけの夕凪だ。疲れたろと首周りのツボを押してやると、竜胆は心地よさげに力を抜いた。 離れて遠目に開拓者達の休日を眺めつつ、相棒の報告に耳を傾ける巴渓(ia1334)。 「どうした、おやっさん」 おやっさんこと、もふらのジョーカーが物言いたげな視線を彼女に向けている。ジョーカーに託していた役割、それを思えば言わんとする事は想像が付いた。 「まあ、今はアイツ等ものんびりさせてやろうぜ‥‥なあ、おやっさん」 もうすぐ大きな戦が始まる。戦いの予兆を感じればこそ、今だけは平和を享受しておこう。 報告を聞き終えた渓は、相棒の背に身体を預けて目を閉じた。 「なーせっちゃん、まったりするんはやっぱええなぁ」 もふらを枕にだらーっと伸びた主従、斎賀・東雲(ia0101)と甲龍の雪花は見学中。大きめもふらにちょこんと頭を乗せた雪花に尋ねてみる。 「おしくらもふらもおもろそうやけど、せっちゃんはひゃっこい子ぉやしあつくなるん苦手やもんねぇ」 こくり頷く雪花。 そこへやって来たとらさん。気ぐるみ姿で近付いて来た鬼啼里鎮璃(ia0871)が提案したのは、おしくら龍。 「ふーん、ま、龍は龍同士で交流深めんのもええんとちゃう?せっちゃん頑張りー」 雪花を送り出して、もふまくらに頭を沈めた――が。 「わーったわーった、ちゃんと起きとるから髪引っ張るのんはやめてぇな!」 そうは雪花が許してはくれないようだ。 ●どっしり ほてほてと歩き回るとらさん姿の鎮璃が皆に遊びの誘いを掛ける。 「僕がおしくら龍に参加したら軽く圧死できますからね」 飄々と自身の不参加を告げる鎮璃の朋友は炎龍の華燐、彼に限らず龍を連れて来た開拓者は多く、結構な数が集まった。 「へへっ!いけっロート!」 どっしり身体をぶつけ合う龍達、炎龍のロートケーニッヒを応援するのは相棒のルオウ(ia2445)だ。 遊びであれ真剣に、他者を害するのでなく全力で遊ぶのがガキ大将の彼らしい。ロートケーニッヒの方も心得たもので、仲間の龍達を傷つけないように爪を使わず体当たりで群れに突っ込んでゆく。 「‥‥あ、鈴玲」 いそいそ群れに入って行った、真夢紀の鈴玲がころりと弾き出されて来た。鈴玲は楽しいのか、またいそいそと団子になりにゆく。 「うらー、気張らんかい、疾風ー。勝ったらご褒美のこずかいやるでー」 朋友に褒美をちらつかせる守銭奴・疾也。がめつくちゃっかり者の主だが、疾風も似ているのだろうか。『ご褒美』の言葉に俄然張り切りだしたような気がする。 「共同の精神を学んできなさい」 鈴木透子(ia5664)はそう言って、駿龍の蝉丸を送り出したのだけれど、知恵持ちずるっこ怠け者な蝉丸は、やる気がない様子。 もう、と溜息ひとつで思案した透子は隠し玉発動。 「蝉丸、あそこに美人が!」 途端にしゃきっとした現金な蝉丸は、群れに突っ込んで行った。 さて、蝉丸が流し目を送った(?)先には葛切カズラ(ia0725)。彼女率いる甲龍の名は鉄葎。 「カナちゃん、遊びだから自重しなくていいわよ〜」 声を掛けると、鉄葎は自重せずにじゃれだした。尚、カナちゃんのスキンシップは舐めまくりである。 閃の風花に触れながら、おしくらもふらを見、おしくら龍のくんずほぐれつを眺めるカズラ、これも一興かしらと艶っぽく微笑んだ。 あっちではおしくらもふら、こっちではおしくら龍。 やれやれと男は肩を竦めた。 「もふらさまで温まるくらいなら、居酒屋で一杯引っ掛け‥‥」 がふっ。 最後まで言えずに吹っ飛んだ男の名は喪越(ia1670)、吹っ飛ばした相棒の名はジュリエット、土偶ゴーレムである。 「使用人が差し出がましい口を」 ホホホと笑ったジュリエット、どうやらこの主従は立場が逆転のようだ。地中に顔を埋めた喪越の事などお構いなしで、ジュリエットお嬢様は優雅にご挨拶。 「御機嫌よう‥‥あら、グッドルッキングガイが一杯♪」 お嬢様は白馬の王子様を発見した! いつか王子様が迎えに‥‥ではなくて、王子様を奪い取る!のがジュリエット流。LOVEアタック開始だ! 「待っていらして、あなたぁ〜ん☆」 「説明しよう!LOVEアタックとは、意中の相手に『チャージ』→体当たりを行う、恐ろしい必殺わ‥‥」 げふっ。 ――あ、復活した喪越がまた埋まった。 ●ゆったり 「ほら、行きますわよ、モコス!」 地中に頭から突っ込んだ喪越を引きずり出して、ジュリエットが向かうは彼女の王子様(予定)の許。 