捕物の帰りに
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: ショート
相棒
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/03/31 23:18



■オープニング本文

「はぁ、思ったより手間ぁ、かかったな」
 それは大規模な夜の捕り物を終えた帰り道、明け方に協力をしてくれた茶店で簡易的な朝食などを頂きながらの会話、そんな様子を武天の治安維持に関わる老中であり、芳野の領主である東郷実将が煙管を薫らせながら微かに笑みを浮かべてみていました。
 緩く煙を吐くと先程の捕り物を思い浮かべる実将、大規模な夜盗の集まりが、何処か狂気にも通じる様子の凶行、早い段階で押さえられたのは良かったも、賊徒達の狂気の帯具合に違和感を憶えており。
「あ、あぁ、い、いらっしゃった……」
 そこに駆け込んでくるのは直ぐ側の大きな農家の下働きの男性。
「何かあったか?」
「そ、それが、突然うちの坊ちゃんや使用人の若いのが暴れて、旦那様方を人質にして、立て籠もり……」
「……確か吉岡の……そこのぼんと言えば、確か十三かそこいらの……」
「はい、その、鍬や包丁持って立て籠もってしまったのですが、元はどれもこれも温和で家の事も良くやるお坊ちゃんや使用人たちなので、正直どうしていいのやら……」
「……」
「手荒なことをして、坊ちゃんや若いのたちもそうですし、旦那様方に何かあっても困りますし……」
 農作業などを手伝ったりしてそこそこ力はあるようではありますが、あくまで一般人、凶賊達の捕り物とは明らかに違います。
 少し目を伏せて何事かを考えるも、ぽんと煙管盆を引き寄せ灰を捨てると、一行へと顔を向ける実将。
「ちと気になることもある、面倒かけることになるが、ついでの仕事を引き受けちゃくれねぇか?」
 実将はそう言うと立ち上がって煙管を布で包んで懐へ納めるのでした。


■参加者一覧
緋桜丸(ia0026
25歳・男・砂
九竜・鋼介(ia2192
25歳・男・サ
鈴木 透子(ia5664
13歳・女・陰
ユリア・ソル(ia9996
21歳・女・泰
嵐山 虎彦(ib0213
34歳・男・サ
御形 なずな(ib0371
16歳・女・吟


