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■オープニング本文 その日、受付の青年利諒は貰った手紙を前に上機嫌でギルド奥の一室にてお煎餅を囓りながら座っていました。 「おう、偉く機嫌が良いじゃねぇか」 「あ、庄堂さん、聞いて下さいよ、芳野でのお祭の連絡なんですけれど、見て下さい、これこれ」 そう言って見せる手紙の差出人は、利諒の幼馴染みである伊住穂澄です。 「なになに? 花火にはしゃいでるのか? お前」 「あ、いえいえいえ、今迄はこう、海側だけだったんですけれどね? 見て下さいよ、海と山、両方から打ち上げる、かなり派手なものになるらしいですよ。こんな規模で芳野でやる花火なんて、初めてじゃないかと思って」 「……で、お前さんは偉い興奮してる訳か」 「ええ、折角ですから、開拓者の皆さんもどうぞ、って。綾風楼の部屋で宴会しても良いですよ、と書いてありますし」 「ほー、気前の良いこった」 「庄堂さんもどうですか? あ、取り敢えずお誘いを貼り出さないと」 ぺらりと紙を取りだして筆を走らせる利諒を横目で見てから、庄堂は手紙へと目を向けてどんな混雑になるもんだろうかと暫し考えている様子なのでした。 |
■参加者一覧 / 野乃宮・涼霞(ia0176) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 和奏(ia8807) / 紅 舞華(ia9612) / 不破 颯(ib0495) / 无(ib1198) / 遠野 凪沙(ib5179) / 緋乃宮 白月(ib9855) |
■リプレイ本文 ●祭りの始まりに 「山からも海からも花火が上がるのか、中々豪勢なお祭りだな」 紅 舞華(ia9612)が言えば、笑って頷くのは受付の青年利諒で。 「そうなんですよ、今迄よりも随分と今年の花火は多いらしくて、さっき見に行ったら、職人さん達がとっても張り切っていましたよ」 にこにことしながら答える利諒、楽しげに屋台の建つ辺りを並んで歩きながら歩く二人、どうやらその出店で、色々と食べ物などを調達中の様子。 「色々あったがそれだけ地域が平和になった証拠か。ならのんびりするのは悪くない」 そこまで言ってから、ちょっと悪戯っぽい表情を浮かべる舞華。 「利諒と一緒に過ごせるしな」 「僕も、舞華さんとこうして居られて、やっぱり幸せです」 悪戯っぽい表情のまま、ひょいと利諒の腕に自身の腕を絡めると、ちょっと赤くはなるものの嬉しそうに利諒も舞華に笑いかけ、共に屋台などを覗きながら歩くのでした。 「マスター、あっちに美味しそうなものが売ってますよ!」 朋友である羽妖精の姫翠が声をあげれば、人混みにあわあわとしながら、緋乃宮 白月(ib9855)は声の主を捜して。 お祭の熱気は、花火が始まる前で一層高まっており、のんびりと藤色の浴衣の裾を直しつつ、一瞬見失ってしまったのでしょうかと慌てた緋乃宮ですが、直ぐにぱたたと文字通り緋乃宮の元へと飛んでくる姫翠。 「マスター、見て下さい」 「わぁ、美味しそうだね」 ちゃきっと取り出されたそれは魚の串焼きで、パット表情を輝かせると、緋乃宮と姫水は河原の方へと一時避難、そこで飼ってきたものを分け合って食べる形です。 「賑やかで皆さん楽しそうで、お祭りって感じがするね」 はふはふとお魚を少し冷ましてから食べる緋乃宮がそういえば、姫翠はまた別のものの屋台がちょっと気になったようで。 「マスター、次はあそこに行きましょう!」 「うん、そうだね〜」 でも食べ終わってからね、その言葉にこっくりと頷く姫翠、二人はのんびりと花火前の屋台を楽しんで居るようなのでした。 