店に巣くう毒念
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/11/02 17:37



■オープニング本文

 その日、保上明征がギルドへとやって来たのは、暑さと寒さが入り交じった不安定な気候の続く、とある秋の夕暮れのことでした。
「塩の交易についての交渉‥‥それの護衛ですか」
「ああ、出来るだけあの村の様子は確認していてな、その時にある程度の物は持って行っていたのだが、それをいつまでも続けるのではなく、きちんと定期的に物資の遣り取りを安定化させたいと常々話していてな」
 ギルド受付の青年利諒が確認しながら書き付けて聞くのに明征は頷いて続けます。
「村長もきちんと交易の交渉を行いたいとの事で、この度口利きのために書状を渡してはあるが、ちと気になる噂を小耳に挟んだのだ。其の辺り護衛もそうだが、手を貸してやって欲しい」
「気になることですか?」
「ああ、とある小塩問屋と交渉するように勧めていたのだが、急にその店の主人が床に伏せたと聞いたのだ。そんな様子も無かったのだが‥‥代理で今店に出ているのが遠縁の甥だとか‥‥甥なのか遠縁なのかそもそもどちらかと問い質したいところではあるが」
 その御店の主人はまだ年若く跡取りなどもいないそうで、縁続きだと言ってその御店で既に主人面をしていると言う噂が耳に届いたとのことで。
「その者がもし禄でもないことを考えたならば、恐らくは塩の交易の足がかり以前の問題へとなっても元も子もない。実際の所を確認に行きたいとも思うが、少々今立て込んでおってな」
「なるほど、護衛は念の為で、その交渉が上手く行くように協力して欲しいって事ですね」
「ああ。小塩問屋に問題が起きていたとして、それを放っておけば深柳などの他の村や集落に影響が出ないとも限らないからな」
 明征の言葉に眉を寄せて頷くと、利諒は依頼書へと筆を走らせるのでした。


■参加者一覧
北條 黯羽(ia0072
25歳・女・陰
野乃宮・涼霞(ia0176
23歳・女・巫
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
紬 柳斎(ia1231
27歳・女・サ
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
一心(ia8409
20歳・男・弓
紅 舞華(ia9612
24歳・女・シ
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ


■リプレイ本文

●不安な旅路
「これも理穴の復興の一環だと思って受けたんだけど‥‥なかなか面倒なことになっているみたいですね」
 微苦笑気味に呟くのは一心(ia8409)、一行は街道に沿って周囲に警戒を向けながら進んでいました。
「実際にお話を聞いてみません事には判断しかねますけれど‥‥」
 保上明征が耳にした話が現状どれほど影響を与えるかが読めずに少し考え込む様子を見せる一心に野乃宮・涼霞(ia0176)は目を向けると、頷くのは紅 舞華(ia9612)。
「だが確かに、塩は重要だ。他の集落や村に影響が出ないと言い切れまい」
 年若い村長は僅かに不安げな表情を浮かべての舞華の言葉を肯定します。
「村で他の物は何とかなるにしろ、塩だけは‥‥海に面していなければ、塩はやはりどうにも‥‥」
「おまけに自称遠縁の甥か‥‥うさんくさい事この上ないな」
 紬 柳斎(ia1231)がどうせ禄でもない事を考えた愚か者であろうが、呟けば北條 黯羽(ia0072)は口を開いて。
「先に店の方に顔を出さなきゃ大丈夫だとは思うが、こちらの警戒もしておいた方が良さそうさね。俺は護衛を重点的にするか」
 言いながらも柳斎をどことなく頼もしげに見ている黯羽。
「俺も護衛‥‥のつもりだったんだけど‥‥前の仕事で怪我を負っちまったのは計算外だったよなぁ」
 参ったと言うルオウ(ia2445)、護衛される方としても怪我人が加わっているのはどうにも不安もあり居心地の悪さもあるようです。
「やはり、一度実際に交渉に向かう前に探りを入れた方が良いだろうな」
「そうですねぇ、主人が倒れて、自称遠縁の甥が幅をきかせているって所が怪しいですよね‥‥メイドさんとか、女中さんがいたらバッチリ何かを見ちゃう所です」
 羅喉丸(ia0347)が村長の安全からも大きな商いの話があるのを先に告げるのは得策ではないのではと言えば、怪しすぎますとルンルン・パムポップン(ib0234)。
「道中での疲れもあります、私達の探索の間に宿で一服して交渉に備えていただけますか?」
「そうですね‥‥焦っても話が纏まらなければ意味がないですし」
 村長という立場からも早く戻るために交渉を急ぎたい事を理解してか、涼霞が頼めばやむを得ないと了承する村長。
 街道の賊などの脅威は開拓者の護衛もあり鳴りを潜めてはいましたが、一行は色々と不安な旅路を急ぐのでした。

