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■オープニング本文 「あれは何でしょうか?」 その日、開拓者ギルド受付の青年利諒は武天・芳野の景勝地、六色の谷にある幻雪楼へと呼ばれて顔を出していました。 「あれ? 氷花祭の雪像ですよ」 「氷花祭、ですか?」 幻雪楼へと顔を出していたのは記憶喪失の泰拳士の綾麗で、どうやら芳野領主の東郷実将と相談事があったよう、その話し合いが終わった後のようで。 「来たか」 「はい、今年も良い感じに、どの雪像も綺麗に出来ているようですねぇ」 「おう、今年も氷花祭が無事に開催できそうだ。なもんで、良ければ誘いを出してくれってこったな」 あぁやっぱり、そう呟いて利諒は概要とお誘いを書き記す為に紙を取りだします。 「それにしても、寒いのですね」 「どうにも、あまり雪は馴染みがねぇようだな」 「はい、うちの山の山頂ではちらつくこともありますが、少なくとも今のところ積もっていませんので……」 雪を見ても新鮮ではあるも懐かしさはないとのことで、元から馴染みがないのかも知れないですね、と言う綾麗。 「今年も穂澄ちゃんはまたお祭の準備中ですか?」 「ああ、しょっちゅう居なくなる儂と違ってなかなかに張り切って回してくれているようだな」 笑って言う実将は煙管にきゅきゅと葉を詰めながら笑います。 「今年もこの幻雪楼を解放しておるし、また、泊まりってんだったら、緑月屋が部屋を確保しておいてくれるとよ」 「温泉で雪見酒、良いですねぇ」 書き加えておきますね、そう言って利諒は、お誘いの貼り紙に筆を走らせるのでした。 |
■参加者一覧 / 羅喉丸(ia0347) / 天河 ふしぎ(ia1037) / 礼野 真夢紀(ia1144) / 和奏(ia8807) / ゼタル・マグスレード(ia9253) / 紅 舞華(ia9612) / 果林(ib6406) |
■リプレイ本文 ●白銀の世界 「しらさぎー、氷花祭で屋台出すからお手伝い宜しくね」 「マユキ、コレどこはこぶですか?」 礼野 真夢紀(ia1144)が屋台の準備をしていれば、食材の入った箱を運びながら、真夢紀の相棒であるからくりのしらさぎがかくんと首を傾げて尋ねます。 「まずはお餅をこう、薄く切ってね」 お餅をしらさぎに準備して貰っている間に、さっと襷がけをしていそいそと肉まんや餡まんの準備を始める真夢紀。 「忙しくなりそう」 そう呟いて笑みを浮かべると、真夢紀はいそいそと準備を続けるのでした。 「光華姫、あちらの方を見に行きますよ」 和奏(ia8807)がそう言うと、和奏の相棒である人妖の光華は肩に乗っかって目の前の雪像と睨めっこでもしているかのように見つけているところでした。 その広場にいたのも大分長い時間、途中ちょっと退屈した様子の光華は、まだ終わらないのかしらとばかりにちょっぴり不満げ。 「なかなか……」 「……まだまだ掛かりそうね……」 ふぅ、と溜息をつく光華ですが、ふと良い匂いがしてくるのに小さく鼻をひくつかせると。 「和奏、お汁粉食べたいわ」 そう言ってお小遣いをねだると向かうのは傍の真夢紀の屋台。 「お汁粉と……あ、その生姜の蜂蜜付け、そのお湯割りの奴を貰うわ」 「はい、熱いから気を付けて下さいね」 暖かいそれを真夢紀から受け取ると、蜂蜜付けの方を和奏へと出し出せば、ぼーっと雪像を見ながらも受け取る和奏、それを確認してよじよじと改めて和奏の方へと戻って、光華はお汁粉をふーふーとしながら食べ始めるのでした。 「わぁ、今年も凄い雪像…果林、今度はあっち見に行こうよ。屋台も沢山出てるな。おお、飛空船の形の雪像だ」 雪像が建ち並ぶ中、天河 ふしぎ(ia1037)が白い息を弾ませながらはしゃぐようにして果林(ib6406)の手を引けば、果林も嬉しそうに笑って頷いて。 