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■オープニング本文 その日、受付の少年利諒は久々に武天・芳野の景勝地、六色の谷にある幻雪楼へと呼ばれて顔を出していました。 「あれ? 明征さん?」 「ああ、やはり利諒が呼ばれたか」 部屋に入っていけば、ちょっぴり疲れた様子の保上明征が居て、首を傾げる利諒。 「どうしたんですか?」 「いや……物凄く個人的なことで、東郷殿に頼み事をしたものでな……」 少し遠くを見ている様子の明征、さらっと聞くと、どうやら友人の中務佐平次が雪を使って実験をしたいから場所を貸して貰うために明征が来たとのことで。 「それで、許可は頂けたんですか?」 「ああ、序でに祭りを楽しんで行けと云われたな」 「じゃあ、僕が呼ばれたのも、氷花祭へのお誘いをと言うことでしょうか?」 恐らく、と頷く明征、そこへ東郷実将がやってきて部屋へと入るとにと笑って。 「おう、どうやらそっちの方で説明は済んでいたようだな。ま、そういう訳だ、この楼の三階で氷雪祭を見渡して気楽な宴を開くんで、まぁ遊びに来ると良いと。あぁ、後、一応ここにも部屋はあるが、緑月屋の方で、希望があれば部屋ぁ提供してくれるとよ」 「なるほど、泊まりがけで雪見の温泉で洒落込むって言うのも手ですねぇ」 それは楽しそうです、そう笑って頷くと依頼書にすらすらと書き付けていく利諒。 「あぁ、それと……屋台の方も、ちぃとばかり企画があるらしい。穂澄が走り回っていたが『天儀のみならず世界各国の珍品料理から、家に伝わる秘伝料理まで何でも御座れ』とか何とか」 「なるほど……時間見て、庄堂さん辺り誘って回ってみますかねぇ……」 笑って言う実将にちょっと考える様子で首を傾げると、利諒は依頼書をさらさらと書き上げるのでした。 |
■参加者一覧 / 櫻庭 貴臣(ia0077) / 神凪 蒼司(ia0122) / 滋藤 御門(ia0167) / 野乃宮・涼霞(ia0176) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 御樹青嵐(ia1669) / 弖志峰 直羽(ia1884) / リューリャ・ドラッケン(ia8037) / 和奏(ia8807) / リエット・ネーヴ(ia8814) / 紅 舞華(ia9612) / 向井・奏(ia9817) / 尾花 紫乃(ia9951) / ユリア・ソル(ia9996) / ヘスティア・V・D(ib0161) / ニクス・ソル(ib0444) / 无(ib1198) / リア・コーンウォール(ib2667) / ネーナ・D(ib3827) / スレダ(ib6629) / フレス(ib6696) / 棕櫚(ib7915) / 華角 牡丹(ib8144) / 虎次郎(ib8939) |
■リプレイ本文 ●氷花祭の町並み 「わぁ、いろんな店がある、早く早く!」 屋台が建ち並び賑やかな表通りへと弾む足取りで進むと嬉しげに振り返って声を上げるのは天河 ふしぎ(ia1037)、振り向いた先には笑いながらふしぎへと歩み寄る向井・奏(ia9817)の姿があります。 「本当にいろんな屋台があるね」 「そうでゴザルな。……ふしぎ、あれもおいしそーでゴザルよ?」 楽しげに笑い合いながら手には屋台で買ったお汁粉をそれぞれ抱え、雪像の広場は史にある休憩所で腰を下ろして食べれば、ほっこり甘くて。 「奏と一緒だから、余計に美味しいな」 「ふふっ、んむ。ふしぎと一緒だと幸せでゴザルなぁ」 屋台で買ったものの湯気に負けない位暖かな気持ちで屋台の通りを巡って、そしてしこたま買い込んだお祭ならではのものを抱えて、二人は幻雪楼へと向かうのでした。 