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■オープニング本文 寒い季節は鍋が一番。カラダもココロもあたたまる。 依頼は絶えないし年の瀬は慌しいけれど――だからこそ、ほっと一息吐くひとときを。 ●今夜は鍋三昧 神楽・開拓者ギルド。 日中の勤務を終えて夜勤職員の交代を待っていた男性職員が二人、夕飯をどうするか取り留めなく話していた。 寒いから鍋がいいですねと言うのは若い方、少々神経質そうで小奇麗な身形をした青年だ。 「今夜は湯豆腐にしよう‥‥売り切れてなければ良いのですが」 「お前ェ、ンなもんで腹ァ膨れねェだろ。男なら肉食え、肉」 後輩に肉を勧めるのは哲慈、ややくたびれた風体の男やもめだ。一度は所帯を持った事もあるものの妻に逃げられて以降は自堕落な一人暮らしをしている哲慈は、家へは寝に帰っているだけでマトモに家事などした事がない。 「肉食いてぇ‥‥」 「好きなだけ食べればいいじゃないですか、先日給与が出たばかりでしょう」 開拓者ギルド職員の給料は、少なくとも給与日直後に肉が食べられないほど困窮する金額ではないはずだ。 確かにそうなのだが、哲慈はどこまでも不精だった。 「そうなンだけどよ、買い出しが面倒臭ェ」 ついでに調理も面倒臭いと贅沢を言う男やもめ。そのくせ食うのは面倒臭くないらしい。ぼさぼさの頭をわしわし掻いて、食いに行かねえかと聡志を誘った。 「哲慈さんと差し向かいですか‥‥」 独身男が二人、差し向かいで鍋をつつくの図。 想像するだに何とも侘しいものがある。しかも相手は肉が食べたい哲慈で、聡志は湯豆腐が食べたいのだ。 聡志が微妙な顔をしていると、後輩の女性職員・桂夏と職員見習いの梨佳(iz0052)が帰り仕度を済ませて通りかかった。 「お疲れ様でした〜」 「お先に失礼しますー あら、今夜は二人で忘年会ですか?」 誰がと顔引き攣らせる聡志と、それも悪かねえなと哲慈。 桂達はと言えば、これから梨佳の下宿先である大衆食堂で夕食だと言う。 「今日は食堂が定休日なんですよ。それで、お邪魔して水炊きでも‥‥と」 「市場に寄ってから帰るですよ♪」 「「‥‥‥‥」」 場所と設備は整っているので、好きに材料を持ち込んで鍋を食べようという事らしい。 哲慈を聡志は顔を見合わせた。 「それ、よ‥‥飛び入りでも構わねェか?」 「いーですよ〜? 今日、うち御休みですもん♪」 安請け合いする梨佳の言葉で突発忘年会の開催が決定した。 「おーい、鍋食いたい奴いねェかー!!」 哲慈の誘いにギルド中の開拓者が何事かと振り返った。 |
■参加者一覧 / 鈴梅雛(ia0116) / 柚乃(ia0638) / 鬼啼里 鎮璃(ia0871) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 倉城 紬(ia5229) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / リエット・ネーヴ(ia8814) / 村雨 紫狼(ia9073) / エルディン・バウアー(ib0066) / 御陰 桜(ib0271) / 明王院 未楡(ib0349) / 明王院 千覚(ib0351) / 无(ib1198) / シータル・ラートリー(ib4533) / 天津 神(ib8513) |
