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■オープニング本文 戦士にも休息は必要。これは、そんな話―― ●穴場 否、と。 開拓者ギルドの正規係に冷静に告げられて、自称見習い係の少女は猛然と反発した。 「えぇ〜!何でですかぁ!せっかく見つけた穴場ですよぉ」 「梨佳、お前な‥‥今がどんな時期かわかってて言ってるのか?」 「今ですかぁ?理穴に集まり始めたアヤカシ討伐で、皆さんお忙しそうですね〜」 「わかってるなら開拓者を行楽に誘うな!」 どうやら梨佳は、穴場の場所へ行楽に行こうと開拓者に声を掛けていたようだ。 勿論、開拓者達は仕事を探しにギルドを訪れていた訳で、戸惑う開拓者から引き離された梨佳は只今お小言を食っているのだった。 「忙しい今だからこそ、癒しは必要なのですよぉ!」 間延びした口調で力説する梨佳。係は脱力して正論を述べた。 「ここはな、職業斡旋所だ。お前こないだも開拓者にタダ働きさせただろ?あれはギルドの催しっちゅう名目で報酬なしにしたけどな、そう何度も開拓者をタダ働きさせられんだろ」 それとも、お前が報酬支払えるのか?そう問われて梨佳は詰まった。 開拓者ギルドの係員を目指し見習いと称して日参してはいるものの、梨佳は正規の係ではなく収入も得ていない。労働力と引き換えに泊めて貰っている下宿先で食事にありつけなければ食うにも困る有様だ。 そういう事だ、と梨佳をくしゃりと撫でて正規係は持ち場に戻った。暫く黙り込んでいた梨佳も雑用に戻ってゆく。 「う〜やっぱり癒しは必要だと思うのですよ‥‥」 ●脱毛もふら 小さなもふらさまを抱えた男は、こいつを遊ばせたいのですと言った。 「どこか良い場所はありませんか?」 なにぶん不調法でと恥ずかしげにもふらさまを撫でる男の名は月田省吾、もふらさまは省吾が飼い養っている仔で、もふまろ。 この省吾、下級役人――事務職に就いているのだが、この夏は仕事が忙しく家には寝に帰る程度、唯一の家族であるもふまろを構うのもままならず放ったらかしにしていたのだと言う。 するとある日‥‥ 「もふまろがこうなってしまいまして」 「もふ‥‥」 抱きかかえていたもふまろを返して背を見せる省吾、もふまろを見た係は「ああ‥‥」痛々しげに相槌を打つ。 ふわふわもふもふのもふらさまに、円形のハゲが。 ちなみに毛は抜けて暫くした後、精霊力に戻って消えてしまったらしい。 もふもふ鳴いてしがみ付いてくるもふまろをあやして、省吾は心底悔いて言った。 「もふまろをこんな目に遭わせたのは俺です。俺がもっとちゃんと構ってやっていれば‥‥」 「うっわー!かわいい〜!!」 どんよりした雰囲気をぶち破ったのは、自称見習い係。出やがったなという正規係の視線を無視して、もふまろを撫でまくる梨佳だ。 「も?もふ〜♪」 何だか喜んでいるもふまろの様子が嬉しくて、省吾は梨佳にもふまろを預けて話を続けた。 漸く2日の休みが取れた省吾は、もふまろと何処かに出かけようと考えた。 ところが省吾は休日に出かける事など殆どない。買い物に連れてゆく訳にもいかず、職場の同僚に尋ねてみるも皆似たような境遇だ。今の時期に何処の木々が美しいなどと言った情報に疎い面々が雁首揃えた中、同僚の一人がギルドで案内人を頼んでみればと提案し、訪れたという事だった。 「だったらー穴場があるんですけどっ」 「もふ♪」 「こら梨佳!」 話に割り込んだ自称見習いに、係が渋い顔をする。ご機嫌なもふまろを抱えた梨佳は自然豊かな川へ行こうと誘った。それは良いと省吾も乗り気になっている。 でも二人と一匹で川遊びというのも何やら物悲しいものがある。では改めて人を募ろうという事で纏まった。 「俺、里を離れて神楽へ出て来た者なんです。親しい友人は同僚ばっかりで‥‥皆、俺が休みを取っている間働いてます。もし良ければ案内がてら一緒に遊んでくれませんか?」 こいつも喜ぶと思います。省吾はもふまろを見遣ると愛しげに微笑んだ。 |
