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■オープニング本文 その日の昼下がり、開拓者ギルド受付の青年・利諒は武天芳野の町の領主代行である伊住穂澄と向き合って、綾風楼の二階、のんびりと御茶とお煎餅を頂きながら打ち合わせがてらに雑談をしているところでした。 「まさか利諒兄さんに春が来るとは……私もほっとしました。この調子でおじ様も後添いを貰う気になって下されば……」 「あ、あはは……いや、えぇと、そーいうことは……」 「おまけに利諒兄さんのせいで私まで年頃だろう、いつまでもと方々から言われ、おじ様に後添いの話をしようにもお前の方こそと言われるようになる始末で」 「……つ、つまり僕に八つ当た……ごほごほ、と、兎に角次のお祭のことについての打ち合わせでしょうか? それとも?」 取り敢えず矛先を他所へと向けようとしていたところで、ぱたぱたと駆けてくる足音。 「り、利諒お兄さんっ」 そこへ泣きそうな顔をして飛び込んできたのは、理穴の保上明征が養子の幸秀少年、年は九つ、普段は引っ込み思案で人見知り気味の幸秀ですが、どうにもそんなことはいっていられない様子で。 「あれ? 幸秀君、今芳野にいたんですか?」 「こちらでお友達が出来たらしくって、お勉強とか素振りとか、きちんとする事を条件に、少しの間おじ様がお預かりすることになっていて……ちょくちょくお父さんである保上様もいらしてますけれど」 「あれ? それで、東郷様は?」 「急に配下からの連絡で出かけて行きましたので、私が代わりにこちらに」 走ってきたようで、ぜはぜはと荒い息を必死で収めようとしている幸秀に代わって説明する穂澄、何とか息を落ち着かせた幸秀は、ほぼ飛びつくように利諒に掴まってぐすぐすと鼻を啜ると口を開きます。 「りょ、りょうきくん、嶺騎君が……」 「その、りょうきくんと言う子がどうしたのですか?」 がっちりとしがみつかれて聞き返せない利諒に代わって穂澄が尋ねれば、目に一杯涙を溜めて口を開く幸秀。 「約束した場所に来なくて、昨日、また明日なっていって、見失っちゃったから、おじさんに言おうと思ったのに、おじさん、僕が出た後に出ちゃって、誰に言って良いか分からなくて……」 「えぇと、落ち着いて……今日もあう約束をしていたけれど、来なかったと。最後に見たのが昨日だった、って事ですね?」 「うん……何か気になることがあったみたいで、先に帰ってろって……嫌な予感がして、慌てて追っかけたけれど、見失っちゃったんです……」 「戻って来たところで、おじ様に相談しようと思ったけれど、おじ様は出かけてしまっていて、思い過ごしであればと……その嶺騎君のお家は?」 「知らないんです……いつも、同じところで待ち合わせしていたし……そのうち、お馬さんに乗せてやるって、嶺騎君言ってたけど……」 あれこれと幸秀から分かることを出来るだけ引き出そうと尋ねる利諒と穂澄。 どうやら嶺騎という少年は幸秀より一つ上の年で元気な少年のよう、芳野の町で親と親類が商売をやっているらしいとのこと。 前日は別れる直前に、何故そう感じたかは良く分からないが不気味な感じを受ける男を二人が見かけて、嶺騎が男のことを怪訝そうに見ていたこと、また明日と言って別れたも、その男と同じ方に向かったのに気が付いて慌てて追いかけたが見失ったそう。 「今日来なかっただけなら良いですけど……何も言わずに、約束破るとも思えなくって……」 俯いてしまう幸秀に、依頼書を取り出しながら利諒が穂澄へと目を向ければ、穂澄も頷いてから幸秀を撫でてあげて慰めるのでした。 |
■参加者一覧
野乃宮・涼霞(ia0176)
23歳・女・巫
