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■オープニング本文 理穴、とある山の中に存在するぼろぼろで忘れ去られた廃屋に、数名の男達が集まっていました。 薄汚れた風体、あまり手入れのされて居ない質の悪い刀や斧。 下卑た笑いに饐えた匂い、そして胸焼けするような酒の匂いが混ざったその空間を、森の闇に紛れて見ている青年が一人。 「アレをやっても、また同じ感じになるだけですよねぇ」 黒い肌に暗く揺らめく赤い眼、ぼんやりと佇んでいただけに見えた様子の青年が、その廃屋の中から聞こえた言葉に何かを思いついたように口元を僅かに上げて。 そうして、向かった先は、その近くにあった静かな集落。 その集落はとっくに打ち棄てられて風化しかけた廃屋に人が住み着いているなど欠片も思わず、穏やかにひっそりと家畜を飼い田畑を耕し過ごしていました。 「おや珍しい、旅の方かね? こんな所にゃ何も無かろうに……」 ふらりとやってきた青年に気が付いて、人の良さそうな笑みを浮かべて顔を上げた男性に、黒い肌の青年は微笑を浮かべて首を振ると。 「盗賊がやってきます。もうすぐ、ここを襲いにやって来ます」 「は……? そんな、冗談言っちゃあいけねぇよ」 「盗賊から集落を守る為です。仕方がありません。殺してしまいなさい」 「な、に、兄ちゃん……盗賊……守る、為だから、仕方がない……」 何を、そう聞き返そうとした男性は、青年の目と耳に入ってくる言葉に声を途切れさせ、まるで復唱するように呟いて。 「そう、この集落を守るためです。何も、臆することはありません。さぁ、その鍬を取り、斧を取り、全て血祭りに上げるのです」 男性の横を摺り抜けて、集落をゆっくりと回る青年と、まるで疫病のように集落を駆け巡る狂気。 「さぁ、どうなることかな」 その情景を想像して小さく笑いを零すとふらりふらりと歩き出し集落を後にする青年・無有羅。 「何だろう、あの人……?」 用事で隣の村まで出掛けていた少年がすれ違うも、もう既に集落の人間に興味を無くしたかのように歩き去る無有羅。 戻った少年が、集落中が尋常な様子ではなく、また身の危険をも感じたため飛び出すと救いを求めて近くの街へと駆け出します。 「気になる点は多々ある。が、また、近い話をもう一つ聞いており、そちらの調査に私は出向くことになった」 そう言うのは理穴、儀弐王の側近であり、理穴治安に関連した情報収集や対策に関わっている保上明征。 「私はそちらに出向けないが、嫌な予感がする。急ぎ対処が必要となるため、その集落へと人を派遣して貰いたい。正気を失っているようだ、とその少年は言っており、目撃された青年というのが……」 「無有羅、の、特徴と合っているということですね」 依頼書へと詳細を書き付けていく利諒の言葉に頷く明征。 急ぎ貼り出します、そう言うと利諒は立ち上がって開拓者ギルドへと引き返すのでした。 |
■参加者一覧
梓(ia0412)
29歳・男・巫
九竜・鋼介(ia2192)
25歳・男・サ
嵐山 虎彦(ib0213)
34歳・男・サ
椿鬼 蜜鈴(ib6311)
21歳・女・魔
エリアス・スヴァルド(ib9891)
48歳・男・騎
三葉(ib9937)
14歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●一路村へ 「悪意を垂れ流し斯様な狂気を撒き散らすとは……生かしておけぬ……と言いたい処じゃが、村人達を何とかせねばなるまいてのう」 馬を駆りながら進む一行、椿鬼 蜜鈴(ib6311)が眉を寄せれば、巨躯の霊騎スヴェアの馬上より前方を厳しい目で見据えるのはエリアス・スヴァルド(ib9891)。 「こんなことして、何が楽しいんだか。……絶対に、思い通りにさせちゃいけないね」 きりっと表情を引き締める三葉(ib9937)はいざという時のために身に付けていた小太刀にちらりと一瞬目を向けて、使うことになら無ければ良いけれどと口の中で呟きます。 「しかし、一触即発の状況だった場合は面倒なことになりそうだ……襲撃前に付ければ一番だが、時間経過で考えれば難しいな」 「全くだ。しっかし、冥越八禍衆、無有羅か。厄介だな」 九竜・鋼介(ia2192)が手綱を引き足を止めさせれば、馬の首筋を宥めるように同じく止まった嵐山 虎彦(ib0213)が撫でてやり、見るは遠目にも姿を確認出来るようになった村の姿です。 「これ以上馬で近付けば刺激することになるやも知れぬのう」 「スヴェア、任せたぞ」 スヴァルドがそう言って愛馬に他の馬を任せて首筋をぽんぽんと軽く叩いてやれば、ぶるるる……と鼻を鳴らし、それを確認して馬を繋いでから村へと足を向ける一行。 「しっかし、数が多すぎらぁな。話し合いがきかねぇ男達を保護? 捕縛? まぁ、ともかくふん縛って順番待ちして貰うしかねぇよな」 木刀で肩を軽く叩きながら少々ぼやき気味に言う梓(ia0412)は、結構な数の被害が予想されているからのようで、木刀でならぶん殴っても死なねぇよな、と言うと、加減はしろよ、と言う嵐山。 「ま、兎も角血が流れてからじゃ遅ぇからな」 「襲撃が既にあったと仮定して、盗賊と上手く引き離せれば良いんだがな」 嵐山が言えば九竜も頷いて緩く息を付き、九竜は先にギルドの方で村の少年より聞き取った図面での位置関係を確認して。 「ま、暫しの賊の隔離なぞ容易いこと、安心して任せい」 「心強いな。……あれ、は……何やら集まっている一団の姿があるな」 目を懲らしていた九竜が村の様子を確認すれば、蜜鈴が儀式用の短剣を確認するように触れて言い、九竜も頷きます。 「前もって言ったとおり、俺は、村人達をまず説得したいと思っている。やはり、いきなり問答無用で捕縛するのは避けたい」 「そうだね、やっぱりまずは沈静化を試みないとねぇ……」 三葉が目を懲らしてみれば、殺気だった男達が十人程集まって居る場所があり、それを確認して九竜の持つ図面を確認して首を傾げて。 「……あれ、村の家と言うよりは、家畜小屋、だよね」 そんなところで何が起きているって言うんだろう? そう首を傾げる三葉ですが、のっぴきならない様子になりつつあるのは理解したのか、一同はもう一度だけ、行動を確認して。 「興奮状態だ、恐らく血を見たら歯止めが利かなくなる可能性が高い」 血を見せることは何としてでも避けねば、スヴァルドの言葉に頷く一行は混沌と成りつつある村へと足を踏み出すのでした。 ●極限の村 「きさまらも盗賊か?」 口調は穏やかながら、様子が明らかに尋常ではない様子の壮年の村人の前に、スヴァルドは刺激しないようにゆっくりと歩み寄りながら口を開きます。 「俺たちは、付近の盗賊捕縛の為に派遣された開拓者だ」 「盗賊、捕縛……盗賊は、殺せば、良い、村を、守るだめだからな」 顔を歪めてしっかりと鍬を握りしめる男、全てが同じように無有羅に直接影響を受けているわけではありませんが、直接影響を受けた者と、その余波とで疑心暗鬼に陥っているようで。 「お前たちも、盗賊、だ」 「違う、開拓者だ」 両手を上げて武器を握っていないことを見せながらゆっくり歩み寄れば、その集団の中でも狂気を目に滲ませる者だけではなく、狂気に陥った者に怯えて合わせている様子の者の姿もあり。 「嘘を、言うなっ!!」 狂ったように踏み込み鍬を振り回してつっこんでくる壮年の男、とっさに剣を引き抜き受け流しながら見れば、外の雰囲気を察したか家畜小屋の戸ががたがた揺れ始めます。 「お前たちもってぇことは、盗賊はそこか!」 