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■オープニング本文 その日、泰国から天儀へと来ていた泰拳士の綾麗が、武天の縁のある老婆の元へとやって来ていたのは、冷え込みが徐々に厳しくなってきた冬の日のことでした。 奇しくもその老婆が簡単な手伝いをしながらお世話になっているお屋敷には、保上幸秀少年が住倉嶺騎少年の所に来ており、その屋敷に親の代わりにご挨拶に来ていたところで、庭で綾麗と老婆を見かけると、不思議そうに首を傾げて。 「なんか、落ち葉集めてるみたいだけど、なんでか、困った様子じゃないか?」 「う、うん、綾麗さん、何だか困っているみたい……」 嶺騎の言葉に頷く幸秀、暫く見守っていたもののなんとなく歩み寄るとどうやら老婆は箱に一杯のさつまいもが入ったものをいくつか置いていて、一つお芋を焼いて食べなさいと進めてくれたようなのですが。 「ほくほくで甘いお芋は、大概の娘さんは好きなもんだし、旦那様もたっぷりと収穫して、程良く置いたお芋だ、駄目になる前に食べて締まった方が良いから、どんどんお食べな」 「……今迄、清璧では、お粥と、油たっぷりであげたものと、炒めたものと、煮たものを作ったことはあった記憶がありますが……焚き火で、これを、燃やしたら、その、炭になってしまうのでは……?」 老婆に勧められたお芋を手にとって、かなり真剣に悩んでしまっている様子の綾麗。 「わ、お芋だ、焼き芋?」 「……焚き火?」 子供達の興味はそれぞれ別に向かったようなのですが、ひょっこり顔を出した二人にも老婆はにこにこと、傷んでしまう前に食べた方が良いので、と同じ話を繰り返しますが、幸秀はちょっと考える様子を見せます。 「あの……この、紙で覆われて箱に沢山詰まっているの、全部お芋ですか? その、どう考えても普通に焚き火で焼いて食べるだけでは、消費しきれない気が……」 老婆も駄目にしてしまっては勿体ないしのぅ、そんな風に困った顔をすれば、先程から難しい顔をして手元のお芋を見ている綾麗に嶺騎は首を傾げて。 「なあ、姉ちゃんなんでそんなに悩んでんの?」 「……基本、今主にいる清璧という山では、質素なんです。きちんと食べているし身体もきちんと作れているのですが、調理法も、材料も」 「……つまり、この芋食べなさいと言われても、どーして良いかわかんないと」 「……お恥ずかしながら」 「他にも、お芋一緒に食べる人が居れば良いんじゃないですか?」 かくんと首を傾げて言う幸秀、丁度そこに仕事の打ち合わせ序でに顔を見せに立ち寄った、開拓者ギルド受付青年の利諒が顔を出せば。 「あ、ギルドのにーちゃん、丁度良いとこに来た!」 「は……? え? 僕に何か御用ですか?」 ぶんぶか手を降る嶺騎に目を瞬かせると、利諒は不思議そうな顔をしながら、庭に集まっている一同の所へと歩み寄るのでした。 |
■参加者一覧 / 羅喉丸(ia0347) / 梓(ia0412) / 礼野 真夢紀(ia1144) / からす(ia6525) / ゼタル・マグスレード(ia9253) / 紅 舞華(ia9612) / Lux(ia9998) / フラウ・ノート(ib0009) / 嵐山 虎彦(ib0213) / 玄間 北斗(ib0342) / セシャト ウル(ib6670) / 捩花(ib7851) / キャメル(ib9028) / 緋乃宮 白月(ib9855) / ルース・エリコット(ic0005) |
