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■オープニング本文 望んだものは何だった。 願った世界は何処にある。 あなたは――選ばれし御方ではなかったのですか? ●反乱の終焉 天儀歴1009年12月末にジルベリア帝国南部にて、コンラート・ヴァイツァウが起こした武装蜂起は、ジルベリア帝国軍ならびに天儀から参じた開拓者達によって鎮圧された。 反乱軍幹部エヴノ・ヘギンは混乱の中で何者かによって殺害され、賢者と呼ばれた相談役ロンバルールは襲撃した開拓者達の前で霧散して消えた。 首謀者コンラートは雇用していた傭兵スタニスワフ・マチェクにより身柄を拘束され、現在行方不明。大帝の命により捜索が行われている。 ●罪贖う者 仲間に気付かれないように、マイヤはセルゲイを呼び出した。 「気になる事を耳にしたの‥‥皆に知られる前に、セルゲイの意見を聞かせて」 マイヤは仲間きっての情報通だ。人当たりが良く物怖じしない彼女は、帝国軍の中であっても波風立てずに日々を過ごしていた。食堂や休憩所で開拓者達と歓談している姿をセルゲイも目にしている。 開拓者から何か聞いたのだろうか。 「皆に‥‥?知られては拙い事なのか?」 マイヤは頷いた。 反乱軍の敗北は周知の事であったが、反乱の主要人物達がどうなったのかまでは伝わっていない。エヴノならびにロンバルール死亡の報をセルゲイに告げたマイヤは、一呼吸置いてこう続けた。 「コンラート様は行方不明‥‥軍が捜索の任を下そうとしているわ」 彼らは、かつて反乱軍に加わろうと画策していたジルベリアの若者達であった。 マイヤやセルゲイは、帝国軍に於いて『虜囚兵』という扱いを受けている罪人扱いの兵である。 遭都上空で騎龍空賊をしていた彼らは、ある日飛行アヤカシに襲われる。仲間の大半を失い逃げ惑う彼らの前に現れたのは、空賊討伐の為に雇われた開拓者達だった。 開拓者達に助けられ、捕縛された空賊達は遭都の法によって裁かれ、贖罪の一環として戦闘もこなす。決して自由ではないけれど、ジルベリアの法で裁かれれば極刑は免れぬ身、命あるだけましというものであった。 セルゲイが意図に気付いたのを察して、マイヤは言葉を継いだ。 「オリガが知ったら、きっと脱走してでもコンラート様に会おうとするでしょう。脱走なんてしたら、あの子は二度と牢から出られなくなってしまう‥‥ううん、死罪だってあり得る」 「オリガもだが、アントンも危ないな‥‥頭に血が上ると飛び出して行きかねん」 特攻型の弟分を思い出し、セルゲイが苦笑する。 だからと言って、緘口令が敷ける訳でもないだろうとマイヤに言うと、彼女は思案しつつ自らの考えを述べた。 「軍が出す捜索兵に‥‥加えて貰う事はできないかしら‥‥死龍討伐の時みたいに」 「それで、俺にも一緒に掛け合って欲しい‥‥と」 「ええ。お願いできないかしら。せめてオリガだけでも加えて貰いたいの」 オリガは、いまだ理想の名に捕らわれている娘。潰えた妄執を断ち切って欲しいのだと、マイヤは迷いのない目でセルゲイに助力を請うた。 ●首謀者追跡行 年長の虜囚兵二人が動いた結果、二名の虜囚兵が今回の探索に加わる事となった。 虜囚兵を単独行動させられない為、今回も軍は開拓者に監視を依頼する。 依頼を請けたあなたは、二人の虜囚兵に引き合わされた。 一人は弓術師の少女、オリガ・バルィキン。もう一人は吟遊詩人のロベルト・アスカロノフだ。 ロベルトに逃亡の意思は皆無だが、オリガに関しては注意が必要だと依頼書には記されてあった。 この二人を監視しつつ、あなたはコンラートを探さなければならない。 |
■参加者一覧
深山 千草(ia0889)
28歳・女・志
