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■オープニング本文 その日、保上明征が配下よりその報告を受けたのは、アヤカシの大侵攻に対するための前線にある陣幕でした。 「アヤカシが出没したか‥‥深柳は森と平地との境で立地的に重要な、しかも避難民を受け容れるのに同意し快く迎えた里だ。手を打たねばなるまいが‥‥」 呟いて厳しい表情のままに眉を寄せる明征。 「他の集落でも、怪しい動きがあったとも聞く。本来なれば私自ら調べたいものであるが‥‥」 「深柳の里の者達は善意で受け容れているだけに、戸惑いと同時に、近頃随所で避難民の不満を耳にし、不快感を覚えているようで‥‥そんな中でのアヤカシ騒ぎで、里の者と避難民とが互いに裏で何かをしているのでは、と疑っているのだろう」 「それはそうであろう、己の家を差し出した者も居る、新たに里の資材を避難民のための家へと放出もしておる。その上不満を言われれば良い心持ちはすまいよ」 言うと明征は懐より筆入れを取り出し従者に紙を申しつけるとどっかりと卓に付き再び口を開きます。 「相済まぬが、お主これよりギルドへと急ぎ駆け、書状を届けるよう。どうにも悪い予感しかせぬ、アヤカシの進入路や、深柳内での人々の動揺を和らげるよう腐心してほしいと伝えるよう」 言って筆を走らせているところに、血相を変えて駆け込むもう一人の配下の姿が。 「何事だ」 「深柳程近い里が焼かれたそうですッ!」 「‥‥何?」 「何やら、物資輸送が向かった場所、しかも深柳に程近い場所ばかり‥‥既に被害は二件目とのこと、輸送隊に化けて略奪を働いた賊との話もありますが、生存者と言える生存者が‥‥」 「死んだか」 「‥‥はい‥‥」 悲痛な表情で膝を爪が食い込みそうなぐらいに強く握りしめる配下を見ながら、ぎりと唇を噛んだ明征は目を瞑り。 深く息を付くと、目を開ければ既に普段のままの表情で筆を取り直し、もう一枚紙を手に取ります。 「済まぬが、もう一通ギルドへ持っていくよう‥‥人手の割けぬ時に次から次へと‥‥」 激昂を押し込めるも僅かに苛立ちは隠しきれぬ様子で明征は呟くと、二通の文を認めて配下へと渡すのでした。 「二件ですか‥‥あの辺りは今物騒ですしねぇ」 相変わらず呑気な口調ながらも珍しく厳しい表情で文を受け取ったギルド受付の青年は、一つ目の文を開くと目を通し手早く依頼に纏めると、もう一通の文を手に取り開きます。 「焼かれた里の、調査‥‥」 痛ましげに目を伏せる受付の青年、こういう依頼を見る度に心が痛むのか沈痛な面持ちで依頼書へと筆を走らせて。 「何とか他の近くの村まで辿りついた人も、深手を負っていて程なく‥‥どんな手口で容易に村が焼かれてしまったのかを調べて欲しいですか」 状況を確認すれば少しは他の村や里への被害を減らすことが出来るのでは、と文が認められているのを確認すると、受付の青年は筆を執り依頼書へと向き直るのでした。 |
■参加者一覧
野乃宮・涼霞(ia0176)
23歳・女・巫
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
氷(ia1083)
29歳・男・陰
水鏡 雪彼(ia1207)
17歳・女・陰
ジンベエ(ia3656)
26歳・男・サ
白蛇(ia5337)
12歳・女・シ
北風 冬子(ia5371)
18歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●焼け落ちた村で 「物騒な世の中とはいえ、『焼き討ち』がこうも立て続けじゃ単なるアヤカシ被害とは違うかなぁ」 ふわぁと欠伸を漏らしながら言う氷(ia1083)、一行は焼き打ちにあったと連絡があった里で調査を進めているところでした。 「馬が確保できれば良かったんだけどね」 「馬も徴用されていて残って居らぬならそれも致し方なし、か」 はぁと溜息をつき北風 冬子(ia5371)がむー、と言った様子で言えば、ジンベエ(ia3656)が緩く息を漏らして。 俄に辺りが騒がしくなり、はっとした一行は改めて各々の武器を構え直し待てば、村を囲んでいた木々の間よりゆらりと生気のない影が現れ。 