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■オープニング本文 その村は、山間を通る道の中にありました。 神楽より武天の首都の此隅へと向かうとある道、山の中で二股に分かれたその道は、左手の山の中に向かっており村へ、右手の森の中を向ける道は街道へ。 それぞれの道は山と森の中を平行するように通っており、山の村へと至る道は、そのまま山の中で村となり、此隅側へと抜ける道があり、街道で分かれた道は再び一本へと繋がります。 故にその村を抜けるには、どちらかの道を抜ければ目的の場所へと至れるはずです。 ‥‥その道を抜けられた、なら‥‥。 その少女は、厳しい山を越えて街道へとずたぼろになりながら辿り着き、通りすがった商人に助けられ神楽までやって来たそうです。 「村に、ばけ、ものが‥‥」 小さく震える少女が語るには、此隅へと向かおうとしていた伯父が突如現れた鎧を身に纏った大きな鬼に、嬲り殺しにされたそうです。 そうして、その化け物の出現に、開拓者にアヤカシ退治を頼もうと神楽へと向かう道へ少女と共に出た父が、目の前で燃え上がったそう。 本当に少女が助かったのは、運が良かったとしか言えないそう。 燃え上がりながらも少女を逃がそうと父が抵抗したからでしょう、少女は山の中へと逃げ込み、やっとの思いで道無き山を越え街道で意識を失い、神楽へ助けを求めにと譫言に言う姿を見つけられ、本当に運良くその商人に助けられたとのこと。 「見かねてこちらまで‥‥本当だったらどこぞでゆっくりと休ませてやりたいのだが」 商人は神楽と此隅を行き来して暮らしを立てているとか、一人で旅をするだけ合ってそれなりに腕は立つもののそれはあくまで一般人としてのもので。 「父さんが、依頼料、持たせてくれました‥‥村の、皆をあの村から、逃がして欲しいんです‥‥あいつら、人を、嬲って、楽しんで‥‥」 言う少女の目に見る見ると涙が浮かびます。 必死であったために麻痺しかけていた感情が、神楽へと辿り着き開拓者ギルドへと頼む事によって、徐々に落ち着くことによって戻って来たようで、嬲り殺しにあった伯父と父親の姿を思い出したか顔を覆って嗚咽を漏らす少女。 「村人を避難させて、行く先は‥‥」 泣いている少女に聞くのに気が咎めたのか付き添ってきていた商人へとそうっと聞けば、少女の村はあまり大きなものではなく、此隅側に一日程行った所に少女の祖父が持つ村があると聞いたと応える商人。 「お願い‥‥みんなを、助けて‥‥」 嗚咽を漏らしながら繰り返す少女に、受付の青年は痛ましい表情のままに依頼書へと筆を走らせるのでした。 |
■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034)
21歳・女・泰
高遠・竣嶽(ia0295)
26歳・女・志
華御院 鬨(ia0351)
22歳・男・志
鷲尾天斗(ia0371)
25歳・男・砂
柳生 右京(ia0970)
25歳・男・サ
大蔵南洋(ia1246)
25歳・男・サ
水津(ia2177)
17歳・女・ジ
菘(ia3918)
16歳・女・サ |
