朝顔の露の色
マスター名:想夢 公司
シナリオ形態: ショート
危険
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/07/28 23:55



■オープニング本文

 その日、泰国から戻って来た二人の人物が、武天芳野領主代行の伊住穂澄の客人として綾風楼へと荷を下ろして腰を落ち着けたのは、暑い夏の日の午後のことでした。
「暫く故郷とこちらとの往復で忙しいことになりそうだな」
「今のところ現状に対処する状況なのが歯痒いですが……そろそろまた令杏でも祭がありますし、先の方針はその後になりますね」
「ま、そんな難しく考える必要は無いんじゃねぇのか? 動きがあれば直ぐに連絡は来る、動きはなくても祭は来ると」
「それはそうですが……」
 絵地図を広げて難しい顔で考え込むのは泰国人開拓者の綾麗、荷を置いてから相談のために顔を出した泰国人の開拓者の岳陽星は生真面目すぎると潰れるぞと苦笑します。
「お二人とも、こちらにいらしたのですね」
 そこへやって来たのは、二人を客人として呼んでいた穂澄。
「折角休みに来られたのです、少し息抜きをされては? 丁度、朝顔の市が始まりますし」
 そう笑みを浮かべて話しかける穂澄に、顔を上げて軽く首を傾げる綾麗。
「牽牛子の市ですか」
「ええ、警備代わりに、開拓者の皆様をお誘いしているので、宜しければお二人ものんびりされては如何ですか?」
「そりゃ良いや。俺はぶらっと屋台を冷やかしに行こうかな」
 穂澄の言葉ににと笑う陽星、穂澄は綾麗にも是非、と勧めます。
「色々と変わったものも見られると思いますよ」
「そうですね……変わったものというのは少し興味があります。職人さんのお話でも聞きに行ってみましょうか」
 そう言うと、綾麗は窓の外、市の支度をしている人々へと目を向けるのでした。

「どうしたの?」
「……」
 じっとともすれば睨んでいるかのような十程の女の子を見かけて声を掛けた綾麗、むぅ、ときつい表情のその女の子は特に何も言いませんが、傍に居た職人さんがこそっと綾麗へと話しかけます。
「いや、この子両親を亡くして、この街のお祖父さんのところで暮らしているんだけれど、この朝顔じゃない、なんて言って怒っちゃっててねぇ……」
 どうやら職人さんが女の子のお祖父さんに聞いた話では、ご両親が好きだった朝顔があったらしく、それが変わり咲き朝顔だったようで。
「この子ずっとこの様子だから、どんな朝顔なのかさっぱり分からなくてねぇ……」
「そうですか……」
 頑なな様子の女の子に心配そうに見る職人さんと綾麗。
「私、この市をあちこち見て回ろうと思うのですけれど……お父さんとお母さんの朝顔、一緒に探してみましょうか?」
 綾麗にそう話しかけられた女の子はむくれたままですが、小さく溜息をついた綾麗の服の裾をぎゅっと掴みます。
「じゃあ、行きましょうか。あ、私は綾麗と言います」
「……すみれ……」
「すみれさんですね」
 微笑を浮かべて綾麗が手を差し出すと、すみれはおずおずと手を握り、俯いたままですが、見に行きたい方向へと歩き出すようで。
 賑やかに準備の進む朝顔の市、すみれと綾麗が手を繋いで朝顔を見て回るのを、職人さんの手伝いをしつつ一杯引っかけていた陽星が不思議そうに眺めて居たり、煙管を薫らせて某御隠居さんが蕎麦屋の窓辺でのんびりして居たり。
 そんな暑い夏の日の同じ頃、開拓者ギルドへと、呉服屋からの依頼と並んで、朝顔市へ遊びに来ませんかというお誘いの貼り紙が出されるのでした。


■参加者一覧
ゼタル・マグスレード(ia9253
26歳・男・陰
紅 舞華(ia9612
24歳・女・シ
フェンリエッタ(ib0018
18歳・女・シ
月雲 左京(ib8108
18歳・女・サ
火麗(ic0614
24歳・女・サ