鴇ノ宮 風葉(ia0799)がアヤカシとの合戦にて負傷した天河 ふしぎ(ia1037)を庇うかのように立ち、野乃宮・涼霞(ia0176)も水鏡 雪彼(ia1207)に寄り添うようにきっと強い眼差しでアヤカシを見据えて。 「一体だけ‥‥群れてこられなかっただけましなのかな」 「輸送隊を‥‥盗賊が先に襲ったのか‥‥それともこれ‥‥か‥‥?」 心眼で敵の数を見極めようと天河が言えば、手裏剣を咄嗟に構えながら相手を確認しようとしている白蛇(ia5337)が呟き、その影は鎧に包まれた身体を木々の間より覗かせるのでした。 ●輸送隊の行方 保上明征と接触することができたのは、深柳より向こう側、魔の森入って直ぐの宿営地でした。 「雪彼のお母さんの妹がもう一つの方にいるの。雪彼の大切な人なの。仲良くしてあげてね?」 くいくいと明征の服の袖を引いた雪彼が、こそっと言うのに少しどう返して良いのか迷う様子を見せた明征は、取り敢えず解ったと応えるも、仲良くとは? と少々戸惑い気味で、思わず涼霞も微笑を浮かべて。 「保上様、ご無理はなさらずお体を厭われますよう」 「うむ、正直なところ休む時間も惜しいが、ここで倒れでもすれば戦えもせぬからな」 涼霞へと頷くと馬を希望した氷へ僅かに眉を寄せる明征。 「しかし、戦の為馬を融通できる状態にない。融通する以前に出払ってしまって居るのだ」 現状、ギルドでは既に馬を融通する余裕はなく、明征も協力できることなら協力したいが、と告げますが戦支度の最中にあった明征の言葉を現すかのように、既に他の者達は馬を駆り先へと進んでいて、明征の馬と早馬だけで伝令手段の馬を渡すわけにもいかず。 「輸送隊の風貌や物資の中身とか、分かって居ることは?」 「あと、輸送隊って、何か特別に分かるものとか持っていたのかな?」 冬子が聞けば雪彼も小さく首を傾げると、ふと気がついたのか。 「あ、明征ちゃん、近隣の村の人って雪彼達が行くって、知ってる?」 「風貌といわれるとちと難しいが、此度の輸送隊は普通の人足達で構成されていたようだ。腕っ節もそれなりに強い者達であったようだし、何より街道を行くそこまで危険な道のりではなかった、と言うのが理由らしい」 輸送隊もギルド経由や国絡み・個人的なものと複数有る中の、このところ被害に遭っているのはいくつかの個人が頼んだもので、開拓者に頼む程の余裕が依頼主になかったのか、それとも現状を甘く見ていたのか、違和感が拭えないがと言う明征。 「輸送隊と分かる物というかは解らぬが、依頼主から書状を託されている筈。書状などは幾らでも用意できよう、それ故、余計に近隣では複雑なことになってきているわけだが」 「物資も欲しいが信用出来ぬ、と言う訳か。物資の流れは、主に深柳やこの周囲、魔の森方面へと送られるものが多かったと。深柳内に依頼人はいるかね?」 ジンベエが聞けば、今深柳にいる依頼人は開拓者を雇ったらしいこと、他の者は深柳には居ない事などが解ります。 「このごたごたの中では全ての荷物の発着は確認できんと言うことか」 「最悪の場合、いつまで経っても戻ってこぬとなって初めて発覚することも多々あろう」 ジンベエの言葉に頷いてから言って明征は、念の為と一筆自身の依頼を受けた開拓者であることを記す文を書いて、雪彼に渡すのでした。 「無理しちゃ駄目だからね?」 アヤカシとの合戦にて深手を負っていた天河と共に、生存者が辿りついた村へと情報収集に来ていた風葉が言えば、大丈夫だよ、とばかりに微かに笑みを浮かべる天河。 「わかってるよ。それにしても、確かに来てみれば、位置関係からしてもこの村に辿りつくのは無理だろうね‥‥」 少々険しい道が途中にあったか、死に瀕していた里人が辿り着く事が不可能であるのは想像に難くなく。 「何の為にここまで運んできたのか‥‥? 考えるまでもないようだね、あの様子じゃ」 風葉の目から見ても離れた所から見ているにも拘らず殺気立っているとしか言いようのない村の様子に、それが緑茂での合戦や深柳の不穏な空気が全く関わっていないと言い切れないですが、それだけでなくあからさまに不審を抱いてみられているのが良く分かり。 「村に入れて貰える雰囲気じゃないね。‥‥取り敢えず、今のままじゃ」 「ま、良いわ、取り敢えずもう少し周辺を調べてみないと」 明征からの聞き込みをしている一行と合流する前に調べておきたいことがあってか、そう言って風葉が言えば、改めて来た道を振り返るのでした。 