【氷花祭】月見よ雪見よ
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/03/15 18:56



■オープニング本文

 受付の青年が芳野へと呼ばれて出向いて用事を済ませ、伊住宗右衛門翁の屋敷を訪れたのは、芳野の祭りである氷花祭が始まったばかりの、寒い冬の日のことでした。
「幻雪楼の宴の話、聞きましたか?」
 宗右衛門翁を前に利諒が切り出せば穏やかに笑いながら頷くと、宗右衛門翁は口を開いて。
「おお、聞いたとも。ま、儂は緑月屋に呼ばれて居るので、そちらで雪見がてらに、月見酒と思うてな」
「‥‥いや、本当に何というか‥‥こういった宴とか、お好きですね、お二人とも」
「いやなに、近頃はこれが生き甲斐であるかのように楽しく、ついつい気持ちが若返るかのようでな」
 楽しげな宗右衛門翁の様子に僅かに苦笑気味に頬を掻く利諒ですが、依頼書を取り出すと軽く首を傾げて口を開いて。
「僕を呼んだと言うことは、一緒に楽しむ人を募集したいと言うことですよね?」
 にと笑う宗右衛門翁に、利諒は依頼書へと筆を走らせて雪見であり月見である席へのお誘いを書き上げるのでした。


■参加者一覧
鷺ノ宮 月夜(ia0073
20歳・女・巫
劉 天藍(ia0293
20歳・男・陰
華御院 鬨(ia0351
22歳・男・志
鷹来 雪(ia0736
21歳・女・巫
水鏡 雪彼(ia1207
17歳・女・陰
若獅(ia5248
17歳・女・泰
小野 灯(ia5284
15歳・女・陰
和紗・彼方(ia9767
16歳・女・シ


■リプレイ本文

●氷花祭
「雪像もいろんなのがあって綺麗だな‥‥!」
 ぱっと目を輝かせて窓の外に見える風景に笑みを浮かべるのは若獅(ia5248)。
 そこは緑月屋という老舗の御宿、若獅の声に同じく窓の外へと目を向けながら華御院 鬨(ia0351)も頷きます。
「ほんに、何とも風流どすなぁ。美しいものを楽しむことはよい芸の肥やしになりやす」
「月見酒は大好きです。そこに好きな雪の情景に温泉も堪能できるとは、良い機会に巡り合えました」
 にこりと笑い掛ける鷺ノ宮 月夜(ia0073)に、いやいやとばかりに首を振って笑ってみせる宗右衛門翁。
「そーえもん、ひさしぶり‥‥なの」
「おお、よく来たの。こちらは‥‥」
「初めまして、灯様の友人の、白野威と申します」
 小野 灯(ia5284)が白野威 雪(ia0736)の手をきゅっと握ってとてとてとやって来れば、宗右衛門翁は目を細めて頷きます。
「宗右衛門さんも利諒さんもお元気そうで何よりです」
「おお、劉殿も雪彼殿も、よく来てくださったな」
 劉 天藍(ia0293)が宗右衛門と利諒に声をかければ、一緒にやって来た水鏡 雪彼(ia1207)が和紗・彼方(ia9767)と手を繋いでにっこり笑いかけて口を開きます。
「宗右衛門ちゃん、利諒ちゃん一緒にお祭に行こ? 灯ちゃんも一緒にね♪」