「ふぅん、よく出来てるわね……私も雪像作りしてみれば良かったかしら?」 寒いからでしょう、男性の外套の中で寄り添いながら歩く二人、ユリア・ヴァル(ia9996)がニクス(ib0444)の腕に自身の腕を絡めてそう言いながら、幸せそうな様子で足を踏み入れたのは雪像の広場。 先程まで色々な飾りを売っているお店や立ち並ぶを眺めたりしていたようで、一転して周囲を飾る石像を興味深げに見ているユリア、その様子をニクスも目を僅かに細めて見守っている喪、ユリアは何やらちょっと考えていて。 「ん? どうした……」 「……えいっ」 「うわっ」 首を傾げて言い掛けたニクスは、ふいにユリアに転がされて目を瞬かせると、ていていと雪塗れにされた上に、頭に雪兎をちょんと載っけられ、吃驚しているニクスの表情も相まってクスクス笑いを零すユリア。 一瞬あっけにとられた様子だったニクスも、楽しげなユリアの様子に小さく笑いを漏らすのでした。 「……此処に来るのは久し振り、だな」 「前に来た時と全然変わってないなぁ」 神凪 蒼司(ia0122)が雪像の並ぶ通りを見渡して言えば、櫻庭 貴臣(ia0077)も目を細めてしみじみと呟きます。 「屋台も良いが、やはり雪像はなかなか迫力がある。どのように作っているのだろうな?」 「さっきちらっと見えた限りだと、沢山雪を運び込んで、固めて削りだしていたようだけど」 雪だるまを作るのとはまた訳が違うのだろうと思うのだが、そう首を傾げる神凪の言葉に、通りがかりに他の開拓者達の雪像作りが見えたようで笑みを浮かべて言う桜庭。 「寒いけど、こういうの見ると雪って良いなぁ、って思うね。白くて綺麗で……時々、色々なものを覆い隠してくれたり」 桜庭が呟くように言うと、神凪と二人、暫くの間白銀と氷の世界を眺めているのでした。 「天儀に来て雪も沢山見るようになったですが……」 「すれだっ!」 「のわっ!?」 何やらしみじみとしていたスレダ(ib6629)に、突進したのは棕櫚(ib7915)。 二人は雪像の前を通って眺めながら、屋台の通りへと向かうつもりのようで。 「こんなおっきいお祭りは初めてだっ、よし、すれだ。ちゃんと全部楽しむぞっ」 「……とりあえず暫く続く祭りですからゆっくり見てもいーんじゃねーですか」 はしゃいで直ぐにでも駆け出しそうな棕櫚に、ほぅと一つ息をついて言うスレダ、とはいえ目の前に現れる、いろんな生き物や建物の雪像は棕櫚の芽にも興味深く。 「なんだかよく分からないけど色んな形してて面白いなっ。この前に作った雪だるまより綺麗だなー」 「この前作った雪だるまと比べ物になんねーです。それ用のお祭りですし。しかし……砂で城を作ろうなんていう馬鹿げた事を考えた奴が居たですが、雪ならしっかりした物が作れるみてーですね……」 むむ、と眉を寄せてちょっと別の方向に興味が出てきた様子のスレダは、ふと棕櫚が屋台の通りからしてくる美味しそうな匂いに反応しているのに気が付いて。 「…はぁ。もうちっと見てたかったですがしゃーねーです、そろそろ屋台も見てまわ──ひ、引っ張るんじゃねーですっ?!」 「なあ、すれだすれだっ。これ何だろうなー?」 「無駄遣いはしないようにするですよ。こういうのは雰囲気に釣られて余計なもんまで買っちまうんですからね」 「うんっ、無駄遣いしそうならすれだが止めてくれなっ」 早速あれもこれもと立ち並ぶ美味しそうな屋台の食べ物達、甘いお汁粉から熱々の泰国のお饅頭まで。 「何でも買おうとするんじゃねーです」 「むだづかいにならないように二人で一つずつ食べればいいんだよなっ」 「う……ま、まぁ、それなら……」 満面の笑みでいって、買ったふかふか蒸したてのお饅頭も半分こ、甘ーいお汁粉も、半分こ。 「ひょーかさい楽しかったぞっ。