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■オープニング本文 ※このシナリオは初夢シナリオです。 オープニングは架空のものであり、ゲームの世界観に一切影響を与えません。 「ふみゃあぁ…………っ」 ここは胥という猫さんの夢の中。 胥は白黒の猫で、赤い飾り紐を首輪にしていて、見た目は大分大きい若い猫となって居ますが、お屋敷育ちでちょっぴり子供っぽい甘えん坊。 みんな忙しそうに慌ただしかったお屋敷は、今朝は妙に静かで、七輪の上でシュンシュンとお湯の沸く音だけが聞こえてきています。 「うにゃあ……ごしゅじんさま? おかーさん?」 大好きな買い主である幸秀少年というご主人様もいなければ、綺麗なお母さんもいない、ごはんをくれる保上明征もいない不思議な日。 「うにゃ、またみんないなくなっちゃった……」 不安げにしゅんとして呟く胥ですが、離れたところからたたたとかけてくる足音に尻尾をぴんと上げて。 「うにゃ、ごちそういっぱいそのまんまで、にんげんたちはでかけたようだにゃ」 胥が寝ていた部屋に駆け込んできたのは胥よりも一回りほど大きな黒い猫、首には金糸を編み込んだ飾り紐を付けていて、ふてぶてしい顔つきはお屋敷に入る前の野良さんだった頃の名残です。 因みに胥が如何にも仔猫といった大きさだった頃は二回り程差がありましたが、胥がちょっと大きくなったので差は少しだけ縮まっています。 「うにゃ、おでかけにゃ?」 「そうなのにゃ、やりたいほーだいなのにゃ!」 「いたずらしたらおこられないかにゃ?」 「おれさまたちをおいてでかけたにんげんのほうがわるいのにゃ!」 胥と黒猫は自分たちが人間と同じ言葉を話していることに気が付いていないよう、夢を見ていることには気が付いていません。 「せっかくのしんねんにゃ! いっぱいあそんでいっぱいごちそうたべて、いっぱいあばれるのにゃ!」 「でも、ちょっとぼくたちだけじゃさみしいにゃ?」 「うがっ、だれかあそびにくればいいのににゃ……」 そんなことを言いながら、二匹は屋敷の中をうろうろと歩き始めるのでした。 |
■参加者一覧
ゼタル・マグスレード(ia9253)
26歳・男・陰
紅 舞華(ia9612)
24歳・女・シ
サーシャ(ia9980)
16歳・女・騎
嵐山 虎彦(ib0213)
34歳・男・サ
フィン・ファルスト(ib0979)
19歳・女・騎
ウルグ・シュバルツ(ib5700)
29歳・男・砲
マレシート(ib6124)
27歳・女・砲
クレア・エルスハイマー(ib6652)
21歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●夢の中で 「……動ける」 顔を上げてくのはフィン・ファルスト(ib0979)の相棒でアーマー「人狼」のガラハッド。 ガラハッドはいつもと見える景色が違うのに気付き周囲を見回し。 「フィンは、いない……ごー」 部屋を出るガラハッド、新型でまだ子供のように何でも興味が沸く様です。 「ここが……神楽、なんだね」 ガラハッドは辺りを興味深げに見渡すと、50センチ程のちまっとした姿でちょこちょこ外へと歩き出します。 同じように神楽で目を開け動き出す子が居ました。 サーシャ(ia9980)の相棒アーマー「人狼」のアリストクラートです。 今はアリストクラートは10歳程の獣人の女の子、可愛らしいフリルのエプロンドレスを揺らし白い狼の耳と尻尾がぴこぴこ揺れていて。 「何時もとは何かが違う気がするのですが、それは一体何なんでしょうか?」 不思議そうに首を傾げるアリストクラートは、暫しの間じっと考えていますが動き出してみることに。 