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■オープニング本文 ※このシナリオは【混夢】IFシナリオです。 オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 「みゃあぁん、ふみゃあぁ―――んっ」 ここは胥という猫さんの夢の中。 ちょっとくらいもやもやしたお空の、いつものお屋敷で、白黒猫の胥はごはんをくれる保上明征の、その息子である自身の飼い主と思っている幸秀少年を捜していました。 「ごしゅじんっさまーっ、おかーさーんっ、ごはんでもいいよーっ、でてきてよぅー」 ご飯呼ばわりの明征は大概可哀相ではありますが、一人で寂しくて堪らない様子でうろうろと部屋を探して回り、へとへとになりながら廊下を歩いて、庭に出てへたり込んでいた、その時。 「みぎゃっ、やかましいにゃっ」 そこへ現れたのはなんとほっかむりをした胥より二回りも大きな真っ黒な猫、ふてぶてしい目付きで一歩近付くその猫にすっかりと怯えて尻尾を足の間に仕舞い込んで、ふるふると胥は涙目で見上げて。 「あまったれなうえになまいきにゃ、こいつはもらっていってやるにゃ!」 何が生意気なのかは分かりませんが、むんずと胥の首に付いていた赤い飾り紐を解いて掴んですちゃっと塀の上に登ってしまいます。 「か、かえしてにゃーっ、ごしゅじんさまがくれたひも、かえしてっ、うにゃーんっ」 仔猫ではないものの、ずっと屋敷で可愛がられて育ったためちょっと幼い胥は、御主人のいない寂しさも相まって蹲って泣き濡れているのでした。 |
■参加者一覧
野乃宮・涼霞(ia0176)
23歳・女・巫
アルネイス(ia6104)
15歳・女・陰
ゼタル・マグスレード(ia9253)
26歳・男・陰
紅 舞華(ia9612)
24歳・女・シ
ウルグ・シュバルツ(ib5700)
29歳・男・砲
フレス(ib6696)
11歳・女・ジ
トィミトイ(ib7096)
18歳・男・砂
ラグナ・グラウシード(ib8459)
19歳・男・騎 |
■リプレイ本文 ●泣いている猫 「泣き声が聞こえる……?」 保上明征の屋敷の外を通りかかって、ふと聞こえた泣き声に耳を澄ませるのはアルネイス(ia6104)の朋友である人妖のルーレンダー。 人妖と言ってもその顔立ちは人ではなく、人の身体にカエル頭というのものなのですが。 何はともあれ聞こえてきた声を頼りに歩いていき塀の中を覗き込めば、何やら庭で泣きじゃくっている猫の姿。 「一体何があったのだろうか?」 そう呟くとルーレンダーは壁を乗り越えて庭に入っていくのでした。 「通りすがりに、お屋敷の中から泣き声が聞こえたものだから……勝手に入ってごめんなさいね」 「うみゃぁ……」 庭で突っ伏してしくしくと泣いていた胥に声を掛けたのはゼタル・マグスレード(ia9253)の朋友でからくりの蓬莱です。 胥が声のした方へと目を向けるとまず目に入るのはスリット深く入った足、視線を上に向ければ長い髪を結い上げた眼鏡のよく似合うお姉さんで。 「何故、泣いているのか聞かせていただける?」 蓬莱の言葉に涙で顔がぐちゃぐちゃになって居た胥は目を瞬かせてから、くしくしと目元を擦るのでした。 「みゃあ……ごしゅじんさまに、もらった、ひも……」 「我々、朋友にとって主より授けられし物はどのような珠玉にも代えがたき宝物であると記憶しております」 幾度もしゃくり上げながら説明する胥はなかなか上手く状況が伝えられてなかったのか、ルーレンダーと蓬莱の他に説明している間にも、フレス(ib6696)の朋友でからくりのファルなどもやって来ていて。 「取り返したくないのですか?」 「とりかえしたいにゃ! で、でも、おそと、しらないにゃ……」 無表情で淡々と尋ねるファルの言葉にしくしくと泣く胥、猫又や朋友というわけでもないためか、家の中でぬくぬくと育っている普通の猫である胥は、一人基一匹で外に出て怯えてしまったが最後、恐らく迷ったまま帰って来られないでしょう。 