来てよかったな、すれだっ」 「……また一緒にお祭りに行くのも良いですか」 目一杯屋台を回って騒ぎ尽くして遊び尽くした感もありますが、実に嬉しそうな様子の棕櫚を見て、スレダも思わず小さく笑みを浮かべて言うのでした。 「大丈夫? 足元に気を付けてね」 滋藤 御門(ia0167)が掛ける言葉に、ふわふわの上着で暖かくしたフレス(ib6696)がにっこりと笑って頷くと、さくっさくっという雪の感触を楽しみながら口を開いて。 「アル=カマルにいたころは雪なんて見たことないけど、本当に奇麗で楽しいものなんだと思うんだよ」 「フレスちゃんに気に入って貰えたなら、良かった……」 今しか見ることの出来ない、そんな景色を見せたいと思い立った様子の御門、フレスも一緒に来られることも、きらきらと光を受けている雪像の様子もわくわくと心踊るもののようで。 「雪像見物、どれに投票するか悩むね」 「どれも綺麗だったり可愛かったりで、迷うんだよ」 きらきらと雪景色を見ているフレスを微笑んで見守っていた御門は、ふと思いついたことがあるのか寄せられていた雪下ろしをされた雪の山へと歩み寄ると、そこから少し雪を貰ってぽむぽむと何やら固めていて。 きょとんとした様子で見ていたフレスは、それが何を作っているのか分かるとぱっと顔を輝かせて。 「アヌビス……のつもりだけれど、どうかな?」 「わ、御門兄さまの作ってくれたアヌビスの像とっても可愛いんだよ」 掌大のそれは雪兎ならぬ雪アヌビス像で、嬉しそうに見上げるフレスにそっと引き寄せて抱き締める御門。 「フレスちゃんの笑顔がお陽様みたいでいつも元気と勇気を貰っているんだよ。本当にありがとうね」 「……私も御門兄さま守ってくれると信じてくれるから頑張れるんだよ」 ほんのりと頬を染めながらも御門の言葉に笑いかけるフレス。 「……何かちょっと恥ずかしいけどきちんと伝えるんだよ」 互いに頬を染めたまま御門とフレスは、楼へと向かう暫くの間幸せそうに寄り添っているのでした。 ●幻雪楼の賑やかな湯 「……人が少ない時間帯で雪見温泉で休養……の予定だった。うん、過去形なんだ。すまない」 「誰に向かって言っているんだ?」 何処か遠い目をしてジルベリアの酒でも出しそうな様子の竜哉(ia8037)の呟きに、怪訝そうな顔で首を傾げるのはヘスティア・ヴォルフ(ib0161)。 その側で可笑しそうに笑っているネーナ・D(ib3827)とタオルの簀巻きでちょっとうねうねと動いているリエット・ネーヴ(ia8814)も見えます。 「……どうしてこうなった」 諦めたかのように塀に囲まれた露天風呂の湯船に浸かると、若干まだ遠い目をしたまま呟く竜哉。 幻雪楼でのちょっとした騒ぎは、リエットから始まりました。 「突撃、隣が混浴温泉っ♪ 発しぅ……!?」 「ちょい待て」 謎な台詞と共にていと腕を振り上げ混浴用の露天風呂に姿を消しそうになったリエットを捕まえたのはリア・コーンウォール(ib2667)。 「ほら。風邪引くといけないからな。タオルをしっかり、巻く……」 「むぎぅ」 どうやらリアとリエットは叔母と姪の関係のよう、叔母としてはやはり混浴に突撃するとなればと思うと共に、やはり露天風呂となれば風邪を引くかも知れないという部分もあるようで。 「ふぅ、良い湯だ……」 丁寧に身体を洗い湯で流し、そしてゆったりと湯船に浸かる、その一連の流れで心地好さげに目を細めるリアは、うにうにと簀巻きのまま這い進むリエットを、対処はしたから良いかと特に気にせず温泉を堪能しているようなのでした。 「簀巻きは偉大だ! 防寒完璧♪ 保温効果も優れてるぅ〜」 簀巻きのままで満面の笑みのまま、うにうに這い進むリエットに気が付いたのはお風呂セットとお酒を手に歩いていたヘスティア、露天風呂に向かうつもりだったようで。 