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■オープニング本文 「えーっ、父ちゃん向こうに荷を運びにいったきり、帰ってきてないん?」 「そうなのよ。今から神楽に行けば、丁度荷が全て揃うのに間に合うけれど、私は店を空けられないし……」 そんな会話をしているのは武天芳野の住倉の荷馬屋、そこの女将さんとその息子の嶺騎少年です。 「神楽のって、あっちの中継の支店に荷が集まる予定なら、向こうでなんとかなんないの?」 「何とかって……お父さんと一緒に主だった人は出払っているし、誰か行ってちゃんと手配をしないと。信用問題なわけだし」 「でも、かーちゃん出られないいったら、誰がいるのさ」 「……貴方ぐらいね」 「俺!?」 母親の予想外の返答に囓って居た干し芋を取り落としかけて慌てて手で受け止めると、目を瞬かせる嶺騎。 「え、えぇと……ちょ、それは、俺が神楽行って、配達してくるって事?」 「そうね、それが良いじゃない、貴方も芳野ではもうちゃんと其の辺りも出来るようになって居るし、ちゃんと配達先の地図もあるから大丈夫ね」 「え、え、ちょ、ま、え……?」 「早速行って貰えるかしら? 街道をきちんと通って家がいつも使っている定宿を経由すれば、神楽までちゃんと宿間で護衛がついてくれるし困ることもないわね」 「……ゆ、幸秀に付き合って貰うか……あ、明日の朝で平気だよな、出発……」 「そうね、準備する時間ぐらいはあげるから。持ち物はお父さんが帰ってきたら直ぐに出られるようにと思って準備してあるし」 そんなこんなで結構強引に出立することになった嶺騎、親友の幸秀少年と一緒に言われた手順を守って神楽の街へと出発し、辿りついた住倉荷馬屋の中継用支店を受け持っている男性が迎え入れてくれて部屋へと入ると。 「うわぁ……」 「あ、あの……嶺騎君、言って良いかな……」 「言わなくても次の言葉が予想つくけど、取り敢えず良いよ」 二人の少年の目に入ったのは、山と積まれたお歳暮用の荷物で。 「管理のおじさんさん頼めないから、僕達二人じゃ、多分、無理だよ……」 「ですよねー……か、神楽って、ギルドあったよな、いつもの兄ちゃん、いるかな……」 山と積まれたお歳暮を前に力なく乾いた笑いを浮かべる少年二人は、直ぐに急いだ様子で開拓者ギルドへと向かうのでした。 |
■参加者一覧 / 羅喉丸(ia0347) / 梓(ia0412) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 鈴木 透子(ia5664) / からす(ia6525) / 嵐山 虎彦(ib0213) / 无(ib1198) / 津田とも(ic0154) / スチール(ic0202) |
■リプレイ本文 ●お歳暮の仕分け 「おぅ、がきんちょ2人組、お困りかぃ?」 嵐山 虎彦(ib0213)がにやりと笑って幸秀と嶺騎の頭をぐりぐり〜っと撫でて。 配達の募集を見て集まってきた一行は、荷馬の住倉屋が神楽に構える倉庫にやって来ていました。 「困ったときの開拓者頼みってな! 手伝いなら任せな♪」 「済みません、お願いします」 「流石に、ちょっと神楽のお歳暮の規模、舐めてた……」 そういう子供二人に、任せておけと嵐山が言っていれば、嵐山の弟分の梓(ia0412)が炎龍の白菊を伴ってやって来ます。 「よーし、張り切って配達するぞ! ……仕分けは面倒臭ェから、他のモンに任せて、俺は配達専属で手伝うぜ!!」 「大凡の分量とどう別れるかは決めねぇとだが、仕分けと配達は手分けしておいた方が効率ぁ良いわな」 「ま、力仕事なら任せとけってェこったな」 嵐山と梓が笑って言っている傍では仕分けと段取りの相談中。 「ある程度住む場所で分けられるな」 羅喉丸(ia0347)が倉庫を見回して言えば、配達用の地図を引っ張り出して広げるのは礼野 真夢紀(ia1144)。 