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■オープニング本文 外は雨、ここは厩舎。 むわっとする程の、獣特有の湿気を帯びた熱気を放っているのは牧場のもふら達。 「あめ、つまんないもふ」 そんな訳で、今日も牧場のもふら達はもふもふもふもふやかましい―― ●あした天気になぁれ 降ったり止んだり、雨天続きのある日の神楽・開拓者ギルド。 「もふらの毛で、てるてるぼうず作らねーか?」 やって来たヒデの誘いは、今日も唐突だった。 早い話が、牧場のもふら達が退屈を持て余しているのだそうだ。 最近の雨続きで外へ出してもらえないもふら達。 食いしん坊で怠け者のもふらだが、遊ぶのは大好きだ。晴れた草原で思う存分ごろんごろんできないのが相当ストレスになっているようで、食餌の量も減って‥‥はいないようだが、とにかく元気がない。同じ場所に居続けて、身体に湿気も籠もっているもので、毛繕いがてら、てるてる坊主でも作らないかと言う訳だ。 「あいつらに毛を分けてもらって、てるてる坊主の頭に詰めるんだ」 なーに毛はすぐに伸びて来るから心配ないとヒデ。通常の生物とは違い、もふらの育毛は非常識に早いから、多少分けてもらったとて平気なのだとか。 いつもみたいに朋友を伸び伸び遊ばせてやれはしないけれど、偶には室内でまったりも悪くないだろう。 牧場の皆には世話名目で依頼を出す許可を貰ったからと報酬を提示するヒデは、毎度おまけで同行する梨佳(iz0052)に、もふらに埋もれて遭難しないようになと笑った。 |
■参加者一覧 / 雪ノ下・悪食丸(ia0074) / 星鈴(ia0087) / 葛葉・アキラ(ia0255) / 芦屋 璃凛(ia0303) / 橘 琉璃(ia0472) / 玖堂 真影(ia0490) / 玖堂 柚李葉(ia0859) / 暁 露蝶(ia1020) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 巴 渓(ia1334) / 喪越(ia1670) / 海神・閃(ia5305) / ペケ(ia5365) / スワンレイク(ia5416) / 設楽 万理(ia5443) / からす(ia6525) / ニノン(ia9578) / アグネス・ユーリ(ib0058) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / 明王院 未楡(ib0349) / 燕 一華(ib0718) / 琉宇(ib1119) / ◆華桜.(ib2734) / ひつじもこもこ(ib2761) / 紫廼(ib2762) |
■リプレイ本文 ●おうちで過ごす日 雨の日のもふら牧場は、少し寂しいような気がした。 広い敷地内に、もふら達が出ていないからかもしれない。雨降る中、神楽郊外へやって来た開拓者達は、もふら達が雨宿りしている厩舎へと向かった。 「かいたくしゃさん、きたもふ〜」 もふもふ賑やかに出迎えた牧場のもふら達は、相変わらず暢気そうだったけれど、いつもより動きが鈍いような気がする。近付くと、湿気たような匂いを含んでいた。 「こいつらにストレスだぁ?‥‥精霊力の塊の癖に、どうも俗っぽい連中だな」 寄ってきたもふらの顔をまじまじ見て、巴渓(ia1334)は肩をすくめた。傍らには鬼火玉のヒート、渓の真似をしているのか単に無邪気なだけなのか、渓と一緒にもふらの顔を凝視している‥‥と、何か楽しかったのか、くるりとその場で回ってみせた。 「もふらさまの牧場ってのが、あったんだ♪」 初めて知ったという雪ノ下・悪食丸(ia0074)は、厩舎にひしめく毛玉の群れにびっくり。