濡れ衣の報い
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: ショート
危険 :相棒
難易度: やや難
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/12/01 21:27



■オープニング本文

 その日の昼下がり、保上明征は理穴の首都・奏生の街を歩いていました。
 暦で言えばもう冬、態々冷え込みはじめたこの時期に、役目を終わらせ街を何の気なしに歩いていたのは以前程張り詰めたものもなく、気持ちの変化でもあったのだろうか、そんなことをつらつらと考えて居た明征。
 何とは為しに知人と言うには近く友人と言うには遠い微妙な関係を持っていた、机を並べ学問に励んでいた人物を思い出していました。
「あれは当時から許嫁もおり、さんざ惚気ていた相手と所帯でも持っていることであろうが、幾ら忙しかったとは言え、そういえばさっぱり噂も耳にせんな……」
 そこそこの名家であった筈だが、その様なことすら耳にはいらん程外ばかりに出向いていたのか、ぶつぶつと溜息混じりに呟いていた明征ですが。
「保上っ!? 保上かっ!?」
 切羽詰まった声と共に、饐えたような匂いを発したみずぼらしい襤褸を着た男が足に縋り付いてくるのにぎょっとする明征、避けることも出来たところではあるも、相手が自身の名を呼んできたというのに躱すことが躊躇われたよう。
「……何者だ?」
「俺だ、戸尾信久だっ!」
「……と、のお? お、お前、何だ、その成りは……」
 告げられた旧知の名に半信半疑に相手をじっと見るも、確かにその相手であることが分かれば、先程ふと思い浮かべたその相手が、あまりに酷い様で居ることに戸惑いを憶える明征、縋るようなその目にくらりと眩暈を覚えて。
「兎も角……話を聞くにせよ、この様な往来でどうこうする事のようでもあるまい、とりあえずうちに来い」
「済まない……本当に済まない……」
 泣きじゃくる大の男を宥め賺して屋敷に連れてくれば、兎に角湯を使わせて自身の着物を着させ、餓えていた様子の信久に食事を出して話をすることにした明征。
「てっきり、今頃は許嫁殿と所帯を持って安泰に暮らしていると思っていたのだが」
「ああ、俺もそうなると思っていた……だがなぁ、早紀殿の親御が、何故かあれこれと難癖を付けていつまでも祝言を挙げられず……それでも何とか出される難題をこなしてきたんだ。もうあれから何年か、十年以上か……」
「その、言っては何だが、流石に可笑しかないか、その相手もそうだが、私達が学問に励んでいた頃には、既に纏まっていた話だろうに」
「そうなんだが、急に色々と……思えば、そろそろ祝言をと話になった頃に弟が親類宅から帰ってきてから、可笑しくなったんだ……挙げ句、二月前に先方の家から家宝を持ち出し売り払ったと有りもしない話を言い立てられ……」
「まぁ、お前の場合、人様の物に手を付けるぐらいなら腹を切りかねん奴だからな、そこは信じよう」
 悔し泣きに咽びながらも、信じるの言葉に感謝の目を向けると、悔しそうに唇を振るわせる信久。
「うちの両親も激怒して、追い出されてしまった。話が流れ続けたのも、俺が悪いと……弟が後を継いで、早紀殿と夫婦になる話が整ったそうだ。早紀殿は嫌だと拒んでいるが、弟が痺れを切らして、早紀殿の両親とうちの親と共に、恫喝している状況らしい」
「なるほど……で、お前はどうしたい?」
「早紀殿が、下働きの女伝手で助けて欲しい、何をされるか分からないと伝えてきて、そうとう怯えている。あの家などもうどうでも良い、早紀殿を連れて逃げて、二人で真っ当に暮らしたい……」
「ふぅむ……」
 信久の言葉に考える様子を見せる明征は。
