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■オープニング本文 日和坊主を吊るしたら、明日は雨が止むだろか―― ●てるてるぼうず 陽射しはあるのに雨降りの、ある日の神楽・開拓者ギルド。 雨、止むといいですねーなどと話しながら、梨佳(iz0052)が入口にてるてるぼうずを吊り下げていた。先日もふら牧場で作って来たてるてるぼうずの頭には、もふらさまの毛が使われており、触り心地はもふもふと何処か長閑で愛らしい。 「梨佳の故郷では顔を描くんだな」 見ていた職員の意外な言葉に、それが普通だと思っていた梨佳は驚いて言った。 「顔、描かないんですかぁ?」 「俺の故郷じゃ描かないな、のっぺらぼうでぶら下げる。雨降らしたい時に顔描くんだ」 へえ、と梨佳。てるてるぼうずも地域によって色々あるようだ。 あたしの里では雨乞いだと逆さに吊るしますね‥‥と言い掛けて、慌てて吊り下げたてるてるぼうずがひっくり返らないよう調整する。よし、これで大丈夫。 通りかかった別の職員が、目を細めて言った。 「懐かしいな、私は子供の頃うっかり髪を描いてしまったもんだ」 「それじゃ坊主じゃないじゃないですかー」 あははと笑う雨空の下、てるてるぼうずが皆を見守っている。 |
■参加者一覧 / 鈴梅雛(ia0116) / 井伊 貴政(ia0213) / 玖堂 柚李葉(ia0859) / 玖堂 羽郁(ia0862) / 鬼啼里 鎮璃(ia0871) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 巴 渓(ia1334) / 劉 厳靖(ia2423) / 瀬崎 静乃(ia4468) / 倉城 紬(ia5229) / からす(ia6525) / リエット・ネーヴ(ia8814) / 尾花 紫乃(ia9951) / フラウ・ノート(ib0009) / ザザ・デュブルデュー(ib0034) / エルディン・バウアー(ib0066) / 燕 一華(ib0718) / 琉宇(ib1119) / モハメド・アルハムディ(ib1210) / 蓮 神音(ib2662) / 長谷川 江蓮(ib2970) / 岡崎 朋也(ib2989) / 由宇希(ib3006) / きあ(ib3019) |
■リプレイ本文 ●てるてるのれん 雨の日は人の入りも少ないような気がする。 入口に揺れるてるてるぼうずを眺めて、梨佳はぼーっと来客を待っていた。やがて面識ある人物が近付いて来るのを認めて、盛大に手を振った。 「んー、それにしても何だか不思議なお天気ですよねっ。狐さんがお嫁に行くんでしょうかっ?」 三度笠に相棒のてるてるぼうずを従えてやって来た燕一華(ib0718)は、大事そうに抱えていた包みを梨佳に渡すと、にこぱと笑った。 「迷い猫さん、無事に見つけてお家にお連れしてきましたっ」 「良かった〜一華さん、ありがとうです!」 どうやら梨佳が受付を通さない使い走りに開拓者を頼ったようだ。包みの中身は猫の飼い主からのお礼の煎餅。今お茶を淹れますよーと包みを抱えたまま奥へ引っ込もうとした梨佳へ、用事があるのだと一華は言った。 「ボクは猫さんちに戻ります。てるてるぼうずを作る約束をしてきたので、失礼しますねっ」 晴れたお日様のような笑顔を残し、一華は再び雨の中へと消えて行く。入れ違いに、ピンクの傘がギルドにやって来た。同色の外套を羽織った小さな開拓者は入口で雨雫を丁寧に落とすと、求人募集を確認に向かう。 一通り眺めた後、入口に下がっているてるてるぼうずを見つけた鈴梅雛(ia0116)は、梨佳に近付いて来て言った。 