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■オープニング本文 その日、開拓者ギルド受付の青年利諒は、非常に困った顔をしながらギルドの奥でお煎餅を囓りつつぼーっとしていました。 「どしたんだ?」 「しょーどーさん‥‥僕は、もー、どーしたら良いのやら、何か、投げやりな気分なんですよー」 「‥‥何があった」 何やらちょっと引き気味に利諒に話を聞くのは同じくギルドの受付をしている庄堂巌、取り敢えずは向かい側に腰を下ろした庄堂に利諒は愚痴る愚痴る。 珍しい位に愚痴る内容を注意深く、御茶を入れて貰って同じくお煎餅に手を伸ばしながら聞いていけば、愚痴っている内容を理解して、何となく庄堂は空を仰ぎ見て。 「つまり、何か知らんが、顔見知り程度の男達の諍いに巻き込まれて、立ち会えとか言われていると」 「ぶっちゃけてしまえば、そうです」 「ぁー‥‥知らねぇ関係ねぇじゃ駄目なのか?」 「それをした所為で、受けなきゃどっちも僕のこと狙うとか、支離滅裂なこと言い出してるんですよー、どーにかして下さいよー」 「‥‥なんつーか、偉ぇ面倒だなぁ」 深々と溜息をつく庄堂、仕合の立ち合いに来なければと脅しつけられて、二人でかかられて面倒事になったり、それ以降付け狙われても困るとのことで、どうしようかと思うと、どうにもと、また溜息混じりに愚痴が再開されそうになり取り敢えず手で制す庄堂。 「で、其奴等は、なんか義理でもあんのか?」 「全然。良く行く和菓子屋さん向かいの御茶屋さんに、最近来るようになった御仁が二人です。強いて言うと、御茶屋さんに迷惑掛けるのも心苦しいんですよね」 「ふぅん‥‥じゃ、排除しちまえばいいじゃねぇか」 「‥‥‥それもそうですね。えぇと、ひのふの‥‥まぁ、殺さない程度に、と注釈を付けて、無駄な仕合をさせないようにして貰う序でに、今後関わらないでね、と伝えて貰うにはこの程度で良いかな」 「‥‥」 自分でやらねぇのか、そう喉まで出かかるも、庄堂は取り敢えず黙って、利諒が依頼書を書き付けていくのを、煎餅を囓りつつ生暖かく見守るのでした。 |
■参加者一覧
御神村 茉織(ia5355)
26歳・男・シ
ペケ(ia5365)
18歳・女・シ
紅 舞華(ia9612)
24歳・女・シ
嵐山 虎彦(ib0213)
34歳・男・サ |
■リプレイ本文 ●傾向と対策 「さり気に苦労症だよなぁ、旦那も」 御神村 茉織(ia5355)が微苦笑気味に言えば、紅 舞華(ia9612)も同情気味に頷いて。 そこは利諒の棲む家で、件の茶店のお団子と利諒の入れた御茶で相談をしているところでした。 「まぁた難儀なコトに巻き込まれてんなぁ、利諒。ま、俺らに任せときな」 「そうそう、何とかすっから安心してくれよ」 にと笑って嵐山 虎彦(ib0213)が言うのに御神村が笑って頷き。 「利涼は災難だったな。人の話を聞かない輩は厄介で面倒だ……ご苦労様」 「うう、有難う御座います、なんて言うか、まーったく人の話を聞こうとしないと、どうにも、こう……」 微笑して言う舞華はなんて言って良いのか困ったような表情で言う利諒に、何となくぽんぽんと肩を叩いてやると、緩やかに息をつきます。 「利諒は人が良さそうに見えるから」 「うーん、普通だとは思うんですが……絡まれることは多いですよね、特に最近」 「二人のおサムライさん……えーと、名前、何でしたっけ?」 「えぇと、茶店では池田と飛田とか言って……」 「まぁいいです。ここは見た目でいきましょう」 聞かれた言葉に利諒は答えようとしますが、さっくり話を遮ってちょっと考える顔をするペケ(ia5365)。 実物を見て適当な呼び名を決めるようで、ちょっとだけ何とも言えない表情をした利諒ですが、溜息をついて深く考えないことにしたようです。 「実際、仕合をどうしても止めるべきなのか、関わってこないようにするべきなのか、ってぇのだが……」 「その男達が利諒を甘く見ているなら、先に強そうな嵐山や茉織と志体持ちとして 立会って見せてはどうかな」 「確かに、関わって来ねぇようにすりゃ良いって考えりゃ、やっぱ利諒の実力を見せて絡むのが得策じゃねぇと思わせるのが一番だよな」 「その手の輩は一回、完膚なきまでに敗北感を与えておけば、無理難題は早々言わないと思う」 御神村と舞華が言えば嵐山は頷いて、舞華が少し考える様子を見せながら続けると。 