「リエット」 「あっ、ヘスティアねーだじぇ」 にこにこと笑顔のままうねうねしているリエットはある意味凄い様子ではありますが、ふむ、と小さく首を傾げてから、ひょいと肩に担いで露天風呂へと向かうヘスティアもある意味凄いかも知れません。 「ネーナも風呂か? 一緒に入ろうぜ」 「ああ、丁度誘いに行こうと思ってたんだ」 笑い会いながら歩き出そうとしたところで、視界に入った人物が。 「お、たつにーがいるじゃねぇか〜たつにー一緒に風呂で酒といかねぇか〜」 「げっ」 こうした訳で餌食もとい標的となったのが、ネーナの兄である竜哉という訳で。 「ヘスにネアにリエット、お前ら女性として問題あると思わんのか!」 「そんなこと言っても、ねぇ?」 「なぁ? まぁまぁ、両手に花処か周りに花、でいい感じじゃねぇか」 「〜〜っ!」 何やら頭が痛いとでも言いたげに僅かに額を抑えて溜息をつきつつ口を開く竜哉。 「ちっとは恥じらいとかそういう淑女として大事なものをだな…」 「俺に淑女とか恥じらいとか求める方が間違えている」 「その状態で胸を張るな――っ!!」 「ボク達なんだから別に良いと思うけどね」 そう言って笑いながらも擦り寄ってみせる辺り、からかっている様子のネーナ、リエットはうにーとお湯に入ったヘスティアの膝に乗っけられて簀巻きで心地良いお湯を堪能しているようで……。 リエットが脱衣所まで戻る時の外の風が濡れたタオルでは心地良い冷たい外気を堪能させてくれる事には今暫く気付かない様子、竜哉のお説教に女三人笑いながら、賑やかなお風呂の時間は過ぎていくのでした。 ●淡雪は薄紅に染まって 「舞ちゃん、めかし込んでるねー」 弖志峰 直羽(ia1884)がちょっぴり茶化して言うのにも、紅 舞華(ia9612)は上機嫌に笑みを浮かべていて。 この辺りはやはり気心知れた者達の良さというもの、御樹青嵐(ia1669)もそんな様子を笑みを浮かべてみていれば、その一団の一人、野乃宮・涼霞(ia0176)は何やら緊張気味。 「あ、皆さんいらっしゃいー」 襷がけしてちょこちょこと宴の支度を手伝っていた利諒はそれに気が付き、にこにこしながら出迎えます。 「あ、利諒サン、久し振りー」 「あぁ、東郷殿もお久し振りです」 弖志峰が利諒に手を振れば、そこへ降りてくるのは東郷実将、一通り挨拶をすれば、少し戸惑った様子の涼霞に明征が上にいると伝える実将。 「なぜ保上殿だけ上に?」 「なんか、巨大な火柱が上がりはしないか、巨大な爆発が起きやしないかと気にしていたみたいですけど」 「……火柱?」 雪景色のお祭に何故火柱が、と戸惑ったように言う御樹。 涼霞が階段を上がっていけば、取り敢えず宴をと卓を用意して運び込まれる料理を戴きつつ、華夜楼の三人と利諒に実将はゆったりとした様子でお酒や御飯を頂き始めます。 「私は珍しいものを見繕って買ってきたが、直羽と青嵐の持参物は何かな」 「俺は秦国の肉饅頭や桃饅頭、串焼きにと、目を引いた物を片っ端から買ってきた!」 「私は鰤大根を作って参りました。宜しければ……」 「ほぅ、火鉢で熱く熱した鰤大根か、こいつはおつなもんだ」 「あ、僕はちょっとばかり評判のお酒を買ってきました」 和やかで穏やかな宴の席、ちらほらと他にも数人で集まり卓を囲む姿も増えていきます。 「利諒、先日の仕合はお疲れ様」 「先日は本当に有難う御座います、助かりました。あ、そうだ……今日ちょっと、お酒買ってくる途中に見かけて……もし良かったら、これを」 先日のお礼もかねてですけど、そう照れたように言う利諒が差し出すのは淡い青の布でくるまれた小さな包みで、舞華が開いてみれば白い雪のような貝殻を漆で装飾した簪。 