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■オープニング本文 「短冊吊るしてみませんかー」 開拓者ギルドの入口で笹竹を抱えて、少女はあなたに声を掛けた。 ●数刻前 「これを持ち込んだのは梨佳かい?」 ギルド係員に呼び止められた。 箒と塵取りを手に振り返った梨佳は、派手に中身をぶちまけて「きゃー」と喚く。 「その笹ですかー?そぉです、いいでしょー七夕らしい雰囲気出るでしょー?」 塵をかき集めながら笑顔で言う梨佳に、係員は渋い顔で言った。 「勝手に持ち込まれては困るんだけどねえ」 梨佳は見習いのギルド係員である。ただし正確には『自称』が付く。 ギルドで働いている者に尋ねれば、おそらくこう答えるだろう「見習い係志望の押しかけ梨佳」と。 つまり正式にはギルドの構成員ではないのだが、日参しては掃除や茶運びなどの雑用を嬉々として手伝う少女なのだ。業務妨害をしている訳ではないし、ギルドの機密に触れるような部分には一切関わらせていないから、職員達も見習い扱いで目こぼししている。おっちょこちょいだが何処か憎めなくて、それなりに重宝されていた。 「七夕?先月終わったろ」 右手に笹、左手に未記入の短冊と筆を持った係員が指摘する。えーっと梨佳、今月じゃないんですかと抗議した。 「あたしの里では、今月の七日にお祝いするんですよー!」 どうやら地方色の濃い場所の出のようだ。 それなら一日だけだよと係員にお許しをいただいて、梨佳は笹をギルドの入口に戻す。 でも。 実はこの遣り取り、これでもう六回目なのだ。 もしかすると、今日勤務している係全員と同じ遣り取りをしなければならないかもしれない。 今日はもう掃除を終えたし、後は開拓者のお手伝い(と梨佳が思い込んでいるお節介)だけだ。 いっそここで係と開拓者を待ちうけよう。短冊を吊るしてくださいってお願いもできるし。 ●七夕 そんな訳で。 自称見習い係員は一日だけの催しを開いているのであった。 短冊と筆を手渡されたあなただが――書くも書かぬも自由。 さて、どうしよう。 |
■参加者一覧 / 天津疾也(ia0019) / 柊沢 霞澄(ia0067) / 野乃宮・涼霞(ia0176) / 井伊 貴政(ia0213) / 犬神・彼方(ia0218) / 静雪 蒼(ia0219) / 南風原 薫(ia0258) / 羅喉丸(ia0347) / 桔梗(ia0439) / 柚乃(ia0638) / 天青 晶(ia0657) / 鷹来 雪(ia0736) / 佐上 久野都(ia0826) / 蒼詠(ia0827) / 玖堂 柚李葉(ia0859) / 深山 千草(ia0889) / 立風 双樹(ia0891) / 鳳・月夜(ia0919) / 鳳・陽媛(ia0920) / 霧葉紫蓮(ia0982) / 小路・ラビイーダ(ia1013) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 静雪・奏(ia1042) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 巴 渓(ia1334) / 水津(ia2177) / ルオウ(ia2445) / 辟田 脩次朗(ia2472) / 細越(ia2522) / 蒼零(ia3027) / 縁(ia3208) / 土岐 静真(ia3659) / 柏木 くるみ(ia3836) / 翔真(ia3997) / 相宇 玖月(ia4425) / 伊崎 ゆえ(ia4428) |