■リプレイ本文 ●落ち葉積もる庭 「よ、ろしく……おねが、いし……ます」 「よろしくな!」 ルース・エリコット(ic0005)がおずおず言えば、嶺騎もにと笑い幸秀もぺこりと頭を下げてご挨拶。 「え、えと、その……」 「あ、今葉っぱ集めるから待っててなー」 年齢が近いからでしょうか、笑って言うと嶺騎は幸秀とせっせと熊手を使って落ち葉を掻き集め始めて。 「おっちばー、おっちばー、おっいもなのー♪」 「うぅぅ、寒いのですわ」 傍で物置小屋からしゃきんと熊手を取りだして言うのはキャメル(ib9028)、縁側の所からひょこっと庭を見てはがたがたと震えているのはキャメルの相棒で人妖のぷーちゃんこと暁月夜。 ぷーちゃんは寒さに弱いよう、ふよふよ近くへやって来た鬼火玉の陽炎燈、からす(ia6525)が連れてきた陽炎燈とぷーちゃんは何となく見つめ合う形となり。 「陽炎燈は皆が暖を取れるよう待機を」 「ピ」 「見た目だけでも暖かい。燃えないから恐れず触ってみよ」 「燃えないの?」 からすの指示を聞き小さく鳴いて答える陽炎燈、恐る恐る幸秀が触れてみるのに笑みを浮かべて頷くと。 「火が欲しいなら言ってくれ」 そう告げて厨房へと向かうからすを見送り、改めて陽炎燈を見るぷーちゃん。 「……焚き火などの暖かさではないのですが、見ているだけでちょっと暖かくなった気はいたしますね」 「……ピ」 「わ、火がいる」 「ちょっと可愛い……」 初めて見てちょっと嶺騎も興味深げに見ていますが掃除にあわあわ戻り、それを見送るぷーちゃんは、半纏を借りてもこもこしながら陽炎燈が子供達の後ろを静かに追いかけるのを見ています。 「ザクザク箒で履いてこの葉を集めるの。それで焚き火をしてこのお芋を……それにしても立派だね」 「美味しそうですねぇ」 「マスター、このお芋、凄く大きいです!」 キャメルが縁台に置かれた箱を見て言えば、緋乃宮 白月(ib9855)が箒を手にして相棒である羽妖精の姫翠と箱を覗き込んでのほほんと話しているところで。 「これを食べるのが楽しみです!」 姫翠の言葉に緋乃宮は笑顔で頷くと、その前に葉っぱを集めないとねと笑って箒で集めた葉を用意した大きな袋へと入れて行きます。 「落ち葉焚きは中庭でやるんだって」 「風の影響も受けにくいらしいですねぇ」 沢山のお芋を見て余計に張り切ったのか、楽しそうにちゃかちゃか落ち葉を集めるキャメルが言えば、緋乃宮は頷くと頭の上でわくわくしている姫翠と楽しみだと言葉を交わしています。 「まだ枯れていない葉はこちらに」 箒と熊手、それぞれを手にせっせと葉っぱを集めると、まだ枯れていない落ち葉を別の袋に避けてから集めた葉を袋へと入れる羅喉丸(ia0347)。 「これはそちらですね」 「ああ、これは乾かすか腐葉土にするかはここの人達に任せるとして、避けておかないと湿気って上手く行かないからな」 綾麗が葉っぱを選り分けながら聞けば羅喉丸は頷いて、避けた葉っぱを袋へと入れると熊手で集めた落ち葉が結構な量の山へとなり大きな袋へと入れていけば。 「このまま燃やしちゃえれば楽なのになぁ」 「流石にこの量をそのまま燃やせば大惨事になるからな」 「風はあまりないですけれど乾燥していますからね」 ぼやく嶺騎に羅喉丸は笑って言うと、幸秀は大惨事と言う言葉に頷きます。 「しかし今日は良い天気で良かったな」 「二、三日晴れが続いていて良いですよね。