「随分と騒がしいが、これ、おんし等ちとおとなしゅうせい」 家畜小屋の壁の向こう側の怒号に嵐山が言えばそれに気がついた蜜鈴は片手で儀礼用の短剣に触れて扇をぱちりと鳴らせば、出現するのは鉄の壁。 「椿鬼が居てくれて助かった。此処は任せたぜ」 「何、それより、村人の対処はやはり梓に頼りきりとなるて……すまぬの?」 「任せとけっ。それじゃ兄貴ィ! 頼んだぜェ!!」 スヴァルドの援護のために向かう嵐山の言葉に蜜鈴は頷くと、荒縄を持って同じく村人へと対処に向かう梓と言葉を交わして。 「くっ……! 農具とはいえ凶器になる物を振り回してくるか……狂気だけに」 さりげなく駄洒落を口走るだけの余裕はある九竜ですが、幼子を背負った女性に振り回される鎌などは流石に受け流しつつ、怪我をさせてはいけないために鎌を取り上げる隙を狙っていて。 「すまないが、大人しくしていてくれ」 盾の表面を鎌が撫ぜれば十手で鎌の柄を叩き落として押さえつける九竜、暴れて舌を噛んだりしては不味いからとぐいと手拭いで猿轡を噛ませ。 「うわああぁっ!!」 「おっと……」 後ろから混乱している様子の少年が木の棒で打ち掛かってくるのは十手で受け止め取り上げると、九竜はその少年を押さえ込みます。 「ぁ……ぁ……」 「怯える必要はないよ、大丈夫だから」 その少年の後ろにいた女の子が震えながら鋤を握りしめているのに、三葉がそう言って屈み手を差し出すと、女の子は鋤を放り出して顔を涙などでぐしゃぐしゃにしてしがみついて。 「大丈夫だからね」 ぽんぽんと宥めるように三葉が女の子を撫でてやればしゃくり上げながらも小さく頷いて。 盗賊達や喧騒から離れたところへ女性や子供を誘導したり宥めたりと、大人の男達から守る意味合いを込めて誘導して行く九竜と三葉。 「ちぃとばっかり手荒だが、勘弁してくれよ」 女性や子供を引き離していくのを確認しながら言う嵐山は、大暴れに暴れて突進してくる男たちを避けると、加減をしながらではあるものの腹部へ一撃入れて崩れ落ちる男を見て。 「暫く大人しくして貰うぜ、少しの辛抱だからな」 言って捕まえた男をぐいと縛り上げると、梓に任せるぞと言えば、更に残った者たちを剣気で怖じ気つかせて手を止めさせます。 「目を覚ませ」 嵐山とも程良く距離があるその位置、打ち掛かる男たちを交わしていたスヴァルドはがっと水溜の水瓶から、水汲みの桶ですくい上げた水をばっと撒いてそう言えば、幾人かがはっとしたような表情を浮かべるのは、軽度の者のよう。 「う、うわぁ、俺たち何でこんな……」 「おい、正気に戻ったんならこっちに避けてくれよ」 荒縄で嵐山とスヴァルドが倒した人間をとりあえず括っていた梓がそう言って。 「兄貴ィ! 幾人か、正気に戻しやしたぜ!」 縛り上げた人間全部を運ぶのも大変なためか、正気に戻せるかどうかを確認する意味も含めて解術の法を梓が試みれば、今回はそれで正気に戻すのは十分のようで、正気に戻った村人に簡易的に状況を説明して、一時的に村長宅へと移る手伝いをしてもらい。 「後数名か……」 身体で受けたりしつつも押さえ込む嵐山をちらりと見ると、表情を引き締め斧を持つ村人のそれを剣で弾き鳩尾に一撃を入れて昏倒させるスヴァルド。 「これで、最後か」 深く息を吐くと、周囲を村から錯乱状態で逃げた者はいないかと目を走らせてから括った男をかつぎ上げて、スヴァルドは村長宅へと足を向けるのでした。 ●盗賊達 「言葉も耳に入らぬか? おんし等の為に来てやったと云うに……」 村人たちの対処をして要る最中、鉄の壁で家畜小屋ごと纏めて閉じ込めていた蜜鈴、ぎゃんぎゃんと騒ぐ様子を見れば、呆れたようにふぅと息を吐いて。 「これ盗賊共。悪事は露呈し、裁かれるものじゃ。じゃが、裁くべきは我等では無い。故に、ちとお眠り」 「じゃかぁしいわっ! とっととあけやがれっ!!」 