●御店の様子
「なにやら御病気と耳にしまして、お見舞いに参った次第です」
 涼霞は小塩問屋に手土産の菓子折を手に店の者に告げれば、店の奥の方に踏ん反り返って座っていた男が奥へ案内しようとする店の者を制してやってくると、無遠慮な視線で上から下までじろじろと舐め回すように見ていて。
「叔父は病で面会謝絶だ。用事は俺が聞こう」
「いえ、用件が病に対しての見舞いですし、それなりに心得も御座いますので‥‥」
 涼霞の答えに忌々しそうな表情を浮かべた男ですが、縋るような様子で店の番頭らしき男がお見舞いの方ぐらいならと必死で訴え、渋々顎でしゃくって見せます。
「ささ、こちらへ‥‥」
 許可が下りほっとした様子で涼霞を案内する番頭に、横柄な様子でどっかりと店の奥に座り直した件の男の注意がこちらに向いていないのを確認し、案内に立たれた廊下で涼霞は口を開きます。
「番頭さん、お話が‥‥」
 番頭だけに聞こえるほどに小さな声で自身が開拓者であること、仕事でこちらの状況を耳にしてやって来たことなどを手早く説明し口裏を合わせて貰うように頼めば、驚くも頷いて主人の部屋へと案内する番頭。
 主人は酷く衰弱し眠っていて、涼霞が歩み寄り側に腰を下ろし容態を見ると予想していたことでもあったのか。
「わわ、ひ、光って‥‥」
「大丈夫です。やはり、毒物で‥‥」
 慌てて声を上げそうになる番頭を制し、解毒の術で大分呼吸の楽になった様子の主人を見ながら表情を曇らせる涼霞。
「とてもお世話になった方ですのでこのまま看病のために滞在したいと伝えて頂けないでしょうか? それと‥‥」
 毒が抜けたとは言え衰弱している上、その事実が知れれば危ないとの判断から番頭に口止めと共にこの後の事を打ち合わせると、涼霞はそのまま看病として御店に残るのでした。
「最初は戸惑っていただけだったのですが、旦那様が倒れられて‥‥」
 一心がその話を聞いたのは、丁度御店の飯炊きの娘さんが食材を求めに出たときのことでした。
 番頭の方から使用人たちに簡単に話は通されたようで、娘さんは声を潜めつつできるだけ協力すると約束します。
「先ずは‥‥そうですね、主人の食事で倒れる前に何かおかしな事は? 例えば、男が主人の食事に盛れそうな機会は?」
「‥‥あり、ます‥‥頻繁に私などが食事の支度をしているときにこられます。今御店で粥を食べているのは旦那さまだけですし‥‥」
 男が来てからは皆似たような食事ではありますがと僅かに嘆息する娘。
「御店の中に自称甥と親しい人などは‥‥急に御店に出入りするようになったとか」
「親しい人などは分からないです‥‥良く用事だと言って出かけてしまうことなら有りますが」
 関わりのある人がいるのなら、中ではなく外で会っていたりするのではないでしょうか、という娘に礼を告げると一心は男が出て来るのを待つのでした。
「んー‥‥この辺りはちょっと入りくんでんなー」
 ルオウは辺りを見渡すと苦笑を浮かべました。
 御店の周辺を覚えておこうとのことでざっと見回れば、漸くに戻って来た御店の裏口、ルオウは男が出て来るのを、辺りを窺いながらぶらぶらと待つのでした。

