秋月の宴を
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: イベント
EX
難易度: 普通
参加人数: 25人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/12/27 17:08



■オープニング本文

 その日、呼ばれて顔を出したギルド受付の青年・利諒が上機嫌な様子の伊住宗右衛門翁と顔を合わせたのは、小雨ぱらつく秋の日の昼下がりのことでした。
「どうしたんですか? ご機嫌ですね」
 軽く首を傾げて尋ねる利諒に、嬉しそうな様子の宗右衛門翁は宴会の参加者を募集する張り紙を出して欲しいと言って。
「‥‥宴会‥‥えぇと、緑月屋ですか。じゃあ、秋の月を楽しむ宴なんですねぇ」
「ああ、穂澄が儂に、久々に孝行の真似事がしたいと言い出してな、緑月屋で、お友達も呼んで是非、と」
 どうやら宗右衛門翁、隠居してから暫くの間疎遠であった孫娘が敬老な気分になったとお持てなしをしてくれると言われ、珍しいこともあると思いつつも嬉しくなったようで。
「ほむ‥‥あぁでも、現状遠方にいる方とか、行き来出来ない意味合いでの遠方に旅立っちゃった方とかで、直ぐに呼べる人も居ないと」
「うむ、折角の孫の好意じゃ、ならば開拓者と宴でも楽しむかと思っての」
 なるほど、と頷いて紙を用意してさらさらと筆を走らせる利諒は、軽く首を傾げて。
「えぇと、何人ぐらいですかね」
「おおすぎてもなんだしの、25人ぐらいが限度かも知れんが」
「確かに、宿泊客人数とかで考えると、そこが限度でしょうね。ただ宴席ってだけなら余裕はあったとしても」
 利諒の言葉に頷くと、頼むぞとどことなく嬉しそうに宗右衛門翁は言うのでした。


■参加者一覧
/ 風雅 哲心(ia0135) / 野乃宮・涼霞(ia0176) / 水鏡 絵梨乃(ia0191) / 劉 天藍(ia0293) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 紬 柳斎(ia1231) / キース・グレイン(ia1248) / 弖志峰 直羽(ia1884) / 珠々(ia5322) / からす(ia6525) / 朱麓(ia8390) / 和奏(ia8807) / レートフェティ(ib0123) / 琥龍 蒼羅(ib0214) / リン・ヴィタメール(ib0231) / 玄間 北斗(ib0342) / ルーディ・ガーランド(ib0966) / 蜜原 虎姫(ib2758) / ライディン・L・C(ib3557) / リリア・ローラント(ib3628) / アルマ・ムリフェイン(ib3629) / 御影 銀藍(ib3683) / ウィリアム・ハルゼー(ib4087) / リュミエール・S(ib4159


■リプレイ本文

●まずは宿で
「宗右衛門様、お久しぶりに御座います。このたびはお招きに預かり‥‥っと、硬すぎますね」
「おお、良く来られた」
 宴へのお誘いを出した伊住宗右衛門翁に笑みを浮かべつつ声を掛けるのは紬 柳斎(ia1231)。
 宗右衛門翁は丁度孫娘である伊住穂澄と言葉を交わしているところで、声を掛けられれば目を細めて笑うとそう言って、穂澄も微かに笑みを浮かべて柳斎へと会釈します。
「折角の宴の席、羽目をはずし過ぎない程度に無礼講といきたいものです」
「おお、存分に楽しんでいって下され」
 そう笑って言う宗右衛門翁、柳斎は穂澄に案内されて緑月屋の奥へと足を向けます。
「何か奥ぞあったんどすか?」
「まぁ、色々と‥‥」
 何やら少しばたついていた様子に穂澄へと尋ねるのはリン・ヴィタメール(ib0231)、問いかけられた穂澄は、少々厨房でトラブルがあって摘み出された人がいるとかいないとかいう話で。
