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■オープニング本文 時折強い風が吹き、立ち枯れた路傍の草を揺らしていた。 土壁が剥がれ落ち、敷居から外れた戸板が派手な音を立てて倒れた。痩せた鶏が一羽、顔を出し、きょろきょろと周囲の様子を窺っている。 クー……。 ろくに餌も食べていないのだろう。鳴き声が酷く小さい。 その背後からぼそぼそと何やら人の声がする。廃村のように荒れてはいたが、村人はいるようだ。 「生き物を外に出すんじゃねえ、このバカタレが」 しわがれた声が小さく怒気を吐いた。 「そんなこと言ったって、おじじ」 やせ細っているのは何も鶏だけではない。それを掻き抱く青年の腕も、骨が浮いていた。十五になったばかりの信繁である。 「もうすぐだ、もうすぐ……大八が助けを連れて戻ってくる。それまでの辛抱だ、信繁」 大八とは信繁の父親で、この村の長でもある。 「だけど、もうすでに三日経ってる。もしかしたら親父はもう……」 信繁の両手が痩せた腿の上で握り込まれた。 もう死んでいるのではないか――信繁は喉をひくつかせると、唇をきつく結んだ。 「もうすぐもうすぐと同じことばかりだな、じさまは」 破れた障子の向こうから、浅黒い肌をした青年が口を挟んだ。この男も信繁同様に痩せていて、目だけがぎょろりと光っている。 「村を逃げ出したモンが、無事かどうかも俺たちにはわからねえ。それを確かめに行った村長が戻って来ねえんだからな」 「村長さまは本当に戻って来るのか? 村を見捨てた奴らとおんなじで、もう戻って来ないんじゃねえのか?」 早口で巻くしたてたのは、信繁よりひとつ年上の佐助だった。 落ち間にいる、じさまと信繁の他には佐助を含む、七人の男衆がいる。 「親父はそんなことはしない! 命がある限り、必ず戻ってくる。だから……」 戻って来ないのは戻って来れない状態になってしまったということになる。つまりは死んだということだ。 「そんなはずはない、親父は生きて、必ず……っっ!」 父親の安否を思い、声を荒げた信繁だったが、ふいに表が暗くなったことで慌てて口を噤んだ。 昼だというのに俄かに暗くなる。雨が降っているわけでもないのに屋根がバタバタとうるさく音を立てる。 「来やがった」 誰かがぼそりと呟いた。 カチカチと鉄を擦り合わせたような音がする。ブーンという鈍い羽音が板の向こうを通り過ぎていった。男衆に緊張が走る。手に持っているのは武器と呼ぶには非力なものばかり。だがないよりはマシだ。 「俺が助けを呼んでくる」 信繁は立ち上がり、瞠目している仲間を見下ろした。 「どうやって村を出るつもりだ?」 「俺ん家の馬で行く」 「バカな。あれは今度襲われた時の囮に使うって話し合って決めたじゃねえか。今持って行かれたりしたら、残った俺たちはどうなるんだよ!」 立ち上がり、信繁の襟首を掴む佐助だったが、 「まあ待て。コイツにだって考えがあるんだろうさ」 幼馴染の与六の助け舟に、信繁が大きく頷いた。 「親父は徒歩の上に、裏山にある巣を迂回したから時間を食ったんだ。俺は馬で、巣の下を走っていく。そうすれば武天の都まで何日もかかりゃしない」 俺を信じてくれ。 信繁の声は、この危地において悠然としていた。 「わかった」 佐助と与六が同時に答えていた。 他の男衆も不承不承ではあったが、各々手に武器を持ち、立ち上がる。どのみち蓄えは残り少ないのだ。飢えて死ぬか、アヤカシに食われるか。それならば一縷の望みを信繁に賭けてみよう。 納戸に隠しておいた葦毛の馬を連れ出し、一同が顔を見合わせる。 「行くぞ」 与六が戸板を蹴り倒した。 