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■オープニング本文 「さて……っと、これで良いかな」 「お? 何してんだ?」 「芳野の桜のお祭りですよ、恒例の」 開拓者ギルドでぺたりと桜の宴へのお誘いを出していた受付の青年利諒へと声をかけるのは、開拓者ギルド依頼調役の庄堂巌です。 「ああ、そういや、開拓者が居ると治安的にも安心だっていってお誘い出してたよな。しかし日程的に急にだな」 「ええ、僕もちょっと泰国にいましたし、あそこ穂澄ちゃんに代替わりするからって、ちょっと忙しかったみたいなんですよ」 「なるほどな。で、お前行くのか?」 「その予定です。庄堂さんも顔を出してみたら如何ですか? あそこのお酒は美味しいですよ」 「ふむ……行ってみるかな」 「たぶん理穴の保上様とかご家族に招待状送っているとか何とか……」 軽く顎を擦って、ふむと頷く庄堂は。 「まぁ、平和に祭りを楽しめるってなぁ何よりだよな」 そう言って頷くと、戻る時に一緒にいくかね、と言って出て行って。 「家族や大切な人とお花見、か……良いですよね、趣があって」 そう言って頷くと、利諒も改めて出かける支度のために一旦自宅へと戻るようなのでした。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
御剣・蓮(ia0928)
24歳・女・巫
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
紅 舞華(ia9612)
24歳・女・シ
羽喰 琥珀(ib3263)
12歳・男・志
明星(ib5588)
14歳・男・志
宵星(ib6077)
14歳・女・巫
リズレット(ic0804)
16歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ●芳野のお祭り 「やっぱり春といえば桜だなー。華やかだし食い物も美味いっ」 串団子を頬張りながら桜を見上げているのは羽喰 琥珀(ib3263)、先程から片っ端から屋台の制覇中、ひらひらと舞い落ちる花びらを楽しげに見ながら食べていればあっという間に食べ尽くし。 「旨かった……よし次行こう!」 笑うと立ち上がり屋台へ突撃する羽喰、帯には既に幾つか桜や動物の細工のされた根付けなどがぶら下がっていて。 次に通りかかった辺りは飴細工に果物の串や魚介の串焼きなど。 「景気はどーだい? この店のお勧めはどんなのがある?」 「どの串焼きも人気だぜ。開拓者だろ? ま、遠慮せずもっていきな!」 「只? そりゃ悪いなー。そんじゃそれはありがたく貰うけど、これとあれも買うから、そっちの金はちゃんと払うってことにしよーぜ」 差し出される貝の串焼きを受け取ると、あれこれと指した羽喰は受け取りながらも片手で器用にお財布からお金を取り出していて。 どうやってお金を取り出したのかと目を瞬かせる屋台の親爺に払うと軽く首を傾げる羽喰。 「んで、おっちゃんはこの辺りでお勧めって有るか?」 「鳥居前のいなり寿司は絶品だぜ!」 「んじゃ寄ってみるわ、ありがとな」 「縁起の良い飴だよ、食ってきな」 「んまい、一袋買うぜー」 こんな調子で屋台のものを抱えて歩いていた羽喰、そこで目に止まるのは射的です。 よろけたものの器用に片手で銃を構えると、射的の親爺が弾を込めてくれたようで二つほどの弾でぐらつかせたお菓子の山は、見事三つ目でごっそり崩れ台の下の茣蓙へ。 「へっへー、大量大量♪」 「今風呂敷用意するからよ」 景品のお菓子と買い込んでいた包みをまとめてくれる親爺に礼を言って離れれば、次は誂えられた舞台での演目に目が向いて。 「なぁなぁ、俺も一緒にやっていーか?」 「良いよ、祭りは皆で楽しむものだからな」 許可が下り他の鼓や三味線やらに混じり取り出した笛を用意すると。 「この満開の桜が咲き乱れる今日のよき日の思い出に、新たな彩を添えましょう♪」 少々芝居がかった喋り、満開の桜の下で羽喰は軽快な音色で舞に花を添えて居るのでした。 ●静かな幕引きは幕間へと代わり 「久しぶりですねぇ……」 息をつき外を眺めるのは御剣・蓮(ia0928)、月を楽しみに来たようで、綾風楼の二階に上がって月を眺めて。 「呑み仲間だった方々もどこかへ行ってしまわれましたし……大して呑む意味も、必要も無いのですけれどね」 ぼんやり外を眺めれば視界に入るのは腕を組んで桜に寄りかかり座り目を瞑った男、暇に任せてか悪戯心か杯を傾けほんのひと垂らし。 「ん? 酒……?」 怪訝そうに顔を見上げた男と目が合うと手招きをしてみる蓮。 「……行き倒れていたのかと思いまして」 「まぁ、たまに行き倒れるから否定はできねぇけどな」 二階へと上がってきたその男は庄堂巌、開拓者ギルドの依頼調役です。 「近頃あっていない仲間を思い出し、野垂れ死ぬことはないだろうけど、などと考えて居たところで……」 「俺が転がっていた訳か……」 反応がなければ役人に思って、という蓮に参ったと頭を掻く庄堂。 「まぁ、当てにしていた奴が嫁さん貰っちまうから、いつ行き倒れても可笑しかねぇってのは確かだがな」 「何それ?」 呑む? と出された杯を受け取りぐいと煽る庄堂はなかなかの飲みっぷり。 「世話焼きなもんでつい全部任せてたもんで、作ること考えたら飯食うのが億劫になりそうなんだよ」 「そういうものですかねぇ……」 参ったねぇとぼやく庄堂にくすりと笑みを浮かべる蓮。 「神楽なら、私のお店に来れば、少しぐらいはおまけして差し上げますよ?」 「ん?」 「私もギルドからほぼ抜けた挙句、懇意にしていた店の亭主から料理の手ほどきいただきまして、店を出させて頂いたのです」 「ほぉ、ってことは小料理屋か?」 「ええ、今となってはそれなりに軌道にも乗りまして。ここらで足を洗って落ち着くのもよいかもと思っていたのです」 「ま、別嬪さんの小料理屋となりゃ、繁盛してんだろうな」 笑って言う庄堂にお店の場所を教えて暫しの間話していれば。 「しかし、仲間の心配とかはねぇのか?」 「今頃一国一城の主となって居ても驚きませんよ、あの人達は」 「……一体どんな奴らなんだ?」 「うちの店に来れば会えるかもしれませんよ」 くすりと笑って言うと暫しの間近頃の神楽の話などをしてから、店に顔を出すと言って庄堂は席を立ち。 「そうですね、色々と、考える時間を持つのは悪くないです……」 迷っていたことに決心が付いたかのように呟く蓮。 次の日、蓮は近くの桜並木を抜けた先の丘の広場に、俊龍の藍を伴ってやって来ました。 慈しむように撫で菓子をあげて、一瞬躊躇するも頷いて口を開く蓮。 「長く付き合ってもらいましたね。自由の身になってもいいんですよ? 私ももう貴方に乗ることはないでしょう」 ぐるる、小さく喉を鳴らした藍は。 「……そう」 ぴったりとくっつき腰を下ろして鼻先をすりつける藍に微笑を浮かべてぎゅっとその顔を抱きしめてやると、寄り添って腰を下ろした蓮は湯飲みと徳利を取り出して。 「世は全て事も無し、と言ったのは誰でしたか。そうあって欲しいと思った世界が今かもしれませんね」 小さく呟くと藍と寄り添って桜吹雪を眺めながら、今暫しの間春の名残を惜しんでいるのでした。 ●友との特別な一時を 「朋、遠方より来たる。亦た楽しからずや」 「なんじゃ、楽しそうじゃな。羅喉丸」 「先ほど語った彼らがもうすぐ来るからな」 羅喉丸(ia0347)と人妖の蓮華は、綾風楼の庭に面した一室で宴席の支度を済ませ待ち構えていました。 利諒と紅 舞華(ia9612)が引き受けていて、やがて案内されて来る一行。 「良く来てくれた」 「お招き頂き有難く」 羅喉丸に礼を告げるのはガラン、八極轟拳と共に戦った戦勝祝いを兼ねたお誘いにやって来たのは他に綾麗、岳陽星と穏春、それに黄遼燕、の四人。 「綾麗、本当に良く来たな」 部屋へと入りぎゅむと綾麗を抱きしめる舞華、それを微笑ましげに見守っているのは利諒です。 「私まで良かったのでしょうか」 「遼燕さんも共に戦った仲間だろう」 笑って言う羅喉丸、先に綾風楼へやって来ていた嵐山も加わりお酒を酌み交わせば、自然と最初の事件の発端から決戦までの話となって。 「最初は籠手を奪われて途方に暮れていたとか?」 