羅喉丸は人妖の蓮華を、真夢紀はからくりのしらさぎと一緒です。 「そうですね、ここの倉庫を基準として……こんな風に東西南北で区切って、こんな大きな通りに沿って配って……」 地図で倉庫の場所へと丸を付けてからさっと方向を分けて、そこからそれぞれ配達の各地区住所を一覧に纏めて行く真夢紀。 「実際に配る人次第ではありますけれど、倉庫から大雑把に東西南北で区切って、大きな通りに沿って配り町外れまで行き通りをずらし別の道筋に沿って配り倉庫に戻る、とすれば一度にはける個数は増えるかと……」 「ああ、妥当だな。時間もあまりないし効率よくやらないとな」 「それにしても荷物の山じゃのう」 「壊れ物何も気を付けながら、兎に角まずはより分けだな」 羅喉丸の言葉に相棒の人妖である蓮華が言えば、新ためて一同、作業開始となります。 「元気にやっていたようだな、何よりだ」 「はい、来て頂き有難う御座います」 「この状況だけど、元気は元気だよ」 羅喉丸が笑って言うのに、ぺこりと頭を下げて幸秀が言えば、嶺騎もにっと笑って羅喉丸と蓮華に挨拶しています。 「待っている人のために早く届けなくてはな」 「はい!」 元気に返事する二人の少年に笑みを浮かべて羅喉丸は頷くと、ふと首を傾げ。 「そうそう、お歳暮は今から手配して贈ることも可能か? 泰国へ送りたいんだが……」 「泰国? えぇと、贈りたい物は決まってるんだったら……この辺りに……合った、手配の一覧、ここにある物だったら、申し込んで貰ったら送れる……ます」 お客さんとのことで慌ててちぐはぐな敬語になる嶺騎ですが、お歳暮がどんなものかという一文を入れて書いた一筆を添えて羅喉丸が覗き込むのはお酒と定番のもので。 「あ、新巻鮭はあるのか……それと幾つか酒を手配して貰えないか? どれが良いか、ちょっとこの一覧では分からないが……」 「あ、だったら予算と量を教えてもらえたら、祖父ちゃんに見繕って貰いますけど」 「ああ、それが出来るならそれで頼む」 「お主の祖父か?」 「はい、うち、祖父ちゃんちは酒屋なんで」 「感心な事じゃ、善哉、善哉」 店の手伝いとかするんで手続きだけは自信があって、そういうのにぽむぽむと蓮華が頭を撫でてやればちょっと照れたように笑う嶺騎、それを羅喉丸は横目で微笑ましげに見ると、添え文用にさらさらと紙に筆を走らせて。 「では……これに、『清璧派の皆で楽しんで下さい』と……」 「はい、承りましたっと。毎度あり」 手配しとくんでとちゃかちゃか書き込んでから、急ぎの注文連絡を文に認めて送り出す嶺騎。 「じゃあ、皆さんでどんどん仕分けていきましょうね」 髪を髪紐と手拭いで纏めて真夢紀が言えば、まるでお揃いと言わんばかりにきゅきゅっと髪を手拭いで纏めて髪紐できゅっと締めるしらさぎ。 「マユキ、どれする?」 「私達は、地域で分けて、ここにある宛名と一覧を確認して、この紙を使って……」 そう言いながら小さめの紙片にした紙に宛先と宛名を記入する真夢紀は、剥がせるくらいの粘度の糊と針金を用意して、仮留めでその紙を添えます。 「私が書いていくので、しらさぎはこれをこんな風に留めていってね」 「わかった」 さらさらと筆を走らせて宛先と宛名を添えると、荷を確認して添える、と言う作業と共に並行して地域毎に紙の貼ったものを分けていく真夢紀としらさぎ。 軽い物の上に重い物を乗せたら箱が潰れます、積み込む際に気を付けてとしらさぎへ説明する真夢紀。 「マユキ、のせない?」 「積み込みは配達する方がしないとどこに何があるかわからなくなるから」 「?」 きょとんとした様子で真夢紀を見るしらさぎですが、からす(ia6525)がもふらの浮舟に荷車を繋ぎながら配達先と荷物の睨めっこ状態なのを見てみたりしていて。 「荷物の配達か、面白い、やってやるよ。今日の俺は砲術師じゃねえ……グライダー乗りだ!」 やる気は十分、津田とも(ic0154)が配達のために用意した相棒は滑空艇の宙船号。 