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■オープニング本文 理穴を襲う大規模なアヤカシの被害、その規模は刻々と拡大しつつありました。 近頃奇妙な事に一斉に魔の森に、まるで示し合わせたかのようにアヤカシ被害が続出している事柄の調査として、理穴にて儀弐王配下である保上明征は僅かの供を連れ、視察に向かっているところでした。 「村が慌ただしいな」 明征は深柳に着くなり小さく呟きました。 アヤカシの襲撃により、あちこちから避難民がやってくるであろうとの報告から急遽、深柳では受け入れ体勢が調えられ始めたとのことで、早速に長の元へと向かう明征。 「では、こちらの方で避難民を受け容れるのは可能であっても、手が足りない、と?」 「はい、こんな村に医者が沢山居るわけでもなく一人とその手伝いしか居らず、その二人で何処まで対応できるかが‥‥ここにもアヤカシが押しかけてこないとも限らず、守り固めておきたいですしのぅ」 「受け容れに対する細々とした手や警備が足りない、ということであるな?」 「はい、一時に大量の避難民では寝る場所にも困りましょうが、取り敢えずそれぞれ幾つか家屋を開けて受け容れられるようにと準備は始めましたが、兎も角、屋根のある場所だけでも確保する為に、村の人間は‥‥」 支柱と屋根だけでも何とか貼り、滞在するための外周などは後にと考えて居る旨を告げる長に、その分警備まで手は回らず、アヤカシが来れば対応できないと言うことにも頷いて。 「今は我々も身動きが取れぬ、この時期だ、開拓者ギルドの方も大変だとは思うが、急ぎ、幾人か人員を回して貰えぬか、打診してみよう」 言って明征が立ち上がろうとしたその時、慌てて駆け込んでくる村人が。 「大変でさ、避難に間に合わなくって、取り残されたってぇ村が‥‥!」 弾かれたように立ち上がる明征は、急ぎ供に文の支度をするように告げて。 「アヤカシどもめ‥‥」 ぎりと奥歯を噛みしめ、明征は救援要請と、村の受け入れ体勢の補助を要請する文を急ぎ認めるのでした。 |
■参加者一覧
野乃宮・涼霞(ia0176)
23歳・女・巫
赤銅(ia0321)
41歳・男・サ
水鏡 雪彼(ia1207)
17歳・女・陰
九鬼 羅門(ia1240)
29歳・男・泰
キース・グレイン(ia1248)
25歳・女・シ
木綿花(ia3195)
17歳・女・巫
黎乃壬弥(ia3249)
38歳・男・志
柏木 くるみ(ia3836)
14歳・女・陰 |
■リプレイ本文 ●深柳 「兎に角、受け容れられるだけの受け皿を作らねば。不足すれば不満となり治安悪化に繋がろう」 「この里で保存してあった材木だけでは追っつきませんで‥‥今から切ったのでは、乾燥が‥‥」 言って、深柳の人々と場所や提供できる住み家の確保について長と話をしていた保上明征に、辿りついた一行は歩み寄って声を掛けました。 「保上様、微力ながら、お手伝いに参上致しました」 「おお、来てくれたか。此度のことは開拓者へと頼むには気も引けたが、兎に角手が足りぬ、頼むぞ」 野乃宮・涼霞(ia0176)が口を開けば明征は頷いて長へと引き合わせると、長へと言葉を続け。 「材木自体はまだ安全の確保できているところより掻き集め送らせよう。そちらは私の下の者を送る、長は受け容れのための支度を進めるよう」 言って速い足取りで歩き去る姿を見送ると、一行は改めて長へと挨拶をして現状を確認すると。 「さて、挨拶はこれぐらいにしておいて、とっとと作業に移るか。見張りの交代は打ち合わせ通りに頼むぞ」 里の人に案内を頼み呼子笛を受け取ると赤銅(ia0321)が門の方へと足を向ければ、九鬼 羅門(ia1240)はやれやれと言ったように溜息をつきます。 「何やら大事がおっ始まりそうな気配だが‥‥そいつはまた後の話だな」 まずは目の前の仕事を片付けねば、小さく口の中だけで呟くと、キース・グレイン(ia1248)は森の方角へと目を向け小さく唇を噛んで。 「一斉に、か‥‥。