■リプレイ本文 ●肉! 誘ったとか持て成すとか、遠慮も何もあったもんじゃなかった。 「肉! 肉食うぞ、肉ゥ!!!」 我先にと箸を振り上げた哲慈が、くつくつと香ばしい匂いをたて始めた鍋を覗き込む――と。 肉が入っていた。 否、肉しか入っていなかった。 「いャ、これなンだけどよ‥‥」 思わず絶句の肉だけ鍋。 厨房から大皿かかえたからす(ia6525)がやって来て、哲慈の前に置いた。 「適当に買い込んで来たから、遠慮せずどうぞ」 花弁を描くように綺麗に盛られたすき焼き用肉は、どう見積もっても数人前にはなるだろう。肉争奪戦をする者達が後悔せんほどの量を準備したからすは哲慈の顔色を伺った。 (さて、どうする?) ふふりと内心笑み浮かべ、反応を伺っていると哲慈は戸惑い気味に尋ねて来た。 「すき焼きってよォ‥‥肉とか野菜とか入ってンだよ‥‥な?」 着々と火が通りつつある鍋の肉を見る哲慈の顔には『これウチのすき焼きじゃない』と書いてある。 そう言うことかとからすが納得して厨房へ下がった所で、火の通った肉を皿へ上げながら明王院 千覚(ib0351)が補足した。 「哲慈さんのお宅では、割り下の中で煮るすき焼きなのですね」 「そォなんだよ! なンか違ってらァ」 力説する哲慈へ、千覚の母である明王院 未楡(ib0349)が、娘が空けた鍋の隙間に葱や白菜を足しながら言った。 「地方により調理方法や食べ方に違いがありますものね」 すき焼きにも色々あって、哲慈の知る割下で煮るすき焼きから、牛肉を焼いた後で他の食材を焼き煮する方法、食べ方も溶き卵で肉を食べるか食べないか等々、育って来た環境に違いが出やすいものなのだ。 そして、ここにも環境による初めてさんが一人。 「‥‥あ、自分で取って良いのです?」 我先にと食べ始める皆に遅れて、和奏(ia8807)は確認。 何せ彼は実家では上げ膳据え膳の生活で給仕付きが当たり前、開拓者になった後は基本一人暮らしだったから、こうして皆で鍋を囲む機会というのがなかったのだ。 どうぞどうぞと鈴梅雛(ia0116)が白滝や春菊を彩りよく鍋に加えながら、やんわり宣戦布告。 「ひいなも本気で行きますから遠慮なくどうぞ」 野菜も好きだが肉も確保したい。だから依頼で積んだ経験と鍛えられた力を肉争奪に発揮する! 年の瀬の無礼講、遠慮は無しで好きなだけ食べ尽くそう。 雛のようにバランスよく食べる良い子だけでなく、肉しか食べない悪い大人にも野菜をきちんと食べて欲しい。 未楡は甲斐甲斐しく給仕に勤しんでいる。 「はい、哲慈さん。お肉の出汁が浸みた野菜も美味しいですよ」 「‥‥お、おぅ‥‥」 美人の人妻に勧められては断れぬ。哲慈がおとなしくもそもそ食べている横で、出されれば何でも美味しくいただける和奏は好き嫌いなく食べている。 「お肉にお豆腐、白滝に春菊、葱と椎茸と‥‥後は何を入れましょうか?」 「‥‥焼き麩」 雛の言葉に、ふりふりエプロンドレスの人妖がひょいと厨房から現れて、言葉少なに焼き麩を置いていった。尚、仕込んだのはからす、人妖は琴音である。 「‥‥どうぞ」 琴音、言葉少なに酌をする。持っているのはヴォトカだが――大丈夫だろうか。 千覚が椀に卵を割り入れながら、皆の希望を聞いてゆく。 「雛さんは卵あり、母さまと和奏さんもですよね。哲慈さんは、哲慈さんは、お肉に溶き卵は付ける方ですか?」 「いや‥‥やんねェな。美味ェのか?」 一度試してみませんかと千覚、椀に割り入れた卵を溶き解して差し出した。なるほどこれは味が柔らかくなるなと気に入った様子の哲慈に、あとで雑炊にもしましょうと微笑んだ。 一通りの具材を食べ切って――さすがに、からすが用意した大量の肉は消費し切れなかったので、一部は後日すき焼き丼の具になる事となった――締めに御飯を鍋へと投入する。 