■リプレイ本文

●朝顔市の風景
 まだ涼しい頃合いですが朝顔市は随分と早い時刻から始まるものです。
「……お祭り、で御座いますか……懐かしい花で御座いますね……」
 番傘で陽を遮りつつ緩りと歩く月雲 左京(ib8108)、朝顔市をそぞろ歩く左京はどうやら気が塞ぐようで、気分転換を兼ねたもののよう。
「様々な朝顔が御座いますね」
 微かに呟き市の中の道を歩き並ぶ朝顔を眺めて居る左京は、人の多い場所は苦手な方ですが、今は逆に見知っていない人達の中を歩くと言うことが余計に一人であることを感じさせていて。
「……」
 様々な色の朝顔を眺めながら、左京はゆっくりと市の中を進むのでした。
「この季節は朝顔や向日葵か……季節を感じる花は好きだな」
 朝顔市にやって来て周囲を見渡すと笑みを浮かべるのは紅 舞華(ia9612)。
 黒藍に流水柄に白の朝顔の浴衣に身を包んだ舞華は、待ち合わせの相手を見つけると笑みを浮かべ歩み寄ります。
「お誘い感謝。その……利諒、どうかな……?」
「とっても素敵です」
「ん、そか……利諒も似合ってる」
 浅縹と白のしじらを着た利諒も嬉しそうに笑うと、他の方とも中で会えますかねと話しながら朝顔を見ていれば。
 利諒の瞳の色を想って青い朝顔の鉢を見つけて購入する舞華が何処かちょっと照れているのに、当の利諒は小さく首を傾げると、舞華の手を取って歩き出すのでした。
「おや?」
 浴衣の宣伝のため、新作の朝顔柄の浴衣を色っぽく着崩して身につけ、一杯引っかけたばかりの火麗(ic0614)は、綾麗が俯きがちな子供と手を繋いで歩いて居るのに気が付いて眉を上げました。
「余計なお節介かも知れないけどさ、どうしたんだい?」
「あ……」
 火麗に話しかけられ綾麗は簡単に事情を説明すれば、綾麗の手を握りしめながら俯いているすみれ。
 それを見て火麗は屈むとすみれと目線を合わせて覗き込みます。
「……」
「折角のお祭りになんでそんな湿気た顔してるんだい? 折角のいい女が台無しだよ」
 ちらりと目を向けるすみれに笑いかけると、ちょんと手を伸ばし頬に指で触れて続ける火麗。
「つらい思いして俯いちゃうと見える物も見えなくなってしまうのよね。例えばお父さんお母さんの朝顔じゃなくてもとっても奇麗な朝顔とかさ」
「でも、お父さんお母さんの朝顔じゃないもんっ」
 怒ったように声を上げるすみれですが、火麗がからからと笑うと戸惑った様子も見せて。
「そりゃぁそうさ。でもね、そうやって顔を上げ続けていればいつかお父さんとお母さんの朝顔と……」
 笑いながらも力強く続ける火麗に戸惑いつつも、何やら表情が戸惑いから不思議そうなものへ変わっていくのが綾麗にも火麗にも見て取れて。
「そして自分の朝顔に出会うことが出来るさ」
「……自分の?」
「そうさ、すみれちゃん、あんたにとって特別な一鉢にね」
 見つけたらこっそりとお姉さんに見せてくれるかい? そう笑うと、また後でねと笑って市の中へと消える火麗に、すみれは暫くの間、目を瞬かせて見ているのでした。

