涼風の誘い
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: イベント
相棒
難易度: 普通
参加人数: 25人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/08/04 21:27



■オープニング本文

 六色の谷、武天芳野にある景勝地で、秋口から冬にかけては温泉目宛ての人々が集まる土地。
 ですが、夏は夏でまた、趣のある避暑地
「あそこって、夏は湖で泳いだり舟のったり、上流で魚掴み取りしたり泳いだり、下流では舟遊びと、良いところですよねぇ、この時期……」
「そうだな。打ち合わせの序でもあって、あちらの方で待ち合わせる約束になったのだが。例によって例の如く佐平次は何か思いついたらしいし、どうせならのんびりとしたい者や遊びたい者も居るのではないかと、東郷殿に言われてな」
 あそこで良く昔遊びました、懐かしげに言うのは開拓者ギルド受付の青年・利諒で、保上明征に呼ばれて顔を出していたところで。
「川辺で涼を取るには麗月亭という川辺に面した船宿が、湖や温泉の方に行くならば緑月屋が部屋を提供してくれるとのことだ。宜しければどうぞという案内を出して置いてくれ」
「良いですねぇ、ではお誘いをだしておきますねー」
 にこにこと笑って依頼書へと筆を走らせる利諒、
「そういえば、幸秀君も来られるんですか? 今芳野にいるんですよね、楽しみでしょう?」
「ん……まぁ、な」
 照れ隠しでしょうか、言われた言葉に小さくこほんと咳払いをする明征、利諒はその様子をにこにこと眺めると、幾つかお誘いの詳細などを明征へ尋ねるのでした。


■参加者一覧
/ 柄土 仁一郎(ia0058) / 野乃宮・涼霞(ia0176) / 羅喉丸(ia0347) / 柄土 神威(ia0633) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 御樹青嵐(ia1669) / 弖志峰 直羽(ia1884) / 倉城 紬(ia5229) / ペケ(ia5365) / 叢雲・なりな(ia7729) / リューリャ・ドラッケン(ia8037) / 和奏(ia8807) / リエット・ネーヴ(ia8814) / 紅 舞華(ia9612) / 尾花 紫乃(ia9951) / ユリア・ソル(ia9996) / フラウ・ノート(ib0009) / ヘスティア・V・D(ib0161) / ニクス・ソル(ib0444) / 无(ib1198) / 尾花 朔(ib1268) / リア・コーンウォール(ib2667) / シータル・ラートリー(ib4533) / 叢雲 怜(ib5488) / 華角 牡丹(ib8144


■リプレイ本文

●川に行く? 湖に行く?
「利諒さん利諒さん」
「はい? あ、礼野さん、どうしました?」
「からくりって一緒につれていけませんか?」
 礼野 真夢紀(ia1144)にくいくいと袖を引かれた利諒、用件を尋ねてみればどうやらお誘いの内容を確認したかった様子。
「あー……書くの忘れてました。開拓者に馴染みのある街ですし、問題ないですよ。宿には伝えておきますね」
「お願いします。しらさぎを連れて行ってあげたかったので」
「なるほど、しらさぎさんはからくりさんなんですね」
 利諒に笑みを浮かべて頷く真夢紀、先に湖の緑月屋、帰りに麗月亭に寄るつもりだそうで、いそいそ待たせていたからくりのしらさぎの元へと向かうと共に緑月屋へと足を向けて。
「避暑も行った事ないし温泉も未経験。泳げるのかどうかもわからないし、色々経験積ませないと……まゆの年齢の所為か、精神年齢まゆより下の気がするし」
 楽しむのは楽しむとして、色々と事情があるようです。
「避暑か、初めてだが、なかなかいいものだな」
