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■オープニング本文 もふらさま。天儀に於いて神の御使いとされる生物。 食いしん坊でなまけもの、そして意外に力持ち‥‥だが、やっぱりなまけもので食べる事しか頭に無いようで。 もふら牧場では今日も今日とて、もふもふもふもふやかましい―― ●大地震 その日、ヒデは酷い揺れを感じて目が覚めた。 彼が寝起きしている作業小屋が木っ端になりそうな位にぐらぐら揺れていた。棚はひっくり返り、食器は粉々、道具が散乱して大惨事だ。 「ちょ、あいつらはっ!!」 外でもふら達が騒いでいる。大変だ、何か天変地異が起こっているに違いない! そうこうしている間も、小屋はどしーんどしんと揺れている。何とか身を起こしたヒデは身体を低くして一目散に出口を目指す。 「おい!お前ら大丈夫か!?‥‥ぁ???」 外へ飛び出したヒデが目にしたのは、代わる代わる小屋にぶつかっているもふら達の姿であった。 ●サクランボ 「‥‥でェ、それからどうしたンだ?」 筆の尻で頭を掻きながら開拓者ギルドの受付係が続きを促すと、すっかり疲れ切った様子の少年が事の経緯を話し始めた。 曰く、もふら達の主張は次の通りである。 『さくらんぼ、たべたいもふー!』 「‥‥はァ?」 「あー、うちの牧場の作業小屋脇にさ、桜の木が生えてるんだ」 ちなみにその桜、観賞用の桜であってサクランボが収穫できる種ではない。 どこから聞いたものやら、もふら達は「桜の木にサクランボがなる」という知識を仕入れたらしく、葉の出始めた終わりかけの花桜へ突進をかましていたのだそうだ。 「で、さ。あいつらの食費も馬鹿になんねぇし、木を植えようかって話になったんだ」 勿論、牧場で働く人間達の間でだ。 牧場の敷地は広いし土地が痩せている事もないから、植樹すれば数年後には桜桃を収穫する事もできるだろう。 「ただ‥‥さ、もふら達が『さくらんぼ、たべるもふ!』って騒いでるもんで」 「待てよ、植えたばっかだと実はまだ生らんだろ」 「あいつらにそれが解りゃ苦労しねーよ‥‥」 そこで開拓者へ依頼、という訳だ。 ●もふら牧場手伝い募集 ・苗木植樹、もふらの世話等 ・昼食は各自持参の事 ・体力の有り余る開拓者大歓迎 |
■参加者一覧 / 柊沢 霞澄(ia0067) / 紅桜・彼方(ia0095) / 羅喉丸(ia0347) / 紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454) / 橘 琉璃(ia0472) / 玖堂 真影(ia0490) / 玖堂 柚李葉(ia0859) / 酒々井 統真(ia0893) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 巴 渓(ia1334) / 喪越(ia1670) / 倉城 紬(ia5229) / 海神・閃(ia5305) / ペケ(ia5365) / 設楽 万理(ia5443) / からす(ia6525) / 亘 夕凪(ia8154) / ルーティア(ia8760) / パンプティー(ib0004) / エルディン・バウアー(ib0066) / 御陰 桜(ib0271) / 速水 セヲ(ib1278) / 浩(ib1294) / 封獣 鵺(ib1389) / 雪人(ib1507) |