●細工師と甥
「なるほど、あの男か‥‥」
 一方、酒屋へと向かっていたのは舞華でした。
 店の主人が向かったという酒場は、御店の人間は詳しく知らずとも向かっていた地域などのことを聞けたためか直ぐに見つかりました。
 茸の和え物を頂きながら一杯と洒落込みつつ、小耳に挟んだ情報を元に見つけたその男は痩せぎすの男で、店に入ってきたときには大分出来上がって良い気分の様子。
「良い飲みっぷりだ、見ていてこちらも気持ちが良い。‥‥一献如何か?」
「ほ、奢ってくれるってのかい、金があってもタダ酒ってのは良いもんだからな、頂くぜ」
 言って舞華の側に寄る男は若いですが酒のせいかすっかりと褪せた肌の色をしており、ありがてぇと繰り返し酒を呷って。
 暫くすれば上機嫌にべらべらと口にするのは良い金になった仕事があった、その時にたんまり貰ったが無くなったらそこから金を引き出せばいい、といったもの。
「一体何がそんなに金になったのか‥‥何を作ったのか、教えては貰えないか?」
「いーや、駄目駄目、こいつぁ、俺の、とっておきよぅ‥‥」
 少し考えると舞華は酒の飲み比べを提案し、既にべろべろで正常な判断が出来ないか嬉々としてのった挙げ句にあっさりと潰れる男。
「この男は私が送っていこう‥‥勘定だ」
 店の主人へと金を支払い男の住んでいる辺りを聞けば連れて行き、泥酔して土間で鼾を掻く男を尻目に室内をざっと調ると、細工道具に混じって必ず燃やすようにと言う書き付けを添えられたとある文があり。
「‥‥なるほど、金になると踏んで、証拠を燃やさなかったわけだな‥‥」
 その文の中に描かれた図を見て小さく頷くとその文と書き付けを懐へとしまい、土間に寝ている男へと歩み寄る舞華。
「さて‥‥話をとっぷりと聞かせて貰うとするか‥‥」
 舞華は低く呟くと未だ呑気に鼾を掻いている酒浸りの細工師を見下ろすのでした。
「ひょっとしたら、その甥によく似た人に心当たりある人も、いるかも知れないって思って‥‥」
 そう言って首を傾げてみせるルンルンに一心は僅かに怪訝そうな視線を向けました。
 二人は外で張っているのも怪しいため、直ぐ側の茶屋で御茶を飲みつつ簡単に分かったことを確認していました。
「けど‥‥? 何か引っかかることでも?」
「うん、外見が似ているって言うわけじゃないみたいなんですけど、あの横柄な様子とか、どことなく似ている人がいた気がするんだそうです」
「‥‥? どういうこと、ですか?」
「短い期間だけ雇われてた人で、あまりに態度が酷いからって、旦那さんが首にして出した人がいたそうなんですけど‥‥どことなくその人に似ているけど、名前とか覚えてないって‥‥」
 周辺のお店の人にそれとなく尋ねたところ分かったのは、外見はあまり似ていないものどことなく甥と雰囲気が似ている男が過去に小塩問屋を首にされているらしき事を話してくれたそうで。
「出て行ってからのことは当然小塩問屋でも周りのお店でも知らないからどうしているのかとか分からないみたいです」
「その人物が恨んでいるかも知れないって事かな‥‥内部に手引きした人がいたのではなく、一時期御店にいたから中を知っている人物が協力している、もしくはその人が差し向けたか‥‥」
「ちょくちょく出かけるって言ってましたし‥‥あっ!」
「‥‥ちょうど出てきたところですね‥‥」
 一心とルンルンはそこで言葉を止めると、頷いてからそれぞればらばらに茶屋を出て男の後を尾けるのでした。
 同じ頃、御店の周りをぶらぶらとしながら嗅ぎ回っていたルオウも、男が出かけるところに気が付き尾行を始めるところでした。
「っ、とと‥‥」
 ふと甥が目を向けたのに一瞬目があってしまったか、慌てて素知らぬ振りでその辺を遊んでいた子供を装おうとするルオウですが、甥はじっとルオウを見ていると、突然急ぎ足で歩き出して。
 ルオウもそれを確認すると後を追うのですが、暫くつかず離れずで追いかけた後、見失ってしまうのでした。
「尾行を警戒しているのか、それとも気付かれたかな‥‥」
 小さく呟く一心ですが、気が付かれた瞬間はなかった筈と思えば少し戸惑ってもいました。
 どうにも尾行を警戒している様子、それについては別れて同じく後を付けていたルンルンも感じていたところで、相手は素人ではあるものの地の利があり非常に警戒しており。
 何より、自分を見張っている人間の存在に気付いたというのは大きな所、それでなくとも元々の御店の主人に見舞いと称して看病に来ている女が現れたことから物事が上手く動かなくなっているのは、小賢しい男ならば当然気が付いていることで。
 やがて何とかルンルンと一心が辿りついたのは、郊外の林に囲まれた小さなあばら屋。
 改めて尾けられていないかをきょろきょろと見渡してから入っていった男は中に入って少しすると、中の様子を窺う間もなく出て来て元来た方に歩き出し、念の為後を追うルンルン。
 次に出てきたのは一人の初老ともいえる男で、その男以外にそのあばら屋に人の気配はないようで、一心が後を尾けて見れば暫く歩いてやってきたのはあばら屋近くの薄暗いどうやら酒場のようで。
 やがて中から出てきたのは、先程の初老の男と風体の宜しくない男達が4人ほど。
「‥‥‥で、その店を‥‥それとも‥‥」
「‥‥誰かが邪魔を‥‥餓鬼の塒‥‥暴いて‥‥」
 微かに耳に出来た言葉に眉を寄せる一心、窺っている様子から判断するに、誰かが甥に気付かれ事態が悪化したことに思い至り。
 目を離すわけにも行かず、一心は一行の動きを警戒し続けていくのでした。

