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■オープニング本文 その日、開拓者ギルド受付の青年利諒は武天芳野の景勝地、六色の谷にある緑月屋という老舗の宿で、伊住宗右衛門翁と顔を合わせていました。 「あらら、団体様の予定が無くなってしまったわけですか」 「色々とあったようで、次の機会にとなりまして……」 そう話すのは緑月屋の女将さん、どうやら急にどうにもならない事情でお泊まりの予定があった団体様が急に来られなくなってしまったよう、それに関しては仕方がないこととなるのですが。 「そこで、団体様用に用意をした食材が、と、こういうわけじゃな」 それがあって、宗右衛門翁へと知己の女将さんが相談したことのようで。 「食材が確かに勿体ないですよねぇ。あぁ、成る程、予約取り消しになってしまったので、食材を準備する手筈をしてしまっていて断るのも付き合いもあるから、無駄にするのは、って事なんですね」 「ええ、そう言う事なんですよ。開拓者さん達でしたら、うちも安心できますし、折角の鮟鱇や牡蠣ですので、ご希望があればご希望に添った調理なども行いますし、うちの厨房を使って料理をして頂くのも可能ですよ」 女将さんの言葉にお誘いの文面を考えて紙に書きながら、軽く首を傾げる利諒。 「取り敢えず、お部屋の空きもあるし、温泉がてらに食材を楽しみに来ませんか、と言うことで良いのでしょうか?」 利諒の言葉に頷く女将さん、それを確認すると、利諒は筆を走らせお誘いの文面を書き上げるのでした。 |
■参加者一覧 / 礼野 真夢紀(ia1144) / セシャト ウル(ib6670) / クアンタ(ib6808) / シリーン=サマン(ib8529) / ディヤー・アル=バクル(ib8530) / 江守 梅(ic0353) |
■リプレイ本文 ●緑月屋へ 「アンコウ? カキ?」 出かける準備をしていた礼野 真夢紀(ia1144)のお手伝いをしながら、不思議そうに首を傾げるのはからくりのしらさぎ。 そんなしらさぎの様子に、着替えを畳んで荷にしていた真夢紀はちょっと考える様子を見せると口を開きました。 「冬の味覚の一つだけど、牡蠣は殻の始末に手間取るからむき身を偶に使う位だし鮟鱇食べる人数少ないと買い難いからあんまり下宿じゃ使わないもんねぇ」 しらさぎがまだ知らないのも当然ね、そう頷きながら言うと、荷を丁寧に包んでにっこりと笑う真夢紀。 「新鮮なものが沢山らしいから、楽しみね」 「たのしみ」 真夢紀の言葉にこっくりと頷くと、しらさぎもきちんと畳んだ着替えを荷物に詰めるのでした。 「暢気に何だか楽しみですわねえ」 「おや、異国の方々か」 緑月屋へとやってきたディヤー・アル=バクル(ib8530)、共にやってきたクアンタ(ib6808)と荷物を持ってのほほんとしていたシリーン=サマン(ib8529)の三人に気が付いて声を掛ける伊住宗右衛門翁、と、ちょっとディヤーがびくっとしたよう。 そこは緑月屋の廊下の一角、お客人を見かけたからだったのですが、どうやらディヤーは初見の相手だったためちょっとだけ怖く感じた様子で。 「そ……」 「ん?」 「そ、宗右衛門殿か! 本日は姉二人ともども世話になる。何か失礼の段あれば、余に言うて欲しい!」 ちょっと怖がってしまったそれはそれ、長だから、と精一杯に胸を張って言うディヤーに、宗右衛門翁は目を瞬かせるも笑みを浮かべて頷くと。 