「おまつり‥‥にぎやか、なの‥‥いっしょ、に‥‥?」
「うん♪」
 灯がかくんと首を傾げて聞けばにっこり笑って頷く雪彼、灯は雪を見上げて。
「すすぎ、おまつり‥‥っ」
「ええ、一緒に行きましょうね」
 笑いかけて手を繋ぐ灯と雪、
「氷花祭の祭りへ出かけるのは随分と久し振りだが‥‥うむ、では出かけるとするかのぅ」
「ね、ね、若獅ちゃんも行こうよ♪」
「ああ、あの雪像とかを間近で見るのか、楽しみだな」
 雪彼が若獅の手を取れば、若獅も嬉しそうに笑いかけて頷きます。
「じゃあ、荷物持ちだなんだと必要だろうし、お供するかな?」
「そうですねぇ」
 天藍に頷く利諒、
「私はここでゆっくりさせて貰うわ。楽しんでらっしゃいな」
 月夜は体調もあってかのんびりと過ごすことにしたよう、鬨もまずは宿でゆっくりするつもりのようで、彼女らを置いてさっそくお祭へと出かけていく一行。
「凄い賑やかな所なんだね」
 彼方が感心したように祭りの出店が立ち並ぶ辺りを見れば、手を繋いで居た雪彼がにこにこと嬉しそうに笑いながら先に立って歩いていて。
「手を繋げは離れないし温かいからいいよね」
「雪の祭りだから当然だけど、本当に寒いな」
 白い息を吐き出しながら笑う雪彼の言葉に若獅も興味深げに辺りを眺めながら言うと、その手には屋台で売られた食べ物などが載っており。
「結構大きな物とか見えたけど、あれはどの辺りにできてた物なんだろうな?」
「あぁ、あれならもっと先の方だな。先日俺も作ったが、この道を行った先の方に合ったりするんだよ」
 もっと山の方にな、と言うと大きな温泉とかまであったと笑う天藍。
「俺はこの間、雪像作ったぞ」
「へぇ、何作ったんだ?」
「相棒の凛麗だ。しかし、あの時は本当に寒かった」
 笑いながら言う天藍に、そりゃぁそうだろうなと笑う若獅。
「この前来た時はお仕事が主だったから、ゆっくり見れてないんだよね。今頃、あのお店、繁盛してるといいんだけど」
 行って笑うと、てこてこ歩いていけばいつの間にやら辿りつくのは幻雪楼という立派なお宿。
「あ、甘酒があるよ♪」
 丁度一階や二階では御茶などを振る舞っており、皆で少し寄ることに。
「わー綺麗だなぁ。すごくどれも上手にできてるー」
「とっても‥‥きれー、なの♪」
 改めて座ってから雪像を見るとそう言って笑う彼方、灯もにこにこと笑って見ていれば、その様子に雪も微笑んでそうっと頭を撫でてあげています。
「甘くってあったかい♪ 彼方ちゃんも飲む? あったかいよ」
「あー‥‥甘酒なら大丈夫かな? ありがとう、雪彼ちゃん」
 お酒に自信が無いのかちょっと首を傾げる彼方ですが、雪彼に差し出された者を受け取ると、口を付けてぽかぽかしてくる感覚に笑みを浮かべます。
「あれ? 彼方ちゃんも?」
「雪彼ちゃんもか、お揃いだねー」
 帰り道、また同じように屋台を除きながらのんびりと宿に戻ってくれば、宿の手前の雪を取って雪兎を作る雪彼と彼方は、緑月屋のの女将さんからお盆を借りると、ちょんと乗っけて部屋へと運んでいくのでした。