「少々宜しいでしょうか……」 そう言って河原の職人さんへと声を掛けるのは无(ib1198)、花火を見に来ていた无は、祖父のことを思いだしていた様子で、丁度休憩に入っていた様子の壮年の職人さんが无の言葉に手を止めて顔を上げると軽く首を傾げて。 「なんでぇ、俺に用かい?」 「はい、一つお教えいただきたいことが……」 そう言って切り出す言葉を聞いていた壮年の職人は、少し考える様子を見せてから改めて口を開きます。 「そうさなぁ……今年はそれを見るなら、山側の方かも知れねぇな」 「どの辺りでしょう?」 「んー、ここいらじゃねぇか?」 そう居て无が見せて聞いていた地図の一点をちょんちょんと差し示す職人さんに礼を言って離れた无は、空に花火が広がる様子を想像してから尾無弧に顔を向けて。 「さてと見に行くかな……とはいえ耳栓は欲しいかい?」 くいと首を傾げるように見せる尾無弧に少し考える様子を見せた无は、耳栓を探しにふらりと屋台を抜けて近くのお店を目指すのでした。 「何事もなければよいのですが……」 そう呟いたのは野乃宮・涼霞(ia0176)、騒ぎがあるかも知れないと聞いていたためか、少し心配そうに町中を、綾風楼から見下ろしていて。 涼霞は白に桔梗の柄が目にも清しい浴衣に、帯は銀糸の秋草柄の黒が落ち着いた様子を醸し出しています。 「……舞さん達のお邪魔はしない方がよいですし」 先程綾風楼から連れ立って出かけて行った二人を見つけては居たのですが、声を書けなかったのは其の辺り気を使った様子で。 そうして、小さく溜息を零すのは、思い浮かべた人を誘わなかったことを思い出しているよう、自然とその相手を思い浮かべてしまっていました。 「あの館のでの事……」 小さく呟くと、何やら全て夢だと思いたい程に恥ずかしい思いをしたようで、私ったら何という事を、と一人赤くなったり顔を覆ってしまったり。 「でも、真摯に受け止め、叶えて下さる明征様がやっぱり大好き……」 呟いて真っ赤になってしまったところで、部屋の外から掛けられる声に真っ赤なまま固まってしまう涼霞。 「……ふむ、返事がないので出かけていたのかと思ったぞ」 声を掛けて少し待って反応が無いのに、部屋にいるのかどうか襖を少し開けて、そう声を掛ける明征に、真っ赤なままわたわたとしてから、お仕事は? とやっとの事でそう言って。 「先程済ませてきた。幸秀は友人と遊ぶのに夢中らしい、涼霞が居ると伝えるよりも先に、友人に引っ張られて出かけてしまった」 そう微苦笑気味に言うと、入っても良いかと尋ねて了承を得てから涼霞の側に歩み寄って腰を下ろすと微かに笑みを浮かべる明征。 「今日は用事も済ませてきたので、ゆっくり出来そうだ。そうそう、先程町中で利諒達とあったが、後で買ってきた物で宴会でもしようと言っていたぞ」 「花火を見ながらの宴会ですか、楽しみですね」 そう寄り添うように身体を寄せてから、涼霞も笑みを浮かべて頷くのでした。 ●花の下の宴 「こう暑いと、水辺も日が陰ってきてからだなぁ」 扇子を手に、大きな乗り合いの屋根船に乗ってそう言って口元に笑みを浮かべるのは不破 颯(ib0495)。 まだ日はあるも、一番暑い頃合いは過ぎ、水面を撫でる風が涼やかな風と成って吹き抜けて心地良く。 「呑むのは良いが、その速さじゃ呑まれるぜ?」 笑って言う不破、徐々に日が陰ってくれば宴の席で盛り上がってしまっている若いお兄さんにそんな風に言うと、空が徐々に暗くなっていくのを楽しげに見ています。 「花火大会があると聞いたので、何となく足を運んでみました」 掛けられた声に微笑を浮かべて言うのは遠野 凪沙(ib5179)、舟で乗り合わせた人達に食事やお酒を勧められながら、のんびりとした様子で水面に最後に残る橙の空が紫へと変わっていくのを眺めているところで。 遠野はふとのんびりと河原を歩いていたところで、これから舟に乗るという不破が通りがかり、舟もいいかなと思って誘いに乗っていたよう。 