「よう来られました、緩りと楽しんで行かれますよう」 微笑を浮かべて言う宗右衛門翁に目を瞬かせると、ディヤーもにと笑みを浮かべて。 「この、ろ……ろ、り……の?」 「はい?」 「ろくしきのたに、です、ディヤー様」 どうやら六色の谷が読めなかったらしく、何と言って良いのか分からない目をシリーンとクアンタへ向けるディヤー、シリーンはディヤーの覗き込んだ紙を不思議そうに見ますが、クアンタが何を言いたいのかが分かって訂正して。 「??」 「では、失礼致しますね」 「では、また後程」 不思議そうに首を傾げているディヤーを他所にシリーンが宗右衛門翁へと改めて挨拶してから、シリーンとクアンタの二人に促されて部屋へと向かうディヤー。 「ろくし……?」 まだちょっと首を傾げていたディヤー、部屋に向かえば、近くの部屋に既に荷を置いたセシャト ウル(ib6670)がちょうど出てきたところで、三人に気が付くと大きな眼をぱちくりさせると直ぐににっこりと笑います。 「あら……こんな所で、同じ国の人に会うなんて不思議な感じね♪ よろしく!」 「む……? 同郷か?」 「……王子様できらきらな少年とそのお姉さんたちかしら?」 「余こそ、砂漠の光っ! ディヤー! ヤー……やー……ゃー?」 「ディヤー・アル=バクル様ですわ」 「ディヤー様、どうか、せめて御自分の名ぐらい……」 同郷同士話は弾んだかどうか……何はともあれご挨拶を終えて、三人は部屋へ、セシャトはのんびり宿の周りでのお散歩へと向かうのでした。 「この度はご招待頂きおおきにどした」 「いえ、いらして下さって嬉しいです、どうかご緩りとご滞在下さい。何かあればお言いつけ下さいませ」 緑月屋に到着した江守 梅(ic0353)を出迎えたのは宿の女将さん、梅は微笑を浮かべながら部屋へと案内されて。 「まだ日が落ちれば肌寒いどすし、身も心も、温まりたいものどすなぁ」 そう笑みを浮かべてお部屋へと入ると、まずは御茶とお茶菓子を頂いて一息。 季節だからでしょうか、品の良い月と梅を象ったお茶菓子に目を和ませると、障子を開け放った窓から見える景色に、暫しの間のんびりとした時間を過ごすのでした。 ●厨房の一時 「これが鮟鱇ですか」 興味深げに言うのはシリーン、折角だからと料理を作っているところを見学しようと思ったようで、板前さんが梁に吊す鮟鱇を興味深げに見ています。 「凄いわね……」 セシャトも興味津々のよう、宗右衛門翁と一緒に折角なのでと鮟鱇の吊るし切りを一緒に見ようとなったよう、板前さんが土間に大きな盥を置いて、吊した大きな鮟鱇にお水をたっぷりと注ぎ込みます。 早めに厨房に入ってきていた真夢紀としらさぎは調理の準備とお手伝い中のようで、かくんと首を傾げるしらさぎ。 「マユキ、アレ、たべられる?」 「鮟鱇は鍋の具にする事が殆どよね。俗に鮟鱇の七つ道具とか言うのだけど、皮や内臓とか」 「カワ? ナイゾウ?」 「ええ、殆ど食べられるの。食べられないの顎の骨位じゃない?」 「これ……お魚なんですの?」 「ええ、美味しいんですよ」 「凄いのですねぇ、無駄になるところがほとんど無いのですか」 しらさぎに真夢紀が説明していれば、それを聞いて感心したように頬に手を当てて頷くシリーン。 「そろそろ梅の時期、鮟鱇も食べ収めの時期どすねぇ」 「そうなの?」 「鮟鱇は梅の咲くまでと申しはりますから」 お吸い物を作る支度をしていた様子の梅が言えば、目を瞬かせるセシャトに冬の旬物なので春を告げる梅の頃には、と微笑を浮かべていって。 やがて板前さんが包丁を入れて皮を剥げば、存外綺麗に剥けるのに、一同驚いてみたり感心したり。 