「雑炊に混ぜるとよりまろやかな味になりますよ」 何故か悪酔いしている一部男性陣に勧めて、千覚は急用で来られなくなった友に想いを馳せた。 「千覚さん?」 何時の間にか傍に来ていた梨佳が心配そうに覗き込むのを、何でもないと微笑してみせる。 千覚の表情の翳りを、梨佳は北面を覆うアヤカシの闇にあると思ったらしい。励ますように力強く囁いた。 「大丈夫、きっと大丈夫ですよ! だって皆さん頑張ってらっしゃるじゃないですか! ‥‥ね?」 そう言って梨佳は千覚を覗き込んだ。 身体の芯から温まって頬を上気させた雛は、来年も頑張って人の役に立てるようになりたいのだと言った。 「今年も色々ありました。来年も‥‥楽しい事が増えると良いですね」 ――楽しい事が増えますように、人々が笑顔になれますように。 ●熱! さて、こちらはしっとり静かに年の瀬を迎えている、はずの、おでん卓。 「年の瀬らぶいちゃイベント盛りだくさんなんて気にしません、気にしませんともー!!」 酔わずともハイテンションになれる稀有な男が吠えていた。 村雨 紫狼(ia9073)外見年齢二十七歳、萌えをこよなく愛する変態、もとい健全な成年男性の独り身さんとの事だが――サンタコスの可愛らしい女の子にべったり懐かれているではないか! 「もう〜 負け犬ちっくな事言わないでくださいなのですマスタ〜」 他人も羨む超美少女の正体は、紫狼謹製土偶ロイドのミーアなので、彼にしてみれば恋人でも何でもないのである。腕に絡みつくミーアから伝わる拘りの胸の感触も、紫狼にとっては最高傑作の仕様でしかない。 「マ〜スタ〜?」 「ったく! 黙々と食うなよケモミミまーん!」 きょと、と見上げるミーアの視線の先には大好きなマスター。マスターは獣人に絡み酒――です? 「‥‥ケモミミマン言うな」 ぼそ、と反論して箸で大根を切っているのは吾庸(iz0205)だ。一口大に切った大根をそっと冷まして口に含めば、出汁の滲みた温もりが口中に広がった。 ふぅ、と満足の吐息を吐いて手酌で銚子を傾ける。杯を空けてすっかり寛いでいる――が、傍目には黙って独り呑みしているようにしか見えない。 「単身赴任者の哀愁が漂ってますね〜」 きょほきょほ独特の笑い方をしつつ、鬼啼里 鎮璃(ia0871)は味の滲みた大根と卵は良いですよねぇと吾庸に話しかけた。 「おでんと言えば、牛筋は外せませんね。それに厚揚げと蒟蒻も」 「定番だな」 言葉少なだが同意の表す仏頂面に、意外と里芋を入れると美味しいんですよと鎮璃は言い添えた。 「里芋? 煮崩れはしないか?」 「それがなかなか。味が滲みるとふわとろで、お勧めですねぇ」 おでん話に花が咲かせつつ、鎮璃は隣にちょこんと座る猫又の結珠を見た。 「牛スジ、厚揚げ、はんぺん♪」 「はいはい、ちょっと待ってくださいねー 結珠さん、今取りますから」 ご希望の具を小皿に取って、くるりと背を向ける。懐から扇子を取り出し、風が同席者に向かないよう気をつけて小皿の具を冷まし始めた。 そんな甲斐甲斐しい様子を、紫狼大好きっ子のミーアが見逃すはずがない。 「ミーアもマスターに食べさせてあげるのです☆」 鍋に箸をぶっ刺したミーア、熱々に煮えたぎった大根を引き上げた。 「はい、あーんなのです〜」 「ちょ、ちょと待てェ! 冷ませ、冷ましてお願い!」 恋人気分で甘々なミーアは大根の温度など気にしちゃいない! 紫狼の悲鳴が木霊した―― 主従の微笑ましい遣り取りをさらりと流して、おでん組は至って和やかだ。 「蒟蒻を沢山いただいてしまって‥‥持って来ました♪ 鍋に放り込ませていただきますー」 「おでんと聞いて味噌ダレ作ったんですが‥‥丁度良かったです〜」 柚乃(ia0638)が投下した蒟蒻で味噌田楽を始める鎮璃。 