「普通ならばそうなのだが……しかし、問題はこの様な者たちだ、実力を知って多少落ち着くと仮定しても、関わってこなくなるとも言い切れないのがな」 「そこが問題なんだよなぁ」 舞華の言葉に少し頭を掻くと小さくため息をつく御神村ですが、とりあえず身辺を探ってみるか、と言って。 「こんな所でいがみ合う仲だ、当人同士が全く無関係ってわけでもねーだろし」 「その二人、案外叩くと埃の一つや二つも出るのでは?」 「馬鹿2人の情報を集めて貰やぁ、仕事は捗りそうじゃねぇか」 「これでこいつらも店で出会って何となく馬が合わなくていがみ合うようになった……だと流石に勘弁してほしいがね」 「流石に、前から何だか知り合いっぽかったですよ。因縁とか有ったんでしょうね、きっと」 言ってざっと利諒が知っている範囲の話を確認する舞華と御神村。 みればペケは実際どんな奴らなのかと見に行ってしまったようでいつの間にか出かけています。 「さてと、絡んで来た二人とやらをちょっくら調べてみっか」 「痛いところや弱いものもあるだろうしな」 御神村が立ち上がれば、舞華も立ち上がり任せておいてくれと微笑を浮かべて言うと二人は出かけていき。 「方針は大体決まったし、まずはのんびり待つかねぃ……俺ぁ、ひとまず利諒の護衛をしておこうか。何時また難癖つけてくるかわからねぇからなぁ……」 「そうですねぇ……」 「……」 「どうしました? なんだか何とも言えない表情ですけど」 「いや、そろそろ腹具合が……別に三食昼寝を要求するとかじゃねぇぞ?」 冗談めかして言う嵐山にあぁ、確かにと頷くと、お二人はお団子で足りましたかねぇ、と少し心配そうに玄関の方を見る利諒。 「んで、利諒よ。おまえさんイケる口かね? 旨い飯と酒を出すところを紹介しちゃくれねぇかねぇ♪」 「あ、良いですねー、ちょうど良いお酒が……って、我々だけで呑んでちゃまずいですよ、終わったらとっておきのは出すので、とりあえず今はこのあたりで勘弁しておいてください」 友人の庄堂が来た時に出すのでしょうか、常備してあったお酒を出しつつ、流石に今はなんか呑むの申し訳なくてと頬を掻きつついうのに、嵐山は一つ頂いて待つかと、適当な肴を出して貰いつつ出された酒を嘗め嘗め笑うのでした。 ●調査 「あぁ、あのろくでなしかい」 「ふむ……何かご存知のようだ。良ければ、聞かせていただけないだろうか」 舞華が池田という浪人についてと、洗濯をしつつ井戸端会議真っ最中のおかみさん連中に尋ねかければ、陰険で嫌な奴だよと口々に上がる声。 「腐っても武人だなんだとかどの口が言ってんだか」 「道場の娘さんが自分に惚れてまいってるとか言ってるけどさ、見た? あの娘さんの嫌そうな顔」 「そりゃそうよ、なんで年頃のうら若いお嬢さんが、あんな陰気そうなおっさんを好きになるかね」 「その娘さんというのは、池田何某の通う道場の娘さんということだろうか?」 「そうですよ、もうね、穏やかそうな美人さんなんだが、あんな男に付き纏われて……でもね、そこの道場の師範代に気に入られているとかなんとか」 おかみさん連中は話している家にどんどんと盛り上がっているようで後から後から話が出てきますが、話を聞いて簡単にすれば、師範代に旨く取り入って、嫌がる道場の娘さんを、と言ったことのようで。 話をある程度聞いてからその場を離れると、舞華は聞いた道場の付近へと足を伸ばすのでした。 「よ、ちょっと話聞かせてくれねぇか?」 「はい、何で御座いましょう?」 にと笑って御神村が声を掛けると、店主はにこやかに答えます。 そこは利諒のお気に入りという件の茶屋、 「良くここを使うってぇ知り合いに聞いてきたんだが、ここの団子は逸品って言うじゃねぇか」 「有難う御座います、お陰様で……」 にこにこと人の良さそうな店主にお団子と御茶を頼めば、宜しければこちらも味を見てやって下さいと蕎麦饅頭が添えられていて。 利諒に聞いてきたことなどをさらっと話せば、揉めたところを見ていたのかとても同情した様子で何でも聞いて下さいと答えます。 