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
ゼタル・マグスレード(ia9253)
26歳・男・陰
紅 舞華(ia9612)
24歳・女・シ
琉宇(ib1119)
12歳・男・吟
夢尽(ib9427)
17歳・女・砲 |
■リプレイ本文 ●消えた友達 「お友達ができたのは何より……でも、連絡もなくというのは何かあったとみるべきなのかしら?」 しゅんとする幸秀を見て心配そうに頬に手を当てて言うのは野乃宮・涼霞(ia0176)、ゼタル・マグスレード(ia9253)も涼霞の言葉に頷くと口を開いて。 「不審な男を尾行して後に、行方不明……か。何らかの事件に巻き込まれた可能性は高い……か?」 「友達ってとても大事だから幸秀の気持ちもわかるし、嶺騎って子が本当にやっかい事に巻き込まれているとしたら大変なんだぞっ。正義の空賊としては、放っておけないんだからなっ!」 天河 ふしぎ(ia1037)の言葉を聞き、顔を見合わせて話しているのは利諒と紅 舞華(ia9612)。 「確かに芳野には幾つか酒屋はあったが、祖父のと言うことは……」 「幾つか酒店はありますが、店の持ち主がご老人なら思い当たるのは芳池でしょうねぇ」 よく宴会用にお酒や肴を見繕う二人、幾つかお店の中から目星を付けていたようで。 「俺もまだまだ若輩者だが……子供はしっかりと守ってやらなきゃな!」 そこまで言ってから、少し首を傾げる夢尽(ib9427)は再び口を開きます。 「その嶺騎って子供の家は分からないんだったよな?」 「……うーん、確かに不気味な感じの男の人っていうのは気になるけれど、嶺騎くんも含めてわからないことが多いよね」 琉宇(ib1119)が同意する形で頷くと、まずはそこから確認だねぇ、と言って。 「大丈夫よ、必ず会わせてあげるから」 「は、はいっ」 涼霞がそう言って励ますように幸秀に微笑みかけると、幸秀も目元をごしごし擦ってからお願いします、と頭を下げるのでした。 「でも……利諒に会えて嬉しい」 出かける前にほんのりと頬を染めて言う舞華に、利諒も顔を赤らめるもにっこりと笑って。 「僕も嬉しいです、こうして舞華さんに会えて」 そっと手を握って幸せそうに笑みを交わすと、少しだけ名残惜しげに手を離すと笑みを浮かべたまま口を開く舞華。 「まずは仕事だな。その……終わった後でまた……」 「はい、終わった後に……あ、でも、危なかったり、僕で手伝えることがあったら言って下さいね?」 少し慌てたような心配するような利諒の言葉に笑って頷くと、舞華も捜査のために出かけるのでした。 ●御店の人々 嶺騎との待ち合わせ場所へとやって来てから、琉宇は辺りをぐるっと見渡していました。 待ち合わせ場所にやってきたのは琉宇とふしぎ、そして幸秀です。 「お馬さんかぁ……。馬に乗れる子なのかな?」 開拓者におサムライさん、行商人さん……と呟いて考える様子を見せると、小さく首を傾げて幸秀へと目を向けると。 「ある程度絞られてくるけれども、そこから判らないかなぁ」 琉宇が呟く側では、ふしぎが何とも言えない不安げな表情でちらちらと琉宇を見ていた幸秀を励ますようにくしゃくしゃと頭を撫でてにっと笑って見せています。 「ほらほら、僕達が絶対見つけてあげるから、元気出すんだぞっ」 「は……はいっ」 ふしぎにつられたかのようにそう返事をして頷く幸秀は、改めて辺りを見回すも、どこか琉宇が気になるようで。 どうやら琉宇が音楽を奏でたりして集合の目印になったりといったことを提案していたて、『不気味な男の人』と幸秀が表現した相手を刺激することが怖かったのか断ったのですが、いまだ不安があり警戒もしているようです。 