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■オープニング本文 その日、保上明征が久し振りに理穴の首都・奏生にある自身の屋敷に戻って来て落ち着いたのは寒さの厳しい冬の朝のことでした。 「‥‥勘二、うちの母上殿はどうされた」 「はい、妙蓮様で御座いましたら昨日のことで御座いますが、それはもういそいそと、供を連れて温泉に雪見に出かけられました」 良くあることなのでしょうか、緩く溜息をついて膝から逃げようとじたばたする愛猫・胥を抱えつつ朝食の膳を運んできた使用人の勘二に再び問いかける明征。 「‥‥では、愚弟は」 「は、そうでございますね、新年早々に妙連様にご挨拶に来られましたが、やはりつい五日程前にまた何処と告げずお出かけに。いつ戻られるとは伺っておりません」 初老で穏やかな風貌の使用人はそう応えると、穏やかな微笑のままに、お食事を取られて下さい、と勧めて。 「‥‥あれにも困ったものだ、何故ああ育ったか。まぁ良い」 言って膳から茶碗と箸を手に取ると、緩く息を付いてそれを口に運び。 ごふっ、と白米を口に運んだ途端に吹きかけてぐと拳を口元に当てて堪え何とか飲み込む明征は、手元の茶碗の何の変哲もない炊きたての白い御飯へと目を落としてから、勘二が勧めるお茶を警戒するかのように見ると。 「一つ良いか」 「何で御座いましょう、旦那様」 「‥‥今、屋敷に残っている使用人は、もしや‥‥」 「馬番などを除けば、わたくしのみにございます。妙蓮様が娘衆を連れて出かけてしまいましたし」 やはり穏やかな頬笑みのままに応える勘二に、引き攣った表情のままに、そっと膳へと茶碗と箸を戻す明征。 「‥‥済まぬが‥‥今日はちと、具合が悪い、この膳は、片付けてくれ‥‥」 明征は引き攣った顔になんとか口元に笑みを浮かべようという努力だけはして、お身体に触りますと慌てる勘二ですが、是非にと言われ渋々膳を運び出ていく勘二。 「何故、どこからどう見ても無害そうな食材が、誰も食せぬ程の危険物へと成り果てるのか‥‥だが、勘二のみとなれば外に食べに行くわけにも往かぬが、私が作ることを絶対に認めんだろう‥‥母が娘衆と出かけたとなれば今暫くは戻らんが、あの食事では、保たん‥‥」 頭を抱える明征は暫く悩んだ末に筆を執ります。 「お手伝いですか? いえ、ですが旦那様、お世話で御座いましたら、私がしっかりと‥‥」 「いや、お前にばかり負担もかけられぬ、弟も居らぬでは近頃物騒故な、開拓者で手伝いを頼めば警護にもなる」 文を書き終え手伝いの人間を数人呼ぶという話をしたところ、わたくしがと言い出す勘二に罪悪感を感じつつ、明征は宥め賺しているのでした。 |
■参加者一覧
赤銅(ia0321)
41歳・男・サ
久万 玄斎(ia0759)
70歳・男・泰
鈴 (ia2835)
13歳・男・志
楊・夏蝶(ia5341)
18歳・女・シ
御神村 茉織(ia5355)
26歳・男・シ
時永 貴由(ia5429)
21歳・女・シ
忠義(ia5430)
29歳・男・サ
鞘(ia9215)
19歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●お手伝いを募りまして 「食というものには無意識な本能が働けば味など感じる事はないのですが、休養ともなれば味覚が動き出し、美味を求める。これもまた本能ですね」 「‥‥いや、あれの料理は本能以前に危険なのだ。むしろ、視覚嗅覚以前に本能的が危険を嗅ぎ取れぬからこそ、危険なのだ」 時永 貴由(ia5429)の言葉に珍しく呻くかのように答える保上明征。 その二人の様子になにやら御神村 茉織(ia5355)はやきもきしているようですが、特に明征はそれに気がつく風ではなく、改めて一同に向き直り。 「まぁ良い。ともかく、集まって貰えた事に感謝しよう。宜しく頼む」 言って各人が相談した通りに散る中、楊・夏蝶(ia5341)が明征に屈託なく笑いかけて口を開きます。 「先の依頼ではろくに挨拶もせず申し訳ありませんでした」 「なに、ゆるりと挨拶ができる状況ばかりでもなかろう、構わん。此度も宜しく頼む」 はい、と頷く夏蝶はくすりと小さく笑い口を開き。 「保上様の事は貴由から‥‥貴由が保上様をいつも心配してるんですよ、お忙しい方だからって」 「む‥‥別段私ばかりが忙しい訳でもないと思うが‥‥」 素でそう思っているのかじたじたと腕から逃げようとする愛猫を抱えつつ言えば、ふみゃーと暴れて腕から逃げた愛猫が救いを求めるかのように夏蝶の後ろへとさっと逃げるのを微妙に恨めしげに見る明征。 「触るだけで食材をダメダメにするフードクラッシャー‥‥」 そんな明征たちを後目にふむとばかりに顎を軽く摩って呟くのは忠義(ia5430)、できた料理が見た目も様子も問題ないと聞けばますますに不思議に感じたようでもあり。 「‥‥ミステリーですね。勘二様‥‥なんて恐ろしい人ッ」 何やら顔が白目がちで背景に一瞬雷まで見えた気がしますが、それはそれ、きっと気のせいでしょう。 忠義のその様子は見なかったことにしたのか、明征は夏蝶に聞かれ厩の場所などをざっと説明してやると。 「あ、一応報告しておきますと、食事は当番制スよ。食材は各班自己申告ですが」 「ああ、ならば簡単な一覧として出して貰えれば助かるな。出入りの者に運んできて貰うのが常だが、足りぬ物は気分転換に市にでも出て買ってこよう」 「了解ス。班の内訳は時永様・御神村様・楊様の組み、鞘様・久万様の組み、それに俺様・鈴様の三班ってことに」 「‥‥」 突っ込むのは無駄だと明征が気が付くまでは今暫く時間が必要そうなのでした。 「旦那様が近頃頼みにしておられると言う開拓者の方々というのにはお会いしてみたくありました。屋敷の事で分からないことなど御座いますれば、私に何なりと」 「この後で掃除などの指示をと思うが、まずは屋敷内の配置などを教えて貰えたら。屋敷内が手薄になっての警備も兼ねているから」 丁寧な礼と共に鞘(ia9215)に言う勘二、鞘は口の中で小さく表向きは、と声を出さずに呟いて。 「左様で御座いますか、ではまずは本邸以外の庭と別棟のご案内をさせて頂きましょう」 穏和な笑みを浮かべる勘二は先に立って鞘に敷地内の案内をすれば。 「結構広いんだ」 「それなりに屋敷で働く者も普通のご家庭よりは多う御座いますから」 ぐるりと塀に囲まれた中にある厩やそこで働く者、門番達などが住む寮を回り、離れには明征の母親である妙蓮が悠々自適に暮らしているとか。 「兄上様はご生母様のご実家へと‥‥坊ちゃまは旦那様と同じく本邸にお部屋は御座いますが、あまりお戻りにはなりません」 一通り敷地内を回って本館へと戻ってくれば、建物内のざっとした説明を行ってから、勘二は使用人達用の当番確認へと戻ると言って屋敷の奥へと戻っていきます。 「確かに仕事はそつなくこなす人みたいだな‥‥」 小さく呟くと、鞘は自身の当番には当たっていない為か、まずは目に付くところから掃除を始めるようなのでした。 ●何故か食事は外されましたが 「焼き魚、良いわね。