大蔵南洋(ia1246)
25歳・男・サ
真珠朗(ia3553)
27歳・男・泰
珠々(ia5322)
10歳・女・シ
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
トカキ=ウィンメルト(ib0323)
20歳・男・シ
テフテフ(ib0455)
22歳・女・ジ |
■リプレイ本文 ● 対照的な二人だった。 いまだ反抗的な強い意思を宿した瞳を持つ少女戦士と、全ての関心を失ったかのような虚無感漂う青年。 「初めまして、魔術師のトカキです。以後お見知り置きを」 漆黒の祈祷服を纏いし聖職者の挨拶を二人は硬い表情で受けた。トカキ=ウィンメルト(ib0323)は挨拶を済ませると、仲間に単独行動を告げ早々に場を発った。 此度の反乱に強い憤りを覚えるテフテフ(ib0455)は、厳しい視線を少女に向けた。視線を真っ向から受け止めたオリガをテフテフは更にきつく睨み返し、もう一人の陰気な青年に目を向ける。 妹を亡くした吟遊詩人だと聞いた。ロベルトはオリガをどう見ているのだろう。同情のつもりはないが、この男が何を見、何を考えているのか、見極めてやろうとテフテフは思う。 反抗の鎧を纏った少女の脆い内面が、深山千草(ia0889)には気掛かりだった。 (「オリガちゃん、心配ね‥‥心が」) 縁あって何度か関わってきた千草には、頑なな少女が呪縛に囚われているように感じられた。 千草が最初に関わったのは遠く遭都、彼女は空賊だった彼らを捕らえ遭都の法で裁かせた開拓者の一人だ。同じく先のメアン村に於ける死龍討伐で虜囚兵達の監視に就いた珠々(ia5322)は、戦後いまだ反乱軍首謀者に心傾ける少女虜囚は理想に囚われていると感じた。 (「理想と、現実という奴ですね‥‥確かに、受け入れるのは難しそうです」) 正しいと信じて動いていたのだから尚更だ。敵方に囚われ働かされた所で現実を直視するには至っていない。 遭都からの付き合いとなるアーシャ・エルダー(ib0054)は、オリガにこの戦いの真実を知って欲しいと思う。アーシャ自身も微妙な立場にある帝国騎士だ。だからこそ見える双方の立場というものもあった。 今回の調査、コンラート捜索の任を通して真実に目を向けて欲しい。 その思いは虜囚兵に初めて相対する開拓者も同じだ。 大蔵南洋(ia1246)は、コンラートに対しては分不相応な夢を抱いた哀れな者という印象しか持っておらぬ。だが、無用な戦を引き起こした彼の影響は、甚大かつ広範囲に及んでいた。 例えば、目の前の若者達。コンラートを英雄視し影響を受ける存在は非常に危ういものだ。此度の戦がジルベリア南部の民衆に何をもたらしたのか、虜囚兵達に考えさせたかった。 反乱軍に与しようとした二人の若者を前に、ジークリンデ(ib0258)は哀しげに睫を伏せた。 (「何が正しくて何が正しくないかは人其々なのかも知れませんけれど‥‥」) 立場は違えど己の正義の為に戦おうとした彼ら。 だが――戦いは新たな哀しみを引き起こす。 (「この哀しみを止めるには何をするべきなのか‥‥」) 彼らの心に変化を齎したかった。哀しみを止めるものは少なくとも戦いではない、そうジークリンデは信じている。 今回任務に就く二人以外の虜囚兵も知る千草は考える。何故オリガに同行させるのがロベルトなのか。 (「私達には無理でも、ロベルトくんになら気付ける事が在るかしら‥‥」) この中では最も長くオリガに接している人物だ。視線に気付いたロベルトが片頬を歪めた。皮肉気にみえるその表情は、どうやら彼なりの愛想笑いかもしれない。千草は穏やかに笑み返す。 「さて‥‥と、お仕事頑張りますかねぇ」 誰も言葉を発しない気まずい空気が真珠朗(ia3553)の言葉で動き始めた。 