「……さてと、ここからの足取りを改めて追ってみるんだぞっ」 そんな遣り取りを知ってか知らずか、不安そうな幸秀の頭を軽くもう一度撫でてから、ふしぎは符を取りだしてそれを鳥に変えると。 「陰陽術のちょっとした応用なんだからなっ!」 吃驚したようなそれでいて少し興味を持っている様子で見上げる幸秀に、ふしぎはにっと笑ってみせるのでした。 「年格好は……あぁ、嶺騎、と言う名前の……」 大通り、ゼタルと夢尽は幸秀から聞いた話の特徴を鑑みて、酒屋をやっている祖父から辿る方が確実と判断して周囲の聞き込みを行っていました。 「家が商いをやってるてんならそれ関係の厄介事の可能性があるってことじゃねぇ?」 「わざわざ気味の悪い男の後を追ったんだ、其の辺りにも理由があるのかも知れないな」 周囲の話を聞いて回り、近くの酒場で合流した夢尽の言葉にゼタルが頷くと。 「そうそう、聞き込んだところに寄ると、嶺騎君というのは、やはり芳池酒店のお孫さんらしいな。末の息子の所が荷馬の住倉屋というのをやっていて、そこの一人息子とか」 住倉と名の付く店は幾つかあるようで他の御店は口入れ屋や両替商などとのこと。 「聞いた話じゃ若いのと知らない男との喧嘩があったとか言ってたぜ? なんか関係あるのかもな」 「なんにせよ、祖父の店と家に行ってみて、だな」 無人の言葉に頷くと、ゼタルは立ちあがるのでした。 「どのような御用件でしょうか」 「実は、御子息について、その友人である少年から依頼があり……」 祖父の店に行っていると思っていた嶺騎の母親にそう切り出したゼタル、芳池酒店へと尋ねて行けば、ここ暫く嶺騎はお店にやって来ていないとの答えで、その事を伝えると、さっと顔色の変わる嶺騎の母。 「では、お義父様のお店にいるわけでもなく、待ち合わせにも現れなかった、と言うことでしょうか?」 「現在安否確認に開拓者が動いており、必ず見つけ出します。ですので安んじて仕事に専念して頂きたく……」 ゼタルの言葉に一瞬道央を見せた嶺騎の母親は、深く息を付くと、すと頭を下げて、宜しくお願い致します、と告げるのでした。 「最近、店で変わったことはないか?」 「変わったこと、ですか?」 夢尽に尋ねられて少し考える様子を見せるのはお店で働いている若い娘さん。 御茶を出してから、最近突然見知らぬ人に喧嘩をふっかけられた若い衆がいることを思いだしたようで。 「でも、危ないですよね、服の一部が切られてたって話で。御店の紋が入ったものだったから大騒ぎになったので、早く旦那様が戻られると良いのにって皆で言っているんですよ」 「紋が入ってる部分が切られたって事か?」 「ええ、偶然とは思いますけれど、ちょっと……」 良い心持ちはしませんよね、そういう娘さんに確かにな、と頷いてみせる夢尽。 「しかし、早く戻られるってぇのは?」 「あ、旦那様、今お仕事で芳野を出られていて、あと少しで戻ってこられる筈なんですけれど……」 娘さんの言葉になるほどと夢尽は頷きます。 一方ゼタルも、喧嘩の当事者である若い衆に話を聞いているところでした。 「それで、その時に何か気になったことはないだろうか? 些細なことでも良い」 「気になったこと……そういや、ちょっと気になることがあるんですがね?」 「気になること……?」 「はぁ、実は、突然喧嘩を吹っ掛けられたのはそうなんですがね? どうにもこう……こちらを確認してから吹っ掛けてきたような……いえ、その時は気付きやせんでしたが、思い返したら、そんな気がしただけで……」 「些細なことと思っても、それが手掛かりにあることもある、教えて欲しい」 ゼタルに促され、気のせいかも知れないけれどと改めて答える若い衆、どうやらはじめてあった人間なのに、見たことがあるような気がしていたとかで。 