■リプレイ本文 ●お仕事開始‥‥? さて、神楽郊外へやって来た開拓者達。 広い草原のあちこちに白いもふら達が点在している‥‥何とも長閑な風景だが、これから始まるのは、もふらと人との戦いだ。しかし開拓者の中には、もふらを朋友としている者もいる訳で、手懐けるのは然して難しい事ではない――? もふらのモフペッティを伴ってやって来たペケ(ia5365)、自信たっぷりに相棒の毛並みを撫でてこう言った。 「モフペッティはやるときはやる『できる』もふらさまなんですよ」 ペケ、相棒の事を全くもって理解していなかった。 当のモフペッティは「もふ?」我関せずとばかりに首を傾げている。気持ちの良い天気、広い草原、仲間達。ここは遊ぶには絶好の場所だ。 こんな時は―― 「ねぇモフペッティ、もふら様達に大人しくなるよう説得に協力をしてく‥‥」 「へんしん、超精霊チェルノブモフ!みんな聞くモフ!この尻出し怪人ペケの褌を奪ったもふらだけが美味しいサクランボを独り占めできるモフ〜!!」 モフペッティは変身ヒーローごっこを始めた!ペケの要求には応えたが、方法が如何にも危険過ぎた! 「「「さくらんぼ、ひとりじめもふ!?」」」 「「さくらんぼさんもふー!!!」」 「きゃ〜〜〜!?」 尻出し怪人、もといペケを追いかけもふらの大群が迫る。地獄の追いかけっこが始まった! (「‥‥もふ‥‥」) ちょっぴり羨ましいかもしれない。 もふもふの大群に追われているペケを見送って、亘夕凪(ia8154)は駄目だ駄目だと思い直す。もふ成分補給は依頼完遂のご褒美に取っておこう。 「さて、いっちょ始めるかい?竜胆、御苦労だけど頼んだよ?」 甲龍の竜胆を撫でて、柵に使う木材を運び始めた。 さくらんぼの苗木を植える場所を決めたら、まずは柵を作って囲ってしまおう。 「頑鉄、そこを頼む」 甲龍の頑鉄に岩の除去を命じ、羅喉丸(ia0347)は地をならす。寡黙で頑固な頑鉄は、その頑丈な身体そのものが岩のようだ。ごつごつとした鱗や鬣は岩や鉄のようで、力強く持ち上げる様が心強い。 呼子笛をピーピー鳴らして頑鉄を誘導するパンプティー(ib0004)。被った笠には緑色の十字模様が描かれているせいか、どことなく普通の笠より頑丈そうに見えるような‥‥ 「ヘィ!ヘィ!こっちだよ!」 炎龍のクロウディアが曳いて来た空の台車に岩を積み、頑鉄は再び地ならしへ。クロウディアには苗木の運搬を頼み、パンプティーは柵作りの手伝いに取り掛かった。 竜胆が運んできた木材を、酒々井統真(ia0893)が丁度良い大きさに加工している。もふら達の突進にも耐えられるような頑丈な柵をと、板一枚とっても重い。 統真の人妖・ルイが板を運ぼうとして――こけた。 「苗はもっと重いぞ」 「うぅ‥‥大変だってわかってるなら、手伝ってくれればいいのに」 土で汚れた服を払ってやりながら統真が言うと、ルイは唇を尖らせた。人妖の非難などお構いなしで、統真は作業の続きを始める。 「重いから泉理に手伝って貰え」 「ひ、一人でできるもん!」 主と仲良く苗木の様子を見ている同属をちら見して、ルイは更に唇を尖らせた。 クロウディアが運んできた苗木の具合を調べている主従。玖堂真影(ia0490)と人妖の泉理だ。 「で、ボクはどうすればいい?」 黙っていれば愛らしい人形のような泉理だが、気位が高い性分のようだ。指示を受けるのは真影のみ、緋髪の主に向けて泉理は漆黒の髪を揺らして首を傾げた。 「あたしが植えるから、泉理は水を遣って」 はい、と手渡された如雨露は人妖にも扱いやすい大きさだ。うん、と素直に頷いた泉理は如雨露の中を見て。 「真影、水が入ってない?」 語尾を上げた独特の口調の意味する所は『水を汲め』だ。 真影は苦笑した。我侭で、可愛い泉理。作業前に水を用意してやろう。 ●もふらさまお世話作戦 植樹班が作業中の間、牧場のもふら達の相手をするのも仕事の内だ。 「もふ龍ちゃん、一緒にもふらさまのお世話をいたしましょう」 「頑張るもふ☆」 紗耶香・ソーヴィニオン(ia0454)の呼びかけに、もっふもふのもふ龍はお利口に返事する――が、視線の先は紗耶香の持つ荷。ふんわり美味しそうな香りを放っている。 紗耶香は荷から小さな饅頭を取り出すと、もふ龍にひとつ分けた。 「ご主人様のお饅頭は美味しいもふ!」 