「考えても答えが出ないので動き出しましょう」 家の中をぐるりと見渡してからかくんと首を傾げるアリストクラート。 「といっても特に仕事がある訳でも有りませんし、食事の類は主が戻られるまでは控えておくのが僕の慣わし、というものですし」 今必要なことはないですしと一応部屋の中を色々と確認。 「となれば………思いつくままに行動していくしか有りませんね。行き当たりばったりともいいますが」 呟きいそいそ外に出たところでばったりと出会うガラハッドとアリストクラート。 「わ……吃驚した……」 出会い頭に近く顔を合わせ驚くも、ガラハッドの言葉にはっとして可愛らしくちょんとエプロンドレスの裾を摘んでアリストクラートはご挨拶します。 「ぁ……こんにちは」 「こんにちは……ぼくは、名前はガラハッド。よろしく、ね」 「アリストクラートです、アリスと呼ばれています」 ちまっとしてぬいぐるみのようなガラハッドに、小さな女の子の姿のアリストクラート、同じアーマーの人狼同士でも夢に出て来る姿には違いがあるようです。 「他に誰も見あたらないですね」 「少し捜してみよう、か……」 アリストクラートが言うのにぐるりと辺りを見回しながらガラハッドも言うと、二人は揃って歩き出すのでした。 「ふぇ? 体がなんか小さくなってます?」 くわぁ、小さく欠伸を零し目を瞬かせると、マレシート(ib6124)の相棒で駿龍の烈は延びをした自分の体が思ったより小さいのに気付き首を傾げました。 烈は普段の姿より小さくぬいぐるみとしては少し大きめの姿になっており、不思議そうに自身の手元や首を回して背中の羽を見てぱたぱたさせるも。 「まぁ、とりあえずいいですか」 人の気配も無いのでどうしようか考えるもてこてこと歩き出す烈。 「どなたかいるですか?」 そのままお外へと歩いて行くと、烈はきょろきょろあたりを見ながら進んでいくのでした。 ●お屋敷でのお正月 「うにゃあ、人が居ないにゃ」 首を傾げ歩く猫が一匹……基猫又が一匹。 嵐山 虎彦(ib0213)の相棒で猫又のスヴェトラーナです。 「誰かいないかにゃ」 きょろきょろ見渡せば先程まで自分の家の傍を歩いていた筈が、見たことのないお屋敷の前に辿りつくスヴェトラーナ。 「にゃ、声が聞こえたにゃ、入ってみるにゃ!」 スヴェトラーナはくいと首を傾げると、ぐぐっと門を押そうとしてへたりと座り込んで。 「重いのにゃ……」 「……大丈夫?」 「ですか?」 声を掛けたのはガラハッドにアリストクラートで、二人はのんびり歩いていればいつの間にかここに着いたそうで、スヴェトラーナが門を開けようとしたのが分かると閂が掛かっていないのを確認して。 「開ける?」 「お願いするのにゃ。……重くないかにゃ?」 「ん。軽い軽い」 ガラハッドが門を簡単に開けると尻尾がぴんと上がるスヴェトラーナ、とは言えこのお屋敷を知っているわけではないようできょろきょろと中を覗き込みます。 「お前達、ここに何か用か?」 不意に後ろから声が掛けられ振り返れば、不思議そうな表情で首を傾げている紅 舞華(ia9612)の相棒である忍犬の潮、途中で会った様子のゼタル・マグスレード(ia9253)の相棒、からくりの蓬莱も一緒です。 蓬莱は新年らしく振袖も艶やかで穏やかな微笑を浮かべて立っていて。 「こんにちは」 微笑む蓬莱は、白黒と黒の猫が尻尾を立てて門へ走ってくるのに気が付き、蓬莱の様子に他の子達もそれに気付きます。 「うにゃ、なにやらにぎやかにゃ? あ!」 「うなー、よくきたのにゃ、よっていくのにゃ! ごちそうたくさんなのにゃ!」 白黒猫の胥と黒猫が嬉しげに出迎えれば、胥はきょろきょろとあたりを見渡し少し尻尾がへろんと下がりかけます。 