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■オープニング本文 遠き日の、言葉。 『おおきくなったら、きたのかたにしてね?』 幼き日の、何のしがらみもなかった頃の――約束。 ●雪の曙 懐かしい夢を見て目覚めた朝は痛い程に寒かった。 庭を見遣れば真白な雪景色が広がっている。道理で寒い訳だ。 曙の通り名で呼ばれる少女は枕元の上衣を羽織ると、雪をもっとよく見ようと庭へ出た。 貴方のお嫁さんになるの。 あれは‥‥そう、何も知らない幼子の無垢な誓いだったのだと思う。 無垢なる雪は淡く世界を覆っていた。昼には溶けてしまうだろう。 幼子の誓いを否定はしないし、今も彼の人を想う気持ちに変わりはないけれど、歳を重ねれば幼い頃には知りえなかった世間というものも解るようになってくる。 少女の家とは家格に大きな差のある名家の若君。 彼の人は――長くお目にかからぬ幼馴染の少年は――名家の跡継として日々忙しい毎日を過ごしているのだと聞く。 妻に、などと大それた事は望まない。 だけど‥‥せめて彼の人の御為になりたいと願わずにはいられなくて。 ●翳の想い 庭へ出て白雪を愛でる二ノ姫の様子を、姉姫――翳姫(かすみひめ)の通り名で呼ばれる七宝院家の一ノ姫、絢子は御簾の向こうから眺めていた。 乳母の於竹が父からの相談を持ち込んだのは先月の事だったか。 三つ年下の妹姫は本名を鞠子、通り名を曙姫(あけぼのひめ)と称す。この曙姫に縁談の話が持ち上がったのだが、彼女は頑として首を縦に振らないのだと言う。 それだけなら自身と同じだ。絢子とて人との交流はおろか外界との接触を絶って生きている。だが妹は外へ出たいと言った。開拓者になりたいと。 「於竹‥‥開拓者になりたい、外に出たいという気持ち‥‥私にはよくわからないわ」 傍らに控える乳母に呟くと、於竹は困ったように主の顔を見つめた。開拓者になられよとは言わないが、絢子はもう少し外へ出た方がいい。 「でも‥‥於竹、鞠子の力になってあげて?」 理解の範疇を超えていようと、妹を案じる気持ちに偽りはない。於竹経由で鞠子と彼女付の乳母に連絡を取った絢子は、妹に想い人がいる事、相手が開拓者である事を知った。 たとえ志体を持たずとも、恋慕う男の生きる世界に並び立ちたい。 いじらしいまでの少女の意思を理解した絢子は父を説得し、妹の縁談を反古にさせ助力となる事を認めさせた。後は鞠子次第であろう。 「於竹、開拓者ギルドへ依頼を」 七宝院家の総領姫は開拓者ギルドへ使いを向かわせたのだった。 ●開拓者ギルドにて 壁に貼られていた依頼募集要項を眺めていたあなたは、こんな依頼を目にした。 『当家の姫に徒然話をしてくださる方募集』 開拓者の体験談を聞かせてください。 特に志士と共に行動した開拓者、志士の補佐をしている開拓者の話歓迎。 このご時勢に何だと思わなくもないが、志士に拘っている辺りが気になった。 何を求めて話し相手を請うているのか解らぬが、依頼となっている以上は尋ねてみるのも悪くはなかろう。 あなたは受付で、北面への移動許可手続きを終えた―― |
■参加者一覧
玖堂 真影(ia0490)
22歳・女・陰
佐上 久野都(ia0826)
24歳・男・陰
鳳・陽媛(ia0920)
18歳・女・吟
紬 柳斎(ia1231)
27歳・女・サ
黎阿(ia5303)
18歳・女・巫
藍 舞(ia6207)
13歳・女・吟
玖守 真音(ia7117)
17歳・男・志
朱麓(ia8390)
23歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ●共闘 来客を告げたのは姉の乳母であった。 「曙姫様、お話がしたいという開拓者の皆様をお呼びしておりまする」 於竹の先触れに鞠子は驚いて、次に姉の意図を察した。小さく頷いた鞠子は、開拓者達の待つ広間へと移動した。 七宝院家の二ノ姫を待っていたのは志士を始めとした開拓者八名。 鞠子に挨拶をした志士は朱麓(ia8390)と玖守真音(ia7117)は、互いに縁のある黎阿(ia5303)と玖堂真影(ia0490)を伴って訪れていた。 「私は巫女のレアよ。よろしくね」 朱麓とは共に依頼を請けた事もある友人なのだと黎阿は語った。その時のお話をと鞠子に請われた黎阿は、楼港に於ける血生臭い依頼での記憶を辿りつつ語り始める。 世間知らずの姫君を驚かせない範囲で事件のあらましを語る黎阿の説明を、鞠子は懸命に理解しようとした。 「タイ、ケンシ‥‥ですか?」 「ああ、『開拓者』ってのは複数の職業に分かれていてさ、泰拳士は天儀とは別の泰国って所で根付いてた格闘術の遣い手の事だ。で、志士もその職業のひとつって訳」 朱麓の口から志士の単語を聞いた鞠子の様子が、やや緊張したものへと変わった。その変化を見逃さず、黎阿が志士の話へと水を向ける。 「志士の特徴としてはやっぱり選択肢の豊富さがあげられるわ」 何かに特化した職業でないが故に多彩な選択肢を持ちうる職業、それが志士。その為か志士の仲間には機転が利いて臨機応変の器用さがある印象を持っていると黎阿は語る。 「例えば‥‥朱麓、多数の敵に囲まれている状態、貴女ならどうする?」 「敵に囲まれてる時?んー‥‥」 多勢に無勢の窮地を脱する方法をすぐさま詳細に語った朱麓、不敵に笑ってみせた。ニッと笑った朱麓からは、不可能を可能にしてみせる力が感じ取れる。 頼もしい返答に、黎阿はその場に自身が居たらを想定した応えを差し挟んで、重ねてどんな戦い方を好むか朱麓に問うと、豪快かつ力量の問われる戦い方が返ってきた。 「ところで‥‥お話だと、開拓者になりたいって事だけど‥‥理由はあるの?」 鞠子に志体がないという事はギルドを通じて知っている。だからこそ不審に思う、志体持ちでさえ生半可な気持ちでは開拓者にはなれないものだ。黎阿が真意を量るように件の少女の目を見て尋ねると、鞠子はやや怯んだ後しっかりと見つめ返した。 「‥‥わかった、言わなくていいわ」 「‥‥良い目してるよ、あんた。真剣さが滲み出てるようだ」 女だからわかる事もある。女だから言わせてはいけない事もある。 黎阿と朱麓は鞠子の覚悟をしっかりと見届けて、彼女の決意を後押しする事にした。 「‥‥大事なのは向く向かないよりも貴女の意思よ。貴女が開拓者になりたいって思い‥‥それはきっと貴重な想い‥‥いい女になるには必要にして充分‥‥頑張りなさいな」 「例えどんな理由があるにせよ、あたしはあんたを応援してるから頑張って此処まで来ておくれ。それと‥‥」 万屋のお姉さんは依頼以外にも恋愛相談も受け付けてるからね。 にやりと笑って最後に添えた朱麓の激励を、鞠子ははにかんで受けたのだった。 (「うーんホントにお姫様って感じだ‥‥」) 朱麓と黎阿の話を淑やかに聞いている、いかにもな深窓の姫を目の当たりにして、真音は傍に立つ一族の姫を見た。彼の守護すべき直系の姫は凛々しくも勝気でお転婆というか。 (「ウチの姫様にも見習って欲し‥‥!」) 真音の思索はそこで途切れた。何とか悲鳴を堪えて主君筋の姫を見れば、彼の尻を抓った真影は涼しい顔をしている。 (「‥‥ウチも見習えとか、余計な事考えてないでしょうね?」) ちろ、と睨めつける姉姫様は小悪魔系。 (「‥‥イエ何デモアリマセン‥‥」) 抓られた尻を撫でながら大人しくなる真音。当の真影は何事もなかったかのように鞠子に微笑んだ。 「陰陽師の玖堂真影と申します。宜しくお願いしますね」 「お初にお目にかかる、曙姫。俺は志士の玖守真音。どうぞお見知りおきを」 その姿、見事なお嬢様振りだ。負けじと真音も大人びた様子で己が名を述べた。 姉弟のような二人は、十年前から主従関係にあるのだと言う。乳姉弟のようなものですかと鞠子に問われた真影は、暫し考え、主君筋・従者筋の家系なのだと答えた。 「俺が志士になったのは、実家が志士の家系だった事と志体持ちだった事、仕えている姫姉様が開拓者になった事‥‥かな」 真影を追う形で開拓者登録をしたのだと真音は語る。真影は昨年、理穴で起こった大規模な戦の折に真音をはじめとした志士と連携して戦ったのだと回想し、さり気なく続けた。 「あたしの好きな人は志士なの。彼の戦闘スタイルに、自分の術はどう活用できるかって考えるわ」 「志士の戦闘スタイルは剣術と体術を組み合わせたものです。武器や戦闘スタイルにより色々な戦い方ができます」 幅広い戦略が取れるのですと、真音が補足する。その上で、支援系のクラスと組むのが戦いやすいですねと志士側の実感を述べた。 「前に出て戦う事が多い志士を、動き易いようにしてくれるのが有難いです」 例えば――巫女や陰陽師。 側近も志士であれば想い向ける先も志士という真影は、陰陽師を己が道に選んだ。巫女や志士を輩出している氏族に於いて陰陽師という選択は異端であったが、自身の道に迷いはない。 「陰陽師とは‥‥己のアヤカシを作り使役する術を持つ者達ね」 懐から符を取り出した真影、即座に小鳥に変えた。小鳥は鞠子の肩に止まり、暫くして符に戻った。驚く鞠子へ真影は続けた。 「後、高位の術になるとこういう事も出来るわ‥‥泉理、いらっしゃい」 「こんにちは、曙姫。ボクは泉理。よろしくね?」 何時の間に来たものやら、鞠子の許へ小さな人型の生物が寄ってきた。人型をしており人語も話す。だが――その大きさは鞠子の三分の一程しかない。 「この子は人妖、あたしが創ったの」 符で創った小鳥のようにすぐさま消えてしまうような存在ではなく、自我を持ち、真影の言葉を理解し行動を共にする。生み出す為の苦労が多々あったろうが、真影は苦労は語らず、希望を以て締めた。 「今と今後の自分、どれだけ彼の役に立てるか考えるわ。それが行動の源にもなるしね」 その為に術を磨く。真影の言葉には強い意思が見て取れた。 一方、随分と大人びていらっしゃりまするなと、お茶菓子を持って来た於竹が真音に話しかけた。 「俺は当年十三歳ですが一族の嫡男、妻帯しています」 歳不相応の落ち着きは既婚者であるが故か。彼自身の資質にもよるのだろうが、齢十三にして妻がいるという事に興味を持った於竹が、奥方はどのような御方にござりまするかと尋ねると、志体を持たぬごく普通の女人だと言う。 「妻は薬学や各地の風土の知識に長けていて、俺の支えになってくれています」 それでも時折は、己が志体持ちで開拓者だったらと思う事があると真音に漏らす事もあるとか。だが、彼の妻は自身の置き所を知っている。 「志体という無いものねだりをするよりも、今の己に出来る事を見出し、知識なり技術なり人脈なりを深めて、俺の役に立ちたいと考えてくれています」 人には身の丈にあった努力の方法がある。志体の有無に関わらず支えになってくれる事は有難い事なのだと結んで、真音は出された茶に口を付けた。 ●誠実 その佳人は庭に佇んでいた。 