●緑月屋でゆったりと
「よかったら、お背中を流しやすが」
「おや?」
 お祭の後、冷えた身体を温めることもあり風呂へと向かえば、男風呂では鬨がそう言って宗右衛門翁の所へとやって来て。
 露天風呂の回り、岩や風呂から見える雪には雪が積もっていて、黄金色から茜色へと移り変わる頃合い。
「どうにも、男の人だと分かって居ても、一瞬焦るものでな」
「うちは男どすから、特に気になさらなくても結構どすえ?」
 言って洗い場で背中を流す鬨に宗右衛門翁も少しだけ不思議な感じがあるようですが、礼を言って流して貰って。
「それにしてもこの時期の温泉は、本当に良いな。どうです、一献」
 盥にお銚子を浮かべて微笑を浮かべていた天藍は、お湯に浸かりながら中へと入ってきた宗右衛門翁へとお猪口を勧めて。
「華御院さんもどうかな?」
「それじゃ、お一つ頂きましょ」
 夕刻から空は徐々に夜に移り変わり、空には月が昇っていて。
「これは良い具合ね」
 お湯の中にゆっくりと身を沈めて、微笑を浮かべる月夜。
「木々の間から見える月も乙なものねぇ‥‥」
 そう言いながら見上げる月夜ですが、湯の中でぷっかりと浮かんで見える二つのふくらみに、思わず布で押さえた胸元に目を落とす若獅。
 一瞬なんともならない表情を浮かべるも、とぷんとお風呂に入ると心地良さそうに笑みを浮かべて。
「ふわ――、このあったかさは身体の奥まで染みる、ねえ♪」
「うん♪ 暖かくて気持ちいいの」
「この前の山の中の温泉も良かったけど、こっちもいいなー」
 雪彼が布で髪を上げて湯に浸かると嬉しげに笑って言えば、彼方もお湯に浸かってんーと延びをして笑います。
「おふろ‥‥せんよー、もふらさま‥‥なの♪」
 灯がにこにこ笑いながら持ち込んだのはもふら様の形を模した小さなもふらのお人形。
「ぷかぷか、うかんで‥‥かわいーの」
 嬉しそうに笑って見上げる灯に、髪を纏めて上げてあげて肩を冷やさないようにお湯を掛けてあげたりしながら雪は微笑みかけて。
「灯様、お背中流しましょうか」
 笑いかけてお湯から上がる雪、灯もにこにこと笑って出ると灯の背中を雪は優しく流してあげて。
「きれーな、もの‥‥けしき、いっぱい」
 もふら様の玩具を手に雪へ笑いかける灯。
「もっともっと、いっしょにみよー‥‥ね♪」
「ええ。色々な物を、沢山見ましょうね」
 笑いかけてお湯を掛けて流してあげる雪。
「‥‥」
「若獅ちゃん、どうしたの?」
「いやー‥‥」
 困ったような顔をする若獅に、雪彼はきょとんとした顔で見上げて。
「そうだ、若獅ちゃんの背中流してあげる」
「え、ええ?」
 戸惑ったように声を上げる若獅ですが、雪彼に言われて湯を上がると一生懸命に背中を流してくれる雪彼に照れた様子です。
「若獅ちゃんて、鍛えてるんだね」
「え? いや‥‥」
 困ったように頬を掻くと口を開く若獅。
「いやさ? 今回一緒した女性陣は、皆綺麗で肌白いよなーって思って‥‥」
 お湯に映る自身の姿に戸惑うような表情を浮かべると、溜息をついて。
「俺ってば、陽に焼けてっからなー‥‥」
「雪彼は若獅ちゃんの目の輝きが凄く綺麗でいいな、って思うよ?」
「そ、そうなのか?」
「華夜楼関係の女の子の幸せを守る為にもっ! 若獅ちゃんや彼方ちゃんだって、お嫁に貰う男の人は雪彼よりしっかりしてて、強い人で幸せに出来る人じゃないとダメなんだからねっ」
「いや、雪彼は十分にしっかり‥‥って、お嫁!?」
「そうだねーんーボクもまだまだだし。みんなの力になるため、もっともっとがんばらないと」
 二人の遣り取りをお湯に浸かって見ていた彼方も笑いながらそう言って。
 何やら微笑ましい女の子同士の会話に、月夜は微笑を浮かべて肩にお湯を掛けながら雪景色の中に浮かぶ月を眺めて、ゆっくりと息を吐いて微笑むのでした。