 そんな話を後目に、宿の庭の一角でぼんやりと様子を眺めているのは和奏(ia8807)、庭木は徐々に色付き始めてきており、とりあえずはお茶を楽しんでいるようで。
 そうこうしている間に宗右衛門翁はどうやら誘われて温泉へと向かってしまったようで、一瞬いつの間にと思うも、まぁ良いかとばかりに和奏が抹茶茶碗へと目を落としてから再び庭へと目を向ければ、辺りをぐるりと見渡しながら出かけて行くのは琥龍 蒼羅(ib0214)。
「なるほど、景勝地とは聞いていたが・・・・名の由来はこの姿か」
 琥龍の見渡す先には、色付き始めた木々の色が山々を彩る様子、いくつもの色彩を見立て六色の谷と名付けたのは、こうして見渡して良く理解できたようです。
「ふむ・・・・良い頃合いに来られたようだな」
「伊住の御隠居はもう宿入りしているんだったねぇ」
 琥龍が通り過ぎて暫く、その道を連れ立って宿に向かっているのは風雅 哲心(ia0135)と朱麓(ia8390)で。
 どうやら朱麓は宗右衛門翁と会うのがだいぶ楽しみなようで、それが分かるのか風雅も微かに笑みを浮かべて見ていて。
「ぎゃーっ」
 どこからともなく聞こえてきたのはどうやら露天風呂の外側の囲いの方のようで、思わず目を見合わせてからそこに様子を見に行く風雅と朱麓、見ればどうやら宿のお掃除をしていた従業員が捕縛罠に掴まっていたようで。
「どうしたんだ?」
「そ、そういえば覗き対策がどうとか‥‥忘れてた‥‥」
 どうやらからす(ia6525)が許可を取って仕掛けておいた覗き退治の捕縛罠があったようなのですが、まるきり一般人の従業員には気がつけなかったようで。
 従業員を罠から外してやると、2人は気を取り直して宿の入口へと向かうのでした。
 その宗右衛門翁はといえば、玄間 北斗(ib0342)に誘われまずは一っ風呂といったところ。
「お孫さんの代わりにはなれないけど、お背中を流させて貰っていいかなぁ〜なのだ」
「おお、忝ないの」
 食事前の一時、とりあえずはのんびりと汗を流してだいぶ気分も解れてきたよう。
「しかし、たれたぬきとは一体・・・・?」
 たれたぬきで微笑みの輪を広げるとのことを玄間がいっていたのをふと思い出し、宗右衛門翁は背中を流してもらいながらも少々不思議そうな表情を浮かべて首を傾げるのでした。

●大はしゃぎの温泉
 宗右衛門翁が首を傾げている頃、宿では団体様のご案内中。
「おぉー。凄い、ちょっと豪勢じゃない? 俺もこんな宿屋経営してみたいなー」
 ライディン・L・C(ib3557)が、玄関の広間から部屋へと向かう廊下で辺りを見回して声を上げます。
「相変わらずのはしゃぎっぷりだな?」
 キース・グレイン(ia1248)が微かに笑みを浮かべながら言えば、希望があったため大部屋をでんと取っており、それぞれ部屋の思い思いの場所に荷を置いていて。
 早速水着を取り出したりと、皆ではしゃいで居るのが楽しくて仕方のない様子で。
「大好きなお友達と一緒に過ごせる時間‥‥虎姫には、これが、なにより幸せです‥‥」
 蜜原 虎姫(ib2758)がほうと幸せそうに微笑みながら荷物を開けていれば、早速水着を手に、リリア・ローラント(ib3628)がていっと虎姫に抱きついてみたり。
「みんなと一緒に温泉、楽しみですー☆」
 微笑ましい女性陣に対し、男性陣はそれぞれ何やら考えて居ることがあるようで。
「温泉、そろそろ準備が完了するってさー」
 ライディンが言えば、早速水着と貸し出されたタオルを手に露天風呂へと向かう一同、水着を着用し露天風呂の前に集合で。
「同意があれば混浴可だからねぇ。良かったね、覗きで捕まらなくって」
 アルマ・ムリフェイン(ib3629)がくすくすと笑うのに、すすすと寄るルーディ・ガーランド(ib0966)とライディン。