宙船号の飛行可能な距離などを確認しつつ出来るだけ離れた高台辺りを選んで地域を受け持つことになったようで。 「ふふふ、宙船号も見ろと言わんばかり煌めいているぞ」 「滑空艇は初めて見ました……凄い」 驚くように言う幸秀、にやりと笑ってともは誇らしげに滑空艇を見せると、早速荷の積み込みを開始します。 「しかし……実際何処まで積めるかが何ともなぁ……ま、やってみるかな」 距離から考えればこれ位か、それともここまで積めるだろうか、色々と悩ましいようで、積み込みにも四苦八苦。 「小物を一纏めにして積むは良いが、風を考えると……」 色々と考えることも多いようです。 そして、こちらも空を利用しての配達を考えている様子のスチール(ic0202)、愛龍である甲龍のスカイホースの首筋をぽんぽんと撫でてやると、何やら気持ちの整理中で。 「騎士としての初めての任務は配達か……戦いでないのは少々不本意だが、これも守るべき子羊のため。空を駆けるぞ、スカイホース!」 勇ましい任務ではありませんが、困っている様子の少年達をほおって置けなかったようで、スカイホースもそれを理解してか、ふんと荒い鼻息をすると、荷を乗せるために身を屈みました。 「おっしゃ、じゃあこっちも積み込み始めるぜ」 そしてこちらも、漸くに配る辺りの地域が決まった後で、早速荷を積み込み始める嵐山、こちらは大八車に荷を乗せて、スヴェトラーナが地図を見ながら行く形となるようで。 「さて、じゃ、白菊行くぞ!」 こちらはある程度纏めた荷を包んで、白菊に乗って配達に行く様子の梓。 各人それそれぞれのやり方と確認はあるようですが、準備もぼちぼちできたよう、それぞれ配達へと出かけて行くのでした。 ●配る人貰う人 「というわけで、仕事だ浮舟」 「運ぶのは解ったでありますが」 そう言い掛けて、何とも言えない様子を見せるのは浮舟、見ればからすはサンタ帽にサンタ服、主に請け負った地域はジルベリアの人達が多い地域のようで。 「それは何でありますか!?」 「配達の作業服だ。さあ行くぞ」 「あってるような間違ってるような!?」 行くぞと言うからすは、ちょっぴり用意したのが荷車であるのが残念なよう、もっふもふの浮舟に引かせて地図を手に浮舟へと騎乗するからす。 「まずはこの家だな」 「ここへの荷物はどれでありますか?」 「この……見た目は大きいが、かなり軽い大箱だ」 「荷台の中でも一際大きかった荷でありますね」 ここもどうやらジルベリアの人の家のようで、天儀風のお家に入口などはリーズなどで可愛らしく飾られていて、その入口の戸を見上げると首を傾げる浮舟。 「しかしどういう風に声をかけるでありますか?」 「こんにちはーお歳暮のお届けです」 「普通だ!?」 声を掛ければ、直ぐにきゃっきゃとはしゃぐ声と共に飛び出してくるのは年の頃5つ6つの男の子と女の子。 「おきゃくさんー!」 そう言って戸を開けた子供達は、からすのすがたに一瞬固まると、目を丸くしてぱくぱくと言葉を探しているようですが。 「さ……」 「さ、さん」 「サンタさんだーっ!?」 「……ジェスタさんからこちらへお届け物です」 「おじいちゃんがサンタさん送ってくれたの!?」 はしゃぐ子供達の後ろから慌てて出て来るのは若い夫婦で、お歳暮と聞いて出てきたようで、大きな荷物を受け取ると、からすの差し出す受取証に記名をして。 「来年も良い子にしてるんだよ」 「うんっ!」 きらきらした目で見上げる子供達、親御さんが微笑ましげにそれを眺めて箱を開けてみれば、保ちの良いパンの類の詰め合わせが入った箱と、そして中に入っていたのは大きな熊のぬいぐるみ。 「すごーい!」 歓声を上げる男の子、ですが女の子は寧ろ浮舟の方が気になってしまっているようで。 「ふわふわ……となかいさん?」 「浮舟はもふらであります」 「もふら……さん? ふかふか?」 