空を覆い尽くすほどの蟲、蟲、蟲。火打ち石のような音を鳴らしながら、巨大な顎を大きく広げて滑降してくる二枚羽のアヤカシ。 包丁を括りつけただけの俄か槍でアヤカシを牽制する与六と佐助の後ろから、葦毛が飛び出した。鞍などない裸馬に信繁が跨っている。 「必ず戻るっ」 振り返らずに信繁は叫び、疾った。 背後からけたたましい鶏の声がした。蟲達が一斉に群がる音が聞こえる。やがて静かになると、今度は信繁の背後が忙しくなった。蟲が追ってきているのだ。 佐助と与六が何事かを叫んでいる。蟲が向きを変えた。信繁が堪らず振り返ると、黒山の蟲は真っ直ぐに二人へと向かっている。 「佐助ぇぇぇっ……与六っっ!!!」 強く噛んだ唇から血が滲んだ。 疾く――疾く! 信繁は葦毛の腹を強く蹴った。 |
■参加者一覧
鷺ノ宮 朝陽(ia0083)
14歳・男・志
土橋 ゆあ(ia0108)
16歳・女・陰
風雅 哲心(ia0135)
22歳・男・魔
唐舘 孝太郎(ia0665)
26歳・男・陰
越智 玄正(ia0788)
28歳・男・巫
深山 千草(ia0889)
28歳・女・志
はねず(ia1090)
14歳・女・志
久坂 宗助(ia1978)
17歳・男・志 |
■リプレイ本文 ●馬と巣の下 やはりギルド職員は渋い顔でなかなか首を縦に振らない。依頼書を睨んだまま唸っている。 「迅速に現地へ向かう為に馬を是非とも借り受けたい」 巫女、越智玄正(ia0788)も、職員と変わらぬ渋い顔で馬の貸付を頼み込む。越智の外套の裾を掴んで離さないのは、彼を父と慕うはねず(ia1090)。一応志士をやっているのだが――。 「はねずは馬に乗れないのですー。ダメッて言われてもととさまのお馬さんに乗せてもらうのですっ!」 「わかったわかった」 越智は苦笑しながらはねずの頭を撫でた。 「必ず馬は返却する。依頼書を見ていただければ、おわかりであろう。若輩だが、我が志に誓って必ず馬は返す!」 幼さの残る鷺ノ宮朝陽(ia0083)は、しっかりとした口調で言い、頭を下げた。彼もまた志士だ。 歩調を合わせるように居合わせた開拓者達が揃って頭を下げると、「必ず戻してくださいね」と職員は嘆息しながら馬の貸出書へ署名した。 「わたしゃ馬は久々ですから、本当なら徒歩のが気が楽ですがねぇ」 咥えた煙管を上下に揺らしながら、唐舘孝太郎(ia0665)は長唄の節回しで言った。 「早く行けるに越したことはないスからね。とっとと向かいましょうや」 久坂宗助(ia1978)は、腰の刀を差し直しながら戸口へ歩き出した。 「必ず戻ると誓ったんだ!」 ゴネる信繁に、裏山の手前で待つのなら、と約束させて同行を許した。 「道を知ってる人間がいれば、早く着くと思うしな」 風雅哲心(ia0135)は、気を張ったままの信繁の肩をポンと叩いた。 その信繁も、巣――鉄喰蟲が溢れる場所――がある山には入らせず、位置と村の場所だけ聞き出して、彼にはギルドから借りた馬の番をしてもらうことにした。 別れ際、山へ入る一行から志士の深山千草(ia0889)がひとり駆け戻ってきた。 「村の皆さんには、信繁さんの依頼で来たと伝えておくから。安心して任せてね」 不安な顔で自分達を見送る信繁を、千草は安心させたかったのだ。ぎゅうっと握り込んでいる彼の手を両手で包み、 「待ってて」 「お願いします」 信繁は深々と腰を折り、頭を下げた。 峠道はあえて通らず、一行は山中を突っ切ることにした。方角は常に巣を左に位置させながら、茂みを進む。蟲の姿はどこにも見えなかった。 「群れるアヤカシね‥‥。