「よしアルマ。ちょっと頭から浸かろうか」
「‥‥って、うわぁっ!?」
 がしっと腕を掴むとうりゃとばかりに一緒に温泉の中に引きずり込むライディンと、ていとばかりに後ろからそれを文字通り後押しして湯船へ放り込むルーディ。
 良い仕事をしたとばかりに笑顔のルーディですが、そこに御影 銀藍(ib3683)が早駆で一気に駆け寄るとがっしと腰を掴んで‥‥。
「どーん」
 投げようとしたところ、ルーディと御影に体当たりして湯船に突き落としたのは意外や意外、リリアです。
「男の人ばかり遊んでずるい。私達も混ぜて下さいな」
「‥‥よしよし。いい子、ですよ」
 湯船の縁でにこにことわらって見下ろして言うリリア、引っ張り込まれてあっぷあっぷしていたアルマには、虎姫がほわっとした様子で撫でこ撫でことしていて。
 どうやら犬系の動物にめっぽう弱いとか何とか、
「前に金魚や屋台に突っ込まれたお返しごふぁ」
 にまっと笑って言い掛けたライディンですが、アルマの尻尾に足を掬われたか見事に湯船の中でひっくり返って。
「転んでもただでは起き上がりたくはないでしょー」
 にへっと笑って言うアルマ、結局湯船の中ではひっくり返したり転がしたり、大騒ぎの様子に入ってきて目を瞬かせるキース。
「偶にはゆっくり身体を休めるのも良いな‥‥と思ったが、此処でも遊ぶのか」
 水着を身につけゆっくり浸かるつもりだった湯船を見ればそこはもう大賑わいで阿鼻叫喚、思わずキースも苦笑しつつ、でもそんな空間がまた楽しいようでもあり。
「りりあちゃ、背中、流してあげる‥‥」
「流しっこしましょう♪」
 微笑ましげな虎姫とリリアの様子、もとい微笑ましげに見えてリリアが虎姫を擽ったりと見た目ちょっと妖しげな光景に目が止まったのかも知れませんが、暫くすれば和やかな談笑へと変わっていって。
「さって、逆上せる前にと‥‥」
 やがてアルマがひょっこり湯船から出れば、尻尾をきゅーと絞って上がると、程良い頃合いだからと皆上がり、宴の前に大部屋でのんびりと一息ついていれば、水気をきちんと拭き取ったアルマの尻尾をリリアが梳いていて。
「星のようなこの毛色は、いつ見ても綺麗で、大好き」
 もふっと梳かしてふかふかな状態の尻尾を撫でてにっこり笑うリリア、それぞれ宴の前の一時を、ある者は持ってきたお団子を用意して、ある者はちょっと厨房で場所を借りてと、思い思いの時間を過ごすのでした。

●女の子? 男の子?
 日も良い具合に落ちてきて、遠くに見える空が茜色に染まり始めた頃、天河 ふしぎ(ia1037)は空にうっすら白く見える月を見上げてほぅと息をついていました。
「はー‥‥良い景色だなぁ、宴席の月も楽しみだ」
 何も知らずに温泉を楽しんでいる天河ですが、その時唐突に温泉の扉をかぱーんとあけ放つ人影。
「‥‥わぁ、何も見てない、見てない、恥ずかしくなんかないんだからなっ」
 思わず真っ赤になりながら手に持っていた手拭いをぶんぶん振って慌てるのには訳が。
 湯船に入ってないため肌寒いからか、開け放った人物は大きめの布を取り合えず巻いてはいるものの一人は胸を布で隠しているの程度、一人に至っては手拭いを持っているだけでしたり、ともかく入ってくる3つの影は明らかに女性の体の柔らかい線を表わしていて。
「ふしぎー、貸し切りにしてあるから背中の流しっこしよう」
 そう笑って言うのは水鏡 絵梨乃(ia0191)、一緒に入ってきたのはウィリアム・ハルゼー(ib4087)とリュミエール・S(ib4159)です。
 とはいえウィリアムは男性のようなのですが、どういう原理かは分からないものの女性の胸を身につけているよう、また天河も女性と見間違われることもあるような風貌なので、はたから見れば女の子同士の温泉風景に見えなくもなく。