「それで、どんな人物なのか、何か聞いたりしてねぇか?」 「はい、どうにも家に来られたのは本当に最近なのですが、片方の、厳ついと言いますが、少し太めの方が一年程前に来るようになって、迷惑だと近くの酒場の主人が申しておりました」 酒を飲んで暴れることが多く、どうやら飛田何某の方が近くに住んでいて、こちらも道場通いもしてはいるものの、町では集りや脅しつけて飲食料を踏み倒すことも多々あるとか。 「逆恨みされては困ると、届け出ておりませんが……流石に見かねていて、どうしたものかと寄り合っては相談している次第でして」 「その、道場ってのはどんな感じなんだ? 評判とか……」 「今までは至極真っ当な小さな道場だったと思います」 どうやら確かにその道場の門弟になったばかりだったようで、今もその名を時折口にしては、比較的大人しい店主の居る店に入り浸っていたよう。 「なるほどねぇ……もし良ければ、その道場の場所ってのを教えて貰えないか?」 「はい、其奴は構いませんが……」 「大丈夫、悪いようにはしねぇからよ」 にと笑って頷くと、旨かったよと言い御神村は茶屋の主人から聞いた道場へと向かうのでした。 「で、利諒としちゃぁ、どうしてぇんだ?」 「そうですねぇ……大分迷惑被りましたし、本当に関わり合いにならないでいて欲しいって言うのが本音ですが……」 寧ろ国へ帰れと言う気分です、と深々と溜息をつく利諒、聞いた嵐山は軽く首を傾げると、手元の杯を手の中で弄りながら口を開いて。 「国へ帰れ、なぁ」 「実際の所、あれだけの人達ですから、多分僕以外にも迷惑かかっている人、多いんじゃないですかねぇ」 「ま、確かに、敢えて利諒だけが標的になった、ってぇなぁねぇと思うがねぃ」 言うともう一杯、酒を杯へと注ぐとぐいと飲み干してから、にいと笑う嵐山、どういう形で当人達に利諒の腕を見せるかと言うことを相談してみれば。 「立ち合いについてのことで、呼んでみて、近付いてきた辺りから手合わせを開始ですかね」 「おう、それで良いぜ。他の奴らが戻ったら其の辺り、打ち合わせが必要だな」 それを確認すると、今のところ何も怒らなそうだからちぃと寝るぜと縁側にひっくり返って鼾をかき始める嵐山。 「じゃあ、戻られた時の為に、お昼でも準備しましょうかねぇ……」 利諒は利諒で土間へと降りて襷がけをするとお湯を沸かし始めるのでした。 ●実力の差 穏やかな陽気の中、良く行く茶店近くの神社、その裏手は、ちょっとした広場になって居て。 「さて、そろそろ始めっか」 「そうですねぇ……あ、寒いんで僕上着はそのままですけど」 ちょっともこっとした上着を羽織ったまま立ち上がる利諒、立ち上がって軽く延びをした嵐山の手にあるのは大鎌で、ひょろり細く見える利諒の手にあるのは野太刀。 「また見た目からしてってぇのを選んだな」 「まぁ、普段はこれじゃないんですけれど……」 たまに庄堂さんの相手をする時に使うぐらいで、そう言いながら軽く持ち直して素振りをすると嵐山に向き直ります。 「じゃ、始めっかねぃ」 「え、えーと、じゃあ、行きます」 互いに構えれば、豪快に繰り出される嵐山の大鎌、それをぎりぎりでかわすと低い体勢のまま身体から突進し足下を掬うように振り抜けば、そこにはがっちりと太刀を受け止める鎌の柄が。 「ひゅー、なかなかやるじゃねぇか」 「まぁ、護身程度なら……」 言って更に腰を落とし太刀と鎌をがっちりと組み合わせたまま、足で足を払うように蹴り込めば嵐山は飛び退って。 「言ってくれるじゃねぇか、よっと!」 「わわ、今のはちょっと危なすぎますってっ!」 刈り取ろうとでも言うように鋭く斬り付ける嵐山に、咄嗟に頭を引っ込めて抗議の声を上げる利諒。 と、利諒がこちらに来ていると誘導されて来た池田何某と飛田何某。 野太刀を手に、大男の嵐山が振るう大鎌とやり合っている利諒に唖然としたよう、野太刀と大鎌、どちらもこの二人には持ち上げるのが精一杯な代物のようで。 「あ、仕合の立ち合いについての話し合いでしたね」 斬り付けられた鎌の刃を太刀の刃で受け止めぎりぎりと競っていた利諒が気付いて言えば、ひょいと鎌を戻してじろりと値踏みするように見る嵐山。 