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■オープニング本文 その日、ギルド受付の青年利諒は、一通の書状を受け取りそれを開いて読むと、深々と溜息をつきました。 「あの方は‥‥お年を考えないから‥‥」 書状の差出人は、伊住宗右衛門、そして、内容は湯治を考えて居るけれど、一人で宿で湯治をしてゆっくりと過ごすのは少々退屈だから、一緒に紅葉を見ながら宴会でも、と言ったもののようで。 「一瞬御病気かと心配したのに、腰を痛めたって‥‥年を考えずに張り切って櫂の木刀をぶん回してって、それは年寄りの冷や水‥‥」 いったら怒るだろうなぁ、と思いつつそんなことを呟く利諒、ふっと思い出したことがあるようで。 「そーだ、庄堂さん庄堂さん」 「ん? どうした?」 「龍って、温泉平気でしたよね?」 「はぁ?」 「いや、人を出汁にするんですから、それにのって、龍と一緒にお風呂のんびり浸かってこようかなーなんて‥‥」 折角ですからーと頬を掻きつつ紅葉と温泉の宿に遊びに行きませんか、と紙に書き付ける利諒に、首を傾げると口を開く庄堂。 「そういえば、俺もちょいと気になるんだが‥‥」 「何ですか?」 「猫又って、猫だよな? てーと、やっぱり水を嫌うのと同じで、温泉は駄目なんかねぇと」 「‥‥いえ、でも、猫によっては泳ぐらしいですよ? お風呂で」 「え‥‥」 「いや、身近には居ないですけど、水が好きな猫は」 何とも言えない表情のまま、庄堂と利諒は顔を見合わせるのでした。 |
■参加者一覧 / 野乃宮・涼霞(ia0176) / 柚乃(ia0638) / 酒々井 統真(ia0893) / 礼野 真夢紀(ia1144) / フェルル=グライフ(ia4572) / 菊池 志郎(ia5584) / からす(ia6525) / 和奏(ia8807) / 紅 舞華(ia9612) / 御陰 桜(ib0271) / 无(ib1198) / リア・コーンウォール(ib2667) / 劉 星晶(ib3478) / シータル・ラートリー(ib4533) / 御調 昴(ib5479) / エルレーン(ib7455) / 月雲 左京(ib8108) / 仁菜子(ib8217) / 墨峰 那由他(ib8253) |
■リプレイ本文 ●湯治の宿は 「紅葉を楽しみながら温泉に浸かって宴会に参加……寒くなってきたし、鈴麗、温泉入りに行く?」 礼野 真夢紀(ia1144)がそう聞いてみれば、激しく頷いてみせるのは朋友である駿龍の鈴麗。 真夢紀はギルドでお誘いを見かけてから、鈴麗に確認するとにっこり嬉しそうに笑っていそいそと開拓者ギルドの利諒へと声を掛け手から急ぎ宿へと、鈴麗と共に向かいます。 「あれ?」 宿の庭に面したところ、厩舎内にて先客が居たようで、先方もそれに気が付いたのか、小首を傾げて真夢紀を見るのは和奏(ia8807)。 和奏は鷲獅鳥の漣李を一旦広くて居心地の良さそうな厩舎に入れていたようで、程良く暖かい厩舎の中で漣李は、まぁここに居てやっても良いとでも言わんばかりの表情で藁の上に鎮座しています。 「和奏さんも温泉に入りに来たんですねぇ」 「うん、しっかり拭いてあげようと思いまして……」 そう言って漣李の背を調えるように撫でると、荷を手に真夢紀と和奏は館へ向かうのでした。 「今回は、宜しくお願いしますわ♪」 「今回は、よろしく頼みます」 「まぁ、ご丁寧に……ゆっくりしていって下さいましね」 シータル・ラートリー(ib4533)とリア・コーンウォール(ib2667)が宿の女将さんにご挨拶をすれば、女将さんはにっこりと笑ってそう迎えて。 