■リプレイ本文 ●短冊 「短冊‥‥お願いごと‥‥」 梨佳に短冊を手渡された柚乃(ia0638)は一瞬固まった。 「‥‥ギルドの人?」 問うと元気に首肯された。いや、本当は押しかけ見習いなのだが。 何を書けば良いものやら‥‥困って辺りを見渡すと、同じく短冊を手渡された水津(ia2177)と目が合った。 水津は筆を取ると、迷いなく願い事を記した。 『「火種」を極めていつかは立派な魔女に、出来れば焔の魔女になりたい』 末尾に添えた『魔女見習い水津』の署名に、梨佳はお互い頑張ろうねと声を掛ける。 頷いた水津は一緒に訪れた相方の細越(ia2522)と共に常の日課と化した新規依頼の確認を始めた。目ぼしい依頼がない事に肩を落としつつも、日々の鍛錬は欠かすまいとギルドを後にする二人に、先程の笹が目に入った。 「どうした?」 急に笑顔を見せた相方に細越が問うと、水津は「これ」と己の書いた短冊が下がった笹を示した。細越のはどれと尋ねられて答えると、細越らしいと言うかのようにくすりと笑った。 「叶うといいな‥‥細越さんの願い事も私の願い事も、短冊をくれたあの子の願い事も‥‥」 そうだなと頷く二人を細越の短冊が見送っていた。 『途中で折れる事無く鍛錬に励み続けることが出来ますように』 次に入口で待ち構えていた梨佳に捕まったのは土岐静真(ia3659)だ。 今頃七夕?とほんのり不審に思いつつ、短冊を受け取った静真は至って真面目に眼の前の問題に取り組んだ。 何か書かなければ。折角貰った物を、何も書かずにおくのは忍びない‥‥ 「‥‥君の名前は?」 咄嗟に、短冊をくれた少女の名を問うていた。梨佳と教えられた静真は、 『梨佳の願いが叶うように』 「えー!いぃんですか!あたしの願いを願ってくれるなんてっ!」 顔を真っ赤にして照れる梨佳に、願い事も二倍であれば叶うだろうと涼しげな笑みを向けた。 (「七夕など久しいが‥‥俺は幼い頃何を願っていただろうか‥‥」) 書いた短冊を吊るしてその場を離れた静真は、今自分が願う事に思いを巡らせて――家族の息災を密かに願う。 「そう言えば、梨佳さんの願いはなぁに?」 短冊が下げられてゆく様子を眺めていた柚乃が尋ねた。答えを聞いて、漸く彼女の短冊は決まったようだ。 『梨佳がギルドに就職できますように』 「そうすれば毎日が退屈しなさそう‥‥」 他意などまるでなく、ほわんと微笑む紫瞳の巫女に満面の笑みで頑張りますと応える見習い係。 「これからもよろしくね‥‥」 それは交友を願う言葉、短冊の願いの成就を祈る言葉。 縁(ia3208)は入口の様子を眺めていた。 何やら笹と短冊、筆を準備して、開拓者や依頼人達に吊るしてもらっているようだ。担っているのは少女――梨佳と言ったか。元気だけは良いものの危なっかしくて、一人で担うには大変そうだ。 縁は小さく頷いて梨佳へ近付いていった。 「梨佳ちゃん、長い時間一人じゃ大変でしょ?お手伝いするわ」 「綺麗ね‥‥私も一緒に飾りを作ってもいい?」 笹に気付いた佐伯柚李葉(ia0859)も申し出る。 「わー!いぃんですかー!ありがとうございますー!」 間延びした礼の言葉と共に差し出された短冊に、縁はふたつの願いを書いた。 『少しでも早く冥越に戻れますように』『皆さんと仲良くいられますように』 後で書いた方が見えるように笹へ吊るす。 柚李葉は短冊を受け取り飲み物を手渡した。暑い最中の呼び込みで喉の渇いていた梨佳は大喜びだ。 暫し悩んだ柚李葉、短冊には初々しい願いを書き込んだ。 『何時か慣れて、まったりお話できる友人が作れますように』 より一層呼び込みに熱が入る傍で、二人は色紙を折ったり、星や月の形に切ったり、紙の鎖を笹に螺旋状に飾ったり。 そこへ通りかかった南風原薫(ia0258)、ほうと息付いて立ち止まった。 