■リプレイ本文

●早朝の茶店
「なんや今回は残業かー……ゴー・トゥー・ヘル・アヤカシ! やな〜♪」
 ぼやいていたかと思えば節を付けて歌う御形 なずな(ib0371)。
 一行は改めて走り込んでいた農家の下働きの男性へと話を聞いていました。
「やれやれ一般人相手か……あまり傷付けないよう慎重に行わねばな」
「やはり確保した時にどうするかを考えないとな……手拭いや縄が必要か」
 緋桜丸(ia0026)が肩を竦めて言えば、頷くと茶屋の主へと幾つか手拭いと縄を頼んでから、九竜・鋼介(ia2192)は駆け込んできた男性へと顔を向けました。
「それで、中の間取りを教えて貰いたい」
「へぇ、えぇと、まずは塀の内側ですが……」
「母屋がこうあって、蔵がここに……母屋の内部はどうなっていますか? 朝食の頃合いだったのですよね?」
 ささっと紙に書き出しながら尋ねる鈴木 透子(ia5664)に、ユリア・ヴァル(ia9996)と嵐山 虎彦(ib0213)はその図面を確認しながら顔を見合わせます。
「狂気を起こさせるアヤカシね……面白そうなのがうろついてるわね。興味はあるけど、まずは巻き込まれ人をさっと助けて来ましょう」
「狂気を引き起こすってぇなぁ、あのアヤカシだろうねぃと」
「心当たりがあるの?」
「あん? まぁ、確認してみねぇと何ともだが、賞金首の無有羅ってアヤカシじゃねぇか? ギルドに貼ってあるぜ」
「ふぅん……具体的にはどんな目的を持っているのかしら」
「さっぱりわからねぇ。実際、ただあちこちで狂気振りまいているだけっぽくてなぁ……」
 今のところまだ資料が少ないらしい、そう話す嵐山になるほど、と言いつつも釈然としない様子のユリア。
「ただ、俺もちぃと無有羅絡みと思われるモンに関わったことがあるが、人を混乱させて、互いに傷つけさせるってぇのは、やっぱり無有羅の仕業だろうな……まったく、性根の腐ったアヤカシだ」
「離反させる、っていう明確な意味があれば、理解もし易いのだけれど。そうそう、中の人達を傷付けないように、これ預かって貰えるかしら?」
 首を傾げるユリアですが、武装を外して布できちんとくるむと、茶屋の主と打ち合わせている様子の実将へと預けます。
「おう、確かに預かった」
 実将が荷を請け負えば、大凡の内部まで書き込まれた絵図面を透子が完成させて広げます。
「恐らく、立て籠もった部屋から移動はしていないと思うと言うことだが……」
「正確な配置を確認出来なければ。突きつけたものが農具でも、弾みで命を奪うには十分だからな」
 実将が聞いた内容の説明をしていれば、絵図面を見ながら眉を寄せる九竜。
「人質が屋敷のご夫婦に、女中さんが三人の、計五人ですね」
「目的を持っての立て籠もりなら、人質を盾に色々と動いたりするんだろうが……」
「そうじゃない場合、やっぱりあちこち動かねぇで、その場に留まっていると思って間違いねぇだろうが」
「一応、その辺りもちゃんと確認してからが無難ということね」
「取り敢えずは、まず調査やね〜」
 透子の言葉に考える様子を見せる緋桜丸、嵐山も考える様子を見せれば、腕を組むユリアになずなも頷くと、それぞれが絵図面を確認しながら動きを確認していくのでした。

●豪農の屋敷
「……」
 屋敷を囲む塀に身を寄せて屈み込むと、透子は符を手で確認してから目を瞑って一つ息を吐きます。
「現状奥の屋敷以外は問題なく入れますが、その先ですよね……」
 先程なずなが、奥の屋敷に入って壁に耳を当てて聞き耳を立てようとしていたのですが、調べも無しに屋敷に入って、奥の部屋から見えては取り返しがつかないことになると止められていて。
 絵図面から大凡安全であろう配置にあたりをつけて、先に透子と万一に備えて九竜がついて忍び込んでおり。
「視界に入りさえしなければ、相手は一般人だが……」
「思った通り……裏口から縁側へ入れそうですね」
 奥の屋敷にまだ近づいていないこともあり、小声で確認しあうと、農家ということならばと大凡の屋敷の構造は予想がついたこともあり、改めて周囲を見渡す透子。
「ここから先は筆で……」
 透子が言えば頷く九竜、慎重に縁側を伝い縁の下から床下へと入り込む場所を見つけてその下へと潜り込む二人。
「……」
 符を取りだして人魂を作れば、それはするりと小さな白い鼠となって針を添って縁側の上、そして目的の奥の座敷へ。
「……?」
「……」
 無言で九竜が筆を差し出せば、頷いて紙へと部屋の配置を書き出す透子、どうやら人質となって居る主人夫婦と下働きの娘さんの三人はひっついて下手に刺激をしないように大人しくして様子を見ているよう、縛られているなどはないようで。
 そして若者達は鎌を突きつけている少年と、部屋の入口、廊下と縁台のあたりで何かを気にするように落ち着き無く、僅かに怯えで歯を鳴らしているようです。
「……」
「……」
 手早く筆を走らせ現状を認めると、それを持って九竜が一旦戻り他の者が待機している場所へと引き返してきます。
「ふむ、どうやら4人は恐慌状態にあるみたいだな……恐慌だけに強行突破……をする訳にはいかないがねぇ……」
「配置的にこちらから入って行けば、建物に添って近付けそうだな……」
 九竜が絵図面を出しながら言うと、緋桜丸が愛銃を手に配置を確認すれば嵐山とユリアはどちら側からどう回るか、どちらを取り押さえるかと突入時のことを確認して居て。
「あれやな、なんか説得は難しそうだし、混乱してると私の姿もどう見えてるか分からん。通りすがりの美少女でもアヤカシとかに見える状態かもしらんな。これはあえてさらにビビらせる方向で行ってみるか」
 そう言ってなずなは鬼の面を手に取り被ろうとして、それに気が付いた嵐山は眼を瞬かせます。
「嬢ちゃん、何してんだぃ?」
「何って、ビビらせる方向なら怪しい姿せな」
 そういうなずなの姿はロングコート、確かにそれに鬼の面ともなれば怪しさは満点ですが。
「いや、錯乱状態でしらねぇ奴の姿見るだけで危険なんだぜ、やめといた方が良い」
「うーん、人質に危害を加えようとしたらトリコロスと脅すつもりやったんやけど」
「交渉する前に、鎌を突きつけている子が錯乱してしまう方が可能性は高いわね」
 最初、正面から説得に行くつもりだったユリアも現状を確認して考える様子を見せており、ならしゃーないか、と鬼の面をごそごそ仕舞い込むなずな。
 改めて一行は手順などを確認してそれぞれの持ち場へと移動していくのでした。