もふ龍のお墨付き、紗耶香特製お饅頭でもふら達を集めよう。 淡い金色のもふ龍が、もふらの大群の中に紛れてゆく。色が違うので大変判りやすい。 ――それにしても美味しそうだ。もふ龍が。 甘そうですよね〜と食い気に走る梨佳に、佐伯柚李葉(ia0859)はくすりと笑うと、赤い飴玉を梨佳の口に放り込んでやった。 「もふ?‥‥あ、さくらんぼです〜♪」 「花謳もあーん。美味しい?」 さくらんぼ味の飴玉に大喜びの食いしんぼ。柚李葉は花謳の口にも飴玉を入れてやり、穏やかな駿龍の頚に腕をまわした。 今日は一日もふら達をもふりながら一緒に過ごそう。抱きつかれて嬉しそうに「きゅぅ」と鳴いた花謳と一緒に。 「さくらんぼ、好きなの?」 「すきもふ」 正確には何でも好きなのだが、もふらは海神・閃(ia5305)の問いかけに素直過ぎる返事をした。 じゃあ‥‥と閃はにっこり。 「お腹すかせてた方が、もっと美味しいよ?」 「おなかすくのはやーもふ、でもあそぶもふ」 だから一緒に遊ぼうと誘ってみると、遊ぶのは好きらしく誘いに乗ってくれた。 そこで閃は駿龍の風花をまじえて、おしくらもふら。もふもふぎゅむぎゅむ、もふらにまみれるのも大変だ。全力でもふら達と押し合い圧し合い、閃は場を用意している仲間が準備を終えるまではと頑張る。 あちこちでもふらの誘導が始まり、もふ毛の圧迫から解放された閃は草原に仰向けに倒れこんだ。 「はは‥‥流石に疲れたよ」 心配そうに覗き込む風花に語りかけ、空を眺める。青空に流れる雲が爽やかだった。 (「お弁当、残ってるかなぁ‥‥?」) 料理上手達が腕を振るった花見弁当に思いを馳せて、暫しの休息に耽った。 御機嫌ようと可憐な仕草を見せたのはジュリエット、土偶ゴーレムのお嬢様。もふもふ分を補充に参りましたのと優雅に微笑んだ――ような気がした。何せ土偶ゴーレムである。 先日出逢った素敵な殿方は、今日はお越しでないみたい。 「今日は良い陽気ですし、もふもふな背中に乗って草原を駆け巡るのも楽しそうですわねぇ」 だって乗馬はお嬢様の基本ですもの☆ ジュリエットお嬢様、使用人に命令を下した。 「しっかり頑張るのよ、モコス!餌で釣って、もふらさまを走らせるのですわ!」 「でぇっ!いつの間にそんな事になってんだよ!?」 「使用人の分際でグダグダ言わないの!」 顔を顰めた喪越(ia1670)、ジュリエットの踏みつけを食らった。げしげし足蹴にしつつもアメも忘れず、お嬢様は下僕を扱う術を知っている。 「餌に向かって突撃してくるもふらさまを華麗にいなす事ができれば、さぞかしカッコいいでしょうねぇ」 つつつと近寄ったジュリエット、喪越にトドメの一言。 ――御婦人方にモテモテじゃないかしら? 「いよっしゃー!ばっちこーい!」 嗚呼、男の性。憐れな下僕よ! 喪越がジュリエットが騎乗するもふらの釣り餌になっていた頃―― 「さて吉良よ」 神妙な顔つきで始まった設楽万理(ia5443)のお言葉を、忍犬の吉良は身構えて拝聴していた。 修行の名目で、今日はどんな無茶振りが来るのだろう。警戒状態の吉良に、万理は甘刀「正飴」を差し出した。 (「‥‥?」) 「これを咥えて死守しなさい。それが今日の貴方の使命よ」 (「!!!」) 吉良を抱えて、もふらの群れに放り込む。以後放置。 もふら達に追い回される吉良を他所に、万理は大人しやかなもふらさまを呑み相手に酒盛りを始めた―― 「あらま、大変ねぇ」 御陰桜(ib0271)が桜樹の下で手頃な大きさのもふらをもふりながら呟いた。傍には忍犬の桃が主とまったり。 もふもふ達を侍らせて花見するのも仕事の内だ。大人しくもふられているもふら達は、桜樹に突進も苗木襲撃もせず、桜に身を委ねている。 「どう、気持ちイイ?」 「もふ〜♪」 もふらはうっとりしているようだ。そのままうつらうつらと夢心地。