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■オープニング本文 その日、保上明征は途方に暮れたまま、自身の屋敷へ開拓者ギルド受付の青年である利諒を呼んだのは、じっとりと湿度を含んだ、まだ残暑真っ盛りの初秋の昼下がりのことでした。 「人を一人保護したのだが、それについて色々と困ったことになっている」 そういう明征に首を傾げて利諒が見れば、保護したのは女性で、記憶が無いようなのだ、と告げる明征。 「大分保護したときの状況が悪かったが、後で身につけていた物の様子から、泰拳士であろう事はわかる。が、名前すらわからんようでな」 「記憶喪失、ですかぁ‥‥でも、ちょっと凄い状況としても、その、持ち物とかでなんかわかったりしないんですか?」 「あぁ、そのことなのだが‥‥どうやら、盗賊らしき者達に、強奪されたらしい」 「‥‥は?」 目を瞬かせる利諒、明征が言うには、保護したときは街道の端にぽつんと佇んでいたとかで、最初は気が付かずに通り過ぎるところだったそう。 しかし道行く人がひそひそと何やら伺っている様子に目を向けて、そこに佇んでいる少女の姿があちこち擦ったのかぼろとした様子の泰国風の服に、戸惑ったように道行く人を眺めているその表情。 「物凄く迷った挙げ句に、何か問題があってもと思い、名と街道を立って見ている理由を尋ねたところ‥‥」 「あぁ‥‥」 名前を聞いても分からない、何をしているか聞いても分からない、そして、少し前に数人の男達に無理矢理に持っていた包みを奪い取られてどうしていいかわからない、と言われて目眩がしたそうです。 「とにかく、怪我をしていても大変だし、そのままにしておく訳にもいくまいと思い、連れて戻ったのだが‥‥荷を奪った賊を放っておくのは、街道の安全を脅かすことになる。まずそちらの対処をと思ったのだ」 荷が戻れば記憶が戻る手がかりにもなるかもしれない、今屋敷に行儀見習いとしてくるようになった、泰拳士の兄を持つ陽花という少女も居るので、記憶喪失の少女は離れにでも暫く置いて様子を見ることになったと説明して。 「あと、後で特徴などを確認して調べておいて貰えないだろうか? 泰拳士であるなら開拓者ギルドに登録されているのではないかと思ってな」 「そうですね、ちょっとそちらを調べてみます。じゃあ、とりあえずお仕事の依頼としては‥‥」 「ああ、街道に出た賊の拠点を、まずは探し出したい。その調査を私と一緒に行って貰いたい」 明征の言葉に頷くと、利諒は依頼書へと筆を走らせるのでした。 |
■参加者一覧
野乃宮・涼霞(ia0176)
23歳・女・巫
鴇ノ宮 風葉(ia0799)
18歳・女・魔
焔 龍牙(ia0904)
25歳・男・サ
和奏(ia8807)
17歳・男・志
紅 舞華(ia9612)
24歳・女・シ
将門(ib1770)
25歳・男・サ
蒔司(ib3233)
33歳・男・シ |
■リプレイ本文 ●不信と信頼と 「保上様、お久しぶりです。‥‥陽花が保上様のお屋敷に。それは、無事で何より」 紅 舞華(ia9612)が笑みを浮かべて保上明征へと声をかければ、明征はそれに気が付いて微かに笑みを浮かべながら頷いて。 そこは明征の屋敷、 「やはり保上様はお優しいのですね、記憶喪失の女性を保護なされたとか‥‥」 「ん? いや、そういう訳では‥‥まぁ、放ってもおけぬからな」 思わず言われたことに僅かに困ったような表情を浮かべ言う明征に、野乃宮・涼霞(ia0176)はくすりと笑い、どうにも僅かに照れが入ってしまったことに気付かれているのが分かってか僅かに視線を彷徨わせて。 