早速用意されていた部屋に荷物を置くと揃って出かけていく2人は、まずはぶらりと周囲を見て回ることにしたようで、楽しげに連れ立って宿から出かけていきます。 「サンちゃん、温泉楽しみですね♪」 「ぴっ♪」 フェルル=グライフ(ia4572)の言葉に迅鷹のサンは嬉しそうに鳴き声を上げます。 フェルルは酒々井 統真(ia0893)に誘われ宿へとやって来ており、ちょっと照れたように軽く鼻の頭を掻いている酒々井と、酒々井の人妖の神鳴は穏やかに微笑みながらフェルルとサンの様子を見守っていて。 「一応、貸し切りにすれば、普通に水着で入っても、そういう風習の人達も居るって言う理解があるらしくて、平気と言っていたが……」 こういう由緒の有りそうな宿では珍しいな、そんな風に酒々井が言えば、後は、山を少し上がるらしいですね、と、動物たちも入りに来る湯のことを聞いたそうでフェルルも言うと。 「ゆっくりと出来ると良いですね」 そう言って神鳴は微笑むと言うのでした 「朋友と共に行く温泉宿なんてあるんですね」 少し驚いた様子でそう呟くのは御調 昴(ib5479)、鷲獅鳥のケイトと共に宿へと向かっている途中で、小さく首を傾げて。 「龍でもいいなんて、だいぶ大らかに思えますが……鷲獅鳥も良いのでしょうか?」 「ぐるぅぅ……」 御調の呟きに何やら不満げに小さく唸るケイト、何やら向かっている最中から既に馴れ合わないぞという雰囲気が出ています。 「うーん……」 そんな様子を半ば予想したように小さく息をついて、御調は何やら考えて居るのでした。 「お久し振りです、伊住様」 「おお、よう来なさったの」 挨拶の為部屋に入って声を掛けたのは野乃宮・涼霞(ia0176)、紅 舞華(ia9612)も続いて入ってくると、取り敢えず寝転がって利諒に腰を押させていた宗右衛門翁がささっと身体を起こしてにこやかに迎えます。 「宗右衛門様、利諒、お誘い感謝。良ければ後程ご一緒に一杯如何かな」 「それは良いですねぇ」 笑顔で頷く利諒は、取り敢えず山の温泉にさっき爺様背負って行ってきたんですよ、といって、自身の龍が温泉ではしゃいで大変だったと笑います。 「なるほど、それは楽しみだ」 「では、また後程……」 にと笑って舞華は言うと、ちょっと何事かを考えている様子の涼霞を促せば、涼霞も微かに笑みを浮かべて頭を下げて荷を置きに部屋へと向かうのでした。 ●紅葉と露天風呂 「最近、温泉漬けな気がするもふ……」 もふらの八曜丸がぼそりと呟けば、手桶にお湯を掬って、その頭からばさーっとお湯を掛けて、わしゃわしゃと洗っているのは柚乃(ia0638)。 早速、こぢんまりとした貸し切りようの露天風呂にきており、わしゃわしゃと洗ってあげてから、一緒にとぷんとお湯に入って。 「天儀が温泉の豊富な土地である事に感謝なのです♪」 「それにしても、見晴らしが良いもふ」 ちょんと手拭いを絞った物を柚乃に頭に乗っけられて、ほふぅと息を吐いていう八曜丸は、温泉漬けと言うだけあってすっかりと慣れている様子でもあり。 「こうしてみると、沢山の色が混じり合っていて、不思議な感じです」 露天風呂の縁石に手をついて眼下に見える紅葉に染まる谷へと目を向ければ、ゆったりと湯に浸かって、思わず八曜丸共々まったり。 同じく、貸し切りの露天風呂に早速浸かってのんびりとしているのは御陰 桜(ib0271)です。 早速露天風呂の洗い場で忍犬の桃とじゃれ合っていました。 