■参加者一覧
奈々月纏(ia0456)
17歳・女・志
ダイフク・チャン(ia0634)
16歳・女・サ
山本 建一(ia0819)
18歳・男・陰
玖堂 柚李葉(ia0859)
20歳・女・巫
玖堂 羽郁(ia0862)
22歳・男・サ
鬼啼里 鎮璃(ia0871)
18歳・男・志
秋霜夜(ia0979)
14歳・女・泰
グラスト=ガーランド(ia1109)
22歳・男・サ
スワンレイク(ia5416)
24歳・女・弓
設楽 万理(ia5443)
22歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●お休みの日 壁に貼られた求人情報の前で、拳を握る少女がひとり。 ダイフク・チャン(ia0634)は主張した。 「やっぱり休息は必要みゃ〜!」 「僕も暫く林檎さんと遊んでませんでしたね‥‥行きましょうか♪」 その様子に触発されたか、求人を見た鬼啼里鎮璃(ia0871)は、楽しげに受付へと向かった。 受付では藤村纏(ia0456)が今回の依頼人達とご対面。 「初めましてやな〜♪ウチ、藤村ゆーねん。仲良ーしたってや」 纏のおっとりした口調はどこか人を和ませる。彼女が纏う癒しの雰囲気に安心感を抱いたらしいもふまろ、鼻先を近づけてご挨拶。 「はわ‥‥あんさん、犬やのん?それともちゃうのんか?」 「もふまろさん‥‥やっぱり丸眉毛なんです?」 首をかしげ、しゃがみ込んで覗きこむ秋霜夜(ia0979)も、じーっともふまろを見つめて‥‥ 「もふ♪」 小さなもふらさまは可愛く鳴いた――ではなくて、霜夜はもふまろの白い毛並みの中に、人で言う眉の辺りの毛が数本色づいているのを発見。やはりそういう事らしい。 「梨佳ちゃんお久し振り、元気にしてた?」 佐伯柚李葉(ia0859)に梨佳は明るく応えを返す。 再会を喜び合う二人、もふらさまと戯れる少女達――ああ何てキュートなんでしょう! 「なんという愛らしさ!わたくし、もう‥‥もう辛抱たまりませんわ!!」 ちんまりしたもふらさま、何より少女達の可憐さにスワンレイク(ia5416)は早々と壊れ掛けていた。 触ると萌え死ぬ。彼女が。 そんな訳で少し離れているのだが、あまりにも不自然でどう見ても怪しい人である。 「雉と猪の塩漬け肉、野菜と干し柿、団子に‥‥」 省吾に挨拶を済ませた玖堂羽郁(ia0862)は準備に余念がない。食料や道具の調達、指折り数えて足りない分は買出しに。山本建一(ia0819)を荷物持ちに誘う。 普段は静かな川を皆で一時騒がすのだから、水神や川の主に挨拶をしよう。そんな声を上がって、霜夜がいそいそと立ち上がった。 「あたしも行きます〜市場で、お供え用のお酒と胡瓜買わなくちゃ!」 胡瓜?周囲の戸惑った顔に霜夜は至極当然と言ったものだ。 「え?川の神様って、頭にお皿が乗ってて、胡瓜が好物なんじゃ‥‥?」 ●川遊び 買出しから戻った羽郁達から荷を分担し、一行はいざ川へ。 「‥‥おぉお。ええ景色やな、ここ‥‥」 思わず纏が呟いた。 初秋のまだ青い草々、水面は小魚が遊んでいるのが見えるほど‥‥梨佳が穴場と言うだけの事はある。天候の心配もなさそうだ。川岸から少し離れた平地に拠点を作って、まずは川神へ挨拶。 みくまりの かみにぞいのる うるはしの―― 山間を楽の音が流れる中、霜夜が水辺に酒と供物を捧げ、皆で行楽の安全を祈る。楽を奏でるのは、かつて楽師を生業としていた柚李葉だ。