鵬沃平原の決戦
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 難しい
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2015/05/21 17:46



■オープニング本文

「いよいよ時が来たの」
「はい」
 ここは蝉黄という中規模の、子供の背丈程もある立派な壁に取り囲まれた守りに秀でた村の、領主の館の一室。
 次々と運び込まれる資材に長期間の圧政で痩せているとは言えだいぶ活力を取り戻した人々が忙しく立ち働き、村の要所要所に指揮通りに荷を割り振ったり救護用の場所を作ったりしている、そんな姿を眺めていたのは蒼旗軍のガランと、清璧派の綾麗です。
「策が成らねばそのまま死ねと言っている役目、申し訳ないと思っておる」
「……策が成らねば再起の芽をも摘まれかねない。そこで先陣が生きる死ぬと言って何になります。それよりも、いざという時には必ず、貴方だけでも逃げ延びて先に繋げて下さい。その為に、穏春を常に側に置いていて下さい」
「若き蛇を傍らにか……一度堕ちた蛇ぞ?」
「いざという時には、私は彼に全てを託します」
 何の心配もいらない、そう微笑を浮かべて言う綾麗に、信じよう、とガランも頷いて。
 やがて協議の場へと続々と集まってくる、縁を繋げた各門派、各町村の町や将達が集まってくると、二人は彼等を迎え入れ、軍議が始まるのでした。

「今回は一緒に行くからな、誰が何と言おうと、絶対だ」
「ぼ、僕だってっ!」
 軍議の後、綾麗に詰め寄るのは泰拳士の岳陽星と、赤蛇・穏春です。
「穏春は駄目だよ。いざという時には、雷晃から包みを受け取って、ガランさんを守りながら撤退しなければいけないのだから」
「なんでっ、僕だって戦えるのにっ!」
「なんでって、私が先陣なら、清璧の後陣は、今穏春しかいないでしょう?」
「あ、じゃあ俺は付いてって良いんだな」
 でも、ともごもご不満げに何か言おうとする穏春ですが、そこへ金剛派の僧兵に連れられ歩み寄る長身の男性、八極轟拳に主に従い身を置きながらも非道に耐えられず裏切り処刑されるところだった黄遼燕です。
「私もご一緒させて頂きます。花道は、年長者へ譲るものですよ、赤蛇」
「遼燕さん! 金剛山で療養していたとは聞いていましたが……」
「この通り、掬い上げられた命です。いざという時のために、山の方々に混じって修行のし直しをさせて頂きました」
 そう言って、金剛山の印へと変わった長剣を見せる遼燕。
「…………絶対……死んだりしたら許さないからなっ!」
 食い下がっても無理と分かってか、顔を真っ赤にしながら部屋を飛び出していく穏春を見送ると。
「何があっても私達は、蒼旗軍へと轟煉を近付けさせない。彼等がなせねば、命に代えても蒼旗軍の退却する時間を稼ぐこと」
「馬鹿にすんなよ、奴らを叩き潰すつもりで行くぜ、俺は」
「……轟煉を討つ役目ではありませんが……残党の殲滅の許可は頂けるのでしょうね?」
 綾麗の言葉ににと笑って言う陽星に、穏やかな笑みに何処か剣呑な光を浮かべる遼燕。
「勿論。存分に迎え撃つ、私達武門にとって誉と成る戦いとしましょう」
 厳しい表情を浮かべていた綾麗は二人の笑みにつられたようにくすりと笑うと、強い決意を込めてそう言うのでした。


■参加者一覧
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
紅 舞華(ia9612
24歳・女・シ
嵐山 虎彦(ib0213
34歳・男・サ
鳳珠(ib3369
14歳・女・巫
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔


