【大会】朋友対戦・黄
マスター名:周利 芽乃香
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/05/19 19:21



■オープニング本文

●武闘大会
 天儀最大を誇る武天の都、此隅。
 その地に巨勢王の城はある。
 城の天守閣で巨勢王は臣下の一人と将棋を指していた。
 勝負がほぼ決まると巨勢王は立ち上がって眼下の此隅に目をやる。続いて振り向いた方角を巨勢王は見つめ続けた。
 あまりにも遠く、志体を持つ巨勢王ですら見えるはずもないが、その先には神楽の都が存在する。
 もうすぐ神楽の都で開催される武闘大会は巨勢王が主催したものだ。
 基本はチーム戦。
 ルールは様々に用意されていた。
「殿、参りました」
 配下の者が投了して将棋は巨勢王の勝ちで終わる。
「よい将棋であったぞ。せっかくだ、もうしばらくつき合うがよい。先頃、品評会で銘を授けたあの酒を持って参れ!」
 巨勢王の求めに応じ、侍女が今年一番の天儀酒を運んでくる。
「武芸振興を図るこの度の武闘大会。滞る事なく進んでおるか?」
「様々な仕掛けの用意など万全で御座います」
 巨勢王は配下の者と天儀酒を酌み交わしながら武闘大会についてを話し合う。
「開催は開拓者ギルドを通じて各地で宣伝済み。武闘大会の参加者だけでなく、多くの観客も神楽の都を訪れるでしょう。元よりある商店のみならず、噂を聞きつけて各地から商売人も駆けつける様子。観客が集まれば大会参加者達も発憤してより戦いも盛り上がること必定」
「そうでなければな。各地の旅泰も様々な商材を用意して神楽の都に集まっているようだぞ。何より勇猛果敢な姿が観られるのが楽しみでならん」
 巨勢王は膝を叩き、大いに笑う。
 四月の十五日は巨勢王の誕生日。武闘大会はそれを祝う意味も込められていた。


●朋友対戦
 神楽・開拓者ギルド。
 あなたは壁に貼られた大会要項に目を通していた。

『◆朋友対戦 参加者募集◆
   朋友達の晴れ舞台!
   いつもは街中を連れ歩けない大型朋友、珍しい希少朋友はもちろん、もふらさまも参戦。
   巨勢王の御前で、ぱぁとなぁの雄姿を見せつけよう!』

(「‥‥‥‥」)
 御前試合にも色々あるらしいが、この試合は朋友同士を戦わせるもののようだ。六体でひとつの組を作り、他の参加組と対戦させるという趣向らしい。
 戦うのは朋友、一対一の入れ替え戦。開拓者は指示兼観客だ。
 特定の場所で対戦相手を待ち受けて一戦、此方から出向いて一戦。単に強さを競うだけでなく、朋友達のお披露目的な催しでもある。勝っても負けても、祭りの雰囲気を楽しめるだろう。
 ギルド内を見渡してみた。他にも参加しようと考えている開拓者がいるかもしれぬ。
(「‥‥‥‥」)
 目が合った。
 ギルド内には対戦相手もいるようだが、ひとまずあなたは自分以外の五名の同士を見つけ出したのだった。

●黄『もふら牧場』
 神楽郊外にあるもふら牧場は、すっかり大会仕様になっていた。
 普段もふら達を放し飼いにしている草原は、もふら一匹残っておらず、厩舎に詰められたもふら達が、もふもふもふもふやかましい。
「よぉ、待ってたぜー!」
 厩舎から開拓者達を見つけたヒデが、大きなもふらの向こうから手を振っている。祭りとあって、ヒデ自身も普段より高揚しているようだ。
 大もふらに乗っかるように身を乗り出して、ヒデは開拓者達に告げた。
「場所だけはあっからなー好きに使ってくれよ。場所が決まったら、こいつらを出してやるからさ」
 どうやら、もふら達も観客にするようだ。準備が整い次第知らせてくれと言い残し、彼はもふらの中に消えた。