氷花祭、折角だからと一緒に出掛けてきた様子の二人、果林の手には小さな籠の鞄、反対の手は、天河の手が繋がれて居て、ほんのりと頬を染める果林。 「僕、果林にもこの素敵な景色を味わって欲しくて……」 「嬉しいです。本当に素敵ですね」 嬉しげに周囲を見渡す果林に、天河は頬を赤くしながら満面の笑顔を浮かべて。 「それに、2人一緒なら、もっと素敵だって」 「あ……」 天河の言葉に顔を赤く染めると歩き出す二人、陽の光に煌めく白銀の世界に目を細めつつ真夢紀の屋台で暖かなものを買って分け合ったり色んな像を覗き込んだりと目一杯楽しむと、二人は雪の中、丁度人気のはけた休憩所に差し掛かって。 「あ、その、小さめですけどお弁当をご用意してはいますけど……」 休憩所で宜しければ、そうほんのりと頬を染めつつ言う果林に、目を瞬かせる天河。 「お気に召して下さるでしょうか……」 「ぁ……ほ、本当に? うん、食べるよ! 勿論!」 吃驚したようですが、直ぐに嬉しそうに笑って休憩所のイスをさっと噴いてから果林に座るように勧める天河、果林も頬を染めて鞄からお弁当箱と飲み物を入れた水筒を出して卓へと並べます。 「わぁ、美味しそう……本当にありがとう!」 嬉しそうに笑う天河に、一緒に持ってきた小皿へとお弁当を取り分けながら、果林は嬉しそうににこにこと、天河がお弁当を食べる姿を見ているのでした。 ●雪の中のひと時 「綾麗君の故郷では確かに雪はあまり降らなそうだったね」 「はい、この冬降りませんでしたし私も感覚がわからないので、雪に馴染みがないのは確かですね」 ゼタル・マグスレード(ia9253)が尋ねる言葉に頷く綾麗、折角なので回らないかとのことで二人は雪像の広場を見て回っているところのようで。 「しかし、見事なものだね」 「そうですね、ここの広場もそうですし、あちらの道の向こう側にも並んでいますね」 そう言って周囲に視線を巡らせた綾麗は見たことがある姿に気がついて目を瞬かせます。 「あ、あれって、羅喉丸さんですよね、あの雪像の前にいる方は」 「……うん、確かに。傍にいるのは、雪像のモデルのようだね」 綾麗の視線の先には羅喉丸(ia0347)とその相棒である羽妖精のネージュ、そしてそのネージュを象った雪像で。綾麗の言葉にじっと見て確認すると頷くゼタル、行ってみるかい、と尋ねようとしたゼタルは、声をかけようと一歩踏み出した綾麗の姿を一瞬にして見失って。 「り、綾麗……君……?」 「やあ、来てたのか。……どうした?」 目を瞬かせたゼタル、その様子に気が付いたのか歩み寄る羅喉丸、二人の視線は自然と二人の間の雪へと。 「わ、だ、大丈夫かい!? 綾麗君!?」 「えっ、綾麗さん!? ほ、掘り出さないと」 どうやらふかふかの雪がたっぷりと積もっていたところに足を踏み出してしまった様子の綾麗、予想外のことで声を上げる間もなく雪に沈み込んだようで。 「……死ぬかと思いました……」 「雪は存外深いことがあるから、気を付けないと」 「川の所の柵が雪で隠れていたんだな……凍っていたので良かったが……」 「恐らく、道の雪を避けた先が川だったようだけれど、その上に積もって埋もれてしまったようだね」 掘り起こされて心底驚いていた様子の綾麗、柔らかいふかふかの雪のお陰で怪我もなく、ゼタルも羅喉丸もほっとしたようで。 「それにしても、立派な雪像ですね。ネージュさんと雪の様子が良く合っていて」 有難う、そう笑って言うと、羅喉丸は口を開いて。 「綾麗さん達はお祭に?」 「一応幾つか門派のこととかでお邪魔させて頂いていたのですが……丁度お祭がやっていたようで」 「なるほど……綾麗さんもこんな時は羽を伸ばし、楽しんでいけばいいんじゃないかな」 にと笑うとそういう羅喉丸は、傍らの羽妖精へと顔を向けて。 