■リプレイ本文

●出陣
「今こそ、八極轟拳を、轟煉を討つときです!」
 蝉黄の陣内、戦いへと向かう緊張感と興奮と、そして恐怖にざわめく兵士達の前で、壇上へと上がった綾麗の声が響き渡ります。
「武人として恥じぬ戦いを! 挑むが死地であろうと、共にっ!」
 地響きのような賛同の声がやがて喊声となり、壇上を降りた綾麗は蒼旗軍のガランへと目礼し出撃していきます。
 その、ほんの少し前。
「利諒、来ていたのか……って、その姿は……」
「舞華さんが決戦にと言うことでしたので、僕も休暇を頂いてきました」
 出陣前の支度の途中、紅 舞華(ia9612)が自陣を見回っていれば、そこにあるのは開拓者ギルド受付の青年利諒の、鎧を着込んで面頬を付けんとする姿でした。
「いや、でも……」
「刀を振るえるのに何もせず待ってなんか居られませんよ」
 危険だからと言いかける舞華ですが、にこにことしながらの利諒の言葉にどこかしらほっとしたような心持ちを覚えると、二言三言互いの持ち場について話して。
「その、利諒」
「はい、何でしょう?」
「この戦いに勝利したら結婚しよう」
 舞華の言葉に目を瞬かせた利諒は、かぁっと顔に赤みが差すも、困ったような照れ笑いを浮かべます。
「言うの先を越されちゃいましたね。必ず勝って、一緒になりましょう」
 これから起こる激戦、その前に舞華と利諒は、また後で、そう言って互いに戦支度へと戻るのでした。
「突進する敵や後方にいる筈の轟煉の動きが把握でき、御味方に情報を伝える為に必要かと」
「うむ。物見台まで意識がまわらんかった」
「間に合って良かったですね」
 助かった、ガランの言葉に微笑を浮かべる鳳珠(ib3369)、幾つか連携の確認をしてから陣幕に戻る二人。
「大凡の方針は確認しましたが……」
「ああ、肝心の用兵の方で、まだ少々不安がの」
 絵図面を広げて現在の状況を確認しながら眉を寄せるガランは、幾つか地点を指し示しながら説明する鳳珠の策に暫し考えると得心いったようで頷くと。
「確かに、轟煉と轟拳相手じゃ、有効に思う」
「では、私もそろそろ配置に戻ります」
「武運を」
「お互いに……」
 小さく頷くと、鳳珠は宝珠の埋め込まれた龍の紋の楯を手に陣幕を後にするのでした。
「紅梁と鼓青では、鼓青の方がやや手薄な訳ね」
「はい。護りと言われれば難しいところではありますが、鼓青の方がやはり押し返す力ではだいぶ差が出てしまうと思うので」
 外套の頭巾を目深に被った小柄な影、どことなく特徴のある尖った帽子の上から外套を被りまるで姿を隠しているかのようなその人物が尋ねるのに頷く綾麗、幾つかその場で確認を取ると、外套の人物は蒼く優美な鎧を身に纏った武芸者達と共に赴くよう。
「あたしが加わっていることは内密に……下手に知られると作戦に悪影響が出る可能性あるからね」
 くすりと浮かぶ口元の笑み、ゆったりと鼓青の一軍と合流するために向かう外套の人物を見送ると、綾麗は直ぐに別の隊の確認へと赴くようで。
「決戦前だから鼓舞も大事だろうが……おや?」
 忙しげな様子の綾麗へと目を向けた羅喉丸(ia0347)は、黒地に赤の縁取り、そして青い布飾りを身に付けた少年が低めの塀に腰を下ろして脚をぶらぶらさせながらむくれているというかふて腐れた様子で座って居るのに気が付きました。
「穏春」
「ん……? あ、お前は……」
「どうしたんだ、そんなところで」
「べっつに、お前と違って置いてけぼりだからって、何とも思ってないさ」
 ぷいっと肩を竦めてそっぽを向くのを見て、赤蛇としてではなく年相応の少年の姿に思わず小さく笑みを浮かべる羅喉丸。
「穏春、後は頼む。そうだな、帰って来たらあの時の再戦をしようか。御前の本当の拳が見たいしな」
「……」
 にと笑って拳を見せる羅喉丸に、ジト目を向ける穏春ですが、ぷぅと膨れっ面のままひょいと塀を降りて拳を握ると。
「絶対、連れて帰って来いよ」
「必ずな」
 軽く拳を合わせてぷいと穏春が向かったのは、陣幕から出てきたガランの元。
 辺りを油断無く警戒しつつガランと共に立ち去る穏春を見送ると、羅喉丸は再び歩き出して。
「とうとう奴らとの決戦、腕がなるってぇもんだぜ」
「まぁ、何とかここまで漕ぎ着けた、って感じだよな」
 会話が聞こたほうへ向かえば、別の陣幕前で呵々と笑う嵐山 虎彦(ib0213)に少々落ち着かないのか、肩をぐるぐる回しながら言う岳陽星、直ぐに羅喉丸に気が付いて軽く手を上げるので歩み寄って。
「陽星さん、調子はどうかな? っと……」
「いつぞやは……」
「遼燕さん、あなたも来てくれたか」
 そこへ側の陣幕から出てきたのは長身の男性、黄遼燕です。
「遼燕、くると思ってたぜ。ま、ちょいとした鉄火場だが、丁度手が足りなかった所なんだ!」
「無沙汰をご容赦頂きたい。こうして共に戦えるのを嬉しく思います」
 遼燕は羅喉丸と嵐山に微笑を浮かべると頷いて見せて。
「羅喉丸、轟煉は任せたぜ。ってわけでな、陽星に遼燕。こっちは俺が囮になるから、俺の周りのヤツラを叩いてくれ」
「虎彦の装甲なら、確かにそうそう抜けねぇと思うが大丈夫かよ」
「しかし、それが効率上良いのは確かですね。大きな一撃を入れさせないように我々が動けば良いでしょう」
 任せろ、陽星と遼燕に笑ってみせる嵐山、羅喉丸は改めて轟煉は必ず、と告げると。
「ならば、陽星さん、遼燕さん、存分に暴れようか」
 そう力強い笑みを浮かべてみせるのでした。