 今回会場となるもふら牧場は、ただただひたすら広い牧草地帯。平地で癖のない地理的な有利不利は生じないと考えて良いだろう。
 郊外とて周辺に民家はなく、多少大声で騒いでもご近所迷惑にはなりそうにない、安心して朋友達を闘わせる事ができそうだ。障害物についても、厩舎や作業小屋、桜並木を破壊しなければ問題ない。
 対戦試合ではあるが、同時に祭りでもある。観戦者を楽しませる試合が望ましく、如何に勝負とは言え飛空系朋友が大空へ逃げっ放しになるような作戦は無効と判定されるので注意されたし。

 会場を整え、もふら達を厩舎から出した開拓者達は、他組の到着を待ちかまえるのだった――


■参加者一覧
神町・桜(ia0020
10歳・女・巫
風雅 哲心(ia0135
22歳・男・魔
酒々井 統真(ia0893
19歳・男・泰
喪越(ia1670
33歳・男・陰
水津(ia2177
17歳・女・ジ
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ


■リプレイ本文

 青々とした草の海が風に靡いて波を立てる。
 姦しく騒ぐもふら達の視線の先には――開拓者と朋友の絆と意地を賭けた戦いの、舞台。
 草原での六番勝負が、今始まる。

●第一戦:人妖対決〜近付きたいから
 先に動いたのは、ちょっぴり意地っ張りの人妖。
 双方人妖を繰り出して始まった第一試合は、酒々井統真(ia0893)の人妖・ルイが先手を取った。
「とーまみたいに‥‥っ!」
 主の名を、主の戦法をなぞって仕掛ける先制攻撃は、正面からの近接攻撃。一気に相手へと肉薄し、爪を打ち込んだ。対する相手の人妖は、扇を翻し攻撃を受け止める。
「やれば出来るんだ‥‥もんっ!」
 防御されても挫けない。次手の攻撃が相手の袖を引き裂いた。

 まったく、ルイの考えはよくわからない。
(「‥‥戦うのは、ほんとは俺の役目なんだがなぁ」)
 統真は戸惑いつつも、果敢に攻撃を続けるルイを見守り続けていた。
 今回の対戦、統真が気付いた時にはルイが参加登録を済ませていたのだ。ルイを依頼に連れて行く時は援護要員として後方に就かせる事が多いのだが、闘うのだと聞いた際には正直驚いた。
(「‥‥ルイにはルイの、やり方があるんだが」)
 姿勢を低くして素早く立ち回り、霍乱しつつ爪で相手に突きを入れ。近接直接攻撃の手法は、回復スキルを重点的に覚えているルイのそれとはかけ離れていた。
 目の前で繰り広げられている試合、堂々正面からの攻撃は、自身の戦術を連想させる。意地っ張りの人妖が、自分を意識している事は明白だった。

 同じ人妖同士の対戦は長きに渡って繰り広げられた。
「頑張れるって、やれば出来るんだって、見せてあげるから」
 ルイの身体が金色の鼠に変化した。相手が放った攻撃を素早く避けて体勢を立て直す。避けたルイを追うように、相手は猫に変化した。
(「とーまの朋友だもん、私だって闘えるもん‥‥!」)
 攻撃すれば防御され、変化すれば相手も人魂で追う。攻撃し合い追いつ追われつ、同じスキルを持つ人妖同士の対戦は何時終わるとも知れぬ。
 第一線から見応えある試合だと観客は沸いたが、統真はルイの消耗が気に掛かった。
「やる以上は勝ってこいよ、って言ったけどよ‥‥無理すんなよ」
 勝つ以上に、怪我なんかすんじゃねーぞと送り出した統真だから。長引くほどに心配になった。
「ほう、ぱぱさんじゃのう」
 神町・桜(ia0020)がさらりと言ったもので、統真思わずぐ、と詰まる。
 桜は猫又・桜花を頭上に乗っけて、持参した弁当を統真に勧めつつ、相手の人妖も消耗しておるゆえ決するのは直じゃろうと続けた。実際、勝敗が決したのはそれから間もなく――相手方の降参、ルイの粘り勝ちだ!