「……にゃ……」 誰かを探していたようでその相手が居ないのが寂しいよう、と、傍の茂みががさがさ動いたかと思うと、愛らしいぬいぐるみ大の駿龍が嬉しげに飛び出して胥の前へとやって来ました。 「! また会えたのです……!」 ぱあぁっと顔を輝かせて言うウルグ・シュバルツ(ib5700)の相棒のシャリア、胥も気付きうにゃぁんと尻尾を立ててすりすりと甘える様に擦り付いて。 「しゃりあちゃんなのにゃ! あいたかったのにゃ!」 「元気そうでよかったのです……っ」 シャリアは臆病で、少し前ここに着いたものの茂みの中から出られなかったよう、蓬莱や潮と会ったことがあるのでどうしようかもじもじとしていたところで胥の姿を見て出てきたようです。 「……沢山集まっているです」 「うにゃ、もう一人きたにゃ!」 探検していた烈も通りかかればスヴェトラーナが顔を上げてうにゃうにゃ呼び込み。 「えぇと、駿龍の烈と申します。よろしくお願いします」 「我輩はスヴェトラーにゃ……スヴェトにゃーラ……スーと呼ぶにゃ! よろしくなのにゃ!」 「……」 「どうしたのにゃ?」 ご挨拶をしてから眼をぱちくり瞬かせ自分の口元に手を当てた烈は、スヴェトラーナに聞かれはっとすると口を開いて。 「えー! 普通に話せるです。これはすごいです」 「不思議な事もあるよな。まぁ、折角だからそれを満喫するのも楽しいってもんだ」 笑って潮が言えば立ち話も何だからお家へどうぞと胥が言い、一行は人の姿のない胥と黒猫のお家へ入っていきます。 「御主人達はいないのか、どこかへ出掛けたのかな」 「おきたらいなかったにゃ」 「お邪魔します、です」 「ね、これ、なあに?」 「これは添水、鹿威しね」 「普段は吼える形になっちゃうのに、不思議な感じです」 わいわい賑やかに敷地内へと入っていけば、広々としたお屋敷のお気に入りの広々としたお部屋に案内する胥と黒猫。 「正月だと、羽目を外すのは良いがやりすぎは……」 「にゃにゃ、なにしてあそぶにゃ?」 「うな、おいかけっこはどうにゃ?」 「我輩はせんりゃくてきにゃ……みぎゃ、かんだにゃ……」 「……まぁ良いか……折角だ、俺も楽しもう、正月だしな」 猫と猫又が盛り上がっているのを見て無粋なことを言うのはやめる潮、蓬莱はまずはきちんと座って。 「そうそう、新年のご挨拶をしておかないと。あけましておめでとうございます……今年も宜しく、ね。」 「おめでとーなのです」 蓬莱の挨拶でそれぞれきちんと新年の挨拶を交わすと、何をしよう、と色々と盛り上がりを見せ始めて。 「相棒さん達も沢山揃ってるし、皆でできる遊びでもしましょうか。正月といえば…そうね、歌留多取りや福笑いとか、かしら?」 「主達がたまにしたりする遊びですね」 蓬莱が提案すればアリストクラートが小首を傾げて、それを聞いた胥がかしかしと棚を前足で軽くひっかくのに、ガラハッドがその棚を開けて上げれば、棚には玩具が沢山収まっていて。 「カルタはこれですか……?」 棚から出て来るいくつもの箱のうちの一つをそっとシャリアが開けて見れば、そこに入っていたのは綺麗な貝の絵合わせ。 「ふえ? こちらですか?」 烈がぱかりと開けた箱には双六が綺麗に収まっていて、きらきらと綺麗な駒が光を浴びているのを見て楽しげで興味深げな様子がその顔に浮かびます。 「この箱は?」 「ごしゅじんさまとごはんが、よくぱちんぱちんおとをたててあそんでいたやつにゃ」 「へぇ、将棋っていうもの、か……。それにしても、ふわふわしてる、ね」 「えへへ……ありがとうなのにゃ」 毛を関節で引っかけてはいけないと手袋をつけた手で胥を撫でながら、傍にあった入れ物のことを聞いて見たりするガラハッドは、胥が心地好さげにごろごろと喉を鳴らすのに笑みを浮かべ。 