そこで、話をしにやってきた綾麗が、陽花や佐平次と共に顔を出すと、陽花自身久々の再会を喜んだりしていて。 「森の廃墟となると、全てを自給自足は難しかろう」 「確かに、賊がわざわざ物を植え育てるとも思えぬ」 将門(ib1770)の言葉にもっと被害を調べる必要があるな、と明征は頷き、大凡の廃墟があるであろう辺りの地図を出し広げて見せて。 「綾麗の荷物を奪うとは‥‥取り戻してやらんとな!」 「綾麗も、地の利で遅れを取った可能性もあるとはいえ‥‥賊も志体持ちが複数おるんかもしれんのぅ‥‥」 まだ地震でも何を言っていいのかわからない様子を見せていた綾麗に、にと笑いかける焔 龍牙(ia0904)、少し考えるように蒔司(ib3233)も言って。 「‥‥で、何盗まれたのよ? お金? お金ならあたしが取り戻したら何割か貰える訳? ねえねえ!」 凍りつく空気、それまで見知らぬ人間ばかりに囲まれて不安そうではありながらも、会話の様子を見て僅かに落ち着きかけた様子だった綾麗は真っ青な顔でその言葉を発した鴇ノ宮 風葉(ia0799)を見て。 それは、明征も同じこと。 「‥‥開拓者は、報酬を受け取り仕事をするものではないのか。取り返すものを寄越せとは追剥とどう違う」 「保上様」 すと明征が浮かべる表情に嫌なものが含まれる前に、一瞬迷うも涼霞が本当に僅かに明征の腕を引くように触れると、更に開きかけた口を閉じて、一つ息をつき、風葉以外の者に軽く頷くと、強張った表情のままの綾麗を促し。 何か言いたげな表情を浮かべた佐平次はすぐにいつものようなにこやかな笑顔に戻ると、明征、陽花と共に綾麗を連れその場を離れます。 「‥‥はぁ‥‥兎に角、まず出来ることをやらないと‥‥ね、光華姫」 それぞれの思いもあってか、何とも言えない様子になりかけていたところで、和奏(ia8807)が、自身の顔を覗き込む人妖の光華へと声をかければ、どこかぎくしゃくとした空気は残ったものの、それぞれ確認のために動き出すのでした。 ●街道の噂 「では、ここからは手分けして‥‥」 「集落の中故大丈夫とは思うが‥‥気をつけるよう。何かあれば直ぐに呼べ」 「あ、あの」 言って離れようとする明征に、涼霞が引き留めれば、少し困ったような表情のままに息をつくと明征は口を開いて。 「‥‥人それぞれだと、理解している。しかし、良い気がしないのは確かだな」 微苦笑気味に言うと、明征はすまない、気分を害させたなと謝り、もう一度何かあればと涼霞に念を押してから聞き込みのために離れていきます。 「お仕事中、すみません。少しお伺いしたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」 「あぁ、なんだい?」 顔を上げるお店のおかみさん、そこは街道に近い側にある茶店で、直ぐ側に柵があって夜間や何かあったときには閉じる様子の門があります。 話を聞けば、何やらちらほら様子の良くない男達は現れていたようですが、徒党を組む迄行っていなかったためか、気をつけよう、という話だけで終わってしまっていたようで。 「女性が街道のあの辺りで保護されたのですが、何かご存じ有りませんか?」 「さてねぇ‥‥あぁ、でも、なんか女の子がなんとかって、話になってた気がするねぇ」 丁寧に物を尋ねる涼霞に安心したのか、色々と思い出す様子を見せて話してくれるおかみさんは、奥にいるご主人へと声をかけて聞いてくれれば、ご主人はその言葉に頷いてみせるのでした 「はっきりとは‥‥でも、大体私が見かけたときには、7、8人といった所でしたでしょうか‥‥二度程、遠巻きに見かけただけですけれど‥‥」 その男の言葉に少し考える様子を見せる焔、上空では迅鷹の汪牙が周囲を警戒して巡回しており、ちらりとそれを確認し異変がないのを理解してから、街道の絵図を開きながら改めて口を開きます。 