「あ、ふしぎ、照れてる? 見たい? 見たいなら幾らでも見ていいわよ?」
「わーっ、い、いや、別にっ! な、なんてことはないんだからなっ!」
「なんてことないはそれはそれでどうなんだろう‥‥」
 手ぬぐいを持つだけで肌もあらわなリュミエールが、うりうりとばかりに見せつければ、真っ赤になりながらも言い返す天河、それを聞きつつ少し考える様子を見せる絵梨乃。
「ああもうふしぎは可愛いなあっ」
「ほらふしぎ、先に流してあげるから、ここ座って」
 ある意味一般男性にとって羨ましいかもしれない状況ですが、促されて座る天河からすれば、少々刺激が強いようでもあり。
 きゃっきゃとじゃれつくリュミエールもからかって楽しんでいるようで。
「そうそうふしぎ」
「何?」
「好きな子とはどうなっているの? 進展とか、今後どうしたいとかあるでしょ?」
 絵梨乃が天河の背中を普段の感謝を込めてか丁寧に洗いながら聞けば、挙動不審にあわあわと赤面しつつ言葉に詰まる天河。
「好きな子との進展は‥‥ひ・み・つ、なんだからなっ」
「教えてくれても良いじゃ‥‥あ、つぎふしぎの番ね」
 その後も洗うのが上手いか甘えもと言われて引くに引けずにたじたじになる天河や、ていとリュミエールにちょっかいをかける絵梨乃。
「やっ、私ノーマルだからっ」
「いやいや、身体検査身体検査、三位寸法ちぇっくだ」
「あ゛っ、ちょと、やんっ」
 少々妖しい光景を楽しげでいながら我関せずとばかりにお風呂に入っていれば背後から絵梨乃の襲撃を受けるウィリアム。
「ひゃぅっ! 胸偽物でも感じるんですよぉ! だから揉むのは禁止ですぅ!」
「いや、ほらだって、本当に男の子かとか確かめたいじゃない」
「お婿に行けなくなる〜」
 実際どういう構造なのかは分かりませんがそれはこの際置いて置いて、実に賑やかで楽しげに露天風呂を満喫する四人、その騒ぎは天河が逆上せてぷっかり浮かびかけるまで続くのでした。

●秋月の宴
「いつもは持て成す側だけれど‥‥たまには持て成される側も良いものだ」
 縁側そばに腰を下ろしてしみじみと呟くからす、いつも御茶でのお持てなしをする事が多いだけに、自身が受けることの方が珍しいのか少し新鮮な感覚を楽しんでいるよう。
 それでも側に酔い止めに薬草の御茶を用意している辺りはからすらしいところで。
「‥‥大丈夫? これ、飲むと良い‥‥」
「あ‥‥ありがとう‥‥」
 ふとからすが気が付いて持参の御茶を入れて渡してあげれば、浴衣でぐてーと逆上せたままの様子の天河は、障子の桟に寄りかかった状態のまま受け取ると口元へと運んで。
「あぁ、確かに、少し、楽に‥‥」
 まだちょっとぼうっとしてしまっているようではありますが、その様子を見てからのんびりと御茶を飲みに戻るからす、貰っている御茶を飲んでまったりと休んでいると、天河の元へ絵梨乃とリュミエール、ウィリアムもやってくるのでした。
「‥‥こうして庭にも空にも月が見えるのって、ちょっと楽しいかも‥‥」
 ぼーっとしながら座っている和奏が呟けば、お酒は如何です? と尋ねるのは穂澄。
「うん‥‥」
 お持てなし中の穂澄に頷けば、勧められた山菜料理のてんこ盛りなお膳を前に、お酌をして貰いゆっくりと飲んで。
 どうやら輪に入るつもりはないようで、ぼんやりと始まったばかりの宴会を傍から眺めてのんびりと食事を楽しんでいる和奏、そこにやっぱり持て成す方がしっくり来るのか、からすがお酌に来てみたり。
 宴の始まる頃、支度などを終えて部屋に楽しげに話ながら入ってきたのは野乃宮・涼霞(ia0176)と珠々(ia5322)。
「緑月屋さんに伺うのももう一年がそろそろ近づく頃となるのね」
 しみじみと笑みを浮かべたまま言う涼霞に珠々もこっくり頷いて。
「女将さんにお願いしたのが楽しみ」