 こちらも別個に事情があった様子の羅喉丸(ia0347)、どうやら先の大戦で怪我を負っていたようで、湯治に来ていました。
「アル=カマルもいいんだが、あの暑さは今は堪えるからな」
 緑月屋へと向かう途中、涼風が頬を撫でるのにしみじみと言う羅喉丸、動くのに支障は無さそうですがどうしても歩みはゆったりとしたもので尚のことそう感じるよう。
 日陰の心地良い道を歩み辿りつけば、宿の前で一度足を止めて周囲をぐるりと見渡すと、傷に良い温泉があると言っていたしな、そう呟いて入って行くのでした。
 ニクス(ib0444)は深く息を付くと、周囲を見渡せば、そこは麗月亭と緑月屋に分かれる道のところで、僅かに首を傾げて、どちらだろう、そう呟いて。
「共に出かける約束だったのだが」
 肩を竦めつつも予想も付いていたようで、落ち込むと言うよりは仕方がないといった様子、幾つかある心当たりを思い浮かべると、取り敢えず一通り回ってみるか、と山の方へと昇っていくのでした。
「幸秀君は何がしたい?」
 野乃宮・涼霞(ia0176)が尋ねれば、少し考える様子の幸秀は、まだちょっぴり義父の保上明征と涼霞の表情を伺って我が儘を言って良いのか戸惑っているようで。
「幸秀君の行ってみたいことややってみたいことを言って良いのよ?」
「え、えと……僕、湖って見たこと無いので、行ってみたい、です」
 もじもじとしながらも明征が頷くのを見て言う幸秀に、涼霞は微笑みます。
「じゃあ、こちらの道ね。行きましょう」
 微笑み手を差し出す涼霞に顔を赤らめつつもおずおずとその手を握った幸秀は、歩き出す前にもじもじしながらも口を開いて。
「は、はい、は、母上……」
 その言葉に明征も涼霞も目を瞬かせますが、直ぐに涼霞は笑んでぎゅっと一度幸秀を抱き締めてあげて、足元に気を付けてやりながら、一緒に山の方へと足を向けるのでした。

●木漏れ日とせせらぎの中
「たまの休みだ、のんびりしようか」
 上流の一角、釣り具を用意しながら寄り添っている夫婦、口を開いたのは柄土 仁一郎(ia0058)で、微笑んで頷くのは柄土 神威(ia0633)です。
 どうやら新婚のようで浴衣の裾を濡らさないようにと少し端折って、神威が仁一郎に寄り添うように腰を下ろし共に釣り糸を垂らす様はまさにリア充爆発……もとい仲睦まじく。
「晩飯分くらい釣りたいものだな」
「そうね。それにしても流れが綺麗だから、泳ぐ魚まで分かるわね」
 楽しげに笑い合い暫し釣りを楽しんで居れば、それぞれの魚籠には次々と魚が入っていきます。
「んー……数は私だけど、珍しさと大きさじゃ仁一郎ね」
 片や魚籠にはち切れんばかりの鮎の尾びれが跳ねていて、片や丸々とした鮎がでんと収まっていて。
「そうだな……ん?」
 魚籠を覗き込んでいた神威に笑って頷く仁一郎でしたが、竿にくんと重みを感じて軽く上げればずっしりとした重み、かなりの重量級と暫しの格闘の後引き上げてみれば。
「……なぜこんなものが」
 思わず顔を見合わせてしまうそれは、やたらと見事な錦鯉。
「どっかから逃げてきたのだろうか?」
「本当、何処から来たのかしら?」
 急遽料理用に置いてあった盥に水を張って泳がせながら暫し眺めると。
 食べるだけを確保すれば、先程の立派な錦鯉も含めて川へと返してやると、神威が熱した石で魚を粗塩を振って焼いていって。
「新鮮だからワタを取らなくても美味しいわ」
 寄り添い釣った魚を味わえばにこりと微笑んで見上げる神威に、仁一郎も笑みを浮かべて頷き返すのでした。
 木漏れ日の中、のんびりと釣りをしている二人の男性の姿。
「ふわぁ……なんでこう、ちょっと日陰に入って風が吹くだけで……」
「良い心地ですよね。……?」
「ぐぅ……」
 木陰の大きめの岩の上で、釣り糸を垂れつつうとうととし始めるのは弖志峰 直羽(ia1884)、岩の直ぐ側で比の支度などをしつつ竿を見ていた御樹青嵐(ia1669)の二人は友人同士。