徐々に空がうっすら朱の色が混じり始めれば、段々と賑やかになるのを耳にしながら怖ず怖ずとした様子で、上の階の保上明征へと歩み寄る涼霞。 「保上様……」 「……あぁ、そろそろ宴の始まる頃か」 窓の外を眺めていた明征が掛けられる声鬼振り返ると微苦笑気味に言えば、歩み寄った涼霞は、何と言えば良いのか少し迷う様子を見せるも口を開いて。 「耳飾り大切にします、つけていると傍に居て下さるようで嬉しいです」 「迷惑でなかったのなら、良かった」 「迷惑だとどうして思われたのです?」 問いかけられる言葉に少し困ったような微苦笑を浮かべて迷う様子を見せる明征に、涼霞も何度も迷う様子を見せてから。 「……ごめんなさい」 「何も、謝るようなことはないだろうに……」 「あの時、本当は……今勇気を出して言います。幸秀君の母親代わりと保上様をずっとお支えして宜しいでしょうか?」 「……それは……」 「……お慕いしております、明征様」 微苦笑の顔が驚きに代わる明征、頬を赤く染めて続ける涼霞は、言われたことを理解しようとで言うかのように驚いた表情で涼霞を見つめる明征俯くと。 「それだけ伝えたくて、ご迷惑でしたらお忘れ下さい」 そう言って身を翻しかけるのに、思わずはっしと腕を掴んで引き留めてから、慌てて明征は謝って。 「あ……す、すまん、痛く、無かったか?」 「……お気持ちが分からず不安で……聞かせて下さいますか?」 ふるふると小さく首を振ってから、互いに何を言って良いのか分からない様子、怖ず怖ずと涼霞はうっすらと目を潤ませて震える声で問いかけるのに、逡巡も一瞬のこと、明征は涼霞を引き寄せるとぎゅっと抱き締めて。 「重荷になってしまってはと、そう思っていた。だが……傍に居て欲しい」 明征の腕の中で縋るように身を寄せると、思わず泣きながらも小さく頷く涼霞は。 「お傍に居られるだけで幸せです」 そう小さく告げると、暫くの間、涼霞と明征は幻雪楼の上階から氷花祭を見下ろしながら寄り添っているのでした。 「ほんと奇麗な景色だよね……一緒にこれてよかった」 そう言いながら雪景色の庭に面した露天風呂で、ふしぎと奏は氷花祭を回って冷えた身体を温めに来ていました。 「ふふふー、ふしぎ、照れてるのでゴザルか?」 タオルでしっかり身体を巻いている奏は、景色に目を向けてそう言った後、不思議がどうにも奏の方を見られなくなっている様子に気が付いてくすりと笑うと。 「初心でゴザルなぁ……」 「う、初心と言われても……」 頬を僅かに染めると湯船にちゃぷんと浸かるふしぎに奏も湯船に入ると、ほうと温かいお湯の感覚にのんびりとした様子で息をつきます。 暫くのんびりとお湯に浸かって身体を温めている二人ですが、ふしぎは何か意を決したのかぴたっと肩を寄せて奏を抱き寄せて。 「ひゃい!? と、唐突に大胆でゴザルよ、ふしぎ!?」 「ふふ、そんな照れちゃって、可愛……わわわ」 抱き寄せられた奏も吃驚してあわわとしていますが、抱き寄せたふしぎの方もうっかり視線を落としたか真っ赤になってしまい。 互いにどうしようとばかりに真っ赤な状態でいたのですが、ふと笑い合うと。 「これからもずっと一緒に居たいでゴザルな……」 「ううん、居たい、じゃなくて、居ようよ……」 互いに顔が赤く染まるのは差し込む夕日か、それとも。 温かな湯に浸かりながら、朱に、そして徐々に青みが差してきた空を眺めたりしながら、寄り添って眺めて居るのでした。 ●宴は賑やかに和やかに 「あれ? 何を書いてらっしゃるんですか?」 「おや……」 无(ib1198)が何やら窓の外を眺めては筆を走らせているのに首を傾げて利諒が訪ねれば、懐の尾無弧のナイはくいと首を傾げて見上げていて。 「うちの寮の、図書館報のコラムを書いているんです。