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■オープニング本文 その日、保上明征が深柳へと滞在している折、深柳より2日程の所にある、焼け落ちた村の出身だった年若い夫婦が、村を復興したいと申し出たのは、そろそろ風の肌寒さが強く感じられるようになった、とある秋の日のことでした。 「未だあの辺りは安全とは言えぬ。アヤカシは一時引いたが、盗賊達が一掃されたわけではない」 「それでも、お願いします、幾人か、村を失った人々と共に移りやり直そうと賛同して頂けました」 「私たちはこちら深柳に受け容れて頂けて、本当に助かりました。実際はまだまだご迷惑をお掛けする形となりますが、それでも、いつまでもお世話になりっぱなしは心苦しいです」 夫が言えば、妻も村を復興してから、少しずつ、助けて頂いた分をお返しできれば、と言うのを見て、緩く息をついてから、少し考える様子を見せると、筆に手を伸ばす明征。 「では、暫くの間、復興する村にて作業する一同の護衛をと言うことだな?」 「はい。‥‥深柳のように守りに向いた村を作り上げたいと思いますが、場所の基盤もないところでの作業となれば、賊に目を付けられないとも限りません」 明征が頷くと、夫は言葉を続けて。 「せめて、外枠の柵を作り、簡易の物で良いので、復興作業のための雨露を凌げる場所、物資を保管する小屋が出来るまでの間で良いのです」 屋根のある簡単なものを作れば、天幕等で完成までは凌いで復興を進めていくつもりだという夫。 「あの村は街道沿いですから、他の所との連絡もし易いと思いますし、多少突貫の作業になるのも、最初は厳しいというのも覚悟しております。お願いします、村の基礎を作る間だけでも、護衛と、村の男達への、簡単な手解きをして下さる方を‥‥」 そう言って頭を下げる夫婦を見やってから、明征は文へと筆を走らせて。 「時に」 「はい?」 「まんまとアヤカシにしてやられた奴らは、如何しておる?」 「は‥‥すっかりと心を入れ替えたとのことで、村の復興に着いてくると言っています。若い男手は有りがたいですし‥‥」 「‥‥そうか」 夫の言葉に僅かに眉を寄せると筆を走らせ文を認めると、配下に封をした文をギルドへと運ぶように告げるのでした。 |
■参加者一覧
野乃宮・涼霞(ia0176)
23歳・女・巫
赤銅(ia0321)
41歳・男・サ
蘭 志狼(ia0805)
29歳・男・サ
楊・夏蝶(ia5341)
18歳・女・シ
すぐり(ia5374)
17歳・女・シ
時永 貴由(ia5429)
21歳・女・シ
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
宗久(ia8011)
32歳・男・弓 |
■リプレイ本文 ●疑惑と願い 「実は一つお願いがあって参りました」 そう言って保上明征の前に出て頭を下げるのは時永 貴由(ia5429)。 そこは深柳の郊外にあるとある一軒の家で、依頼前に明征に話があったのかやって来た貴由は件の若者達について考えて居ることがあるようで。 「保上様‥‥書状を拝見しましたが、証拠があるなら痛めつけてもいいと取れてしまいます」 「で、あろうな。あの者達は既に一度、深柳の里人を裏切っておる」 「ですが‥‥今一度‥‥心を入れ替えるというなれば、少々見守らせてもらってもかまいませんか?」 貴由の言葉に厳しい表情を崩さずにじっと貴由を見返す明征、貴由も強い意志でじっと見返せば、暫し考えるように扇を口元に当て目を瞑った明征は、やがて緩く息を吐きます。 「一度外れた者はそうそう本来の人の道へは戻れぬ。それは、外れることにより容易い道を知ってしまっている故な」 「ですが‥‥そこで戻れるのが人と思います」 「‥‥」 貴由の言葉に明征は厳しい表情のままではあるものの、漸くに僅かに頷いて。 「良かろう。あの者達のことは任せよう」 根負けしたのか頷いてそう言う明征に、貴由もふと微笑を浮かべると、口を開いて。 「あと、姪がきちんと寝食を摂っているか心配しております。ご自愛なさってくださいね」 「‥‥分かって居る」 言われる言葉に少々ばつが悪そうだったのはきっと気のせいでしょう、何はともあれ貴由は明征に礼を言うと席を立つのでした。 