●激突
「早く、薬をっ」
「戦線を維持っ、負傷者を早くさげろっ」
 仲間の噴き出す血を手で押さえながら叫ぶ若い兵に、庇うように前へ出る他の兵、四方で怒号と苦痛の呻き、一線より下げられた兵へと救護へと回った者達が止血し腕に赤い布を結んで。
「あと少し、耐えてくれ……っ」
 血を吐くような思いで注げ戦線へ復帰する兵、その後ろ姿をもう既に掠れた視界で見送るしか無く、碌に動かない手を伸ばそうとしていた兵は、その手は、ゆっくりと地へと落ち……。
「もう、大丈夫です」
 今まさに落ちんとしていた手が掬い上げられかけられる穏やかな言葉、血が止まり、目に光が戻ってくれば、彼はまさに神女をそこに見出して。
「我等には、神女の導きがあるのか……ならば、今一度ッ」
 兵は鳳珠に礼を告げると再び戦線へと向かいます。
「鳳珠様っ、こちらですっ!」
 次々と掛かる救いを求める救護の者たちの声、肉体より魂の離れ出でようという者ですら優しく抱き止められ己が肉体に再び立ち上がる力を与えられるのに勇気づけられて。
「死に物狂いの縦型部隊……想定通りですね……」
 鳳珠は改めて確りと盾を構えて。
「ここを抜かせはしません! 皆様! 私達はここで踏みこたえなければならないのです!」
 鼓舞するような凛とした鳳珠の言葉、鳳珠はちらりと陣幕でのやりとりを思い出していました。
「遮るものがない平野では後背を突かれるのを防ぐ為横陣が基本です。ただ敵もそれは想定してるでしょうから複数の箇所で縦隊を編成し突破を試みるでしょう」
「うむ、まず間違いないであろうな」
「その上で……そして轟煉は最も突破が見込める程死に物狂いな縦隊後方にいて、そこから来るかと」
「ほう?」
「この動きを推測した理由は3つ。一つは敵は今回突破できなければ後がありません。二つ目は、敵にすれば私達より轟煉に後ろから弱者扱いされ殺される方が怖い」
「ふぅむ……」
「そして三つ目は、轟煉自身が最大戦力だからです」
 鳳珠の言葉に同意を込めて頷くガラン、鳳珠はしっかりとベイルを握りしめると前方、主戦場へと目を向けます。
「そして、轟煉自身は、戦闘で頭となっている綾麗さんを狙う……」
 戦場の中央、鳳珠の視線の先にははたして苛烈な敵の進軍を食い止めている者たちの姿があります。
「さぁ、死にてぇやつからかかってくるんだな!」
 綾麗の姿を見て殺到する轟拳の者たちの前へ、ずいと立ちはだかり槍を振るうは嵐山。
「この年まで、戦場で槍を振るって来たこの俺と! 闘いてぇってことなら受けて立つぜ!」
 槍がぶぉんと唸りを上げ巨躯の男を叩き倒すと、嵐山は石突きでその男を更にがすりと叩き伏せ、大音声を張り上げて。
「俺ぁテメェらみてぇな畜生どもとはひと味ちげぇ! 仲間を護り、人を救うために振るうと決めたこの力! たとえ、殺されても止らねぇからな! 覚悟しやがれ!」
「縁起でもないことを言わないでください」
 一斉に嵐山へ投げつけられる手斧や手槍を、さやに収まったままの長剣と手に握られた長い布で器用にはたき落として言う遼燕、そちらに意識が向いたその瞬間、きつく引き絞られた竹の枝が八極轟拳の者たちの足下を掬い引き倒します。
「今だっ!」
「てーっ!」
 陽星の声に物見台へと指示を出す綾麗、すぐさま雨霰と轟拳の中衛、足止めされた一部の前衛を巻き込んで降るは弩の矢で、それが収まるとほぼ同時に打って出るのは右翼側の紅梁の猛者達。
「八極轟拳手の者だけならばこちらが押し切れるでしょうが……轟煉が落ちねばあまり長く踏み留まれない」
「焦んなお嬢」
「そうだ綾麗、焦りは禁物だ。間もなく接触するはずだ」
 戦場を見渡し間に合ってくれとばかりにぎりと小さく奥歯を噛みしめた綾麗を宥める嵐山、と、物見台より報告にやってきた舞華が告げ、緊張した面持ちで頷くと自分たちを攻め立てていた一団の先に微かに見える轟煉へと厳しい視線を向けるのでした。