「もう葉月ってぇのに七夕たぁ‥‥傾奇いてて良い、な」 「あたしの里では今月なんですよぉ〜!」 本当は依頼を探しに来ただけなのだが、眼の前で抗議している少女に付き合ってやる事にした。手渡された短冊には一瞬考えた後に『華麗奔放』さらりと書く。 「おにぃさん、達筆〜」 「実際はぁ華麗どころかぁ泥臭い事やって、小金稼いでるが、ねぇ」 へらりと笑いつつ、面倒見よく辺りを整えてゆく。露店で焼き鳥と酒を求めてきた薫は入口に陣取って一杯やりだした。そろそろ昼時だ。 ●みんなで昼食会 「あれー?さっきも来てくれましたよねっ♪」 梨佳は再訪した柏木くるみ(ia3836)に笑顔を向けた。 笹には先程くるみが残した『家族みんなが健康でいられますように』の短冊が揺れている。目の前のくるみは何やら大きな風呂敷包みを持っているのだが‥‥ 「お昼ごはんにしない?お握りを沢山持って来たの」 「梨佳ちゃん、お疲れ様」 縁の労いの言葉に昼食の事を全く考えていなかった梨佳に否もなく。その場で食べ易いようにと差し出された、くるみのネギ味噌お握りを喜んで受け取った。 そこへ、井戸水で冷やした野菜や果物を持って来た深山千草(ia0889)が登場。 「お陽様を一杯浴びてるから、栄養満点よ」 梨佳がゆっくり食事をできるようにと、短冊受付の代理を買って出た。千草から採れたて胡瓜を受け取った梨佳は「美味しい!」お陽様笑顔でにっこり。 「夏野菜のお握りもどうぞ」 野乃宮・涼霞(ia0176)は混ぜご飯お握りと、海苔に包んだ漬物入り白米お握りを差し入れ。だんだん賑やかになってきた。 「‥‥ったく、どいつもこいつもガキが気になってメシ持ち込んでやがる!」 やれやれ‥‥と肩を竦めながらも、巴渓(ia1334)の様子が楽しげに見えるのは気のせいではないだろう。ふ、と笑って昼食会に加わった。お人好しも過ぎると怪我すんぜ、などと言いつつ、開拓者ギルドの係員への交渉を請け負う辺りに、渓ならではの優しさが伺える。 串焼きや揚げ物を買い求めに屋台へ向かった渓は、羅喉丸(ia0347)を伴って戻って来た。 「腹が減っては戦は出来ぬというが、食べるかい?」 「うまそうだなー、いただきまーす!」 その場に居合わせる者、皆仲間。 笹を眺めていた翔真(ia3997)や、笹の前で腹の虫が鳴いた伊崎ゆえ(ia4428)も遠慮なく手を付ける。 「ご飯が、いっぱいです」 美味しそうに食すゆえの様子に相宇玖月(ia4425)は微笑んでお茶を差し出した。 「ところで‥‥たなばたって、何ですか?」 手渡された澄まし汁をを手にしつつ、涼霞が持っているみたらし団子も気になりつつ。ゆえが素朴過ぎる質問をした。 「彦星様と織姫様が、年に一度だけお逢いする日と、姉さまに教えてもらいました」 願い事を書いた短冊や折り紙で飾りを作って笹を飾るのです。お手製の翡翠羹とわらび餅を振舞う礼野真夢紀(ia1144)の説明に翔真も感心しきりだ。 「俺のいたとこじゃ、こんなのやった事なかったが、こういう行事もあるんだなー」 「梨佳さんの故郷では八月が七夕なのですね」 色々あるのですねと真夢紀、頷く一同。まこと天儀は広い。 「皆さんは、願い事をもうお決めになりましたか?」 持参のお饅頭を自身が一番食べてしまっては‥‥手が伸びかけるのをぐっと我慢の大食漢、玖月が水を向ける。そんな彼にそれとなく食物を回してやりながら、渓は応と返し、皆を見渡した。 「『アヤカシの被害が減り、苦しむ人が減りますように』かな」 憧れの人を目指すのは自分の努力だから、願い事には書かないのだと羅喉丸は続けた。 「これ、ゆえ殿のだろ」 ふと指した短冊に書かれた『ご飯』の一言に温かい笑い声が起こって。