■リプレイ本文 ●脆弱な餌で終わらじと少女言い 「村を捨てねばならんとはな‥‥せめて鬼がどちらか一方であれば、残る一方の道を使い生活が維持できたろうに」 「あの少女は既に見知った人を二人も失ってしまったのですね‥‥これ以上惨状を広げず可能な限り多くの村人を救わなければ。急ぎましょう」 深い闇色の目をして小さく震えている依頼人の少女を見て微かに呟く大蔵南洋(ia1246)、その言葉に痛ましげに僅かに目を伏せ高遠・竣嶽(ia0295)は頷きます。 「開拓者じゃないと出来ないこと、沢山あるんだ‥‥」 少女の有様に言葉を途切れさせる菘(ia3918)、暢気というか大らかというかそんな菘にしてみれば、開拓者になって外の世界を見るようになっていなければ一生関わらなかったかもしれないし、逆に自分に降りかかったかもしれないことに見えるようで。 「ふ‥‥ふふふふふ‥‥私は怒っています‥‥いたいけな貧にゅ、少女をこのような‥‥」 「こっそり貧乳と言いかけなかったか?」 何やら普段の気弱な様子はどこへやら、怒りに震える水津(ia2177)の様子に、へらりと笑いながら槍を担ぎ直しつつとりあえず突っ込んでみることにした様子の鷲尾天斗(ia0371)。 「失礼な。ともあれ、私も今回ばかりは猫を被‥‥もとい、焔の魔女としてのえげつない戦いを鬼達に見せて差し上げなければならないようですね‥‥」 「鬼と鬼ごっこってか? 洒落にもならんなぁ」 「本当は元凶を断ちたいところどすが、人命第一どすなぁ」 水津のちょっとおっかない決意を聞きつつ軽く頭を掻く鷲尾、華御院 鬨(ia0351)が加わり言えば、力量を考えても安全策を取ってもかなり厳しくなりそうだと言葉を交わして。 「呼子の合図を聞き逃すと大変アルな。倒せれば避難させるのに楽アルが‥‥」 梢・飛鈴(ia0034)が受付の青年からせびり出させた呼子を手にやってきて僅かにぼやくように言うと、鬨の手元にある絵図面に目を通して。 「村の建物の陰にさえ上手く入れれば鬼達の死角になるアルが、問題は建物へと達するまでの距離アルか。逆に抜け道へと進むのも同じカ」 「こちらにとっても建物の影は死角どすからなぁ。反対側の森はあの娘の話では険しおす、やはり抜け道を使うしかあらしませんが、ここを横切るときにうまぁく誘導が必要どすなぁ‥‥」 僅かに眉を寄せ言う鬨が少女へと目を向ければ、そこでは柳生 右京(ia0970)少女の前へと立っていて。 「‥‥抜け道を使い、村に案内しろ。村人も可能な限りは避難させてやる」 「おい、ちったぁ言い方を考えてやれよ」 柳生の口調に鷲尾が微苦笑気味に言えば、柳生の言葉に小さく唇を噛んだ様子に気が付いた大蔵が少女へと歩みよって口を開いて。 「挨拶が遅れた、私は大蔵南洋という。今あそこに戻るは辛いと解っているため、酷い事とも思うが‥‥済まぬ、力を貸してもらえぬか?」 少々恐いとも思える容姿の大蔵の、落ち着き払った様子での言葉にまだ微かに震えてはいるものの、ぎゅっと自身の手を握りしめて少女は頷いて震える口を開きます。 「‥‥私は、多恵‥‥抜けたのは夢中だった、けど‥‥父について、普段から、森に入っていたから、案内、出来ます‥‥お願い、皆を、助けて‥‥」 言って一度だけぎゅっと目を瞑ってから振り切るかのように立ち上がる多恵に、大蔵はもう一度済まない、と告げるのでした。 ●伏して入りたる村の中 多恵の案内で一行は村と並行した位置にある街道から森の中を分け入り、道無き道を往き。 「あまり大柄では苦しいかもしれないアルが、アタシ位ならそれなりに通れるようネ」 「全くだ‥‥」 小柄な人なら兎も角、大柄な男性陣は少し苦労しそうな道を登りくぐり抜けていけば、木々の間から漸くに見えてくる村の姿。 「なるほど‥‥これで、右に鎧で左に炎アルか」 「何や憶えとることはおまへんか?」 