「てるてる坊主、ひいなも作ってみたいです」 「いいですよ〜えへへ、材料はたっくさんあるんです〜」 てるてるぼうずを作っていると、近付いて来た人影が挙手して言った。 「‥‥僕も手伝うです‥‥」 声の主は瀬崎静乃(ia4468)だ。三人して黙々とてるてるぼうずを作り始めた。 もくもくせっせと手を動かす雛。 「鈴生りにして、てるてる暖簾に」 「なら沢山作って丈夫な糸で繋ぐのがいいね」 静乃は請合うと、完成したてるてるぼうずを空き箱に一時保存。ギルドの仕事に戻った梨佳の分まで黙々かつ丁寧にてるてるぼうずを作ってゆく。 やがて充分な量のてるてるぼうずを作った二人は、次の準備を。静乃の提案で糸は3本を縒り合わせて充分な太さと強度を作り、落ちないようにしっかりと、てるてるぼうずを繋いだ。 「‥‥よし」 暖簾状態になったてるてるぼうず、糸のほつれがないかを確認し終えた静乃は満足気に頷くと、出された煎餅を茶請けにお茶を啜る。 入口に吊られたてるてる暖簾を見上げて、雛は次の構想開始だ。 「何処かから大きな布を調達してきて、巨大なてるてる坊主も作れたら、楽しそうです」 抱っこできるくらい大きなてるてるぼうずの効果の程は如何に。 静かに茶を啜る静乃の隣で煎餅を齧りながら、雛は晴れの日に思いを馳せる。 「雨も嫌いではないですが、ひいなはやっぱり、晴れの方が好きです」 明日は晴れますように。そうてるてる暖簾に祈りを捧げ、雛は湯呑みを手に取った。 普段なら手弁当やら差し入れやらで賑わう昼時も、今日は人が少なく静かだ。 昼を少し回った頃、ギルドを訪れたザザ・デュブルデュー(ib0034)は、新規依頼の確認と交易の情報収集を済ませて――入口の異様な光景に気がついた。 「おや‥‥なんだねこれは?」 偶々傍にいた梨佳に尋ねたところ、『てるてるぼうず』と言うらしい。 否、正確にはこんな鈴生り暖簾状態ではないのだが。ザザはこういうものだと信じてしまったようだ。 「晴を祈る人形?ふうむ、で、見事に晴れたらご褒美に何か捧げたりはしないのかい?」 「あ、そんな風習の土地があるって聞いた事ありますよ〜」 その土地でもやはり暖簾ではないのだが、その辺は訂正しない。勧められるまま、ザザはてるてるぼうずを作り始めた。 少し小雨になってきたようだ。 霧雨に変化した中を、フラウ・ノート(ib0009)が小走りにやってきた。何かを大切そうに抱えている。 「あのっ、この仔、助けて欲しいのっ」 胸の内に抱いていたのは生まれて数ヶ月辺りの仔猫、どうやら親元を離れて動き回っているうちに怪我をしてしまったらしい。 フラウの説明を聞いた梨佳は、慌てて奥に走ると救急箱と一緒に職員を連れて来た。 「じっとしてな‥‥あァ、こりゃ骨は大丈夫そうだな」 良かった、大きな怪我ではないようだ。仔猫の具合を診て応急処置を施す。 安心したら急に周りが見えてきた。 「ね、これ何?」 てるてるぼうずという名を初めて聞いたフラウ、ジルベリアの彼女が生まれ育った辺りではなかった風習だとの事で興味津々だ。 「天儀って、そーゆー風習あるのね。面白い♪ あたしも手伝っていい?」 難しくはないから一緒にどうですかと誘われて、作製隊に加わった。七つばかり顔なし坊主を作って、ザザが顔を描き入れているのに気付く。 「ふむ。顔も描いていいのね‥‥‥‥おし!これでどーよ!」 「わぁ、全部お顔が違うんですね〜」 フラウが描いたのは幼馴染の顔。沢山作ったてるてるぼうずのそれぞれに、違う幼馴染達の顔を思い出しつつ描いたフラウは、満足気に笑った。 遠くジルベリアの地に思いを馳せて、フラウはてるてるぼうず達を故郷に視線を向けるように吊るしたのだった。 ●誰かと過ごす雨の日は 「梨佳ちゃん、こんにちは。