 先程からちびちびと小さな杯に川の水で冷やした冷酒を楽しんだり夏野菜の糠漬けや鰻の骨揚げといった御樹お手製の肴でたのしんだりとで穏やかな時間を過ごしていたようで。
「……んー……あ、あわわ」
 手の中の竿がくくっと動くのにふと目が覚めて慌てて竿を引く弖志峰、そんな穏やかな時間を過ごしていれば、どうしても自然と近況と互いの特別なことについて話題は移っていきます。
「近頃はどうですか? 彼女とは」
「え、うん、俺の方は変わりないかなぁ」
 都合が合わずに一緒に来られなかった彼女のことを思い浮かべてか、、以前ならちょっと考え込んでしまっていたのですが、弖志峰はちょっと困ったように笑って。
「……また恋ができただけでも満たされてるんだよ、今はね」
 青ちゃんは? そう聞き返されて一瞬言葉に詰まる御樹。
「……こちらは、これからとしか言えませんが……」
「……そっか」
 釣り上げた魚の入った魚籠を手に岩から降りて御樹の隣へと来れば、にと笑うと御樹の背を弖志峰はばんばん叩きます。
「青ちゃんも頑張れっ」
 何と言って良いのかと微苦笑気味だった御樹ですが、直ぐに弖志峰は釣ったばかりの鮎が入った魚籠を見せて満面の笑みで見て。
「で、だ。青ちゃん、実に美味しそうな鮎が釣れたんだが、ね、これでご飯作って♪」
 にんまりと笑う弖志峰に微苦笑を浮かべると清覧は言うのでした。
「今回は特別に作って差し上げましょうか、ただし彼女と一緒ならですがね」
 直ぐ近くで賑やかな声がして、フラウ・ノート(ib0009)は顔を上げるとにっと笑いました。
「やも♪ 今作ったんだけど、一緒に食べない?」
「……いただきます」
 通りすがりに気が付いたフラウが笑って声をかけたのは川沿いをてくてくと無言で歩いていたのは和奏(ia8807)、どうやら上流からのんびり散歩がてらに歩いてきていたようで。
 途中の草や動物たちを眺めながらだらだら歩いていた和奏ですが、丁度気温もぐっと上がってきて、休憩には良い頃合いと思ったよう。
 楽しげに手際良く魚の処理をして焼いて聞くフラウ、傍らには魚を入れる用の盥と、いざというときに火を消す用の盥、そして塩を振って焼いた魚と、野菜に添えてオリーブオイルをさっと掛けたサラダの二品。
「や、西瓜でも如何?」
 そんな声に顔を上げれば、近くで釣りを楽しんで居た弖志峰と御樹の、川の流れで冷やした大きなまるっと大きな西瓜の差し入れで。
 暫しわいわいと楽しげな中、魚と西瓜を頂いてから和奏は再び木漏れ日の中の散策へと戻るのでした。
「六色の谷かー綺麗な名前だね☆」
 楽しげに川までやって来てはしゃぐのはなりな(ia7729)、暑い暑いと繰り返しながらも叢雲 怜(ib5488)に抱きついてはじゃれ合っていて。
「ま、それは別腹として……ココって水も綺麗で、泳ぐと気持ちいいんだって☆」
 人気が無く涼やかな上流の川、忍び装束を脱いでから、叢雲へと笑みを浮かべ。
「あ、下は水着だから平気〜」
 怜ちゃん以外に見せるつもりないし、とはにかみつつ付け足すなりなにくいと小さく首を傾げる叢雲。
「おろ、なりな姉、顔赤いけど平気?」
 叢雲がコチンとおでこを合わせるのに、真っ赤になるなりな。
 そうはいっても、まだはしゃいだり遊んだりするお年頃でもあり、直ぐに泳で水の中でじゃれ合ったりきゃっきゃと水を掛け合ったり。
「でここの温泉でママの怪我が確り治ると良いのだ!!」
「ねー!」
 先の戦で怪我をした者は多いよう、叢雲となりなも、怪我をしたヘスティアが心配なようであり、一緒に湯治に来たようで。
 とはいえ今暫くの時間は、二人は楽しげに川でじゃれ合っているのでした。

●湖面の燦めき
「……ぐぅ」
 湖の上を浮かぶ小舟が一つ、その中には无(ib1198)が文字通り船を漕いでいるところのようで。
 お腹の上には尾無弧、目を開けて起き上がればころりと傍らに転がって。
「おや……いつの間に……」