味噌ダレの甘い香りに青いもふらさまが鼻をくんと動かした。そこへ白くてちっこいのが加わる。 「七々夜ちゃんもおいでー」 柚乃の膝上でもふもふされていた、もふらの八曜丸に七々夜の白毛が混じった。ありゃりゃすみませんねぇと母親気分で挨拶する梨佳に少女らしい話題を振る。 「来年の話をすると鬼が笑うっていうけど‥‥でも柚乃はね、新年に着る振袖が今から楽しみなの♪」 「柚乃さんがお世話になってるのは呉服屋さんでしたね〜 新作ですか? どんな色なんでしょ‥‥?」 一緒になってわくわくしている梨佳に、「梨佳ちゃんはどう?」と尋ねる柚乃。梨佳はえへへと照れ笑いして、あたしも新年は晴れ着を着るのですと嬉しげに語った。 「そう言えば、七々夜ちゃんは初めてのお正月だねー」 「もふ〜♪」 解っているのかいないのか、柚乃の膝上で七々夜がお利口な返事をしているのを少女達がにこにこと眺めていると。 「おでんが良い具合に煮えてるぜ〜?」 「わー、ありがとです〜」 何やら下心ありげな紫狼が、いそいそと鍋から具をよそってくれた。何の疑いも持たない梨佳は熱々の蒟蒻に味噌ダレを浸けて―― (そうだ、そこで「あつーい」とか言ってエロ表情するんだマイフェアリィ‥‥!!!) 「‥‥ィャァアア熱いいぃぃぃっっ!!!!!」 悶絶したのは紫狼の方だった。野太い絶叫にびっくりして箸を止めた梨佳を魔の手から護ったのは神父様、熱々のうどんをぴっぴと飛ばして牽制を掛けてきた。 「おや、失敬失敬。手が滑りました」 箸の使い方は難しいですねー などと、ここぞとばかりにジルベリア人アピールをしているエルディン・バウアー(ib0066)だが、確信犯だ。ロリコンマンが少女達に不埒な振る舞いをしないはずがないと踏んでのカウンターが見事に功を奏してしまった。 かくして、顔にミミズ腫れを作った紫狼は、ミーアの看護と称する更なる追撃に悶絶したのだった――南無。 「うどん、ですか?」 「水炊き鍋に入れていますよ。梨佳殿もいただきませんか?」 ご近所から沢山いただいてしまったとの事。おそらくはいつもの神々しい笑顔が効力を発揮し過ぎたに違いない。 ●鍋! ――という訳で、最後に水炊き卓を覗いてみよう。 水炊きの鍋奉行は倉城 紬(ia5229)だ。具や割り下の調整やら均等配分に心を配り、浸けタレが足りていないか事細かに気を付けている。しかも食事の邪魔にならぬようさり気ない行動が何とも心憎い。 ただ食いは悪いからと簡単な手伝いを買って出た无(ib1198)、煮立って来た鍋に期待が隠せない。 これは良い酒が呑めるだろう――そんな酒呑みの思惑は、懐から顔を覗かせた管狐にもお見通しで。 彼が尾無狐と呼ぶ相棒のナイは人語は解せど積極的に語る質でもない。そのナイが、にやけているぞと言わんばかりに口元を抓って来たもので、慌てて真顔を作る――が、暫くするとまた頬が緩むのだった。 「まあ! このようなのも、『お鍋』といいますのね!」 蓋を開け、湯気の上がった鍋を見てシータル・ラートリー(ib4533)が声を上げた。冬の鍋物の代表格・水炊きをして「このようなのも」とはどういう事かというと、彼女にとっての『お鍋』は、昨年辺りに口にした香辛料たっぷりの鍋を指すのだ。 鍋料理ほぼ初体験のシータルに驚きつつも、桂夏は黙々とポン酢で白菜を食べている。同じくポン酢の椀を左手に持ち、リエット・ネーヴ(ia8814)は無邪気に言った。 「あのね。