前もって真夢紀さんと玄間さんが干し芋を仕込んでらした、食べ頃になって居るかも知れませんねぇ」 紅 舞華(ia9612)が笑いながら落ち葉の詰まった袋を抱えて言えば、舞華と共にやって来ていた利諒も頷き、舞華の相棒である忍犬の潮は縁台の所へてててと寄ると、干されているお芋を眺めます。 「しかし焼き芋か、この季節に、ほくほく熱々の焼き芋の誘惑はたまらないものがあるな」 「そのまま焼いて良し揚げて良し蒸かして潰して……良いですよねぇ」 「飴をたっぷりかけるのも美味しいですよねぇ」 「マスター! 凄く美味しそうなのです!」 「わんっ!」 しゃかしゃか箒で掃きながら舞華と利諒が楽しみだと言えば、想像したのか緋乃宮が頷き姫翠と潮も同意を示すのでした。 「さて……どんどん片付けていきましょう」 拾い上げた落ち葉を眺めてにこりと笑うと、実に上機嫌で裏庭の落ち葉を片付けているのはフラウ・ノート(ib0009)、その様子を笑みを浮かべて見守っているのはLux(ia9998)です。 「〜〜♪」 思わず鼻歌を歌いつつ纏めればLuxが袋の口を広げ入れるのを手伝い、フラウはにっこり笑って見上げると、袋詰めした落ち葉を運んでいた幸秀が二人を見かけて。 「楽しそうですね」 「そうね〜♪ 誰かさんが隣に居るからじゃない? ね?」 「ええ、のんびり楽しい時間を過ごさせて頂いていますよ」 笑ってそう振るフラウにLuxもしれっとそう言って笑い、なんとなく大人な感じの世界に赤くなってあわあわしつつ移動する幸秀。 「ルク、そろそろここは大丈夫だし、運びましょ?」 「お任せを」 立ち上がって言うフラウに冗談めかせた様子で袋の口を縛って抱え上げるLux、二人は楽しげに言葉を交わしながら中庭へと足を向けます。 「後は少しちり紙でも貰っておいた方が良いかもな」 「ちり紙?」 「ああ、火力調整に使おうと思って。燃えやすいからな」 嶺騎が聞けばそう答え、そろそろ中庭の方に移動しようと落ち葉の沢山入った大きな袋を二つ抱え上げる羅喉丸。 「庭も綺麗になりましたしねぇ」 緋乃宮が言えば、そろそろ大丈夫ですねと綾麗も頷き、一同は中庭へと移動することにするのでした。 ●厨房は戦場 「しらさぎ、お芋のお菓子を作りますよ」 「マユキ、コレどうする?」 礼野 真夢紀(ia1144)が言えば、薩摩芋を手にかくりと首を傾げるのは真夢紀の相棒であるからくりのしらさぎです。 「林檎もあるしバターも大丈夫ね……私は林檎を切るので、しらさぎはこのお芋を同じぐらいの大きさに切ってね?」 こくりと頷くとまずは真夢紀が縦に八つ切にしさらに半分に切れば、それを見てからちょんちょんと切り始めるしらさぎ、そこへ入ってくるのは玄間 北斗(ib0342)。 「作っておいた簡易の石窯はばっちりなのだ〜」 「狸さん! こちらは調理を始めたところです」 「こちらも石焼き芋の準備を始めるのだ〜」 「オイモ、あらった」 「ありがとうなのだ〜」 前もって真夢紀としらさぎが玄間に必要な分のお芋を確りと洗って大きな笊の上にもってあり、礼を言うと玄間は和紙を濡らしてくるみ始めます。 「スイートポテトを作るのは分かるのですが、どちらを作るのですか?」 「パイを焼こうと思うのだ〜」 「パイよりタルト生地の方が簡単ですよ? 共にバター必須ですが……」 真夢紀の言葉に少し考え込む様子を見せる玄間ですが、直ぐににっこり笑って。 「ん〜、折角なのでパイを焼いてみるのだ〜」 多めに生地を作っておくのだと言う玄間に笑って頷く真夢紀、玄間も笑みを浮かべると小麦粉とパターを用意して早速生地作り。 