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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 窓の外に深い闇の帳が下りたというのに、山積みになった古い報告書は減る気配を見せなかった。一冊一冊の報告書を丹念に読み解き、自らが持つ疑念の正体を探っているのはレイ・ランカンだった。ただひたすらに文字を目で追い、淡々と書き連ねられている文面の奥に潜む真実を探る。 「ふう」 嘆息しつつ一冊を脇へ置く。が、もう一度表紙を開き、ぱらぱらとページを繰った。 (「やはり、ここへ一度訪れてみるべきだろう」) レイが再度目を通しているのは、五年ほど前に起きた飛剣天仁が神楽の都を追放されるきっかけとなった事件の報告書である。 天仁の加勢なく、支援に駆けつけた開拓者及び村民に甚大な被害を齎した、とあり、死亡者や重傷者の具体的な数値は記載されていなかった。 (「見殺しにした、とは聞いていたが‥‥これを読む限りでは全員死亡したというわけではないようだな。生存者のことには触れていないが、探してみる価値はあるだろう」) レイは、天仁と接触してから疑問に思うことがあった。 黒尽くめのあの男は『裏切り、抗え、守るか庇うか――』と言った。その真意がなんなのかを、レイは知りたいと思った。忠勇無双の男が、なぜ仲間や守るべき者達を見殺しにしたのか。手元の報告書にはいっさいそれらに触れられていないのだ。 そこを突き止めない限り、天仁の悪行は止まらぬだろう。 いや、突き止めたとしても、もはやアヤカシの手先になってしまった男を救う手立てはないのかもしれない。 レイは、これから自分がやろうとしている事が自己満足に過ぎないことをよく知っていた。それでも、知りたいと思う気持ちは日増しに強まっていき、焼ける思いに駆られるようにレイはギルドを飛び出していた。 数日後。 小さな集落にレイは姿を現した。 ようやく掴んだ生存者の情報を元に、レイは一軒の戸を叩いていた。周囲には猫の額ほどの畑があるだけで、お世辞にも肥沃とは言い難い土地である。痩せて乾燥した土地に、申し訳程度の家が四軒ほど軒を連ねていた。身を寄せ合うように並ぶ家の中で、比較的大きな家のドアをレイは叩いた。 賑やかな子供の声と共にドアは開かれたが、はしゃいだ幼児の様子とは打って変わって家の中はしんと静まり返っている。 レイが用件を告げると、家長と思われる老父が眉間に深いしわを寄せた。快い返事はもらえなかったが、一晩の宿だけは与えてくれた。悪い人間ではないとレイの直感が囁く。 天儀では毎日のようにアヤカシによる襲撃事件が起きている。五年前といえば、さほど古い話ではないが、直接関わっていない者にしてみればすでに遠い過去の出来事に過ぎない。 だが、彼らにとってのあの事件は今も心に大きな傷を残したままなのである。癒されることのない凄惨な記憶は、何年経とうと消えることはない。 一様に口は堅く、子供達の明るさだけが、ぽわりと周囲を温かく包み込んでいた。 滞在を請うと、意外にも快諾してくれた。もちろん客として来たわけではないのだから、相応の対価は支払うと言った。彼らは金ではなく子供の守りを頼んできたので、レイとしてはいささか不安はあったけれどもそれを了承し、その集落に止まる事にしたのだった。 それでも子守りに来たわけではないレイは、何とか情報は得られないかと考えて、ギルドへ一通の書簡を送った。 協力依頼の旨が書かれた書簡は、程なく神楽のギルドへ到着するだろう。とにもかくにも、彼らの重い口を開くには信用を勝ち取らねばならない。そして情報を得るのだ。 (「あの事件の時。いったいなにがあったのか――」) |