その為ますますどうすればいいのか、取り返せないのではと不安が更に募ってしまうようで。 「にいさま、いないのです……」 そんな胥と同じく不安で寂しい気持ちでその庭の上をぱたぱたとやってきたのはウルグ・シュバルツ(ib5700)の朋友で駿龍のシャリア。 「ここ、どこなんでしょか……あれもこれも、大きくて……なんだか怖い、です」 夢の中だからか、自分が小さくなっていることに気付いていないシャリア。 泣きたい気持ちを代弁するかのように聞こえてくる声に目を落とせば、聞こえてくる会話に自分だったらと想像してしまったのか、飛んでいる気力も出ず、庭に降りて木の陰でしゅん、と小さくなっていて。 「猫さん、かわいそうなのです。シャリアは、にいさまに貰ったもの手放すなんて嫌です……」 一匹で出て帰って来られなくなったら、それこそ二度とご主人様に会えなくなるんじゃ、そんなことをさめざめと泣く様子に、ルーレンダーは雄猫なのにと少々情けないという目で見ており、ファルはあれこれと決意を促すために問いつめており、蓬莱は何事か考え込んでいて。 「にいさまは……にいさまなら、困った人は放っておかないのです。だから、シャリアも頑張るのです……っ」 胥の様子に困っている、そう判断したシャリアはぐっと頑張ろうという気持ちになったようで、小さく、頑張ったら褒めてもらえるかな、そんな風に小さく呟くのはまだ気持ちがちょっぴり幼い女の子だからかも知れません、と。 「どうしたんだい? 龍のお嬢ちゃん」 「っ!?」 馴染みの仔猫が泣いていると気付きやって来た紅 舞華(ia9612)の朋友、忍犬の潮が胥に声を掛けようか少し様子を見ながら考えて居たところで、木陰でおろおろからしゃきんという決意までを見せていたシャリアに気が付いたようです。 「え、あ、えっと……」 「うむ」 「……ま、待って下さいです……っ」 「わん」 急に声を掛けられた気がしてどうすれば良いのかとぐるぐるしていたシャリアに、待てと言われたので取り敢えず返事をして少し待ってみる潮。 「あ、あの、猫さんが困っていた、ようだったので……」 ばくばくする胸を何とか押さえてから、漸くそういうシャリアに、にっとばかりに口の端をあげてから促すようにてってっと歩き出す潮。 「奇遇だ、俺もそれが気になってな」 潮についてシャリアも歩き出せば、ファルが剣の素振りなどをしつつ決意を促そうとして、ご主人様がいつも庭でしていることを連想して、どうしたらいいのかぐるぐるとなってしまっている胥の所へとやって来て。 「もうあえなくなったら、ぼく、どうすれば……」 「お前のご主人様達は忙しい人達だ、でも大丈夫、帰ってこない訳がない。保証する」 「ほんとかにゃ?」 「某が主、涼霞は明征殿と幸秀坊と出かけたようだな。相変わらず仲睦まじい事よ。待っておれば直ぐに帰ってこよう」 潮の言葉にぴんと尻尾が反応する胥、それを肯定するようにのしのしとやってくるのは、これまたぬいぐるみぐらいの大きさになっていた野乃宮・涼霞(ia0176)の朋友で櫻嵐と言う名の駿龍。 ちなみに白黄金色に朱色の桜の花吹雪舞う柄の西洋鎧がチャームポイント。 「あ、あの……あの、猫さんが、取り返しに行きたいなら、お手伝い、するの……」 「みゅ、でかけていっても、ぼく、かえってこられる?」 「あ、う、えっと、一緒に行けば、一緒に、戻ってこられる?」 この辺りを良く知っているわけでは無いためか、胥に話しかけてみたシャリアは潮へと目を向ければ、ちゃんと帰る道を憶えていけばいいから大丈夫、と潮は請け負って。 「みゃ……いっしょ、いってくれるにゃ?」 「うん……」 見上げる胥に、おずおずとシャリアが手を出しだしてみれば、ぽむとにくきゅうを載っけて、もう一方の前足でぐしぐしと涙を拭う胥。 「良ければ手伝おう。他にすることもないしな」 そう言って協力を申し出たのはトィミトイ(ib7096)の朋友のからくりで、レイ。 