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■オープニング本文 ふらも、ってアヤカシ知ってますか? もふらさまそっくりなのに、なーんか違う、一目でアヤカシって判っちゃう偽もふらさまなんですって―― ●一反もふらの噂 その日、梨佳(iz0052)が神楽開拓者ギルドを訪れたのは、職員見習としてではなく一般人としてであった。 先日もふら牧場で出逢い世話をする事になった仔もふらの七々夜(ななよ)を連れて、休日にギルドを訪れていたのだ。 「この子が七々夜ちゃんね?」 「なー、もふ」 職員の桂夏が蕩けそうに頬を緩めて、抱きかかえるのに丁度良い一尺半の七々夜に手を伸ばす。人見知りしない七々夜は、もふもふご機嫌で桂夏の腕に収まった。 まだ言葉は得意ではないものの、聞き分けの良い仔なんですよと梨佳。 「あたしが此処に来てる間は、下宿のあたしの部屋で良い子で待ってるんですよー♪」 梨佳の下宿先は大衆食堂で、1階が食堂2階が下宿屋なのだが、七々夜は階下に迷惑も掛けていないのだと親馬鹿丸出しで褒めちぎる。 目算で七々夜の全長を測るのは桂夏の先輩職員の聡志だ。 「大きさ一尺半、という所ですか‥‥」 「半なんざ中途半端、面倒臭ェ。一尺もふらでいいじゃねェか」 桂夏の腕の中で後脚をぷらぷらさせている七々夜を見ながら、もう一人の先輩職員・哲慈が言ったものだから、女性陣は猛然と反対した。 「「一尺じゃなくて、一尺半です!!」」 「もふ!!」 七々夜も真似してぷんすか抗議している――はてさて、意味を解っているのやら。 ところで、と梨佳が話を変えた。 「一反もふらの噂、聞いた事あります?」 「一反‥‥石鏡の大もふ様くらいの大きさのもふらさま?」 桂夏が巨大なもふらさまを想像してほわんと和む中、先輩職員二人は違う違うと各々が耳にした噂で補足した。 「違います。頭の大きさは通常で胴だけが一反あるのだとか」 「ンでそいつがフワフワ空飛んでんだってよ、ンなもふらが居たら大騒ぎだよなァ」 哲慈は本気にしていないようで、からっと笑っている。 しかし聡志は表情を引き締めて言った。 「最近、見た見ないの話が多数寄せられています。アヤカシの可能性も高いですし、そろそろ調査依頼を出すべきかと言っていた所です」 「俺ァ聞いてねェぞ?」 「哲慈さん、昨日の定時会合サボったでしょうが」 あ、と目を逸らす哲慈。聡志は肩を竦めると、近く開拓者が目撃多発地域の調査に向かうだろうと纏めた。 ●その正体は それから数日後―― ギルドからの調査依頼を請けて、数名の開拓者が神楽某所の廃墟跡にやって来ていた。買い手が付かなかった土地は、所々に朽ちた柱が残っている以外は夏草に覆われて青臭い事この上ない。 件の一反もふらは、この辺りで浮遊していたと聞く。開拓者達は油断なく夏草を掻き分けて奥へ進んだ――と、その時。 『ぶもぉぉぉぉぉ!!』 もふらさまとは思えない鳴き声と共に現れたのは、どんよりまなこの――ふらもだ! 開拓者達は直ちに戦闘態勢に入った。ふらもは見た目に反して非常に素早く動いており、するすると開拓者達に近付いて来る。 「何だこのふらも!?」 蛇のような動きをするふらもに戸惑う開拓者達。 するりと近付いたふらもは、開拓者達の前でふわりと宙に浮いた―― |
■参加者一覧
秋霜夜(ia0979)
14歳・女・泰
海神・閃(ia5305)
16歳・男・志
フリージア(ib0046)
24歳・女・吟
エルディン・バウアー(ib0066)
28歳・男・魔
琥龍 蒼羅(ib0214)
18歳・男・シ
御陰 桜(ib0271)
19歳・女・シ
明王院 千覚(ib0351)
17歳・女・巫
烏丸 琴音(ib6802)
10歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ●臨戦態勢! 秋霜夜(ia0979)の目の前に、どんよりまなこのふらもが浮いていた。 可愛くない。もふらさまっぽいのに可愛げない。 もふら愛好家は、これで何度目のふらも遭遇だろうかと考えて、これまでのふらもとは違う特徴に思い至った。 顔の大きさは一尺程度なのに、胴が一反あるという。 身の丈ほどもある草から鎌首をもたげた蛇のような――ふらも。 このふらも、宙に浮いている。 「‥‥もふら様だと思ったら、ふらもさんだったんですね」 がっかりしょんぼり。明王院 千覚(ib0351)が噂から想像した一反もふらは空を舞う有難いもふらさまだったのだが――現実は非情なもので。 「あらぁ、ホントにいたのねぇ。あんまり可愛くないし、さっさと片付けちゃってイイかも」 噂に聞いた一反もふら――もとい一反ふらもに遭遇しても、御陰 桜(ib0271)はいつも通り。慌てず騒がず、けれどちょっとだけ容赦ない。 「皆さん大丈夫ですか?」 エルディン・バウアー(ib0066)が草を掻き分け振り返った。長身のエルディンでさえ肩から上が覗く程度の背高い夏草が及ぼす支障は、殆どの開拓者を草叢に隠していて、誰が何処にいるのか気配でしか伺えない。 「ボクらは此処にいるよ」 草叢で溺れかけている烏丸 琴音(ib6802)を庇いつつ、海神・閃(ia5305)が手を挙げた。多くの者には身長と同程度の夏草は、琴音にとっては頭ひとつ分以上高い障害になる。 想像してみて欲しい。自身より遥かにのっぽの夏草に埋まっている状況を。 「‥‥もうちょっと、背が欲しいのです」 見通しが悪い上に夏草の強い匂いに包まれて、一瞬どよ〜んと落ち込んだものの、琴音は健気だった。 「閃さん、ふらもは、もふもふしてますか?」 「見てみる?」 閃は琴音を肩車してあげた。 一反ふらもと目が合った。 毛並みは――なんだかごわごわしてそうだ。 「目付きが悪いのです‥‥へんなアヤカシなのです、退治するのが良いのです」 下ろして貰って、思い残しなく戦闘できそうだと閃に礼を言う琴音。 それにしても、ふらもは一体何を目指しているのだろう。 「もふらから離れてしまってはふらもの意味もないでしょうに」 アヤカシの考える事はわかりませんわねとフリージア(ib0046)。 ギルドで顔合わせた調査員の面子を思い出し、ふらも退治に集まりやすい面々というのも何かの縁かもしれないなどと考えていると。 頭ひとつ草叢から出ている琥龍 蒼羅(ib0214)が、丈夫な雑草を一掴みして言った。 「厄介だな」 開拓者を隠す草叢は、同時にふらもの潜伏をも許すという事。ふらもは高低自由に動き回れるが、自分達の行動は大きく制限されている。攻撃手段によっては手も足も出ない可能性すらある。 現に、ふらもと顔突き合わせている霜夜が怒っていた。降りて来ーいと叫びつつ、こんな事もあろうかと懐に仕込んでいた鎖分銅を掴み出す。 「飛べないように落っことしてやりますっ!」 ●戦闘‥‥中? そんな訳で、戦闘が始まったのだが―― 「‥‥草刈りですの!?」 フリージアの突っ込みに同意せざるを得ない、シュールな光景が展開されていた。 うねうねごわごわ、ひらりひらり。 開拓者に怪しく近付くふらもを他所に、接近戦主体の前衛陣が草刈り開始! 確かに草は身の丈程もあって、視界確保も移動するにも不自由するし、接近戦を得意とする開拓者は一反ふらもが地上にいない限り攻撃はできない。 しかし想像してみて欲しい。ここは戦場だ! 「精霊の風と刃よ、邪悪なる者を切り裂きたまえ」 風を操り草を刈るエルディン。逆巻く風は夏草を凪ぎなおして一直線にふらもを切り裂いた。 『ぐも!?』 「もふらみたいなら、もっとゆっくりになるです」 「そうですわ、空を飛ぶもふらなんて妙ですもの」 琴音が召喚した式の背後で派手な爆音。フリージアの発した重低音を背負って、ふらもに小さな式達が組み付く。 二人して抑えに掛かり動きの鈍ったふらもに、桜は占い師よろしく宣告。 「あんた水難の相が出てるわよ♪」 ふらもの返事を待ってやる義理もなく、桜は容赦なくふらもを水浸しにした! ――が。 「「「臭っ!!!」」」 戦場に何とも言いがたい悪臭が! 思わず鼻を押さえる一同。このふらも、一体何のアヤカシだ! (一反木綿ならぬ一反ふらも、か‥‥) そも付喪神とは古い物品に霊が宿ったものとされる。確か一反木綿は古い布などに宿る付喪神だったかと、蒼羅は布製の生活用品をあれこれ思い浮かべながら考えた。 (まさかこれは‥‥) 一瞬頭を過ぎった長い布製品を認めたくなくて、無意識に首を振る。 