「私も、やれば出来るんだよ?」
 戻って来たルイが誇らしげに言った。お留守番や回復役以外もできるんだよと。
 統真はそうだなとルイを膝の上に乗せた。乱れた髪を直してやっていると、統真に背を向けたまま、ルイは独り言のように呟いた。
「‥‥とーまと同じやり方は出来ない、けど。でも、後ろにいるばかりじゃなくて、近づきたいんだもん」
 とーまの朋友だから。いつも一緒に、一番に駆け出したいんだもん。

●第二戦:鬼火玉甲龍戦〜焔の力
 体長差1:3。
 鬼火玉と龍の対決は、そのあまりの大きさ違いに誰もが同じ勝敗予想をしたものだ。鬼火玉の主ですら、駄目で元々ぶつかって来いとばかりに朋友を送り出した。
「ぷよちゃん‥‥焔の生き方を示してくるのですよ」
 攻撃と回避に秀でた鬼火玉の名は魔女が焔、相性をぷよと言う。どことなく顔つきが似ている主の名は水津(ia2177)、水神を崇める立場ながら焔に魅せられた焔の巫女だ。
 人語を話せぬ魔女が焔の代わりに、水津がその心境を代弁した。
『魔女が焔‥‥燃え広がり侵略する‥‥たとえまだ弱くとも、その生き方だけは止めさせません!!』
 どっしりと待ち構える甲龍との対戦が始まった!

 魔女が焔の姿が大きく広がってゆく。
 それは焚き火のように、炎のように――自然界の脅威そのままの姿に擬態する様は、魔女が焔が自然を取り込んでいるかのように見える。
 対する甲龍は静かに待ちの構え、防御の高さを生かしたカウンター攻撃を目論んでいるようだ。
「ぷよちゃん、周囲の焔に紛れ込んで、行くのですよ!」
 水津の応援で、魔女が焔が動いた。甲龍へ向けて全力突撃する!
 待っていたとばかりに甲龍が頚を上げた。肉を切らせて骨を断つ、多少の傷は平気だと間合いに入った魔女が焔の攻撃を受けた上で反撃を――失敗した。
 一二手空振りした甲龍は空へと舞い上がったが、魔女が焔が追いついた。地上を侵略するだけが鬼火玉ではない、中空に昇った甲龍へ一撃を叩き込む。
 中空で龍が炎に包まれて見える。鬼火玉がまさかの空中戦を始めて、観客達がざわめいた。
「焔の特性は周囲に燃え広がる事と‥‥実体が無いから切り付けても無駄な事‥‥それと、侵略する時の高い攻撃性です‥‥うちのぷよちゃんはまさにそれのみに特化した存在です‥‥焔の力思い知って下さい‥‥!!」
 勝ち誇る水津の表情は恍惚と得意げだ。回避に優れた魔女が焔が有利のまま試合は進み、結果、魔女が焔の勝利となった。

「早々に番狂わせだなっ!」
 もふら達から身を乗り出して、ヒデが興奮気味に言った。周囲のもふら達も、もふもふ騒がしく勝敗の行方を語っている。
 体長差1:3、防御に劣る鬼火玉。
 それでも「当たらなければどうという事ない」のだ。