●深淵の抱擁
 戦場の左翼側、蒼い優美な鎧に身を固め優美で蒼い盾を持った大柄な鼓青の兵達に護られた外套に身を包む人物へと、幾つかある陣を突破しようと襲いかかる轟拳の者たちが突進してきていました。
「ふふっ、見えているものが全部正しいとは思わないほうが良いのにね」
 くすりと笑う口元、ふわりと風が外套をゆらし、僅かにのぞき込めるだけの外套と布の隙間からそれが誰かを窺い知ることは難しく、こちら側の指揮官と判断されてか群がられるのですが。
「もう少し引きつけて……十分に巻き込めるように、ね」
 そう言って剣呑な光を目に浮かべながらにっと笑みを浮かべた外套の人物、それはリィムナ・ピサレット(ib5201)でした。
 世界でも有数の、名を知られた開拓者の一人であるリィムナが加わったと成れば、色々な意味合いで予測不能な事態が起きかねない、その配慮から正体をもらさないよう細心の注意を払っていたのです。
 そして今まさに、前衛の兵達へ轟拳の者たちが飛びかかろうとしたその瞬間。
「う、うわああっ!? ……!! ……」
 まるで足元の地面がぽっかりと消えてしまったような錯覚と、それの方が余程良かったそれの出現で、リィムナの側あちこちから悲鳴と、断末魔の叫びが一斉に上がり始め、辺りは一面地獄絵図と成りました。
「自分たちが選んだことなのにね」
 くすくすと笑って伸びやかに歌うリィムナと、次々に闇に捕らわれ飲み込まれていく轟拳の者たち。
 轟拳か仲間の兵士かの見分けは、蒼旗軍の青い布と清璧の布飾り。
「っ、ありがとっ」
「何、お安い御用だ」
 遺体から剥ぎ取ったか青い布を付けた男がリィムナへ忍び寄れば、物見台よりの指示を受け転戦を続けていた舞華が割って入り男を切り伏せて。
「さ、どんどん行くよ!」
 それは轟拳の者たちへのリィムナからの死刑宣告。
 外套に覆い隠されたまだ幼い顔ににっこりと笑みを浮かべると、リィムナは再び護衛と共に前線へと更に踏み出すのでした。