すっかり仲良くなったもふら達と、さくらんぼ収穫時の再会を約束して、桜は桃を手招きする。 「桃、おいで♪」 甘やかせはしないけれど、桃に寂しい思いはさせたくないから、今日だけは目一杯もふもふしてあげよう。 ぽかぽかと優しい陽射しは龍にも安らぎを与えるようだ。眠気を催したのか、甲龍のフォートレスが丸くなった。 「フォートレス、いつもありがとうな」 歴戦のフォートレス、浅黒い体色の身体に残る古傷は、彼が主を護る為に受けたものだ。ルーティア(ia8760)は、そっと傷跡を撫でた。 主に撫でられうとうとしているフォートレス。彼にとって傷跡は主を護ったという誇りにほかならぬ。ちびちびと薄桃色の酒を呑み花を愛でるルーティアの温かさを感じながら、寄ってきた仔もふらにじゃれつかれ、甲龍は心身の休息を得る。 「此処に来るのも久し振りですね?」 以前は此処で野点に同席したのだったか。橘琉璃(ia0472)は今日も猫又の紅雪と一緒だ。 「また来たの‥‥今日も一緒なの〜」 再び主を独り占めにできる機会に紅雪は嬉しそうだ。甘えて琉璃の袖を引っ張ると、大好きな琉璃の膝に収まった。 今日も琉璃のお手製弁当があって。紅雪が食べても良くて。 それでも問わずにいられない紅雪に、琉璃は微笑んで言った。 「食べても良いですよ。しかし、皆さん元気ですね〜」 いまだ、もふらの群れに追われている者がいる――紅雪は唐揚げを食べると、琉璃に甘えて擦り寄った。 一人と一匹だけの時間を過ごす柊沢霞澄(ia0067)と炎龍の紅焔。二人とも人の多い場所は苦手だったから、皆とは少しはなれて静かに過ごしている。 紅焔は弁当を霞澄は饅頭を齧って名残桜を愛でている。桜花を見ていると、霞澄は心穏やかになれた。 「桜の樹は冬の間じっと力を溜めて‥‥この時期ほんの1〜2週間程だけ花を咲かせるのですよ‥‥」 紅焔に話しかけ、くすり、と笑む。 黙々と弁当を食べている紅焔は聞いているのかいないのか。 「‥‥紅焔は『花より団子』みたいですね‥‥」 ――でも。 霞澄は話し掛け続けた。大切な友達へ。 桜の花の様に華やかにはなれないけれど、人の役に立てるよう努力し力を溜めていきたい、いつか咲かせる事ができるように。 「だから紅焔も一緒に頑張って‥‥」 近い境遇を感じて結びついた大切な友達へ、霞澄の願い。 もう一人じゃない、もう『いらない子』でいるのは嫌だから‥‥ 礼野真夢紀(ia1144)は重箱を広げてのんびりと。中には春らしい筍おこわ、旬の野菜は甘辛く煮たり揚げ物に。それから、マヨネーズで和えた卵を掻き萵苣で包んで食べる料理は、ジルベリア出身の知人に教わった調理法だ。 寄ってきたもふらに食べやすい大きさで与えてやり、駿龍の鈴麗とのんびり過ごす。 二十段もの重箱は、鈴麗がいなければ運べなかっただろう。真夢紀自身も持っているのは五段の重箱だったので、ご近所から借り受けて用意したのだが、沢山用意しておいて良かった。 「鈴麗、あとで皆さんと餡入り草餅を食べましょうね」 寄ってきたもふら達に「あなた達の分もありますよ」と真夢紀は微笑んだ。 大きなもふらの背にもたれ、ゆったり読書中のからす(ia6525)。傍には茶器が並んでいる。お茶会の主はからす、客は人や朋友、もふら達。 人妖の琴音が大きなもふらの上で腹ばいになって、からすを覗き込んだ。 「からす。もふらから毛皮を刈り取ったらどうなるのだろう」 大もふらの毛並みを手繰りながら、ちょっと引っ張ってみたりもして。 精霊力の凝固した存在と言われるもふらだが、毛や身体の質感はしっかりとしていて、普通の動物と変わりない。 書物から顔を上げ、背越しに見上げたからすは事も無げに言った。 「『ら』になるんじゃないかな」 「ら?」 「そう『裸(ら)』」 納得している琴音を他所に、吹き出す開拓者達。大もふらがビクゥ!っと緊張したのが背中越しに伝わってきた。 