「鮟鱇は鱗がない分、下拵えなども含めて扱いやすいとは聞いたことがあるが」 「殆どの部位もたべられますから……」 「逆に考えれば骨から上手く外していけば良いということですねぇ」 鮟鱇を手際良く捌いていく板前さんを見ながら、宗右衛門翁の言葉に頷く真夢紀、シリーンは板前さんの手順を見て感心しているようです。 「さて、と……しらさぎ、これが牡蠣よ」 「カキ……カキ?」 真夢紀が手に取った大きな牡蠣を見てかくんと首を傾げるしらさぎ、殻の間に小刀をいれてぱきりと開くと、塩水でさっと洗う真夢紀。 「……これはどう食べるのかしら? 正直……お魚さんはまだしも、このぷにょっとした貝は正体不明ね」 「とても美味しいんですよ。新鮮な物が沢山ありますし、お食事の時には七輪で焼いたりしましょうね」 そう微笑を浮かべながらさっと流水で洗った牡蠣を小皿に出し、辛いのが平気かと興味津々で見ているセシャトに確認してから、用意しておいた紅葉おろしをちょんと添えてから、真夢紀が合わせた果汁酢と薄口のお醤油のそれをちょんとかけ。 殻ごとのそれをお味見いかがですか? と差し出され受け取ると、どきどきした様子で見てから、つるっと食べると勧められるままに口にして、その大きさに目を白黒させるもひと噛み、ふた噛み。 「…………」 「如何ですか?」 「お……おいしーっ♪ すっごく濃厚なのに、この酸味と辛みと合って……いくらでも食べられそうだわっ」 思わず耳をぴこぴこさせながら幸せそうにうっとりとしているセシャトに笑みを浮かべる真夢紀。 「それで、七輪で焼くというのはどのようにするんですの?」 この後ディヤー達と部屋で食事を頂くことにしているシリーンがそう尋ねれば、七輪で牡蠣を焼くときのコツなど説明する真夢紀。 「わかりましたわ。ありがとうございます」 にっこりと笑うと暫く厨房で色々と聞きながら料理をしてから、そろそろ部屋に戻る頃合いだったのでしょう、シリーンはのんびりとした様子で部屋の方へと向かうのでした。 「薄味は他儀の方には向きませんどすか?」 「んー、そんなこと無いわよ?」 こちらは料理が余り得意ではないようすのセシャトが、梅に色々と聞きながら折角なのでお手伝いをしたいとなったようで、ちょっと危なっかしい手つきで包丁を握っては、笑みを浮かべた梅に手を添えて直して貰ったりしています。 「スープが、薄口なのにこんなに色んな味がするなんて思わなかったわ」 セシャトがそう言って笑えば、梅も微笑して頷くのでした。 ●若様と従者二人 「さ、ディヤー様」 「うむ、郷に入りては、なんじゃったか。そういうじゃろう!」 部屋から直に出られる露天風呂、クアンタが促せば頷いてからその露天風呂へと足を進めるディヤー、宿で借りた浴衣をクアンタが用意して籠へと入れて縁台へ置くと、手拭いを手にたかたか服を脱ぎ散らかしていざ湯船へ。 「……熱い……」 「あぁ、ディヤー様、入る前にお湯を身体にかけてからでないと……」 クアンタが脱ぎ散らかされた服を畳んでから後を追ってくれば、薄手の着物に着替えていたようで、それをまくり襷がけして。 「さ、髪を洗いますよ」 「洗う! 一人で入る! ぎゃー!」 「ほら、暴れないのっ。あ、シリーン、良いところに戻って来たわ、手を貸して」 「あら、坊ちゃまの髪を洗われるのですね」 部屋に戻ってきたシリーンにクアンタが声を掛ければ、シリーンも直ぐに手を貸してディヤーを押さえます。 「余は一人で! ごぼっ!?」 「洗っている間は口を閉じる!」 