●思い出の朝顔
「張り詰めるばかりの毎日の、しばしの息抜き……とは言ってもでも暑さは苦手……」
 お誘いを見てやって来たフェンリエッタ(ib0018)は、ちょっぴり伸びた髪の毛を朝顔を象った簪で纏め、金魚の柄をした夏らしい装いが何とも良く映えていて。
 手にした団扇にも清しい朝顔が描かれており、ゆるりと歩きながら周囲を見渡すフェンリエッタ。
「それにしても……これが……朝顔? 変わり咲きの朝顔って初めて見るけど、全然別の花みたいね」
 驚いたように見るフェンリエッタは、幾重にも広がるふんわりとした花を前に、思わず手元の団扇の絵柄と見比べて見たり、大輪の細い花弁がまるで花火のように広がるものに感心したように職人さんにあれこれ聞いてみたり。
「まさしく職人さんが丹精こめた芸術作品っといった感じね」
「そう言って貰えると嬉しいねぇ。奥にも見事なのが沢山あるよ」
「あら、自分の花を勧める訳じゃないの?」
 選んで貰えれば嬉しいが、自分に一番合った物を見つける方が大事だと笑う職人さんに軽く首を傾げるフェンリエッタ。
「ふぅん……兎に角、見に行ってみるわ」
 職人さんにお礼を言ってから歩き出すフェンリエッタは、途中普通の朝顔が並ぶ一帯を通りながら小首を傾げて。
「朝顔の模様って星が咲いているみたいだけど、別名が牽牛なのも何か関係があるのかしら?」
 そんなことを考えながら歩いて行けば、同じ開拓者である様子の男女と、女性と手を握りつつ、何とも言えない表情で朝顔を眺めて居る女の子に気が付くのでした。
「偶には花鳥風月を愛でるのも悪くない……」
 そのほんの少し前、ぶらりと朝顔市に浴衣を身につけてやって来たのはゼタル・マグスレード(ia9253)。
 ゼタルはぶらりと街を歩きながら道行く人を眺めて居れば、そこに見知った人物が子供と手を繋いで歩いているのに一瞬固まりました。
「り、綾麗君……?」
「あ、ゼタルさんもいらしていたのですね」
「あ、あぁ、その……其方のお嬢さんは、その、まさかとは思うが、君の……?」
 ちょっとばかり動揺した様子のゼタルですが、綾麗はきょとんと首を傾げ。
「いえ、私は天儀にも泰国にも妹はおりませんが……一緒に市で、すみれちゃんの思い出の朝顔を探しているんです」
「あ、違うのか」
 ちょっぴり話が行き違っているようですが、そうだな、年齢が合わないしな、もごもごと口の中で言うゼタルは、珍しく動揺しつつ妙な勘違いをするという、らしくない自分に戸惑ったようで。
「どうしたの?」
 フェンリエッタは、丁度そんな会話をしていたところですみれの様子が気になって声を掛けました。
「おや、皆揃ってどうしたんだ?」
 そこに利諒と共にやって来た舞華、利諒がすみれに金魚の根付けをあげたりしている間、取り敢えず綾麗から軽く事情を聞くと、成る程、とばかりに顔を見合わせるゼタルにフェンリエッタ、そして舞華。
「そうか、御両親の好んだ朝顔探しにな……僕も手伝おう」
「良ければ私も手伝うわ。市を見た限り本当に色んな種類があるし」
「手は多い方が良いだろう?」
 三人の言葉にすみれが目を上げれば、フェンリエッタはにこりと笑って道の脇に幾つかある休憩用の縁台へとすみれを誘います。
「すみれちゃんの朝顔、どんな感じだったか教えて貰えるかしら? 普通の形のものと比較して、花の形とか……」
 言いながら取りだしてすみれに見せるのは手帳、そこにさっと茎となる部分を書き込むと、花びらはどんな感じ? と、幾つか別の頁に書き込んで見せて、近い形を聞いて見ます。
「もっと、こまかくて、ふわふわしてて……」
「大体の形は分かったとして、色はどうかな? 思うに、紫色の花ではないかな、すみれ色の」
 舞華の言葉に目を瞬かせるすみれ、こんな色だ、と近くの屋台にある朝顔のその色を差せば、こくりと頷くすみれ。
「色は、全体的に色が付いていたのか、それとも、花びらの先に色が付いていて、がくの方は白かった、とか?」
 手帳に書き付けながら聞くフェンリエッタに、ふるふると首を振るすみれ、ゼタルは少し考える様子を見せると。
「先程幾つか見たのだが、花びらにまばらに色が付いていたといったところか?」
 こくりと頷くすみれ、大凡の特徴が分かりその特徴を数枚書き写してそれぞれに配るフェンリエッタ。
「じゃあ、これをもとに探しましょう。その前に、こんなに暑いし根を詰めては疲れるでしょうし、ちゃんと休憩もね」
「それなら休憩に良い場所が先にあったな。折角だし、すみれも浴衣を着てみないか?」
 貸し出してくれるところがそこにあったと舞華が告げれば、折角なのでとすみれにも浴衣を見繕うことに。
 すみれの年頃の浴衣を出して貰えば、可愛らしい物が沢山並びますが、あれこれと一緒に選んでいれば、各人の助言などもあり薄桃の地に紫の朝顔が描かれたものに、黄色の帯を締めて。
 朝顔の簪も借りればフェンリエッタにお揃いね、と言われてすみれはほんのりと頬を染めて照れている様子。
 折角だからとゼタルに勧められた綾麗は、すみれが色違いとはしゃいだ、白地に青の朝顔の浴衣に黄色の帯を締めて。
「じゃあ、暑いしちょっと休憩したら、朝顔探しね。すみれちゃん、かき氷は好き?」
 笑いながら言うと、フェンリエッタはすみれを、開拓者とその相棒のからくりが売っているかき氷の屋台へと誘うのでした。