「あぁ、触っても良いぞ」 「わ、わーいっ♪」 触って良いが何故飛びついて良いとなったかは不明ですが、柔らかく触り心地の良い毛並みにうっとりした様子でぎゅーっと抱きつく女の子に眼をぱちくりさせる浮舟。 「もふらさん、おぼうしかっこいいーふわふわー」 よっぽど気に入ったのかすりすりする女の子は、そろそろ、そう言われてちょっぴり泣きそうな顔をしますが、サンタからすに良い子に、と言われたこともあってか、ぐっと駄々を捏ねるのはやめたよう。 「もふらさん、サンタさん、またねー」 ぶんぶか手を振る子供達とそのご両親に見送られて、からすは次のご家庭へと向かって再び出発するのでした。 「えぇと、この辺りで良かったよな?」 周囲をきょろきょろしながら白菊の手綱をちょいちょいと引くのは梓、一度邪魔にならない位置に降りて地図を確認していました。 「こういったモンは間違う訳にゃいかねェしな……お、丁度あそこに人がいら、おーい」 ちょっと似たような所謂長屋が続く辺り、見れば丁度長屋からぶらりと出て来る壮年の男性の姿を見つけて声を掛ける梓。 「何か?」 「ちょいと聞きてぇんだが、この辺りに守善とか言う人が居るとか聞いてきたんだが、どこか分からネェかな?」 「あぁ、守善の爺さんなら、そこを入って、手前から二番目の家だ、ほれ、そこの軒先の所に編み笠が吊してある……」 「あぁ、あの笠干してるトコか。有難うな」 壮年男性へと礼を言って白菊の背に括ってある箱から荷を取り出せば、それは一抱えの箱で、そこそこの重さがあって。 声を掛ければ直ぐに出て来る老人は矍鑠とした様子で、梓は荷の宛名を確認してから口を開きます。 「あんたが守善か?」 「如何にも。そちらはどなただろうか?」 「頼まれてお歳暮を届けに来た。理穴の……」 「おお、これは……忝ない」 念を入れて名を確認して受取証を取り出せば、相手が記名するのに満足げに頷く梓。 「おう、確かに」 「いやいや、焼き物だったで、運ぶのは事であったろう」 「いや、なにたいしたこたねぇよ」 笑ってそう答えると、白菊の所へと戻って騎乗して。 「おっしゃ、次行くぜ、白菊!」 「ぐるるぅ……」 梓の言葉に応える白菊は、ぐいと首を上げると翼を広げて再び荷物運びに戻るのでした。 「おいスー、道案内頼んだぜ!」 「任せるにゃ! 我輩の頭脳にかかればちょちょいのちょいにゃ!」 嵐山がごっそりと荷を包んだ風呂敷を抱え上げれば、軽々と駆け上がって嵐山の頭に陣取るのはスヴェトラーナ、尻尾を上機嫌で揺らしつつ、手には地図が確りと握られています。 「まずは、あっちにゃ!」 「えぇと、あの、地図、逆さに持ってますよ?」 「にゃ!? …………上と下の字が、達筆すぎて見間違えたのにゃ」 出発しようとしたところ、真夢紀に言われてくるくると地図を回してから、こっちが正しいにゃ、と持ち直すスヴェトラーナに微苦笑気味の嵐山ではありますが、これ見るにゃ、と言われてみれば、確かに崩し方がちょっと絶妙な文字で。 「気を取り直していくのにゃ!」 「あいよー」 「お気を付けてー」 宛名確認をし直された物を確認していた真夢紀としらさぎに見送られて出かけて行く嵐山、担いだ荷と背負子に乗っかった荷とで、ちょっと凄い様子の上に、頭にはえっへんとばかりに地図を握ったスヴェトラーナで目立つこと。 「んで、スー、まずはどれだ?」 「一番ちっこいその林檎箱にゃ」 「おう、こいつか」 スヴェトラーナの誘導の元配達先へとやってくれば、背負子に積まれた林檎箱を降ろしてその家の戸の前へとやってきて。 「お歳暮のお届けなのにゃ!」 「あ、おい」 嵐山が声を掛けるよりも前に、尻尾をピンと立てて家の人を呼ぶスヴェトラーナ、いそいそと出てきたその家のおかみさんの目には、スヴェトラーナが配達に来て、嵐山は荷物持ちのよう。 「あらあら、まぁ」 「お届けなのにゃ、ここにサインするにゃ」 「はい、ここね。小さいのに感心ね」 「我輩にかかればたいしたことじゃないにゃ!」 