心なしか、周囲のもふら達も何だか衝撃を受けている。 「はだかもふ‥‥」 単純なもふら達は信じてしまったようだ。 あ、もふらが一匹、寄ってきた。 「お茶はどうかな」 いつものように茶を勧め、もふら相手に一席設ける。 温かいお茶をもふもふ啜っている客もふらに、からすはさくらんぼの話を始めた。 「桜桃、つまり桜の桃とも書くのだけどね」 地面に『桜桃』と書いて『おうとう』と読み仮名を振ってやる。音読すると、もふらが真似をした。 「おうとう、もふ?」 「そう、桜桃。桜にも色々あって、桜桃のできる桜とできない桜があるんだ」 「もふー?」 それに初夏の食べ物だからちょっと早いと続けると、もふらは少ししょんぼりしたようだ。 「そんなに落胆しなくても美味いものは沢山あるでしょ」 小さく笑って、からすはもふらに茶請けの菓子をやる。菓子に夢中のもふらは、がっかりした事など忘れたかのようにご機嫌になっていた。 エルディン・バウアー(ib0066)は神父である。 神に仕えし彼は万人に優しい。彼の微笑みは全ての生きとし生けるものに等しく与えられる――もふら達も然り。 「‥‥という訳で、神父様の紙芝居でふ〜」 もふらのパウロが牧場のもふら達を呼び集めた。ちなみにパウロは助祭なのだとか。 「かみしばいもふ?」 「かみしばいおいしいもふ?」 「最後まで見てくれたら、お菓子をあげますよ」 食い気最優先のもふら達に、エルディンはにっこりと聖職者スマイルを浮かべた。 パウロの誘いに、お菓子に釣られたもふら達が続々集まってくる。 「さて、よい子の皆集まったかな?今日はサクランボのお話だよ」 エルディン神父、幼い子に読み聞かせるようにして紙芝居を始めた。 木が育つのには長い長い年月がかかります。 美味しいサクランボができるまでには、何年も必要なんだよ。 そこにある小さな小さなサクランボの樹は、今はまだ赤ちゃんなんだ。 赤ちゃんは大切にしてあげなくちゃいけないね? 弱いものに優しく、よい子の皆はサクランボの樹がおとなになるのを待ってあげようね。 植樹作業中の仲間へ視線を向けて紙芝居を締め括る。 「はい、おしまーい。じゃ、最後まで見てくれた皆にお菓子を‥‥」 「「「おかしもふー!!!」」」 もふら達はこの瞬間を待っていた! そして、懐から菓子を取り出したエルディンは隙だらけだった! たちまちもふらの群れに蹂躙されたエルディンは、それはそれは幸せそうな笑顔を浮かべていたと言う―― 一方、赤ちゃんの樹ことサクランボの苗木植樹の方はと言うと、炎龍の赤翁にもふら特攻の防波堤になって貰い、着々と進んでいる。 人語は発せずとも赤翁が不満たらたらの様子なのは容易に見て取れて、倉城紬(ia5229)は彼女(赤翁は雌龍である)の好物で上手くあしらいながら役割を遂行させていた。 「赤翁、寿録の柚入り漬物食べて頑張ってください〜終わったら翠の梅昆布茶を淹れてあげますから〜」 仕方ないとばかりにフンと鼻息を吐いた赤翁は、まとわりつくもふら達を我慢して受け止め続ける。その間に統真と羅喉丸が地を均し、夕凪と竜胆と頑鉄、パンプティーが柵を立て、真影とクロウディアが苗木を植えた所を泉理とルイが水を遣っていった。 「あぅぅ、案外疲れるかも‥‥」 龍達と一緒に力仕事に従事するパンプティーに、あと少しと発破を掛ける夕凪。 そう、あと少しでもふ成分補給のお楽しみがやってくる。 無邪気でちんまい陰陽師を励ましながら、夕凪は最後の追い込みに力を出した。 ●仕事後のお楽しみ 「ヒデさん、ちと竜胆を頼まれてくれるかい?」 「え?俺が!?」 夕凪に炎龍を託されて、ヒデは目を白黒させた。 そりゃぁ龍はかっこいい、けど自分が御しきれるものなのか!? 「大丈夫、竜胆は温厚な質だから」 満面の笑みで無茶振りして、夕凪はそそくさともふらの群れに埋もれてゆく。姿を消す直前、夕凪の叫びが聞こえた。 