「鉄の壁をよじ登ろうとする心意気だけは、あるのじゃがの」 全くと溜息混じりに口元に扇を当てれば、 「なっ、なんだ、この蔦は……」 「身体が、あ、なんだか、寒く……」 アイヴィーバインドで縛り付ければ、フローズで冷やして文字通り頭を冷やさせる蜜鈴、そこへ村人達の対処を終えた一行がやってくるのを見て、煙管をくるりと回してふと艶然と笑って。 「存外しぶといが、ここから抜け出せる様子はないの」 「大人しくお縄を頂戴するか……痛い目見てからお縄につくか。選びな」 蜜鈴が言えば、嵐山がぎらりと睨み付けながら、壁越しから言うその様子、どうやらよほどに虫の居所の悪い様子の嵐山の大音声での声。 「うるせえっ!? なんなんだ、お前ぇらはっ!?」 「出しやがれっ!? なんでこんな、急に冷えたり草が襲ってきたりしやがんだ!?」 家畜小屋で抵抗をしている一部の盗賊は、半ば混乱と言うか錯乱と言うか、とにかく叫びに泣きが入っているものも要るようで。 「飛び出してくる可能性は?」 「あれ破り出てくる力は余裕はないようじゃの」 十手を虎徹に持ち替え九竜が聞くも、壁の向こうからがんがんと叩く音はすれどもどうにも出てこられないようで三葉がかくりと首を傾げます。 「じゃあ、とりあえず引っ括って突き出す、かな?」 「んじゃま、準備は良いか? 引き倒すぜ〜」 軽い口調とは裏腹に、がっと壁を掴むとぐっと引けば肩に盛り上がる筋肉、ぐぐっと力を込めて引き倒せば、ぎしぎしと音を立てて。 「よっとおっ!!」 更に力を込めるとびったーんと倒れる鉄の壁、壁の向こう側には、開けたは良いものの青い顔をしてやけっぱちで飛び出してくる男たち、中にいるのは部屋が冷えてすやすやと眠りに落ちている者までいて。 「さて、本当なら盗賊などどうでも良いんだが……」 村人の前で血を見せたくないしな、そう言うと飛び出してきた男を抑えにスヴァルドは飛び出して来た入口を押さえて打ち払うと、その男の意識を刈り取るのでした。 ●静けさを取り戻した村 「はい、その、黒い姿で、赤い目の青年と擦れ違いまして……」 当身などの手当てやずぶ濡れになっていた村人の着替えなどが終わり、男衆が村長宅へと集まると、最初に無有羅と遭遇した男性がその時のことを説明すれば、大凡の状況の変化を聞くことができて。 村人たちの一部は熱狂する他の男達に怯え、一部が不安感を煽られて、一部が、操られる様に盗賊たちを倒さなければいけないと言う強迫観念が突然沸いてきたそうで。 「正直、皆さんが来なければ、あのまま、小屋に火をかけようかとか、そばにいた他の者に対しても、こう、疑いの気持ちが沸いてきていて……」 困ったように言うその男性、後少しでも駆けつけるのが遅ければ、その小屋に火をつければ村はどうなるか、村はそのまま火の海になる寸前であったということで。 「間に合って良かったようだな」 近くの村で待っている、知らせた少年の変える場所が残ったことにひとまず良かった、そう言う九竜。 「大丈夫かな?」 「うん、父ちゃんたちが急に怖くなったり、母ちゃんたちが泣き叫んだりしていて、おいらたちも訳分からなくなっちゃって……」 子供たちの話でも、無有羅はぐるりと回って子供たちをみてにぃと笑っていただけとのことで。 「もう、あんな怖いこと、ないよね?」 「うん、大丈夫だよ」 くしゃくしゃと頭を撫でると、不安げに聞いた女の子に笑って三葉はそう答えるのでした。 「正気に戻れた様で何よりじゃ、盗賊共は我等が衛士へ付き出しておこうての」 「本当に、ありがとうございます。その、せめて少しこの村で休まれていってください」 蜜鈴が口元に笑みを浮かべて言えば、村長が改めてそういって頭を下げて。 知らせに走った村人が役人と少年を連れて戻ってくるまでの間、一行は暫し静かな一時を過ごすことになるのでした。 |