「深柳の里といえば、アヤカシの群襲来時の里‥‥これも多少の縁という物か」 現地に着きふと思い起こし呟くのは蘭 志狼(ia0805)、そんな様子を理解しているのかしていないのか、先程から絶えることなく宗久(ia8011)の言葉が先程から志狼の耳へと聞こえてきていて。 「ハハハハハハ復興をするのかい其れはとても良い話だ羨ましいなあれ保上君ってあれでしょちょっと小耳に挟んで聞いたことがあるよ‥‥」 愛想が良くないわけではないのですが、何やら不思議な様子の宗久に何とも反応に困っている様子の未来の村人達、丁度一行は幾つか、天幕の設置をしている最中で。 「――――さまからもなかったことにされちゃってる国だし無理な話はどうでもいいけど若い奥さん綺麗だよね後でどうやって落としたか聞きに行こうかなでも若い上にラブラブしちゃってるなら少し‥‥」 「ど‥‥何処で息継ぎしてんだろ‥‥?」 開拓者を戦える凄い人達と見てか寄ってきていた子供達が、宗久の様子にぽつり呟いて。 「あのね? 僕たちもお手伝い‥‥えぇと、塀の、所とか‥‥」 もごもごと志狼に言う子供達は男の子三人の兄弟のようで、今現在の村では唯一の子供達でもあり。 「‥‥む。怪我をしない程度の手伝いなら良いだろう。今から塀を建てる位置を引く。小鬼が越えられん程度の高さが良いだろう‥‥二間程度か」 「う、うんっ」 てこてこ道具を抱えて志狼が動く後をちょこちょこと付いて行く子供達、何と対応して良いか困った様子で志狼が歩いていけば、まだ色々と喋った状態のまま、木材を担ぎ上げて同じく付いて行く宗久。 「――しちゃああでも嫉妬って意味でもいい方向にだよ別に冗談だけど復興ができることに嫉妬してるんで若さに嫉妬してる訳じゃないんだからねって最近流行のつんでれしてみたんだけど嫉妬にいい方向ってあるのかねえ皆はどう思う?」 「つ、つんでれ‥‥?」 「ど、何処からが質問なんだ‥‥」 天幕を張り終え、材木や大工道具を抱えた村の中年に差し掛かったおじさん方は目を瞬かせてみるのでした。 「お夏さんも苦労したのねぇ‥‥」 「ご家族の方も、無事だと良いのだけれど‥‥」 「有難う御座います。受け容れて下さって」 村の女性陣に混じって黒い艶やかな鬘を用いて、物静かな女性として楊・夏蝶(ia5341)が姿を変え復興のための村人達に混じっていました。 そして、その様子を、身を潜めて見守っているすぐり(ia5374)。 「何事もなく終いまで隠れたまんまで居れたら、それもええんやけど」 それはつまり、明征に疑われている若者達が悪さをしないで心を入れ替えていて、何事も起こらないと言うこと。 「せやけど、なんもあらへんのやったら、あんな形で依頼は出さんやろし‥‥」 口の中でだけ小さく呟くすぐりは、先程から件の若者の様子を幾度か伺って居れば、そもそも作業が始まれば揃ってその場を離れ、女性陣を離れたところから伺い続けているのを見ていてか、緩く溜息をつきます。 天幕の一つが使えるようになったのに、野乃宮・涼霞(ia0176)と菊池 志郎(ia5584)が女性陣を呼びに来れば、まずは炊き出しなどが行える支度と大忙しで、幾つか運び込んでいた竈を用意し始めて。 「‥‥元来の性分が曲がってなけりゃ貴重な若い手だ、惜しいよな?」 そこへ明征と話をしてから来た貴由が、若者達に対しての厳しい見方をしていたことに対して溜息をつけば、竈の設置を手伝っていた赤銅(ia0321)が気付いて、にと笑ってそう言います。 「保上様のあの様子では、上手く処理しなければ、彼らに次はないだろうが‥‥」 小さく言う貴由が女性陣と合流したのを確認して、赤銅は荷を運びがてらに若夫婦の元へと足を向けるのでした。 ●復興のために 「あ、済みません、助かります」 夫が言いながら赤銅の持ってきた廃材の中でも使えそうなものを受け取ると、元のすでに焼け落ちて役に立たない柵を外し、前のものより僅かではあるものの太い柱を打ち込んでいて。 妻の方は女性陣と共に炊き出しなどを行っているようで、赤銅も門の位置へと杭を打ち込んで行きながら、ちらりと確認すると夫へ声をかけて。 「時に、ちょっと聞きたいんだが‥‥」 切り出す赤銅は、どうやら夫は若者たちに対して心を入れ替えてくれていたならばいいものの、開拓者一行がいなくなった後にどうなるかの不安はちらついているようで。 