その王子様(未定)は、茶席を設けている少女の護衛を担っていた。 「やあ、お疲れ。お茶はいかがかな?」 引きずられてボロボロの喪越にお茶を勧めるからす(ia6525)の傍で、土偶ゴーレムの地衝は言葉少なに佇んでいた。 恋するジュリエットから解放された喪越、からすからお茶を受け取りぐてりと伸びる。 からすは大きめのもふらを一頭呼び寄せて、背に乗った。その姿は幼気な容貌から年相応に見えなくもないが、実際のからすは見た目よりかなり老成している。 「こんな時くらい、ゆっくり休めばいいのに」 「いえ、こうしているのが最も休まるでござる」 もふらを撫でながら地衝に話しかけると、堅物な従者は真面目な応えを返した。武士の魂が土偶に宿ったかのような物腰にジュリエットの目は釘付けだが、地衝が向かうのはあくまで主のからすのみ。 予想通りの反応に、からすは素っ気無く返した。 「そう。では命ず。私を『護れ』」 「御意」 命じられたまま護衛待機する地衝。普段と変わりない任務のようだが、これが二人にとっての休息なのかもしれない。 暫くして、からすの寝息がもふらの背から漏れてきた。 しゃこしゃこと茶を点てるとらさん。 華燐におしくら龍を任せて、野点の席を設けている鎮璃だ。 まったりと和みながら、橘琉璃(ia0472)は風景を楽しんでいる。白毛紅眼の猫又は、琉璃の膝の上で嬉しそうだ。 いつもは炎龍の紫樹が琉璃のお供だけど、今日のお供は紅雪、琉璃を独り占め。 「今日は、紫樹ちゃんとじゃないんだね?」 「そうですよ?まあ紫樹は、帰ったら、拗ねていそうですねえ‥‥」 まあ、今は一緒にのんびりしていましょうと、琉璃は紅雪に饅頭を勧めた。 「お菓子もありますよ」 「手作り?嬉しいな‥‥食べる」 今この時だけは自分だけの主。恥ずかしがりやの猫又娘は、琉璃とのひとときを謳歌する。 「赤翁、お茶が入りました」 炎龍の赤翁に人と同じく茶を勧めるのは彼女の相方、倉城紬(ia5229)。 翁の名を冠する赤翁であるが、雌の龍である。相当な高齢らしいが年齢不詳、尋ねると機嫌を悪くするのは種を問わず女性らしいと言うべきか。 紬に淹れて貰った梅昆布茶を前に、赤翁はおしくらまんじゅうをしているもふらや人間達、龍達を眺めた。 (「ふむ。人間とは面白い方法で、暖をとる事を考えるな。実に面白い」) 自分達であれば、数体が固まり寄り添って暖を取るだけだ。遊びに変換する発想を興味深く見ていると、傍にいる紬の事が気になった。 少し体をずらして、紬に直接風が当たらぬよう風除けになってやる。 『別にお前の為に身体を移動させている訳ではない。勘違いするな』 好物の梅昆布茶が冷めないようにだ、とでも言うように、素直でない年増龍は茶に口先を近づけた。 日が暮れた頃―― もふ枕にまみれて昼寝を堪能した氷は、お土産に枕をひとつ持ち帰ろうと、一掴み。 「うーん‥‥これに決めた!ってあれ?どっかで見たことあるような‥‥?」 「女の子拾ってくれてありがともふ‥‥もふ?」 別れたはずの青もふら、氷と運命的な再会を果たしていた。 「どうだ、ロート?来てよかったろ?」 ルオウはロートケーニッヒと鬼ごっこ。夕暮れの広い草原を駆け巡る。 ゆったりと空の散歩を楽しんで、草原へ降り立った黒龍には炎のような赤い縞の模様が入っていた。 犬神・彼方(ia0218)を降ろした甲龍の名は黒狗、その名の通り大型犬のような雰囲気を纏っている。彼方が撫でてやると、柔らかな銀色の瞳を細めた。 「心配させちまったぁね」 このところ戦いに赴く事が多い彼方、一家から初めて輩出した志体持ちの開拓者である彼女の朋友は、一家の初代から頭に仕える老練の龍だ。彼方や一家の者達の成長を見守って来た、ある意味母親的な存在でもある。 黒狗は鼻息を漏らした。少し怒っているような、そんな鼻息は腕白坊主を心配する母のようだ。ぐりぐりと頭を押し付けて抗議してくる。 「たまにゃぁ黒狗にも安心してぇもらわんと、先代達に怒られちまうな」 母の心配を軽くいなしつつ、彼方は黒狗を撫でた。 これからも、一家の父で、何より開拓者である以上、危険とは無縁ではいられない。 「‥‥黒狗、俺ぇに力を貸しておくれ」 優しく頚に腕を回してきた我が子の全身に彫られた刺青は、黒狗と同じ赤き文様。それは『狗と共に在れ』という一家の頭と黒狗との朋友の証。 彼方と黒狗は共に在る――この刺青がある限り。 |