●第三戦:土偶ゴーレム甲龍戦〜おぜうさまと草食系?
 ――オホホホホ!
 お嬢様の高笑いが木霊する。
 ピンクのフリルをはためかせ、くるり回すは乙女の日傘。
 ――オホホホホ!
 巻き毛の金髪優雅に揺らし、完璧睫でウインクひとつ。つぶらな青い瞳が愛らし‥‥
 ――オーッホホホホホホホ‥‥げふんげふんっ、カー、ペッ!
「‥‥はしたないところをお見せ致しましたわ。ごめんあそばせ☆」
 少々オヤジの入ったお嬢様、テンション上がり気味の土偶ゴーレム、ジュリエットである。
 毎度テンション高めな登場に、喪越(ia1670)のテンション低めな突っ込みが入った。
「ちゅーか、お前さんが戦えるなんて初耳だぞ」
 枯れ果てた遺跡で眠りに就いていた眠り姫は下僕を「愚物」とぶった切った。お嬢様たるもの、淑女の嗜みは一通り修めているものだ。
「淑女は何時なんどき悪漢に襲われるかわかりませんの。護身術は嗜みのうちですわ」
「お前さんを襲う悪漢がいたら、お目にかかりたいもんd‥‥ぐはっ」
 喪越、お嬢様の護身術を身を以て体感した!
 どうもこの二人、主従とか朋友とかいう間柄ではなさそうだ。完璧に主を下僕扱いしているジュリエット、むき出しになったぶっとい足をドレスで隠して喪越を蔑んだ眼差しで睨んだ。
「ワタクシの華麗な脚技を、その節穴だらけの目に焼き付けると良いのですわ!」
 今の蹴りで節穴一個増えたような気がする。

 さて、お嬢様の対戦相手は甲龍だ。
 相手開拓者の背中に隠れて登場した甲龍は、当然開拓者から身体がはみ出しまくっている訳だが、主から離れたくないとばかりにくっ付いている。
 嗚呼、何と言う朋友愛。
 かたやお嬢様と下僕――足蹴にされ踏みつけにされている喪越である。
「まあ、何て草食系男子」
 対戦相手を一瞥したジュリエットが扇で口元を隠して嘆息した。
 ジュリエットお嬢様のお好みは、勇ましくも優しい白馬の王子様だ。
「‥‥けれど武勇に長けたグッドルッキングガイかもしれませんわね、まずは手合わせしてみませんと」
 フリルドレスに日傘に扇、いそいそとそのままの格好で戦闘に臨もうとするジュリエット。日傘も扇も、勿論ドレスも武器防具ではない。焼き物の身体に馴染んで目立たないが、鉄靴が唯一の武器だ。
「ワタクシの攻撃は脚技、戦いの最中も美しさを忘れない事こそが、貴族の貴族たる所以なのですわ」
「何処の貴族d‥‥ぐへっ」
 お嬢様の鉄靴が唸った!
 がこんと音を立て、踊るように戦いますのとジュリエット。
「決め技は『LOVEインパクト』チャージから踏みつけに続く、華麗な技ですわ!」
「重過ぎる愛になりそうだな、おい‥‥」
 地に突っ伏したまま、へたった喪越は力なく突っ込んだ。

「モコス、運動後のティータイムには『トゲツアン』の苺大福を用意なさい」
 そろそろ苺の時期も終わり、食べ修めになるかもしれないからと対戦中にも指示を出すジュリエットはあくまでマイペースだ。
「へいへいっと。修理用の部品も御用意しておきますYo、おぜう様」
 諦めの境地に入ったか、喪越の反応は素直だ。あら珍しいとお嬢様の突っ込みは容赦ない。
 けれどこれは喪越の表向き。甲龍に向き直ったジュリエットに背を向けて、喪越は、むちぷりぱっつん美女の人妖を求めて恋の旅路に――
「‥‥ぐはっ」
 早々に試合を終えたジュリエットのLOVEインパクトが喪越に降りかかった!