足りなくなっていた紙縒りを作っていた涼霞が尋ねた。 「渓さんは何て書いたんです?」 「へへ、さぁてな」 世界から世界へ。常に旅し様々な職種を経験している渓。掌の短冊には深い言葉が記されていた。 『帰る場所を見つける』 ――いつか、通り過ぎるのではない、渓だけの世界を。 ●増える笹竹、飾り短冊 「こちらこそ楽しかったです〜ありがとうございました♪」 後片付けが済んだギルドの入口。礼を述べ帰宅する玖月に礼を返す梨佳の背に、笹竹が来襲した。 「はぅわっ!?」 新たな笹の出現につんのめった少女に、青年は物腰柔らかく話しかけた。 「失礼‥‥梨佳殿の笹を見て妹達が自分達のが欲しいと言いましてね」 一緒に飾らせて貰えませんかと続けた佐上久野都(ia0826)の後ろには笹を持った鳳・陽媛(ia0920)と鳳・月夜(ia0919)の双子姉妹。他に同行者が多いようだが―― 「兄さん、これルオウ」 月夜に淡々と紹介されたルオウ(ia2445)は久野都に初見の挨拶をしながら首を傾げた。 (「七夕って月違うんじゃなかったかなぁ?」) 久野都の隣の蒼詠(ia0827)は姉妹の幼馴染で、柊沢霞澄(ia0067)は友人だとか。何だか自分が少し場違いな気もしたが、適当に楽しもうと割り切って場に馴染む。 「さて、飾りと短冊を」 「一枚じゃないとダメですか?何枚か欲しいんですけど‥‥」 「私も‥‥欲張ってしまっても‥‥構いませんか‥‥?」 短冊と色紙を手に取った久野都の傍で、陽媛と霞澄が異口同音に短冊を所望した。快諾されて、各々願い事を記す。 「月夜さんは何を願ったのです?」 「‥‥昔から同じ」 ごく当然の事とばかりに『兄さんと何時までもずっといられますように』と書いた短冊を見せて、蒼詠はと返す。 「僕は‥‥僕にも双子の妹がいるから‥‥」 書いた願いは『妹が少しでも健康になれますように』もう一枚に『開拓者仲間や実兄が依頼で怪我をしませんように』と書き添えて、陽媛さんはと振り返る。陽媛は慌てて短冊の文字を消した。 言えない。『兄さんのお嫁s‥‥』と書きかけていたなんて。 書き直した願いは妹と同じ。沢山書いた他の願い事と一緒に、誰にも見せないようにこっそり吊り下げた。 そんな様子を久野都はくすりと笑いつつ『妹達が健やかに育つ様に』と願う。まだ無邪気な妹達だが、この調子では当分変な虫の心配は必要ないかもしれない。 梨佳を交え、久野都の手解きで天の川を作る。綺麗な模様を作り上げた陽媛顔を上げると、視線の先に友人の姿が見えた。 一緒に笹探しをした、友人の静雪蒼(ia0219)は兄の静雪・奏(ia1042)と何やら楽しげに短冊を下げている。 妹の蒼は大切な人と共にある事を願い、兄の奏は妹の幸せを願う――ここにも兄妹の深い愛情の一幕が。 「霞澄さんは願い事決まりましたか?」 陽媛に問われて、霞澄は幸せそうに微笑んだ。 ずっといらない子だった自分。神楽に来て誰かの役に立つ事ができた自分。もういらない子じゃなくなったのは、皆のおかげだから。 『鳳さん達やお友達が皆元気で楽しく暮らせますように』 自分でなく誰かの幸せを願える自分がいた。でも――もうひとつだけ。 『皆さんの願いが叶いますように』 午後に入り、笹も賑やかになってきた。 「毎日頑張ってるな」 霧葉紫蓮(ia0982)に折り紙の兎を受け取って、折り方を教えて欲しいとねだった。天青晶(ia0657)の手から生まれる網飾りや提灯飾りに吹流し‥‥目を輝かせて喜ぶ。 「あの‥‥あのね、おねがい、かき来た」 十三歳の梨佳と同い年か少し年下に見える小路・ラビイーダ(ia1013)は、頬を赤らめ控えめに短冊を請うた。