赤いジルベリア風の鎧を身につけた男性の姿をしており、仕事上の協力者といった様子のトィミトイが居なかったため出かけてきたようで。 そして夢の中は便利なものなので、離れていても泣いている様子や状況は聞こえていたようです。 「ふうむ……幼い子どもが泣いている、とあればな。惻隠の情……助力しよう」 話は聞かせて貰った、とばかりに現れるで駿龍のレギはラグナ・グラウシード(ib8459)の朋友。 「我は助力するのにやぶさかではないが、ただ救いを待っているだけの者にこの翼を動かすのはさすがに気が向かんな」 「いや、今さっき一緒に行くと言っていたと思いますが」 レギがちらっと胥を見てそういえば、突然現れたように見えたレギに胥と手を取り合って固まるシャリアの姿、それを見つつ冷静に言うのはファルで。 「や、やぶかさ?」 「やぶさかだ」 「??」 言い回しが難しいのかかくんと首を傾げて聞き返す胥、朋友は飼い主に似る、基相棒に似るのかもしれません。 「取り返しに行くと決まるまでが長すぎる」 「まぁ、確かに、意気地がちと足りん、甘やかされた故な」 ふぅと溜息をつくルーレンダーに微苦笑気味に言う櫻嵐、話が纏まったところで、何やら先程から考えて居た蓬莱が穏やかに口を開くのでした。 「では、出かけるための準備を致しましょう?」 ●荒梅田山へ 「相手には、心当たりがある?」 「わからないにゃ、みたことなかったにゃ」 普段は入れない厨房に蓬莱とルーレンダーと一緒に入ってちょっとどきどきしている様子の胥、途中でお腹が空いちゃったら困るでしょうと優しく言う蓬莱にこくんと頷くと、お弁当をつめつめとするお手伝いが何だか楽しいようで。 「犯人は常習犯のようだな。ここのところ食事を掠め取られた犬猫の被害が増えているようだ。最近増えたのを考えれば縄張りがこの辺りに移ってきた、と考えるのが妥当か」 出かける準備をしている間、ご近所でお留守番中の犬猫さん、又野良さん達にも話を聞いて回った様子のレイが調査結果を伝えれば、ぱたぱたと偵察に行っていたレギが戻って来たようで。 「裏の山の上で、何者かが何やら荷を積み上げて転がっておった。黒い塊に見えた故、恐らくは件の猫ではないかと思う」 「ではそろそろ準備も出来たことですし、カチコミ……もとい説得に参りましょうか」 「かちこみ?」 「それは気にしなくて良い」 ファルが言うのにきょとんとする胥、気にするなとルーレンダーがいうと、それぞれ準備は完了したようで、潮が胥の前に立って顔を覗き込みます。 「さぁ、主人に相応しい相棒に自分がなってるか。主人が帰ってきた時に胸張って会えるか。頑張りどころだ」 「は、はいにゃ!」 「頑張る、です!」 胥と共に思わず返事をしてしまうシャリア、にぃと笑ってから潮は、匂いを辿るためにきりっと表情を引き締め直すのでした。 「にいさまは優しいの」 「なるほど……私の所は色々と大変だ。あれもいちいち舐めるようなことをしなければ……」 シャリアと歩きながら周囲を気にしていたルーレンダーが小さく溜息混じりに答えた言葉は自身の生活環境についての釈然としない部分であったり。 「近頃はすっかりと主を守る役割を奪われたようで癪な気持ちは正直あるが、主が幸せであるなら明征殿に託すまで……だ」 「うちの主人もあいつの主人に世話になってるからなぁ」 「ぬ? 胥の主人は幸秀坊ぞ?」 「おや? では明征殿は?」 「ご飯と呼んでおった……」 飼い主達を知っているもの同士が何とも言えない表情をしてみたり、そんな長閑な山道を歩いていれば、朋友達と違って普通の猫の胥、ちょっぴり遅れがちになり始めていて。 「胥くん、大丈夫? 疲れたらいつでも言って良いのよ?」 「にゅ、だいじょうぶ、がんばる、にゃ……」 気遣い蓬莱は胥の気持ちを尊重しようと思うも、やはり体力の差はどうにもならないもので、どうやって傷つけないようにと考えて見ていれば、胥の隣へとやって来て話しかけるのはレギです。 「我の背に乗るか? 