■参加者一覧
緋桜丸(ia0026)
25歳・男・砂
柄土 仁一郎(ia0058)
21歳・男・志
緋炎 龍牙(ia0190)
26歳・男・サ
柄土 神威(ia0633)
24歳・女・泰
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
ジークリンデ(ib0258)
20歳・女・魔
ディディエ ベルトラン(ib3404)
27歳・男・魔
神座真紀(ib6579)
19歳・女・サ |
■リプレイ本文 レイ・ランカンの要請で開拓者らが集落を訪れたのは、午後の三時を少し過ぎた頃だった。冷たい風が吹きすさんでいるというのに、畑の脇では子供達がはしゃいだ声をあげて遊んでいる。 初めて見る人間ばかりなのに、子供達はすぐに駆け寄ってきて、「れいちんのともだち?」と口々に聞いてきた。 どうやらレイは、れいちんと呼ばれているらしい。 年長の少女と連れ立って迎えに出てきたレイに、 「レイさんからの要請に、何事かと思ったが‥‥大事はないんだな?」 と柄土 仁一郎(ia0058)が問う。レイは小さく頷いて大事ない事を伝えた。 「到着して早々ですまぬが、さっそく茂殿に会ってくれ」 真冬の水仕事で荒れたレイの指が一軒の質素な家を指す。 家長の茂は、囲炉裏の傍で憮然とあぐらをかいて皆を迎えた。綿入れの袖口に手を差し入れ、 「話は粗方ソイツに聞いてる。好きにしな」 そこまで言うと、後は固く口を噤む。 「力仕事も厭いませんので、何なりとお申し付けくださいませね」 両手を胸に当て、美麗な笑顔を見せたジークリンデ(ib0258)に、茂は頷いただけだった。 その日は初日という事もあり、菊池 志郎(ia5584)や神座真紀(ib6579)が持参した食料で、開拓者の食事披露なるものを行うと意外や二人の夫人が興味を示した。双子の少女は芋幹縄に舌鼓を打ち、母親に「今度試しに作ってみて」と難題を押し付けている。そんな家族の団欒を眺めながら、彼らの心の傷を抉る事になるかもしれない情報収集に、自身の過去を重ねた巫 神威(ia0633)は、ふっ、と目を伏せた。 食事を終えた皆は、各家に世話になる事を承諾してもらうと就寝時間を待ち、それぞれの家へと別れたのだった。 ひりつくような寒い夜が明けると、小さな集落に叫び声が轟いた。次男の時雄の家からだ。そんな声など聞いた事がないレイが長男宅で飛び起きると、双子の姉妹が声を揃えた。 「お兄ちゃん達も気の毒ね」 次いで隣家から聞こえたのは賑やかな笑い声だった。 「こいつっ。待て、こら!」 緋桜丸(ia0026)は薄い布団から飛び出すと、すかさず脇を駆け抜ける九歳児をひっ捕まえた。 隣で寝ていた緋炎 龍牙(ia0190)は片手で鳩尾を擦りながら、空いている方の手で枕元の眼鏡を掴み装着。そしてようやく事態を把握した。狭い部屋の中で、煎餅布団の端を踏みながら九つと五つの兄妹がはしゃいだ声を上げているが、兄は首根っこを緋桜丸にがっちり押さえ込まれていた。 「俺はな、泣く子も黙る鬼隊長様だぞ! おまえら後でお尻ペンペンだからな!」 初めての来客が珍しい開拓者とあって、子供達はのぼせたようにはしゃいでいる。寝込みを襲えば勝てるという浅慮ながら、それはそのままごっこ遊びへと変化した。両手を頭上に掲げた緋桜丸が、「うおぉぉ!」と唸り声をあげて追い掛け回す横で、膝に妹を乗せた緋炎が呆れたように笑っている。 (「そのケガで元気だねぇ」) 追い掛け回されていた少年が形勢逆転とばかりにくるりと向きを変え、緋桜丸に蹴りを食らわすと巨躯は大きく身体を折り曲げて大げさにやられて見せた。勝ち鬨をあげる少年だったが、すぐにその顔色が変わる。 派手に開けられた板戸の向こうに、仁王立ちの父親の姿を見たからだった。 