「面目ないです」 「羅喉丸、思ったよりも龍は普通の娘じゃぞ」 蓮華と話して淡々としている綾麗、舞華はがっしと綾麗の肩を掴んで。 「綾麗。綾麗はいつでもいつまでも私の可愛い妹だ。忘れないでくれ」 「は、はい……」 信頼している舞華にそう言われ男所帯の清璧にいる綾麗としては姉と思って良いというのは本当に嬉しくはにかんで頷くと。 「言っておくが恋人は私の眼鏡にかなう男じゃないと許さないからな」 「こ、恋人だなんて、そんな……」 赤くなる綾麗に買っておいた桜の簪を付けてやれば、舞華は似合うと満足げに頷いて。 「そういえば、穏春に言ったあの時の約束を果たさねばな、どこか迷惑にならぬ場所を探して見るか」 「……次の機会で良いよ。こっちに顔出せばいくらだって場所はあるだろ」 ぷいっとそっぽを向いて言う穏春、羅喉丸は笑って必ず顔を出そうというと、改めて見渡せば、危険に身を置く開拓者として改めて、皆が生きてここで笑い合っているのがどれほど苦しい中から勝ち取ったものかが強く感じられて。 「な、あの店が並んでる辺りに行ってみようぜ」 「そうだな、皆で出かけるのも悪くない」 そわそわとしている陽星の提案に羅喉丸は頷いて。 「清璧の龍をきっかけに、縁に導かれて集まったかけがえのない友だからな」 笑って立ち上がる羅喉丸に続き、賑やかに騒ぎながら、一行はお祭りの街へと繰り出していくのでした。 ●別たれることのない絆 「ねえ、ミンシン。二人でこんなふうにお出かけしてお花見するの、初めてじゃない?」 「そうだっけ? こないだもお花見に行ったじゃないか」 「……こ、こないだは目的が違ったし」 「まあ、そういう事にしとこうかな」 宵星(ib6077)が楽しげに話しかければ、明星(ib5588)はくすりと笑って返して。 正確には双子の二人と二匹、もふらの天音がちょこちょこと明星の足下を歩いていれば、お目付役よとばかりに猫又の織姫はちょんとおすましで座って居て。 もう私たち大人なのに、成人したのにな、そう顔を見合わせて思わず話す明星と宵星は、賑やかな屋台の通りへと向かっていって。 「あれは何でふ? あまぁいにおいの、あれもふ、食べてみたいもふ」 「こら、こんなところで勝手に行ったら迷子になるぞ」 ひょいと片手で明星が天音を抱えれば、ちょうだい? とおねだり、仕方がないなぁとばかりに桜餅をあげれば嬉しそうにもぐもぐ食べあっさり満足するのに顔を見合わせて笑う二人。 「ミンシン、手を繋ごっか。子供の頃みたいに」 「えー? やだよ、恥ずかしい。僕らもう大人だろ?」 「良いじゃない、大人だって手を繋いだって」 繋ごうよーと根負けする程だだっ子をする宵星ですが、肩を竦めてみせる明星が手を差し出すのを嬉しそうにぎゅっと握って。 「ちぇ。しょうがないなあ」 「えへ、ありがと」 嬉しそうに笑って回っていれば、やはり花より団子、ふいに明星は悪戯を思いついた表情で。 「シャオ、ちょっと……お酒、飲んでみようよ」 「外でお酒なんてダメっ。飲める量とかおうちでちゃんと把握してからにしなくちゃ」 「怒ったって怖くないね。成人のお祝いして貰った時に飲んでみたけどよく分かんなかったし、それにお父さん達だって飲んでいるのに」 自称保護者が花びらを追っかけ仕事をしないのにジト目だった宵星ですが、大きく息をつくと。 「じゃあ一杯だけ、半分こでどう?シャオが買って来るから、ミンシンは桜が一番綺麗な場所、聞いてきて」 「解った」 境内の裏、見事な桜を見下ろせる丘の上に向かうこととなった明星と宵星。 「はいこれ。桜のお酒だって」 「よーし、頂きます……あ、おいしい、かも」 「私も……美味しい」 酒粕で作った桜の甘酒は口当たりが良く、あっさりと杯は空になり良い心持ちでうとうととなる明星にぽてっと寄り添って眠る天音、くすりと笑うも宵星はそっと頭を撫でて暫く寝かしておくことにしたよう。 「気分でそんなに酔えちゃうなら強くなさそう」 織姫と顔を見合わせて笑ってから桜へと目を向ける宵星。 二人きりしか血が繋がっていないのに、いつの間にか父と母、弟たちに囲まれて、こうして二人の時間も家族との時間もどちらもとても大切で。 