「‥‥深柳での‥‥里を経由してきた人は‥‥」 風華と天河が調査をしている村へと急ぎながら、言葉を濁すのは白蛇、もう一方で調査中の女性がそこを経由してきたとのことで、相手の調査に差し障りがあるかも知れないと、簡単なことだけを訪ねて離れるも、釈然としないものがあって。 「やっぱり‥‥『輸送隊が村を襲った』という噂を流布させ‥‥輸送隊を忌避する風潮を作って‥‥輸送を滞らせる事が目的なんじゃないかな‥‥」 白蛇は女性に確認を取った瞬間の違和感を忘れられないようで。 「もし‥‥輸送隊が略奪行為を‥‥って言う噂が広がっていたら、もう手遅れなのかも知れないけれど‥‥」 やれる事をやっていかないと、そう呟く白蛇、道々を確認しながら進む一行、雪彼は涼霞に手を引かれながら辺りに注意を払いつつ進んでいれば、やがて見えてくる村にちょうど辺りを調べている天河と風葉を見つけて声を掛けます。 「風葉ちゃん、ふしぎちゃん、何かあった?」 「ふしぎちゃんは‥‥いや、兎に角、やっぱりこの辺りに馬で何か重い物を運んできた痕跡はあったよ」 このゴーグルが、全てを見通すんだからなっ、そう言いながらゴーグルに指を這わせて指し示すのは、深くついた馬の蹄の後に、雨が降っていなかった為に流されていなかった、微かな血の跡。 「多分‥‥馬で瀕死の人を乗せて‥‥普通につくより蹄の痕が深いから‥‥」 「輸送隊に襲撃された、って証言さえさせれば万が一生き残っていても構わなかったんだろうね」 「‥‥惨いことを‥‥」 その言葉に眉を潜める涼霞、村自体に入っての聞き込みもしなければと近付けば、明らかに警戒をした様子を向けて来る村人達に、明征から貰った一筆を雪彼が見せれば、それでも直警戒した様子ではありますが中へと入れて貰える一行。 「申し訳ないけれど、憶えていることを出来るだけ性格に聞かせて貰えないかな?」 氷が死んだ男の墓に手を合わせてから、発見し看取った人物へと尋ねれば、後ろから斬り付けられたこと、輸送してきた物資を引き出し更に略奪を働いた男達が、火を放つ様を朧気に憶えていると言っていた、等と聞くことが出来て。 「うろ覚えですが、誰かの指示で火を付けるように言われていたようだった、と言っていました‥‥それを告げて直ぐ‥‥」 看取った夫婦の妻の方が言えば、夫は相変わらず警戒しているようで疑いの目でじろじろと一行を見ていて。 「その男は、履き物を履いていたか? もしくは足裏に傷が‥‥などといったことはあったかね?」 面の上からでは表情が窺い知れないからか、不躾にじろじろ見ながらジンベエを見つつ夫は口を開いて。 「あぁ、履き物は履いて居らず、足の裏に少し傷があったがたいした物じゃなかっただろう」 馬に乗せられてわざわざ運ばれてきたと言う裏付けにもなるであろうことを確認するジンベエ、冬子の何か他に気になることはなかったかという言葉には、思い出せないと首を振る夫婦。 礼を言って、焼跡になっている里を調査する旨を話してから村を後にする一行は、里に向かいながら情報を確認し合っていて。 「誰かが輸送隊を騙って里に入り込み、村人達を殺して略奪を働き、誰かの指示で、火を放った‥‥」 「兎に角急ごう、現場が荒らされたりしない共限らないし、手掛かりがあるなら、押さえておきたい」 天風が言えば、風葉が天河に手を貸しながら、里へ急ごうと告げ、一行は急ぎ里へと向かうのでした。 ●焼跡での死闘 「まだ、ここにアヤカシ達はいないようですね」 「何だろう、里は焼かれているのに‥‥」 涼霞が辺りを確認して言えば、白蛇が違和感を憶えて言い掛けるも言葉を途切れさせて。 「‥‥酷いね‥‥雪彼、絶対許せない‥‥」 辺りの様子に唇を噛む雪彼、カカカとジンベエは笑います。 「クカカカカカ‥‥20人弱、小さいとはいえ村一つが地図から消えたか。戦時には往々にしてある事とはいえ、胸糞の悪い話に違いはない」 「早く里での調査を終えて、埋葬してあげないと‥‥」 「でもなんだって、里を焼いていたのに、焼かれた死体が少ないのか‥‥」 天河が言えば風葉は考えたくない想像だけれど、と眉を顰め。 