「う〜ん、やっぱりこの花の形の模様がきゅ〜とね♪」 「くぅん」 きりっとした表情で居たものの、桜がそう言ってもふもふと撫でれば、甘える様に鼻を鳴らしてすりすりと擦り寄っていって。 「桃も綺麗にしなきゃね♪」 言ってごしごしと洗えば、遭わせもこもこになっていく桜と桃、桜は桃のお腹辺りを特に念入りに手拭いで洗ってあげているようで。 「桃はココが好きなのよねぇ♪」 「くぅ〜ん♪」 しっかり洗って手桶で掬ったお湯を掛けると洗い流してやる桜、桃はすっくと立ち上がると、ふるふると水分を飛ばして、それがかかった桜がけらけらと楽しそうに笑ってから、湯船へとぷんと入り。 お湯に浸かりながら、視界一面に広がる紅葉とうっすらと茜色に染まり始めた空を眺めて、ほんのりとお湯の温かさで上気した顔でにこにこと笑うと桜は桃を撫でてあげて。 「紅葉は綺麗だし温泉は気持ちイイし、来てよかったわねぇ♪」 「わんっ!」 一人と一匹は、もう暫くその絶景を堪能するのでした。 「とうじ、かあ」 宿の裏手より紅葉の中を登って行くのはエルレーン(ib7455)。 宿の裏手に有る紅葉の中を昇っていく道、それに沿って炎龍のラルに載ってあがって行けば、ちょっと登る道もあっという間で。 「ラル、見てよ、綺麗だよねー」 眼下に広がる紅葉に笑みを浮かべて言うエルレーンは、目的の露天風呂が有る辺りへとゆっくりと降り立つと、階段の上に作り付けられた脱衣所に入り用意してから、とても広いそこでとぷんとお湯に入ります。 「ラルは入れるのかな? ……う〜ん、入ったらお湯が全部こぼれちゃうかもねえ、あはは!」 悪気無く笑うエルレーンにぷいと怒ってそっぽ向く炎龍ですが、ごめんごめんと首筋を軽く撫でてやってからお湯に入るようにと促して。 ざっぱーんと大きな音を立ててお風呂へ入ったラルはちょっぴり笑ったエルレーンへの抗議の意味も込めていたようではありますが、すぐにのんびりとした様子のエルレーンに釣られ湯に浸かっているようで。 「それにしても、景色が綺麗だねー」 「……ぐるぅ……」 周囲、そして見下ろせる山々の紅葉に目を細めてエルレーンが言えば、すっかり湯の中で落ち着いた様子のラルもゆっくりと息をつくも。 「……ぐう」 「…………」 心地良かったのか日頃の疲れが出たか、縁の石に寄っかかって船を漕ぎ始めたエルレーンに気が付くと、ラルは何とも言えない様子で見下ろしているのでした。 「温泉で好物食べるのは良いもんねー、芳野の名産果物ってぱっと思い出せないし」 夕刻で食事前、山の上の温泉へとやって来たのは真夢紀、真夢紀が抱える籠に入った蜜柑を、ちらちらと鈴麗は見ているところを見ると、余程に好物なのかも知れません。 「わ、広い」 龍も入ることが出来るって言ってたから、と驚いた様子で見るも景色の良い谷が見下ろせる場所へと歩み寄ってからお風呂へと。 「はい、鈴麗」 「ぐるぅぅ……」 心地良さそうにお湯に浸かって、縁へと置いた蜜柑を手にとって差し出せば、ちょっと厚めの温泉も、鈴麗には心地良いぬるま湯に感じるのでしょうか、深く息を吐くとぱくり、蜜柑を嬉しげに口に入れて。 「熱燗というわけにはいきませんからねー」 言いながら、蜜柑を一房口に放り込んで笑みを浮かべる真夢紀は、暫くの間ゆったりと鈴麗と寄り添うようにお風呂に入って紅葉の谷を見下ろしているのでした。 「えぇとー……ここを使用中にして……」 丁度山の温泉が空いたのを確認すると、墨峰 那由他(ib8253)は甲龍の恒河沙と共に上の温泉へとやって来ていました。 「恒河沙ー、温泉だよ温泉」 墨峰は大きめのたらいでお湯を救って、まずは恒河沙にかけ湯をしてやると、手拭いで体を洗ってやって。 