開拓者となった今も修練は怠らぬその音色は川の流れにも似て、清らかに緩やかに響き渡る。 笛を構えた柚李葉の視線の先には、舞を納め奉る羽郁の姿。地神への敬意と、神が作りし風景に人が混じる事への許しを請う舞は、羽郁の里に伝わるものだ。略式ではあるが彼らの誠意は神々へと間違いなく伝わったに違いない。 楽の終わりに合わせて静かに舞を締め括ると、羽郁は普段の快活な表情に戻った。 「魚捕まえるみゃ〜!」 早速ダイフクが川へ直行。 思い切り良く着衣を脱ぎ捨てた!――ら、下には水着。用意周到だ。頭に黒猫の綾香様を乗っけて小魚を追いかけ始める。 「さて省吾、少し川上へ行こう」 行楽慣れしていない依頼人をグラスト=ガーランド(ia1109)が釣りに誘う。 「省吾さんは釣りですかぁ‥‥それじゃあ、もふまろさんのお相手は、あたし達が総がかりでっ!」 釣果期待してますよと霜夜はイイ笑顔。取り出したもふらさまのぬいぐるみをちらちらさせると、もふまろは目を輝かせて寄って行く。 「もふまろさま、可愛い‥‥撫でて良いですか?」 勿論と省吾に快諾された柚李葉は、もふもふもふ。 (「もふらさま‥‥禿げるんですね‥‥」) もふまろを覗き込んだ鎮璃は円形ハゲをさりげなく探してみたり。 「林檎さんはもふまろ君にお友達になってもらう方が楽しいかな?」 柚李葉に真っ白うさぎの林檎さんを預けて釣りの仕度。 纏に遠慮がちに毛を梳かれて心地良さそうなもふまろと、もふらぬいを並べ見た霜夜は心中の思いを叫んだ。 「う〜ん、やっぱり本物は可愛い〜!」 (「ラブリー過ぎますわ!もふまろも、ふわもこをもふる乙女達も!!」) 呼吸も荒く、スワンレイクが熱い視線を投げるのは毛動物と少女達。 アヤカシが出そうもない場所なのに、警戒と称して密着してみたり逸れないようにと手を繋いでみたりと、少女達への気遣い(?)が怠りない彼女だが、既に悶絶寸前だ。 しかしまだここで倒れてはいけない。何故ならまだ、乙女達が水に濡れた姿を堪能していないからだ! 「わたくしは万が一の水難事故に備えて岸から監視していますわ」 そんな建前を主張しつつ、絶好の観察位置に陣取った。 ちなみに水深は浅い。溺れる心配はない。だがもし倒れて水を大量に飲んでしまった暁には、乙女達の貞操の危機は間違いなさそうだ。 グラストの釣りへの誘いに頷いた省吾へ、設楽万理(ia5443)が懐から氏族秘伝の薬を取り出して言った。 「危険な場所ではないとはいえ、山の中、森の中は常に虫との闘い。氏族秘伝の虫除け薬を塗って差し上げますわ」 万理の美肌は虫除け薬のおかげである。 優しく微笑む目の前の女性は布で胸元を覆い長めの腰布を巻いた簡素な姿、潤ったすべすべお肌の持ち主で。少々顔を赤らめた三十路前の初心な独身男は、素直に腕を差し出したのだった。 川底の石を持ち上げ虫を捕る。摘み上げたそれを針に刺したグラストは同じものを省吾に手渡すと、竿代わりの枝をしならせ川面にぽちゃんと投げ入れてみせた。 見よう見真似で針を投げ入れる省吾の様子を見届けて、羽郁も糸を垂らす。 水遊びの面々から少し離れてはいるが、省吾にとっても、もふまろにとっても互いが位置が良かろうと、遠目にもふまろ達が視認できる場所である事を優先して選んだ。 釣れるかどうかは、時の運。 なかなか引きが来ない鎮璃は、のんびりと構えて遠くに遊ぶ林檎さんを眺めて微笑んだ。 (「もふまろ君と林檎さん‥‥ちょっと似てるかも」) どちらも真っ白でもふもふで、大切な同居人で。建一と並んで真剣に水面を凝視している生真面目な省吾を見遣り、何か掛かったらしい様子に安堵する。 枝を丁寧に加工しているのは纏。短刀で念入りに仕上げた竿に糸と針を付け、水面に垂らした後は、魚が掛かるのを待つ。 