「じゃあ行こうか、ネージュ」 「はい、羅喉丸。では失礼致します」 「はい、お騒がせしました」 ぺこりと頭を下げて言うネージュ、それを見送ってからほうと息が白いのが少し薄くなったように感じたゼタルは。 「……少し、冷えてきたかな」 呟くように言うと軽く首を傾げて何かを考える様子、直ぐに綾麗へと顔を向けて。 「汁粉や生姜湯など、温かい物でも食べに行かないか?」 そう言ってごく自然に手を差し伸べてから、はたと固まるゼタル、ゼタルが固まるのに綾麗はきょとんとしてみます。 「あぁ……その、紳士としてエスコートを、ね」 「先程雪に落ちましたしね、私も」 その失態を思い出してか顔を赤らめた綾麗は、改めて、お騒がせしました、そう言いつつ、おずおずとゼタルの手を握って。 「あー……えぇと、じゃあ、取り敢えずあっちの屋台でお汁粉とかお餅を焼いたのとか売っていたみたいだから、行ってみよう」 そう言って綾麗の手を引きつつ、ゼタルは思わず手を出し述べたことやその後に続く良いわけじみた言葉に自分でも戸惑った様子で歩き出すのでした。 「これなんか、東郷様へのお土産に良いんじゃないか?」 「そうですねぇ……えぇと、ひのふの……六個か七個下さい」 「利諒、それではお店の人が困ると思うが……では、七つ貰おう」 屋台の間を歩けば、おつまみに良さそうなものを見つけて口を開く紅 舞華(ia9612)、利諒が頷いて屋台の人へと言えば思わず舞華はくすりと笑って。 「それにしても、今年も盛況ですねぇ……」 「本当だな。賑やかで、楽しそうで良いな」 屋台で買った肴を受け取ると嬉しげに舞華を振り返って手を差し出せば、舞華も目を瞬かせてから笑いかけて手を握って。 「舞華さんに利諒兄さん」 「見回りですか?」 そこに通りかかったのは芳野の領主代行、伊住穂澄です。 「ええ、一応警備の責任者でもありますから……楽しんでいって下さいね」 そう笑って言うと歩いて行く穂澄を見送って、再び雪像広場の方へと歩き出す利諒と舞華、きらきらと輝く雪像を眺めながら楽しげに笑い合うと、幾つかの像の前では立ち止まってみたり。 「なんだか、見たこと有るような気がする雪像とかもありますけれど、どこかで……」 「ギルドじゃないか? 開拓者が像を造ったりしているのもそれなりにあるとか聞いたしな」 「あぁ、そうです、ギルドで見かけた方の像があるから見覚えがある気がしてたんですね」 これ柚乃さんですよね、などと相棒達が造った像などを見て納得したように頷く利諒、そんな様子を微笑みながら見ていた舞華がぎゅと手を握り直すと、そろそろ先に進みましょうか、そう笑って。 「そう言えば酒は十分足りているだろうが、何か面白い酒がないか途中寄ってみないか?」 「良いですねぇ、ちょっと見に行ってみましょう」 頷く利諒に嬉しげにほんのりと頬を染めながら舞華、二人はお酒や料理、季節の風物詩など色々なことを語り合いながら歩いて行くのでした。 「警備、お疲れ様です」 「あ、羅喉丸さん。羅喉丸さんもそう言えば像を造られていたのですよね」 利諒や舞華と別れてから警備で会場を回っていた穂澄は、羅喉丸がネージュと連れだって歩いてきて声を掛けられるのに微笑を浮かべて頷いて。 警備の為運営側での参加開拓者を資料で知っていたためかそう言って小さく首を傾げた穂澄。 「ああ、暇があったら見ていってください」 「はい、是非、拝見させて頂きます」 楽しみです、そう笑うと雪像のある方へと足を進める穂澄、穂澄と別れて歩き出す羅喉丸、暫く歩くとネージュへと顔を向けて。 「結構冷えてきたし、何か暖かいものでも買おうか?」 