 勝負、甲龍棄権によりジュリエット勝利!
「まあ残念、始まったばかりでしたのに‥‥」
 喪越とジュリエットの遣り取りに、相手方が恐れをなしたとか何とか。

●第四戦:甲龍対駿龍〜華麗なる空中戦
 純白の体躯にジルベリア風の優美な外装。
 風雅哲心(ia0135)の甲龍・極光牙の姿は、人であれば白騎士に例えられようか。否、白馬の王子様が居るならば、極光牙の如き様相をしているかもしれない。
 ジュリエットの熱い視線を浴びながら進み出た、極光牙の対戦相手は駿龍。これならばと、双方の希望により対戦の舞台は再び空へと移動した。

 晴れ渡る空に飛翔する二つの影。
「いい機会だ、思いっきり暴れてこい。しっかりやるんだぞ」
 哲心の呼びかけに、白き影が振り向き応えた。続いて動いた極光牙は、甲龍の印象を覆す積極攻勢で駿龍へと向かった。
「ほぉ‥‥」
 初手で先制を取った極光牙の頭突きが駿龍の腹に入り、対手開拓者が思わず声を漏らした。
 かろうじて墜撃を免れた駿龍。必殺の足蹴が極光牙の背を襲う。
「さすがにやるなぁ。だが、極光牙の攻撃に耐えられるかな?」
 持ち前の頑丈な鱗で耐えた極光牙は、間合いに入るや硬い頭を駿龍に打ち付けた。
 回避重視で反撃の機会を伺う駿龍だが、修練を積み重ねた極光牙の攻撃は一撃ごとに重い。俊敏さに秀でた駿龍とて、完全に攻撃を回避できる訳ではなく、当てられては空で揺らめいた。
「すげーな、落ちて来ないのが不思議なくらいだ」
 空中で吹き飛ばし合う龍達を見て、ヒデが驚きの声を上げた。
 駿龍とてやられっ放しではない。極光牙も対手の蹴りを受けていた。駿龍の蹄に付いた棘が極光牙の背を傷つける。
 しかし、持ち前の頑丈さで耐えつつ反撃の機会を逃さぬ極光牙に、やがて軍配があがった。
 二者、互いに勝敗を悟ると、ゆるゆると地上に降りてくる。双方傷だらけであったが、正々堂々の勝負を終えた極光牙の白い体躯は、さながら騎士の凱旋のようだった。
「よし、よく頑張った。いい戦いぶりだったぞ」
 迎えた哲心も対手達も、闘い終えてすっきりした様子で、互いの健闘を称えあったのだった。

●第五戦:ジライヤ甲龍戦〜蝦蟇と海亀
「いよいよですねっ!」
 お菓子と飲み物を手に、まったり観戦中だったルンルン・パムポップン(ib0234)は、手に残ったクリームたっぷりのスコーンを一口で食べ切って、会場の真ん中へ出た。対するは甲龍だ。
「どんな強敵が来たって、ルンルン忍法とニンジャのステイタス、大ガマに隙はないんだからっ!」
 びしっと甲龍に宣戦布告、巻物を銜えたルンルンは詠唱を始めた。