えっと‥‥」 ちょっぴり口篭った佐伯柚李葉(ia0859)は、はにかんで「羽郁さん来て無いかな?」と尋ねた。 まだお見かけしてないですよと梨佳。柚李葉は、買い物に出たという玖堂羽郁(ia0862)がギルドに寄るかもしれないと、此処を訪れたようだ。 「会えますように」 入口に鈴生りに下がっているてるてるぼうず達に手を合わす。ご利益があったのかは定かではないが、程なく羽郁がやって来た。 「ふぅ、買ったモンが濡れる前に雨宿り出来て助かったぜ‥‥お、柚李葉ちゃんじゃないか」 出逢えた恋人達は、雨宿りがてらギルドで暫し四方山話。 降りしきる雨を見つめながら、柚李葉が言った。 「雨の日は、佐伯のお家に来たばかりの頃を思い出すの‥‥」 旅一座の楽師として各地を巡っていた柚李葉。養女にと望まれた際、彼女は最初奉公に上がるのだと思ったのだと言う。 雨音を聞きながら、養母に作法や諸々の教えを学んだ日々。 「未だに慣れない事も多いけど、お養母さんは特に、引き取られる前から優しくて‥‥大好き」 今度は貴方のお話を聞かせてと柚李葉に水を向けられて、羽郁は実家の話をする。巫師の流れを汲む一族にとって、雨乞いを行う方が多かったのだと話した羽郁は、実は‥‥と、クッキーで餌付けされている梨佳をちらと見てから言った。 「告白した時の歌舞の歌は雨乞い歌の替え歌なんだ」 願い叶えたまえと祈る歌は、二人を結びつけた。 羽郁の雨の日の過ごし方を聞きながら、柚李葉は雨が止むまで少しでも長く、沢山の言葉を重ねたいと願う。 てるてるぼうず、もう少しお仕事怠けていておくれ。 止む気配のない小雨に降られてギルドに到着した男性二人。白い布で身体を覆うような服装をしている二人は、開拓者とその友人だ。 「エーダ?」 頭ひとつ分上背の高い友に尋ねられたモハメド・アルハムディ(ib1210)は、入口に立ち止まり、答えた。 「ハーザ?フワ・テルテルボーズ、ワ‥‥」 異国の言葉で交わされる説明は周囲の者には聞き取れないが、頷きながら聞いている同行者の様子からモハメドが解説しているのは見てとれた。 ――と、そこへ自称見習い職員のお邪魔虫発生。 「こんにちはー」 「イスムハー、リカ」 自分達に興味を示し寄ってきた梨佳を、モハメドは友に紹介した。 言葉はわからなくとも『リカ』が自分の名だというくらいは判るから、梨佳はにっこりご挨拶。 モハメドによると、友の名はアブドッラー・アルハムディ、彼の出身の同業者で旅商なのだと言う。ふむふむと梨佳、モハメドに質問をひとつすると、満面の笑顔でこう言った。 「アハラン、ワサハラン!」 やがて自分の仕事に戻ってゆく梨佳の背中を見送りながら、モハメドはアブドッラーに補足した。 「タムブタディーア、バアドゥ」 「ヤッ、ハイヤービナ」 「ハサナン、サナズハブ」 二人の話し声を聞きながら、梨佳はご機嫌でお茶運びをしていたのだった。 さて、雨の日でも昼を過ぎればだんだんと人は集まってくるようで、依頼告知のある辺りでは人だかりができている。 「わぁ、やっぱりすごい人だかりだね」 気になる依頼を見つけた琉宇(ib1119)の周囲は同業者だらけ。きょろきょろしていると、あっという間に請け負う開拓者が決まってしまう。 「‥‥‥‥ううぅぅぅ‥‥また取れなかったよ‥‥‥‥」 これで何度目だろうか。 (「ギルドのいじわる‥‥) 漸く依頼を取れて、同行者と卓に着く。相談を始めた後も、琉宇はまだ新しい依頼が出る度に告知に耳を傾けていた。 梨佳が、お茶運びを終えて雨水で濡れた出入口の拭き掃除を終えた頃―― ころころころ‥‥‥ぴとっ。 「梨佳ねー何してるの?」 背中に飛びついてすりすりしてるのはリエット・ネーヴ(ia8814)だ。梨佳が手にしたてるてるぼうずを背中越しに見て、リエットが尋ねた。 