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■オープニング本文 その日、開拓者ギルド受付の青年・利諒が幻雪楼に呼ばれたのは、気候の不安定な初夏の早朝のことでした。 「早急な仕事で、朝早くからすいません。宜しくお願いします」 「げ、穂澄ちゃん‥‥いやあわわ、穂澄さんも揃って、どうされたんですか?」 げ、と言われたことに対して少し膨れる様子を見せる伊住穂澄、二人の様子を見て微かに喉の奥で笑いを漏らしてから、煙管盆を引き寄せて灰を捨てると、利諒を呼び出した当人である東郷実将は中へ入るように促して。 伊住穂澄は芳野の街で領主代行をしている女武者、そして東郷実将は武天内にて武力を持って賊等の追捕を行い治安維持に努めている芳野の現領主その人です。 「急ぎ頼みてぇ仕事が入ってな。お前ぇも海弦山は分かるな?」 「えぇ、そりゃまぁ‥‥」 実将の言葉に頷く利諒、海弦山とは武天にある芳野という街の側、海に面した山のことで、海に向かって弓引くようにせり出した崖が続いていることからついた名前とか。 「私の元に明芳の村より知らせが届きました。海弦山と隣接した森の中にある村ですが、近頃不審な者を村の付近で目撃していると‥‥そこでおじ様に報告し調査頂いたのですが‥‥」 「かなり規模がでけぇ。それにどうも差し迫ったことになっているようでな。だが他の件もあって回っている者も居て手が足りねぇ」 「無論動かせる者もそれなりにいますが、芳野の警備が手薄になるほど動かすわけにもいきませんし」 二人の言葉に依頼書へと筆を走らせながら口を開く利諒。 「えぇと、それで、具体的にはどんな‥‥?」 「手の者が賊の本拠について探りを入れて大凡の位置は目星が付いている。よって、まず一つはこの本拠を押さえる為の手が借りたい」 「今一つ‥‥既に明芳の村へ、賊が調査に訪れているので一刻の猶予もありません。村の護衛のために手を借りたいのです」 「では、手入れと護衛、って所ですね。分かりました、依頼出しておきます」 頷く穂澄、利諒は改めてそれぞれの情報を確認すると抜けの内容に注意深く依頼書へと筆を走らせるのでした。 |
■参加者一覧
崔(ia0015)
24歳・男・泰
野乃宮・涼霞(ia0176)
23歳・女・巫
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
紬 柳斎(ia1231)
27歳・女・サ
弖志峰 直羽(ia1884)
23歳・男・巫
紅 舞華(ia9612)
24歳・女・シ
ブローディア・F・H(ib0334)
26歳・女・魔
不破 颯(ib0495)
25歳・男・弓 |
■リプレイ本文 ●森の先に 「賊が既に村へも手を伸ばしてきているのか‥‥確かに猶予はないな」 紬 柳斎(ia1231)が僅かに眉を寄せると呟きます。 そこは昔使われていた様子の古い街道にある、打ち棄てられた小さな茶店跡で、そこを拠点として盗賊達の本拠地を探っていました。 「この辺りに詳しいところははっきりしていないみたいだけど、拠点となりそうな候補がいくつかあるみたいだな」 弖志峰 直羽(ia1884)が軽く建物の中を見渡せば、古い建物ではあるもののしっかりと丈夫な作りである建物を改めてみると。 「この辺りが廃棄されたのはいつ頃のことかご存じでしょうか?」 「何故破棄されたかは分かっちゃいねぇが、十年程前に忽然とこの辺りの者がいなくなってな。当然それなりの調査は行われたが、結局何も分からず仕舞いでそのまんまだ」 野乃宮・涼霞(ia0176)が周辺の様子を書き記した絵図を前にそう問いかければ、東郷実将は顎を摩るとアヤカシ被害があったわけでも盗賊被害があったわけでもなかったんだがな、と呟いて。 「そういえば、友人が『前言果たせなくてわりぃ』と申しておりました」 「いやいや、あれを助けて貰っているのは知っておる」 「ところで、頭目の面は割れているのだろうか?」 