持ち回り制で、その当番が廻ってきまして」 「図書館報、ですか?」 どうやら一階で早めの時間に一緒にお手伝いしたからでしょうか、取り敢えず一献どうぞ、と利諒がお猪口を手に持つのに、杯を持ってそれを受けると、ちょこちょこと談笑してから離れる利諒を見送って、改めて手元の紙へと目を落とす无。 手帳を確認してほぅと息をつくと、改めて思い返す祭りの様子、雪像を作り、屋台をふらふらと回って、尾無弧の舌を十分に楽しませてから幻雪楼へとやって来た无は、お酒は動いた後が美味しいと思うようで、一階の宴の準備を手伝ってからあがって来ています。 「絶景かな、絶景かななんてね」 笑みを浮かべて杯を傾けると、見渡す祭りの、篝火などで浮かび上がる雪像や、まだ賑やかな屋台の様子、そして遠くまで続く雪景色を堪能していて。 「後でお湯にでも入って、のんびりしますかねぇ」 そんなことを呟きながら、无は今暫くの間雪景色を魚に、雪見酒と洒落込んでいるのでした。 「はーい♪ 折角お酌しているのに、呑めないとは言わないわよね〜」 「俺に無闇に酒を勧めるな」 楽しげに寄り集まっている一同は、どうやら幼馴染みの付き合いがある人達のよう、お銚子を手に笑うユリアに、思わずお猪口と手で守る竜哉、その様子に微苦笑浮かべるのはニクスで。 「皆程々にな。……とは言っても、ユリアもヘスティアも底なしだからなぁ……」 「ほら、たつにー呑めよ〜、あ、ネーナありがとうな」 うりうりとお銚子で竜哉に勧めるのに加わったヘスティアは、ネーナがくすくすと笑いながらも、自身の空いた杯にお酒を注ぐのに礼を言って。 わいわいと盛り上がりながらお酒を飲み、料理を楽しむ一同、ユリアはヘスティアやネーナに抱きついたり、ぱーっと盛り上がっても度を超さないようにと竜哉が気を配ったり。 そんな宴も大分落ち着いた頃、それぞれが好きにのんびりと飲み始めた頃、部屋の隅っこで、ぎゅっとそれまであまり宴では関わっていなかったニクスに、ユリアは背中から抱きついて。 顔を見ないように抱きついたままのユリアの胸元には、祭りの間にニクスが買った野バラのコサージュが小さく光っていて。 優しい大馬鹿な私の恋人にもう少しだけ甘えさせてね、そう口の中でだけ小さく呟くユリア、それはニクスの耳には届いていないものの、常に何処か感じることもあるのか、抱きつくユリアの手に、ニクスは自身の手を重ねてそっと握ると。 「ユリアのこと、離さないから……」 ニクスも小さく呟いて、幼い頃から傍で良く知っている、そして誰よりも大切な存在になったユリアに、なかなか守らせてくれないけれど、そう想いながらも、消えてしまいそうな彼女を止められるのは自分だけだからと、改めて心の中で誓うのでした。 「……こういうのも悪くはないね」 「あぁ、そうだね……」 まるでニクスとユリアを見ていない振りをしながらも、幼馴染みのヘスティアとネーナ、それに竜哉はそんな二人の様子を何処か穏やかな様子で見守っているのでした。 「美味しい御茶があって良かった」 「そうだな」 そう言って微笑む桜庭に頷く神凪は、お祭を楽しんだ後で、のんびりした後の宴、お酒は甘酒でも酔ってしまうらしい桜庭が御茶を飲んでいうと、宴もたけなわの頃合い、実将に一指し余興にと声を掛けます。 「おお、そういや、前の時にもこの宴に花を添えてくれたな」 実将がにと笑って頼むと言えば、桜庭は笛を出し居住まいを正し、神凪はすと前へと進み出て、扇を取り出し。 ゆるりと始まる桜庭の笛の音に合わせ、ゆったりと舞い始める神凪、行灯の灯りに、外の灯りも相まって幻想的な一時がゆったりと流れて。 舞が終わり一礼して離れると、ちょっぴり頬を掻いて口を開く桜庭。 「蒼ちゃんと一緒に舞いたかったけど、蒼ちゃんが舞ってる姿を見るのが好きだから良いかな」 「ん……貴臣が演奏してくれて良かった。