「ん‥‥村の中から見たときには、大体は村の方をどちらの鬼も見ていたと思う、けど‥‥目に付いてしまったら、だったから‥‥で、でも、あまり大きな音を立てずに駆け抜ければ‥‥」 聞かれる言葉に答える多恵、飛鈴が鬨の手元の絵図に目を向けて改めて出来るだけ鬼の目に晒される時間の少ない、森と建物の距離の近い部分を確認して。 逆に言えばどちらかの鬼と交戦する形となれば炎鬼は村を焼くかも知れないと言うこと、また此隅側の道に沿って移動は出来るものの、そこから鎧鬼の直ぐ側に出るのは難しいとのことで。 「向かいの森からなら、誘導は出来ると思うけれど‥‥」 それは鬼達に挟まれる可能性が高い上村を突っ切る必要があり、まずは何とか村で合流してから機会を窺うこととして。 「鬼に興味は尽きんが‥‥まずは避難から片付ける必要があるな」 僅かに残念そうな色を滲ませた柳生、大分森を歩いた多恵に足場が悪かろうと手を貸す鷲尾はその行動が善意なのか少女愛好嗜好によるものなのかはちょっと判断つき辛いですが、強行軍で同行している多恵にとっては有難い助けです。 「っ! ‥‥酷い‥‥」 僅かに唇を噛む多恵の視線を追って、大蔵も僅かに眉を寄せ。 村へと僅かの距離、神楽へと向かう道により近い家が一つ、消し炭となっていました。 「アヤカシは人を喰らうからな。火を付け炙りだしたのかもしれんな」 「――っ、此隅側の方の家も‥‥」 真っ青な顔で村を見る多恵を気遣うかのように、表面は冷静さを保ちつつも大蔵が多恵の肩に手を置いて口を開き。 「今は一人でも多く助けるため、辛いとは思うが‥‥」 「そう、ですね‥‥村の、中心の、少しだけ大きなあの家が、村長の家です。それぞれの家から、村長への家には集まりやすいですし、皆村長の言葉になら‥‥」 悔しげに唇を噛むも頷く多恵に、鬨は注意深く村の近くへと出来るだけ寄って、意識を集中させ。 「村長さんのお家に幾人か集まっているようどすなぁ」 「集まられていない方も、まずはそこへ誘導するべきでしょうね。神楽側のあの鬼に気取られては面倒なことになりますので、慎重に‥‥」 鬨が心眼によって確認すれば、竣嶽もそう言って。 「行きましょう、今なら鬼達の意識は村へと向いていないようです」 「そろそろ限界であろう、村人を誘導するには体力の温存せねばな」 水津が建物の陰から時折ちらりと見られる鬼達の様子を確認して言えば、大蔵がここまで案内してきて疲れている多恵へと負ぶさる様に促し、躊躇するも小さく謝ってから大蔵に背負われる多恵。 鷲尾が残念そうな様子で冗談交じりに舌打ちした気がしないでもないですが、気のせいでしょう。 ともあれ、できるだけ息を潜め武装が音を立てないように気をつけつつ、足早に道を横切り建物の蔭から蔭へと進めば、無事に辿り着く村長の家。 「村長様、開けてください、多恵です‥‥」 小さく家へと声をかければ、すぐに戸の向こう側から物音がし、何かを動かすような音がした後、木戸が細く開かれて。 「多恵か、無事だったか‥‥早ぅ、中へ‥‥」 一行を迎え入れるのは村の一人らしく、家の奥の方で村長と思しき老人が何とか泣く女子供を相手に宥めているようで。 「ほれ、言ったじゃろう、多恵は戻ってきおったぞ」 「何さっ、あれが遅かったから、うちの亭主が‥‥あいつのせいだっ」 「これやめんか、落ち着かぬか、鬼に聞こえる、声を低ぅ」 声を荒上げる女性を村人の一人が宥めれば、一行に奥へ来るようにと手招く村長、女性の言葉に唇を噛んで俯いた多恵には、菘と水津が肩に手を触れ思い詰めないよう、貴方のせいではない、と小さく声をかけます。 