微笑を浮かべる涼霞に頭を振って低く笑う実将に、柳斎は問いかけるように目を向けると、あくまで目撃したと告げる者の証言ではあるがと言いながら、今急ぎ人相絵を作らせていると告げて。 「見つかっても仕方ない、どちらにしろ連絡待ちってことだねぇ」 不破 颯(ib0495)が軽く肩を竦めていれば、鷲尾天斗(ia0371)は何処か気楽な様子の笑みを浮かべて自身の得物の手入れをしています。 「ま、直ぐに戻ってくるだろうな、ここまで絞り込めてるわけだしなー」 「‥‥」 鷲尾がにやりと笑って言えばブローディア・F・H(ib0334)は少し考える様子で室内を見回すのでした。 微かに人の気配がしたような気がして、紅 舞華(ia9612)は木の上で身を潜めて辺りの様子を窺っていました。 絵図で見ればあと少しで森が開け崖に面する辺り、息を潜めて辺りを窺えばかさかさと複数人の足音が直ぐ側を通り過ぎるのを見つけて。 「‥‥あれは‥‥」 見れば彼等の進む方向に僅かに見えるのは何やら建物、逸れもかなり大きなもののように思えば気配を確認し一時その場を離れる舞華。 「木々の間からだったので細かなところまでは分かったが、大分規模の大きな建物のようだ。あと、気になることもある」 「こっちも何とかそれらしい路を見つけたが‥‥」 舞華が言えば崔(ia0015)が周囲の様子や抜け道について調べていたようで、路自体はまだ詳しく調べてないと告げて。 「大人数が潜めてかつ周囲に目が行き届く地形、勿論見張りも置いているだろうとなりゃ、慎重に動かねぇとな」 「この辺りまで戻ってくる途中に、随分昔に使われたような荒れた路が草に覆われて隠れていたのを見つけた。もしかしたら奴らの拠点に至る道の一つなのかも知れないな」 「昔にって事ぁ、今は使われている様子は?」 崔の言葉に首を振る舞華、崔が見つけた路は、元はいくつかあったうちの一つで男達が見つけて使っているのだろうと言うこと、他にも幾つか路はあるのだろうがどうやら男達が見つけたのはその路だけではないかとの意見で一致したようで。 「少なくとも街道以降、どうやって村に賊が向かったかは分からねぇが、調べていたかぎりじゃあの路以外に使っている様子はねぇし」 「私が見たところでも、他の路を利用しているようには見えなかった。もっとも、あくまで森の路に関してはだが‥‥本拠自体の場所は把握したが、幾つか踏み込むには確認しないと」 建物に対しどう探りを入れるのか、舞華と崔は改めて確認するのでした。 「では、階段は二カ所、志体持ち以外の男達は、所の破落戸で数を頼みに、と言ったところか」 「はい、それと、大分広い屋敷です。低めの塀に囲まれて正面の門と裏口の潜り戸が主な出入口でしょう。屋敷自体は崖の上に沿って建っていますが、その崖下が‥‥」 「それと、頭目は二階に‥‥何とかと煙這って所か」 「志体持ちの者が主に二階に詰めているようで、気取られてはと‥‥」 舞華と崔の報告を受けしっかりと頷くと、大凡の配置を絵図に書き記して実将は改めて一同を見渡して。 「この辺りからなら屋敷の大体が見渡せそうだな。見張り台は?」 「形式上で古いもののようだがしっかりしたものがあった‥‥だが使っている様子もない。二階の小部屋のところでぶらぶらしながら見張ってるだけのようだ」 不破が聞けばその小部屋を舞華は指し示して。 「では一つ賊退治と参ろうか。‥‥こういうとまるで鬼退治のようであるな」 柳斎はそう言って刀を手に、不敵に笑うのでした。 ●襲撃 「涼霞ちゃん、舞ちゃん、屋敷ん中の賊は任せたぜっ」 弖志峰の言葉に頷いてみせる舞華に微笑を浮かべる涼霞、一同は陽動と制圧に別れることとなり。 「‥‥怪我すんなよ! 俺も頑張るからな!」 「ええ。直羽先輩、東郷様をお願いします」 任せておけとばかりに笑うと、二人を送り出してから実将へと目を向けて和すかに頷きあう弖志峰。 「さ〜て、頑張りますかぁ‥‥しかし随分なお屋敷だねぇ」 上手いこと足場を見つけ樹へと登り弓を番えると、存外のんびりした口調のまま不破は改めて賊の本拠となる屋敷へと目を向けて呟いて。 