|
■オープニング本文 その日、開拓者ギルドの受付の青年利諒は、武天は芳野に住む伊住宗右衛門翁の屋敷へと呼ばれてやって来ていました。 「苺ですか、美味しそうですねぇ」 「ああ、ちと知人より頂いてのう、ただ又量が多いところで、孫達がちと今来られないらしい」 「あらら、傷んじゃう前に食べちゃわないとですねぇ」 「そうなんじゃよ。それと、折角なら色々な食べ方を教えて貰ってと……はて、他にも何かあったような気がするんじゃがのう?」 そう言って首を傾げる宗右衛門翁ですが、しばし考えて、はたと膝を打って。 「そうそう、それと、この時期故、良く沢山の鰤を方々から差し入れられるのじゃが、ちと孫娘達もおらんで消費するのが、なかなか大変での」 「物凄く贅沢なことを言っている気がするんですけど……でも、確かに同じ物など沢山となると、だんだん食べ方も限られてきて大変ですよねぇ」 なるほど、と頷いて依頼書へと筆を走らせる利諒。 「この時期手に入る別の物を頼めば持ってきてくれるし、他に食べたい物などあればある程度は用意できる。ちょいと遊びに来る人を紹介して貰えんかの」 「じゃあ、お誘いは出しておきますね」 利諒は頷くと、依頼書へと筆を走らせるのでした。 |
■参加者一覧 / 北條 黯羽(ia0072) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 明王院 未楡(ib0349) / 御形 なずな(ib0371) / シータル・ラートリー(ib4533) / セシャト ウル(ib6670) / ルース・エリコット(ic0005) / 桃李 泉華(ic0104) |
■リプレイ本文 ●山積みの苺 「お誘い頂けて嬉しいですわ♪ 暫くの間お邪魔します」 「おお、良く来なすった。緩りと楽しまれますよう」 武天芳野、屋敷の主である伊住宗右衛門翁へ微笑を浮かべてぺこりとご挨拶するのはシータル・ラートリー(ib4533)、宗右衛門翁も笑みを浮かべて頷けば、シータルの後ろにいる人物に気が付いて。 「は、じめま…して。よろ…しくお願い、します」 精一杯の勇気を振り絞ってシータルの後ろから出て来るのはルース・エリコット(ic0005)で、どうしても人見知りしてしまうようですが、宗右衛門翁からするとそれも微笑ましく見えるようで。 「こちらこそ、宜しく……気を楽に、楽しまれますように、の」 「は、はい……」 ちょっとおどおどしつつもこくりと頷いて答えるルース、シータルは微笑みながらルースと寄り添って居て。 「宗右衛門さん、また遊びに来たわよ♪ お魚と果物が沢山余ったとか?」 そこに入ってくるセシャト ウル(ib6670)は、にこにこと嬉しそうな様子で宗右衛門翁へと挨拶して、シータルとルースにも笑いかけます。 「宜しくね」 「宜しくお願いしますわ」 「よ、宜しく……お願い、します……」 互いに挨拶が終われば折角なのだからと早速苺のあるおお台所へと向かって歩き出す三人、セシャトは小さく首を傾げます。 「それにしても、どれぐらいの量があるのかしら?」 言ってみれば笊にてんこ盛りの苺、お外に箱で出して冷やしてあるのもあるようで、それ以外にも井戸水に晒して冷やしていたりと苺尽くしとなって居て。 「あ、あま……」 お味見と一つずつ、井戸水に晒されよく冷えたものを頂いてみれば、大粒で甘い苺達達に、ルースは目を瞬かせるのでした。 「折角の美味しい苺ですし、お孫さん達にも何らかの形で食べさせてあげたいですね」 「日持ちがして、瓶に詰めて渡せれば良いですし、ジャムをたっぷり造りましょう」 「ジャムをつくる」 明王院 未楡(ib0349)が言えば礼野 真夢紀(ia1144)も頬に手を当てて頷き、からくりのしらさぎもこくりと頷きます。 早速たっぷりの苺と大きなお鍋を用意し、苺の分量を確認して砂糖など必要なものを次々用意していく三人。 「これはへたを取って洗い終わった分ですね」 「では、こちらの方でお砂糖は……」 「マユキ、ジャムはどうたべる?」 「夏にジルベリア特産、よーぐるとと混ぜて食べても、よーぐるとを凍らせかき氷にしてその上にかけても美味しいのよ」 いそいそとジャムを造る準備をしていれば、かくんと首を傾げて尋ねるしらさぎ、真夢紀は思い出すのかにこにことしながらしらさぎにそう言うと。 