普段ならここまで多くのもふらさまと一度にお目にかかれたりはしないから、ちょっと感動していたりもして。 「これは俺のだよ!」 腰に下げた弁当の包みに気付いた食いしんぼもふらを牽制しながら、毛繕いの準備に取り掛かった。 「じゃ、ヒート頼むぜ」 渓の指示に心得た様子で、ヒートがもふら達の間を跳ねてゆく。楽しげに踊るような仕草に、もふら達の視線が向いた。遊び事や楽しい事が大好きなもふら達が、うきうきそわそわし始めた。 すると厩舎に雨音を楽にしたような笛の音が。笛の吹き手は葛葉・アキラ(ia0255)と佐伯柚李葉(ia0859)だ。軽快な音楽に、白毛玉の上を跳ねてゆく鬼火玉が音符のようにも見えてくる。 楽しげな厩舎の一日、さて始めるかと渓はブラシと刈り鋏を手に取った。 「もふらのみなさん、コチラにきてくださ〜い」 「「もふ〜?」」 ペケ(ia5365)が片手を上げると、もふら達がわらわらと寄って来た。もう片方に持った鋏を示して、お願いする。 「てるてるぼうず用に毛を少し分けてくださいねー」 「「いーもふ〜」」 退屈な雨の日にやってきた沢山のお客さんと楽しい遊び、もふら達は機嫌が良かった。快く毛を分けてくれる。 ちょきちょき。 毛刈りは順調だった。 (「モフペッティをお留守番させておいて良かった‥‥」) 毛を刈る云々を、ペケのもふらモフペッティが聞きつけると事態はややこしくなるのだ‥‥この場に居たらどうなっていたやら。 「さぁペケ、僕にヒーロー刈りを施すもふ!」 何か聞こえたような気がしたけれど、きっと空耳だろう。 やだなぁ、心配のし過ぎで幻聴だなんて。あはは。 「ペケ、ヒーロー刈りもふ!!」 やけにはっきりした幻聴だこと。 おまけに目の前に現れたもふらは、モフペッティにそっくり‥‥だ‥‥? 「‥‥‥モ、モフペッティ、なんでいるのよ?」 「毛刈りあるところ、ヒーローがいないはずがないもふ!」 くふっ。 ペケの束の間の平和は崩れ去った。 説明しよう!ヒーロー刈りとは筋状に毛を残して刈る、非常に面倒な刈り方である‥‥という訳で、ペケはモフペッティに(厭々ながら)ヒーロー刈りを施した。 「これでこそ超精霊チェルノブモフもふ!」 「すごいもふ!かっこいいもふー!!」 もふらの感性はよくわからない――ペケの所には、毛刈りを待つ長い行列ができたとか。 ヒーロー刈りのおかげで、もふらの毛は順調に集まっている。そろそろてるてるぼうずが作れるだろうか。 生身のもふらにもっふり埋もれていたアグネス・ユーリ(ib0058)が、分けてもらったもふ毛を両手に乗せて頬ずりをした――嗚呼そんな事をしたら。 「‥‥はっくしゅッ」 盛大に白い毛が厩舎を舞った。大丈夫ですか〜と暢気な口調で声掛けた梨佳の鼻もヒクヒクしているようだ‥‥あ、くしゃみした。 二人して鼻の頭をくしくししながら、てるてるぼうずを作り始める。 楽しげな音に耳澄ませ、ご機嫌なころころもふらさまをのほほんと見つめ、アグネスは口ずさむ。 「てるてるもふら〜てるもふら あーした天気にしておくれ♪」 ちょんちょんと描いた顔は、厩舎の毛玉達にどこか似ている。梨佳が不器用に描いたぐるぐるお目々のてるてるもふらは女の子だろうか。 雨が上がった後のお日様が好きだとアグネスは梨佳に笑いかけた。世界がきらきらと輝いていて、光に愛されているような気がするのだ、と。 つん、とつついて生まれたばかりのてるてるもふらに願いを掛けて、夏が楽しみだと笑う。 初めて迎える天儀の夏はどんなだろう。期待するアグネスに、梨佳は「きっと楽しいです〜」そう答えたものだった。 ●てるてるもふら 皆それぞれに工夫を凝らしたてるてるぼうずを製作している。 例えば、ニノン・サジュマン(ia9578)のてるてるぼうずは、衣装を纏っているかのような鮮やかさ。一匹のもふらがニノンに近付いて来て言った。 「わぁ、可愛いてるてるぼうずさんですね〜」 「どれ、おぬしも毛を分けてくれぬかの‥‥と、すまぬ、梨佳殿であったか」 もふらさまの着ぐるみを着込んで、厩舎をちょろちょろしている梨佳だった。失礼した、とお詫びに兎柄のてるてるぼうずをプレゼント。 ニノンが持ち込んだのは着なくなった衣服の端切れや装飾だ。丁寧に解いて湯のしした生地は兎柄の他にも花柄や格子柄、十字絣に麻の葉模様など様々、カードに巻き取ってあるのはジルベリア産のドレスから取ったレースだろうか。色とりどりで麗しい小物達は見ているだけでも娘心がときめくものだ。 「これで華やかなてるてる坊主を作れば、雨の日も少しは楽しいじゃろ」 「可愛いです〜♪」 裾にレースをあしらわれ、愛らしく作り上げられたてるてるぼうずを大喜びで抱き締めた梨佳は、仕草までもふらの如く、くんくんと鼻を動かした。 「あれ‥‥?いい匂いがするですよ‥‥?」 「おお、中に入れたもふらの毛に虫が食うといかんので、虫除けにラベンダーやローズマリーの茶葉を毛と一緒に詰めてみた」 ニノンの『お婆ちゃんの知恵袋』。感心して、箪笥に入れてもいいですかなどと尋ねる梨佳である。 いまだえぐえぐ泣いている相方を宥めつつ、芦屋璃凛(ia0303)は感慨深く呟いた。 「子供の頃よく作ったよね。てるてる坊主をさ‥‥懐かしいな」 「‥‥ぅ‥‥うぅ‥‥もふもふは‥‥う、うちがもふもふを‥‥」 もふもふの毛を刈るという重罪を犯してしまった(!)星鈴(ia0087)は罪の意識に打ちひしがれている。 「泣かないで伸びるらしいから、大丈夫だってば」 「‥‥ほんまに?‥‥もふもふ、部分ハゲのまんまやったりせーへん‥‥?」 涙目で訴える星鈴に、璃凛は「今度もふらさまの毛について調べてみようか」などと言いだした。どうやら陰陽師としての探究心に火が付いたようなのだが――傍にいた黒猫がフンと鼻を鳴らした。璃凛の猫又、冥夜である。 「バッカじゃないの」 「ひっどいなーそれじゃ猫又の毛について‥‥痛っ、冗談だってば!」 星鈴は、冥夜に引っかかれた璃凛の手にそっと手を添えた。 仲睦まじい二人の様子を眺めて、控えめに近くで作業をしていた琥龍蒼羅(ib0214)は、もふらや同行者に分けて貰った材料で小さめのてるてるぼうずを作ろうと考えていた。 もふらと実際に接するのは初めての事で、どう扱って良いものかよくわからなかったのだが、案外適当でも大丈夫な生物のようだ。 毛刈りの合間に作ったてるてるぼうずは後で星鈴に渡すつもりだ。二人の様子を眺めて、気付かれないようにこっそりと、蒼羅は小さめのてるてるぼうずを仕上げた。 小さきものを『ちま』と呼ぶ開拓者は多い。 暁露蝶(ia1020)が作っているてるてるぼうずも『ちま』の部類だ。 「お話を聞いて、あらかじめ型紙を作ってきました☆」 取り出したのは――何やら色んなパーツが混じっている。露蝶もまた、てるてるもふらを作ろうと準備してきた一人だ。 慣れた手つきで布の裁断を始めた露蝶、随分と数が多い。 「折角ですから、七色作って虹みたいに並べて吊るそうかと♪」 なるほど、晴れを願い、雨上がりの虹に祈る――という訳だ。 琉宇(ib1119)が6つのてるてるぼうずに鈴を付けている。 「本当は、それぞれ違う音にしたかったんだけどね、あはは」 特注するには技術的にも期間的にも予算的にも難しかったから、今回は万商店で普通の鈴を買ってきた。