鱈で照焼きどう?」 「良いと思う。それに筑前煮と小松菜のお浸し‥‥漬け物は娘衆が出払っているだけあって、古漬けがあるかどうかと言うところらしいから、大根の浅漬けを添える形にしよう」 お膳に乗せる献立を確認し合う夏蝶と貴由、勘二がちらりと顔を出したときには、日頃の感謝もあるからと夏蝶が言って他のお仕事に誘導してあって。 「しっかし、勘二は全く自身の料理に対しては無自覚らしいが、味覚自体はどうなんだろうな?」 そう言いながら芋饅頭を作っていた御神村は塩饅頭も作るつもりのようで、味覚さえ正常なら直せるかも知れないしな、と少し考える様子を見せて。 「でも、食べる場合の味覚がまともだとしたら、どうして‥‥んぐ?」 「美味いか?」 ひょいと貴由に口元まで差し出された筑前煮の人参を、反射的にぱくりといって御神村はむぐむぐと味わって。 「うん、うめぇぞ」 「貴由、味見?」 「ああ、夏蝶も食べるか?」 にと笑う御神村、貴湯はひょいと夏蝶に筍を差し出せば、ぱくりと夏蝶も食べてにっこり。 「いいお嫁さんになるわよ」 牡蠣をさっとと湯がきながら夏蝶が頬笑み言えば、貴由は嬉しそうに笑って。 食事の膳が部屋へと運び込まれてくると、説明を聞きながら頷く明征は、漸くに安心して食べられる美味しい食事に随分とほっとした様子なのでした。 「あの‥‥勘二さん‥‥」 おずおずと勘二に話しかけたのは 鈴 (ia2835)、鈴は明征から聞いていた掃除道具の場所に行って必要そうな道具は揃えてきたようで。 「あの‥‥まだ家では包丁とかは持たせてくれないけど、お掃除とか他のお手伝いは出来るので‥‥もしよければ、ちゃんとしたお掃除の仕方とか教えてもらえませんか?」 「左様で御座いますか。私で良ければ」 にこにこして答える勘二に、ちょっぴりと良心は咎めるようではあるものの、早速お水を汲んできての雑巾の絞り方から始めて。 「刀を握られるのでしたら、それに近いと聞いたことが御座いますねぇ、こう縦にぎゅっと絞るときに握りまして‥‥」 「ぁ‥‥う、うん、確かにこちらの方が分かり易いです‥‥」 言われた通りに縦に持って握ってみれば、まるでぎゅっと刀を握る感覚に似ていると言われれば確かにそんな気もするようで。 鈴は暫くの間勘二から掃除についてを教わり、その間は勘二も当番が入っていると聞かされても居るからか、食事の支度に、とは言い出さないようなのでした。 「かっかっかっか、腕が鳴るわい」 久万 玄斎(ia0759)がそう笑いながら言えば、既にがっつりと食事の支度に邁進する鞘に何を手伝えば良いのかなどを聞いたりしていて。 「‥‥主食の蕎麦は任せて。いくつかおかずになる魚とか野菜がそこにあるから、そっちの方をやって貰えると」 手際良く鍋にたっぷりの水を汲み火にかけながら、薬味となる材料を確認する鞘は、蕎麦屋の娘というのも頷けるというもの。 蕎麦は当番に入って直ぐに鞘が打ったもので、蕎麦の味が良く分かる盛りが好きだという話に気合いもそれなりに入るようで。 「盛りが好きなようだし、この場合は葱に大葉‥‥生姜と山葵はどちらを擂れば良いか‥‥?」 少し考える様子を見せる鞘は取り敢えずどちらも小皿に盛って出すことにしたよう、その間にもお湯が沸けば蕎麦をばらばらと解すようにして入れ、よく混ぜ着かないように気を配り。 「ふぅむ、ではわしはこっちでやっているかの」 言って久万は何やら天麩羅らしきものを作り始めますが‥‥。 「‥‥少し焦げ臭くない?」 