「きれいな桜だね……」 家族へのお土産話は何が良いかなと考えながら穏やかな桜の景色を眺め、明星と宵星の穏やかな時間は続くのでした。 ●永遠に連なる連理の桜のように 「ほらほらリズ、桜餅があるよ。桜を眺めながらお茶と一緒にどうかな?」 嬉しそうににこっと笑う天河 ふしぎ(ia1037)、リズレット(ic0804)は頬を染めて頷いて。 特別な花と揃って出かけてきた二人は出店を巡りながら幸せそうにはしゃぐ天河、リズレットはずっと何やらそわそわしてしまっているようで。 このお誘いは神様の思し召しでしょうか……そう考えていたリズレットですが、そわそわしつつも不思議と話しかけられる言葉は耳に入ってくるよう。 「桜餅に、お団子は買ったし」 落ち着いた静かな場所の縁台にリズレットに座るように勧めお茶を側の茶店に頼みに行く天河。 「今度こそは、ふしぎ様に伝えないと……でも……」 「どうしたんだい?」 「あ……いえ、なんでも……」 お茶を受け取って戻って来た天河に首を振って誤魔化すリズレットは話を切り出せないよう。 「去年は小舟の上からだったけど……」 隣に腰を下ろして桜を見上げた天河はほんのり赤くなりながら続けます。 「こうやって地に足をつけてみる桜もまた素敵だよね……僕達にとって大切な花だから、少しでも身近にそして春だけじゃなくて僕達みたいにずっと一緒、そう思って」 天河が取り出したのは二人で見て回っていたときに手に入れておいた桜の枝を彫り込んだ根付けと、桜の細工が施された櫛です。 付けて貰った櫛に頬を染め幸せそうなリズレットは結局言い出せず、日も暮れてきたから宿へ、と伝える天河に頷きます。 綾風楼の二階の客間、窓から見下ろす桜もまた見事なもので、夕食を頂いた後で二人寄り添っていれば、今迄の日々を思い起こして。 「出会ってからほんとに色んな体験を一緒にしたよね」 「あの、ふしぎ様……実は……」 言葉を飲み込んでしまうリズレットですが、楽しそうに思い出を語る天河に自然と幸せな気持ちに、天河も共に居る事が嬉しくて仕方がない様子であれこれと今迄のことを語り。 「そしていつか、僕達の子供とも……」 「……!?」 心底驚いた様子のリズレットはきょとんとした天河に、真っ赤になりながらおずおずと口を開きます。 「……あ、あの……いつから気がついて……?」 「気が付いてって、何が?」 「ですから、その……子供の、こと……」 思わず見つめ合う二人、何度も目を瞬かせた天河ですが、真っ赤になってリズレットが俯くのを見て思わずぎゅっと抱きついて。 「本当に? 本当に……その、僕たちの……」 「……は、はい……」 天河は嬉しさでしっかりと抱きしめ思わずそっとお腹を優しく撫でれば、漸くに伝えることができた安堵と喜ぶ様子との幸福感で涙ぐむリズレット。 「……悩む必要なんて、無かったんですね……」 小さく呟くリズレット、天河はリズレットへと口づけて。 「この子の為にも、もっと幸せになろうね」 「はい……っ、一緒に、幸せに……っ」 天河の囁きに涙ぐみながらもリズレットは頷いて。 綾風楼の窓から感じられる桜の香を感じながら、天河とリズレットは幸せそうに寄り添っているのでした。 ●永久にあなたの傍らで 「涼霞も幸せそうで何よりだったな」 祭りの帰り道、笑いながら並んで話している舞華と利諒、ふと会話が途切れると。 「利諒。いつでも私のそばにいてくれてありがとう」 「僕の方こそ、ありがとうと……これからは側ではなく、傍らに居てくださるのですよね」 夜桜の下、立ち止まって利諒が舞華を見つめて笑いかければ、頬を染めて見つめ返すと舞華は小さく頷いて。 「利涼の傍にいると心が温かくなるのは初めて会った時からずっと変わらないな。これからもずっと傍にいて欲しい」 そっと手を重ねて赤らんだ頬のまま利諒をみる舞華は。 「……その。よろしくな、利諒」 利諒は笑みを浮かべると、重ねられた手を引き寄せぎゅっと後ろから舞華を抱きしめて。 「貴女の側に、ずっと……この桜に誓って」 「ずっと一緒に」 舞華と利諒は舞い散る桜の花を見つめて寄り添いながら、暫くの間桜を見つめているのでした。 |