何処かほっとして仕度を始める一同に混じって、真珠朗はオリガの傍に寄ると独特の口調で話しかけた。 「お嬢さんが何を信じようが、あたしらを出し抜こうが、裏切ろうがねぇ‥‥?」 はっとするオリガに「それは自由だと思う」と真珠朗は他人事のように語る。出し抜かれるなら開拓者が無能なだけなのだと。 でも、と真珠朗は続けた。 「まぁ自分を心配してくれてる人間がいるなら、そいつの信頼は裏切らないでくださいよ」 余計なお世話って話でしょうがと結んだ真珠朗の視線は、この場に居る者のみならず居合わせぬ、少女を心配している者達にも向けられていた。 ● ジェレゾの開拓者ギルドを後にした一行は移動を開始した。 一行がまず向かったのは、戦地から最も近い場所にある発着場。逃亡者一行が乗り捨てた飛空船が発見されたのは、情報収集に向かう開拓者達が各地に散る少し前の事だ。移動や他儀脱出の可能性を考えての事であった。 「検問情報の開示を願います」 帝国騎士の身分を最大限に活かしアーシャが情報開示を求める。身元と捜索の任に就いている事を証明し、誓書に署名を済ませた上ではあったが、何とか開示してもらえた。大人数移動の形跡は見受けられない。 「相手は生き延びる術に長けている歴戦の傭兵‥‥目立たぬよう少人数に分かれて居るやもしれぬぞ」 密航者を含む、数名で構成された男ばかりの集団はないかと、飛空船長に尋ねてまわったが、これと言えそうな集団は居なさそうだ。 「民は陛下の所有物、密航を企てる者は極刑に値する。実行する奴も片棒担ぐ奴も、そうは居らんよ」 駆け引きをも辞さぬ構えであったが、船長の言葉に嘘や隠し事は見られない。コンラート達はジルベリア内に残っていると考えて良さそうだ。 「戻りましょうか。オリガさん達を連れて、次の場所へ向かいましょう」 虜囚兵達を刺激しないよう、発着場には同行させていない。アーシャが移動を促した。 人の行き交う所には大抵ある娯楽施設、酒場。 意外と純朴な質のようだ。あられもない格好の女給達に嫌悪と精一杯の虚勢を張っているオリガに苦笑したロベルトは、赤面している千草と一緒に周辺の店を聞き込みしておいでと促した。 「あたいは酒場に行くよ。みんなはどうする?」 「私は見た目が子供ですから‥‥怪しまれそうです」 テフテフの問いに対し珠々の言う事も尤もで、一同は一旦二手に分かれた。 いまだ合戦の名残がある酒場では、一目見ただけでも様々な人種がいる事が見て取れた。端から一般人を装う気のない開拓者達は、ふらりと立ち寄った風を装ってカウンターに就く。適当に酒を頼み、周囲の酔客と馬鹿話に興じてみせつつ、さりげなく情報収集を始めた。 戦争は因果なもんですねぇと真珠朗、戦災に巻き込まれた民を思い遣る風を装って、避難民の移動状況に探りを入れる。 「残して来た村が気になるでしょうねぇ、全く戦争は罪深いもんですよ」 「雪も溶け始め、種蒔きの時期も近いな」 「へえ、そっちの兄さんは農家の出かい?」 酔客に開拓者と勘違いされたロベルトは控えめに口端を歪めてみせた。座席の下にリュートを置いた吟遊詩人は、言われなければ罪人とはわからない。 傍でハープを奏でていたテフテフが、そんなロベルトに話しかけた。 「ロベルトあんたは、どうなのさ‥‥オリガのことどう思ってる」 「どう、とは?」 「あんたと違ってオリガは敗戦を割り切ってるとは思えない」 危うい会話は楽の音にかき消された。 弦を弾きつつ、テフテフは続ける。旅をしてきた自身の事、同じ吟遊詩人である自身の事をロベルトに語りつつ楽を奏でる。テフテフの話を肴に、ロベルトは大人しく酒を呑んでいる。 一方、真珠朗はすっかり場に馴染んでいる。