妻の方が不安がる可能性があるのであまりそういった話は夫婦では話していないようで、村の復興にもう少し積極的だったら、まだ彼らの改心を信じられるのに、と溜息をつく夫。 「まぁ‥‥私には妻がいましたのでそういったことはありませんでしたが、男としては女に化けたアヤカシに騙されていたとなると‥‥いえ、その場合、食われなかっただけでもと思いますが‥‥」 年若さからの自尊心というのも夫には理解できるようで、できるだけ信じるようにしようと思っていると夫は答えるのでした。 「ふぅ‥‥流石にこれからの季節ですし、夜は特に冷えてきますね‥‥」 小さく呟く菊池、天幕をしっかり締めて毛布などを多く使い寒さを凌いで休む村人たちの様子をちらりと確認しながら、篝火を絶やさないように気遣うと、注意深く付近と、そして若者たちのいる天幕を見て。 付近はともかくとして、開拓者が村の復興に携わっているという情報は、ある意味盗賊たちへの牽制になっているようで。 「外周の塀は殆ど作り直しなのが痛いですが、天幕はそれなりに強風などに曝されない限りは、丈夫で暖かいようですし」 流石に真冬は厳しいでしょうが、とちょっと困ったような笑みを浮かべて口の中で呟く菊池は、ふと若者達の天幕の側を通りかかった時に微かに聞こえた言葉に息を殺し耳を澄ませて。 途中からなのではっきりとは分かりませんが、開拓者が居る内は何も出来ないと言う不満や、村の女性陣から距離を置かれている現状も気に入らないことや、作業で忙しい頃合いを見計らえばちょっかいをかけられるのではといった話をしているようで。 「‥‥」 若者達が粋がっている様子なのは分かりますが、女性陣がなかなか思ったように一人にならないことなどや、特に妻が一人になることがない事等をぼやいていて。 そんな中でふと出るのは、夏蝶は大人しそうで見栄も良く前の事件を知らないから騙して連れ出すことは出来るのではないかといった内容。 ただ昼間にそれとなく聞き込んだことも含めれば、一人が他の三人を扇動し、うちの一人が積極的に乗り、二人は雰囲気で流されている風でもある事に気が付いて。 「言い出すのは良く言うお調子者といったところですが、1人は‥‥」 嫌な雰囲気を若者から感じ取り、菊池は困ったような笑みを浮かべるのでした。 ●裏切りと代償 「あちゃー‥‥ほんまにやりおったなぁ」 自身へと夏蝶がこっそり後ろ手で指をVの字にするのに溜息を吐くすぐり、昨夜の菊池の情報から夏蝶が囮を観光したのですが、思った以上に囮に飛びついた若者達。 「そうそうそこは印をつけた所にするんだよ上手い上手いいい感じじゃないか」 村人達へと塀の基礎を組み上げる指示を出していた宗久は、俺が動かなくても大丈夫かなーなどと、建てたばかりの一部の塀の陰を夏蝶抱えて走っていく若者を眺めつつ面白がっていたのはまた別の話。 「この蘭志狼の前に立つ気迫、果たして貴様等にはあるか?」 村を出て直ぐの河原まで夏蝶を抱えてやって来た彼等は、人目の付かない場所に入ろうとして、そこに、志狼が待ち構えているのに出くわして。 既に彼等が人を引き込めそうな場所は、貴由が水を引くために見に来た河原以外にないことに気が付いて居た為の待ち伏せで。 「おっと、ちぃとばっかり悪さが過ぎたようだなぁ。ま、わざわざ自分たちで村を出てくれたお陰で、村での騒ぎにならねぇですんだが」 そして慌てて振り返ったところには赤銅が待ち構え、彼等はそこで初めて囲まれていることに気が付いて。 「ち、畜生ッ!」 「わ、危ないわね、もう」 開拓者に囲まれたと言うことで縮み上がった三人を他所に、咄嗟に匕首を抜いた一人の若者ですが、人質にしようとした夏蝶にひょいとかわされ、自棄になったか奇声を上げて匕首を振りまわし抜け出そうとしますが‥‥。 「が、は‥‥っ」 「この期に及んで逃がすと思うか? 己がしたことに対してはそれ相応の報いは受けて貰わねばな」 逃げようとした若者は地に伏せ、見れば鞘に収めたままの刀が、若者の意識を刈り取らぬように腹部を打ち、激痛と息を吸い込むことの出来ぬ苦しさに若者はのたうち。 村での涼霞の聞き込みや応対したときの様子から、子供達相手にすらこの若者は乱暴な態度を取っており、先のアヤカシの件についても彼だけは、明征の前で以外は反省した素振りもなかったとか。 「なぜこんな事を?」 