「クアンタ様、私は背中をお流ししますわね」 「ああ、そちらは頼んだ」 「目、目がーっ! がばっ!」 「あらあら、髪が洗い終わったら目も洗いましょうね、坊ちゃま」 じたじたして頭にお湯がかけられる度に大騒ぎとなって、クアンタとシリーンの二人もお湯を被りまくっては居ますが、何とか綺麗に洗えたよう、お湯で塗れた銀色の髪がきらきら輝き満足げな二人。 シリーンが口をゆすげるようにお水を持ってきて顔を拭いてあげている間に、クアンタがささっと手拭いで髪を拭いてあげていて。 「では坊ちゃま、ゆっくりされて下さいね」 「ちゃんと肩まで浸かりしっかりと暖まるのが温泉だそうです」 「うう……」 既に目一杯抵抗していたせいかへろりとしながらちゃぽんとお湯に浸かるディヤーですが、ぽかぽかと暖かくてなにやらまったりした表情を浮かべています。 そうしている間にクアンタとシリーンは濡れた服をディヤーと同じく浴衣に着替えてから、お店の人へと告げてお食事を運んで貰うことに。 七輪も運び込まれて準備は万端、シリーンが席を整えて居る間に、クアンタはほこほこになってどこかにいる温泉好きのもこもこさんのように幸せそうな様子のディヤーにてきぱきと浴衣を着付けています。 「これで良し……ディヤー様、お湯の方は如何でしたか?」 「うむ、ぬくぬくで良い気持ちじゃった!」 「坊ちゃま、お食事の支度が出来ておりますよ」 「おお、美味そうじゃな」 準備されている卓に笑みを浮かべて言うと、ふかふかの座布団を複数詰んだ席にぽふっとディヤーは収まると、早速シリーンとクアンタはディヤーについてお世話開始。 「見た目は少々悪いですが、栄養価が高く味もなかなかのようですよ?」 お鍋をよそうクアンタ、シリーンは真夢紀に習ったとおりにふんふんと鼻歌交じりに七輪で殻ごと焼いています。 「む、これは何じゃ?」 「その鮟鱇の肝です、このスープにもたっぷりと溶けているようです」 「むぅ、上手いが、何だか取っても脂っこい?」 「肝ですから」 「お、この皿に盛ってあるのは何じゃ?」 「こちらも鮟鱇ですわ。わたくしが教えて頂きながらですが、あげてみましたの」 「ほう、さくさくで、柔らかくてこれも美味しいのじゃ」 ディヤーの言葉に嬉しそうに微笑むシリーンは、焼き立てで檸檬を搾った牡蠣を勧めます。 「む……」 牡蠣の様子にちょっと戸惑ったのかどういったものだろうかと見ていて。 「これは、どういったものじゃ? その、妙な様子だが……」 匂いは美味しそうじゃが、というのに心配そうに見るシリーン、クアンタはじっとディヤーを見て。 「一口食べてから判断なさってください。何事も経験です」 「む……うむ」 言われる言葉に戸惑った様子でいるも頷くと、殻を口元に寄せてつるんと吸うように口にして、もきゅもきゅ。 「う、うまい……?」 「良かったですわ」 嬉しそうに笑うシリーン、せっせとお世話をされ、またシリーンとクアンタも一緒にご飯に舌鼓をうつと、やがてしっかり食べてお腹いっぱいになったのか、ぽわーとし始めるディヤー。 「さ、お休み前に口を濯がれて下さい」 クアンタが言えば、その間にシリーンは引かれたお布団を確認し、やがて戻って来たディヤーに添い寝に子守歌で寝かしつけて。 「むー……」 座布団をぎゅむーと抱き締めて眠るディヤーを確認してからシリーンが戻ると、クアンタと二人、漸く自分たちのお風呂の時間でゆっくりと温泉に浸かって疲れを洗い流すと。 「毎日お疲れ様」 「ふふ♪ クアンタ様こそ。