アヤカシ共が勢いに乗る前に、手を打っておかないとな」 「ま、焦っても仕方あるまい? のんびりやろうや」 「壬弥ちゃんはもっと頑張るの! アヤカシが人を襲うなんて許せないの! ‥逃げてきた人たちを守んなきゃ」 黎乃壬弥(ia3249)がにと笑って言えば、きゅっと壬弥の着物の袖を引っ張って水鏡 雪彼(ia1207)がめっとばかりに言いますが、心なしか壬弥と一緒のお仕事が嬉しそうにも見えます。 「資材や人によっては御自身の家を提供された方も大変でしょう、せめて、お手伝いをすることで、その御負担を和らげることが出来れば‥‥」 「とにかく、手分けして頑張りましょう♪」 木綿花(ia3195)は自身の里と重なるところもあるのか受け容れの為に慌ただしい深柳の里を見れば、柏木 くるみ(ia3836)はにっこり笑うと、先程赤銅にも渡した呼子笛を皆へと渡すのでした。 「今は門も補強しているんで‥‥ただ大群が迫るとなると実際に不安ではあるんですが‥‥」 「ま、あの状態じゃ仕方ないだろな」 赤銅が軽く頭を掻くのも無理のないこと、大急ぎで大工仕事に駆り出されている里の人間を考えれば門を閉ざしてそこを離れざるを得なくなるのは仕方のないことだからです。 「里総出で動いて、今は手が足りないって状況じゃ如何ともし難いだろうよ」 その分俺たちが居るんだからな、と笑って言う赤銅に、お願いしますとぺこぺこ頭を下げてから、案内をした若者が広間で作業中の人々の所に駆けて戻っていくのを見送ると、門を開けその側で周囲に赤銅は目を向けて。 あまり遠くない位置に鬱蒼と茂る木々が広がっており、森が平穏な自分ならば兎も角、それこそ里の人間では気も抜けず、アヤカシへの恐怖に居もしない影をも見てしまいそうで。 「材木も少し厳しいみたいなことを言っていたし、薪なんかも足りなくなりゃ事だからな。後で其の辺りの補充についていった方が良さそうだ」 そんなことを呟きながら自身の手の中の斧を眺め、木に使ったら傷むかな、などと考えていれば、やって来たのは九鬼。 「そろそろ交代だ。‥‥‥まぁ、ちょいと力仕事で手が足りないようなんでそっち手伝ってやってもらえると助かるが」 「おう、どうした?」 「明日棟上げがあるそうで足場を組むのに手伝いが必要らしくってな、暫くの間は避難民がそこで滞在することが前提だからと、保上の旦那が」 里を囲む柵の補修は警戒とともに確認してきた九鬼が黎乃に既に頼んできたそうで、見張りも手伝いもとにかく忙しいことが窺えて。 「じゃ、ここは頼んだぞ」 「へいへい‥・・」 斧を担いで村の中央へと向かう赤銅の言葉に応えながら門の内側にある櫓へと登って、森の木々や叢などといった部分へと注意深く九鬼は目を配らせるのでした。 ●医食 「まだこれぐらいで済んで良かったが‥‥」 「付近の村の方が避難して来られれば手が足りなくなりますね。今のうちにできうる限り備えていかなくては」 里の医者が薬草や道具を手入れしながら呟くのに、涼霞は僅かに目を伏せて小さく言って。 既にいくつかの村から散り散りに逃げてきた人の手当てをいくつか済ませたところですが、こののち逃げ遅れた村の救援の様子によっては酷い情景を目の当たりにする可能性があると思えばほっとひと心地付くのにも気が引けてしまい。 「はいっ、采庵ちゃんに涼霞ちゃん、包帯代わりの布いくつか出来たのー♪」 そこに襖を開けてにこにこと笑顔を浮かべて布を裂き手当てに使えるようにと、包帯が足りなくなったときのための代用品を用意していた雪彼に、どうしてもむと厳しい表情を崩れなかった医者も僅かに口元を緩めて。 「あとね? さっき血で汚れちゃってたものも洗っておいたの」 「ありがとう雪彼ちゃん。采庵さん、お薬の方は大丈夫ですか?」 「あぁ、この診療所の裏は囲いがしてあったろ、あそこで薬草をいくつか栽培してあってな。あれと既に作ってあるものを合わせれば何とかなるだろう。‥‥薬草畑が荒らされでもせん限りは、だが」 そう言ってちらりと荷へ目を向けて言われる言葉に涼華も雪彼も目を向けて。 「それにしても、万一の時にはこちらだけでは場所が足りなくなってしまうかも知れません、保上様・長様のお二人に相談してみた方が良いかもしれませんね」 「じゃあ雪彼も行くのー♪」 涼霞が立ち上がれば、ぴょこんと雪彼も立ち上がると、包帯代わりの布を入れた籠をちょこんと縁側に置いて、手と繋ぐと二人は里の中心へと足を向けるのでした。 「水を汲んできた、水瓶に満たしておけばいいか?」 