「やっつけただのなんのと、いい加減にしろ。父さんがそういうの嫌いなのは知っているだろう」 二人の子供は項垂れて、小さな声で父親に謝った。 (「父親にしては珍しいねぇ」) 緋炎は少女を優しく慰めながら、些細な事に腹を立てる時雄をみつめた。ただの“ごっこ遊び”だろうに――。 時雄宅での喧騒をよそに、集落を後にする三人の姿があった。久と志郎、ジークリンデだ。買出しに出向くという久の荷物持ちという名目である。それは表向きで、久と早く打ち解ける思惑もあった。 ジークリンデは神威から預かった金子で、彼らと同じ食料を買う。集落から徒歩で行ける所に小さな町はあり、なぜ一家がここへ越さないのかが不思議だった。ほとんどの品が町で揃うのだ。ジークリンデがあれこれ買い込もうとするのを見た久が、自分らの為ならその必要はないよと言った。その代わり、すっかり言葉少なになった姉ナツの話し相手になってくれと頼んだ。 「私でよろしければ幾らでも」 「頼んだよ。‥‥おや志郎くん。あんたはその背負子が似合うなぁ。はははっ」 「‥‥お褒めに預かり」 闊達に笑う久を、志郎は複雑な思いでみつめた。こんな風に笑えるようになるのに、どれほどの時間を費やしたのだろうかと。 昼前には買出しから戻り、荷は一端茂宅へと運んだ。待ち構えていたようにエツ、聡子は頼んでいた物を取り出して自宅へと帰る。志郎は久と一緒に、ジークリンデはナツの家へと食料や生活用品を手に戻った。 数日間は、彼らの生活に馴染むように過ごした。ついでだ、と言っては家屋の修繕に勤しみ、ディディエ ベルトラン(ib3404)のように手品だと嘯いて魔術を見せたりもした。 「さてさて〜、小さな子供にうけますですかねぇ」 子供達は目の前で起こる出来事が不思議で堪らず、痩身の魔術師にしがみついては次を強請った。 集落を訪れて四日程経った頃には、エツと聡子とは打ち解ける事ができた。生きるしたたかさを持っている彼女等は、過去を過去として見られるようになっていた。家族をすべて失った聡子は重いはずの口を開く。 「失ったものは戻らない。でも泣いてばかりもいられない。だって私達は生きているんだから」 夕餉に志郎の笛が披露されるのも定番となり、初日に感じたぎこちなさはほとんどなかった。相変わらず茂は憮然としている事が多かったが、深く刻まれた皺が時折笑みを象っていたのを柄土と神威は気づいていた。 明日はもう集落を発つ日である。神座は、このまま聞かなくても良いのではないかとさえ感じていた。無理に聞き出す必要はないのでは、と。神座はナツの口が自然に開くのを待ったが、ダメならそれでも構わないと思った。信に足らなかっただけと―― 「なぁんにも聞かないのねぇ。二人が私に聞く事といったら、好きな食べ物はなに? 好きお菓子はなに? 何か困り事はありませんか? ばかり。聞きたい事は他にあるんでしょうに」 家への帰り道、ナツが突然言った。彼女が笑っているようにも見えたが白い息が口元をすっかり覆い隠していて読み取れない。ジークリンデと神座は顔を見合わせた。二人の口元も吐く息で白く煙る。 隣に並ぶナツの家にはすぐに到着した。ナツが部屋の定位置に腰を下ろすと、ジークリンデは骨ばったその肩を揉む。手早く茶の支度をした神座はナツの向かいに座った。苦しみを分かち合えれば、とジークリンデが打ち明けて欲しいと零せば、神座は気になっていた事を問うた。佐助、時雄兄弟の事である。 「それはね。水紛争のせいだよ」 「水紛争?」 「一つしかない水源地が元で二つの村に水紛争が起きたんだよ。少ないなら分け合うべきで我を通してもいい事はない。証を立てる事はできないけどね、アヤカシの襲撃には揉めていた村の権力者が関わっていたらしいと聞いたんだよ――まあ、みんな散り散りになってしまったから本当か嘘かもわからないけどね。