「依頼の手伝い?」 ただの晴天祈願だと笑う梨佳に、リエットは「参加するぅー♪」梨佳の周りをぴょんこぴょんこ跳ねた。 小動物のようなリエットの後ろから、倉城紬(ia5229)が顔を出す。買い物をしていたリエットと出逢った紬、依頼の報告書閲覧の為にギルドを訪れたのだとか。手短に用事を済ませて、入口のてるてるぼうず増殖作戦に加わった。 「うっ、きゅきゅうぅ〜‥‥‥きゅ?」 出来上がったのは自分そっくりなてるてるぼうず。 謎の歌を口ずさみながら、てるてるぼうずを量産してゆくリエットが周囲の雰囲気を和やかに変えてゆく。 紬とお揃いの紐を結び入口に並んで吊り下げると、二人は暫し休憩しギルドを辞す。去り際、リエットが一度振り返り、自分そっくりのてるてるぼうずに手を振った。 師匠の為にと作った蒸し饅頭。張り切り過ぎて沢山作ってしまった――そんな時は。 「みなさんで食べてください!」 石動神音(ib2662)の選択はギルドへのお裾分け。 仕事探しから情報収集、雑談や暇つぶしまで‥‥多くの人が訪れる開拓者ギルド。差し入れは皆大喜びだ。 早速お茶をと立ち働く見習い未満の職員もどき。神音はお茶を配っている同年代の少女に親しみを抱いたようで、梨佳の隣に座った。 一緒にお饅頭をいただきながら、他愛ない話に花を咲かせる。 「梨佳は好きな人いるの?神音はねー、神音のセンセーのおヨメさんになりたいんだー」 ほら、と見せたのは恋愛成就のお守り。本気だよと神音は師匠への愛を語る。いまだ恋愛感情で好きな人はいない梨佳は少し羨ましく思ったりもして。 何処の甘味が美味しいとか、何とかの髪油はいいよとか、最近流行り出した服装だとか‥‥そんな少女らしい話をひとしきり楽しんで、神音は師匠の許へ帰る。 「またお話しよーね!」 手を振る梨佳に手を振り返して。 傘は持っていた。特に用事がある訳でもなかった。ただ‥‥少し人恋しくなっただけ。 買い物帰りにギルドへ立ち寄った泉宮紫乃(ia9951)は、顔見知りを探してギルド内を見渡した。 (「今日に限って、誰もいませんね‥‥」) いつもなら誰かしらいるのにと少し寂しく思いながら、折角来たのだしと募集依頼を見てまわる。残念ながらこちらも心惹かれるような縁はないようだ。 もう帰ろうか、いや少し待てば誰か来るかも。 そんな逡巡で長居していると、入口に鈴生りになっているてるてるぼうずが気になった。 改めて見てみれば、様々なてるてるぼうずがあるものだ。 (「あら‥‥」) こんなに並んでいるのに、何故かひとりぼっちに見えたてるてるぼうず。この子の家族を作ってあげよう。 いつしか真剣になっていた。無心になって作るうちに、てるてるぼうずは沢山の家族に囲まれ――紫乃の微笑みを受けて、もう寂しくないよと笑っているように見えた。 巴渓(ia1334)が、首をコキコキ鳴らしながらギルドの奥から姿を現した。どうやら一日中報告書とにらめっこしていたらしい。 目ぼしい情報は見つからず、やれやれと退去を始めた渓の目に飛び込んできたのは鈴生りのてるてるぼうずだった。 こんな事を仕出かす奴は、大体想像がつく。 ひょこと顔を出した主犯に差し入れをしてやって、渓は雨空を見上げた。 (「元気だろうか‥‥」) 遠い空の下、かつて共に過ごした仲間を懐かしく思う。雨が感傷を呼んだのかもしれなかった。 ●あした天気にしておくれ 夕方にもなると、依頼完了報告に訪れる開拓者も多い。 開拓者ギルドにもふらさまがあらわれた! 否、まるごともふらを着用したエルディン・バウアー(ib0066)だ。相棒と同じパウロと名付けたぬいぐるみを抱えている辺り、徹底している。 「し、神父様ですよね‥‥」 聞かなくてもいいのに突っ込んでしまう梨佳へ、エルディンはイイ笑顔で「はい」首肯した。 