●救出
「うわっ!?」
「な……っ!?」
 一瞬の閃光、緋桜丸が放った閃光練弾が室内を染め上げれば、その一瞬だけ目を伏せていたユリアと嵐山が廊下の辺りへと立って若者二人を左右から押さえに入ります
「破っ!」
 瞬脚により一気に間合いを詰めて一人の若者の首筋に手刀を叩き込み昏倒させるユリア、
「知り合いを傷つけちまったら、お前さん達にとってもそれは心の傷になるだろうしな、そうはさせねぇぜ!」
 鍬を振り上げようとした若者に、鍬の柄へ十手でがっちりと当たりに行き、一気に引き倒して押さえる嵐山、九竜が人質と若い少年の前に立つ青年へと奔り寄り、十手で手斧を受けると弾き返し空いている方の腕で手斧を持つ手をがっちりと受け止めて握りしめて。
「斧を悪用すると懊悩するハメになるぞ」
 言いつつぎりぎりと力を込め、斧を握る手が弛んだところで斧を取り上げて押さえつける九竜。
「っ、な、なんだ、何が起きた!?」
 閃光を直視したのか片手で眼を擦りながら、握った鎌を振りまわしかける少年ですが、人質と少年との間を阻む白い壁が、しっとりとその鎌先を受け止めて滑らせます。
 それは縁側から人魂の視界を利用して透子が作り上げた結界呪符「白」の壁。
「う、ぁ……?」
 何が起きたか分からない様子の少年ですが、まだ戻りきっていない視野にすと現れる人影は緋く。
「少しくらいの峰打ちは大丈夫かな? 男子ならちっとは歯ぁ食いしばれってな」
 その言葉が少年の耳に届くとほぼ同時に、他の三人を押さえ込んでいる所にするりと入り込んできた緋桜丸の一撃が少年の意識を刈り取るのでした。
「な、な、な……」
「私達は立て籠もりを制圧するようにって頼まれた開拓者よ」
 目の前には白い壁、何が起きたのかというのと何者かを問おうとしていた屋敷の主にそう言うと、ユリアは縄を受け取って暴れないようにと青年の一人を縛り上げていて。
「どういう事情があるかは此奴等に聞くことになんだろうが……落ち着くまでちぃとかかるだろうなぁ」
「あ、あの、こ、この子達は、どうなるのでしょう、まさか……」
「いや、役人には引き渡さない。ただ、落ち着くまで暴れないように一応拘束しているだけだ」
 手早く一人の青年を縛り上げてから顎を擦って言う嵐山に、息子や家人達のため心配そうに白い壁の横から顔を出して尋ねる主、それに答えるのは、万が一暴れて舌を噛んでもと思ってか手拭いで猿轡を噛ませている九竜です。
「原因が、虎が言っていたギルドに貼られている賞金首のアヤカシだってんだったら、ただ錯乱しているだけだし、少し経てば治るだろう」
「ほ、本当で御座いますか? よ、良かった……」
 緋桜丸が言うのにほっと胸を撫で下ろす主人は、改めて何度も一行へと頭を下げて礼を言うのでした。