手で粉とバターを混ぜ込んで冷水と卵を入れてさらに匙でざっくりと混ぜ、纏まる程度で止めると少し生地を寝かせる事に。 「じゃあ、お芋を焼いてくるのだ〜」 「はい」 お芋の入った笊を抱えて出て行く玄間を見送ると、真夢紀はお鍋に切った林檎とお芋を入れてお水に少し多めに入れて浸して、柚子をちょんと切って果汁を入れます。 「あとは樹糖と……」 「コレ?」 「そうそう、干し葡萄、しらさぎ、それを入れて掻き混ぜてね」 「わかった」 ことことと煮込み始めて火の具合を見ながら、お芋が柔らかくなるまで煮込む間、薩摩芋を半分に切って中身を舟のようにくり抜く真夢紀、それをしらさぎも真似をしてくり抜いていきます。 中身を砕くと磨り潰した甘刀を混ぜ、舟形になったお芋の皮の上に盛付けて。 「あとはつや出しと……」 そう言って卵黄を刷毛で表面に塗って、先程玄間が準備していた石窯へと鉄板に並べて入れます。 「焼き色がつくまで焼けば良しと」 笑みを浮かべ真夢紀は焼き色を確認したりお芋に箸が通るかなど、様子を見ながらしらさぎと共にお菓子作りを勧めていくのでした。 「サツマイモ!」 満面の笑みを浮かべて箱一杯の薩摩芋を見て目を輝かせるのは捩花(ib7851)、からくりの明琳を伴ってやって来た捩花は厨房の外の廊下でお芋の選別をしていて通りかかる屋敷の主、伊住宗右衛門翁に気が付くと、にっこり笑顔を浮かべて。 「相棒の明琳と食べにきました! 宜しくどーぞ!」 「おお、元気なお嬢さんじゃの、ゆっくり堪能していって下され」 「うん!」 捩花と宗右衛門翁の様子を無言無表情でじっと見ている明琳、にこにこ上機嫌で襷がけをして気合いも十分に、捩花は早速厨房の片隅へと、笊にたっぷりお芋を載っけて向かいます。 「さ、明琳、まずはサツマイモの切断! 早速取りかかるよ!」 「…………」 こくりと明琳は頷いてちょっと危なっかしい手つきで包丁を握りすとんすとんと切り始めます。 ちらりとそれを横目で見る捩花は、どうやら今回を気に明琳と仲良くなりたいと思っていたようで、素直にお芋を切る明琳を見れば、よしと襷がけをしているのに更に腕捲りをする勢い。 捩花は早速大きなお鍋に用意されていたお米から計ってたっぷり入れると気合い十分にお米をとぎ始めて。 「明琳、この世でいちばん甘くてうまい混ぜご飯を教えてやろーじゃないの!」 「………」 捩花の口元には少々不適な笑み、気合いは十分で息巻く主である捩花と正反対に、明琳はお芋を次々と切り分けて行きます。 その形は不揃い。 ですが、からくりの明琳は捩花につられて何処か満足げに、僅かに微笑みながらお芋を切り分けて行くのでした。 「薩摩芋の調理……僕にできる方法で実践してみよう」 ぐっと気合いが入ったというか決意を込めたというか、ゼタル・マグスレード(ia9253)は力の入った様子でそう言って。 「あ、ゼタルさんもいらしてたんですね。……えぇと気合い、入っていますね」 「何事も探求心と経験だ。と、やあ、綾麗君」 そこにやって来たのはお芋を洗いに来た綾麗で、声を掛ければゼタルもそれに気が付いて。 「ゼタルさんはお芋料理を作られるんですね」 「ああ、僕の知識を実践をしてみようと思ってね。なに、失敗しても食べ物は粗末にはせぬ」 「……えっと」 「責任持って僕が処分する」 きりり、と言いながら割烹着を身につけ、布巾で髪の毛を覆うようにして気合い十分のゼタルに軽く首を傾げる綾麗。 「お手伝いしましょうか?」 