沢山の箱を見たり開いたりしながら話していれば、棚に身体毎入り込んでいたスヴェトラーナが声を上げます。 「あったにゃ、これ、歌留多ってかいてあるにゃ!」 「そうね、ちょっと奥に入っていたみたいね」 見つけてえっへんと胸を張るスヴェトラーナ、折角なのでこれをやろうという事になり。 「歌留多取りするなら、私が読み手をするわね。お手付きは3回で1回休み、だから、気を付けてね?」 「ふふふ、うでがなるにゃ」 「黒猫君やったころあるの?」 「うが、やったことはないにゃ、みてたにゃ!」 蓬莱が取り札を並べていくのを見ながら、黒猫が服も着ていないのに腕捲りをして言い、ガラハッドが聞くのには自信満々に首を振っています。 「読み上げられた札を取っていけばよいのですよね」 「うん、多分……そう思うのです」 歌合わせの方ではなく普通の歌留多のようで、決まりを確認しながらアリストクラートが聞けば、くいと首を傾げて並べられた札を見てから烈は頷いて。 「ど、どきどきします……」 「うにゃ、とれるかにゃ……」 ちょんと座って話して居るのはシャリアと胥、札を心配そうに見ながら、それでいてちょっぴりどきどきとしているようでもあり。 「勝負にゃ!」 「俺か? 挑まれた勝負は受けて立つ。……スキルは使うなよ」 危ないから、勝負を挑んできたスヴェトラーナにそう釘を刺す潮もやる気は十分のようで。 「じゃあ、始めるわね。まず最初の札は……」 「みぎゃっ、ふだですべるにゃーっ!?」 「わわ、がらはっどさんすごくとるのはやいのにゃ」 「凄いのです……」 「それお手つきだと思うのですが……」 「くっ、前足の間隔が狭いというのは不便だ……」 「早くもあちこちで大惨事なのにゃ」 「主さんはこういう時期に何をしていたでしょう……わ、札が飛んでき……」 早速乱れ飛ぶ札と飛び交う本人達、勢いに押されて観戦状態になって居る子も居ますが、それぞれが楽しげに笑いながら和やかな様子で。 「一通り遊んでおいてなんですが、ふと思い出したです。主さん今年のお願い事をしに何処かに行っていたです」 「初詣のことかしら? 折角だからみんなで行くのも良いけれど、この近くにお参りするところあったかしら?」 歌留多も一段落ついて、ふと思い出した様子の烈が言えば首を傾げる蓬莱。 「うにゃ、ごしゅじんさまいないときでおそといったの、このあいだのおやまぐらいにゃ……」 「胥さん、あんまりお外出たことないのでしたっけ……? 行ってみたいとことか、ないのです? 素敵なとこ、たくさんあるのですよ……!」 ちょっぴり不安そうな胥ですが、シャリアがきゅと前足を握ってあげるとうにゃと見上げて。 「ここに来る途中で、人は居なかったけれど賑やかな感じの所はあった、よ?」 「そういえば道の両端に屋台みたいなものが並んで、奥に立派な建物がありました」 「そうです、聞いたことがあるです!」 ガラハッドとアリストクラートがここにやってくる前にちらりと見かけたことを話せば、折角ならと遊びは一時中断してみんなで初詣に出掛けることに。 「えぇと、こうして……今年も無事に主さんと過ごせて、楽しい思い出が増えますように、です」 「シャリアも、にいさまと一緒に楽しい思い出が増えますように」 「みにゃ、にゃぐにゃぐ」 胥と黒猫も願い事をしたよう、みんなでわいわいと話ながらお参りを済ませれば、烈はいつもより体が小さいので大変そうに歩きながらも嬉しそうで。 「はふぅ、体が小さくて少し動く速度が遅い気がしますが、みんなと話せるので楽しいです」 「ぼくもいつもはしゃべれないから、こうしてはなせるのがたのしいのにゃ」 シャリアと手を繋いで嬉しそうに歩く胥も、烈と一緒に嬉しそうに笑って頷いています。 