せめて一番綺麗な音色を選んで、明王院未楡(ib0349)に一つ売った。 未楡は『ちま』のてるてるもふらに鈴を付けて、風の通り道に吊るした。ちりりと愛らしい音が厩舎に清涼を呼ぶ。 (「編みぐるみのもふらさまも可愛らしいでしょうね‥‥」) もふもふとした毛を掌で弄びながら、作り方に思案を巡らせる。今日は道具が足りないけれど、毛を紡げば糸にできるし、糸を持ち込めば毛は綿にできる。 「真夢紀さんは、てるてるぼうずを作らないのですか?」 未楡が、さっきからもふらの毛を刈ってばかりの礼野真夢紀(ia1144)に声を掛けた。せっせと毛刈りに専念していた真夢紀は、顔を上げると当然のように答えた。 「え?だってこの時期の雨は重要ですもの」 だから、てるてるぼうずは作らないのだと答える娘の友人の妹君に、未楡は少々戸惑い気味だ。真夢紀は真夢紀で考えがあるようで、もふらの毛を梳きながらこんな事を言っている。 「この時期に雨が少ないと、稲の成長に宜しくないんです。お米が出来なかったらとってもとっても困りますの」 梅雨の時期も作物の生育には必要な事。 幼い頃より雨の重要性を教え込まれて育った真夢紀は、もふら達にこう言って宥めていたのだった。 「ちょっとだけ、我慢して下さいね。秋に美味しいお米を食べる為ですから」 いい子にしてたら、おやつを分けてあげましょう。 今日のおやつは水饅頭。巫女として成長を続けている真夢紀が氷で冷やしていた初夏らしい一品だ。 皆そろそろ疲れてきたらしく、誰からともなく小休止に入り始めた。 ●ひとやすみ もふら達に合わせて舞を交えつつ楽を合わせていたアキラが、口元から笛を離した。オカリナを構えていた柚李葉が休憩しましょうかと微笑むと、小さく頷いたアキラは楽しかったと礼を言った。 「柚李葉ちゃんの笛の音、優しくてエエな〜」 また合わせてなと約束して演奏はおしまい。あとは鈴付きてるてるぼうずがちりちり合唱中。 「あ、柚李葉だ!」 膝にオカリナを置いた柚李葉に、小さな塊が突っ込んできた。玖堂真影(ia0490)の人妖・泉理だ。 「真影さん!泉理さんもこんにちは」 小さな泉理を両手で受け止めて、抱き上げた柚李葉は「お久しぶり」と撫でた。満足そうな泉理の感覚では、柚李葉は主の義妹になる予定の人物である。 「真影さんはもう作りましたか?」 「ううん、これから。肉まん型や饅頭型なんてどうかしらね」 差し入れの蜂蜜パンを手渡して、真影は見目楽しい形にしたいのだと語る。パンの中から顔を出した干し無花果の甘さに顔綻ばせ、柚李葉は休憩後は一緒にどうですかと真影を、もふら遊戯に誘った。 「もふらさま、もっふりゆらゆら踊ってくれると嬉しいんですけど‥‥」 「じゃあ田楽ベースの体操を教えようかな。泉理、もふらさまに食べられないように気をつけなさいね?」 柚李葉の膝上でパンを齧っている泉理に、真影は悪戯っぽく言った。 今日もひとりじめなの。 橘琉璃(ia0472)と一緒に甘露梅の寒天包みをいただいている猫又の紅雪。もふら牧場に来るのは何度目か‥‥いつも此処に来る時は琉璃をひとりじめできる。 「皆さん、お疲れ様でした。これで、良い天気が続くと良いですね」 琉璃の毛繕いは最高に気持ち良くて紅雪も大好きだ。もふらの毛を刈るのではなく梳いて抜けた毛を使って作った琉璃のてるてるぼうずには優しさが一杯詰まっている。 「凄い抜け毛だったの‥‥でもふわふわなの」 すっかり仲良くなったもふら達が寄り合う間で、紅雪は丸くなった。 さて、毎度おなじみ、からす(ia6525)のお茶席では―― 「よし」 人妖の琴音が宙吊りになっていた。琴音には白布が巻きつけられており、縄で下げられている‥‥つまり生体てるてるぼうずだ。 