「はい」 ネージュは頷くと一緒に歩み寄る屋台、温かいお汁粉と幾つか、それにチーズとトマトとベーコン入れたジルべリア風ピザまんや熱々の餡まんなどを買い込むと、広場が眺められる休憩所で熱々のそれを楽しんで。 「羅喉丸、来て良かったです」 「本当にそうだな。偶にはこんな日も良いな」 羅喉丸はそう笑みを浮かべて、ほわっと幸せそうにお汁粉を食べるネージュを見ているのでした。 ●緑月屋での一時 「ふぅ、良いお湯です」 緑月屋、うっすらと空に茜色が滲み始めた頃、ゆったりとお湯に浸かっているのは果林、耳がぴこぴこと震えているのは余程に外で冷えた身体に心地良いからのようで。 「温泉って、本当に気持ちいいですね!」 ぱしゃりとお湯を掬ってお湯の中へと落としながらそれを眺めれば、思い出すのは氷花祭の間のこと。 「……」 ふとお湯に浸かって考えて居れば、おずおずと自分の胸に手を当てて、小さく首を傾げる果林。 「私、主様と一緒にいると何故かドキドキしてしまう。緊張のドキドキじゃなくて、こう温かい気持ちと言うか……」 小さく呟いて、言葉にすればますますその気持ちが強くなるのを自覚して、自然と頬が上気する果林。 「私……もしかして……」 思わず赤くなりながらお湯にちゃぽんと浸かって居るも、お湯を出て浴衣を身につけて部屋へと戻れば、既に部屋に戻っていた天河と果林は目が合って。 「ぁ……えぇと、部屋に入らないと冷えちゃうよ?」 「あ、はい」 声を掛けられ果林は赤くなりつつ部屋に入りますが、天河の方も湯上がりの姿に真っ赤になってしまっていたようで、どきどきと思わず胸を押さえます。 一緒に食事を部屋で頂いてから、どうにも互いに意識をしてしまうようで、並んで窓から見える雪景色と祭りの様子を見つめる二人。 「いいお湯で料理も美味しかったよね……」 「ええ、本当に良かったですよね」 そう言って微笑む果林、天河は意を決したのか勇気を出し手を伸ばすとぎゅっと抱き締めます。 「でも僕、果林の料理の方が大好きだよ」 「ぁ……」 天河に抱き締められて真っ赤になりながらも、果林は何処か幸せそうに笑むのでした。 「綾麗君は、酒は嗜むかね? 温泉で暖まった後にでも、雪見酒などどうかなと思ってね」 「お酒、ですか?」 緑月屋に荷を置いたところで舞華に誘われて温泉に入るに行くことになった綾麗に、自身も温泉に入るために浴衣を抱えて声を掛けるゼタル。 「あぁ、酒が苦手なら、茶でも構わないよ」 「いえ、機会が無いのであまり飲まないだけで、大丈夫です、ただ……」 「ただ?」 「どれぐらい飲めるかは、分からないです」 「……うん、大丈夫、酒盛りが主なわけではないから」 言って綾麗と別れると、ちょっと考え事をしている様子のゼタルは露天風呂にゆったりとは入りながら首を傾げて。 「梅酒とかの方が良いかな、濃すぎないように割れば……」 ふむと一つ頷くと、ゼタルはお湯を掬ってぱしゃぱしゃと顔を洗うのでした。 「今日はどうだった?」 「とても楽しかったです。でも、まさか雪があんなにふかふかで人の背程も積もるとは思わなかったです」 綾麗の言葉に笑う舞華、貸しきられている露天風呂で雪を眺めながら 「近頃はどうだった? 手伝えることがあったら言ってくれ」 「最近は泰国でですが、清璧が襲われたときにお世話になった方や、その繋がりでご紹介頂いた方々とお会いすることが出来ました。その際に、ちょっと……」 盗賊と遭遇して宿に籠城しました、とその時のことを話すと、小さく首を傾げて改めて口を開く綾麗。 「舞華さんはどうしていました?」 「私は最近は……その、涼霞が嫁に行って寂しくて、少々休んでたかな……」 照れたようにそっぽを向けば綾麗もちょっぴり目を落とすと。 「そうですね、ちょっと、私も寂しいです……」 呟く綾麗をぽむぽむと撫でる舞華、綾麗と舞華は目を見合わせると笑みを浮かべるのでした。 ●穏やかな時間を 「ユキでイロイロできるんですね」 「ええ、毎年色んな雪像が見られるのよ」 屋台を終えて篝火に揺れる雪像を見て回る真夢紀としらさぎ、暫く景色を堪能するも、そろそろ冷えてきたことだし宿に戻ろうとなって。 「サムイから、ニンゲンならアタタカイの、ウレシイ?」 「そうね、寒いよりは暖かい方が嬉しいわ。しらさぎはからくりだけど……寒さで体軋むとかいう事なかった?」 「ナイです。でもヤタイ、タイヘンでした。まゆ、またオマツリでヤタイだすっていってましたね?」 「そのつもり、次は梅祭り、それから桜の花見ね。どっちもちなんだ甘味主力なんだけど……」 楽しげに話しながら宿へと向かい、荷物を置くと温泉に一緒に入る真夢紀としらさぎは。 「練り切りの和菓子は無理でも、工夫次第で結構色々出来るからね。時期になったらしらさぎに教えるから」 「タノシミです」 また次に一緒に料理をしてみんなが喜ぶのを見るのを思い描いてか、真夢紀としらさぎはゆったりとお湯に浸かりながら、雪景色に映る月を眺めているのでした。 「僕の故郷はジルベリアなのだ。祖国では、積雪は珍しくもない」 「寒いところとは聞いたことがありますが……」 緑月屋の一室、庭に面した縁側から見える、池の中には翠色の付き、空には白い月、そして辺りは雪に白く化粧されていて。 その中で梅酒をお湯で割ったものを綾麗へと渡してから、庭を眺めて言うゼタルに、綾麗はゼタルの故郷もこの雪景色と同じような所なのか、そんな風に首を傾げています。 「だが、儀が違えば、同じ雪でも趣が異なるものだね。四季の変化がある故だろうが……何とも、風流だ」 「故郷とこの辺りの雪景色は違うのですか?」 「うん、この辺りも雪は多くて寒いし、吹雪くこともあるだろうけれど、もっと寒さが厳しいところかな」 そう答えてから微かに笑みを浮かべて月明かりにぼんやりと輝く庭を見ながら一口杯を口にすると。 「この風情を感じるならば寒さに身を晒していたくなる」 そう呟くと、暫く池の月を見つけてから、笑みを浮かべてゼタルは綾麗へと目を向けます。 「共に君が居てくれれば、尚楽しいよ」 「ゼタルさん……」 「ん……口に合わないかい?」 「あ、いえ……」 言われて手の中のお湯のみを口元へと寄せて飲めば、ほうと一つ息を吐く綾麗。 「美味しいです……」 梅酒の爽やかで甘い味わいと暖かさに笑みを浮かべるも、お酒の酔いかそれとも別の理由か、ほんのりと綾麗の頬は赤く染まるのでした。 「いや、本当に楽しい宴だったな」 「お鍋も蟹もお酒も、どれも美味しかったですねぇ」 「利諒は蟹の殻剥きお疲れ」 緑月屋の二階の窓から眼下に見える篝火の中の雪像を見下ろしながら、舞華と利諒は二人で熱燗を付けて七輪で干物を炙ったりしながら飲み直しをしていました。 先程まで緑月屋へと顔を出した東郷実将や伊住宗右衛門翁、それに穂澄などと楽しく夕食がてらに宴をしてきたところで、それぞれが部屋に戻ったところで二人も戻ってきて。 「利涼とこうやって他愛無い会話でずっと一緒に過ごせる日が、何よりの宝だと改めて感じる」 「僕も、本当に大切な宝です。何よりも、舞華さんがこうしていてくれる時間が」 幸せそうに微笑み合うと、さ、一献と利諒が舞華の杯へとお酒を注ぎ、舞華も利諒が注いだ徳利を受け取って利諒の杯へとお酌をして。 「今日は一緒にいられて楽しかった」 「僕も楽しかったです」 そう笑むと、杯を掲げてからぐと干して。 「明日はもう少し上の、山の方を見に行ってみましょうか」 とっておきの絶景が見られる場所があるんですよ、利諒の言葉に微笑んで頷くと、寄り添うように座りながら、舞華は窓の外の景色を眺めて。 白く輝く雪と、空の月はそんな二人を見守っているようなのでした。 |