●早朝の散歩で見たモノは
「少しは落ち着いたようだが……何があったんだ?」
 そう尋ねる九竜に、顔を見合わせる少年と青年達。
「大丈夫だから、ゆっくりと、ね?」
「う……あ……」
 結局の所、主人達に引き留められたのもありますし、彼等が何故錯乱に至ったのかを確認する意味もあって、一行は少し遅くなってしまったお昼を頂いてから、彼等の話を聞くことになりました。
 まだ何処か怯えた様子の四人でしたが、ここの主夫婦の子供という少年を宥めるようにユリアが話しかけると、歯をがちがち言わせながら少年は何度も言葉を探していましたが。
「あ、さ……起きだして、いつもみたいに、鶏小屋に向かってたら……ごんた……うちの犬が、きゅんきゅん泣いてたから、ちょっとその前に寄ろうと思って、多吉を読んで、一緒にそっちに……」
 つっかえつっかえ話す少年、どうやら年嵩の青年を呼んで一緒に犬の様子を見に行こうとしたところ、畦道をのろのろと歩く、黒い青年を見かけたそうで。
「この辺にあんな人居た記憶がないから、こんな時間に、旅人が迷い込んだのかって、そう思って……」
 お困りですか、そう声を掛けたときに、その黒い青年が彼等を見て、にぃと笑ったそう、そこまでしか憶えてないとのことで。
 残りの二人は、農具を出してから、二人が黒い人物と何やら話しているように見えて、何事だろうと道具を担いで歩み寄って、同じく青年の眼を見てしまったとか。
「やっぱり、無有羅だろうねぃ」
「どちらの方に行ったのか、とかは……いえ、眼を見て憶えていないのでしたら、その青年は、どちらの方からやって来たのでしょうか?」
 嵐山が頷き、透子が少年達へと質問しかけてから、尋ねる言葉を修正して聞けば、無有羅のやってきた方から逆に考え、大凡の方向は分かって。
「確認が必要ですが、それはまた別の仕事になりそうですね」
 透子が言えば頷くと取り敢えず彼等を休ませておこうとなって、立ち上がる一行。
「なんにせよ、大事にならなくて良かった」
 九竜の言葉に少年達も礼を告げるとお布団へと横になり直すのですが、どうにも落ち着かないよう。
 他の者たちが客間の方へと戻って行くのを見て、ユリアは自身の荷からりゅうのぬいぐるみをひとつ取りだします。
「このりゅうのぬいぐるみをあげるわ。知ってる? 悪夢が大好物な龍がいるんですって」
「悪夢が好物の、りゅう?」
「ええ、だからこの龍の名前を呼べば悪夢を食べてくれるのよ。名前は『バーク』よ」
 そう言って少年へとぬいぐるみを渡すユリアは、縋るようにぎゅっと大切そうにぬいぐるみを抱き締める少年の頭をそっと撫でて。
「それからこれはサービスよ、滅多にしないのだから感謝しなさい」
 そう言ってゆっくりと歌い出すユリア、それは子守歌で、布団に潜っている少年や青年達は、恐慌状態にあったための緊張を、その歌で少しずつ解いていくと、やがてうとうとと眠りへと落ち込んでいき。
「……安心して、眠りなさい……」
 そう小さく呟くと、眠りに落ちていく四人を暫し眺めてから、ユリアもそっとその部屋を後にするのでした。