「お前が嵌められたなら、しかも心当たりが弟と先方の親となれば、このまま放って置くと儀弐王様にそのような輩が仕えると言うことになる。いっそ、きっちりと報いを受けさせた方が良いかもしれんな。家宝やら何やら、知っている限りのことを聞かせろ」
 急いだ方が良いかもしれんな、そういう明征に、信久は大きな身体を縮込ませて、泣きながら詳しいことを話し始めるのでした。


■参加者一覧
紅 舞華(ia9612
24歳・女・シ
アムルタート(ib6632
16歳・女・ジ
セシャト ウル(ib6670
24歳・女・ジ
田中俊介(ib9374
16歳・男・シ
藤本あかね(ic0070
15歳・女・陰


■リプレイ本文

●許嫁救出
「まず必要なことは信久殿の許嫁を助け出す事、そして信久殿にかけられた嫌疑を解く事か」
「差し迫って最初に手を付けなければいけないのは、早紀さんだったっけ? その人の救出よね。しつこく責められているだけでも嫌だろうけれど、怯えてるってなったらよっぽどだし」
 紅 舞華(ia9612)が確認をすれば藤本あかね(ic0070)が頷いて。
 一同は保上明征の屋敷で、戸尾信久に詳しい話を聞くために集まっていました。
「ただまぁ、保護しても相手からすれば拐かしになってしまいますからねー、保護の後に刀探しに回って貰うとしても、基本情報収集と手分けした方が良いみたいですよね」
 田中俊介(ib9374)が僕は刀について聞き込みをしに行こうと思っていますが、そういえばアムルタート(ib6632)も聞き込みに回るとのこと。
「なんにせよ、時間との勝負だね〜」
「じゃあ、あたしは救出に回るわ。早く保護できればその分手を打つのも楽になるし」
 言ってセシャト ウル(ib6670)は、直ぐに悪戯っぽい笑みを浮かべます。
「ね、でも、ただ疑いを晴らすだけじゃなくって、鼻を明かしてやりたいわよね、その高久って人の」
「勿論、やったことに対してはきっちりと責任を負って貰わないとね」
「今後のこともある、当然だな」
「んっふっふ〜、やっぱりそれなりにね〜報いを受けさせたいっていうのは依頼人の意向だしね〜♪」
「……女性陣は乗り気ですねぇ。あ、勿論僕もきっちりとやったことを理解して貰うつもりではありますけれどー」
 勿論だと頷くあかねと舞華、アムルタートがにんまりと笑えば、どこかのんびりした様子で田中もしれっとそんな風に言って。
「ちょっと悪いことしちゃおうかしら? 保上さん、見逃してね♪」
「ああ、責は私が負う。存分に叩き潰してやってくれ」
 セシャトの言葉に話し合いの様子を見ていた明征は頷いて請け負うのでした。
「ちょっとした宣伝よー」
 その次の日、そこは吉岡家、つまり信久の許嫁である早紀の屋敷前の通り、セシャトは軽やかな足取りで舞を見せていました。
 異国の人間の芸とのこと、ジプシーの歌と踊りは珍しいからとまた年の暮れも徐々に近くなってきた人達が足を止めて見ており、吉岡家の方でも窓を開けてみていたり、下働きの者たちが見ていたりしています。
 明征の屋敷での話し合いの後直ぐ、あかねは屋敷に近寄り身を隠しながら行ったのは、人魂で作り上げた鼠で、屋敷の内部を探っていました。
「本当に、結構広いわね……」
 小さく呟くあかね、事は一刻を争うためか前もって聞いていた大凡の所だけでなく、細部を素早く見て回ると、奥の方に二人の女性がいる部屋がありました。
 どうやら一人の女性、話に聞いた早紀らしき人が泣きながらもう一人の女性に慰められているようで、一緒にいる女性は早紀に同情的な下働きの女性だと思われます。
「聞いていた部屋と違う部屋だから、奥に移して見張っている、と言うことか……」
 その部屋は中庭と廊下を隔てた部屋で、外に出ようと思えば出られそうですが、裏口の所に人の姿があり、あかねの人魂には気が付いていないようですが、出られないように見張るちょっと人相の宜しくない人達が居て見張っているようでもあり。