彼は、周囲を盛り上げ話を引き出す事に非常に長けていた。 「あたしらも稼がせていただきましたがねぇ、商いやってらっしゃる方には随分儲けたお方もいるんでしょうねぇ」 指先で小銭の形を作って羨ましいと続けた真珠朗の様子に、周囲の酔客がどっと笑った。何処の誰がいくら儲けた、誰某はいくら損したと、酔っ払い達は俗っぽい話に花咲かす。多くは他愛もない噂話であったが、中には気になる話もあった。 「そう言やよ、いきなり景気良くなった奴がいてさぁ」 店番をサボって一杯引っ掛けているパン屋の親仁が、鼻先を赤くしながら同業者に一見の顧客が付いたのだと言った。聞けば、日持ちのするものばかり大量に売れた事があったのだとか。 「店の棚が空っぽになってやがったぜ」 「そりゃぁ羨ましい限りですねぇ。そんなに売れちゃ仕入れるのも一苦労でしょ」 「ああ、次の日は休んで此処で呑んでやがったぜ、羨ましい」 「旦那も呑んでるじゃぁないですか」 あははと笑う酔客達に酒を奢ってやり、真珠朗は本題に入った。 「そんなに買っちゃ、運ぶのも大変ですねぇ。どなたか運ぶのを手伝ったお方はいませんかい?」 発着場近くに在るだけあって、市場では様々な食物を扱っているようだ。 逃走中とて人が生きてゆく為に食事は不可欠。食料飲料の販売推移を追えば、傭兵団の所在も目星がつけられようと、開拓者達は読んでいた。 生鮮食品を扱っている店舗では、あまり有力な情報は集まらなかった。合戦を機にジルベリアには多くの人が集まっており、食料の消費も多く販売も増えている。いまだ販売増の状況が続いてはいるが、天儀の者達が多く居残っているのが現状で、逃亡中の傭兵団と直結させるには少々弱い――が。 「最近、大量に買っていかれたお客さんはいないかしら?」 千草の問いに、乾物を扱っている店の主が「ああ」という顔をした。干し肉やドライフルーツなど、日持ちする食料を大量に購入した客がいると言うのだ。 「まあ、うちで扱っているものは日持ちがしますからね。そんなに妙ではないですが‥‥」 「どんな人が買って行ったか、覚えてますか?」 興味という明確な意思を初めて見せたオリガが尋ねた。購入者は男性二人連れだったなと店主が回想する。 ジークリンデは、店主と熱心に話しているオリガの姿を複雑な気持ちで見つめた。 いまだ理想という名の夢に縋りつく少女が哀れでさえあった。戦争の影でアヤカシが暗躍していた事、人々が攫われた村、そしてオリガが賢者と信じているロンバルールの正体は―― 「年恰好は全く違うが‥‥あんた達、彼らと感じが似てるな。あんた達の仲間かい?」 店主の言葉に一同に緊張が走る。 商人の勘、客商売をしている者の観察眼を甘く見てはいけない。店主の言葉は購入者が戦いに身を置く者である事を暗に示唆していたのだ。 一方、単独で調査を行っているトカキが到着したのは賭博場。 「やっぱ、情報を集めるならココですね‥‥」 決して行きたいのではないのだ、調査なのだ。断じて博打をしに行くのではないのだと言い訳めいた気合を入れて、漆黒の魔術師は賭博場に消えてゆく。 酒と煙草の匂いが入り混じった退廃的な雰囲気に密かに高揚を感じずにはおられぬが、これも仕事とトカキはヴォトカを注文し、ゆったりと賭場を眺めた。 負けが込んで験直しとばかりにカウンターへやって来た男の近くに席を取る。 「あなたに神の祝福を」 ヴォトカのグラスを掲げたトカキを胡散臭げに見た男は、一言「ありがとよ」礼を述べると一気に酒を呷って‥‥賭博場を去った。 腹の虫の居所が悪かったのだろう。トカキは次の標的を定めたが‥‥当たり障りなくあしらわれ続けた。ジルベリア人の彼が見た目や言葉遣いで怪しまれる事はなかったが、人は彼が身に纏う漆黒の祈祷服を警戒しているのだ。 