 遠くから聞こえた水音に目が覚め欠伸を一つ、どうやら湖面の風が心地良かったようで、
 風は心地良くとも、日差しを一身に受けていたのか顔や手はひりひり、傍らに転がっていた手帳を手に取れば、そこは何を書いたのかが分からない文字がのたくっていて、思わず无は苦笑を浮かべます。
「まぁ、たまには良いか」
 そっと手帳を閉じると暫し周囲を見渡して一つ息を付き。
「たまには筆を取らず酒も飲まず寝るかなぁ」
 軽く頭を掻いてからごろんと転がれば、尾無弧もぽてんと舟の床へと身体を投げ出し、揃って空を見上げると。
「……ぐぅ」
 そのまま无は、再び眠りへと引き込まれていくのでした。
「利諒はこの辺りでよく遊んだというが……どんな子供だったんだ?」
 紅 舞華(ia9612)が尋ねれば、うーん、とちょっと悩む様子を見せる利諒、湖の水際を、腕を組んで歩きながらゆったりと歩いていると、
「僕自身は書を読んだりしていたんですが、兄や姉に引っ張り出されて、舟から放り出されてましたねえ」
 泳ぎの練習と称して放り込まれた後は、悪戯半分に潜って別の場所から浮かんで、大いに慌てさせてました、と困った笑顔で言えば舞華はくすりと笑って。
「ご兄弟は豪快なようだが、利諒も意外とやんちゃだったんだな」
「あはは、上が居るのに甘えて、結構好きなことをさせて貰えてましたので……舞華さんは?」
「私か? 私の子供時代は……修行がてらに良く泳いだかな。釣りも……気付けばいつの間にやら修行に変わっていたが」
 シノビの家の宿命だな、そう笑って言う舞華は、ふと湖面へと目を向けて。
「利諒の子供の頃の遊び、やってみたいな。勿論、投げ込むとか、そういうのではないが……」
「そうですねぇ……泳いでみます? ここの水は綺麗ですし、こちら側は急激に深くなることもないですしね」
 湖畔の茶店で部屋を借りて水着に着替えれば、利諒の案内で軽く泳ぎつつ、どこそこに洞窟があるので見に行ったりゆったり泳いだり。
「この時期、暑い中だとやはり水が心地良いですね」
「そうだな」
 湖畔の桟橋で笑って言う利諒に頷きながらも、小さく二人で居れば楽しいから、舞華が呟くように言うと、利諒は釣られたように赤くなり、互いに照れたような微笑みを交わすのでした。
「焦らなくても大丈夫よ。ゆっくり慣れていきましょう」
 茶屋を挟んで反対側の湖畔では、薄着になり裾を端折った涼霞が湖を前に興奮し驚いている幸秀が、泳いでみたがったのに付き添っていて。
「まずは水に慣れるところからだな……と、あれは何だ」
 共に幸秀を構っていた明征がふと周囲を見渡せば、離れた対岸の方で大きな水柱が立っていて。
「多分、佐平次さん、だと……」
 笑って言う幸秀に微苦笑気味で対岸を見た明征は、徐々に水に慣れてきて水の中を見てみようとじっと目を懲らしたりする幸秀を見ているも、何とも言えない様子の涼霞を見て小さく首を傾げて。
「ん……どうした?」
「あ、いえ……」
 泳ぐまでは行かずとも水遊びのため薄着になって居るのが恥ずかしいようで、幸秀が夢中になっているのを微笑ましく見るも、ふと意識が自身の方へ戻って来たのか、涼霞の頬に赤みが差して。
「あ、あぁ、そうか……」
 薄着な事に恥ずかしがっているのか、と認識した明征は、謝るのも違うしな、と小さく首を傾げて言葉を探しているよう。
「……明征様、お気遣いありがとうございます」
 頬を染めたまま、ついと視線を幸秀へと戻してそう口を開く涼霞は。
「私なりに私が出来るように幸秀君を幸せにしてあげたいと思います。なので、もう無理しておりませんよ?」
 初めて見る景色や体験することに眼をきらきらさせている幸秀を見て、先程から何度も気遣う様子を見せていて、今も自身のためにどういった言葉を使えばいいのか考えていた様子の明征へと、頬を染めて微笑みながら涼霞は振り返ります。
「愛しい方にこんなに大切にして頂いて……私は幸せ者です」