巣で数が増えたりもするのかしら」 陰陽師の土橋ゆあ(ia0108)は、心眼を交互に使いながら先導する志士達の背をみつめながら呟いた。 ●一戦 山を駆け下りた一行は、事態が思っていた以上に深刻である事を知る。荒れた田畑、枯れた用水路。到る所に散らばる人や家畜の亡骸はむごたらしい有様だ。 「あれを見ろ」 風雅が上空を指した。散らばり、周囲の様子を窺っていた仲間達が一斉に空を見る。 一見するとただの黒雲だが、それは無数の蟲の群れだった。――何かを襲っているだろうか。 「のんびり向かってる余裕はないな。急ごう」 言って志士が駆け出すと、 「囮班、蟲は頼んだ」 言葉少なに越智が言う。 「はねずはモーレツに頑張るのです」 「‥‥うむ。あまり無茶はせぬようにな」 子犬のように越智の周りを駆け回るはねずと、彼女の前でだけ僅かに相好を崩す越智。 和やかな空気が流れたが、それも一瞬のこと。すぐに皆の目は狩る者特有の輝きを見せた。 目的は二つ。 「残された者を救う!」 「蟲は全部叩き落とす!」 砂を蹴り、数歩先を行く風雅を追った。 村は壊滅だった。信繁が言っていた、与六や佐助達の安否が気がかりだ。 「今よりアヤカシ退治を始める。村に残っている者は一歩も家から出るな!」 聞く者がいる事を信じ、囮役の久坂が大声で叫んだ。 刹那、上空の蟲が動いた。 続いて鷺ノ宮が甲高く鍔を鳴らし、はねずがでたらめに矢を放ちながら叫んで蟲達を引きつける。 「蟲さん、こちらですよー!」 呼び寄せを二人に任せ、土橋、久坂、唐舘は迎撃態勢に入る。視界に、救出班が入った。彼らが建物の影へ身を潜めるのを確認する。 アヤカシは獲物に敏感だ。ヤツらがたかっていた場所に、きっと人がいる。もう少し、引き離す必要があると判断した囮班は、各々の武器に手をかけたまま後方へ下がった。 余程腹が減っているのか、本能か。蟲共はまんまと追ってきた。 頃合いを見計らい、立ち止まる。砂煙を上げて、同時に振り返ったのは二人の陰陽師。 「斬撃符ッ」 大きく具現化したカマイタチを、黒い一群へと放つ。疾風が駆け、空気を裂いた。数匹の蟲が旋回しながら落下していく。土橋の攻撃から逃れた残敵がすぐさま滑空してきた。 「おお怖い怖い」 呟きつつも攻撃の手は緩めない。唐舘もまた残撃符を放つ。細切れになった蟲が灰燼と化した。残った蟲は散り散りになりながらも、 大きな顎を鳴らしながら開拓者へ突っ込んでくる。 「ハッ」 素早く鯉口を切り、一閃。鷺ノ宮の足元に蟲がぼとりと落ちた。 持ち替えた刀に炎を纏わせ、久坂が鞘走らせる。が、鼻先でかわされた。蟲の顎が僅かに頬を掠めていく。滲む血。 「無茶もなんのその!」 得意の斧ニ刀流で応戦したが、目標物の小ささと俊敏さに振り抜いた斧は虚しく空を斬る。ぷくっ、とはねずの頬が膨らむ。 「当たれば一撃で倒せますね。もう一度斬撃符で散らしますから、後はお願いします!」 言うなり土橋が符を放つ。空が割れるように蟲は左右にわかれ、陰陽師の風刃をかわした。左へ逃げた一群を追うように唐舘のカマイタチが疾る。 グゲッ 醜い声を上げ、蟲が三匹落ちていく。 「楽しくもくだらないお仕事の時間スね。――蹴散らしましょう」 更に細かくなった群れめがけて、鷺ノ宮と久坂の炎の剣が襲う。 はねずの斧も赤く燃え上がり、二人が取りこぼした蟲を一掃した。 陰陽師の斬撃符は効果絶大で、初めこそ苦労したが、命中率はここへきて一気に精度を上がる。 「あっ」 二手目を構えていた土橋の手元へ、一度は地に転がったアヤカシが飛び掛る。 ●救出 かろうじて残った土壁を背に、救出班は村人の元へ向かう。頭上を蟲達が流れるように飛んでいく。上手い具合に誘導されているようだ。 