「ホットケーキやパンに塗って食べても、朝食にもお八つにもなるのです」 「宗右衛門さんのお孫さんにも食べて頂くとしたら、ヴォトカなどで器を消毒して日持ちするようにしませんと」 未楡が器を用意していれば、真夢紀はお鍋に苺をたっぷりと入れてから、お砂糖をまぶし檸檬を搾って果汁を入れて。 「まず苺の方は暫く置いて置いて……その間に料理の方の下拵えに入りましょう」 「そうですね」 未楡と真夢紀がお鍋を暫く避けてから鰤を見に向かうと、しらさぎは溶けていくお砂糖を不思議そうに見ているのでした。 「なんや、伊住のお爺ちゃんには感謝せんなならんなぁ」 桃李 泉華(ic0104)が笊に山となった、洗い立ての苺を見ながら笑みを浮かべれば、小さく笑いを漏らして頷く北條 黯羽(ia0072)。 「美味い食材がたんまりとあって、自由に使えるってぇのは良いねぇ。こりゃ、宗右衛門のご隠居に感謝さね」 よく冷えたその苺のへたを摘んで一つほれ、と差し出して食べさせる黯羽に、嬉しげに一つ頂くと、良く味わって飲み込んでから、お返し、とばかりにへたを摘みつつにっこり笑いかける泉華。 「黯羽姉さんお付き合いおーきにさんですv 姉さんとお出掛けとか嬉しいわぁ♪」 「泉華の誘いとありゃ、断るあれはないからなぁ。しかし山積みの苺か……そうさな……互いに苺を使った菓子を作って、交換しようかね」 「ウチは苺タルトっちゅうん作ってみよかなぁ……」 言って材料は揃っているのを確認してから泉華は頷きます。 「本で見たし、作り方も覚えたし大丈夫やろ」 手順を反芻して考える様子を見せていた泉華に、黯羽はくっくと笑うと。 「泉華の作る菓子、どんな風になるのか楽しみだし……期待してるぜぃ?」 黯羽の言葉に嬉しげに笑って頷く泉華は、ふと首を傾げて口を開いて。 「ところで、黯羽姉さんは何作らはるん?」 「ん? そうさねぇ……苺大福なんぞ造ってみようかと思ってるんだが」 「楽しみやわぁ」 「苺大福って言や、甘すぎずに上品な餡の中に苺が入ってるってぇのが美味いんさね」 黯羽の言葉に笑顔のままそう言うと、泉華はパイ生地を作るために大きなお皿に小麦粉とバターを入れていくのでした。 ●新鮮な鰤 新鮮な鰤が大きな木箱にでんと入れて届けられたのを見て、きらきらと目を輝かせるセシャト。 「凄いわっ! 大きさといい様子といい立派ね!」 「捌くのは大変でしょうし、其の辺りは僕がやりますので、どの程度のが良いか希望があったら言って下さいね」 云え野中へと鰤の入った木箱を運び込むのは、お手伝いに来たらしき受付の利諒、取り敢えず襷がけをしながらそう言えば、宗右衛門翁は軽く首を傾げて。 「皆さんは、どのような料理が好みですかの?」 「私の好きな物ですか? 何でもよろしいですわ♪」 にこりと笑って言うシータル、ルースはどう対応して良いのか分からない様子でシータルの後ろからもじもじとしていて、セシャトはと言えば色々と悩む様子を見せた後で。 「そうだ! 宗右衛門さんのオススメ料理って何かしら? 美味しい物一杯知ってそうだし教えて欲しいわ」 「ほう……あっさり味わうには鰤大根、こってりとした味わいでも良ければ照り焼きなどが基本ではありますが……焼いて柚子塩山葵塩なども……と、この辺りは酒の肴ですな」 笑って言う宗右衛門黄に、想像したか、美味しそうと尻尾をぴこぴこさせながら頷くセシャト、利諒はまな板に大きな鰤を載っけるとお刺身といったシータルと、その後ろに隠れているルースへと目を向けます。 「何でも良いとのことですけど、食べてみたいものとかありませんか?」 「え? 食べてみたいものですか? ……そうですわね。お刺身を食してみたいです」 「これだけ新鮮だと、お刺身は良いですよね。たたきにしておろしと果実酢でもあっさりですし。エリコットさんはどんなのがお好きですか?」 「わ、私……の好き、なもの……ですか? あ、あまー……が好き、ですね」 「あまー……ですか?」 「はっ! い、いえ。お肉が……苦手なだけ、でなんでも……食べます……」 「お肉が苦手ですか……とすると、生魚が平気でしたら、お刺身とか、そういったものが良いかもしれませんねぇ」 食べ方によってはお肉みたいな食感になっちゃうので気を付けないと、そう言いながら鰤の鱗取りを始める利諒、女性陣へと鱗が飛ばないようにちょっと離れて進めていけば、苺の下拵えなどを終えてやってくる真夢紀と未楡。 