褒められてすっかりご満悦、嵐山自身もしょうがねぇなぁ、と笑って玄関を入ったところの頼まれた位置へと荷を置いてから、再び背負子と荷物を担ぎ直します。 「さ、どんどん行くのにゃ! 我輩のってきたのにゃ!」 「へいへーい」 どうやらやる気になっていたので水を差すのもと思ったか、嵐山の頭によじ登り張り切って道案内を始めるスヴェトラーナと共に、嵐山もちゃかちゃかと配達に精を出すことにするのでした。 「うーん、搭載量を間違えると航続距離も時間も大分縮んじしまうな」 宙船号を撫でながらそんな風に言うとも、どうやら目的地までは無事に辿りついたようで一安心ですが、少し荷物の量的に危なっかしかったようで。 「逆に往復回数を増やすってのが利口かな。もしもーし、留守かー?」 そう呟きつつ、再び戸を叩いて呼んでみれば、慌てた様子で出て来る若い男性が。 「申し訳ない、つい大掃除中に居眠りをば……何用ですかな?」 「お歳暮の配達を請け負ってな、ここに記名と、荷はこっちだ」 「それは態々、ここまで来られるはいささか面倒だったでしょう」 荷を受け取り記名をする男性、たいしたことは無いと言うとその家を辞してから次の荷を届けるために宙船号に手をかけるとも。 「時間にすると、往復した方がやっぱり早くなるな」 荷を多く積んでとんだ先で配るために移動する余地、直接目的地へと飛んでの往復の方が手早くそして簡単なようで。 「これが配達場所から次の配達場所に順調に飛べるってんだったら話は別なんだがな」 そう行って地図を確認してから、改めて次の地点への航路を確認して、いけるか? と呟くと、共は改めて宙船号で飛び上がるのでした。 「龍で運べるにも限られているからな」 言って龍のお腹に荷を括ったり背中にはどういう風に載っけられるかなどと手を加えて調べるスチールは、くいと首を傾げてみせるスカイホース。 「荷の固定は良し、行くぞ!」 「グルル」 改めて荷を確認してから龍のあぶみに脚をかけてよじのぼりさっと跨がると、括った荷物が崩れないようにロープをしっかりと結びなおし一つ頷くスチール、飛び立つように合図すれば、腹に確りとくくった荷を大事そうに抱え飛び立つスカイホース。 スチールは幾つかある内の重めの物を選んで飛んでいて、目的の高台とその数位を見ると、丁度降り立つのに良さそうな広場が見えて、手綱を引いてハミを動かし、タクミに目的の広場へと向かいます。 「荷の大きさと重さ、それに壊れないように気を付けてと言うのがあるから、慎重にな」 「グルゥ……」 小さく喉を鳴らして確りと目的の高台へとやってくると、ふわりと降り立ち荷を慎重に地面に付けるスカイホースに、良くやったとばかりに首筋を撫でてやると、一抱えでありながら見た目より思いその箱を抱え上げて残りをスカイホースへ番させつつ向かうスチール。 その荷は高台のちょっとぼろいというか草臥れた様子の小屋がどうやら目的地のようで、少し確信無く歩み寄れば、そこには確かに宛名と同じ木の表札がぶら下がっています。 「お歳暮を届けに来た」 「あ、どーぞー」 聞こえてきた声に中へとはいれば、何やら大きな機械を弄っている最中の男性が、直ぐ済むのでちょっと待ってと良いながら工具でちょいちょいと調整をしていた様子。 「ここを留めて、お終いと……お待たせー」 出てきた男性は眼鏡をかけてへらりと笑って受取証に記名をすると、帰ろうとするスチールに、何か気が付いたのか申し訳なさそうに引き留めます。 「その、本当に申し訳ない、ちょっと、これ開けるの手伝って貰えないだろうか? 理穴の知り合いから、こいつの試作品オプションパーツが送られてきたみたいなんだが……なんか、ぎっちり箱に嵌っていて、ここ、自分しか居なくて……」 「ああ? ……仕方ない、こちらを押さえるので、そっちで引っ張り出してくれ」 「ああ、ありがとう! 本当に申し訳ない!」 箱を押さえるスチールに何度も礼を言うと、ぐと引っ張り出す男性、どうやら大分大きくレンズ等までついた、かなり特殊な機具のよう、それを取り出すと傍にあった台へと据えてから、御茶をお礼に出してスチールを見送る男性。 