「チッ。まだ蟲が残っていやがる。数の暴力だな。――あいつらは俺が潰す。合図したらすぐ出てきてくれ」 形が残っているだけの家に、執拗に体当たりを繰り返す三匹の蟲。村人はあそこにいる。確信した哲心は、越智と千草に指示を残し飛び出した。 走りながら鞘走らせ、蟲の背後へ回り込み袈裟掛け。刃を返して斬り上げ、逆袈裟から、真一文字に叩き斬る。一瞬の出来事だった。 哲心は越智達の方へ顔を向け、無言で頷く。越智と千草は足音を忍ばせて駆け寄り、戸口の前に立った。 立てつけの悪い引き戸を開け、声をかける。 「俺達は開拓者だ。安心しろ」 「怪我をしている者はいるか?」 「食べ物とお水も用意してきました」 遠くから爆音がした。囮班が戦闘に突入したのだろう。音量から察するに、ここからは相当に離れた場所のようだ。三人は安全であることを告げ、姿を現すよう言った。 まず年寄りが出てきた。信繁の祖父だろう。 「怪我人ならおる。若いのが二人‥‥アヤカシに襲われて。酷い傷じゃが、お願いできるかの」 骨と皮だけの老父が奥へ顔を向けると、四人の青年がそれぞれ戸板を抱えて出てきた。傷口に布が当てられているだけの青年達は、一見して相当量の出血だとわかる。 「こちらへ――早く!」 越智の声音もさすがに荒くなる。それほどに厳しい状態なのだ。 「‥‥呼吸が弱いな。私はこの二人の治療に専念するから、哲心。すまないが他の方々の治療を任せてもいいか」 越智は、出掛けに唐舘から預かった消毒用の酒や医療品が入った皮袋を哲心へ放った。 「わかった。俺も持ってきているから合わせて使うとする」 皮袋を受け取った哲心は、軽傷の村人の治療に当たった。 「喉が渇いているんじゃないかしら。こちら、どうぞ。それから――信繁くんなんですけど」 「信繁?!」 皆の顔に緊張の色が浮かぶ。 「あ、あいつ‥‥無事、だっ‥‥た‥‥すか」 戸板から弱々しい声があがった。越智の治療が始まったからか、意識が戻り始めているらしい。 「無事にギルドまで辿りつきましたよ。彼の依頼で私達、来たんです」 千草が顔を覗かせ、笑顔で答えた。 「よかっ‥‥」 安堵したせいか、青年は癒しの微風に包まれながら眠りについた。 他の者も互いの肩を抱いたり叩いたり、信繁の無事を喜んだ。 「お腹も空いてますよね。村の蟲は他の仲間が殲滅してくれているから、私、ご飯の支度します」 千草は背負った袋を下し、台所へ向かう。手早く襷をかけ、支度を始めた。 「俺の方は粗方終わった。囮の援護に行ってくる」 軽傷の治療を終えた哲心は、框に腰を掛けて足拵えしていた。 「全部片付くまでは出てこない方がいいだろうな」 言って哲心は立ち上がった。 振り向き、村人を見る。 「終わったら戻る」 拝むように両手を合わせる彼らに言い置いて、哲心は囮班の元へ走った。 ●村で 駆けつけた哲心は、地べたで這いずり回っていた蟲の一匹が土橋に襲い掛かるのを見た。大きく踏み込んで刀を抜く。 十センチ程度の蟲の身体は真っ二つにわかれ、地面に落ちた。黒い塊は二度と這いずる事もなかった。 「ありがとうございます」 額と顎先を流れる汗を拭い、土橋は礼を言った。 「住人は無事だったか?」 問われ、「二人ほど重症だったが、越智が力を発揮してるところだ」と救出班の状況を教えた。 「まったく五月蝿いったらねぇな。いい加減いなくなりやがれ!」 夏場に多い羽虫のようである。 「人手が増えたな。よし、この勢いで終わらせよう」 開拓者達は横一列に並び、身構えた。弓を、二本の斧を、刀を――そして符が宙を舞う。 村を襲っていた蟲を一掃し、越智と千草が村人を救護しているという家へ向かった。 