「いつもありがとー」 「がう?」 笑みを浮かべて小さく言う墨峰にくいと顔を向ける恒河沙、墨峰は恒河沙が見えいるのに気がつくとちょっとだけ顔を赤くして。 「…………まあ、ゆっくりしてけよー」 「がう……」 墨峰と恒河沙は並んでお湯に浸かるとほぅと揃って一息、墨峰が照れた様子なのに恒河沙はなんだか嬉しそうです。 「……初給料で親孝行ってこんな感じかなー……いや、恒河沙は雄だけど……」 小さく口の中で呟くと、墨峰は手拭いをきゅっと絞って何となく恒河沙の頭にちょんと乗っけてやると。 「はー……極楽ー」 「がるる……」 黒峰と恒河沙は暫くの間、空が徐々に茜色が混じり始める様を眺めてのんびりとするのでした。 「ほれ」 宿の裏手の露天風呂を借りきってのんびりと湯に浸かっているのはからす(ia6525)と……。 「ミュー」 既にお湯に浸かって上機嫌にお酒を飲むミズチの魂流です。 浮かべた杯から器用にお酒を飲む魂流に、からすは酒を注いでやりながらも自身がのんびりと楽しむのは御茶で。 「さて、上がろうか」 「ミュ」 暫し湯と景色、それにお茶とお酒を楽しんでから上がれば、浴衣を身に付け気楽にのんびりと部屋へと向かうからす、その後ろを、大きめの盥にお湯を張って入りふよふよと後をついていく魂流。 「あ、からすさん、そろそろ宴会になりそうですよ。……ミズチって、お風呂に浸かるものなんですねぇ……」 確かに水と親和性はあるとはいえ楽しそうです、そう通りがかりにカラスに声を掛けた利諒は小さく首を傾げると。 「常識とは結局己の認識でしかないのだ。世には非常識な事も沢山あるだろう」 「まぁ、確かに……」 湯の好きな猫も居れば、こんなミズチも居る、そうふっと笑みを浮かべるとからすは続けるのでした。 「だから面白い」 では宴席でと軽くひらひら手を振って部屋に戻っていくからすを見送ると、そういうものですかねぇと呟きつつ利諒は宗右衛門翁を呼びに歩き去るのでした。 ●二人の時を 「大丈夫ですか?」 「……はい」 劉 星晶(ib3478)の言葉に、番傘で陽を避けながら宿へとやってきた月雲 左京(ib8108)は小さく答えて。 「此度、ご一緒できて嬉しゅう御座います」 左京の傍らには炎龍の篁が、そして星晶の傍らには鷲獅鳥の翔星。 既に日は陰ってきていて、左京にも大分楽な時刻となってきています。 「もう少し陽が落ち着いたら上の方に行ってみましょう。取り敢えず荷物を置きに行きましょうか」 「はい……篁は翔星様とここで待っていて下さいましね」 篁は家族ですけれどお部屋が少々小さいですものね、そう言って篁の背を撫でてやれば理解したとばかりに軽く顔を寄せて左京の頬に鼻先を触れさせるとお行儀良く座り、翔星がふんと空を見上げてるのに星晶は分かって居てもちょっと溜息。 星晶と左京が荷を手に宿の中へと入っていけば、少しして入れ違うようにやってくるのはシータルとリア。 「ラエド、宜しくお願いしますわね♪」 シータルが駿龍のラエドを優しく撫でて載れば、甲龍のシュティンに載って軽く首の後ろを撫でてやって。 「よろしくな。シュティン」 二人が龍で飛び立てば、森の紅葉が夕日で更に強く赤く染まり、見渡す中でリアは嬉しげに笑うとシータルへ笑いかけます。 「……空から紅葉を眺めた事は初めてだな。綺麗だ♪」 「本当に。空から見るのも美しいですし、山の上から見るのも楽しみですわ」 シータルもそう言って笑うと暫くの間空の散歩を楽しんでいると。 「あら……?」 「あれは何だ?」 