「ん? それは大丈夫だが、後でちょっと味を見て欲しい」 「分かりました、では掃除を終わらせたらまた寄りますね」 「ああ、それまでに形に……」 ぐっと改めて包丁を握りしめ、薩摩芋へと向き直るゼタルは真剣な表情でお芋の皮剥きに挑戦、慣れていないのか危なっかしい手つき。 それでも何とか皮を剥き刻んでいき、柔らかく煮て磨り潰しお砂糖を加えて。 「……砂糖はこれ位で良いかな。これを布で絞れば……あと胡麻のものも作るんだった」 きゅきゅと布で包んで絞ると、丸くて甘い可愛らしいお菓子の出来上がり。 「後は天麩羅だなと」 薩摩芋を輪切りにしていくゼタル、大きめのお椀に冷水小麦粉卵を冷やしながらざっくりと箸で混ぜて衣を作り油も用意し抹茶塩を用意していれば、そこに戻ってくる綾麗。 「綾麗君、今良ければ味見などお願いしてもいいかな?」 「あ、はい」 「君の口に合うなら、僕の目標に達する事はできたという事だからね」 頂きます、手を合わせて一つを竹串でちょんと切って一口食べて、ほうと息をつく綾麗。 「どう、だろう?」 「とっても美味しいです。可愛いですし……ぁ 笑みを浮かべて言う綾麗がふと気が付いて目を向ければ、ゼタルはすすと手を隠すようにします。 「……ん、いや、これは大丈夫だ、問題ない」 「い、いえいえ、て、手当てしないと……」 見れば油が跳ねたり、慣れない包丁で指先をちょこちょこ切ってしまったようで、綾麗はあわあわと一旦油の火は止めて、ゼタルの手をとって洗うと薬草の軟膏を塗って薄い布の包帯を巻きます。 「化膿したりしたら大変ですよ。これで大丈夫です」 手当を済ませて笑みを浮かべる綾麗に、ありがとうと礼を言うと、ゼタルは作ったお菓子は皆で食べて貰いたいと言い綾麗も笑って頷くのでした。 「さて……」 お芋を手際良く薄い輪切りと細長く短冊に切るものとに分けていくのはからす。 目の前の鉄鍋では甘い香り、砂糖を溶かし込んだ油で焦がさず良い塩梅にかりっと揚げるそれは所謂チップス。 「ふむ、甘めに出来ているが砂糖を振るかぱらりとだけ塩を振るか……まぁ、其の辺りは好みだな」 お芋の揚がる良い匂いにつられたか、ひょこっと顔を出すのは嶺騎、落ち葉の掃除の合間、つまみ食い目宛てに覗いたのがからすにはお見通しだったよう、たははと笑う嶺騎に味見ぐらいは良かろうとほんのりだけ塩を振ってほれと勧めて。 「あ、美味い!」 出来立てのかりかり、にんまり笑う嶺騎にこちらも食べてみるか? と出すのは先程短冊に切っていたもので芋けんぴ。 胡麻をまぶし表面がかりかりで、にまっと笑みが止まらない嶺騎はお皿へ煮たものを滑らかに磨り潰して纏めてあるのに首を傾げます。 「こっちのは?」 「今は熱を取っている段階だからまだだな。これに練り胡麻や黄粉を加えて、布でこうきゅっと」 「へぇ、爺ちゃん所で出るたっかい和菓子みたいなの、こんな風に作るんだ……」 目を瞬かせて見ている嶺騎に、掃除途中に抜けてきている事へ口元へ笑みを浮かべるとからすは。 「さ、そちらは出来上がってからの楽しみとしたら如何かな?」 「あ、やべ、掃除戻んないと」 言われて慌てて掃除へと戻って行く嶺騎を見て小さく笑うと、からすはたっぷりあるお芋を手際良くどんどんと揚げていくのでした。 ●落ち葉焚きをしながら 「良いねぇ焼き芋〜」 冷え込み始めのこの時期、嵐山 虎彦(ib0213)がにぃと笑えば、背中を丸めて縁側に置いてあるふわふわの毛布に身体を埋めてうにゃぁと非難がましい目を虎彦へ向けているのは相棒のスヴェトラーナ、猫又にはちょっと寒い様子。 