「見事な鰤ですね。定番は刺身に鰤大根に照り焼きなんですけど食べ飽きてるかな?」 「食べ飽きる類のものではありませんが、まぁ、確かに其の辺りが一番多いですかのぅ」 「そうですか……量も沢山ありますし、それと幾つか別の料理なども造りましょうね」 「マユキ、なにつくる?」 「さっぱりと食べられるものを造ろうかと思って」 利諒が三枚おろしの後でさくに切り分ければ、それを受け取って丁度良さそうな大きさに切っていき、俎板の上でお酒を振る真夢紀。 「水気を取っている間に……えぇと、バターを……」 「はい、真夢紀さん」 いそいそと手際良く準備をしていく真夢紀に、未楡も必要なものを直ぐに用意して渡してやっており、しらさぎは真夢紀に聞きながら同じように下拵えをしたり、折角だから造ろうとなった鰤大根の大根を皮を剥いて輪切りにしたり。 「お、これが件の鰤か」 「あ、はい。今下ろしていたところです」 「じゃ、こっちも準備するかねぇ。薄く刺身で切って貰いたいんだが」 「分かりました〜」 泉華がタルトを作っている間、大福を作ってからやって来た黯羽は、利諒が切り分けている鰤を覗き込むと、この辺りが良いな、と利諒に告げてから、前もって大きな土鍋に水を張ったものを竈へと移せば、そこには既に浸されていた昆布が入っており。 土鍋を熱して沸かしながらその側で人参や椎茸、大根に水菜と必要そうな分量を切り分けて行く黯羽。 「料理は十分そうじゃし、下拵えはする故、飯を、な」 「あぁ、はい、これきり分けたら炊きますんで」 「ご飯を炊くの?」 「はい、鰤飯、結構美味しいんですよ。普通にご飯を炊いてから混ぜる混ぜご飯も美味しいですけど」 宗右衛門翁の言葉に頷く利諒、セシャトが首を傾げて尋ねれば、じ様に米炊かせてぎっくり腰になられてもたまらないので、と微苦笑しながら鰤を切って下味を付けた宗右衛門翁がお釜に洗い米を入れお酒や醤油味醂で味を調え鰤と共に入れて。 それを竈で炊く利諒をセシャトは興味深げに見ると火の番をするのに目を瞬かせ、味付けをしたら辛くなるらしきシータルは、味付けなどには手を出さずルースと共に取り分けるお皿を運んだりし始めています。 「そろそろご飯が炊けそうですし、こちらの方も焼いていきましょう」 「そうですね。しらさぎ、装うお皿を取ってくれる?」 「マユキ、コレ?」 未踏が言えば頷く真夢紀は先程下拵えしたものに塩胡椒を振って、それをバターでこんがりと焼き上げながらしらさぎへとお皿を取って貰って。 「うん、それで良いわ、有難う」 「大根はおろしておきましたから」 お皿に真夢紀が盛りつければ、そこに未楡が摺り下ろして置いた大根を添えて。 「出来上がりです」 最後に果実酢で味を調えた特製のたれをかけて真夢紀は笑みを浮かべるのでした。 ●睦月の旬もの 「へぇ、こりゃ豪勢だねぇ」 色々と希望や作ったものとして並べた、主食の鰤料理の数々ににぃと笑う黯羽、まずは一杯と泉華が熱燗を黯羽へとお酌していました。 「ぶりしゃぶか、出しがよい香りですのぅ」 昆布と鰹節の香りが食欲を誘うお鍋、薄く切った鰤の身をさっと鍋にくぐらせて食べればその触感はしっかりと歯ごたえはあるも柔らかく。 「結構味がしっかりしているのね、おいしー♪」 「じ様はまんま、男のこだわり料理、みたいなところがありますからねぇ……いい歳なので最近自重してくれて助かっていますけど」 せっせとお鍋を取り分けている利諒に、鰤飯を食べたセシャトがにこやかな笑顔で言えば、後片付けは大抵僕だったので、としみじみ言うと、どうぞと利諒はお鍋を装ってセシャトの前へとおきます。 「これが鰤のお刺身ですね。……お醤油に油が……」 お刺身を一切れつまみお醤油の小皿にちょんとつけて浮かぶ油に目を瞬かせるシータルは、とても歯ごたえを感じるそのお刺身に目を瞬かせますが、美味しいです、と笑みを浮かべて。 「はい、ルースさんもどうぞ。これはとてもさっぱりしていた柔らかくて美味しいですよ」 「ぁ……有難う……です」 真夢紀が作った鰤のバター焼きは、大根おろしとお醤油に果実酢がその味わいをあっさりとさっぱりとした、それでいてお魚の味を生かしたものとなっており、一口食べてほわ、っとした表情を浮かべるルース。 