●八極轟拳の最後
 それは全てを決した瞬間でした。
 物見台からの報告、戦車に乗り戦場を圧倒する威圧感を放つ轟煉の姿が見えてくれば、それだけ敵の攻撃も苛烈になってきていて。
「何とか持ち堪えなきゃな……」
「おう、陽星大丈夫か?」
「虎彦こそどうなんだ」
 相手側との数の差に流石に嫌な汗の滲んだ陽星ですが、薙ぎ払うように槍を振るってすと後ろへたった嵐山に聞き返せば。
「俺か? 俺は腹が減ったな、っと! な、遼燕!」
「これだけ動いていれば、無理もないですがね」
 綾麗へと殺到しようとする男を長剣切り伏せれば、その死角へと飛び込んでくる男の前に躍り出て受け流し様の一撃で数人を巻き込んで吹き飛ばす綾麗。
「終わればいくらでもご馳走しますよ。うちでは質素過ぎるので、香春関でになりますが」
「お前らなぁ」
 そんな軽口を叩き合いながら何とか前線を維持していた中央部。
 肉眼でも確認出来るようになってきた轟煉の戦車、そこに挑みかかる姿が微かに確認出来たのですが。
「―――っ!!」
 戦車が倒れ挑みかかる者たちの姿、綾麗達の目にはそれはまだ遠くてはっきりと現状を理解出来る程ではありません。
 微かに見えた人影、轟煉とおぼしき巨躯に飛びかかる開拓者達、そして、巨躯のあいた大穴、しかし、打ち掛かった者が次の瞬間叩き伏せられたのがかろうじて解り、ぎりっと厳しいまなざしを向ける綾麗。
 混戦のままの戦場、やがて青の狼煙が打ち上げられれば、八極轟拳の者たちには解らずともそれは、蒼旗軍と、そして共に戦う者たちへ確かに轟煉が討ち取られたことを告げるのでした。

●勝ち取った未来
 轟煉死す、それは八極轟拳の者達の動きを止めるのに十分なものでした。
 轟煉さえ居なければただの無法者が群れただけの集団、一人、又一人と戦線を離脱し生き延びようとしますが、戦場から逃れて後もそれまでの怨嗟などから無事に生き存えた者は少ない事でしょう。
 あちらこちらから上がる戸惑いがちなざわめきが、やがて轟くような歓声と叫びと成りました。
「おいおい大丈夫かぃ?」
「もう立ち上がる気力もねぇや」
 ごろんと倒れて微苦笑の陽星に呵々大笑の嵐山、決着の行方を見、祈る思いでその場所を見つめていた綾麗は、身体を起こし手を振る姿を確認出来て、長く共に戦った仲間である羅喉丸の無事を確認し、思わず顔を覆い肩を震わせます。
 その様子にぽんぽんと軽く頭を撫でまるで妹でも見守るかのように微笑を浮かべていた遼燕は、綾麗の元へ駆けつける舞華と、ガランと共に後陣からやって来て怒った顔をしながら綾麗に抱きついて泣き出す穏春に場所を譲るように退がって。
「無事で良かった……」
「お互いに、ですね」
 実の姉弟であるかのような綾麗と穏春の姿を見守りながら、戦で草臥れた様子ではあるものの微笑みあった舞華と利諒は、互いの無事を喜び合いながらそっと手を握って。
「私達にはもう一仕事有りますよ」
 そう救護の者たちへと告げる鳳珠ですが、穏やかな笑みを浮かべ優しく人々の治癒を続けています。
「長い戦いだったね」
 にと笑いながら言うリィムナが漸くに外套を外せば、血生臭い戦場後ではあるもの、青空と明るい太陽の下の晴れやかなその笑みに、周囲の兵達の表情にも徐々に笑顔や涙が混じって。
 漸くに勝ち取った轟拳支配でない世界、これからまだやることは山積みでも、人々は今の勝利を少しの間噛みしめているのでした。