「壊れる可能性が高いものがあれぐらいだったはず。となれば、残りも手早く配ることにしよう」 何処か少し疲れた様子を見せながら、スカイホースの元へと戻るスチール、言いつけを守りきちんと待っていたスカイホースは、どうしたのだろうとばかりに鼻先を擦り付けてスチールを見るのでした。 配る人も居れば、貰う人も居ると言うことで。 「え、えーと……こ、この辺り……あれ?」 幸秀がその辺りへとやって来たのは日が翳り始めた頃のこと、宛先と宛名を見て首を傾げていました。 「……誰?」 相棒である忍犬の遮那王が顔を上げたことで人の気配に気が付いてひょっこりと橋の下から顔を出すのは鈴木 透子(ia5664)。 「あ」 「あ」 ほぼ同時に声を出す透子と幸秀、過去に幸秀が身寄りを捜していたときにそのお手伝いに加わっていた透子、お互いにそれを思い出していて。 「その節はお世話になりました」 「いえいえ。それを態々言いに?」 「わん!」 「可愛い豆柴君ですね。あ、いえ、お歳暮が届いていまして、お届けに来ました」 「……お、お歳暮?」 幸秀に褒められたのが分かるか、誇らしげぴんと尻尾を立ててはち切れんばかりに振っている遮那王と対照的に困惑気味の透子、それは届けた幸秀も一緒で。 「その、『多分神楽のその辺りの橋のたもと、鈴木透子様』……で、間違いないですよね?」 「え、えぇ、鈴木透子、間違いないですね」 宛名を見せて一緒に確認してから、途方に暮れた様子を見せる透子は。 「誰から?」 「……匿名希望さんからです」 「……」 書かれている差出人を見て途方に暮れながら告げる幸秀、心当たりが思い当たらずに頭を抱える透子。 「天外孤独な上に住所不定ですし、お師匠さまであるはずもないし……」 「え、えっと、お仕事仲間の開拓者さんとか……」 「いえ、開拓者の中にもお歳暮を贈るような人は思い当たりません」 「では、本当に、全く?」 「?」 幸秀が聞くのに首を捻って透子は少し考える様子を見せ、透子につられるようにくいと首を傾げてみせる遮那王。 「受けとり拒否も……」 「え、あの、それはちょっと……」 「ですよね。それはそれで送ってくれた人に失礼かも」 考え込む様子を見せる透子に、幸秀も悩む様子を見せますが。 「あ、でも、これはお店が請け負って発送された類のものですから、危険な物やおかしな物が入っていることはないんじゃないかと思います」 包装的にと説明する幸秀になるほど、と頷くと受取証に記名をして荷を受け取れば、そこそこの大きさの箱で、でも蜜柑箱等程大きなものでもなく、そして存外軽い物。 遮那王にふんふんさせてみますが、尻尾をぶんぶん振っているだけで妙な動きがあるわけでもなく、大丈夫そうですね、と頷いて。 「あ、それと……お世話になりましたし、宜しければどうぞ」 そう言って幸秀が差し出すのは小さな包みで、住倉荷馬の印が押された包装紙に包まれた小さな物です。 「はい、お世話様でした」 そう言って見送った透子は橋の下へと降りていくと、がさがさと振ってみれば、箱の中から紙か何かがこすれる音、箱の表面を撫でてみても、中身が分かる様子もなく、こんこんと叩いてみても大惨事が起きる様子もなく。 「開けて見ましょうか……危険なものではないはず、と言っていましたし……」 呟いて熨斗を剥がし箱を開ければ包みが二つ。 「茹でるおうどん……乾麺ですね。それと、これは、吉備団子」 出てきたものは乾燥うどんと吉備団子、ちょっと不思議そうに見ているも、透子は幸秀から貰った小さな包みも開けて見れば、中からは携帯汁粉が出てきます。 「……どれも食べ物ですか。美味しく頂けると良いですね」 心なしか嬉しそうな様子でいながらも、透子は結局送り主が誰なのだろうか、不思議そうに考えているのでした。 ●仕事を終えて 「おう、嶺騎と幸秀〜! お疲れさんだ! 