「……涼霞が傍らにいる。私は、なんと幸運で幸福な男だろうな」
 明征も僅かに目を細めてそういえば、何やら見つけたのか二人の元へと戻ってくる幸秀をひょいと抱え上げ、涼霞の側に寄り添うように立つのでした。

●水上の宴
「ま、良いさ。一般人に迷惑かけなきゃなんでもね……」
 遠くを見て呟くのは竜哉(ia8037)、場所は屋形船、集まるのは馴染みの顔ぶれで。
「紫乃さん、熱いので気を付けて下さいね」
「え、あ、は、はい……」
 先程から甲斐甲斐しく料理を取り泉宮 紫乃(ia9951)へ甲斐甲斐しく食べさせているのは尾花朔(ib1268)。
 水浅葱の浴衣に撫子が映えて紺色の帯が目にも涼やかな紫乃は、青いトンボ球の簪を揺らし料理を取ったりお酌をしたりとしていたのですが。
 気が付けば尾花の隣へと収まっており、お箸で摘んだ天麩羅を出され反射的に口にしてから、周囲の視線に気が付き真っ赤になって。
 そして、そんな紫乃の様子を見て尾花もはっと真っ赤になり。
「ふふ、本当に大切なのね」
「えぇ、大事ですからね〜」
 ユリア・ヴァル(ia9996)の言葉に困った笑顔ながらもさらっとそんなことを言う尾花に更に顔が耳まで赤く染まる紫乃、ヘスティア・ヴォルフ(ib0161)はその様子を見て楽しげにくっくと笑いを漏らします。
「あ、あの……」
「ん? 紫乃、どった?」
 飲み物を取りに席を立った尾花を見送ると、赤い顔でもじもじとするのに、へ禹ティアが聞いて見れば。
「あの……お付き合いを始めて、どの位で、その……」
 何と言って良いのかもじもじとしながら何とか呼吸を繰り返してから続ける紫乃。
「その……先に進む、ものなんでしょうか?く、口付け、とか……」
「キスは初日かしらね
「しょっ……」
「キス? 早い人ならその日の間にとかあるぜ?」
 真っ赤になって言葉を途切れさせる紫乃にクスッと笑うユリア。
「おねだりしてみたらどう?」
「ぁ、ぅ……」
「まぁ……人それぞれってこった」
 紫乃を撫でてやるヘスティア、楽しげな様子ではありますが、先程ニクスを見かけた竜哉としては何とも言えない表情で。
「恋人関係は男が振り回されている程度で良いんだろうさ?」
 そう呟くも何やら考え込むと。
「まぁ、遠めにニヤニヤ見守るのが楽しいといえなくもない」
 ユリアを眺めつつニクスを思い出しながら、思わず小さく笑ってそう呟くのでした。
 その少し離れた場所では、倉城 紬(ia5229)がシータルと共に料理に舌鼓を打っていました。
「天儀の料理も、国によって変わったりしますが……アル=カマルの料理も興味深いですね」
 お互いの故郷の味について言葉を交わすのは楽しいようで、暫し料理談義に花も咲きます。
「ちょうど息抜きしたかったものでありんすから、嬉しい限りでありんす」
 髪を下ろし灰藍の落ち着いた浴衣を身に纏ってゆったりと屋形船に揺られているのは華角 牡丹(ib8144)、花魁姿ではなくすっかりと休日の穏やかな一時を楽しんで居て。
「偉ぇ別嬪だな。ま、ゆるりとひとつ」
「ふふ、たまには持成されるものもいいものでありんすなぁ」
 涼やかな風が流れ込んでくる中、折角の休日だからと穏やかによく冷えたお茶をと思えば、杯へひょいと急須を手に取った東郷実将が御茶を注いでやり、ころころと楽しげに笑って御茶を頂くと、穏やかな視線を湖面へと向ける牡丹。
 少し離れたところでは賑やかな友人同士の語らいがあり、そういった者や湖面を眺めていれば、実に休日らしい心穏やかな時間で。
「宴に舞は付き物でありんしょうから、一差し舞わせていただきんす」
 微笑を浮かべて扇を手にすと立てば、艶やかな舞に風が垂らした髪を揺らし、舞う姿は夏に涼やかに咲く大輪の花のようで。
「いや、眼福眼福」
 そう笑みを浮かべて言う実将に、牡丹は艶やかに笑って見せるのでした。

●川辺の宿