「糸と竿の感触から‥‥感じ取れると思うんやけどな〜成功した事ないねん」 そんな事を漏らしながら、ぽぉっと空を眺めている――あ、ツグミ。川向こうの木々が揺れた。 暫くして手掴みに飽きたダイフクもやって来て、釣りに参加。 「フクちゃん、餌付けようか?」 女の子は苦手な場合が多い釣餌、羽郁が気遣って声を掛けたがダイフクは何の躊躇もなくミミズを探して掴み取ってみせる。 「何が釣れるみゃかね〜?」 強い日差しを避けて木陰から釣り糸を垂らしたダイフクは、わくわくしながら羽郁に笑いかけた。 一方、水遊びする可憐な乙女達(自称保護者視点)と、その見守る保護者は―― 「もふまろさま、こっちこっち!」 「もふ〜♪」 「柚李葉さぁん、あたしももふりたいです〜」 「梨佳ちゃん、次あたしもー!」 もふまろ大人気。可愛い女の子達に沢山構ってもらって、ご満悦だ。 踝を川の流れに洗わせていた万理が振り返って少女達を呼ぶと、乙女達と神獣も賑やかに川へ。 軽く水を掛け合ったり流れる笹葉に目を奪われている様子は、八百万の神々の降臨が如く清らかに美しく―― 「ふふふ。水遊びをする可憐な乙女達‥‥ふふ、うふふふふ」 眼福中のスワンレイクは既に崩壊、そんな平和な昼下がり。 釣りを早めに切り上げた纏とダイフクが下流に戻って来て、入れ違いに万理が森へ消える。 「少し、花摘みに‥‥」 生きとし生けるものへの敬意を胸に、弓術師の娘はその日の糧だけを得に力を振るう。やがて戻って来た万理は、仲間への配慮を施した下処理済の獲物を差し出した。 女子成分が一気に減った上流では、相変わらずのんびりと。 「釣れませんね‥‥」 小さな魚は掛かるのだが可哀想なので逃がしてしまう。夕食に出せるだけの釣果は欲しかった。 「ガチンコ漁に切り替えるか?」 羽郁曰く石打ち漁の事らしい。釣り糸垂らして眺めてるよとグラストに見送られ、下流に向かう男達。 「あ、省吾さん。魚は釣れましたかー?」 「もふー?」 出迎えた霜夜ともふまろに苦笑い。羽郁の最終手段発動宣言に岸へと戻る少女達。 「ところで‥‥竿は置いてきましたが、どのようにして獲るのですか?」 省吾の疑問は、やたら大雑把で野性味溢れる実演で解消された! 「おお‥‥こうやって獲ったらええねんな」 口ではのほほん、けれど岩を容赦なく叩く纏。岩陰に隠れていた魚は堪らない、ぷかーと浮いてきた魚を柚李葉が網で掬うと、ダイフク達がみゃ〜みゃ〜ニャーニャと大漁を喜んで。 「ほら、省吾さんも早‥‥く、あ”〜!!」 川底に足を取られた霜夜の悲鳴がこだました。 ●秋の恵み 「もう少し火に寄って‥‥」 「うう、濡れた身体には、焚き火は何よりのご馳走です‥‥」 火加減を調節していた万理に誘われ、濡れ鼠の霜夜はパチパチ爆ぜる火の前にしゃがみ込んだ。甲斐甲斐しく髪を拭ってやったスワンレイクが役得とばかりに大判の布で濡れた身体を包み込む。ふぅと安堵の息を吐いた霜夜、本物のご馳走も食べますけどねと言い添えて、更に。 「‥‥殿方は、こっちを見てはいけません!」 じろり。この調子なら大丈夫そうだ。 「そうです、あんまり見ちゃ駄目ですよ?」 「けど、こーゆーの、どくしゃさーびす、言うねんな〜?」 手際よく魚を捌きながら、纏のまったり天然ボケが炸裂。柚李葉は纏の手際の良さに感心しつつお手伝い。 女子陣に釘を刺されて、男性陣は明後日の方向に目を逸らしながら食事の仕度。 「纏ちゃんはどんな料理が好き?」 「あんなあんな、ウチはな。甘い物がすきやねん。難しいやろーか?」 小動物のように目を輝かせて期待する纏の様子が愛らしい。 羽郁の準備に抜かりはない。小腹を満たす、ちょっとしたおやつに、甘味に茶葉と準備万全だ。 