「しかし、伊住宗右衛門翁の屋敷たぁ豪勢だな。来て良かったろう? スー」 「うぅ……吾輩には寒いのにゃ」 どんどんと運び込まれる袋に入れた落ち葉、スヴェトラーナの抗議など何のその、袋を運び込むのを手伝いながらいそいそと焚き火の準備を始めている嵐山。 「そろそろ焚き火を始めるか、ここには風が吹き込まなくて良いな」 羅喉丸が言いながら準備をすれば、少し離れたところで玄間が綺麗に洗った小石を並べてから、厨房で湿らせた紙で包んだお芋を並べ葉っぱを被せていきます。 「のんびりと火を眺めるのも良いですね」 「わ〜、焚火が温かくて気持ちいいですっ」 「折角ですし、置き火で焼き芋でも作りましょうか」 「マスターマスター、私の分もお願いしますっ!」 傍で火を熾して暖を取り始めるのは緋乃宮と姫翠、外で大分冷えた身体にぽかぽかと暖かさが戻って来ていて、灰が出来た焚き火を見つつのほほんとした表情を浮かべます。 その直ぐ側、やはりいそいそ葉っぱを用意したキャメルとぷーちゃんは小山となった葉っぱを見ると。 「お芋さん立派だねー、ぷーちゃん。焼きあがったら甘いかなぁ。きっと甘いよね。じゃ、点火するのー」 ぼひゅと早速点火するキャメル。 「お芋、美味しそうだねー、じゃ、投入―」 「落ち葉焚きに芋を投げ込むとは一石二鳥ですわね」 ていと焚き火にそのまま投げ込まれるお芋、それを見て手元のお芋を見ると。 「わたくしも……なんと暖かいのでしょう」 同じくお芋をそのまま投入して、火掻き棒で調整すれば黙々と上がる煙。 「ゲホゲホっ、煙がしみるの、煙たいの、だけどお芋さんのため! 焼きあがる頃には、キャメルたち煤だらけになっちゃうかも」 「煤? そんなことより兎に角暖まることが最優先ですわ」 どうやらぷーちゃんは寒さの方が余程問題の様子、煙に巻かれながらも暖かさに何処か幸せそう。 「焼けるのが楽しみだねー」 「暖かくて至福です……」 何だの言って良く似ている同志かも知れません。 「焼き芋! 美味しそうな香りね!」 ぱっと表情を輝かせてやってくるのはセシャト ウル(ib6670)。 「……で、何をどうすればいいのかしら? おいもさんを、火にくべたら……こげちゃうわよね?」 首を傾げるセシャトは傍で羅喉丸と利諒が火を熾し子供達が濡れた紙で巻いて火にお芋を入れるのを見て、首を傾げているも、視界に入ったのは屋敷から賑やかな様子を耳にして笑みを浮かべて出てきた宗右衛門翁。 「お爺さん! また会ったわね♪ ……おいもの焼き方教えて?」 「おお、先日のお嬢さん、こんな年寄りで良ければお教え致しましょうかのう」 先日紅葉狩りで一緒になったセシャトは、宗右衛門翁がどこから出てきたのかを考えて、考える様子を見せます。 「こんなお屋敷に住んでるってことは、偉い人なのかしら? ちょっと図々しかったらごめんなさいだけど……」 「いやいや……」 「おいもの誘惑には勝てないわっ!」 きりっと潔く言うセシャトに思わず笑う宗右衛門翁は、葉のたっぷり入った袋を受け取ると手早く火を熾して、慣れた手つきで加減を見て。 濡れた紙で包んだお芋を焼けて灰の上に更に落ち葉を入れて焼き込んでいくところで入れると、セシャトはそわそわ。 どうにも期待で尻尾と耳がぴこぴこするようで待ちかまえているセシャトに宗右衛門翁も思わず笑みを浮かべてみていれば、それに気付いた訳ではないものの振り返ると満面の笑みで口を開きます。 