暫しのにらめっこの後、はみ出ないよう真剣に書き記す。 『もじ、きれい、かけるようなりたい 小路』 「小路、よく書けてるな」 兄のように思う紫蓮に頭を撫でられて小路は更に頬を赤らめた。自分の手が届く場所へと短冊を吊るしかけた小路を、紫蓮はひょいと抱き上げた。 晶は少し悩んだ後『空が、いつまでも美しくありますように』と書く。天儀の空が翳ってしまわないように精進するのが我が努め。 それは亡き父への誓いである。父に誇りと思って貰えるような、そんな剣士になるという目標を胸に、笹へと手を伸ばし‥‥紫蓮に声を出して読まれてしまった。 そんな様子を立風双樹(ia0891)は冷静に見つめつつ短冊に『世界から全てのアヤカシが消え、皆が幸せになれます様に』と書く。願い事まで生真面目だなとからかう紫蓮はお構いなしに、彼は梨佳の様子を眺めていた。 午前中に双樹は梨佳に尋ねたのだ「何でギルドのお手伝いをしてるんですか?」と。 彼女を動かす動機、理由が知りたかった。彼女が何と答えたか――自分が「夢、叶うと良いですね」そんな反応をした事は覚えている。 今目の前で無邪気に喜ぶ少女の真意を見極めよう。その生き甲斐を応援する為に。 「おにぃさんも願い事どぉですかー?」 「俺かいな?俺の願い事は金儲けやからなー仰山買うてな」 怪しい商売人出現。天津疾也(ia0019)だ。 何を売っているのかと言うと、ずばり『星飾り』。笹飾りではなく短冊に付ける為のもの。 「短冊が目立てば、それだけ空の上の神様の目に留まり易うなって、願い事が叶い易うなんねん」 うしし笑いを押し殺す疾也の主張はかなり胡散臭いのだが、そう言われるとなんだかご利益があるような気がする‥‥かもしれない。 「星飾りー星飾りは要らんかやー。願いにも箔が付いて叶い易うなるでー」 「わ、それほんと!?」 疾也の行商に引っかかった純粋無垢な美少女‥‥もとい、美少年がひとり。 天河ふしぎ(ia1037)は良かったぁと安心した笑みを浮かべた。 「だって先月だと思ってたんだもん、地方によってはセーフなのも嬉しかったけど、叶い易くなるなんて凄いよ!」 完全に騙されている! 星飾りを手渡す疾也に短冊を覗き込まれて、ふしぎは大慌て。 「わぁ、見るな‥‥っ!べっ、別に気にしてなんかないんだからなっ!」 充分気にしているような。そんなツンな彼の短冊には『背がもっと大きくなって、男らしくなる ふしぎ』と書かれていた。 「‥‥で、それ何やねん?」 「ジルベリア式の七夕はこうなんだって」 白足袋に『大型飛空船をください』と書いた紙を忍ばせて笹に下げるふしぎ。誰が彼に吹き込んだのやら――真偽はともかく、来年の七夕には新商品が加わりそうだ。 笹に短冊、天の川。投網に星月、白足袋に‥‥個性的な飾りはまだ増える。 魚型、鼠型。ふわふわ‥‥? 作っているのは蒼零(ia3027)、手渡された短冊には『この世に存在する全ての猫に出逢えますように』と書いてある。 「あぁ〜猫、いぃですよねぇ♪もふもふのふかふかのぷにぷにで‥‥」 蒼零と並んでまったり醤油煎餅を齧りながら、梨佳はうっとり妄想中。短冊の裏に小さく書かれた、隣で茶を啜っている少年の復讐の誓いには気付かないが、表裏どちらも蒼零には大切な事で。 日が傾きかけた頃のお茶会に加わった辟田脩次朗(ia2472)は、こんな話を二人に語った。 「幼い頃北面に住んでいたのですが、昔は今と違う暦を使っていて、その暦は今の暦に直すと一月程ずれるのだとか‥‥梨佳さんの故郷の風習も、その暦によるものかもしれませんね」 「脩次朗は博識だな」 「子供の頃の記憶なので、本当かどうかもわかりませんが」 感心する二人にそれではと暇乞いをして、脩次朗は自分の短冊を笹の上部へ下げた。 