団子を枝に刺して焚き火の前で少し炙る。甘味噌を付けて纏に差し出した羽郁は懐かしんで言った。 「俺の故郷じゃ、冬にこうやって団子や蜜柑を炙り焼きするお祭りがあったんだ」 その光景を思い浮かべながら纏は団子を一口。 「♪めっちゃ美味しいわ、これ」 おおきにな〜 纏は幸せこの上ない笑みを浮かべた。 「‥‥早く着物、乾かないでしょうか‥‥」 「着物が乾いたら、栗拾いやアケビ採りに行きましょうか」 魚が焼けるまで、まだ時間が掛かりますし。 見てはいけない。あくまでそっぽを向いたままで鎮璃が霜夜を誘い、火の番を残して皆で暫し散策する事になった。 「何か面白い食べ物ないかみゃ〜」 「野生の果物があるといいですねっ!」 「もふー」 梨佳を引っ張って草叢にごそごそ潜って行くダイフクに付いてゆくもふまろ。 もふもふぷりぷりした白いお尻が心配な霜夜だが‥‥案の定、次に姿を現したもふまろはオナモミだらけ。 「ほーら、草の実だらけになっちゃいましたよ〜」 実を取ってやりながら、毛を梳くようにもふもふもふ。もふまろは心地よさげに「もーふっ」と鳴いた。 山栗の木を見つけた羽郁は慎重に足元を探す。見つけた、熟して顔を覗かせた栗。後で火を通せば甘いおやつになるだろう。 林檎さんがイガと戯れている様子に微笑んで、鎮璃はアケビをもぐ柚李葉の籠へ、イガを外した栗を入れた。 下流で皆が楽しんでいる様子をグラストは穏やかに見つめる。釣果は相変わらずだったけれど、のんびりと過ごせた事が何よりの成果だ。 そろそろ下流に行って夕食の準備を手伝うか。多分皆、遊び疲れているだろうから―― 立ち上がった彼に気付いた柚李葉が、下流から手を振った。 ●癒しの刻 焚き火の前には食べ頃の魚や肉、皆の手には柚李葉の心づくしのおにぎり。 「やっぱ、大自然の中で皆で食うのって美味いよなー♪」 満足気に呟いて、羽郁は梅干おにぎりを頬張った。 塩おにぎりに取って置きの醤油を少し垂らして焚き火で焼きおにぎりにしよう。焦がさないように位置を変えながら、柚李葉はギルドで誘いを掛けてきた欠食児童に勧めた。 「梨佳ちゃん、私来られて本当良かった。沢山食べてね」 「あたしこそ、柚李葉さん達とここに来られて良かった〜とっても楽しいです!」 少女達は顔見合わせて笑い合う。 健啖振りを発揮する霜夜と梨佳に給仕しつつ、スワンレイクもうふふと笑う。 「あまり急いで食べると喉を詰まらせてよ?」 そうしたらわたくしが介抱して差し上げますわ――とは続けないが、何やかやと世話を焼くのが楽しそうだ。 「綾香様、焼けたみゃよ〜」 「もふらさまって、お肉は食べられるのかしら‥‥」 万理が差し出した肉を、もふまろはぱくり。ごく普通のわんこ状態でもふもふ食べるもので、皆して撫でて次々食べさせる。もふまろは遠慮しないで食べているが、次に会う時には円形ハゲでなくメタボもふらになっているかもしれない。 「省吾さん、私、肩こりをしてそうな方を見ると無性に肩を揉みたくなるのですがよろしいでしょうか?」 事務職の青年に申し出たのは万理、ツボを押さえた的確なマッサージで凝りを癒す。 (「省吾さん‥‥楽しんでくれているでしょうか」) 持参の梨をむきながら、鎮璃は省吾の様子を伺う。大喜びで構われているもふまろを愛しげに眺めている省吾に陰りはない。 (「楽しませ方を知らなくても、傍に居るだけで良いのですわ」) 省吾の優しい気持ちは、もふまろに伝わっているのだから。それまでとは打って変わった真面目な横顔を見せて、スワンレイクは小さく呟いた。 「家族って、そういうものじゃありませんこと?」 鎮璃は安心して皮むきを続け、そしてもう一人‥‥今回の小旅行の企画や準備に人一倍心砕いた羽郁も、優しいひとときに安堵したのだった。 |