小さな里の為か探索に時間がかかる様子もなく、また建物の殆どが燃えているためか隠れているものなどはなかなか見つからなかったものの。 「平和に暮らしていたと思うのに‥‥許せない」 天河は唇を噛み呟き、その里は小さなもので踏み荒らされた後が確認できるのは、紛れもなく人のもの、アヤカシだったとしても許せないでしょうが、それが人間の仕業であることに何より押さえきれない憤りを感じていて。 里でのその違和感は、里の中心に殺された遺体が纏めておかれていたこと。 死因がぱっと見た範囲だけでも刀傷や矢傷である上に、武器を取った様子も反撃をした様子もない辺りから推測しても、やはり警戒されていなかった輸送隊であると言うことは確実のようで。 「‥‥何か‥‥」 遺体を埋葬の準備をしがてら確認していた氷は、ふと辺りの警戒のために作り出していたちまい仔虎の人魂が何かを見つけたのにはっと顔を上げて言い掛ければ。 ぎ、ぎぎと何かがひしゃげるような音共に里と隣接をする林の中からゆらりと現れたのは、鎧姿の鬼の姿。 大鎧に威圧的な風貌、手に大刀を握り見られるその姿は、此度の合戦にも見られた巨躯の鬼。 「‥‥っ、なんで、こんな奴がこんな所に‥‥っ」 その鬼が聞いた情報と違うのは、配下の鬼を引き連れていないところだけ。 「鬼か蛇でも出るかと思ったが、案の定鬼が出たか」 クカカ、と笑いながら長巻を握り前に出るジンベエ、ただでさえ負傷をしている天河が狙われるのは避けたいところ、それに気が付き涼霞が放つ加護結界がジンベエを守るように包み込んで。 「ほら、天河は下がってっ!」 「っ、ありがとう‥‥」 他にアヤカシがいる様子でもないのに挟まれていないと確認した風葉は負傷している天風を庇うようにして後ろへと退かせ。 「ぬっ!!」 亡鎧が大刀を振るえば衝撃波がジンベエを襲いかかるも涼霞の結界が威力を削ぎ、結界が消えるとほぼ同時に冬子の手裏剣が亡鎧へと打ち込まれます。 「っ、固いっ!」 眉を寄せる冬子、その手裏剣へと意識が剃れたのを見計らい、一気に距離を詰めてジンベエの咆吼が林の木々を震わせれば、ジンベエへと突進する亡鎧。 「させない‥‥」 白蛇が突進する亡鎧へ水遁を使い水柱を打ち立てれば、それによって体勢が崩れる亡鎧、振り下ろされる大刀はジンベエの長巻に受け流され。 雪彼の呪縛符で作り出された式が亡鎧にまとわりつき動きを阻めば、追い打ちをかける斬撃符にはっきりとその巨躯が揺らぐのが見え。 氷の作りだした式の仔虎が、ぴきゃーとばかりに火を吹けば火に巻かれ怒号を上げる亡鎧、そこへ長巻を大上段に構えたジンベエが繰り出す一撃、それは亡鎧を断ち、斬り伏せるのでした。 ●蠢く影 「こんなアヤカシが都合良くこの里に来るなんて考えられない」 「‥‥輸送隊を装ったのは、人、だよね?」 天河は亡鎧が消え去ったのを見ながら呟けば、涼霞を見上げて小さく首を傾げる雪彼。 「アヤカシが糸を引いていた、って考えるべきなのですけれど‥‥」 「本来の輸送隊の人達がどうなったのか‥‥それを確認してからでも遅くはないでしょ」 僅かに目を伏せる涼霞に、天河に手を貸しながらきっぱり言い放つ風葉、一行は里人の埋葬を済ませ里を後にすると、輸送隊の来たはずの道を辿ります。 「‥‥居た‥‥けど‥‥」 争いのあった様子が窺える街道外れ、雪彼が式で見つけたのは、輸送隊であった人の、一部。 悲しげに顔を歪ませるも、直ぐにきっと表情を引き締めると、亡骸であったものの元へと歩み寄って。 「この人達が、きっと輸送隊の人達だったんだよ‥‥」 血に塗れた手紙の残骸を見て呟くようにして言えば、白蛇が目を落として。 「『輸送隊が村を襲った』という噂を流布させ‥‥輸送隊を忌避する風潮を作って‥‥輸送を滞らせる事が目的なんじゃないかな‥‥生存者を見つけたって言う村だって‥‥紹介状があってすら疑われたよ‥‥」 「実行したは夜盗の類であろうが‥‥亡骸を残しそこにアヤカシが現れたのなら、夜盗はアヤカシに良いように使われているという事だろうな」 ジンベエの言葉に、冬子は里人を埋葬した際に誓った『これ以上被害は出さない』と言う言葉を噛みしめるように頷いて。 「せめて、この方達にも、安らかな眠りを‥‥」 里人達を供養したのと同じように、手を借りて僅かに一部だけが残された人達をも埋葬すると、涼霞は改めて死者へ祈りを捧げるのでした。 |