『さっきの話が本当でありますように』 天儀は広い。そういう話もあるのだ。 ●星降る夜に 賑やかだった入口も日暮れに伴い少しずつ寂しくなってゆき―― 「そういえば、七夕もまだ、だった」 短冊を受け取った桔梗(ia0439)、生真面目に梨佳の要求を受け入れた。願い事が沢山あるのだと、じっくり考え迷いつつ‥‥梨佳に願い事は書いたのかと尋ねる。 「えへへ、勿論です!『ギルドに就職できますように』って」 「‥‥ん、そうか。少しくらい欲張っても、願い叶えて貰えるかもしれないぞ」 今日一日でどれだけ沢山の人と関わったのか――入口に揺れる笹が語っている。笹に吊るされた願い、飾り、それらに関わった全ての人の笑顔が見えるような気がした。 「決めた」 人柄を表すような誠実な文字で書かれた願い事は『もっと、誰かの役に立てる人間になれますように』 お互いきっと叶えましょうねと言われて、桔梗はこくこく頷いて。 「お疲れ様です」 梨佳に呼び止められた白野威雪(ia0736)は見習い係員に労いの言葉を掛けた。 差し出された短冊と緑茶を受け取って、雪も梨佳に甘味を勧める。 「短冊に、お願い事かぁ‥‥これ、友人に頂いたものなのですが‥‥お食べになりますか?」 白銀の巫女から差し出されたお菓子は梨佳の掌に、ころころと愛らしく落ちた。 「金平糖‥‥?」 「星、みたいで素敵ですよね」 微笑む雪と暫しお茶会。今日は沢山の開拓者に相手をして貰った梨佳だけど、甘味とお茶と笑顔の時間は何時だって新鮮で楽しい。 「一月遅れの七夕‥‥ねぇ。うん、それもまた風流ってぇとこか」 依頼を請けに立ち寄った犬神・彼方(ia0218)、短冊に『一家繁栄・家内安全』と記した。 「一家の頭として、親として、な」 「お父さん、なんですか〜」 梨佳、彼方の性別を間違えた。 良くある事のようで彼方も慣れたものだ。さらりと笑って梨佳の目標を尋ねた。 「憧れだったものも、何時か手が届くかもしれないねぇ。その為に、お互い頑張ってぇいこうか」 大の子供好きな彼方に頭を撫でられて、梨佳はくすぐったそうに、嬉しそうに笑った。 一日ギルドの入口に陣取った梨佳も、そろそろ家に帰ろうかと思い始めた頃。 知り合いの料理屋を手伝った帰りにギルドへ立ち寄った井伊貴政(ia0213)が現れた。 料理屋からお礼に貰った折詰を惜しげもなく梨佳に差し入れした貴政は、代わりに受け取った短冊に首を傾げる。とりあえず笑顔で受け取ると、一旦入口から離れてギルド来訪の目的を果たしに行った。 帰り支度を始めた梨佳の前に再び姿を現した貴政は、記入済の短冊を手渡すと紳士的に去っていった。 その短冊には――『梨佳ちゃんがいつまでも幸せでありますように 貴政』――他意は無いらしい。罪作りな青年である。 「そう言えば、この笹竹、どうするんだ?」 片付けを手伝っていた桔梗が尋ねた。流すのなら開拓者と一緒に行かないかと誘う。 「あーっ!飾る事ばっかり考えていました〜!」 どうやら、完全に失念していたらしい。 「星空の下の散歩。‥‥どうだ?」 小首を傾げる桔梗の提案を、梨佳は素敵ですと首肯した――そこへ。 「七夕は盛況だったようだな」 手の空いたギルド係員がやって来た。 「おかげさまで♪ありがとうございましたーすぐ片付けますねぇ」 「いや、そのままで構わない」 多くの人が訪れ、多くの願いが下げられた笹竹を前に、係は意外な知らせを伝えた。 「一日だけで下げるのは惜しいと開拓者達からも口添えが届いている。数日飾ってから流しに行っても遅くはないだろう」 日を改めて、願い笹を天へ還そう。 もし良ければ、その時にもご一緒してくださいねと、梨佳は開拓者達に笑顔を向けた。 |