「そのときには、中には入ってこなかった、と?」 「はい、街道に出たのを、遠目にちらりと見ただけですので‥‥」 この茶屋ではですが、と注釈を入れてから言う店主、今のところは街道を行き来する荷などが狙われるようで、しかも現れたのは本当に最近とのこと。 「いくらか現れた男達が、ただ辺りをうろつくようになってから、今度は通りの荷が‥‥いつそれが変わるかと思うと‥‥」 どうすれば良いか不安になっていたところに今回の綾麗の荷が奪われる事件が起きたというと、焔の絵図に、この辺りだったかと思います、と大凡の位置を指さす店主、それを焔は筆で記して、改めて汪牙へと目を向けるのでした。 「はい、入れ墨をしていたものもいたとは思いますが、特にこういった柄とかいうのは‥‥」 「ふむ、蝮党というわけではなさそうだな」 少し気になることがあったのか何事か確認していたのは蒔司、森に隣接している街道の範囲は広めになるため、手分けして情報を集めていて、蒔司も街道の中腹にある宿で話を聞いていました。 「旅の人には申し訳ないですが、不安もありますし‥‥暫くこちらは板を打ち付けて締めて、どこかに避難しようかと‥‥」 「そうか‥‥」 頷く蒔司に、宿の主人は覚えている限りのことと、宿に泊まった人から聞いた範疇の事を伝えるのでした。 「畑とかから勝手に取ってく奴らが居たんですがね、おっかなくって‥‥やっぱり、用心棒とか雇った方がいいんですかねぇ? でも、雇った人間が悪いと大変なことになりますしねぇ」 「‥‥比較的、妙な奴らがうろつくようになったのは、最近のことなんだな?」 話を聞けば、一部纏まった米を町で買っていく人間が次の宿場には来ず周囲の集落から来たと言うようでもないという話を聞いた後で、将門は街道付近にある大きめの屋敷で話を聞いていました。 ある程度の広さの畑を持っているようですが、聞いた話では、最近になってかなりの被害が出ているそうで、困った表情のまま頷いて続ける屋敷の主人。 「まるで、日に日にこの辺りに詳しくなっているのか、手慣れてきたようで‥‥そのうち屋敷まで襲われやしないかと不安で」 「そうだろうな。被害の様子など、少し見せて貰えると助かる。外から分からない辺りでな」 将門の言葉に頷くと、こちらですと屋敷の主人は門の内側の、外からはわかりにくい地点に案内するのでした。 「はい、向こうの宿場を行き来する商人さん達には被害はあって、あちら側の商人さんは今のところ被害はないと言うことですか?」 「は、はい‥‥その‥‥」 被害を耳にする一番端の宿場で、和奏は聞いた話を確認していますが、話をしていた宿場の門番は、和奏の肩にちょこんと腰を下ろしている光華をどこか吃驚した様子で見ていて。 「‥‥どうかしましたか?」 「‥‥いえ、何でもありやせん」 そう訊ねる和奏の肩でご機嫌だった光華は、何か文句ある? とでも言いたげにふんと鼻を鳴らして門番の顔を覗くかのように見れば、生き物か人形かと目をぱちくりさせていた門番は慌てて首を振ります。 「ここから先は‥‥街道が森の中に通っている訳じゃないから‥‥ですかね?」 振り返ってみれば、改めて門番へと顔を向けて和奏は口を開きます。 「今起きていることもありますし、少し治安良くない状態のようですから、自衛して下さいね」 「へぇ、気をつけるよう、良く皆と相談しやす」 頭を下げる門番に頷いて、一応ギルドを連絡先として伝えると、和奏は少し考えるように森へと目を向けて。 