誘われるまま庭へ出た鞠子は、会釈をした紬柳斎(ia1231)から単刀直入に尋ねられた。 「鞠子様には不躾かも知れませんが‥‥何故開拓者のお話を聞きたいのですか?」 ただ姫君が日々の徒然に別世界の珍しい話が聞きたいだけなのか、開拓者という稼業に何らかの興味があるのか――見極めたいのだと切り出した柳斎に、誠実を感じた鞠子は正直に胸の想いを表した。 「わたくしの幼馴染が開拓者なのです‥‥今はもう、遠い世界の御方なのですが」 寂しげに言い添えた鞠子の話を、柳斎は静かに聞いている。問わず語りに鞠子は続けた。 幼馴染が北面貴族の嫡男である事、幼い頃ならともかく今となっては家格の違いから自由に会う事もままならぬ事、彼が開拓者ギルドへ志士として登録しアヤカシ退治に身を投じている事――そして、その彼の力になりたいのだという事。 「わたくしに志体がなく、開拓者たるに志体の有無が重要な事は存じております。でも‥‥」 彼の人の御傍に居たい。近付きたい。 切ない少女の想いの吐露を、柳斎は青い瞳を優しく細めて聞いていた。鞠子が語り終えた頃を見計らって、柳斎は少女へ覚悟を求めた。 「鞠子様の気持ちが真剣だという事は分かります。ただ開拓者は常に危険と隣り合わせです。その覚悟があるのでしたら、私は鞠子様を応援しますよ」 実際に過去死にかけた事があるという柳斎の言葉は重く、鞠子は表情を曇らせた。 「危険と隣り合わせ‥‥我が身は大切な人を守る事ができましょうか‥‥」 「まぁ問題も山積みでしょうが、それは全て鞠子様のやる気次第で何とでもなるはずです。また相談があれば何時でも乗りますしね」 只人である自身の危険よりも幼馴染が危険な環境にある点に意識が向いている辺り、認識が甘いと言えようか。 いまだ現実を知らぬ姫君。 柳斎は安心させるように微笑んで――こっそりと、取っておきの話を鞠子の耳に囁いた。 まあと小さく声を上げた曙姫は口元を袖で隠すと大真面目に言ったものだ。 「良い言の葉をお持ちですわ。誠実、謙虚‥‥どれも貴女に相応しいと思いますもの」 「それは忝い‥‥まぁそんな変わった女がいたと覚えていただければ幸いです」 また何かあれば何時でも気軽にとの申し出に、是非にと鞠子は笑んだのだった。 再び広間に上がった鞠子を待っていたのは、於竹一人‥‥? 「もうお越しでござりますよ」 鞠子が席に着いたのを見計らって、前面の畳が大きく翻った。五六枚一気に立った畳の遠く向こうから現れた小柄な影は、炎を一瞬浮かべた後、瞬時に畳に隠れてみせた。 「ちっとも忍んでないシノビの藍舞よ。どうぞよろしく」 派手な登場をしてみせた藍舞(ia6207)は一礼して鞠子の前へ座った。 「さて‥‥シノビがそうであるように志士と言っても十人十色。はてさて何を話そうか‥‥よければ事の起こりを聞かせてもらえる?」 舞の勢いに圧された鞠子が、幼馴染が志士であり自身も彼と共に立ちたいのだと語ると、舞はふむふむと耳を傾けて言った。 「そっかー良いんじゃない?」 志体の有無はともかく、要はやる気だし。 温く肯定する舞、そういう事ならと身近な志士である義兄の話を始めた。 「‥‥って言っても、喧嘩した時の話なんだけどね」 舞が言いたいのは、敵対した際に志士側に誰が就くかで戦い辛い事があるという経験談だ。 「ここまでで、他に依頼を受けた人から『志士はバランスが良い』って話を聞いてるかもしれないけど、妙に真面目なのは曲げられない不文律を持ってるわ」 だからそこを逆手に取る。志士側は不文律を補う者と共にする。 「そしたら敵としては少々やり難い、わね。けど‥‥」 志体を持たず、かつ武術の心得がない深窓の令嬢が今から武術を習うと言っても、一人前になるかどうかも怪しい処だ。 