二人が見た先にいたのはケイトに乗った御調で、どうやら戦闘状態を模した飛び方で激しい上下の動きなど、ちょっと空の散歩と言うには賑やかな動きに、二人は首を傾げて。 「これ位で良いですね。さて……」 御調はくいとケイトを山の上の温泉へと向かわせて降りていくと。 「今は空いているようですね。でもケイトが入ると羽毛だらけになりそうですし……」 お湯の側でふぅと座るケイトに、さっと服を脱いで畳んでから、盥でお湯を掬って掛けてやり丁寧にブラッシングしていく御調。 気高いケイトではありますが、ちょっと疲れたのか一瞬きっと見るも、まぁ良いかとばかりに小さく唸ってさせるままにしていて。 「それにしても綺麗ですね。空からも良かったですが」 そう笑みを浮かべて言う御調に、深く息を吐きながらケイトは大人しくブラッシングをさせているのでした。 御調と入れ違いに温泉へとやって来たのは和奏。 「この辺りなら大丈夫ですねぇ……」 流れを見つついうと、広くそしてお湯が流れ出る近くに漣李を連れて行きとぷんと入らせると。 「我慢です。ぴっかぴかにしてさしあげますね」 よく洗ってあげると自身もとぷんとお湯に入り一息、手拭いで丁寧に拭ってあげれば、ぶるぶると水気を切る漣李。 「ぐるるぅ……」 「綺麗になりましたし、折角ですから空の散歩にいきましょうか」 着替えてからのんびりした様子で和奏は言うと、使用中を外して漣李で飛び上がるのでした。 「ふふ、景色が良いですね」 「良い宿って聞いてたからな、水着でもないかなと思ったんだが……」 男湯だと神鳴が誤解されるから助かりはしたが、フェルルが笑うのに酒々井がちょっと頬を掻きながら言うと、借りきった宿の中の、視界が開けた露天風呂に。 「ちょっとどきどきしますね」 はにかんだ様子でそう言いながら水着を身に付けてたフェルルは温度がどうかと手で確かめてから、良い香りのする木のお風呂の縁へと腰を掛けてさっとかけ湯の後にお湯へと浸かり。 フェルルが入ったのを見て恐る恐るではある物の、思いきった様子でていとお風呂に飛び込むサンちゃん、その様子をちらりと横目で見ながら酒々井もお湯に浸かると一息ついて。 「空が徐々に青く染まってきて綺麗ですね」 「本当ですね、良い景色です」 「ぴぴーっ♪」 神鳴もフェルルに並んで景色を見れば、思ったよりもサンちゃんは温泉が心地良かったようで上機嫌で神鳴にじゃれつき、神鳴もにこにこと穏やかな笑顔でサンちゃんの羽根をわしゃわしゃ撫でてあげます。 「闘ったりをどうしても優先しちまったり、夏の海とか、完全に戦で潰れたからな……」 小さく頬を掻いて何と言えばよいのか迷う様子の酒々井ですが、フェルルはふるふると小さく首を振って微笑んで。 「私、中庭の月を見るの、楽しみです」 誘って下さって、そう嬉しそうににっこりと微笑んで言うフェルルに、少し照れた様子ではあるもののにと笑って頷くのでした。 山の上の温泉では、ちょっと心配げな表情を浮かべている星晶と、水着を身につけてごしごしと身体を綺麗に洗っている左京がいます。 「篁、男前が上がりますね?」 にこりと笑って自分の後に丁寧に篁を洗ってあげていれば、ちょっと高いところを洗ってあげようとして少しよろける左京、と、翔星がひょいと左京の背を頭で支えてやれば、星晶はほっとした様子で立ち上がりかけた状態から再び肩までお湯に浸かり。 「心地良う御座いますね」 「そうですね、空気も良いですし、とても気持ち良いですね」 そう言って並んで湯に浸かっていれば、篁と翔星も二人の側に身体を寄せると心地良さそうにゆったりとした時間を過ごしているのでした。 「ふむ。シータル殿の肌は綺麗だな。