二人は人のそういう部分が嫌いなんだよ。勝ったの負けただの。やっつけただの‥‥たとえ子供の遊びでもねぇ」 しんと静まり返った部屋の中で、囲炉裏の火が小さく爆ぜた。 寂しくなるねぇ――またひとつ、火が爆ぜた。思わず、ジークリンデと神座は老婦人の手を握った。 「寂しい思いさせたいわけやないんよ。うちらは」 「わかってる。真紀ちゃんはいい子だもの」 神座がぎゅうと手を握れば、ジークリンデも同じように握り締める。言葉は少ないが思慮深いナツとの思い出が溢れかえる。 「お役に立てましたでしょうか」 「ええ、とても。こんなにお喋りしたのは何年ぶりかしら。ありがとうね、ジークリンデちゃん」 ナツは離すのを惜しむように、二人の手を何度も握り返した。 「お前さん達の望むものは手に入ったかい」 ぼそりと茂が呟いた。その手には数枚の花札が握られている。札の読み方すら知らなかった老父も、この数日間で神威をも凌ぐ強さになった。 「私、花札弱いのかしら?」 小さく洩らす神威は、そのまま札を置き、 「今後の予行演習には最高でした。これでいつでも赤ちゃんを運んできていただけます‥…――その口ぶりですと、お話を聞かせていただけるということでしょうか」 神威の言葉に茂は初めて笑顔を見せた。レイといい、開拓者は皆根気強いのかと笑って言った。すでにアヤカシの襲撃に関しては少しばかり聞いていた柄土が言葉を挟む。 「この集落はお身内だけなのですね。理由を訊いても?」 「なに。誰も故郷の土地を捨てられなかったってだけさね。まあ久だけは違っていたが、それでも帰ってきた」 「飛剣天仁というサムライをご存知ですか」 居を正した神威が茂に向き合い、訊ねた。柄土が驚いたように片眉を上げる。だが強い意志を孕んだ双眸を見て、柄土は神威の気の済むように口唇を引き結んだ。 「私にできるのはこうして直接お話しいただけるか、お伺いすることくらいです」 神威は視線を下げ、そして頭を下げた。 「知らない事は話せないが、知っている事なら覚えている限り話そう」 その代わり、一度くらいは花札で勝たせてくれと茂は相好を崩した。彼らは排他的などではないと、その笑顔によって柄土と神威は気づく。癒される為の風が必要だったのだ。澱のような負の感情を押し流してくれる風が。そしてその風が自分達であった事に、二人の胸はどうしようもなく熱くなるのだった。 「いよいよ明日だね。長いようで短いな、一週間ていうのは」 久が寝床の支度をしながら、ぽつりと言った。 「それでは今夜は夜更かしといきましょうかね、ええ」 人差し指を立てたディディエが一番に寝床へ腰を下ろした。次いで志郎も決まった布団の上へ座る。 「愉快な話とは言えませんが、不可思議なお話を」 ディディエは、天仁が関わった人を襲わないアヤカシ襲撃事件を寝物語のように話した。だが久は思いがけない情報を寄越してくれた。 「アヤカシを利用する人間がいるくらいだから、そんなアヤカシがいても不思議じゃないかもね」 「アヤカシを利用? 知っているのですか? そんな人間を」 志郎とディディエは目を剥いた。久は首を横に小さく振り、 「噂だけどね」 なるほど、とディディエは呟いて、 「次に彼が何処で何をしでかすのかの予測も立たずでして、はい。ですが‥‥そのような噂の存在を聞くと、なにやら怪しい臭いがしますですねえ」 「ギルドから応援の開拓者が来たと聞いたんですが、最終的には開拓者や村の方々はどれくらい‥‥いえ、言い難いのでしたら無理にとは」 「応援を呼んでくれたのは、その飛剣天仁てサムライだよ。一度目の襲撃時に居合わせたのがこの人でね。二度目の襲撃を警戒するのに応援を呼んでくれたんだ」 「居合わせた?」 