少年は空を飛んだことなど無いであろう?」 「う、うん、やねのうえがせいいっぱいにゃ」 「折角の機会だ、一度見て見ると良い、空からの風景をな」 そう言って背中に乗るのを促すレギ、おじゃましますにゃとおずおずと乗る胥、体が小さくなっているレギなので、胥が乗るには程良い大きさ。 ちょっぴり不安そうな胥に一緒にぱたぱた飛んであげるシャリア、ちょっぴりお姉さんに甘える様に胥も徐々に空からの景色に嬉しげに尻尾をぴんと立てたりしています。 そうして休憩を挟んだりしながら見えてきたのは、荒梅田山の山頂、途中だだっぴろい不思議なものが転がっている広間を抜けましたが、それはまた別のお話。 「いた……あれだな、空から我が見たものは」 山頂には文字通りいろんな食べ物や飲み物、そして玩具などが山になって居て、その上ででーんと転がってお腹を見せている大きな黒猫の姿が見えるのでした。 ●ぼくのたいせつなもの 「貴方は包囲されてます、素直に飾り紐を返却するのであれば恩赦等期待できることを宣告致します」 「おんしゃって、なに?」 「わかんないです……」 勇気を出す一瞬の為に、囮としてファルが前へと出て黒猫に声を掛けますが、胥とシャリアにはちょっぴり難しい言葉があって小さく首を傾げていたりします。 「さ、胥、まずはお前自身が正面から交渉だ」 潮が言えば、ルーレンダーはじっと胥を見ており、きょときょととシャリアやレギ、櫻嵐が励ますように見つめるのに深呼吸をする胥。 蓬莱を見れば優しく頷くのにぐっと唾を飲み込んでから、がさっと茂みから出て黒猫に向かって口を開く胥。 「ぼ……ぼくのひもっ、かえしてにゃっ」 「なんにゃ、あまったれななまいきがっ、おれさまのえんかいをじゃまするなにゃ!」 「ぼくのなのにゃ、かえしてなのにゃーっ」 睨み返されてちょっとふるふるとしては居ますが、ぐっと踏み留まる胥に精一杯の勇気で胥に加勢のために茂みから出るシャリア。 「人のもの盗ったらいけないのです。返すのです」 「ひとじゃないにゃ、ねこにゃ」 「……ひ、人じゃなくても駄目なのです!」 「……口で負けてるな」 どうにもそれなりにふてぶてしく渡ってきた猫らしく突っぱねられて、じわっとしつつも懸命に胥は堪えていて。 「ごしゅじんさまがくれた、たいせつなひもなのにゃっ、だから、かえしてほしいのにゃっ」 その様子にレギも口を開いて。 「このような幼き者から奪ったとて、何が楽しい?」 「ざまみろなのにゃー」 酷い言いようではありますが、相手を観察していた蓬莱が一歩前へ出て口を開いて。 「黒猫さん、貴方にはご主人様はいないの?」 「う、うるさいにゃっ! きょうざめなのにゃ!」 ぐと詰まった黒猫が胥の紐を咥えて逃げようとするのに、ぱたたと素早く回り込んで立ち塞がるシャリア。 「何でこんなことしたんですか……っ」 直ぐに潮も退路を塞ぎ、櫻嵐が静かに黒猫に話しかけて。 「貴様にとってはただの紐。そこまでこだわる必要はなかろう。取り上げた猫が生意気と言うならば、泣いた姿で満足したろう?」 「う、うるさいのにゃ、ほかのやつにはかんけいないはなしにゃっ」 「そうはいっても某の主が大切な子の猫での、ほおってはおけんのだ。ただで返せ……とは申さん。またたび酒と交換でどうだ?」 「う……い、いらないにゃ」 櫻嵐の言葉と提案を拒否した黒猫ですが、そこに畳み掛けるようにレギがうな重とお酒を見せます。 「そんなものより……よければこれを馳走しよう、それで返してはくれぬか」 「う……うなぎなのにゃ……い、いや、いらないのにゃっ!」 ちょっぴりレギのうな重に心惹かれた様子も、ぶんぶんと首を振って誘惑に耐えた黒猫、そこに、蓬莱がお弁当を手に歩み寄って。 「私達はご主人様にはなれないけれど、友達になる事はできるわ。だから喧嘩せずに、一緒にお弁当いかが?」 「う……にゃ……」 お弁当が効いたのか、それとも友達という言葉が効いたのか、項垂れる黒猫、胥が歩み寄ると、ぽとりと赤い紐を落として、ぷいとそっぽを向きます。 