「お見苦しいところを‥‥あれの亭主は燃された家を宜しくない理由で見に行き、入り込んだ家の壁が崩れ、鬼に見つかっての」 他の者の怯えを煽るからか言外に匂わせつつも敢えて言葉にしない村長に竣嶽は頷き。 「こちらに大体の方は避難されているようですが、まだ他の家にも人がいるとお見受けしました。あの方々は‥‥?」 「やれ狭苦しい、来るとも知れない助けを待って、自分の家に盗人でも入ったら、などと‥‥それと、臥せっておる年寄りを鬼に気づかれずに連れ出せぬと、その孫夫婦が残っておりますな」 「それで全部アルか? 見たところ村長さん抜かして7世帯ぐらいあるよ、ここにイルの」 「人を嬲るのが楽しみのような鬼じゃて、お察し下され‥‥」 「解った。ごめん」 村長の言葉に一瞬申し訳なさそうに目を伏せ謝る飛鈴は、空腹と怯えとでぐずっていた子供に気がついて、自身の荷物から饅頭を取り出してあげると頭をくしゃっと撫でてあげたり。 「アヤカシは私達がなんとかする。道中はぐれる者が出ないよう、村人を纏めて頂きたい」 そう村長へ大蔵が言えば、僅かに迷うよな色が村長の目に浮かびます。 「この村は畑仕事ぐらいしかしたことのない者たちばかり、多少使えた多恵の父親も伯父も‥‥儂らで、逃げ切れますかの?」 「大丈夫、私たちが鬼の気を逸らすから」 「ま、ちょいと俺らも鬼さん相手に鬼ごっこと洒落込むから、その間に逃げて?」 菘が言えば鷲尾も槍を肩に乗っけつつにと笑って言って。 「さっさと避難させるか‥‥こう足手纏いが多くては鬼の始末もままならん」 そして村人より鬼への興味が勝っているか、柳生が緩く息をつくと、急ぎ村を離れる支度をするようにと言い放ち。 「山道を行くことになる、生き残りたければ荷物は最小限に止めてくれ」 「私、五郎さんとこに声かけてからよし爺とみーちゃん達に声かけてくる」 「一人じゃ危ない、一緒に行くよ」 多少の食糧などだけを急ぎ用意し始める村長の家、先ほど村長の言っていた外にいる人たちのことでしょう、多恵が入口へと向かえば菘がそれに付いて、家の蔭を注意深く進みます。 村長の家に近いところに寄れば、そこで臥せっている老爺の傍に年若くまだ二十に届いていない様子の若い夫婦が寄り添い怯えを押し殺して世話をしていて。 「みーちゃん村を出るよ、とも兄、よし爺負ぶって出られるように準備して」 「すぐに戻るから、そしたら村長さんの家に向かうよ」 もう一軒に向かうために必要なことだけ告げる多恵に菘が付け足して説明をし、神楽側にもう少し近くなる家へと向かえば、荷を少なくしろと言ってもあれもこれもと持って出ようとする男。 待ってもいられないため少々強引に菘と多恵とで男をひっぱり出せば、騒ぎそうになるのを抑えつつ、老爺のいる家を経由して村長宅へと何とか合流し。 「それじゃあ行きましょうか。悪い鬼に見つからないようにそっと急いで、ね」 悲壮な様子の村人たちを前に、にこりと笑いながら、菘は任せて、というのでした。 ●火を見よ血を見よ鬼が吼え 「うっひゃ―――っ!?」 「鷲、大丈夫アルか?」 「ちょっと気がつくのが早すぎだろ、火の鬼さんも! あちらさんは?」 「竣嶽さんが時間を稼いでいます、あと少しです!」 焔を受けないように横に跳び、起き上がり様に体勢を立て直しつつ聞く鷲尾、咄嗟に飛鈴が外套を炎鬼の顔に投げつけたことにより、焔は逸れますが、村の一部を焼いて。 「ええい、くそ‥‥力量に差があるっていうのは何時感じても忌々しい!」 為す術もなかった過去があるのか、悔しげにぎりと唇を噛むも、鷲尾は直ぐににっと笑って槍を構えます。 