●月見よ雪見よ
「一つ舞をこの風情と皆様方に捧げたいと思います‥‥」
「ほな、うちも‥‥」
 庭に面した障子を開け放ち、月明かりの中月夜は扇を手に一礼すると緩やかに舞い始めて。
 月の光の中でしずしずと舞い始める月夜に鬨も合わせ舞い始めて。
 美しく光る月を見上げて微笑みながら扇で舞う月夜に、扇と長脇差しで剣に光を受けの舞う鬨。
 一指し舞えば心地良い疲労と共に月夜が腰を下ろすと、用意されたお酒を一杯口にして見上げれば月夜の目に映るのは緑色の池に美しく光る月の姿。
 池の周りには真っ白な雪が月の光を受けてきらきら光っています。
「よーし、じゃあいっちょ‥‥な、天藍、飲み比べでもしねぇか?」
「お、受けて立つぞ」
 舞に惜しみない拍手を送っていた天藍へと若獅が言えば、天藍もそれに受けて立って。
「じ様はやらないで下さいね。僕が注意受けるんですからね」
 ちょっと楽しみな様子の宗右衛門翁に利諒が止めてみたりしつつ、始まる飲み比べ。
「じゃあ、まずは俺からな!」
 天藍に注がれて一杯呑めば、杯を干してにっと笑いながらお銚子を手に取る若獅。
「ん‥‥良い酒だな」
 貰ってからゆっくりと杯を干して杯からお銚子へと持ち替える天藍。
「いける口だな」
「育ての親が結構酒豪で、飲める歳になってからは、俺も鍛えられたんさ。そうそう負けねぇぞ」
 そんな具合で次々と杯を重ねる二人。
「ふ、結構やるじゃんお前!」
「‥‥あぁ‥‥」
 笑いながら杯を重ねる若獅と対照的に静かと言うか淡々と言うか呑んでいた天藍。
 そろそろやばいかなーと言わんばかりにふぅ、と杯を干した若獅ですが、次の杯を受けた天藍はくいとそれを飲み干して。
「わ、天藍ちゃん大丈夫?」
 何も言わずにぱったりと倒れた天藍。
「おっしゃ! 勝利! ‥‥とは言え、このまんま寝ちまったら風邪引くよな‥‥な、利諒、ちょいと手ぇ貸してくれ」
「はいはい、えぇと‥‥こちらに運びましょう」
 立ち上がるときにちょっぴりくらっと来たようでひょいと利諒の方に手を置いて酔いを押さえると、手分けして天藍の肩側を若獅が、足側を利諒が持って運ぶと布団を掛けて寝かして。
「これで良しと‥‥」
 天藍を寝かしつけてから若獅も少し側に座って酔い覚ましをして。
「付き合ってくれてありがとな、天藍!」
 言ってから笑って寝ている天藍を見下ろす若獅。
「二日酔いになったら、責任もって看病するからな!」
 その言葉にを天藍は夢現に聞いていたかどうかは天藍のみ知ること。
「宗右衛門ちゃん、これは?」
「あぁ、海老饅頭だの。鱈の鍋も良く味が出ているようでな、たんとお食べ」
 雪彼が首を傾げて聞けば、にこにこと笑って雪彼へと小鉢に鍋をよそってやる宗右衛門翁は、彼方がのんびりとお茶を頂きながら居る姿に声を掛けます。
「楽しんで貰えているかの?」
「はい、とても」
 宗右衛門翁に声を掛けられてにこり笑う彼方、宗右衛門翁も笑うと。
「お土産、お礼を‥‥宜しくお伝え下さいな。近頃は、こういった甘い物と呑むのが好きになりましてな」
「年を取った証‥‥」
 余計なことを言った利諒に拳骨を落としつつも笑みを浮かべる宗右衛門翁。
「はい、伝えます」
 にこにこ笑って頷く彼方、そこにおずおずと歩み寄るのは灯で。
「そーえもんに‥‥きーて、ほしーの‥‥。きーて‥‥くれる?」
「おお、是非、聞かせて貰えるかの」
 笛を手にしているのに気が付いて笑いながら頷くと、杯を置いて聞く体勢に入る宗右衛門翁。
 雪が微笑みながらすと頭を下げるとゆるりと白い衣を揺らして立ち上がり。
 灯が笛を手にゆっくりと奏で始めれば、幸代の中、柔らかく涼やかな音色が溢れ、それに合わせ微笑みを浮かべて舞う姿が、月明かりに照らされて、まさしく雪が煌めくようで。
 すぅっと演奏が終われば、ふわりと止まり再びすと膝をつき頭を下げる雪。
「とても良い音だったの。舞も‥‥こんな月夜に、本当に素晴らしい」
 宗右衛門翁が優しい笑みを浮かべ灯に頷いてみせれば、嬉しそうに笑うと、雪に駆け寄って飛びつくように抱きつく灯。
「すすぎ‥‥っ! すっごく、きれー‥‥だった、のっ!」
「灯様も、本当に綺麗な笛の音で‥‥」
「えへへ‥‥ありがと、ね?」
 嬉しそうににっこり笑うと、雪にぴったりくっついて、一緒にお団子やお饅頭を半分こする灯に、雪もお鍋などをよそってあげたり、雪に見立てた豆腐料理などを一緒に楽しんでいます。
「雪彼ちゃんは、もう休むんですか?」
「うん、利諒ちゃん、お休み」
 にっこり笑って暖かく着込んで部屋を出れば、自然と足が向くのは部屋ではなく中庭の廊下、腰を下ろして緑色に煌めく月の姿を見ていれば。
「皆すっごく上手。雪彼も頑張らなきゃ」
 そう呟いて月を見上げると、朧気な記憶の中にある歌が自然と口から静かに零れ出てきます。
 ふとその姿を目にして笑みを浮かべて見守る宗右衛門翁。
「せめて、楽しい一時を与えてくれた皆がいい夢を見られますように‥‥」
 微かに口の中で呟くと、月明かりの中笑みを浮かべながら今暫くの間、雪彼の記憶に微かに残る、両親の子守歌が静かに流れていくのでした。