「でも、精々破落戸って所ね。表に何かあったら出て行っちゃいそうな」
 それでなくてもその男達は退屈そうな様子でもあり、吉岡夫婦は屋敷の表に近い広いいかにもと言った悪趣味な成金部屋でどうやら早紀が今の話に応じないことにいらいらとしている様子で。
「でも、この距離なら騒ぎになっても直ぐに駆けつけられないかな」
 小さく呟いて、あかねは絵図面を確認していた舞華へと顔を上げるのでした。
 夜半、静かに吉岡の屋敷へと入り込んだ舞華、聞き取って用意した絵図面とあかねが探った間取りや内情を頭へと入れてから、向かうのは早紀のいる部屋。
 どうやら早紀の部屋には早紀だけではなく、昼間に付き添っていた下働きの女性も居るようで。
「……」
 どうやら落ち着かなかったのか、灯りを消した部屋の中でも、まだ休んでいない様子の早紀に、舞華はぽとりと天井裏から結び文を落とします。
「だ、誰……?」
 不安げに小さな物音に掠れた声を漏らす早紀ですが、下働きの女性が大炊で灯りが漏れないようにして付けた枕元の小型の行灯で少し明かりを採、文を開き驚いた様子を見せる二人。
 文には信久の手による印とこの文を持ってきた人物を信頼して欲しいといった旨が記されており、落ち着いた様子を確認して、部屋へと静かに降り立つ舞華。
「あ、あの、信久様は……」
「信久殿は旧友の屋敷に匿われている。兎に角貴女の保護が先決だろうとの事で、こうして訪ねさせていただいた。勿論、貴女がそれに同意するのなら、だが……」
「お願い致します、信久様の元へ連れて行って下さいませ」
 早紀の潜めた声ながら必死な様子に宥めるようにして頷くと、舞華は下働きの女性と助け出した後で、少しだけでも逃げたことを誤魔化せないかと相談の上で、暫く休んでいる体に見せかけて時間を稼ぐ旨を確認すると、それを請け負って貰えて。
「では、本当に必要な少しだけを用意して待っていて下さい」
 舞華の言葉に早紀は泣きながら頷いているのでした。
 昼も程良く過ぎたその日、表で賑やかにセシャトが歌と踊りをはじめれば、直ぐに何事かとばかりに様子見に行き、退屈していたからかそれを眺めて盛り上がっている破落戸達。
 その隙に裏口を開ける舞華と、小さな包みだけを抱えて急ぎ裏口を抜ける早紀、出てきたところであかねが傘と上着を羽織らせそのまま足早にその場を後にする一同。
 いざという時のための保護の約束と、無理をしないようと言う事を確認して、下働きの女性に後の事を任せて屋敷へと戻るのでした

●情報収集
「よっし! 駆けまわるよ♪ 私は情報の風になる〜♪」
 そう言って張り切って情報収集に出掛けたアムルタートは、吉岡の名を出して色々と探し出して故買商の元へと行き、そこから紹介された刀を取り扱う人物の所へとやって来ていました。
「あのさ〜、こんな刀知らない? 吉岡さん家の家宝らしいんだけど、誰かに売られちゃったらしくてさ。探してるんだよね〜」
 物怖じなく聞くアムルタートにふむと目をやって見るのは商人でありながら普通とは少々違う生活の人物のようで。
「紹介されてきたから話すんだが、その特徴の刀は買い取らなかった……最近は、ね」
 意味ありげに言う中年の男性、最近は、と言ったことに情報料として少し卓の上に置けば、薄く笑って小さく首を振ると、男性は口を開きます。
「いやいや、昔話をしているだけだがね?」
 そう断りを入れて話し始めた男性の言葉では、昔その特徴が一致する刀を見たことがあるそう。
「随分と前のことだから、恐らくその刀だと思うんだがね?」
「随分前?」
「ああ、お嬢さんが産まれるより前かもしれんな。そんな昔に、一度買い取って、他所に譲っていたはずだが、その時に譲った相手は、お嬢さんの言う御仁ではないねぇ」