私のかさつく肌とは違う♪」 そろそろ空も紫色が朱色を塗り変えそうな頃合い、リアとシータルは左京と翔星が立ち会った後に山の温泉へとあがって来ていました。 「ボク、そんなに綺麗な肌かしら? リアさんも同じくらいですわよ♪」 「そうか? ありがとう。私は、余り肌の手入れをしていないので、嬉しいよ♪」 髪と身体を綺麗に洗ってお湯へと浸かれば、丁寧に洗って貰っていたラエドとシュティンもそれぞれ広々とした湯に入ってぐるるぅと小さく喉を鳴らしていて。 「朋友と温泉に入るのは、初めてですわ♪ ラエドも気持ち良さそうです」 「ああ、シュティンもな。そうだ、温泉から出たら、一緒に宴会にいかないか? 伊住殿の部屋でしているらしい」 「ええ、是非お邪魔しましょう♪」 楽しげに言葉を交わしながら、暫くの間リアとシータルは景色とお湯を堪能しているのでした。 ●のんびりとした宴を 「おお、美味そうな料理だな、これは何だ?」 宴の席、とにかくわくわくと嬉しそうな様子を見せているのは管狐の雪待、菊池 志郎(ia5584)はそんな自身の朋友の様子に微苦笑しながら興味深げに覗き込んでいる小鉢を近づけてやっています。 「今骨を取るのでちょっと待ってください……これは鱒の霙煮ですね」 菊池の説明を聞いているのやら、雪待は嬉しそうに近づけられた小鉢に顔を突っ込むとふわふわと尻尾が揺れています。 「これは鹿のもも肉と秋野菜の盛合わせ、そっちは味噌漬けにした豆腐の燻製だそうですよ」 「うむ、美味美味」 雪待が食べやすいようにお膳を寄せてやる菊池、そのたびにぴこぴこと尻尾が揺れていて、ちょっと微笑ましげに見ると、杯に顔を寄せるのに飲みやすいように支えてやって。 「ふむ、一心地」 「あ……岩魚は俺も食べたかったのに……。雪待、あんた一人で全部食べましたね……」 ちょっと楽しみだった料理があったのかしょぼんとした表情を浮かべた菊池ですが、ちらりと見れば実に幸せそうにお酒の杯に顔を寄せる雪待を見て、まぁ良いかとばかりに小さく笑んで口を開きます。 「雪待、そのお酒飲んだら中庭の池を見に行きましょうか」 「それは良い」 杯を飲み干して満足げな表情を浮かべた雪待は、ぴょんと立ち上がると中庭へと軽やかに降りてから見上げて。 そんな様子に笑みを浮かべたまま、菊池も縁側に出ると、履き物を履いて中庭へと降りるのでした。 「しかし宗右衛門様、あまりご無理はなさらないよう」 そう言うのは舞華、腰の具合を少し心配して声をかけると参ったとばかりに肩を竦めて苦笑する宗右衛門翁。 「僕が言っても聞かないですから、もっと言っちゃってください」 そう笑って言うと、舞華の空いた杯の酒を注いでから利諒が装いましょうかと尋ねて小鉢を持ち上げれば、にと笑うと舞華は頷きます。 「これは鮟鱇鍋とか? いや山奥だから猪鍋か」 「そうですね、これは牡丹鍋ですね」 楽しげに話しているも、舞華も利諒も、そして宗右衛門翁も、やっぱり少し気になるのは涼霞の様子のようで。 「大丈夫か?」 「……え……?」 「この間のことか?」 そう聞かれれば少し困った顔をする涼霞。 「あ……顔に出てましたか? 舞さん」 「まぁ、な。保上様の不機嫌なら、多分涼霞が原因ではないと思うが……」 「あれ? なにかあったのですか?」 ちびりと静かに杯を傾ける宗右衛門翁、きょとんとした様子で聞くのは利諒で。 舞華から簡単に流れを聞くとちょっと首を傾げる利諒、涼霞は小さく息をついて口を開きます。 「自分に出来る事を考えて行動したつもりだったのですが……御迷惑になってしまったのでしょうか?」 