悪臭の中、呼吸を止めたまま鎖分銅をぶん投げる霜夜。空き家を放置して荒れ放題にしたのが原因かと思っていたが、それにしては臭すぎる。 「‥‥ぷはっ」 息を吐き出した勢いで、分銅はふらもを微妙に外して地に落ちた。 噂の一反もふらに締め付けられるならと夢見たりもした千覚だが、これはちょっと遠慮したい。 「気持ちよく気を失ってしまう‥‥前に、心に傷を負いそうです」 言いつつ、仲間がふらもに先んじるようにと願いを込めて舞う。ヤな臭いねえ、と桜は勢いに乗せた手裏剣を打ち、琴音は長っちい布製品から鯉幟を連想し。 「大きさが違う、ふらもがいるかもしれませんです」 大きいのと中くらいのと小さいのと、へんなの。 吹流し込み鯉幟フルセットを連想した琴音が呟いたものだから、琴音の前で刀を構えていた閃が警戒を強めて叫んだ。 「気をつけて! 他にもいるかもしれない!」 視界確保で草刈りするにも限度がある。いまだ夏草生い茂る空き地、途端に草叢に他のふらもが潜んでいる気がするから不思議だ。 「どこからどう湧いて出るのか分からないのがアヤカシ‥‥」 言いざま、広範囲スキルなのを幸い、フリージアは爆音を轟かせ続けた。派手に大音が鳴り響く中、千覚は神楽舞の所作でくるりと身を翻した際に辺りを見渡し、異常がないかを確認する。今のところ異様な気配はないが油断は禁物だ。 不意の敵援軍に備え、閃に加護を掛け直しながら、エルディンは神職らしい慈悲深い思案をしていた。 (もふらが瘴気感染してふらもになったのだとしたら‥‥可哀想です) 精霊力が凝固した存在であるもふらが瘴気感染するとは考え難いが、もふら大好き神父のエルディンにとって、もふらは人や龍と同じ、一生命体なのだ。 「哀れな‥‥私が引導を渡してあげましょう」 決意新たに詠唱を始めたエルディンの白き杖から、聖なる矢が放たれた。 ――暫し後。 「あらぁ、怨念籠もってるまふらぁとかじゃなかったのねぇ」 瘴気を払われ地に落ちたモノの正体に、桜はあっけらかんと言った。モノからさりげなく目を逸らし、元はもふもふだったのですねと千覚。 倒してみると、一反には少々短い六尺程度の外見をした正体だった。 もふんどし、一本。 元となった物品が一点だけだった為か、幸いふらも化したのは一体だけだったが、また何時瘴気を集めるか判らない。 懇ろに供養した末に地中深く埋めて、琴音はぽそりと言った。 「‥‥へんなアヤカシだったのです」 ●ふらもが残したもの それから皆でギルドへ調査報告に戻った。 受付で噂の正体と対処を報告後、ギルド内の掃除に駆け回っていた梨佳にも顛末を伝えてやる。 「ふらもだったですか‥‥で、もふもふでした?」 気になるところは皆同じか。 フリージアは少し悩んで、もふ加減にのみ答えた。 「うーん、あまりもふもふしていませんでしたわね‥‥」 梨佳とて年頃の女の子だから、もふんどしに瘴気が取り付いたものだったという事は伏せておこう。閃は曖昧に微笑って誤魔化した。 「そのうち『一反もふらさま』とか出て来る事があるかもしれないね」 「にょろっとシてたり、集まっておっきくなったり、ふらもにもイロイロいるのねぇ?」 これまで様々な形態のふらもに対してきた桜の言葉は妙に説得力がある――そして。 「やっぱりへんなアヤカシだったのです」 琴音の言葉に、一同はしみじみ頷いたのだった。 「そういえば、ヒデちゃんのとこで仔もふら拾ったそうじゃない♪」 桜が水を向ければ、途端に梨佳の顔が緩む。 残念ながら勤務中で連れてはいなかったけれど、桜が梨佳に七々夜をもふる約束をしていると、エルディンが梨佳に誘いを掛けた。 「梨佳殿、もう危険はありませんから龍に乗って現場跡を上から眺めてみませんか?」 「龍に乗って、ですか〜?」 首を傾げた梨佳に、こくこく頷く少女達。 「謎の円なのです」 「にくきゅうです」 「足跡です」 尚更分からなくて首を捻る梨佳。とりあえず桂夏に銀河の騎龍許可を貰って、言われるがまま皆と空へ繰り出した。 「わぁ‥‥♪」 夏草の成長速度は恐ろしく早く、数日もすれば埋もれてしまうかもしれなかったが―― 梨佳は見たのだ。そこに、もふらさまの足跡が形作られていたのを。 |