 麗月亭、川に佇む月が美しかったことから付けられたとされるこの船宿、一室ではリア・コーンウォール(ib2667)が、穏やかな微笑みのまま……硬直していました。
 暫し時間は遡ります。
 リアはリエット・ネーヴ(ia8814)と身体を休めながら食事を楽しんで居ました。
 美味しい食事、晴れ渡る空にきらきら光る木々は青く、少々お酒などを嗜みながら、又、リエットが飲んでみようとするのをやんわり止めたりしながら、心穏やかにその時間を堪能していました。
 リエットも料理を取って貰ったりして楽しんで居た、筈でした。
「ご馳走様。美味しかったじぇ〜!」
 それだけ言って、あまりにも眩しい緑に飛び出してしまったリエットですが、方と川辺へと目を向けていたリアは、その瞬間を見逃していて。
「暑さを忘れさせる様な、良い風だな♪ なあ、リェ……?」
 心地良い風を頬に受け、穏やかに振り返ったリアは、一瞬硬直します。
 その頃のリエットと言えば、木々を器用に飛び移っていき、山の中でばったり遭遇したお猿さん何故か心で通じ合ったよう、追いかけっこをしたり木の上からどぼんと川に落ちて、目に入った魚をがっちり捕まえてみたりと大はしゃぎ。
 そうして辿りついたのが緑月屋、十分に遊んだからかお猿さんは山へと戻っていきますが、リエットはここ知って居るなぁ、とばかりに見上げて。
「漸く見つけたっ!」
 後ろからがっしりと肩をリアに掴まれて振り向くリエットの顔は、満面の笑みで。
「どこかへ行くのは構わないが、今度は一言いってからにしてくれ」
「うんっ! 一度、言ってから遊びに行くじぇ! 覚えたっ♪」
 いつも通り元気に頷くリエットに、一抹の不安を覚えつつも見上げれば緑月屋で。
「丁度良い、温泉、入っていくか」
「うんっ♪」
 リエットの様子に一つ深く息を吐くも、直ぐに笑みを浮かべてリエットの頭をくしゃくしゃ撫でて、リアは緑月屋へと入っていくのでした。

●湯治での穏やかな一時
「あれだけの事をやっておいて、五体満足な事を感謝すべきなんだろうな」
 傷が温泉でじわりと痛み微苦笑気味に言う羅喉丸、直ぐに傷口に小さな気泡が纏わり付くかのように触れ、痛みではなく心地好さで直ぐに緩く息を付いて。
 傍らには盥とその上に載った徳利と杯、露天風呂から見下ろせば、緑色の谷の絶景が一望できます。
「衣食足りて礼節を知る。まだ時間はかかるだろうが、緑の大地が戻る事で丸く収まればいいんだがな」
 視界に広がる豊かな緑が夕焼けに染まる様を眺めながら、羅喉丸はそう呟いてゆっくりと杯を傾けるのでした。
「んー……良い調子、かな?」
 夕刻、竜哉は本来の目的である緑月屋の温泉へとやって来ていて。
 水着着用での混浴で入る湯は、怪我した身体に心地良い刺激となって居て。
「怪我人が結構出たようだし……兎に角、ある程度動くようになったら身体を解す為に運動するかな」
 変な癖が残ってもいけないしね。、そんなことを呟いて今日一日を思い返せば、不埒者が出たわけでも無く、川沿いも湖も平穏で、ニクスは駆けずり回っていて。
「平穏無事、と……」
 ふぅ、と緩やかに息を付くと、ゆったりとお湯に身体を沈めて穏やかな時間を過ごしていたのですが。
「んと……ママもなりな姉も綺麗でドキドキなのだよ〜♪」
 貸し切りにしていたわけではないので、同じお風呂湯煙の向こう側から聞こえるのは、ビキニタイプの水着のヘスティアと、叢雲になりなの三人の会話。
「ああ、もう可愛いなあっ」
 二人纏めてぎゅーっと抱き締めているヘスティア、嬉しげにぎゅーっと抱き締め返す叢雲と擦り寄って居るなりな、胸でちょっぴり窒息しそうなのはご愛敬です。
「ママさん、お酒大丈夫?」
「般若湯は体に良いんだぜ?」
 仲睦まじそうな会話、俺たちはお酒まだ早いもんね、と空を見上げてお星様を見つける競争、等をしている二人を微笑ましげに見守っていたヘスティアは。
「さて……ということでそこで一人いる竜哉さん、酌をせんかね」