「ジュゲームジュゲームパムポップン‥‥パックンちゃんGO!」
 ぼむっとジライヤのパックンちゃん召喚。どっしりとした体躯は龍にも劣らぬ巨体だ。ゆるりと視線を動かしたパックンちゃんが対戦相手を見つけた。
「さぁパックンちゃん、大見得切って挨拶です!」
 歌舞伎の荒事役者よろしく、蝦蟇の目見開き、水かきの付いた掌を相手に向けてピタリと睨み動きを止めた。
 巨体の見得は充分に迫力あるものだが、勿論ただの挨拶ではない。
 蛇に睨まれた蛙、蝦蟇に睨まれた甲龍。パックンちゃんの迫力に圧された対手の動きが鈍った。詠唱を続けているルンルンは、その隙を逃さない。
「パックンちゃん、プッシュプッシュプッシュ!」
 パックンちゃんの売りは電光石火の連続攻撃、反応の鈍っている対手へ向けて、一気に押しの張り手を繰り出した。何処か海亀に似た雰囲気を持っている甲龍は、防御に専念するほかない。
 その様は――
「亀が甲羅に入ったみたいだな‥‥」
 ヒデがぽつりと突っ込んだ。
 実によく似ていた。
 丸まった硬質化の姿勢だとか、甲龍でありながら一向に飛ぼうとしない所とか。
 非常に愛らしかった。試合でなければ、もふら牧場の片隅で甲羅干ししていて欲しい長閑さだ。
 張り手のパックンちゃんは甲羅に向けて自己鍛錬といった様子――と、甲羅が動いた。
 ひたすら攻撃を耐えていた甲龍、漸く初見の睨みから解放されて反撃に出る。丸まった状態で、ごろりとパックンちゃんへ向けて転がった。
「甲龍なのに飛ばないんだな‥‥」
 海亀ですから。
 巨大な朋友同士の対戦は、蝦蟇を押し潰そうとする甲龍と、大玉を押し戻そうと踏ん張る蝦蟇の力比べになった。
「パックンちゃんがんばれー、朋友の星を目指すんですよっ!」
 詠唱を続けるルンルンの応援に力を得て、パックンちゃんが張り手で押し返した!
 ぐいぐい押し合う力比べの結果はパックンちゃんの勝利だったが、どちらも所作の個性的な朋友達で、観客は大いに湧いたのだった。

●最終戦:猫又甲龍戦〜ものぐさ対決
 いよいよ出番がやって来た。
「ふ、今までの依頼での成果を見せるのじゃ!頑張るのじゃぞ、桜花!」
 桜はやる気満々で、頭上の桜花に発破を掛けた‥‥が。
「何故に我がこんなことせねばならぬのにゃ。面倒なのにゃー‥‥」
 当の桜花は、かなり面倒臭がっている様子で、ふわぁと大あくび。試合に一切の興味を見せず、観戦中もずっと眠っていた桜花だ。気にする様子もなく、桜は桜花を送り出した。
「トリじゃぞ、桜花の試合で最後じゃ、ちゃんとやるのじゃぞ!」
「やれやれ、面倒だが負けるのもしゃくにゃし頑張るにゃ」
 酷く面倒くさそうに、桜花は前へ出た。
 対するは甲龍、龍族の中では温厚な気質が多いと言われる甲龍だが、温厚通り越して、こちらも何やら――
「何だ?やる気ない朋友対決か!?」
 一般人のヒデですらそう見えたのだから、そうなのだろう。
 健康の秘訣は睡眠、勇気とは戦わない事――温厚の極みと言える気質を持った甲龍であった。

 両者、とりあえず向かい合う。
 見詰め合っているうちに、ふわぁ、と生欠伸。
 あまりのやる気なさに、対手の開拓者が「挨拶はしてくださいねー」言っている言葉も聴いているのやら定かではなく。
「負けるのはしゃくにゃが、面倒なのにゃ‥‥」
 戦意のない相手に積極的攻撃を仕掛ける気にもならず、桜花は様子を見ている。
 そのうち、対手の開拓者が言った一言で試合は終了した。
「怪我しないように、怖くなったら逃げてくださいねー」
 心得たとばかりに、甲龍はさっさと戦場を降りたのだ。相変わらずだるそうな様子で。
 戦闘放棄につき‥‥勝者、桜花!
「終わったのにゃー?にゃっ、抱きしめないでいいにゃー!?」
 お疲れ様と桜に労いの抱きゅされた桜花、桜の腕から逃れようとじたばたじたばた。
 ――そんな訳で、草原六試合終了と相成った。


 試合の終了後は、いつものもふら牧場だ。
 もふら以外の種をあまり見る機会がない牧場のもふら達、間近で見た戦闘に興奮気味で、何より開拓者と一対一の主従関係を築いていることが羨ましいらしく、参戦した朋友達を囲んで、いつまでももふもふもふもふ騒がしかった。