私は坊ちゃまがのびのびお過ごし下さればそれだけで……」 日本酒を燗で付け二人で杯を酌み交わしながら、シリーンとクアンタの従者二人、次の間ですやすやと穏やかに休むディヤーを微笑ましげに見ながら、ゆっくりとした時間を過ごすのでした。 ●緑月屋の夜 「これは?」 「梅のジャムどす」 自家製らしい梅のジャムを添える梅、セシャトが聞けばそう答え、試しにセシャトは鮟鱇の肝にちょんと付けて、ちょっぴりお醤油をかけて食べると、甘酸っぱい味覚ととろりとした舌触りにほわっと笑みを浮かべます。 「あぁ、もう幸せっ」 嬉しげに食べるセシャトに笑みを浮かべて見る梅、宗右衛門翁は真夢紀としらさぎが焼く牡蠣を頂いているところのようで。 「紅葉おろしは牡蠣にも鮟鱇にもよう合っておりますなぁ」 「飲めないのですけれど、お酒に合うと聞いて」 「確かに、これはよう酒に合う」 にこりと笑う真夢紀、しらさぎが鮟鱇鍋を小鉢に装って渡す野にも礼を言って舌鼓の宗右衛門翁。 「宗右衛門さん、このお吸い物、美味しいわよ」 「ほう、花のお麩とは、趣があって良い……」 薫り高く少し薄口のお吸い物は、鮟鱇と牡蠣ふんだんの食事の席の中でもほっとした味わいで、どうやら宗右衛門翁とセシャト、全く同じ表情でほぅと息を付いていて思わず小さく梅は笑みを浮かべます。 「良い味わいどすなぁ……」 そう穏やかに笑みを浮かべて梅は笑み、真夢紀はしらさぎに色々と料理で思いついた事などを話し合いながら果物酢などを宗右衛門翁に勧め。 セシャトが一つ一つを良く味わって幸せそうにすれば、それを微笑ましく見る一同。 そんな風に、穏やかな食事の席はゆっくりと過ぎていきます。 食事が終わり、それぞれがそれぞれの部屋へ。 「しらさぎ、月が綺麗ね」 「ツキきれい?」 「うん、雲も掛からないで、綺麗にみえるでしょ?」 お部屋の温泉にゆっくりと浸かって見上げる真夢紀、しらさぎもちょんと一緒にお湯に浸かりながら空を見上げると。 「ツキ、きれい」 こっくりと頷いて言うしらさぎに、真夢紀はにっこりと笑みを浮かべるのでした。 「そうそう、今回は温泉宿なんでしょう? 柑橘類をお湯に浮べるっていうのを一度試してみたかったの」 セシャトが女将さんにそう言うと、直ぐに準備しますね、と笑みを浮かべる女将さん。 窓から外が見られる室内のお風呂、檜の良い香りがするそこに浮かぶいくつもの柚子、よい香りが浴室中に漂っていて。 「……たしか、これがゆず湯ね! 良い香り!」 嬉しげで幸せそうなセシャトは、十二分にぬくぬく暖かって幸せな表情のままに、ほこほこになってお湯を出て来ると、浴衣でのんびりと歩いて行けば。 「あ、宗右衛門さん。宿に来る前に珈琲を買ってきたの。一緒に如何かしら?」 「ほう、珈琲と言えば、異国の飲み物と伺っておりましたが、飲んだことはありませんな」 お誘いなら是非と笑みを浮かべる宗右衛門ににこにこしながらお部屋へと誘って、セシャトはそこで珈琲を入れて宗右衛門翁に振る舞って。 「なるほど……独特の香りですが、良い香りですなぁ」 苦みも気に入ったか笑みを浮かべる宗右衛門翁に、セシャトはちょっと得意そうな満面の笑みを浮かべると、自身も幸せそうに珈琲を啜るのでした。 お部屋のお風呂でゆったりと暖まると、梅は浴衣に一枚羽織って縁側へと腰を下ろして庭を眺めて居ました。 静かな温泉宿に穏やかな心持ちで月を見上げてから、中庭の池へと目を落とす梅。 「ほんに、緑色の月……」 月が池に映ってきらきらと緑色に見えるのにそう呟くと。 緑月屋でのこのひととき、梅は静かなこの時間を、月を眺めながらゆったりと過ごすのでした。 |