「はいはい」
 気付いてたか、と側に寄るとヘスティアにお酌をする竜哉、やがて叢雲となりなが昼間の疲れでうとうととし始めると、起こさないようヘスティアと竜哉はそうっと部屋へと二人を運んでやるのでした。
「……月が綺麗だなぁ……」
 そう呟くのは和奏、先程からのんびりと足湯を楽しんでいれば、その側をからくりのしらさぎと手を繋いで真夢紀が温泉へと向かっているところで。
「今日はお魚もお素麺も美味しかったですし、お昼寝も……明日は麗月亭で川下りをしてから帰りましょうね」
 真っ白なふわふわの髪を揺らして頷くしらさぎに嬉しげに笑いかけると、真夢紀は暫し長閑な温泉の一時を楽しむのでした。

●安らぎの夕闇の中で
「……手を、繋いでも良いですか?」
 川縁を歩く二つの影、昼のことがあってかどうしても少し挙動不審な紫乃は、一緒に線香花火をしていても、何か言いたかけるも言えないとと言ったことを繰り返していました。
 それを尾花は急かすことはせずにゆっくり待っていれば、漸く聞こえる掠れた声に微笑んで優しく手を握ってそっと引き寄せる尾花はそっと紫乃の頬に口付け微笑みかけると。
「大好きですよ、紫乃さん」
 一瞬の間があって、夕闇の中でも分かるほどに、耳まで赤く染めた紫乃は囁くような声で精一杯言葉を紡いで。
「わ、私も…………好き、です 」
 静かに穏やかに流れる時間、尾花と紫乃はお互いに頬を染めながらも幸せそうに微笑み合うのでした。
「最後には見つけられる……」
 小さく呟くのはユリア、月映る森の中の泉を見下ろしていれば、近付いてくる足音に何処か切なげな小さな呟きが、ユリアの薔薇の香りに揺れていて。
「いつもそうなのよ」
 微かに笑んで呟く言葉、足音は早く大きくなり、現れたニクスにぎゅっと抱き締められて見上げれば。
「どこに行こうと捕まえる。放しはしないさ」
 きっぱりと決意を込めた言葉に、それを口に出来ない切なさが胸をくすぐるも、ほんのりと微笑んで抱き締めるままに身体を寄せると、ユリアは、心の中で小さく愛している、その言葉を強く感じながら、ぬくもりを確かめるように寄り添って居るのでした。
「あの……前に『我儘が怖い』と申し上げた事ですが……」
 部屋では遊び疲れた幸秀がお布団にくるまって小さな寝息を立てていて、それを見守っていた涼霞は、明征へとそっと小声で話しかけていました。
「お傍にいる以上の事を望んでしまう我儘な自分が怖くて……はしたない事を考えているのを知られたくなかったのです」
 告げられる言葉に、明征はぎゅっと涼霞を抱き締めるとゆっくりと指で髪を梳きながら、額へと口付けて。
「愛している」
 幾つも言葉が過ぎる様子の明征ですが、たった一つを告げると、離したくないとばかりに強く涼霞を抱き締めるのでした。
「今日は本当に楽しかった」
 そう言って、寄り添いながらお酒を楽しんで居るのは舞華と利諒、湯上がりでお互いに何だかほこほこしてますね、そんな風に笑う利諒に舞華もにっこりと笑って頷き。
 感謝の気持ち、と小さく言って利諒の頬に口付ける舞華と頬を染める舞華、思わず真っ赤になった利諒ですが、直ぐに嬉しそうに笑ってそっと触れる口付けをして。
「大好きですよ」
 互いに頬を染めながらも、笑い合うと、穏やかに二人はお酒を楽しみつつ、沢山の言葉を交わし合うのでした。
 緑月屋、庭に見える池の月を眺めながら仁一郎と神威は寄り添ってのんびりと過ごしていて。
「ちょっとした新婚旅行代わりかな。……それはそれで、ちゃんとやりたいところではあるが」
「そうね、こんな風に皆で騒ぐのも楽しいけど、新婚旅行は……二人だけがいいもの」
 のんびりと過ごしていれば、ふと呟くように言った仁一郎に、茶目っ気混じりに笑いかけると答える神威。
「そうだな、其の辺りは相談して改めて決めるか」
「ええ」
 寄り添いながら改めて見上げる二人に、月は見守るように輝いているのでした。