何だかんだで貴臣の演奏が一番合わせやすいし……何より音楽があると張り合いがあるからな」 そう言って微笑を浮かべると、ゆったりと宴の様子を眺めながら、二人は暫くの時間を過ごすのでした。 「後で、お散歩行くじぇ」 「んー……外か。それは良いな♪ 少し、散策……はいいが、お酒は呑もうとするな」 「えーちょっとくらい〜」 そんな会話をしながら楽しげに笑い合うリエットとリア、姪と叔母は夜の散策で屋台や雪像を見に出かけていくようで、そんな景色を窓から眺めていた弖志峰は、その先へと目を向けて雪景色と、ちらちら見える細かな雪に小さく息をついて。 「好きな人をただ想うだけじゃ満足できなくて、応えが欲しくなるのは……身勝手な事なのかな、とか」 直ぐ傍に居る御樹にぽつりと、そんな風に思っちゃってさ、と呟く弖志峰。 雪が思いを寄せる人を思い起こさせたようで、そんな言葉を零して。 「……直羽は雪彼さんと上手くいってるようで何よりと思いますが……」 「んー……何となーく、青ちゃんなら、気持ちわかってくれるかなって……青ちゃんは?」 「私ですか……私の方は……私が迷って踏み込めずにいるだけですね」 緩く息をついている男二人、暫く外の景色を眺めているも、うん、と一つ頷く弖志峰。 「はは、こーゆーの俺らしくないよね! 飲み直そ、青ちゃん!」 「そ、そうですね、さ、どんどん呑んで下さい」 笑って誤魔化す様子の弖志峰に、こちらもお銚子を手に困ったような微笑を浮かべてどんどんとお酒を注いでいく御樹。 結果として……。 「……えぇと、大丈夫なんでしょうか……」 「呑みてぇ時もあんだろうよ」 「……あそこは、止めんで平気なのか?」 利諒が首を傾げ実将が笑って言えば、上から涼霞と一緒に降りてきた明征が、出来上がり掛けている弖志峰を見てぼそりと呟いて。 何やら顔を赤らめたままで舞華の元へとやってくる涼霞に、何となく舞華はよしよしと頭を撫でると。 「何やらあちらもこちらも華やかな話で……もう一度飲みましょうか、利諒、東郷様」 「そうだな、まぁ、緩りと呑むこととしよう」 笑う実将、舞華が実将にお酌をすれば、利諒が開いている舞華の杯へとお酒を注いで。 のんびりと呑んでいるその輪に明征も加わると、涼霞はお銚子を手にして明征へとお酌しますが、いつもの宴よりは、何やら互いに照れが入ってるようで、それを見て笑いを零す実将。 「あぁ、気不味いのとかがなくなったようで良かったですね、あのお二人」 「まぁ、あそこは、互いに気を使いすぎてた気もするしな」 そして、ちょっと前からの様子を知っているからか、ほっとしたようにこっそりと話す利諒と舞華。 一同は潰れた様子の弖志峰と、呑ませすぎてあわあわしている御樹を眺めつつ、静かに穏やかな宴を続けていくのでした。 「……疲れたですの……温泉気持ちいい……」 そう呟くのは礼野 真夢紀(ia1144)、宿を確保できるとのことで参加した真夢紀は、知り合いと屋台をやっていたようで、日も暮れとっぷりと夜も更けた頃でした。 「……終わった後、雪見温泉で一休みもいいかなぁって思っていたけれど、正解だった、かな……」 ぬくぬくと温泉に浸かれば、ずっと屋台でも雪景色の外でやっていた屋台、身体の芯は冷えてしまっていて、徐々にそれが溶けていく感覚にゆったりと息をつく真夢紀。 真夢紀が思い起こすのは、お祭の中で楽しげに笑いあう人々の姿、それは温泉で暖まるよりもほっこりと、心地良く感じるもので。 「……この間の戦、大変だったもんなぁ……」 呟いてから空を見上げて、真夢紀は何処か嬉しげに笑みを浮かべると、空に浮かぶ月、雪景色にその月の光がきらきらと光るのを眺めると、心地好さげに温泉のゆったりとした時間を楽しむのでした。 |