「伊住さん、利諒さんお招き感謝です」
 楽しげに話している二人の耳に入ってくる声に目を向ければ、丁度部屋の入口で宗右衛門翁と利諒に遭遇して声を掛けた劉 天藍(ia0293)の姿が。
 直ぐ側に居た弖志峰 直羽(ia1884)が目を向けた二人に気が付くと、笑顔で軽く手を振り、涼霞と珠々もそれに気が付いて歩み寄ります。
「宗右衛門様、御無沙汰でございます。お変わりありませんか?」
「おお、儂は元気が有り余っているようでな。こうしてみれば皆元気なようで何より」
 宗右衛門翁が目を細めて言うと、利諒が立ち話も何ですから、と部屋の中へと案内して。
「ご希望のものはもう少ししたら出来上がりますので」
 穂澄が珠々にそう伝えれば、涼霞が声を掛けて呼び止めると、匂い袋を穂澄に渡します。
「お招き頂いたお礼に‥‥」
「まぁ‥‥有難う御座います、大切にしますね」
 穂澄が嬉しそうに受け取れば涼霞もにこりと笑って。
「あら、そちらの方は‥‥何か料理に気になることでも?」
 ふと穂澄が見れば運ばれてきた料理にいただきます、とお箸を取った珠々が茸や山菜を葉で包んで焼いたものなどに何やら警戒気味でちょこちょこ突っついては確認しているようで。
「油断は大敵なのです‥‥いくら好き嫌いは大きくなれませんよといわれても、警戒だけは止められない‥‥」
「‥‥大変なのですね」
 自身にも心当たりがあるのか穂澄が呟くように言えば、ようやく安心したのか、程良く熱さの逃げた料理に舌鼓をうつ珠々。
「宜しければどうぞ」
「これは旨そうだな、感謝」
 そんな様子を微笑んでみていた涼霞は、食事の後のお茶にと菊花と桔梗の目に清しい練切を差し入れれば、天藍が笑みを浮かべて言い。
「っと、珠々ちゃんはお茶で‥‥いや、人参は入ってないから」
「でも、ありますよね、人参茶」
 ついつい出されたお茶までも確認してしまう様子に笑ってる天藍に、ふと考える様子を見せながらいう利諒、当然のことながら思わずぴたっと固まる珠々。
 その様子に笑みを浮かべていた天藍はそういえば、と天藍は宗右衛門翁と利諒に目を向け、弖志峰発案なのだがというと。
「ちょっとした余興なんだが‥‥」
「月見をお題に、合わせ句でも詠んでみないか?」
「合わせ句ですか?」
「ほう、面白そうじゃな」
 これに言葉を書き付けて、と弖志峰が取り出したのはなかなかに風流な紅葉を模した柄の白紙の札。
「どんな句になるかしら?」
 楽しげに微笑を浮かべていう涼霞は、すらすらと札に筆を走らせ、こっちが五の札でこっちが七で、と奥場所を確認しながら秋らしく、と暫し悩んだ後で筆を走らせ置く天藍。
 利諒が何やら思いつかないのか頭を抱えていたりと、札が揃うまでもまた賑やかなことで。
「お、思い浮かばないですー」
 利諒が頭を抱えてみたりする中、何はともあれわいわいと賑やかにしばしの間盛り上がるのでした。
 一方こちら、持参したお団子と共にのんびりと時間を楽しんでいる様子なのは玄間と礼野 真夢紀(ia1144)、それにリン。
 どうやらおもてなしでリュートの体験を勧めていた人と一緒に宴に花を添える演奏をしているようで、楽しげに微笑みを浮かべており。
 浴衣を着ていた玄間はいつの間にやら風が涼しくなったからか着ぐるみ姿で狸囃子よろしく踊っており。
 兎にも角にもそれなりに楽しんでいる様子の三人なのでした。
 さて、こちらでもお団子をそれぞれ持ち寄って楽しんでいる様子の人々の姿が。
「魔法で焼いてみました☆」
「‥‥一口で団子って言っても、色々あるもんだな」
 ずずいとにこやか笑顔で炭色の物体‥‥恐らくは団子であったものを差し出してみれば、ちょっぴり戸惑った様子で見ていて。
「ちなみに、僕は敢えて陣風味で、芝麻球を持ってきた」
「虎姫は。食べる、専門‥‥」