「からす、これじゃ動けない」 「ああ、これでどうかな」 腕が出るように穴を開けてやる。ただし相変わらず宙吊りのままだ。琴音もこれで良いらしい。 「さて、お茶はいかがかな」 いつものように茶を振る舞いつつ、からすは今日のお話を始めた。 まずは宙吊りの琴音に視線を向け「てるてるぼうず」と一言。実物があるので非常にわかりやすい。もふら達はおとなしく耳を傾けている。 「てるてる坊主とは紙であり神なのだ」 紙であり神とは如何に。いきなり難しい話が始まった。 もふら達には事の難易が理解できていないようで、まだ静かに聞いている。もふもふ暴動が起こる前に、からすが補足した。 「もふらみたいな身近な神だよ」 「『我が祈りよ天に届き給えー』」 からすの後ろで、皆に背中を向けた琴音は両腕を挙げて祈りを捧げている。今の琴音は、てるてるぼうず神である。 神は、雨止み空晴れ渡れと祈っているのだが―― 「この神、願い叶わぬなら首を切られても仕方ないという、潔い神である」 からす、いきなり怖い事を言い出した。 もふ‥‥もふ‥‥もふら達の間にざわめきが走る。祈りは天に届くのだろうか。 ――と、琴音がだらりと腕を垂らした。 「『もはやこれまで‥‥』」 「もふーッ!!」 熱心に見ていた一部から悲痛な声が上がった。もふもふ騒がしくなってきたのを制して、からすは話を続ける。 「願いが叶ったら、顔を描きいれ、神酒をあげて清め、金の鈴を付けて川に流す風習がある」 それまで背を向けていた琴音が、皆の方を向いた。満願成就の笑顔‥‥ではなくて、ごく普通のいつもの琴音である。 急須の茶を杯に入れて、からすは宙吊りの神に差し出した。 「命を賭けた坊主へのご褒美だね」 「『お酒旨い旨い』」 喜んで呑み干す演技のてるてるぼうず。 ところが、てるてるぼうずに願いを掛けたなら、約束は守らなくてはならないのだ。 「もし此方が約束を破れば――明後日はその首吊されちゃうかもね」 「『呪ってやるぅぅぅ』」 首吊りの呪いだ!もふら達は大騒ぎ!狭い厩舎内であっちこっちもふもふごちんと逃げ惑っている。 「怖かったかな、私の話は。さあ菓子は如何‥‥」 おやおや、少し怖がらせ過ぎたかな。 肩をすくめて、からすはもふら達が落ち着くのを待ったのだった。 ●おまじない てるてるぼうず作成内職の募集会場は此処ですか。 ギルドの仕事だし報酬はあるし、ある意味間違っちゃいないかもしれないが、喪越(ia1670)が想像していた内職風景とは程遠い光景が其処にあった。 「もふらさまの退屈を紛らせてやればいいのか‥‥なら、ちょいと遊んでみるかい?」 フーテンの喪越さん、懐から符ならぬ花札を取り出した。手品のように指の間からサイコロを生み出して見せて、釣れたもふらを相手に何始めようとしてる。 「さあ、張った張ったぁ!‥‥って、もふらさまは元々オケラか」 残念ながら元手がなかった。 被毛を抵当に入れようかなどと冗談言いつつ毛を刈ってゆく。手に溜まった毛をまじまじと見て、喪越は陰陽師らしい事を独りごちた。 「毛を混ぜ込むってぇのは呪術の基本みてぇなもんだけど、それだけじゃ何か芸が無ぇな」 「それなら良いアイディアがありますわ☆」 いきなり生えて出るお嬢様。もふらの群れから競り上がって来た雨後の筍ならぬ金髪ピンクの正体は、喪越の土偶ゴーレム・ジュリエットだ。 ジュリエットお嬢様、下僕に向かって至極当然とばかりに言い放った。 「こういった儀式には生贄ですわ。人形の代わりに人間を逆さ吊りにするのです♪」 人間ってアナタ。人間逆さ吊りになんてしたら血が昇ってしまうではないか。