「竜胆!帰ってから倍返しするからねー?」 何だか牧羊犬みたいだったなと、紅桜・彼方(ia0095)は真白な朋友、忍犬の白桜を撫で褒めた。 花見をとは思ったが、ただ寛ぐだけというのも気拙くて、白桜と一緒にお世話班の補助をしていた。もふらまみれになる仲間の為に、白桜にもふら達の誘導をさせていた。吼えるべき所を弁えている白桜は的確にもふら達を取り纏め、効率の良い作業に貢献していた。 桜樹の下、おとなしく己の片膝に顎を乗せ寛ぐ白桜にお疲れ様と労わって、彼方は樹を見上げた。茶を一口啜れば、ほっと安堵の息が出る。 (「やっぱり落ち着くな‥‥」) 植樹班の作業が終わったようだ。春の名残桜を愛でていた開拓者達に、作業を終えた開拓者達が合流し、改めて花見の席が設けられる。 巴渓(ia1334)が広げた大量の弁当箱に、欠食児童達が歓声を上げた。 「あたいたちにも分けて欲しいな♪」 「おう、食え食え!」 子供が遠慮なんかするもんじゃない。渓はパンプティーや梨佳にどっさりご飯をよそってやった。 「わぁ、炊き込みご飯です〜」 桜海老と空豆の色合いが美しい炊き込みご飯を受け取って、梨佳は嬉しそうだ。 「葉桜になりかけている桜というのも、また一興ですね〜♪」 紬はサンドイッチとお茶を勧めて、ほっこり。 土筆や菜の花などを使った季節感溢れるお惣菜の数々、パンプティーは全部取り分けて満足気ににゃははと笑う。 「‥‥え?何?」 口いっぱいに頬張ってもごもごと聞き返したパンプティーに速水セヲ(ib1278)が「太るぞ」と一言。 「何?聞こえない、あたい聞こえなーい」 もぎゅもぎゅ。食べ盛りには禁句のようだ。 渓の朋友、鬼火玉のヒートは泰国風のあんかけにした鯛の唐揚げを美味そうに頬張っている。 「梨佳達やヒートがまだ子供なんでな、子供向けの献立が多いが大人はこっちが肴にもなるんじゃねぇか」 手抜かりなく、渓は独活の味噌和えを万理に出す。もふら相手に呑んでいた万理、すっかり出来上がって上機嫌だ。 「草むらで暖かくてもふもふだわさ〜」 どうやら絡み酒の模様。はいはいといなした彼方は、フキのきんぴらの妙味を堪能中。感情の起伏が緩やかな彼方だけに表情は伺えないが、箸を進めている辺りに感想が伺えよう。 柚李葉が真影と一緒にお茶を淹れている。 白兎の導きで得た清水で入れた桜湯に手鞠寿司、甘味には草餅を。共に力仕事をした統真に勧めると、桜湯をルイが殊の外喜んだ。 「‥‥木に、すぐにならないのはわかってるけど。とーま、私もさくらんぼ、食べたい」 「さくらんぼがあるぞ、ルイ」 桜湯にはサクランボの砂糖漬が入っていた。ルイが湯呑みに顔を近づけると、ふわりと桜花の香りが立ち上る。 「さくらんぼ味の飴玉もどうぞ」 柚李葉が小さな友人に微笑んだ。 頑鉄を労って大きな肉を与えて休憩する羅喉丸。 追われっ放しの吉良や喪越に同情しつつ苦笑して。もふらという朋友は皆あんな風なのだろうか。 「泣く子には勝てぬというが、すごいな。多少頑固であろうと、お前でよかったよ」 いまだ元気に暴れまわるもふらの群れを遠目に眺め、頑鉄の岩の如き肌にもたれかかる。黙って肉を食っている頑鉄は、静かに羅喉丸と寄り添っている。 羅喉丸に菓子を勧める彼方。桜を模した菓子は彼のお手製で、愛らしくこの場にとても相応しいものだ。癒しの一服をいただきながら、開拓者達は暫しの安息に身を休める。 お疲れ様でしたと紗耶香。もふ龍が頭に点心の蒸篭を乗っけて運んでくるのが愛らしい。 「もふ龍さん‥‥美味しそうです」 梨佳、遂に言った。 「もふ龍シュークリームじゃないもふ!」 ぷんすか抗議するもふ龍だが、やはりふわふわもふもふの淡い金色は何とも美味しそうで。 「甘いモンなら飴刀があるぞ、ちゃんと割って、分け合って食えよ!」 至れり尽くせりの渓、幼い子達が楽しそうにしている様子に心和ませていた。 |