入れ違いのように入ってきたのはキースで、水瓶にそれを移しながらキースは口を開いて。 「采庵さんから見て避難してきた人の様子は?」 「まだ逃げられる状態だから‥‥と言ったところか。アヤカシに襲われれば逃げてこられていないのは絶望的と言うことだからな。今逃げ遅れての救援を向けた者達となれば、恐らくは‥‥傷の手当てよりも、疲労の方が大きいだろう」 「じゃあ、避難民が来た場合は‥‥こちらよりも休めるところと食事の方が大変なことになるかも知れないのか」 「後は‥‥村に入ろうとして気が急いたり我先にとなれば、解らんがな‥‥」 何処か苦い物を口にしたかのような口調で言う采庵に、キースは頷くとこれから門番があると言って出て行くのでした。 「‥‥こちらの蔵に一杯の食材となれば、暫くは持ちますね‥‥」 「炊き出しという形で提供する形で済むのなら、な」 今は何処でも物資が必要なもの、深柳にはいくつかの備えとして立派な蔵二つに蓄えをしており、木綿花と明征は炊き出しなどの手順や様子について確認している最中でした。 「‥‥持たない不安でもあるのですか?」 「‥‥‥何、炊き出しはしている方は負担も大きいが、それですら多い少ないと受け取る方は揉めることがある。最初は良くても、続けば余裕が出来れば不満も出て来る」 「なるほど、その後に配給になれば、同じ揉め事が起きかねませんね。避難民の滞在期間が長期になる可能性を考えれば‥‥」 「受け容れた後に、避難民も受け容れた側も衝突に繋がらないと良いのだが‥‥」 木綿花が考える様子を見せれば、厳しい表情のまま呟く明征は弓を負い直すと蔵を出、木綿花も続けば蔵にはしっかりと鍵が下ろされて。 「森の方へはいけないのは辛いが、今のうちに蓄えを少しでも増やして行くしか有るまいて。部下が戻り次第、付近で少し集めてくるしかないようだ」 足早に歩き去るのを見送って木綿花が里の広間に戻れば、そこには涼霞と雪彼が医者の元から戻って来ており雪彼はかくんと首を傾げます。 「あれ? 明征ちゃんは?」 「材木と食糧の確保に‥‥直ぐにまた出られるとか」 「むー‥‥明征ちゃん、ちゃんと休んでるのかな? 雪彼達ここに来てから、休憩しているのまだ見てないの」 雪彼の言葉に涼霞と木綿花は顔を見合わせるのでした。 「さて‥‥調達するものは?」 「付近の村や里も今回の件で手一杯だ、材木だけでも僅かでも確保できたことは有難いと思わねばならん。が‥‥」 九鬼はくるみと番を変わり戻って来たところを、明征に捕まっていました。 「食料は出さない、か‥‥近場に狩りにでも行くのか?」 「それしかないなら仕方なかろう。方々に走り回った部下は休憩を挟んで仮設の家を手伝わせることとした。手が借りられれば幸いだが?」 「‥‥‥」 幸いと言いながらも、断りようのない事柄に深く溜息をつくと、九鬼は直ぐに行く、と答えるのでした。 ●流入 キースが門番に回っている頃、里の広場を無理に開けたところでは、仮組みを一気に複数の大工達が組み上げていく姿があり。 足場を伝い動き回る大工達が、寸法を合わせて切った材木を次々に組み上げる様は見事というより他はありません。 力有る男手と言うことで、赤銅と黎乃も駆り出される形となって、柱をぐいと立て開けられていた窪みに差し入れると、上では既に登っていた大工が切り込みを入れた溝をかちりと合わせ木槌で梁を填め込んでいきます。 「骨組みだけなら直ぐに出来るって云うのはこのことか‥‥」 「まぁ、大工っていやぁ、腕一本で幾らでも稼げるって話だからな、腕が良ければだがな」 半刻も経たない内に建物の形が見えてくるのに感心したように見上げる赤銅と、にと笑う黎乃、一つの大きめなその建物の仮組みが出来れば、わらわらと里の男衆が大工の弟子達に指示を受けながら周囲に板を張って壁を作り始め。 「とと、向こうにもう一軒組み上げるそうだ」 「なかなかの重労働だぁな。夕方までに屋根と壁は何とかか‥‥雨風はまず凌げるが、何とか一件住める形になれば、ってとこだな」 支柱の組み立てに呼ばれ、男達は何となく仮組みされた家を見上げてから、木材の積み上げられたもう一つの現場に向かうのでした。 「っ、大丈夫ですから、落ち着いてくださいっ!」 「慌てなくて良い、アヤカシは振り切っているっ!」 