「これはどうやって遊ぶもの、かな?」 「これはあれだな、羽子板と言って、この羽を、この板で打ち合うものだな」 「まけたらおかおにばってんをかかれるにゃ」 お屋敷へと戻れば部屋に出したままの玩具、ガラハッドが引っ張り出されていたそれに目を落として聞いて見れば潮が説明をし、胥が墨でべたっと、と説明をしていて。 「羽子板をやるのなら、その間にお食事の支度をしてくるわね」 興味深げだった様子を見て蓬莱が笑んで立ち上がると、スヴェトラーナは羽子板を重そうにゃと言い立ち上がって。 「我輩は遠慮するにゃ。むしろ今日は我輩のやりたい放題だから、何をするか迷うのにゃ……なぜなら、いつもやりたい放題だからにゃ!」 「主さんの苦労が忍ばれる、です」 何となく嵐山に同情の念を感じつつ烈がスヴェトラーナに言えば、折角なのでアリストクラートとガラハッドが羽子板をすることに、まずはどんな風に打ち合うのか、周りが身振り手振りで説明する様子を見ながら挑戦する二人。 「ちょっと小さくて打ちにくい……」 「えいっ……もう少し強く打たないと届きませんね」 力加減が分からず最初は遠慮がちに打っていたのも、気が付けばぱかぱかなかなか激しい打撃の応酬となり。 最終的には人の姿のアリストクラートの方が高い位置から打ち込んで決着、流石に墨の×はやめたよう、見ている方も遊んでいる方も楽しそうなのでした。 「あら、一緒に遊んでこないの?」 「今日は普段は出来ないこと……『料理』をするのにゃ! ここはお屋敷なので、きっと良い材料があるにゃ」 「良い材料、なぁ」 お節のお重に取り皿を用意し折角ならとお鍋を取りだした蓬莱は、一緒にお台所へとやって来たスヴェトラーナに聞けば、にんまりして応えるスヴェトラーナ、潮はその言葉に材料探しを手伝う事にした模様。 「じゃあ、ちょいと探してくるか」 てててと尻尾を振りお台所から出て傍の蔵へと向かえば、ふんふんと鼻をひくつかせてから良い匂いのするそちらへと走り出す潮。 「ふむ、干し肉の蓄え……味付けが濃すぎるものも多いしな。うーん、これはダメ、これは美味しい」 蔵で選別をすれば、きちんと火を通して程々の大きさに揃えられているお肉の塊があり、小柄な子達にも薄く切り落とせば食べられそう、と味見に一つ丸囓りして噛み千切ってもぐもぐと食べて。 「これは鳥か……これもそれなりだな」 もぐもぐと味わっては主にお肉を選別すると、潮はくるんと包まれているものの括った紐を咥えててててとお台所へと向かうのでした。 「最初はお酒にゃ、赤いワインに果物のお酒にゃ」 贅沢に生まれ育っていてどうやら食前酒を探しに蔵へと向かったスヴェトラーナ、潮がお肉に夢中の蔵にお酒は無いので隣の蔵へと歩み寄ると、何やら聞こえてくる物音にきょとんと首を傾げます。 「おっしゃぁ〜! ウチの天下が来たでぇ〜!! これぞまさに、酒池肉林っちゅうやっちゃな〜〜!!」 蔵の中にはご馳走乱れ飛びお酒の匂いが充満し、文字通り蔵一つ一人大宴会を開いているのはクレア・エルスハイマー(ib6652)の相棒で羽妖精のイフェリアです。 「うはぁ〜、ええのうええのう〜♪ パラダイスやでぇ〜」 肴に肉の塊を小刀でそぎ落とし炙っては豪快にかぶりつき、傍らには数年物の酒好きには垂涎の酒を瓶一つ開けて浴びるように飲んで居ます。 「……にゃ……」 見に来た我が道を行く系のスヴェトラーナも流石に目が点。 「うぃ〜、五臓六腑に染み渡るっちゅうのはこういうことやなぁ〜!!」 