「どうですか? バターの量とか、少し多かったですか?」 「いいえ、とても美味しいわ」 未楡にちょっとドキドキした様子で聞く真夢紀、未楡はバター焼きを口へと運んで良く味わってから微笑を浮かべて美味しいと太鼓判を押していて、真夢紀も嬉しげに笑みを浮かべて。 「マユキ、これ?」 「あぁ、これは薄く切ってあるから、さっとお出しの中に通して湯がくだけで良いの」 普通のお鍋と違ってお魚を煮込むわけではないのに首を傾げるしらさぎ、それに気が付いた真夢紀が鰤しゃぶとお鍋の違いを説明したり。 「泉華、どうしたんだい?」 「あ……いやいや、何でも……」 「大丈夫だよ、泉華の作ったタルトの分はちゃんとあけてあるからよ」 食のすすむ一行を見てちらりと不安がよぎったか、少しだけそわそわとしていた泉華ですが、黯羽はにと笑うと泉華も嬉しそうに照れた笑いを浮かべるのでした。 ●苺尽くし 「皆さん、デザートに苺のショートケーキを造りましたの。如何でしょう?」 そう言って食事の片付いた食卓へ、ショートケーキを運び込んでいるのは未楡、真っ白のクリームが綺麗に飾られたそのケーキを彩る苺の赤、シータルと寄り添って居たルースはほわっとした様子でそのケーキを見ていますと。 「はい」 一つ切り分けられたケーキ、ルースの様子を見てシータルがくすりと笑ってフォークとをってあげて、自身も受け取って美味しく頂いて。 「苺……あま〜♪」 「美味しいですね」 未楡のショートケーキはクリームがふわふわで、甘くても消してしつこくなく、ルースは実に幸せそうで、シータルもそんなルースの様子を見て微笑むとケーキを頂いていて。 「イチゴタルトもあるえ?」 「たると……い、いただきます……」 大きなタルトとと一つ一つのものとの二種類があり、切り分けてお皿に移して渡せば黯羽の分もお皿へと取り、怖ず怖ずとした様子で黯羽を見る泉華。 「ぁぅ……黯羽姉さん……見た目がちょっと、アレやけど……食べて、くらはる……?」 泉華は上目遣いに見上げると、一口分を切ってフォークで取ったタルトをあーんとばかりに差し出します。 「ちと恥ずかしいが……ふふ、泉華なら喜んで♪」 あーんと口を開けて食べさせて貰うと、にっこり笑ってからぎゅっと泉華を抱き締めて撫でる黯羽。 「泉華のタルト、凄ぇ美味いぜ♪」 黯羽が笑って言うのに嬉しげに見上げて泉華は、あーん、と黯羽へと食べさせるのを続けていて。 「……これ、も……あま〜♪」 幸せそうにタルトや苺大福を頬張って、幸せそうに上を仰ぎ見てぽけっとしていたルース、シータルも頂きながらも、ぽけっと幸せそうなルースを微笑ましく見ながら口元を拭ってあげたりしています。 「大福もケーキも、沢山ありますし、後でお持ち帰り用に包みましょうか?」 「イレモノ、つめる」 真夢紀がケーキを味わいながらそう尋ねれば、お持ち帰り用に入れ物と風呂敷を屋敷の人が持ってきてくれたようで、それを受け取ってしらさぎも言うと、未楡が幾つも器に入れたジャムを持ってきて。 「これも日持ちするようにしましたし、一つずつ。宗右衛門さんも、お孫さんにどうぞ」 「おお、これは忝ない。孫達も喜びましょう」 笑顔で受け取る宗右衛門翁、その側で、ケーキにタルト、そして大福と目の前に並び幸せそうに食べているセシャトは口を開きます。 「あたし、つくづく好き嫌いがなくて良かったって思うわ! 天儀の料理ってとても美味しいんだもの♪」 「いえ、大福は兎も角、タルトとショートケーキは多分天儀じゃなくてジルベリア……」 「うむ、美味ですのぅ」 「そうよねー♪」 利諒の言葉を遮って、実に楽しそうにあれもこれも美味しいと話ながら楽しそうなセシャトと宗右衛門翁。 「あれ? ウルさん、さっきそう言えば何か作っていませんでしたっけ?」 「え? あ、そうそう、ロズビラバンを作ったのよ。宗右衛門さんに頼んで牛乳を用意して貰って、お米を煮て作ったの」 「ほむ……持ってきますね」 セシャトが作っていた所謂プディングの一種、ロズビラバンを利諒がお皿に盛ってくれば、それに苺をちょんと添えていて。 「はい、宗右衛門さん」 「おお、では頂きましょう」 そう言って受け取ると匙で食って食べれば、滑らかな舌触りに甘さと添えた苺の酸味とが良く合っていて、宗右衛門翁も舌鼓を打って。 睦月の旬を味わいながらの一時は、今暫くの間、続くのでした。 |