「かと言って逃げ出すわけにも行かないがなぁ。ほれ、鬼さんこっちだっと」 話は僅かに巻き戻ります。 鷲尾・飛鈴・水津の三人がまず先行して家を出て、その後に救出班と村人が出ることになったのですが。 逃げる支度に手間取ったのもありますが、やはり女子供に老人を含んだ村の一行となると、開拓者たちよりも人数も多ければ、不安に慄きまた鬼達も不穏な動きに意識を向けていたのかもしれません。 程無くして此隅側へと近づいて来る気配に、鎧鬼が気付きました。 「ぐヴるるぁぁああっ!!」 奇声を上げて向き直る鬼に多恵へと村長とともに道案内をさせながら、庇うようにして立つ一行。 「行って下さい‥‥!」 刀に手をかけ村人達へと告げれば、混乱を仕掛けた村人を村長が宥め、多恵が誘導するように森へと勧め。 ごねた一人が荷を多めに持っているため、また老人を背負う若者が少しもたついてしまいますが、それ以外は生き残っている男衆が子供や女性に手を貸して。 鎧鬼に気が付かれていたためか静かにするよりも、もはや急ぎ森へと逃げ込む姿に、炎鬼も気が付き。 「鷲、危ないアル!」 一気に駆け寄ろうとする炎鬼のくわと開かれた口に、飛鈴が声を上げ外套を脱ぎつつ近付く炎鬼へと向かい、鷲尾は声に弾かれるように飛び退って。 「くっ」 鎧鬼の刀をかわし繰り出す一刀はその鎧に阻まれ、僅かに声を漏らす竣嶽、どうやら炎鬼と並ぶ程に厄介な相手のようでもあると痛感するようで。 「遠距離攻撃か。今までとは違う種類のようだな」 興味をそそられた様子の柳生は目に狂気を浮かばせ笑うと、自身の刀を抜いて参戦します。 「森に火がついたら不味い、上手く誘導せねば逃げる前に村人が‥‥」 柳生が炎鬼と対峙しようとするも、直ぐに大蔵が注意を促し、鎧鬼は竣嶽が意識を逸らしている間に、水津が鎧鬼の足元に火を付け目元を狙って空間を歪め、目を押さえて更に激しく暴れ出す鎧鬼。 大蔵が咆吼を上げれば、鬼達の注意は村人達から逸れ大蔵達の方へと向かい。 「大丈夫? こっちだからね、さ、手を‥‥」 菘が多恵について逃げる村人達へと手を貸し、必死で森へと入り込むと街道の方角目指して進む村人達、此隅側の鎧鬼が抜け道へと入るのを襲おうとしたためか、村に沿った形で此隅側へと抜け、森を突っ切るよりはずっと歩きやすい道を抜けていき。 「ほれほれ、『攻め鷹』の槍をとくとご覧あれ!」 「鷲じゃないアルか?」 鎧鬼を街道から引き剥がし且つ炎鬼と完全に挟まれないように誘導していけば、耳に聞こえる呼子にちらりと目を見合わせて。 「ああ、焔の輝き‥‥癒されます‥‥もっと燃えなさい!!」 「いや、兎に角早く逃げて〜」 殿を努めようとする鷲尾が、鎧鬼を誘導してていていと攻撃を続ける水津に言えば、水津を肩に担いで逃げに入る飛鈴。 時間稼ぎに留まった救出班も撤退するのを確認して、鷲尾も全力で鬼を振り切って退くのでした。 ●いつか戻らん炎没の地に 「‥‥距離を選ばないアヤカシの存在‥‥それを確認できただけでもこの依頼は収穫だったか」 何処か楽しげな様子で呟く柳生ですが、疲れ切って黙々と歩く村人達に微妙な様子で見られたり。 「‥‥これからどうする?」 多恵の祖父の居る村へと向かいながら、何気なく大蔵が尋ねると、多恵は一度だけまだ家々の燃えて居るであろう村の方へと目を向けると。 「皆を祖父の村に連れて行ったら‥‥傭兵砦に行きます。力を付けて、いつか、戻れるように‥‥」 多恵はそう言うと、皆を助けてくれて有難うと哀しみを滲ませた微笑を浮かべるのでした。 |