「どうしたの?」 肩に座ったまま身を乗り出して顔を覗き込むと和奏に尋ねる光華。 「うん‥‥不自然なくらい街道の間での追いはぎ被害が集中している気がするのですが‥‥」 被害もじわじわではあるものの早いぐらいに拡大している気がすると考える様子を見せる和奏に、光華も真似するかのように肩に座り直して首を傾げるのでした。 綾麗が荷を奪われた辺りを、風葉は管狐の三門屋つねきちを呼び出し周囲を警戒しながら調べていた風葉。 「‥‥」 少し不満げな表情を浮かべているのは、それなりに綾麗について気にかけていたつもりでも、自分には警戒する理由があると思って居るから。 「‥‥記憶喪失を装って保護されたとして、何か利点があるか‥‥」 「わざわざ盗まれてぼーっと突っ立っちょるもんかのぅ」 三門屋つねきちの言葉にイラッとした様子で軽く頭に手を当てると、再び周囲を確認して、森を半ば睨むように見上げるのでした。 舞華がその宿に客として入ったのは、既に日も暮れた頃で、周囲も既にとっぷりと暮れたその中で宿に入っていく最中に、視線を感じます。 気付かない振りをして部屋にそのまま案内されると、二階の部屋の窓からそっと外を眺めて。 「‥‥あの男は、今、森の方から出ていたような‥‥?」 その男が同じ宿に入ってくるのを確認してから、下にある酒場へと降りていくと、一杯頼んで席に腰を降ろし蕎麦を頼む舞華。 先程入ってきた男は隅の席に着き夕食を食べ始め、宿の人間と話し、店が酒を飲みに来る客で混み合う時間帯に、窺うように素早く店の間取りに目を走らせていたのを舞華は確認します。 「‥‥追い剥ぎから、凶賊になる可能性が高そうだな‥‥」 宿の人間達がそれに関与している様子は見えず、それを確認して男が帰っていったのを確認してからそれとなく、呑みに来ている人間と宿の人間から、街道沿いの件について、世間話に紛れさせて確認していくのでした。 ●龍の背中から 「く‥‥怪しまれないだけの高度を維持しなければな」 上空から森を偵察するのはなかなかに大変のようで、そう呟くと将門は甲龍の妙見に乗って見下ろしていました。 昼にも上空から廃墟の幾つかを確認出来たものの、人が動いているかは判断出来ず、夜間。 「‥‥ん‥‥」 目を凝らした将門がそれに気が付けば、ぐっと大回りに曲がってその地点へととって返して、思わず微かな笑みが口元に浮かんで。 「この時期だ、廃墟に手を入れても、火の気を無くすのは、不可能だからな‥‥」 軽く妙見の首元を撫でてやると、その地点を確認して、そこを塒にしている盗賊以外の可能性もあるため、他の廃墟の場所も確認するため暫くの間、将門は妙見と共に暫く上空を飛び続けるのでした。 「ありがとう、櫻嵐、大丈夫よ」 そろそろ肌寒くなってきた時期、夜間となれば冷え込むのに寄り添うように甲龍の櫻嵐が涼霞に身体を寄せれば、微かに笑んでそっと鼻先を撫でてやって。 「あ、保上様、お屋敷の方は‥‥?」 「問題無い。それより寒いだろう、大丈夫か?」 そこに自身の龍に乗って降りてきた明征が、冷えてきたことを指してか言えば、微かに微笑んで首を振る涼霞。 「幾つか確認することがあるので一度戻らねばならんが‥‥一応、廃墟のことは確認してきた。派手にやっても構わんだろうが、森のことは考えた方が良いだろうな」 最後にその廃墟周辺が完全に人の手が入ってないと確認されているのは2年程前とのことで、それ以降、色々な案件もあって忘れられていたよう。 「ああ、二人とも、遅くなって済まない」 そこに合流したのは舞華、駿龍の優雪に乗って降りてきており、3人で幾つか確認すると、明征は口を開きます。 