「知り合いでもねぇし、視界ん中でふらふらしてやがったのかなと、何となくそう思いやしてね……」 喧嘩をふっかける機会を窺われていたんじゃないかと思うと言う言葉に、少し考え込む様子を見せると、男の特徴を聞くために、改めてゼタルは若い衆へ聞き込みを続けるのでした。 ●不審な男 「追って行った後の目撃はないみたいだな。となると、追って行って別の道に抜けたか、そのままこの道を行ったきりなのかな?」 考える様子を見せて言うふしぎ、ゼタルや夢尽が聞き込んでいるのと同じ頃、ふしぎは嶺騎が追って行ってしまったという路地を進んでいました。 「嶺騎は、その男の事を前から知ってたのかな? そうでもないと、不気味な感じの男を追いかけようなんて、普通あんまり思わないと思うんだぞっ」 その辺りは向こうで分かると良いんだけど、と呟くと、ふしぎの手にふわりと浮かぶは人魂、それは見る見ると鳥へと姿を変え、周囲を伺うようにぐるりと回って木々の影から周囲を伺っていて。 「んー……幾つか、気になる道はあるんだけどなっ」 路地の奥、林の様子を追うかがってみれば、木々の間から見える周囲には古めの建物が点在して見えて、隠遁した人の住まいや古い倉庫などを確認して位置を頭の中で反芻すると。 「……う、ん……合流してからになるけれど……」 そう小さく頷くとふしぎはもう一度だけ路地の奥へと目を向けてから、待ち合わせをしている店へと足を向けるのでした。 「追って行ったという男に拉致された可能性が高いですが……何者なのでしょう?」 不気味な男との言葉を頭の中で反芻して、口の中で小さく呟く涼霞。 ちらりとしか見ていないけれど、そう言いながら幸秀が説明した特徴の男を聞いて回っていた涼霞は、いなくなってからのことを考えて早く見つけてあげないと、と表情を曇らせます。 「……ええ、背はそこまで高くはないそうです。お心当たりはありませんか?」 ある意味子を心配する母とも見えなくない様子で聞いて回る涼霞は、ここ数日、その特徴の男が酒や食用を買い込んでいることを聞くことができて。 「……おい、女」 「……何でしょうか?」 少し日の陰りが見え始めた頃合い、幸秀の行った露地ではない者の近い他の路地からかけられる声に目を向ける涼霞、そこにはどこか顔に陰が落ちているような、印象に残り辛い妙な男が立っていました。 「……あの、何か?」 「……」 もう一度涼霞が聞き返すのに無言で踏み込んできた男、ですが。 「囮役動きか、無茶は変わらずだな」 涼霞を守るように割って入ったのは舞華、涼霞と同じく周囲の酒場などを聞き込みしていましたが、囮として目立つ行動をとっていた涼霞に気がついて後を付けていたよう。 「保上殿に助けられたい所だろうが私で許せよ」 「そう言うのでは……でも、ありがとうございます」 「くっ、謀られたか?」 身を翻そうとした男ですが、それより早く舞華が男を叩き伏せて。 「全く、保上殿が心配されるだろうに」 「それは……」 舞華の言葉に微かに頬を赤く染める涼霞。 「とにかく、こうなったからには急がなければな」 男を括りあげて舞華が言うと二人は急ぎ待ち合わせの御店へと向かうのでした。 ●奪還 「……一階に二つ、二階に六つ……いや、七つかなっ」 心眼でその建物の様子を伺ったふしぎ。 男を引き立てはしたものの、その男が何かを言う様子はなく、伊住穂澄へと引き渡した一行が向かったのは、ふしぎが上空から調べた林の中、元々は倉庫であったような廃屋でした。 「あの周囲で他の幾つかは住んでいる人間がわかるか、完全に廃棄されているかのどちらかだったが……」 「ちらりと窓に人が横切ったのが見えたんだっ、外側はどっから見ても廃屋だったのに」 舞華に頷いてみせるふしぎ、なるほどな、と頷く夢尽。 