 昔売った後でその買った主が有りもしない借金で奪い取られ、あれだけの業物なのでとどこから流れて来ていないか、そう持ち主の御老人に相談を受けたことがあるそうです。
「どうにも、刀の持ち主はその時程度の良さそうな空き家を見つけたので、そこを借りて引っ越したようで、前の住人が何処まで本当か知らないが酷い高利貸しに引っかかって逃げたようだね」
「つまり、前の人に取り立てに来た奴に巻き上げられたってことね〜」
「ああ、さっきお嬢ちゃんが聞いた刀の特徴、売りに来ていないかと聞いた奴に似ている気がしてねぇ……お嬢ちゃん、何か耳にしたら教えて貰えると、私は嬉しいね」
 被害にあった御老人は至極真っ当な人で、刀自体も手に入った経緯は問題ない品だったとのこと、故買商とは知人同士ですが、男性自身は確りした品を主に扱っているため必要があれば出向くし御老人にも繋ぎをとって良いと請け負います。
「そうです、吉岡の家に借りたお金がどうとか……刀を奪って行かれましたのに、その証しと成る証文とやらも、ちらりと見せるだけで渡しては貰えませなんで」
 アムルタートが御老人の元へと訪ねていけば、刀の様子などを確認し、また刀を奪っていった若い男性の特徴が、アムルタートの話す高久と一致しているのが確認出来ました。
「美しい刀でして、手に入れてから大切にしておりましたのに、奪われたときは本当に気落ちして……証文もなく門前払いを食って終わってしまいましてのぅ」
「聞いた話だと、吉岡さんの家宝らしいよ? で、誰かに売られちゃったらしくて探しているって」
 アムルタートは一応其の辺りも確認も込めて聞いてみますが、それ以上吉岡家に関して知っているわけではなく、少し考えるも、御老人へと事情を伝えて。
「その様なことが……しかし……」
「貴方と同じく吉岡家に苦労してる人がいるんだよ。お願い! 刀のことについて、証言が欲しいの!」
 そう言って頼むアムルタートに、難しい顔をして居た御老人ですが、直ぐに柔和な笑みを浮かべて頷くと。
「儂の刀は兎も角、こうして娘さんに頼まれて、又、儂の証言で救われる人が居るというのなら、喜んで証言でもなんでもしましょうかの」
 そう言って笑って請け負うのでした。
「さーて、がんばりましょうか」
 そう呟いて戸尾の屋敷と吉岡の屋敷、それぞれ其の辺りで聞き込みをはじめていたのは田中。
 田中はまず信久と高久の兄弟について聞き込みをはじめたようで。
「信久さん? あぁ、あそこの坊ちゃんねぇ、良い人よ、最近見ていないけれど」
「人によって態度が変わるとかもなく、あたし達にも普通ににこやかに挨拶してくれていたよ」
「ふむふむ」
 混ざっていたのはご近所の井戸端会議、信久については誰に聞いても優しい穏やかな好青年、と言ったところで。
「近頃弟さんが戻って来ていたようですけど」
「あぁ、あの嫌な感じの威張り腐った奴? 顔は似ているけれど、坊ちゃんと偉い違いさね」
「つんけんしていて、嫌な感じよね」
 概ね弟の高久への評価は、あまり関わっていない近隣の住民達でもこんなもので。
「ところで、信久さん、許嫁がいたいと思ったんですが」
「そうそう、早紀ちゃんね、昔は良く一緒にいたのを見かけて、微笑ましかったけど、最近見てないわよねぇ」
「あの子も、あんな酷い親御さんから、あんな優しい良い子が育つなんて、ねぇ?」
「親御さん、酷いんですか?」
「もうね、越してくる前に何をしていたか知らないけど、十数年前にあそこのお屋敷に越してきて、金貸しの真似事みたいなことをしているとか……」
 どういう素性で越してくる前にどんなことをしていたのかは知らないとか、概ね信久と早紀は良い子、弟の高久は威張っていて好かれていないよう、吉岡家の早紀の両親はあまり良い風に思われていない成金、と言うことらしく。