嗚呼、聖職者のイメージがガラガラ壊れてゆく‥‥ 梨佳の心境を知ってか知らずか、エルディンはパウロぬいぐるみから、もふら型クッキーを取り出すと梨佳に差し出した。 「いつもよく頑張っていますね、お疲れ様です」 父の如き慈愛深き聖職者スマイルで撫でてくださった。 嗚呼、まるもふでなければ神々しいばかりの笑顔なのに‥‥梨佳の思いなどお構いなしのエルディンは受付で報告を済ませた。彼はもふら関連の依頼を請けていたのだ。つくづく体を張る神父様である。 報告をすませたまるもふは、依頼募集掲示板に目を向けた。 「ふむ‥‥」 何か気になる事でも見つけたのだろうか。 素早く周囲を確認したエルディンは、てるてるぼうず以外の目撃者がいないと知るや、懐から取り出した紙を止め付けた。 聖職者スマイルで微笑むエルディンの肖像画には『彼女募集中』の文字が。 彼の教会にも貼るらしい、近々彼女希望者が殺到する‥‥かもしれない。 依頼先から応急処置だけ済ませて直帰した鬼啼里鎮璃(ia0871)の姿は、なかなかおどろおどろしいものがあった。 慌てて救急箱を取りに走ろうとする梨佳を制して、鎮璃はきょほきょほ笑う。手短に受付で報告を済ませると笑顔で帰って行った。 「気にしないでくださいねー」 気にするだろうと職員一同、嘆息混じりに見送っていると次の報告者が。良かった今度はまともだ。 入口で傘を閉じ、肩に掛かった雨雫を払った劉厳靖(ia2423)は、やれやれと誰問わず呟いた。 「それにしても、よく降るもんだなぁ」 何処か人好きする雰囲気を漂わせ、青年はゆったりと受付へ向かった。報告を終え報酬を受け取った厳靖は暫く金子を掌で弄んでいたものの、顔馴染みの職員を捕まえると、猪口を煽る仕草をした。 「飲みに行こうぜ」 「お、いいねェ。言ったからにゃ厳靖さんの奢りだろうなァ?」 呑み助共が集まってくる。 やがて厳靖は数名の職員達を引き連れて、談笑しながら神楽の繁華街へと消えて行った。 「お疲れ様です」 折詰を持った井伊貴政(ia0213)が受付に現れると、夜勤の職員が「今夜は運が良かったな」と笑った。 知り合いの料理屋で助っ人料理人をしている貴政の腕は確かだ。しかも折詰の中身は料理屋の一品詰め合わせ。 喜びいそいそと茶の仕度をする職員に苦笑しつつ、貴政は新規依頼の確認を済ませた。もうそろそろ帰ろうとしていた梨佳と、入口のてるてる暖簾を見つけて「懐かしいね」と声を掛ける。 「野外行事をサボりたい時には、逆さまにしてみたりもしたっけ‥‥」 でも効果はなかったけどねと笑う。 そうですよねと梨佳が答えた――その時、赤い影が。 「きみもこの時期はあちこちに呼ばれて大変だね」 「ひゃぁぁああぁ!!!」 外はすっかり夜の闇、入口のてるてる暖簾の向こうから浮き出た赤い姿に梨佳が叫んだ! してやったりと現れたのは、からす(ia6525)だ。梨佳にも、叫び声の方が驚きますよと肩をすくめた貴政にも気付かぬ風で、入口で揺れているてるてるぼうず達に話しかけている。 「何だかいつもと様子が違いませんか‥‥からすさん」 「さあ、そうかなぁ?」 こそこそと話している二人には気付かない振りして、からすは依頼掲示板へと向かった。丹念に依頼を眺めて、受付へと顔を向けた。 くるり。 引き攣った受付の職員と、ゆっくり目を合わせ受付台へと向かう。 「おや、どうしたのかな?」 ふるふると職員は首を振った。 そう、と淡白に反応して依頼申請を済ませたからすは、和傘を差してギルドを去った。やはり最後はてるてるぼうずに話しかけて。 「首、切る事無いよう頑張ってね。では」 それは、てるてるぼうずが見守る中で人が行き交うギルドのある日のできごと―― |