「家の事や綾麗の事等、今回は心配事が多かったし」 気にすることはないのでは、という舞華に対して、ちょっと考えてから頬を掻くと苦笑する利諒。 「あー……いやぁ、違うと思いますけどねぇ」 「……と、言うと?」 「だって、その、悪い意味合いじゃないですよ? 女性というのもありますし、その心配だったんじゃないですか? いや、あんまし、仕事内の範囲でそういうの見せる人じゃない気もしますけど、なんて言うか……」 言っていいのかなぁ、と迷う様子は見せるとちょっと誤魔化すように状況を見てないから言えないんですけどねと笑う利諒ですが、ふむ、と舞華は頷き。 「ははぁ、なるほど」 言ってから少し考えると、にぃと笑みを浮かべて舞華は口を開きます。 「ふむ、開拓者としては正しいが……私も少しは女らしくした方が良いだろうか? 潮、利諒はどう思う?」 「え? え、えぇと、いや……」 突然振られる質問に飲みかけた杯を吹きそうになって小さく咳き込むと、質問の意図をぐるぐると考えているようで。 「いえ、その、十分に女性らしいと思うんです、けど……」 開拓者として言われたのか意図があるのか一般的な質問か、そもそも聞かれた答えになっているか不安なのかちょこっと声が小さくなる利諒に、潮君はくぅと首を傾げてまだちょっと噎せている様子の利諒を見上げています。 この間は単独行動をしたのでな、とちょっと利諒の反応を面白がって笑うと舞華が言えば、それまで杯を嘗め嘗め様子を見ていた宗右衛門翁ですが、思わず肩を震わせていたのに笑い声を漏らし。 「はっはっは、いやいや、若者は良いの」 「いや、じ様えらく楽しそうですね」 「あ、伊住様、どうぞ」 こればかりは気にしても仕方がないと気持ちを落ち着けると、涼霞はお銚子を手に取り微かに笑んでお酌をするのでした。 「……んー……」 貸し切りのお湯を使う人が多い為か、一人のんびりとお湯に浸かっていた无(ib1198)が目を覚ませば、朋友である尾無狐のナイにぽすぽす前足で頭を叩かれているところで。 どうやら他に人も居ないせいか、无はついついうとうととしてしまっていたよう、沈む前に尾無弧に起こされて。 「……あぁ、ごめん、また寝てましたか。ありがと、ナイ」 身体を起こしてよろよろ起き上がると浴衣を身につけのんびり歩いて。 「とはいえ、さてどうしたものか、熱燗にするか、茶の湯にするか」 肩に乗る尾無弧のナイに問いかけるように无が言えば、聞こえてくるのは賑やかな笑い声で。 「そういえば、宴だと言っていた、気がしますね……」 まだ何処か寝ぼけた様子であるもゆったりと歩いて行き、ちょっとした宴会場になって居る宗右衛門翁の部屋へと辿りつけば、誘われるままに庭に面した辺りに腰を下ろして早速出された熱燗を一口。 「……おや?」 お酒を口にして漸くに眠気は落ち着いたものの、それにしてはやけにぼんやりとして見えるその空の月に首を傾げると。 「ぁ、眼鏡……」 何処に置き忘れたか、そう思いつつも後で良いかとばかりに緩りと息をつけば、御茶を振る舞うからすに気が付き。 「如何かな?」 「頂きます」 一つ点てて貰ってナイと並んでまったり、そこに魂流が无のお膳に載っている熱燗に気が付いたかすりすりと強請っているようで、僅かに目を細めてぼんやりと映るお猪口を手に取ると、ナイがちょんと鼻先で誘導するようにして杯へ注ぎ、嬉しそうに呑む魂流。 見れば舞い落ちる紅葉を現した静かで軽やかな柚乃の舞が披露されていて、それを眺めてからすもふと笑みを浮かべると出された料理に舌鼓を打っていて。 