 虎姫それ貰う、とルーディのをひょいととってもぐもぐと食べ始めている虎姫がいたり、その様子を眺めつつも冷静に用意していたお鍋をかき混ぜてお餅の状態を確認しているキース。
 そして上機嫌に横笛に指を滑らせていたアルマは、空にも庭の池にも見事な月が浮かんでいるのが嬉しいようで。
「僕も神威だからね」
 そう笑顔で言いつつも、ライディンの団子が飛んでくれば打ち返したりしているアルマ。
 打ち返した団子をよくよく見て微妙な表情を浮かべるルーディ、ライディンに思わずその物体を指して聞いてみます。
「その、粒餡とかそのあたりは兎も角‥‥その突き出した禍々しい物はなんだ」
「モヤシ団子、略してMD!」
「‥‥よしライディン、モヤシは却下だ」
「でも、ライディンさんのお団子は‥‥何だか、ちょっと懐かしい食感です」
「って、食べたのか!?」
 もぐもぐと食べていたリリアは、ルーディに聞かれて軽く首を傾げると、こくりとそれを飲み込んで。
「しゃきしゃきですよ? キースさんもお一つ、食べてみませんか?」
 ルーディへ答えたリリアに勧められたキースはお団子が投入されたお汁粉のお椀を渡しながらそれを受け取ることとなり、なんと形容して良いのか迷うような様子を浮かべているのでした。

●色付き始めた庭と共に
「さーて、札も出そろったところだし、一つこの籤を引いて順番を決めて、捲っていこうか」
 弖志峰が差し出した手にあるのは紙縒りの籤で、番号が書かれているところを弖志峰が握っているようで、次々に手を伸ばして引くと、早速並べられた札に向き直ります。
「最初は俺からか‥‥何々、臼と杵、雀が遊ぶ、鏡月‥‥うーん、これは」
「雀が兎だとお月様っぽいですが‥‥ちょっと想像しにくい情景ですね」
 ちょっと中途半端だな、と利諒の言葉に頷く天藍、籤を見れば、次は利諒の番のようです。
「次は僕ですね。えぇと、雲惑う、水面たゆとう、影が舞う、って、えー」
「情景が揃ってしまったみたいですね」
 利諒が引くのを見れば、頬に手を当てていう涼霞、珠々は既に札を引く準備はできているようで、早速一枚目を引いて見て。
「雲流れ‥‥映し水とて、山粧う‥‥やま、よそう、かな?」
「ほぅ、これはなかなか‥‥次は宗右衛門殿か」
「ふむ、月兎舞う、尚触れまほし、栗饅頭‥‥栗饅頭?」
「この流れでそれはない」
 開かれた句に思わず小さく笑みを漏らして天藍が言うと、物凄く気まずげな表情を浮かべたのは利諒で。
「ごごご、ごめんなさいっ、一回頭に浮かんだら、他が何も思い浮かばなかったんですっ」
「と、途中まではなんか良い感じだったんだけどなー」
 あわあわと頭を下げる利諒に笑いながら言うと、次は誰かな、と聞く弖志峰に笑みを浮かべるのは涼霞です。
「では私も‥‥仰ぎ見て、冴けし月の、物想う‥‥綺麗に纏まっているわね」
「くっ、ここで変なのが出たら面白いと思ったのに‥‥じゃ、真打登場ってことでほいほいっと‥‥何々? 月の虹、月が満ちゆき、月見酒‥‥月ばっかりが集まったねぇ」
 一通り楽しげに笑いながら話していれば、宿の女将が運んできてくれたのは甘黍の団子に海老を混ぜ込んで蒸し上げた真薯です。
 黒い器にまぁるいお団子が月のようで、出し汁の中に小さなお麩が雲のように浮かんでいて、皆でそれを頂きながらわいわいと楽しいひと時。
「お出汁の中で甘くてほろっと崩れて‥‥」
「目にも楽しく良いわね」
 幸せで堪らない、と言ったようにほうと息をつきながら食べる珠々に、涼霞もお月様が増えたみたいと笑って。
「しかし、直羽は今日は随分大人しいな」
「今日は、って…何だよー俺だってこういう時にはなぁ‥‥隙ありっ! 天ちゃんのしんじょいただきー☆」
「‥‥と思ったらやっぱりか!」
 皿ごと真薯を引き寄せようとする弖志峰相手に、笑いながらも応戦している天藍。