そこで再び、舞の逆転の発想。 「今から始めるのではなく、今までを活かした職業はどう?吟遊詩人とかどうかしら?詩歌に覚えのありそうな曙姫?」 舞の言葉に一条の光明を見出した思いがする鞠子。外国由来の職業で、まだ登録人数も少ないと聞いて希望が見えてきたようだ。 去り際、フードを目深に被りなおした舞は、鞠子の心に小さな漣を起こした。 「あ、そうそう。名家の志士は真面目が故に義理堅い。覚えておくと良いかもね?」 ●家族 控室で、兄と妹は意外な邂逅に驚いた。 「兄さんは‥‥何を話すの?」 鳳・陽媛(ia0920)の問いに、もう一人の義妹の事をと返した義兄は、良ければ一緒に御目見えしないかと陽媛を誘った。 「私は‥‥恥ずかしいから後で。鞠子さんと二人きりでもいい?」 恥らう義妹の申し出に、佐上久野都(ia0826)は構わないと二人して広間へ入って行った。 鞠子に対面した久野都は温和な様子で語りかけた。 「姫君が開拓者に興味‥‥ですか。深窓の姫君から見れば確かに珍しく映るでしょうが、他に事情があるご様子」 お互い堅くならずに、ゆるりと話ができると良いですねと笑む久野都は何処か人を安心させる雰囲気を纏っている。 「素敵なお兄様がいらっしゃいますのね。羨ましい‥‥」 陽媛に微笑みかける鞠子は寛いでいるようだ。久野都は妹の頭をぽむと軽く触れて話を続けた。 「此処で陽媛と一緒になって驚いているのですが‥‥ああ、そうだ。もう一人の義妹が丁度志士をしていますから、その子の話も少し」 志士の義妹は月の名を冠する。物静かな雰囲気に反して少々茶目っ気のある少女は、戦となれば盾とならんと凛と刀を振るう―― 「‥‥だろう?陽媛」 鞠子と共に、久野都の語り口に耳を傾けていた陽媛は、ぽっと頬を赤らめた。 件の義妹、陽媛の双子の妹である。兄の口を通して語られる妹は凛々しく愛に満ちている。もし‥‥陽媛なら。自分の事を兄はどう語るだろう。 久野都が陰陽師について説明している間、陽媛は大好きな兄に思いを馳せていた。 「――と、開拓者と言っても前線に立つ者から後方援護の者もありと様々です。また、戦うだけが全てではなく」 届け物であったり、時には店の手伝いであったり、何でも屋と変わらない所もあるのですよと久野都。今回も然りと柔らかく笑んだ。 「姫君がぼんやりと‥‥人の役に立ちたい、外の世界を知りたいと思われるなら、そう言った仕事を体験されるのも宜しいかと」 志体持ちである必要のない依頼もあるのですよと久野都は結び、悪気のない笑みを浮かべた。 「それとも‥‥志士と仰ったからには、何方か具体的に力になりたい方でもおいでかな?」 微笑みかけられて、つい顔を赤らめてしまう鞠子。並んで照れてしまった陽媛の頭をぽふりと撫でて、おや失礼とそちら方面は妹に振る兄だ。 「ただ‥‥ひとつ。家族からしてみれば無事でいてくれる事が何よりの支えではあるのですよ」 どうか忘れないで。 久野都の言葉は妹に向けられたものでもあった。 兄が辞した後―― 陽媛は自身の胸に眠る想いを口にした。 「私の兄さん‥‥さっきの佐上久野都という陰陽師です。小さい頃からずぅっと‥‥お世話になりっぱなしなの」 「素敵なお兄様ですね」 「とても頼りになって‥‥私、小さい頃はお兄ちゃんのお嫁さんになる!って思ってたんですよ」 微笑ましい事と笑む鞠子に、陽媛も笑いかけた。 「それは‥‥今となってもまだ‥‥でも色々難しいですし‥‥」 義妹とはいえ、妹である。だから秘める事にした。 乙女の秘め事を打ち明けた陽媛は――鞠子に一つの願いをかけたのだった。 |