「お酒を飲んでも良いよーな年齢になったので……ちょこっと★」 舞終わった柚乃は、お茶かお酒か如何ですかと利諒に勧められると、その年齢になったのが嬉しいのかこくりと頷くと杯を手に取ります。 一口、二口と、利諒以外にもお酌を受けて呑めば、ほわほわとしてきてしまうようで、視界には一杯もふらさまが居るように見えてきてしまい。 「……それ以上はダメもふ」 手近なもふらさまにぎゅーっと抱きつけば、それはお終いとばかりに杯を柚乃のてから離そうとした八曜丸で。 保護者のようなものなのでしょう、幸せそうな様子の柚乃に八曜丸はふぅと深々と溜息をつくのでした。 ●月に紅葉に 「寒くは、御座いませぬか?」 篁の背からそう問いかけるのは左京、それに星晶は小さく笑うと口を開きます。 「大丈夫ですよ。それにしても月を浴びた紅葉も、また綺麗ですね」 翔星の背から見上げる月と、そして見下ろす紅葉に改めて言えば、篁を翔星へと近付けて少し背伸びをして手を伸ばす左京。 「星晶様は寒いのは苦手の様子ですし……」 空の上だからか少しひんやりとする頬にそっと触れると、左京が少しよろめくのに支えるように手を触れさせて改めて大丈夫ですよ、と星晶は伝えて。 さぁと耳をクスフル風の音を受けながら、左京と翔星は、篁と星晶と共に暫くの間夜の空を楽しむのでした。 「櫻嵐も温泉を楽しんでね」 そう言って山の上の温泉で櫻嵐を丁寧に洗ってあげる涼霞、舞華も潮君をわしゃわしゃと洗ってあげると手桶でお湯を掬ってざばっと流せば、嬉しげにドボンと温泉に飛び込む潮君。 「わふわふっ」 「ぐるぅ……」 お湯に浸かれば潮君と櫻嵐はまるで人間のように心地好さげにお湯に浸かっていて。 「わう!」 どうやら潮君は宴会の間にお肉を舞華からたっぷりとお裾分けされた様子、利諒からは骨付きの肉まで貰ったようで羽目を外しすぎない程度ではあるもののとても嬉しそう。 「はは、本当に今日の潮はご機嫌だな」 言って笑うと湯に浸かる舞華に、涼霞もゆったりとお湯に浸かると手拭いを頬に当ててゆっくりと息を吐いて微笑んで。 「舞さん、はい」 「ああ、有難う」 お湯に浮かべた盥からお銚子を手にとって涼霞が勧めれば、舞華は杯でそれを受けると中を覗き込んで、月が浮かぶのに笑うと、自身もお銚子を手にとって。 「涼霞も、一つ」 「頂きますね」 ゆったりとお酒を飲む二人、来る時には何処か浮かない表情のあった涼霞ですが、どうやらある程度気持ちも落ち着いたようで。 二人は月に照らされた木々を眺めながら暫くの間、ゆったりとした時間を楽しむのでした。 「本当に、お話の通り緑色に見えるのですね」 お食事のお膳が運び込まれ、お銚子も熱いものが幾つか運び込まれてくると、火鉢が部屋を暖める中、池に映る月を眺めつつ、ゆっくりとお酒を飲み始めていて。 「はい、統真さん……」 「ああ、済まない」 こうしてみてみれば確かに不思議だなと眺めていた酒々井に、フェルルは微笑むとお銚子を手にお酌をして。 「こうして月見酒ってのも乙なもんだろう」 「そうですね、月も……紅葉も綺麗で」 そう微笑んで答えていると、二人でゆっくりと飲みながら月を眺めていて。 「……お月様がよく見えません……」 頬を紅葉ならぬ桜色に染めて呟くと、酒々井へと寄りかかり陶然として池を眺めていると。 「綺麗です……♪」 そう呟いたフェルルは、手が止まった様子の酒々井を見上げて。 「ふふ、統真さんのお顔も紅葉です」 ある種その艶めいた様子に照れたのか、それとも火鉢に照らされたからか、少し赤い顔の酒々井に、フェルルは幸せそうに微笑みかけて。 月はそんな二人の様子を、空から、そして池から照らし続けるのでした。 |