日暮れまでまだ一刻以上もある。巣は早めに片付けておくべきとの言に従い、小休止の後、一行は裏山の巣へ急いだ。 「俺は信繁を迎えに行ってくる。村へ送り届けたらすぐに戻ってくるからな」 言うや哲心は駆け出した。 「哲心さん達がアヤカシに気づかれでもしたらやばいッスからね。俺達もすぐに行きましょう」 久坂の言葉に皆頷き、哲心と同様に駆け出した。ただし、向かうのは裏山。――アヤカシ溢れる巣だ。 ●業火に巻かれた巣 何匹かが山の中を飛んでいた。村での異変に気づいたのか知らないが、傍目から見ても警戒心が高まっているのがわかる。 巣があるという神社の本殿裏に到着した。濃密な瘴気のせいか、周囲の木々は立ち枯れてしまっている。 「さっき見かけたヤツですかねぇ。蟲が戻ってきたでござんすよぅ」 姿勢を低くさせ、大木の影に身を潜める。 「まずは残敵の始末からッスね」 開拓者達はアヤカシの下へ踊り出て、苛烈な攻めを繰り広げた。突如始まった攻撃に右往左往する蟲共は、成す術も無く撃ち落され、切り刻まれていく。 越智手製の囮玉を放り投げると、顎を歓喜の如く鳴らしながら集まってくる。 「ヤァ!」 土橋の手から放たれた式は、鎌の大きさを変え、蟲を串刺しにしていった。 村での戦闘で、素早く逃げ回る小さな標的を、確実に仕留めるコツを掴んだようだ。接近戦を挑む千草も、炎魂縛武を見舞う久坂の一手も面白いほどに当たる。やがて小さなアヤカシ達は土くれの中へ染み込んでいった。 「はねず達は巣を燃やす準備を始めるねー」 はねずはお得意の斧捌きで次々に木を切り落し、巣と化した瘴気の塊の上へ積んでいく。 燃え易いようにと枯れ木を用意する鷺ノ宮。 「それじゃあ、仕上げといきやしょう」 唐舘は松明に火を灯し、巣の周囲を回りながら点火していった。 火は枯れ木や葉に燃え移り、浄化するように瘴気を覆っていく。通常なら燃やすだけで瘴気の塊が消えることはないのだが、運良く枯れてくれた。 いつ、どこで生まれるかわからない瘴気の塊。――そしてアヤカシ。 それならせめて、消滅できた現実を素直に喜ぼう。 燃え盛る炎と立ち上る黒煙を眺めながら、開拓者達は思った。 ●村長 信繁を村まで送り届けた哲心が、神妙な顔で戻ってきた。 「どうしたんスか? 巣の方は滞りなく完了ッスよ」 「たぶん‥‥アレ。村長だ」 苦々しい顔で呟き、俯いた。哲心の元へ集まってきた仲間達は互いに顔を見合わせながら、 「村長って、信繁くんのお父さんの?」 「みつかったのか」 「その表情から察するに、私の出番はないのだな」 信繁の依頼は恙無く完了したが、彼の心中にあっただろう危惧もまた現実となって現れた。 「どこかで生き延びていてくれたらよござんしたのにねぇ」 一服するのに持ち出した煙管に火を点けながら、唐舘がぽろりと零した。 「村長さんをどこでみつけたの?」 千草が動き出す。 「本殿の脇から少し横へ入ったところだ。たぶん――」 村長も最短距離を選択して助けを呼びに行ったのだ。運が悪かった。だが、そう片付けるには悲しすぎる真実だ。 「私、村へこの事を知らせてくるわ。きっと知りたいと思うもの」 時間があれば探したいと思っていた千草は、そう言って踵を返した。一路、村へと向かう。 辺りはもう薄暗く、半刻もすれば闇に包まれるだろう。 「今夜は村へ泊めていただきますか」 「村長の弔いは明日でいいな」 一仕事を終えた開拓者達は、揃って山を下りた。 信繁達の村が再建するまで、どうかアヤカシなんぞに襲われませんように。藍色に染まった村に灯る、たったひとつの明かりを見ると、そう願わずにはいられなかった。 「‥‥知れば悲しも」 唐舘の三味が物悲しく唄う。 |