夕刻、遠くに人の一団が見えたとの報告で大釜で米を炊き大鍋で栄養価の高い鍋を作り始めた深柳の里。 仮組みの家の片方は何とか、まだ手を加える必要はあるものの形になり、もう片方も床さえ張れば、後から手を入れればという状態になっていて。 そんな中、恐怖からか我先にと酷い者は女子供を押しのけても門より中に入ろうと押しかけ、危うく下敷きになりそうだった転んだ少女をキースは助け上げ、くるみとキースは声を上げて何とか落ち着かせようとしていて。 なんとか大きな怪我人は出ずに里に入れることが出来たものの、極度の興奮を見せる者や怯えてしまっている者、何故自分たちだけと悲観する者達の姿に、雪彼は悲しげな表情を浮かべるも、直ぐににこっと笑みを浮かべて、炊き出しや医者がいるからと里の中へと人々を迎え入れます。 殿の開拓者達が中に入るのを見届けてから、表門と裏門はしっかりと閉じられ、後には逃げ遅れていた村の30人ほどの人々と、既に他所から逃げ込んでいた人々とで、おおよそ四十人程に。 新しく造った建物と一軒村人が自分たちの家を提供しての3軒で、何とか回して貰おうと話す里の長は、今後避難民が増えることを念頭に頼みます。 漸くに炊き出しを涼霞やくるみ、雪彼らがせっせと運んで配れば、人々も少し落ち着いて来たのか、一旦その仮設の家と提供された家とで休むという話になり。 「‥‥‥」 「‥‥どうした、雪彼?」 人々が建物の中に消えていくのを見送ってから、ぎゅーっと黎乃にしがみつくように抱きつく雪彼、黎乃も雪彼が何を言いたいのかは分かって居るも、問いかけて。 「‥‥雪彼はアヤカシを倒す力はあるけど、皆の笑顔がすぐに戻せる力がないのが悔しい‥‥」 「雪彼は良くやってるよ。もっと自分に自信を持ちな」 頭に手を置けば見上げてくる娘の目をじっと見て、そう優しく言う黎乃。 僅かに潤んだ目ではありますが、雪彼はその言葉にこっくりと頷くのでした。 ●嘗胆 「まさかこの状態で、締め出しを食らうとは思わなかったわけで‥‥」 僅かに小さく呟くと漸く開けて貰えた裏門から里に入る九鬼、そんなものだろうと狩りで捕った獲物を乗せた馬を引いて続く明征。 避難民の流入で大騒ぎとなっていたため、外から戻ったのに気が付いて貰うのが遅れたよう。 幾つか得てきたそれを村の人達に保存できる物への加工を頼んでから、今後のことを長と相談に行く明征、九鬼は溜息をついて見張り前の休憩を行うのでした。 「どうだい、兄さん一杯‥‥って、痛ってぇ!」 「こんな昼間から今忙しいから駄目なの!」 一夜明け、避難民も里の人達もひと心地着いて居れば、打ち合わせの後一晩中裏門の警備に付いていた明征に動きやすく襷がけした姿の涼霞が食事を進めると共に一覧となった紙を渡して。 「これ、今のところこの里に避難してきた人達の一覧です」 「忝ない。その辺りの管理が出来ねば、どうにも苦しいからな」 もう一度助かる、と礼を言って受け取った汁をざっと掻き込むと再び立ち去ろうとした明征の服の袖を引っ張る雪彼。 「明柾ちゃん、休んでる?」 「む‥‥今はそれどころでは‥‥」 「大変なのは分ってるよ。でも無理したら雪彼悲しい。少しでもいいから休んでね?」 思えば漸く食事を取っていたところを見たのを思えば、どうしても心配なのか、出来ることなら頑張るから、と言う雪彼に根負けしたのか小さく溜息をついてぽんぽんと軽く頭を撫でる明征。 「仕方有るまい、少々仮眠を取る。なんぞ変わったことでもあれば里長の所に直ぐに起こしに来るよう」 「うんっ、任せて♪」 里長の家へと向かう明征を見送ると、雪彼は炊き出しの手伝いに戻るのでした。 「こんな時こそ、御飯をいっぱい食べて、元気を付けなきゃ」 棲む村を追われたと気落ちしている老女を元気づけるように炊き出しの御飯を運んでいったくるみはにっこり笑いかけて御飯を差しだして。 新しく造られた家の手伝いをしたり水を汲んだり荷を運び込んだりと、キースは忙しく立ち働いていて、赤銅は門のところで警戒を強めています。 やって来た村の人々に明るい様子で話しかけつつ手伝えば少しは負い目も軽くなる為勧める黎乃に、疲れなどで体調を崩した人々の治療を手伝う木綿花。 「アヤカシの被害のみなら村に帰れるかもしれない」 呟きながら木綿花は自身の郷の無事を願うのでした。 |