「早く出来ないかしら? あたし甘い物好きなのよ−、お爺さんは?」 「儂も好きじゃな。昔から、この時期のおやつと言えばこれじゃったのう」 しみじみ懐かしむ様子で頷くと火の具合を見ながら、宗右衛門翁は笑みを浮かべているのでした。 Luxとフラウのお芋はそろそろ食べ頃、焚き火から上手く取りだしたほくほくのお芋を、Luxはフラウへとバターを上に乗せてから渡して。 「ありがと♪ ん〜美味しい」 「とても美味しいでしょう? ただし太りますけど」 「もう、ルクったら!」 わざと膨れて見せて更に一口食べ、ふと何かを思いついたのかにんまりと笑顔を浮かべると、フラウはLuxに悪戯っぽく笑います。 「♪ 食べさせたげよっか?」 「そうですねぇ、そちらの方は後程部屋の方でゆっくり……」 「っ、ち、違うわよ?! そっちじゃなくっ! 芋よ。食べさせる、ってのは」 「分かって居ますよ?」 逆ににやりと笑うLuxに耳まで真っ赤に染めて慌てて言うも、からかい返されたと気が付くフラウは、Luxがくしゃみをするのに巻いていたマフラーを首にかけてから腕を取って寄り添って。 二人は身を寄せ合いながら暫く焚き火で暖を取りつつゆったりとした時間を過ごすのでした。 「この季節の風物詩だな」 火の加減と投入したお芋を見つつ笑って言う羅喉丸、暖かいと嶺騎が火に当たってほこほこしている傍では、ルースが人前ではあり得ない位、珍しく緩んだ笑顔で火の前で体育座りの待機中でした。 「あ、まい……ほく、ほく……心、ほっこ……り……甘、い……♪」 めちゃくちゃ甘い、焼く前の情報を考えて見れば期待がどんどん膨らんでいき、脳内で反芻しながら実に幸せそう。 「る…らら、らる〜♪ るる♪」 待機し表情が緩んだそのままで自然と零れるのは鼻歌、実に楽しそうな表情のままに、ルースふと嶺騎と目があって。 「ど、何処に行くんだ!? ってか、き、聞いてない! 大丈夫!」 器用にその笑みのまま固まるとずざざと下がりかけるのを慌てて止める嶺騎。 「これが丁度いいな、1つどうだ」 そんな騒ぎを物ともせずひょいと金串で刺してお芋の焼け具合を確認した羅喉丸が取りだしたのをルースに差し出してやれば、ちょっぴり緊張するのか受け取ってお芋をゆっくりと二つに割るルース。 「わ……ぁ……」 芋を割った時に出る白い湯気と甘い匂いに瞳が丸くなるルースは、熱々のお芋を嶺騎が食べているのを見て冷まし冷まし囓ってみると、お芋の甘さに更に目を丸くしてから嬉しそうにほっこり笑顔を浮かべて。 「お芋焼けた! まっくろ〜」 キャメルとぷーちゃん、こちらは何かと勢い良いこともあり煤だらけ、取りだしたお芋も表面が真っ黒になって居ますが、満面の笑みを浮かべて炭化した皮をぺりぺりと剥がしていけば、そこに見えるのはほこほこの黄金色。 「甘―い!」 「あぁ、身体の中から暖まりますわ……」 豪快にかぶりついて幸せな声を上げるキャメルの横では、ぷーちゃんもお芋を囓って熱々で目を瞬かせはするもののほわっと笑みを浮かべます。 「食べ過ぎない程度に、そう食べ過ぎない程度に……」 自分に言い聞かせる舞華、焚き火を見てお芋の焼け具合を確認していた利諒がきょとんとして見上げて首を傾げれば、微笑で誤魔化すとふと思い出して小さな袋を取り出します。 「そうだ、この間泰国のお祭に行ったんだが……」 言って利諒へと渡すその包みを利諒も手拭いで手を綺麗に拭って受け取ると、開けて見て出てきた美しい刺繍の小物に嬉しそうに笑って。 