「気のせいじゃ気のせい、こんなものかのう」 ていと皿にあげたのは、天麩羅にしてはちょっと揚げすぎてしまったような茶色の物体、こうして完璧な出来の盛り蕎麦のお膳に、何やら茶色の天麩羅が載った皿がでんと鎮座することとなるのでした。 ●久々に賑わう御屋敷に安堵 「ハハハ、朝からフルコースでもお見舞いしてやりましょうか」 「ふ、ふるこーす、ですか‥‥?」 爽やかな早朝、無駄に早起きな明征のせいでか、屋敷の朝は早めのよう。 妙に朗らかに、それでいてちょっと目が笑っていない様子で忠義は言うと、御手伝いと襷がけをし指示を待つ鈴はちょっぴり戸惑ったようで。 「まあ、それは冗談なんですが‥‥食べられないものとかの確認はどうですかね?」 「あ、はい、一通り聞いてきました」 「んじゃ、かかるスか」 少々かったるそうに言いはするものの、食材を前にてきぱきと動く様は流石に執事‥‥執事は料理人と違う気はしますがそれはそれ。 「えと、盛り付けるお皿とかの準備は出来ました」 「あ、じゃあ次はコレ煮込んで下せえ。そうそう、んで此れ炒めて‥‥焦がさないように頼みますぜ」 忙しく立ち働く二人、御膳の用意を鈴が先に済ませれば、忠義はちゃっちゃと手際良く食材を切り分け鈴に手順を説明していきます。 「蛸にビネガーオイルはなかなか‥‥足りないものも香草の代わりに薬味を細かく‥‥手を加えりゃ天儀風ですがや」 「えぇと、この牡蠣とほうれん草のスープはお椀に盛りつけて良いんですか?」 「それで良いかと。メインディッシュも完成スし。まあ、盛り付けも協力していきましょうや」 「は、はい」 出来上がったものを飾り付けて装っていく忠義に、鈴も興味深そうに見ながらお手伝い。 「‥‥完全に材料が揃わないのが悔しいスが、まあ及第点は取れますかね」 出来上がったお膳を見ながら少々満足げに忠義は頷いて呟くのでした。 「なかなか、普段食べぬ物を味わう良い機会だな」 「左様に御座いますね、旦那様。皆様のお心遣いか、非常に美味なお菓子などを私までも頂きまして恐縮するやら嬉しいやらで‥‥」 「‥‥そうか、それは良かった」 一瞬、何故他者の料理の味が分かるのに、と喉まで出かかった言葉を飲み込む明征、勘二は何やら嬉しそうな様子で続けます。 「本当に‥‥それにこんなに賑やかで楽しげな様子は、先代様が亡くなられて以来に御座いますね」 「確かに、たまにこうして人を呼ぶのも良いかもしれんな。この屋敷では、母上殿の回り以外は確かに静かすぎる」 言って庭へと足を向ける明征をにこにこと笑いながら勘二は見ています。 「‥‥おや、余程馬が好きなのか、おまけに胥もすっかりと楊殿の後ろに隠れることを憶えたようだ」 厩にやって来た明征は丁度馬の首を藁で擦ってやっている夏蝶に気が付いて見れば、明征の愛猫・胥は夏蝶の肩の上でふにゃあと飼い主から隠れる様子を見せて微苦笑を浮かべます。 「馬が、と限定せず、動物大好きなんです」 にこりと笑って答える夏蝶は、ふと思い出したことがあったのか口を開いて。 「そう言えば、茉織も私も試したんですが、勘二さん、元々の味覚は普通のようなんですけれど、味見もしっかりしているみたい、ですよねぇ?」 「ああ、私だけが駄目ならばただ合わないと思えるのだが、実際に家族だけでなく、使用人から厩番の者まで、皆、食べられなかった。勘二だけが、何故か食べられるのだ」 何でだろうか、と揃って首を傾げていれば、そろそろ昼食の時間だと、厩にひょっこり遊びに来た様子の久万に声を掛けられて明征と夏蝶も本邸へと向かうのでした。 「ぶっかけ蕎麦をお持ちしました。どうぞごゆっくりしていってください」 「ご‥‥ごゆっくり?」 