「お、そろそろ始まるな」 天儀酒の入ったお猪口を手に不破が目を細めれば、そちらへと目を向ける遠野、丁度その時、空へと登っていく光が見えて。 「わぁ……」 ふわっと光ると空一杯に広がるいくつもの花、そして、遅れてやってくる、ドーンドーンというお腹に響く音。 「たまや〜っとぉ。良い花火だねぇ」 「本当に。見事なものですね」 川から見れば、側に、そしてそれに呼応するかのように遠目に見える山側の花火とで、空一面に花が咲いたかのようで、お猪口を掲げて笑みを浮かべる不破に、その迫力に目を瞬かせて空を見上げる遠野。 「さあさあ一献。良い花火にいい酒、実に良い夜だ」 くいと飲み干してからお銚子を手ににと笑う不破に、杯を受けながら、遠野は、それでいて一面の空の花に圧倒されているようなのでした。 「ようやっと酒を飲める」 にぃと笑って言うのは東郷実将、最近慌ただしく外に出ていたようで、花火の始まる頃に一献と声を掛けておいた為、伊住穂澄を伴って入ってきました。 「騒動は起きずに済んだようですね」 「騒動?」 花火のお誘いの方しか聞いていなかった利諒がきょとんとして、穂澄が話しかけた涼霞を見れば、穂澄も何処かほっとした様子を見せて頷きます。 「ええ、先程全て片付いたと、報告を受けました」 そう微笑を浮かべるのに、良かったと笑みを浮かべる涼霞と舞華。 「まぁ、仕事の話はそれ位にして、ゆるりと空の花も楽しもうじゃねぇか」 笑って促すと、運ばれてくる食事にお酒、涼霞は明征に、舞華と利諒は互いにとお酒を注ぎながら、それぞれ空の大輪の花火を楽しんで居るようで。 それぞれの仲睦まじい様子を眺めながら、実将と穂澄は無事に花火が進行し祭りが執り行われているのを改めて喜ばしく思いながら見ているのでした。 ●空に咲く花 「凄い人だなぁ……あ、済みませんです、河原の方も、こんなに込んでますか?」 「ん? いや、川からの人は殆ど舟に乗っているらしいな。他は屋台のある通りの辺りで宴会が起きている程度で、比較的静かだった気がするな」 花火が始まる少し前、緋乃宮が声を掛けるのに、少し考えてそう答えるのは无、これから山の方へと向かう様子でした。 「河原の付近には幾つか座る場所もあったし、両側の花火がよく見えるとか」 「ありがとうございます」 緋乃宮と姫翠が揃ってお礼を言えば、構いませんよ、と山の方へと進んでいく无、それを見送ると楽しげに、幾つも買い込んであった食べ物を抱えて河原へと向かう二人。 程良く人気があり、程良く人気の無い、そんな穏やかな様子流れる河原へとやって来て席を見つけて腰を下ろせば、それを待っていたかのように打ち上がる花火。 どどーん、と幾つも打ち上がる花火の音と、ぱぁっと広がる大輪の花に暫し言葉を失う緋乃宮。 「うん……山側と海側からで、すごい迫力です」 「たーまやーっ」 楽しげな、嬉しげなそんな様子で歓声を上げる傍らの姫翠に笑みを浮かべると、緋乃宮は一緒に空を見上げて、暫し空に広がる光の花を楽しむのでした。 緋乃宮達と別れた无は、山を上がり尾無弧と共に、目的御場所へとやって来ていました。 そこは山を登っていった、その中間点の野原。 そこに茣蓙を引いてごろりと寝転べば、広がるのは日が落ちて星が見えるくらい空。 「そろそろかなぁ」 まるでその言葉を待っていたかのように始まる花火、音と光、それが直接降り注ぐかのような、視界いっぱいを覆う光の幕。 「祖父ちゃんに見せて貰ったのと同じだ……」 そう呟く无に、鼻を擦り付けてから、同じように无の祖父を思い浮かべたのでしょう、じっと空の花を見上げる尾無弧。 そこは花火師に教わった、花火をほぼ真下で見られる場所、川の方では見られないようですが、山の方ならと教わりここまでやって来ていて。 幾度も降り注ぐ光と音を全身で受けながら、无と尾無弧は野原に転がりながら、暫しの間思い出に耽るのでした。 |