「戸尾の旦那さんは、そりゃもう厳格で厳しくて、でも、公平で悪い人じゃないわね」
「奥さんも、お優しい人だけれど、坊ちゃん育てるのには厳しかったねぇ」
「なるほどなるほど……」
 ふむふむとばかりに聞いている田中に気を良くしたのか、あれだこれだと話してくれるおかみさん連中、田中はある程度一通りの話を聞いてから礼を言って、他にも周辺住人へ聞き込みを続け、どれも同じような話を耳にします。
「なるほど……」
 聞き込んだ話にずれがないことを確認して、一人頷くと田中は一度仲間と合流をするために戻るのでした。

●直接対決
 その日、下働きの女性が保上家へと抜け出して逃げてきたことにより、明征が一行と共に戸尾家へと訪ねることに成りましたが、問題が一つ。
「問題は刀の在処だけれど……出回ってなかったのよね?」
「うん、あちこち探してみたんだけれど〜」
 あかねの言葉に頷くアムルタート、吉岡家の刀が奪われたとなっても、そこから消えたままと成れば同じ事。
「刀を押さえられなかったのは痛いな」
 舞華も考える様子を見せ、明征の屋敷で匿われていた信久と先も暗い表情を見せていたのですが。
「でも、もしかしたら売っただのは嘘かもしれないわね」
 何の気なしに言ったセシャトの一言に、皆何処か頭の中にちらついていた可能性がはっきりとしたようで顔を見合わせて。
「早紀さん、ご両親が大事な物を仕舞い込みそうな所に心当たりはないだろうか?」
 舞華の言葉にそういえば、と早紀が舞華へと心当たりを告げれば、そろそろ約束の刻限、早紀が消えたことにより、戸尾の家に早紀の両親である吉岡夫婦もやってくるであろうとなれば、アムルタートは話を聞いた人達の所へと声を掛けに立ち上がり。
「じゃ、向こうでね〜」
 にと笑ってそう言うと、舞華も後は任せて欲しいと席を立つのでした。
 戸尾の屋敷では、忌々しげな顔で信久を伴った明征を追い払おうとするも、明征が理穴の要職であることを知る親が取り敢えず話を聞きましょうと奥へと通されて。
 後から直ぐにやってきた早紀の親は、早紀がそこにいることで、信久を責め、そちら責任はどう取るんだと戸尾の両親へと詰め寄ったりしていましたが。
「まず件の家宝ってやつの出所を確認して頂きたいのですが」
 田中が言えば刀の持ち主とそれを売った男性がアムルタートと共に部屋へと入ってきます。
「その若者です、彼が、儂の刀を有りもしない借金の形に持っていったのです」
「何をそのような……そもそも、その刀この爺の刀が同じとは……」
「それは、売ったご本人に確認して頂こう」
 そう言って部屋へと入ってきた舞華、ずいっと部屋の中央へと行くと、見せる包みは古びていながら高価な布に包まれ、鞘と良い拵えと良いなかなかの業物。
「そこの御仁の屋敷より出てきた刀です」
「屋敷に入って盗んだのはお前かッ!?」
「……私が、床の間の掛け軸の裏にないかと、この方に見て来て頂いたのです」
 刀を持つ舞華に食ってかかる吉岡ですが、早紀が涙を浮かべながら唇を噛んで親をじっと見据えて。
「二十年程前に、この御老人に売った刀、間違いありません。鑑定書きも、持参致しました」
 刀を扱った男性の言葉、ぎりりと凄まじい形相で信久を睨み付ける高久。
「貴様の所為で……貴様さえ……」
「いやー、自業自得でしょ」
 怒りの言葉を漏らす高久ですがけろりとした表情で田中は笑って切って捨てるのでした。

●心機一転
「当人の人徳というか、悪い噂が立って……とならなくて良かったね」
 あかねの言葉に涙ぐむ早紀、高久と結託して戸尾家を乗っ取ろうとしていた親とは絶縁になったものの戸尾の両親が二人へと謝罪し受け容れて、近々祝言を挙げられることになったそうで。
「本当に、感謝しても仕切れません。有難う御座いました」
 そう言って信久と早紀は揃って一行へと頭を下げてお礼を述べるのでした。