「有難う御座います、大切にしますね」 「気に入って貰えたなら何よりだ」 「わんっ!」 「あ、お芋もそろそろですね」 ほっとした笑みを舞華も浮かべると、尻尾をはち切れんばかりに振る潮に大切そうに小物入れを懐へとしまった利諒は焼けたお芋を引き出して舞華へと手拭いで熱くないように包んで渡します。 「中身は金色で熱々で本当に美味しそうだ。……ほら潮、熱いから気をつけろ」 「わん!」 舞華が割ってやってお皿に食べやすい大きさのお芋を並べてやれば、潮はちょいちょいふんふんと慎重に様子を見ながら器用に空気で冷ますと、ぱくりと食べては嬉しそうな様子で舞華を見上げます。 「甘くて美味しいですね」 「こっちのも美味しいぞ」 ほらと自分の芋を半分こにして利諒に渡せば、利諒も自分の方の持っていたお芋を舞華へ半分こ、ほっこりと幸せそうに笑って、舞華と利諒は嬉しげにお芋を食べている潮を撫でてやったりしながらお芋を楽しんで居るのでした。 「ほれ、スー」 「我輩には熱すぎるのにゃ! ……冷ましてから食べるにゃ」 言いながらも尻尾がぴんと立つスヴェトラーナ、厨房から玄間が作ったパイを一切れ貰ったり真夢紀のお菓子を貰ったりしつつ上機嫌、冷ます間は手拭いにお芋を包み背負うと厨房で作られたお菓子が並べられる部屋へてててと走っていくのをにぃと笑って見る嵐山。 「うむ、気に入ったようで何より。木枯らし吹く中、火に当たりながら焼き芋……」 その秋の景色を楽しんで居るのかと思いきや。 「っかー!! 酒が進むな!!」 「お、虎の兄貴ィ」 中庭へとやって来たのは梓(ia0412)、嵐山の弟分でどうやらお芋は薄切りを油に揚げたものを笊に載っけ歩み寄れば、嵐山はいつの間にやら徳利を用意して焚き火に当たりながら一杯。 「兄貴、芋を肴に美味い酒を飲もうぜ〜!」 「塩に蜂蜜か、良いねぇ」 揚げた芋の甘さに塩をひとつまみ、蜂蜜で更に甘さを加えるか、そんな事を言いながら酒を飲んでお芋を食べていく二人。 幸秀はその頃何となく陽炎燈と見つめ合っていました。 「ピ」 「それ食べていいよ」 からすが厨房からお菓子を持って出てくれば陽炎燈が頭の上で焼いていたお芋を指して言い、頂きますと手を合わせてから受け取る幸秀、ほこほこのお芋を綺麗に丁寧に二つに割って陽炎燈にも渡して半分こ。 緋乃宮のお芋も綺麗に出来たようで、綺麗に小さく割って上げると姫翠へ勧めます。 「はい、熱いから気を付けて」 「えへへ〜、ホクホクしてて、とっても美味しいですっ!」 「美味しい芋ご飯も出来たよ」 捩花が明琳と一緒に炊きあげたご飯をお握りにしてお皿に盛ってくれば、わいわいと更に賑やかになる中庭。 「良い匂いだけど……熱いのダメなのよ、猫舌だから」 「しかし少し冷ましすぎじゃないかの?」 「そう? ……ん、甘ーい!」 お芋を半分こにして食べているのは宗右衛門翁とセシャトも一緒、セシャトは至福とばかりに相好を崩しています。 「たまにはこういうのもいいな……楽しかったかな、綾麗さん」 「はい、とても」 羅喉丸が尋ねるのに笑みを浮かべると綾麗は頷いて。 「芋は栄養価が高い。腹持ちが良く美容にも良い……が、食べ過ぎは『太るぞ』」 ちょっぴりからすの言葉が聞こえたか思わず一瞬手が止まる綾麗ですが、その様子にからすは口元に笑みを浮かべて。 「女性には鬼門だろうな、うん。この分は依頼で汗を流してくるといい」 「ど、努力します……」 お芋を楽しむ落ち葉焚きの時間は、今暫くの間続くようなのでした。 |