「にゃ……にゃ、にゃまハムが……ご馳走が無残な事になっているのにゃ……」 ざっくざっくと切り刻んでイフェリアが喰らうそれに愕然としていれば、包みを咥えた潮が顔を覗き込ませ……蔵に蔓延するお酒の匂いに当てられ、実に楽しそうに皆の居る方へと走り込んで行ってしまい。 「……ここは見なかったにゃ」 そっと蔵を閉じて戻ってくれば丁度そろそろお餅が焼ける頃、スヴェトラーナはいそいそと何やら一品急いで作り上げたようで、お節とお汁粉と、そしてジルベリア料理が並ぶ食卓。 「我輩ジルベリア育ち、なので料理は豪華なのにゃ! お品書きは、サーモンと海老のゼリー寄せにゃ〜♪ ……もちろん普通猫用に薄味にゃ」 「おれさまもたべられるかにゃ?」 「猫族が苦手な野菜とかも一切入ってないにゃ!」 蓬莱が皆にお節を取り分けてあげたり、潮がいつになく上機嫌にお肉を囓っていたり、アリストクラートとガラハッドがお汁粉を食べようとしてお餅が延びに延びて噛み切れずあわあわしてみたり。 「綺麗な着物があるぞ、着てみると良い……うん、よく似合ってる」 「しゃりあちゃんもありすさんもかわいいのにゃ!」 酔った潮が着物を引っ張り出してのファッションショー状態、女の子達に着せ付け潮もふかふかの羽織を着てなかなか決まっています。 「うが、おなかいっぱいにゃ……」 満腹の黒猫は蓬莱に手招きされるも意地を張ってぷいとし、蓬莱はくすりと笑うと傍に腰を下ろしてからひょいとお膝に乗っけて。 「……あの時の飾り、つけてくれてるのね。ありがとう……」 意地っ張りでもお膝の上は心地良く、収まる黒猫へと話かける蓬莱はふと首を傾げて。 「そういえば、君の名前を聞いてなかったの」 「なまえなんかないにゃ」 「特に、無いの? 本来なら、貴方自身が名乗りたい名か貴方の大切な人に付けてもらうのが一番だと思うのだけど……今だけは、黒甜君とお呼びしても?」 「うな?」 「意味? ふふ、今の貴方みたいな感じ、よ」 背中を撫でてあげながら、こんな字を書くのとさらりと一筆、手元にあった綺麗な千代紙に書いて上げる蓬莱に、黒猫改め黒甜はぐるぐる心地良さそうに喉を鳴らして。 「部屋の惨状は後から怒られるかもだが……まぁお正月だしな。片付け手伝いと訓練ペナルティで勘弁してもらおう……」 みんな遊び倒しお腹もくちくなり眠りに落ちると、潮も幸せそうに寝息を立て始めるのでした。 ●また迎えたいお正月 「‥‥おおぅ?? なんや夢やったんかいなぁ〜……でもなあ、めっちゃリアルやったんやけどなあ〜、掌に残っとる感触とかはなぁ」 蔵で一人宴会をしていたイフェリアは目を覚まし手をわきわきさせ。 「まあええわ、それよりも‥‥クレアはぁ〜ん、今日も元気かいな〜??」 イフェリアは相棒のクレアを捜しに部屋を飛び出していきます。 はっと弾かれたように起きた潮が急ぎ訓練に飛び出して行く頃、シャリアは龍舎でウルグが世話をしにやってくるのにぐるると甘えて擦り付き、烈も目を覚まして夢で主さんと同じく初詣に行った楽しい思い出を反芻していて。 「……また遊ぼうにゃ!」 スヴェトラーナが嵐山の部屋のど真ん中でぬくぬくお布団で言うのはまだ夢の続きを見ているのでしょうか。 ガラハッドとアリストクラートは夢を見続けながら、それぞれフィンとサーシャに起こされるのを静かに待っています。 蓬莱は手に持っていたはずの千代紙の命名札が手の中にないのを見て何か予感めいたものを感じて笑みを浮かべ。 件のお屋敷の中では人の気配、胥と黒甜は目を覚まして顔をくしくしと前足で洗うと、きょろきょろ周りを見渡し友達の姿が見えないのを寂しく思いながらも、部屋にある千代紙の命名札を見つけて尻尾をぴんと立てて。 黒甜が誇らしげに札を咥えて駆け出すと、胥は一度だけ部屋を振り返ってから後に続いて駆け出すのでした。 |