えっとね‥‥今年こそ、サンタのおっちゃんとの鬼ごっこに勝つじぇ〜♪」 「サンタ、ですか」 顔色変えずに聡志が問い返した。 サンタと言えば伝承の中で存在する老人で、聡志は見た事がない――ものだから、そこは突っ込むような無粋な事はせずに、幼子は無邪気なものだと黙って豆腐に箸を付けた。 ところがリエットは満面の笑みで話し続けるのだ。 「おっちゃん、強いんだよ! どんなに気配や姿、匂いを消しても必ず判るみたいなの」 サンタとは志体持ちの一種なのだろうか――そんな事を考えながら黙々と豆腐をつつく聡志。 サンタの謎はリエット本人にしか判らない。だがリエットならサンタと逢っていそうな気がする。梨佳がサンタ遭遇時の話をリエットにねだった。 「う? んとね、ソリ引く相方は、昨年に倒したじぇ! 手強かったっ!!」 「トナカイさん倒したですか!? サンタさんどうなったですか!?」 志体持ちすごい。目を輝かせて聞き入る梨佳に、リエットは右拳を堅く握って昨年の状況を楽しげに語り始めた。 「あ、梨佳ちゃんいらっしゃ〜い♪」 御陰 桜(ib0271)が手を振った。足元で利口に待機しているのは忍犬の桃だ。 誘ってもらってちょうど良かったわと桜は言った。 「お鍋が恋しい季節だけど、独りでお鍋ってのは寂しいのよねぇ‥‥」 確かに侘しいものがある。 妙齢の美女たる桜でさえそうなのだから、ギルド職員達は尚更侘しい独り鍋になるところだ。桂夏が白菜をポン酢に染めて頬張っているのとか、さっきから豆腐しか食べていない聡志だとか、独りだとどうなっていたやら――尤も一番危険そうなのはヴォトカで酔い潰れている哲慈なのだが。 酔っ払いの中年男に特製薬草茶を飲ませて毛布を掛けてやったからすが、水炊き卓にやって来た。そろそろご相伴に与るよと琴音と一緒に席に着いた。 「市場でね、いっぱいオマケしてもらっちゃったのよ♪」 桜も技能容貌を最大限に生かしたらしい。開拓者さんさすがですと妙な感心をしている梨佳に具をよそってやって、イイ女になりなさいと手渡す。 「鶏肉は、へるしーなのよ♪」 わんっ、と肯定らしき返事をした桃には葱以外の具を取って、フーフー少し冷ましてから食べさせる。桜自身はポン酢皿と胡麻ダレ皿の二つを作って、交互に味を楽しんでいた。 あちらこちらに一年の挨拶がてら酌をしてまわる无の杯を、神父様は拒まない。 「勧められたなら仕方ありません。ありがとうございます」 などと、したり顔で杯を受けるも、公然と飲酒できる機会が何処となく嬉しそう。梨佳殿も如何ですかと勧められ、梨佳はふるふると頭を振った。 「それは残念。こんなに良い酒なのに」 呑み助二人、注しつ注されつ鍋をつつきながらやっている。酒が進み過ぎて、つい冷まし方の足りない具に箸を付けた猫舌の无が涙目でハフハフ言う一幕もあったりして。 「大人の人はどうしてお酒が好きなんでしょうねー?」 「なー?」 「‥‥‥‥」 ちょろり、无の懐から出てきたナイに梨佳が話しかけた。言葉はないが、微かに頷いたような気がする。 「ナイと七々夜と、そっちは桃ね。我は結珠、よろしくね」 いつしか朋友溜まりができていた。八曜丸も柚乃の膝からご挨拶。 会話が成立しているのかいないのか、朋友達も何やら和やかに談笑らしき雰囲気をかもし出している中、新たな視線が。 ――パウロさまが見てる。 エルディンを追ってやって来た、もふらのパウロが扉の向こうからじーっと店内を見つめていた。 「神父様〜 僕、いい子にしてるからお鍋食べたいでふ〜」 「これは‥‥皆さん、構いませんか?」 気兼ねするエルディンだが、皆に否やはない。 宴会客を新たに加え、年の瀬の宴はもう暫く続いたのだった。 |