一人の若者は少なくとも改心の様子は見られず残念ではあったものの、他の三人はただただ真っ青になって固まるしかできず、涼霞の問いかけにも、何かを言おうと口を開いては言葉にならない様子で。 「正直、先の時にはアヤカシの被害者だったとは言え、下心に付け込まれた方にも責任があるわ。それを棚に上げて‥‥いつまで引きずっているつもり? 若夫婦は貴方達を信じて、手伝ってくれる事を喜んでいたのに。その信頼を裏切るの? 保上様や皆の好意を無にして‥‥」 少々若者達にとってはきつく感じてしまう言葉ではあるものの、逆にそれだけで済んでいると言うことに漸く気がついたのか、二人の若者は項垂れ、一人は気まずそうに視線を彷徨わせて。 「下手すりゃ人を殺めるより性質が悪いこった、これだけぼこされても自業自得だぞ? とはいえ、まだ若いしなぁ」 何処か年長者の言い聞かせる言葉を交えながらも、そろそろ良い頃合いと見たか、赤銅が涼霞の言葉の後を受けると微苦笑気味に言葉を続けます。 「ただ、真面目にだけやれとは云わんが、周囲が白い目向けん程度には真っ当な方が‥‥生きやすい。頑張ってる奴には自然と周りが気付く‥‥若いお姉ちゃんも含めてな!」 最後に付け加えた言葉は、ただただ萎縮するだけの若者達に対して僅かに息を付く間を与えたのと同じ事。 「まだ若いのだから、いくらでもやり直せるわ。どうかまっすぐに生きて?」 「ええ、アヤカシ相手で騙された事は無理ないし、皆もその事は分かってくれてるのよ。このままではアヤカシの思う通り、それで良いの? 心入替えて‥‥貴方達ならやり直せるわ、私は信じる」 俯いてしまった若者の手を取り優しく涼霞が言えば、夏蝶も若者達のどうせ、と言う半ば自棄な気持ちを持ってしまっていたことを理解した上でそう言って微笑んで。 「‥‥む、直接知らん俺すら保上殿の話のみで疑いを抱くとは、失った信用を取り戻すという事は斯様に困難なのだろうが‥‥」 志狼の言葉、貴由も続けて。 「己の愉しみは一瞬だ。それよりも誰かと長く笑顔でいられる事を考えるといい」 捕らえられたまま憮然としている若者にその言葉は届いたかは分かりません、しかし、少なくとも他三人の若者達には身に染みたのでしょう、各々が項垂れ、すっかりと大人しくなっているのでした。 ●これから‥‥ 「お夏さんはご兄弟が見つかったとか、良かったねぇ」 村のおばさんに言われてにこりと笑って礼を言う夏蝶、村人達には開拓者と一緒に一度深柳へ寄って身内と落ち合うことになったと説明すれば、少しだけ本当のことを隠しているのに切なさを感じてもいるようで。 「いやはや全く結構大変なことになっていたようだけれどまぁま無事にそれなりに形にはなったようだし後は街道の方が――」 宗久は相変わらずのようではありますが、それなりに面白いものを見せて貰ったかなーなどとひたすらに喋り続けてはいますが、大体村人達は既に慣れてきているのか、良く喉が痛くならないなぁといった疑問を持つぐらいで。 「――まぁやっぱり活気が出て来るのが一番だし村がいい所なら、人も自然と集まってくるよ、頑張ってね」 漸くににっと笑って言葉を僅かに切る宗久、志狼は若者達へと言葉をかけて。 「これから村の者として暮らしていく事が真の命題。しっかりとやるよう」 若者達へと行ってから、改めて若夫婦へと向き直る志狼。 「‥‥む。塀はこれで問題ないが、街道に面していない外堀はもう少し深くしてから水を引き入れると良い」 「はい、外塀と基盤となる建物のおおよそは出来たのです、あとはもう少し大工を呼び家を増やし、移住者を受け容れられるようにしていこうと思っています。本当に有難う御座います」 暫定的ではあるものの、言い出した若夫婦が村を預かる形となるようで、年若い村長は力強く頷いて。 「こっそりしとってすんまへん‥‥っ」 「いえいえ、そんな‥‥開拓者には色々な方が居るとは伺っておりましたから」 「街道には人は通る。休憩所ができたら深柳への行き来も助かるし、人も自然と集まらへんかな?」 そして今まで姿を隠して動いていたすぐり頭を下げれば微笑を浮かべる妻、軽く首を傾げて若夫婦へとすぐりは口を開きます。 「ここを耐えたら次は春が来る。あんじょうきばりなはれや 」 それは村のことだけでなく若者達三人にとってものこと、改めてすぐりの言葉を受けて、村人達は口々に一行へと礼を告げるのでした。 |