そもそも、お嬢様は土偶だし周囲はもふらだらけで人間なんて‥‥ 「え゛まさk‥‥」 喪越の予想は全て語られる前に封じられてしまったとか――南無。 予想以上に多く分けて貰った毛を使って、偉大な計画が実行されようとしていた。 希代のてるてるぼうず好き、燕一華(ib0718)が作っているのは、巨大てるてるぼうずだ。 ただ毛を詰めただけでは頭の形が崩れてしまうから、竹の板で骨組を作って形を整える辺り、並々ならぬ愛情が伺える。頭だけがしっかりしていて胴はぺしゃんこというのは寂しいと、胴体部分にも骨子を入れるのを忘れない。 「一華ちゃん、こんだけ毛ェ有ればイケる?」 「アキラ姉ぇ、ありがとですっ♪」 もふら達から毛を分けてもらって来たアキラに礼を言って、一華は頭部分に毛を詰め始めた。頭が凹まないように、でも詰めすぎて逆さにならないように、重さの加減も調整して、大きな大きなてるてるぼうずを作り上げてゆく。 いつも一緒のてるてるぼうずが、作業工程を見守っている。何故か楽しそうな表情に見える相棒と見比べた後で、一華は巨大てるてるぼうずの顔を、もふらさまに似せる事にした。最後に首周りに鈴を付ければ完成だ。 「てるてる坊主っておまじないでもあるんですよっ」 「おまじないって、晴れのやろ?」 それもあるんですけど、と一華。 てるてるぼうずを吊るすのは願掛けのおまじない。叶ったら笑顔に、叶わなければ泣き顔を描くのだと言う。 だから、と続いたのは、前向きな一華らしい言葉だった。 「沢山笑顔が並ぶように、頑張って願いを叶えようって気にさせてくれるんですよっ♪」 願いを叶える為に頑張る。 超大作を厩舎の入口に吊るした一華は、晴れを思わせる朗らかな笑顔でそう言った。 お外で遊ぶ事のできないもふらさまに捧げる愛の形。 「ふふ。我ながらそっくりにできあがりましたわ!」 情熱の全てを注ぎ込んだ、スワンレイク(ia5416)渾身の作品が完成した! かわいいもしゃ毛も、くりくりおめめも、もふもふしっぽも、みんなみんな完全再現だ! 一針一針に、もふらさまへの愛情と、晴れへの祈念を込めて作り上げたスワンレイクのてるてるもふらは、どこか牧場のもふらに似ていた。 「つぎ、ぼくもふ」 モデル志望のもふら達に囲まれて、至福の一時を過ごしている。 設楽万理(ia5443)は、もふらの毛繕いをしながら、とりとめない事を考える。 (「もふらさまって精霊力的な存在のハズよね‥‥何故刈った毛は利用できるのかしら?」) 誰もが一度は考える、もふらさまの謎。 雨の日の単調な作業で、いつになく思索に耽りたい気分だった万理、難しい顔して目の前の毛動物の考察を始めた。 暫くして飽きた万理が作ったてるてるぼうずは、誰もが一度は描いた事のある『へのへのもへじ』の顔をしていた。 湿気を含んだもふらの毛は、いつもより重くしっとりとした手触りに思える。 海神・閃(ia5305)が、優しく話しかけながら毛を梳いてやると、もふらは気持ち良さそうに目を細めた。 「雨ばかりで、もふらくん達も大変だね‥‥」 「もふ〜♪‥‥ここかゆいもふ」 自分から体を寄せて、念入りに梳いて欲しい部分を示してくる。意外と甘えんぼさんなもふらさまと話をしながら、閃はねだられるままに先日向かった冒険の話をして聞かせ、丁寧にブラッシングしてやる。 柚李葉達の笛に、琉宇達の鈴の音が加わって、厩舎は爽やかな音が広がっていた。もふらに毛を分けて貰う箇所を尋ねて、閃は刈り鋏を毛に入れた。 「ありがとう、これでてるてるぼうずを作らせてもらうよ。次は晴れた日に会えるといいね」 だって、やっぱりもふらくん達にはお日様が似合うと思うもの。 閃は少し短くなったもふらの被毛を、優しく撫でた。 |