「珠ちゃん、一緒に入る?」
 一通り騒いだ後は、温泉に入ってきましょうかと珠々を誘う涼霞、嬉しそうに珠々も頷いて、二人は揃ってお風呂へ。
 弖志峰と天藍も、頃合いを見て入りに行こうかねぇ、と話しているのでした。
「今回はお招き頂き、感謝します」
「今回は御誘いして頂き感謝するよ、伊住の御隠居。もし宜しければ一杯いかがかな? 先客が居るんならそちらさんも一緒に」
 風雅と朱麓が一心地ついて柳斎と差しで飲んでいた宗右衛門翁の元へと来れば、笑みを浮かべて迎え入れる宗右衛門翁、朱麓は宗右衛門翁に実の祖父にも似た親近感を感じているようで、どことなく穏やかな色を滲ませた笑みを浮かべてお酒を勧めていて。
 柳斎とも見知っているためか笑みを浮かべて場所を開ければ、庭の様子を見ながら暫し穏やかな酒の席で。
 暫くの間談笑していれば、空や庭を見てそれぞれ思う気持ちもあるのでしょう。
「この月夜を、故郷の両親も見ているかな」
 小さく呟くように言う柳斎、空に浮かぶ月は少し肌寒くなってきた気候と相まってか益々冷たく輝いているようで。
「月は郷愁を抱かせる‥‥少し寂しくもあるけど、たまにはこういう夜も悪くないわね」
 そう笑みを浮かべると柳斎は手元の酒杯に口を付け、ゆっくりと飲み干すのでした。

●特別な時間を貴方に
「月の映る池の水面を鏡に喩えて月の鏡と言うが。この光景は‥‥翠に輝く月鏡、と言った所だな」
 静かに呟くのは琥龍、顔見知りに挨拶はしたものの月は一人で静かに楽しむことにしたよう、宴の最初に付き合い程度にお酒は飲んだようですが、その後は静かに御茶を頂いていて。
 そろそろ風呂にでもと思って立ち上がると、聞こえてくるのはどこかの大部屋での枕投げをする賑やかな声を聞きながら通り過ぎれば、丁度空いていた露天風呂に入るとゆっくりと月を見上げ。
「月を見ながら温泉と言うのも風流だな」
 そう呟くと、暫しの間琥龍は月見の温泉を楽しむのでした。
 大部屋では、白熱した枕投げも大分落ち着いたよう、真っ先に落ちたのは虎姫のようで。
「おやすみ、です。素敵な夢が、見られます、ように」
 これが合図となったかのように枕投げで全力で遣りきった面々などはバタバタと倒れるような状態に。
 その様子に笑みを浮かべたリリアは、ゆっくりと子守歌を歌い皆が眠れるように見守っていれば、やがてあちこちから聞こえる寝息の音に笑みを浮かべると、リリアもころんと横になって。
「‥‥おやすみなさい」
 そう呟くとすぅと眠りに引き込まれていくリリア。
「おいこら、誰だ寝相酷いの。何度か蹴り食らったぞ」
 もっとも、ルーディのように何やら直接的な被害で叩き起こされる人は居たりするものの、一行はまるで遊び疲れた子供のように深い眠りについたようなのでした。
 大分夜も更けた頃、風雅と朱麓は貸し切りにした露天風呂に浸かると、ゆっくりとした時間を過ごしていました。
 どうにも姐御肌ながらこういう所では少し臆病さもあるかほんの少し微妙な距離はあるものの、月を見上げながら取り留めもないことを話すのは心穏やかになるようで。
 朱麓が風雅の背中を流したり宴で出た茸主体の料理の数々が楽しめたこと、お誘いを出した宗右衛門翁と話したことなど何処か楽しげに語り、十分に身体が温まった頃、逆上せる前にと上がり部屋へと向かえば、部屋の窓から見える月。
 幾つか燗をして貰ったお酒を仲居さんから受け取ると、それを見送り窓際にて朱麓のお酌で二人だけの静かな酒宴。
「良い月と、良い酒と。そして隣にいい女がいればこれほど素晴らしい事はないな」
 風雅の言葉に一瞬目を瞬かせた朱麓は、僅かに頬を染めて目を瞬かせるも、やがてふと笑みを浮かべて。
 今暫くの間静かに続けられる二人きりの宴を、秋月は静かに空に庭に瞬きながら見守っているのでした。