「ま、持ってきた物も沢山ある、みんなで食べようぜ、折角の山頂だ」 潮が言えばせっせと一同はご飯を広げて宴会の準備、何とも言えない様子でちらちらと見つつも何も言えない黒猫に、潮はつつと寄って口を開いて。 「一緒に遊びたかったならそう言え。素直なのが一番だぞ」 「みゃ、おれさまにも、ぷらいどがあるにゃ」 そう言いながらもふるふるとやせ我慢の様子でいる黒猫、ふと見ればご飯を食べる場所として広げていたところに、黒猫用の場所を作っていたのはファル。 寂しかったのだろうと察していて、そこに加わるのを了承している、と言った様子。 「うにゃ……」 そして、その様子を胥も気になるのかちらちら見るも、うにゃと睨まれて困ったように、こんな時になんて言って良いのか分からないのにぐるぐるしていると、取り返した飾り紐を首へと付け直してあげた蓬莱が、しょげている黒猫の後ろに立つと何かを取りだして。 「うにゃっ!?」 「あら、ごめんなさいね? 痛かったかしら?」 そう尋ねる蓬莱がしたのは、金糸を編み込んだ組紐飾りを首に結んであげたこと。 「どう? 貴方用に作ったの」 「うにゃ……おれさま、に?」 「ええ。貰ってくれれば嬉しいわ」 蓬莱の言葉に黒猫の目にみるみると涙が溢れて、うなぁーっと野太い声ではありますが、おいおい泣き出す黒猫は、やっぱり寂しかったようで。 「わるかったのにゃ……」 「ううん……かえしてくれて、ありがとうにゃ」 泣き止んで、胥に謝る黒猫と、ふるふる首を振る胥、じっと見つめるシャリアにも、もう意地悪しないのにゃ、と約束をして。 折角だからと始まる宴会は、穏やかなもの。 すっかりと日も暮れてしまえば、ぽっかりと浮かぶお月様に、十の影が楽しげに宴をする様が浮かび上がり、いつまでも続いているのでした。 ●夢から覚めて……新しい友達 朝方、胥は屋敷内に幾つも感じられる人の気配で目を覚ましました。 首には大切な飾り紐、でも、新しく知り合った朋友達も、黒猫の姿もありません。 「うみゃ……」 寂しげに小さく鳴くと、遠くから聞き覚えのある大切なご主人様の声が聞こえて、ちょっぴり落ちきっていた尻尾が持ち上がり。 「うなぁあぁ……」 ふと塀の方から聞こえる猫の欠伸に胥が弾かれたように見ると、そこには、誇らしげに首に金糸を編み込んだ飾り紐を首に巻いた、大きな黒猫の姿が。 「う……うにゃんっ」 夢のように人間と同じ言葉は喋れなくなったけれど、それでも塀の側で呼び込むようにうにゃうにゃと尻尾を嬉しげに立てて呼ぶ胥に。 黒猫は夢の中で見たように、ふてぶてしく笑いながらも、胥の側へとすとっと降り立つと、しゃりしゃりと胥の頬を舐めてやって。 仕事できていたのでしょうか、潮が、そんな様子を眺めてにと笑うと櫻嵐の居る龍舎へと向かっててってってとその側を通り抜けて、黒猫と胥はその様子を眺めてから、庭でじゃれて遊び始めます。 もうそろそろ、シャリアも目を覚まして、一杯ウルグへと甘える頃でしょう。 ルーレンダーがジライヤのムロンの舌を回避している頃、蓬莱は自身が編み込んで作ったはずの組紐飾りが手元にないのに、夢か現か考えて居て。 ファルは胥の新たな友人と勇気に乾杯をした感触を憶えているような気がして、心なしか満足げな様子で、ぐっすりと眠っているフレスのはだけた肌がけを直してやっています。 レギは空を飛べない猫が、上空からの風景をとても喜んでいたのを思いだして満足げに再び夢の中へと戻ろうとしていて。 レイが開拓者ギルドでトィミトイの名前で勝手に仕事を請け負おうとしていたその時分、白黒猫の胥は赤い飾り紐を揺らして黒猫を見上げて、首を傾げていました。 「うにゃあ?」 「うがっ!」 あれは夢だったのでしょうか、それとも現実だったのでしょうか、胥がまた会えるかにゃと聞くのに、黒猫は当たり前にゃとこたえていれば。 飼い主の幸秀少年がご飯だと胥を呼ぶのに、二匹揃って尻尾をぴんと立てて走り出して。 そんな様子を、龍舎から櫻嵐と潮が満足げに眺めているのでした。 |