「綾麗だが、とりあえず、大分落ち着いて来たようだ。それと、記憶喪失で荷を奪われないようにと庇う以上の事が無かったから、無事であったのだろうというのが、佐平次と私の見立てだ」 怪我を負っていたため強く抵抗が出来なかったからこそ、その場で命を奪われることもなかったのだろう、そう明征は言うも、涼霞と舞華とも、徐々に被害が拡大し状況が悪化している現状に、こちらの件の盗賊達はあまり時間をおけないかもしれないとの認識で。 「最悪、街道の警備がある、という風に見せて、暫く時間を稼ぐことぐらいなら出来ようが」 「脅しつけて奪う事はあっても、無理矢理に奪うというのは綾麗の件が最初のようだ」 「このまま行けば、強硬な方に進んで行ってしまう可能性があると言うことですね」 「だが、押さえるだけの支度が調わねば、そうした時間稼ぎをするより他はあるまい」 「被害的に、少しの間持つだけの食料を手に入れているでしょうし‥‥」 「街道が警戒されれば、暫く成りを潜める可能性が高いな」 他所に流れなければ、舞華が言う言葉に、その辺りの手配もせねばな、そう頷く明征。 涼霞と舞華は明征から前に廃墟が確認された状況の写しを受け取り、涼霞と舞華は仲間の元へと戻り、明征は街道のことについて確認のため2人と別れます。 「‥‥森に沿ってといっても、大分広い範囲だ、どう動くか‥‥」 優雪の背中から、頭の中にある絵図と合わせて森を見据えると、舞華は小さく呟くのでした。 ●幾つかの障害 早朝、森の中を進む姿があります。 「ふむ、これでばったりと鉢合わせとなれば笑えんが」 そう言いながらもどこか面白がるような響きを滲ませて言う焔、上空には汪牙の姿が。 森の中に分け入って、将門が割り出した大凡の賊達が居る可能性の高い廃墟を周辺を、焔と蒔司、和奏にそれに割り出した当人である将門という、男性陣が偵察に来ているところでした。 「む‥‥」 先を歩く蒔司が焔と将門を制して目を懲らせば、細い糸が足下の辺りに張ってあり、それを目で辿っていけば、それは木を伝い、向かう方向に伸びていて。 「少なくとも、こういった物を仕掛ける者が、この先にいると言うことであろうかのぅ」 「今のところ、心眼にかかる気配はないが‥‥いや‥‥」 「この先、廃墟のあるところですよね‥‥気配が、有ります」 さっと大きな木の陰に隠れて息を潜める4人、暫くすると1人の男がそのすぐ側を通り抜けて、街道の方へと歩いて行きますが、その姿は舞華が見た男のようで。 男が去っていき、改めて心眼で確認して人の気配が無くなると、緩く息を着く一行。 周囲を十二分に警戒してもう暫く、廃墟付近を確認してから、一行は森を抜け、女性陣の待つ合流地点とした御店へと戻って来ます。 「この辺りまでは近づけたが、あれは索敵用のものばかりだったのぅ」 罠は解除出来るものの、それで怪しまれる方が拙いと判断した蒔司は、絵図に糸とそれと他に見つけた罠を書き付けてから、窓の桟に停まっている迅鷹の颯が警戒している様子を見て。 「他の廃墟の様子では、木は近いが、建物の周りはそれなりに余裕はあったようだのぅ」 「廃墟の中を確認する程まで近づくのは無理でしたが、廃墟の周囲の‥それこそ、木の上にでも見張り用の場所があったのではないでしょうか」 二階ぐらいの高さに気配を感じましたから、そう言う和奏は、大凡この辺りに感じました、と筆で印を付けて。 「もう少し件の廃墟について詳しく調べられれば良かったのだがな」 「仕方ない、まず必要だったのは情報を集めることだが、それで勘付かれてしまっては本末転倒というものだ」 焔の言葉に先頭になって警戒されれば取り逃がしたりする可能性が高いしなと言う将門。 