「そうらしいね。宿に泊っていただけって話だ。一度目も二度目も皆で力を合わせてアヤカシを追い返してくれた。遠くからだったが、あれが開拓者っていうものなのかって思ったよ。とても強かった」 「二度目、というと三度目があったということでしょうかねぇ」 「‥‥あったよ、三度目の襲撃がね。飛剣って人は‥‥三度目の時にはただのでくの坊に成り下がっていたけどねぇ。おかげで仲間がみぃんな死んでしまったよ」 志郎もディディエも掛ける言葉を失った。饒舌に喋っていたはずの久の膝に、ぽつりと涙が零れ落ちたからだった。 聡子は繁々と緋桜丸の腕を眺めている。真新しい包帯も、子供等と遊んでいる内に薄汚れてしまっていた。 「上質なものではないですが、取り替えましょうか」 と聡子が手を差し出すと、 「そんな気遣いは無用だよ、お嬢さん」 「開拓者さんっていうのは皆そうなんですか? 女性は皆お嬢さんと」 緋桜丸は集落の女性をすべからくそう呼んでいたので、思わず聡子が訊ねた。 「深い意味はないから気にしない方がいいですよ」 言って緋炎はちらりと時雄を見た。上流階級の紳士ならば腹を立てたりはしないだろうが、聞きようによっては緋桜丸の発言は間男のそれだ。だが時雄は平常と変わらない緩い微笑を湛えたまま、一緒になって笑っている。 やはり諍いや争い事を好まない性格のようだ。 さて、と緋桜丸が己の膝を打った。三人の子供達は昼間の内に散々遊んでやったので、今は深い眠りについている。 「俺は嘘が嫌いだ。常に自分と向合う覚悟を決めている」 「‥‥」 一週間を一緒に過ごしてきて、少しは人となりを知ってもらえたという自負に突き動かされての発言に、時雄の顔が引き締まった。レイがやって来て、開口一番五年前の事件の詳細を教えてくれと言われた時は、多少腹も立ったが今は違う感情に満たされていた。 緋桜丸の傷だらけの腕を見つめ、そして視線は緋炎の右頬にある十字傷へと移る。彼らは常に死線を潜っているのだ。その双眸に、どれほどの仲間の死、愛する者の死を映してきたのか。 時雄は大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出した。 「役に立つのかわかりませんが、どうぞ何でも聞いてください」 「それでは遠慮なく聞かせてもらいますか」 緋炎は矢継ぎ早に飛剣に関する質問を並べ立てたが、時雄はそのどれもに落ち着いて答えた。 「時雄さんから見て、当時からアヤカシと内通していそうな雰囲気はありましたか?」 この質問に時雄は首を捻った。 「アヤカシと戦っている時は凄い人だなと感じましたが、必要な事以外は話さない無口な人だったという印象しか、‥‥そういえば最後の襲撃の時、この人、今までそんなもの持っていなかったのに笛なんかを握って戦場に突っ立っていたんです」 子供等を抱えて逃げる際に、ちらと見えた天仁の手に、剣ではなく笛が握られていたというのだ。 「笛?」 緋桜丸は眉を寄せた。 (「‥‥飛剣天仁、実に興味深い人物だよ」) 修羅道に身を置きながらも人の側に添う緋炎は、戦場に笛を持って立ち尽くす男の姿を思い描き、くつくつと喉を鳴らして笑った。 久と買出しに訪れた村で休憩を取る中、レイらは得た情報を報告し合った。兄弟が争いを毛嫌いする理由がかつての水紛争によるものだという事。アヤカシの襲撃に纏わる恐ろしい話も得た。信憑性は少ないが、眉唾だと跳ね除けるだけの証拠もない。 「アヤカシの襲撃が人の依頼からなる仕業だとするならば‥‥どうやって人はアヤカシと接点を持ったというのだ」 レイは苦悶の表情のまま唸る。 アヤカシと人が手を結ぶ? そんな事があるのだろうか。 「いやしかし、そこに飛剣天仁の秘密があるのかもしれぬ」 |