●襲撃
 既にとっぷりと日も暮れ人通りも絶えた頃、それは宿と御店と、両方で起きました。
「やはり来たか」
 呟く羅喉丸、一心から初老の男と6人の男達が宿の位置を割り出して来たらしいと知ったのはつい先程のこと。
 誰をどう尾けてきたのかは一心からは良く分からなかったようですが、丁度ルオウが戻って来て直ぐの事で、どうやら男達はルオウを追ってやってきたようです。
「どうやらあの煙管は件の細工師による贋作と断定できたらしい」
「先程の舞華の報告か。回りくどいことをするもんさね。しかしやはり一緒なのは心強い」
 柳斎の言葉に肩を竦めた黯羽は、小さく息を付いてから笑みを柳斎へと向けて続けていましたが、下で騒ぎが起きるのに人魂を作りだし周囲に警戒を向けると、何やら探している様子の男達、抜刀しているからか宿の者たちは怯えたように身を引いて様子を窺っています。
 やがて階段を駆け上がってくれば、村長のいる部屋へと押し入ってくるのに、既に待機していた羅喉丸が迎え撃ち、そこに柳斎も駆けつけて。
「あの一人が厄介そうだな」
 呟くも襲いかかる男達を軽くいなして叩き伏せていく羅喉丸。
 目の前の男を突っ込ませそれに乗じて件の男も距離を詰めてくるのですが、柳斎が間合いに踏み込むのを迎え撃ち取り押さえて。
 その時に男の懐からばらばらと金が零れ落ちれば、結構な金額で雇われたのだと分かり。
「逃がしませんよ」
 そして、その様子を少し離れたところでこそこそと窺っていた初老の男は襲撃が失敗したと見るや逃げだそうとするのですが、そこに一心が立ちはだかり、初老の男はがっくりと膝をつくのでした。
「あの煙管がどうにも信用出来ずに‥‥」
 御店の方では、漸く落ち着いた御店の主人がぽつぽつと看病していた涼霞に告げている時でした。
 小さな悲鳴が聞こえて来てはっと顔を上げる涼霞ですが、目的が主人だと分かってか仲間を信頼してかそこに踏み留まって。
 閉めようとしていた店の戸を強引に開けて入ってきた破落戸が二人程、既に刀を抜いていれば店で働いている娘を庇うように割り込むのは舞華。
 舞華は細工師を調べて宿に報告の後、急いで御店の方に戻って来て見れば男達乗り込んでくるところ。
 ですがそれはあくまで普通としては少し腕が立つ程度、舞華が男達を捕らえれば、外で御店の様子を窺っていた甥が失敗したのだと気が付いて小さく舌打ちをし。
「ちっ、こちらが失敗したんじゃ意味がねぇ‥‥」
 言って踵を返してその場を離れようとするのですが。
「逃がさないんだからっ、ルンルン忍法シャドウマン‥‥シャドー!」
「なっ!?」
 影が絡みつくように逃げ道を阻めば、ルンルンはびしっと甥に向かって指を突きつけ。
「悪有る所にニンジャ有り、どんな悪事もルンルン忍法がお見通しなんだからっ!」
「に、忍者‥‥?」
 少々甥の頭の中にある忍者像とは違ったようではありますが、流石に捕らえられて忌々しげに顔を歪めるのでした。

●報告と
「宿への被害は軽微、御店も大事には至らずに済んだか」
 その報告を舞華と涼霞から受けて明征は頷きました。
 その後分かったのは追い出された初老の男が恨んで計画し、自身の甥に偽物の品で御店を乗っ取ろうとしたこと、身辺を探るルオウを見て金をばらまいて探っていた元と、ついでに御店を留守の間に襲われたと言って主人を亡き者にするつもりだったよう。
 毒は鼠退治として買ったものでした。
「無事に仕事も済んだ、次まで少し間はある‥‥」
 無事に塩の契約を御店の主人と結んで報告が済めば、柳斎と黯羽は次の仕事までの一時、折角なのだからと暫く飲み明かすのでした。