「あぁ、そうか、さっき聞いて回ったとき商売畳んで田舎に引っ込んだ奴が放棄していった倉庫ってのがあそこって訳か」 少し手前の小道から件の倉庫を眺めていれば、空は既に茜に紫が混じり始めた頃合いで。 「今のお話では、恐らく下の階の気配のどちらかが幸秀君と思いますけれど……片方は動かなかったのですね」 「捕まっているとしたら閉じこめるより、縛り付けてるよねぇ……」 涼霞が考えるように外側から推察できる間取りで考えれば、うーん、と首を傾げる様子の琉宇。 位置の大凡を確認している中で、ゼタルが少しだけ建物へと近づけば、するりと現れた小さな影が建物へと素早く駆けていって。 ゼタルの放った人魂は鼠に姿を変え、板の割れた隙間から入り込むと。 「裏口側の土間柱に子供と、側で何か飲んでる男がいる。上は……見たところ酒盛りの最中のようだ」 さっと見た範囲だけど、と告げて偵察の内容をゼタルが告げれば、一行は簡単な打ち合わせの後で二手に分かれるのでした。 裏口の戸ががたんと揺れたかと思えば、脆くなっていたか存外簡単に内側へと倒れて開き。 「何だ、手前ぇ……」 弾かれたように顔を上げる男は、それ以上何か言うより早く、ゼタルの符が男の身体の自由を絡めとり。 「さ、こちらに……」 舞華が縛られていた嶺騎と思しき少年の縄をさっと切って階段へと向かえば、涼霞が庇いながら裏口から連れ出し、倉庫外の囲いのところで短筒を構え待機していた夢尽の元へ。 正面からは戸を刀で切り倒し、飛び込むふしぎ。 「なんだお前っ、ば、化物!?」 「悪事はそこまでなんだぞっ!」 物音で色めきたって階段へと寄ってきた男の目に飛び込んできたのは、頭が蛸のような、異形と言って良い龍の姿の化物で。 「なにしてやがんだ、たかが小娘じゃねえかっ!」 「僕は男だっ!」 先頭の男を押し退けて階段を駆け降りてくる男に言葉を返しながら、刀で合い口を受け止めて弾くふしぎ。 「悪いがここまでにして貰うぞ」 降りてくる男に続こうとするのを遮って降魔刀をつきつける舞華。 「畜生っ、なんだこ奴等はっ、ぐ、ぅっ……」 身を翻し倉庫裏側の窓の障子を開けて身を乗り出し駆けた男は、銃声とともに足から地を吹き出させ地面へと転落、それを見てにぃと笑う夢尽。 「おっと、逃げられると思うなよ」 窓からも正面からの突破も阻まれた男達全てが叩き伏せられ縛り上げられるのにそう時間はかからないのでした。 ●落ち着く大切な場所は 「幸秀君、嶺騎君には、その勇気に開拓者としてお礼を言わせて貰うよ。但し……嶺騎君は母上を心配させた償いとして、きちんと謝っておくようにな?」 情報交換をした御店で待っていた幸秀と合流してから住倉屋へと向かう途中、ゼタルの言葉に頷く嶺騎。 事情を聞けば、若い衆との喧嘩の相手だった気がすることと、御店の紋を切り取られたなどといった事柄を思い出して後を追ってしまったとのことで。 それを使い数日中に帰ってくる父親の運ぶとある品を奪う手筈だったと知るのは穂澄の取り調べ後のことです。 御店でやきもきしながら待っていた母親の姿にやはり心細かったのでしょう、強気な嶺騎が拳骨を貰いながらも抱きしめられ泣いてしがみつくのを寂しげながらも安堵して見る幸秀。 休んでいってくださいと勧められた御店の客間でそれを思い出して縁側に座っていた幸秀へと歩み寄ると、どう切り出すか悩むも、幸秀の義父である保上明征の事を切り出してから。 「えと……あなたのお母様代わりになっても良いかしら?」 「……本当に……?」 涼霞の言葉に驚いたように見るも、じわっと目元を潤ませてそう尋ね返す幸秀、涼霞は微かに笑むと頷いて、ぎゅっと幸秀を抱きしめてあげるのでした。 |