「盗賊には勿体ないっと」 ちらり下へ目を向けて合図を待ちながら呟けば、弖志峰が軽く扇を振って見せ、それを確認するとその一点へと的確に矢を打ち込んで。 とさりと倒れるのは屋敷の外で煙管を燻らせて居た見張りの男、それと同時に一気に退路を塞ぐために制圧班は屋敷へと距離を詰めて。 「‥‥さて」 裏から押し込むのとは別に表口の手前で止まり、陽動の者と共に門の陰に身を潜めつつ少し考える様子を見せるブローディア、他の制圧班は既に裏口へと向かっていて。 「では、そろそろ行きますかねっと」 弖志峰が言えばまず、陽動として幾人かの手勢を引き連れ、すと戸に手をかけ突っ張る棒で閉じられているのを確認する実将。 「盗賊共め、大人しく縛につけ!」 扉を蹴破り手勢と共に入口付近にたむろしていた男がかかってくるのをかわし下がると、そこに群がり飛び出して来る数名の男達。 「ぎゃあぁああっ!!」 「やっぱり、炎はいつみても綺麗ですね」 門へと誘き寄せた瞬間立ち上がる火柱、火に巻かれる男達に、火を見て口元に微かに笑みを浮かべるブローディア。 可燃物に気を付けたから延焼は避けることが出来たようで、何処か陶然とした様子で見ていたブローディアですが、目の前で実将が炎に巻かれなかった男を打ち倒しているのを眺め。 「‥‥と、いつまでもおもってるわけにもいかないし、次の行動に移るかな」 呟くと、ブローディアは陽動班から離れ屋敷の裏の方へと向かうのでした。 「あちらは派手にやってるようだな。よしよし」 にやりと笑みを浮かべる鷲尾は素手にとのすぐ側に人がいないことを確認しており、豪快に裏口の戸を蹴破れば、滑り込むように中へと飛び込む崔。 「‥‥手甲は主義じゃないんだが」 言い様、物音に慌てて飛び出してきた男を張り飛ばして小さく肩を竦め。 「流石に、愛用の相棒とはいえ室内で七節棍振り回す訳にもいかねえからな」 言いつつよろけた男を叩き伏せればその脇を槍を手に倒れた男を踏み越えて一気に屋敷中央の、人気を感じた広間まで踏み込んでいって。 「な、何だ手前ぇはっ!?」 「さて、貴様等には二つの道がある」 「ちょっと待て、何で勝手に話を‥‥」 そこに集まりそれぞれ獲物を手に殺気立った男たち、ですが鷲尾は特に気にする様子もなく口を開き、男たちも僅かに抗議の声を上げかけて。 「一つは何もしないで今すぐ投降する事」 「ひ、人の話を聞きやが‥‥ぐああぁっ」 容赦なく話を無視して柄で薙ぎ倒す鷲尾に悶絶する男。 「一応捕縛するんじゃねぇのか?」 「捕縛ぅ〜? めんどくせぇ」 階段を押さえに入り込んできた崔が階段側の男の足を払いながら言うのにからからと笑いながら応えて。 「頭目は二階のはず!」 「ここに志体持ちが殆どいない事から見ても‥‥っ、そこだ!」 舞華が言うのに屋敷内に素早く目を走らせもう一つの階段を目にした柳斎が駆け出せば、追う舞華に涼霞も離れずに付いていきます。 「危ない!」 突然階段の目の前の戸が開かれたかと思うと、振るわれる刀に涼霞が声を上げて飛び出してきた男に歪みを唱えれば、柳斎は身体で受けるも涼霞の加護結界と歪みで体勢が崩れたそれが柳斎に傷を付けるまではいかず。 そのまま身体から男に突進し、力を込め豪快に男の刀ごと切り倒す柳斎。 「‥‥当たった所で逝きゃあしないが骨の二〜三本は覚悟して貰おうか」 逃走経路を確保しようとしてか逃げるための足止めか、二階の廊下に飛び出してきた男を手甲で叩き伏せながら言う崔、その側を駆け抜け部屋を開け放つと飛び込む鷲尾。 「さて、お前等は雑兵よりかは楽しませてくれるかな?」 槍を短く持ち石突きを目の前の男に叩き込みながら、殺気だった目と僅かに狂喜を伺わせる笑みを浮かべて部屋の中をぐるりと見渡すと鷲尾は口を開いて。 「ほらほらほら、もっと楽しませろよ!」 「くっ、なんて奴らだ‥‥あの連中が出払ってるって時に‥‥」 奥にいた大柄な男が舌打ちをして下がれば、二人男が立ちはだかるかのように前に出て。 