「そういう立ち合いは僕じゃ自信がありませんので、代わりに立ち会っていただく方達をお願いしました」 利諒の言葉に、まるで退路を塞ぐかのように男達の背後に立ちはだかる御神村と舞華、その更に背後には、迷惑を掛けられていた茶屋の主人や酒場の主人、そしてその回りで迷惑を被っていた人々が見ています。 「……お主がそんなに剣の道に熱心とは思わなんだ」 「破門になった男がようも他人の道場の名を背負って闘う気になったものよの」 そして、呆れた様子で見ている老年にかかった男性と、怒りで顔が引き攣っている壮年男性の顔を見ると池田と飛田の顔色が変わるのでした。 ●立ち合い 「さぁて、じゃあ、立ち合いをしようじゃねぇか」 にぃと口の端を挙げて笑う嵐山に。 「まずは何で仕合をして貰おうかねぃ」 「んー、まぁ、基本の所は木刀試合かねぇ……あ、当たり所がわるきゃ死ぬかも知れねぇが、ま、真剣でやるよりは良いんじゃね?」 ふむ、と腕を組みじろりと見ながら言う御神村。 「それか寒さの我慢比べなどはどうだ? 無論、生半可な覚悟では凍死するやも知れぬが、真剣でやるよりは良いだろうな」 微笑を浮かべつつも、男達に対して少し怒りもあってか、目は笑っていない舞華。 「やっぱり男の勝負と言えば長距離走ですよ! ついでに負けた方は町娘の衣装と鬘で練り歩く罰ゲームですねー」 どうやって長距離走なんて勝負の判定が出来るのだろうかと呟いて首を傾げる利諒を他所に、楽しそうだと笑うペケ。 「何でその様なことをせねばならん!」 「巫山戯るなっ!」 「ペケケケ、これぞ真の男のプライドをかけた勝負です。単に相手を斬り倒すより気分爽快な勝利感をお約束しますよー」 「あのー……」 「なんですか?」 邪悪な笑みを浮かべちょっぴり悦に入っていたペケですが、申し訳なさそうに口を挟む利諒に首を傾げて聞き返せば。 「すみません、その、それ、見ている人間の方が罰ゲームなんで、勘弁して頂きたいです」 「そうですかぁー?」 「笑えるもんなら良いけどよ、やっぱ見苦しいものを見せられる方が苦痛じゃねぇか?」 見た目が、と嵐山が付け足して言えば、二人に困らされていて見物に来てくれていた酒場のおじさんが強く頷くと、他の見物客も納得したよう。 「では、まず我慢比べをして貰い、決着がつかなければ長距離走、それで駄目なら木太刀の仕合となるかな」 「いや、ちょ……」 「その、仕合だけじゃ……」 「仕合の詳細を決めるのは立ち合いの仕事ですよー」 ぐっと詰まった二人にとっととやれ、とばかりに川へどぼん。 ただでさえ冷えてきた川の水、流水となれば常に新鮮で冷たい水のお陰で顔色が紫に染まる二人ですが、上がろうとしてもまだ時間が済んでないですよとペケがていてい蹴り落として。 やがて決着がつかぬな、と言う舞華の言葉と共に引きずり出されて濡れたまま走らされるも、途中で逃げだそうにも嵐山と御神村の併走によりそれもかなわず。 「そ、それがしの方が先に……」 「いや、同着だな」 どちらが先だったか、それの判定も特に見られないままに御神村に木太刀を差し出され言われる飛田、ふらふらで突っ伏している池田にも、木太刀を握れとばかりに、柄の部分でつんつんと嵐山が突いていて。 「も、もう、勘弁してくれ……」 死にかけの体で言う飛田に、破門したという師匠は怒りを通り越して呆れ顔。 そんな二人の前に立つと、屈んで少し顔を近付け、口を開く舞華。 「……これ以上仕事で忙しい利涼の手を煩わせる事があるようならただじゃおかない」 舞華の言葉に紫な顔のまま、無言で頷く二人。 二人は舞華が死なないようにと用意した焚き火に震えながら当たっており、舞華と御神村から、池田は師範代に取り入って娘さんとくっついて道場を乗っ取ろうとしていたこと、飛田は入って直ぐに行状が宜しくないと叩き出されていて。 「ここまでされたら、国に帰るしかねぇだろうさ」 な、と利諒に笑って言う嵐山、利諒が頷くと、それまで成り行きを見守っていた茶屋の主人と酒場の主人が礼を言うと一席設けてくれるとのことで。 「これであの人達に絡まれず、またのんびり御茶を飲みに来られるんですねぇ」 そう言うと、有難う御座いましたと一同へ礼を言ってから、誘って貰った酒場へと一同は足を向けるのでした。 |