とても良い笑顔を浮かべて蕎麦の入った丼を持ってきた鞘に明征は目を瞬かせます。 はたとそこで実家での営業用の笑顔を浮かべていた事に気が付いた鞘は、自身の頬をむにむにとして顔に張り付いていた笑顔を解除すると、普段通りの落ち着いた表情を取り戻して。 「‥‥ごめんなさい、つい癖で」 「い、いや‥‥接客をする仕事は大変なのだな‥‥」 つくづくそう思ったのかそう言うと、蕎麦を啜って旨い、と微かに口元に笑みを浮かべる明征。 本宅でそれぞれがそれぞれのお蕎麦を頂きながら、あちらでは仕事中に何を等と少し拗ねるようなそれでいて楽しげな響きの言葉に、それを楽しそうに笑って答える者が居れば、独り身には目の毒ですね、等と話を振られて軽く噎せる者が居たり。 何やら他の者の作った料理について書き付けて参考にしている者も居れば、勘二に掃除の仕方を尋ねたり、高額な物の掃除の時の取扱を尋ねたりして掃除へと気を引いている者もいて。 「しかし、本当に賑やかで御座いますね」 そう笑って言う勘二は実に楽しそうな頬笑を浮かべているのでした。 ●後は御方様さえお迎え下されば 「保上様、お疲れ様です。あの‥‥茉織が失礼な事しましたか‥‥?」 「ん? いや、特にこれと言った心当たりはないが‥‥何かあったか?」 一応文官であるが故に家にも持ち帰りの書類を持ってきて、自室で明征が作業をしていれば、貴由がやって来て何やら心配そうな様子に首を傾げて。 「御気を悪くしたら、すみません‥‥けど、あいつは本当に凄くいい奴なんです。私なんか吊り合わない位に‥‥」 そこまでいってから、惚気が含まれていることにはたと気が付いて赤面して茉織には内緒ですよ? と慌てて付け足しそそくさと持ち場に戻っていく貴由。 「ふむ‥‥」 貴由が慌てて去っていく様子を少々面白がって居るような表情を浮かべ見送れば、次にやってくるのは当の御神村で。 「茶でも飲んで休憩した方が良かねぇですかい?」 夏蝶と俺から差し入れ、等と言って芋羊羹に芋饅頭が小皿へと乗せられていて、御抹茶が添えられたお盆を渡す御神村、礼を言って受け取りもきゅもきゅと食べるのを眺めつつ、御神村は口を開きます。 「そーいや、保上の旦那、誰か気になる相手っていねぇんですかい? あ、貴由は駄目だからな」 「は‥‥? っ、はっ、はは、なるほどな、母や他に朴念仁だ唐変木だ酷い言われようの私ではあるが、流石にそこまで野暮ではないぞ」 言いながらも余程に面白かったのか笑う明征に、む、と笑われていることに眉を寄せる御神村。 「いや済まんな、揃って同じようにわざわざ惚気に来るとは。しかし、気になる相手等は特におらんぞ。なかなか現状を理解してくれるような者は居らんからな」 家を空けている事の方が多い現状では、なかなかそれを理解してくれるような相手は見つかりにくいと微苦笑気味に言う明征は、勘二や母にはせっつかれて面倒だがとふぅと息を吐くと。 「理解のある相手と出会えるはそう無いこと。その点では確かに羨ましいとも言えるがな」 大切にしてやれ、明征の言葉に御神村は言われなくても、と返すと。 「それにしても、勘二の味覚は本当に治らねぇんですかねぇ、味覚は問題無さそうなのに」 「先代は随分と色々方法を考えたらしいが、結局治らず今に至っているからな」 もきゅもきゅと芋羊羹を食べながらの明征の言葉にふむ、と不思議そうな顔をして首を捻る御神村。 明征の母と使用人達が戻ってくるまで今暫くの間、勘二に料理を作らせないようにと言う慌ただしい時間は続くようなのでした。 |