「待てっ!」 窓を開け放ち飛び出そうとしているところに柳斎が咆哮をあげるも、ちらりと一瞥をくれるとそのまま窓の外へと身を躍らせるのでした。 ●崖の下 「大丈夫か?」 「有難い‥‥」 人数頼りに控えていた者も、一般人としてみるならば腕の立つ者もいるよう。 弖志峰は捕り手に加わっていた助っ人の傷を癒すと、屋敷の方へと目を向けました。 「では、東郷の旦那、そろそろ‥‥」 あらかた陽動側に来た男達を取り押さえ、屋敷側が俄に騒がしくなったのを確認してから実将へと声を掛ける弖志峰。 正面に敵の姿が見えないのを確認して不破は門の脇にある見張り台へと梯子を伝い上がれば、見張り台は森の中程までを見渡せるしっかりしたもので。 「鐘も付いてるかぁ‥‥ほんと賊にはもったいないねぇ」 言って屋敷の裏手に目を向ければ、一瞬見えたのは何かが崖の下に落ちていく光景です。 「‥‥‥人‥‥?」 少し目を瞬かせるも直ぐに正面の入口から逃げようと飛び出した男に気が付いて、逃げられないように、不破は足を狙って矢を打ち出すのでした。 「ぐ‥‥こんな時に、畜生が」 吐き捨てるように言う男の姿は、崖下にありました。 その細い道は、上から眺めただけならば気が付かないことでしょう、二階から飛び降りた男も、普通の人間ならば落ちれば一溜まりもない高さも志体があればこそ。 もっとも、無傷というわけではないようですが、男は自信が立ち上がり動けることを確認すると、細い道に沿って小走りに動き出して。 「畜生が、村の方と合流して‥‥――っ!?」 「ご苦労だったな」 細い道登りの道が僅かに拾い坂道へと合流する地点、漸くにそこへと辿りついた男の前に、人影がありました。 「こっから先は行き止まりだぜ? お前らの目論見なんざ、まるっとお見通しだ」 「っ、おのれっ」 「こちらも行き止まりだ」 実将の傍らで扇を軽く振って言う弖志峰に、身を翻し逃げようとした男ですが、来た道にいつの間にか舞華が立っていました。 「逃がすわけにはいかない。観念するんだな」 「神妙に縛についてもらおうか‥‥でいいスよね、東郷の旦那♪」 舞華と弖志峰がそう言って迫れば、何とか突破しようと刀を抜いて怒声を上げ突進する男ですが、実将が刀の峰で叩き伏せて、後ろに控えていた捕り手が直ぐに縛り上げるのでした。 ●賊と屋敷と 賊を一網打尽とした後、芳野にある領主の館にてささやかな酒宴と共に顔を合わせていました。 「あの屋敷ですが、あのまま放置しておくのは問題があるのではないかと思います」 舞華の言葉に頷いて口を開く実将。 「あの屋敷はあの辺り一帯が破棄される少し前に、報告無しに作られたものであったらしい」 「と言うってぇと‥‥あまり良い理由で作られたもんじゃ無さそうだなぁ‥‥」 「あそこならば、あの辺りの船の行き来の監視から、寄せて来られた時の周囲の警戒にと有効な地だからな」 「反乱の足がかりとで言ったところか?」 弖志峰が聞けば頷く実将に鷲尾は杯を呷って笑いながら言って。 「あながち間違いじゃないだろうが、理由如何はともかくとして、実際に使われることはなく破棄されたと‥‥」 「実際、見張り台から見た感じ、随分と守りに向いた屋敷だったと思うかなぁ」 実将も不破も、笑って言った鷲尾の言葉に同意を示して。 「屋敷からあの道への隠し通路もありましたが、途中が塞がっていました。だからあの時窓から飛び出したのかも」 実将に報告する舞華に、人を出してどうすべきか決まるまでまずはきちんと管理するようにしようと実将も応えます。 「しっかし、さっさと逃げ出すたぁ、ちったぁ楽しませてくれるかと思ったのになぁ」 「一網打尽に出来たんだ、村も無事だったし、良い事じゃねぇか」 がっかりだと肩を竦める鷲尾に微かに笑みを浮かべて言う崔。 「兎に角‥‥大きな被害が無くて何よりでした」 そう言って微笑む涼霞に、暫し思案に暮れていた実将も漸くに表情を和らげ笑って頷くのでした。 |