「街道自体の様子はある程度見たけれど‥‥なんだか普通の人みたいなの以外の前では、今まではあんまり出てきてなかったみたい」 風葉が言うのに、少し考える様子を見せた舞華はもしや、と口を開いて。 「そういえば、保上殿とも短い間に狙いが変わっていっていたみたいなことを言っていた‥‥」 「脅して出させるのではなく、無理矢理奪うのは綾麗ちゃんが最初‥‥」 涼霞が言葉を反芻すると、街道で聞き込んだことを確認していきます。 「綾麗ちゃんが襲われたときと、荷が奪われたときの情報が集まりにくかったのは、街道で追われて森に入ったからのようですね」 襲われて何らかの形で襲撃者から逃れられたものの、怪我で意識を失う、この時点の詳細が同じ事件と繋がらなかったのは時間が経っていたから、そう言う涼霞の言葉に、その間は意識がなかった可能性が高いなと焔が頷いて。 「とにかく、襲撃者から一時的に身を隠せて、目が覚めたときには何も覚えて無くて、荷物が大切なものだ、という意識しか無く、ふらりと街道に出てきて‥‥」 「そこに盗賊と鉢合わせということかのぅ」 「綾麗のような異国の娘が、大事そうに抱えていた事から興味を引いてしまったのやもしれぬな」 蒔司が聞き込みで目撃されていた、綾麗の荷を奪われた状況に言えば、包みの様子から見て高価なものと思えたか、それとも必死に荷を庇った綾麗の様子に特別なものと思ったのか難しいところだが、そう将門が考えるように言います。 「廃墟の様子から見て、龍で廃墟に乗り付けるだけの余裕はありそうですが、上手くやらないと確実に迎え撃たれてしまいますよねぇ」 和奏が言えば、一同は改めて絵図面を確認して。 「他の廃墟には居ないかどうか、裏を取りたいところだが、その辺りは街道に人員を置いて、暫く警戒して貰っている間にある程度確認して貰わざるを得ないだろうな」 せめて賊達に対する手段や方向性が決まる迄は、焔がそういえば、何とも言えない様子のまま、暫く一同の間に沈黙が落ちるのでした。 ●廃墟の奥 「‥‥へ‥‥へへ、こいつぁ、上手くやれば‥‥」 微かに聞こえてくる声、それはくぐもっていて、何とも気分の良くない、生理的な嫌悪感を感じさせるもので、廃墟の地下にある部屋の扉の側から微かに聞こえてきます。 何やらそれは、幾つも手に入れてきた戦利品の一つのよう、下卑た男の笑いの中に置かれたそれは、丁寧な細工の刺繍で飾られた、絹の布の包みで。 「コレは良い値で売れるぜ‥‥ついてきやがった、。へへ、表の馬鹿ども使って、もう一稼ぎさせて貰おうかねぇ‥‥」 その男が嫌な笑いを零している頃、同じ廃墟の一角、数人の男達が集まって何やら話をしています。 「一つ二つ仕事をして、ある程度稼いだら、アイツは用済みだ‥‥それまでせいぜい持ち上げてやれ」 「それにしても、あの異国の包みは、きっと業物だ。アイツには、過ぎたものじゃないか‥‥?」 「売れば、良い値になる‥‥いや‥‥」 『欲しい』 にたりと笑う、凄みの効いた男達。 木の上に作られた、見張り所に腰を下ろしてその会話を盗み聞いていた壮年の男は、渋い顔になって顔を歪めます。 「‥‥食うや食わずでここに転がり込んでしまったが‥‥」 逃げるのは命がけ、さりとてこのままでは追い剥ぎどころではない、そう呟くと、町人に扮して森の中を音を立てずに歩いて戻ってくる男へ目を向けます。 「あの男に腕っ節の経つ奴ら‥‥野垂れ死んでいた方が余程ましだったか」 忌々しげに呟くと、見張り所の男は深く深く溜息をつくのでした。 |