現在のジルベリア帝国は、ガラドルフ大帝が治める絶対君主国家である。土地人民は大帝のものであり、大帝は神にも等しいとされている。禁教令により制限された教会を信仰する多くは魔術師や修道士達だが、トカキの風体は中でも異質な部類に入るものであった。一般人を名乗るには少々特異過ぎたかもしれぬ。 (「仕切り直しますか‥‥」) ひとまず退散し、作戦を練り直そう。別組とも情報交換しなくては。 見切りをつけて賭博場を出た後しばらくして、彼の前に男が現れた。 「あんた開拓者だろ?俺の情報、買ってくれよ」 到底堅気とは見えない、真っ当な人生を歩んでいなさそうなその人物は、薄汚れた手をちらつかせてトカキに商談を持ちかけた―― ● 情報を重ね合わせた結果、食料の運搬状況やら乗合馬車の利用状況から方向を定めた彼らは、近隣の村への調査を開始した。 発着場周辺と違い、開拓者達を見る村人達の目は冷ややかだ。彼らには戦争に巻き込まれた被害者という意識があるらしかった。 一通り回って、一息入れようと村外れで合流した開拓者達にお茶を勧められ、オリガはほっと小さく息をついた。落ち着いた様子の彼女に珠々が話を切り出す。 「オリガさん、村々を見てあなたはどう思いましたか?あなたの言葉で話して貰えませんか?」 己の見た目を最大限に生かして情報収集に駆け回る珠々に手を引かれ、オリガは村内を巡っていた。捜索に繋がる情報はせいぜい馬車の移動方向くらい、返って来るのは厳しい視線と言葉が多かった。彼らを硬化させ厳しい言葉を発せさせたのは―― 「コンラート様の蜂起がなければ、こんな事にはならなかったと‥‥あなたは言いたいの?」 「私が聞いているのはオリガさんの言葉です。あなたはそう思われましたか?」 緩める事なく重ねて問う珠々にオリガはぎこちなく頷いた。歴史に『もし』はないが、仮に此度の反乱が起こらなければ戦場となった村に被害は出なかったはずだ。理由はどうあれ、破壊の事実は事実であった。 オリガちゃん、と千草は穏やかに話を引き取った。 「誰もが幸せになりたくて、時に、祈ったり、戦ったりするわね。私はね、アヤカシの為に涙する人が少しでも減りますよう‥‥笑顔が溢れる世界になりますように願って、開拓者になったの」 少し子供っぽいかしらねと優しく微笑む千草、娘達の会話に耳を傾けていた南洋が同じくと頷いた。 「この身に備わった力はアヤカシを討ち果たし、安楽に暮らせる世を作り出すためと信じておる‥‥コンラート殿が巨神機をアヤカシに向けておられたならば、同じ旗の下で戦っておったかもしれぬよ」 立場の違いを超えての対話はオリガの心を静かに開き始めた。漸く己が正義の在り処が誤っていた事に気付き始めた娘は悔恨の表情を浮かべ‥‥アーシャの朗らかさに救われた。 「アントンさん、可愛いですね」 猪突猛進な弟分の名を出され、オリガがぷっと吹き出すと一同に和やかな空気が満ちる。 その時、遠方を監視していたジークリンデが立ち上る白い煙に気付いた。何本か立ち上る煙は―― 「炊煙ではないでしょうか」 一同は仕度を整えると、件の場所に急行した。 ● 一同を迎えたのは、コンラート捜索に当たっていた別の開拓者集団であった。 僅かに早く傭兵団を発見した捜索隊が、マチェクからコンラートを引き取りジェレゾへ護送している途中であったのだ。同じ依頼を請けた開拓者同士という事で、一行は護送に同道する事となった。 道中、面会を許されたオリガはコンラートと初めて対面する。僅かな面会時間の後、部屋を出て来た彼女は泣いていた。 救世主と信じていた英雄、自分より僅かに年上の青年は、ただの人に過ぎぬ。 実際に話してみて解ったの――コンラート様は私と同じだったという事に。 |