嶺騎は初仕事を無事完遂ってところか?」 「お手伝い有難う御座いますーっと。祖父ちゃんとかうちの親とかからの心ばっかのなんで、良かったら呑んで食べて下さい」 ぺこりと頭を下げてお礼を言う嶺騎、幸秀もお手伝いがちゃんとできたとほっとしているようで、そんな二人を見て話題ながらぐしぐしと撫でる嵐山。 「無事終わって良かったですね」 「本当に感謝、神楽は慣れて無いから違うところに行きかけて、熟々お手伝いを頼まなかったらどうなったかと」 料理やお酒、御茶など用意された物を運ぶ嶺騎と幸秀に、運ぶお手伝いをしてにっこり笑って言うのは真夢紀、嶺騎は改めて感謝を告げています。 しらさぎも真夢紀の後ろについてお菓子などを運んできていて。 「仕事の後の酒は格別じゃな」 「ああ、届けた先で嬉しそうに受け取る人達を見ると、良かったなと思うな」 笑みを浮かべて羅喉丸は蓮華へとお酒を注いでやり、にと笑って杯を干す蓮華。 「よっしゃ、兄貴、甘いモンも持ってきたし、がっつり呑もうぜ!」 「おうし、飲め飲め梓! たまにゃ暢気な仕事も楽しいな!」 「暢気なもんだにゃ! ……にゃあ、我輩の分はあるかにゃ??」 梓が大徳利を振って嵐山に声を掛ければ、応じて梓にもじゃんじゃん呑めと煽る嵐山に、スヴェトラーナはふぅ、と息をつくも、尻尾はぴこぴこそんなことを聞いて見たり。 「結構往復したが、この回数だと流石にちょっとしんどかったな。まぁ、たいした問題も起きなかったし、グライダーの訓練には最適だったが」 「私の方もトラブルはなかったが、荷を出す手伝いに引き留められたな。あの高台の人物は何だったのだ……差出人は理穴からだったようだが」 「……あぁ、えぇと……差出人は、僕知っているかも……確か高台って、朱藩の学者さんが何かするために良く滞在しているとか聞いたことがあるので、その人でしたら……」 「学者だったのか、あれ」 ともが言いながら卓に並べられたクリスマスパーティーとも忘年会ともつかない不思議な様子のご馳走を適当に取り分けつつ言えば、スチールはちょっと首を傾げて。 箱を押さえる手伝いをしたことなどを思い出しつつ何とも言えない表情を浮かべると、その大きな箱は心当たりがあったのか、追加のお菓子を運んできつつも微苦笑気味で。 「何はともあれ、無事に配達が終わったことをまずは祝おうか」 軽くスチールが杯を掲げれば、ともも、チンと自身の杯を触れ合わせて、そんな様子に微苦笑気味だった幸秀も表情を笑みに変えてみていて。 「あ、そう言えば……先程戻られていたのに、からすさん来られませんね」 そう幸秀がいった瞬間、がらっと開く戸と、サンタ服姿のからすに浮舟とが着いて入ってきます。 「めりくり」 「め、めりくり……?」 からすがサンタさん状態で入ってくるのと言葉とかでちょっと吃驚したようですが、からすを乗っけてきた浮舟共々お礼の宴へと加わって。 「ジルベリア出身の家族の所幾つかに回ったが、子供達が喜んでくれたので大凡思った通りかな」 「子供達に突進されることが多くてちょっと大変だったであります」 ちょっともみくちゃにされたのか、毛並みを調えて言う浮舟に、気持ちは分かるかも、と呟くと幸秀は席にからすと浮舟を案内します。 「うにゃ、まだ荷物があったのかにゃ?」 「あぁ、いや、これはうちの親からのお礼だって。お土産に渡しなって言われて……」 ちょっぴりほろ酔いで部屋を動き回っていたスヴェトラーナが見つけた包み、嶺騎に尋ねれば忘れないうちに渡さないとと幸秀を呼んで手分けして渡していって。 嶺騎がお手伝いのお礼に、と用意したお土産は、男性陣は祖父のお店で人気という梅酒で、女性陣はお店の人に勧められたものらしく、二種類の包みを選んで貰う形。 「本日は、本当に有難う御座いました。暫しの時間、ゆっくりと楽しんで下さい」 嶺騎が言い、幸秀と共にぺこりと頭を下げて改める告げるお礼。 配達後ののんびりとした宴の時間は、今暫くの間続くのでした。 |