●哀の色の花
 暑い中を涼やかに並ぶ朝顔、色取り取りの花を見ながらゆっくりと歩いていた左京は、一人の職人が売っている朝顔の前へとやってくると、そこに並ぶ朝顔の鉢に目を惹かれました。
 それは死んだ兄の愛した色である蒼の花と、自身の愛する朱の花の、見事な色違いの朝顔の小さな鉢で。
 普通の朝顔より少しだけ大きめで、色が鮮やかなその鉢を買い求めて包んで貰うと、それを手に再び歩き出した左京は、花に目を落とすと何処か寂しげな笑みを浮かべます。
「固い約束、愛情の絆……まさに、これに囚われて今を生き繋いでおりますね」
 小さく自嘲気味に呟いて笑う左京は、花を見つめて居れば、亡き兄である右京の死に際を思い出してしまうようで。
 『決して自害はしないで』という『約束』を守る自身を思えば、小さく唇を歪める左京。
「今でもその約束をこうして守り……そして、その『家族』であり『半身』の『絆』にいつまでも縛られているのですから……」
 そう口の中だけで呟くと堪えられなくなったのか、歩く足取りは自然と速く、朝顔市の参拝道を抜けて、更に先へ先へと走れば、ふと気が付くとそこは街を外れた林の中、誰の姿も見えず遠くから聞こえる喧騒の中で、へたり込むかのように左京は座り込みます。
「幻でもかまいませぬ……一人は、一人はもう嫌で御座います……っ」
 先日、既に死んだはずの兄の姿、血、周りの人達と、そして今の自分、様々なものが脳裏を過ぎり、堪えようとしてもとめようとしても後から後から零れる涙、締め付けられるような想いに、左京は強く胸元を握り住めるしか出来ず。
「何時まで……一人で、何時まで生きれば……いいのでしょうか……」
 兄の幻のようなものを見てしまってから追い詰められる気持ち、それが日に日に左京を蝕み追い詰められてしまっているようで
「何故、何故九年もたった今、にに様の幻などを……」
 そう問いを発しながら目を彷徨わせれば、寄り添う蒼と朱の朝顔の鉢がその瞳に映って。
「何故、『皆』ではなく……『にに様』……だけ、なので御座いましょうか……」
 ぽたぽたと零す涙は、左京の問いに答えることのない朝顔の花弁落ち、揺れているのでした。

●朝顔の露の色
「あ、あったっ!」
 朝顔の特徴が確りと分かって居れば、すみれの朝顔は存外早く見つかりました。
 余り時間をかけすぎて花が咲いていないとなれば見つけるのも一苦労だったのを思えば、早くに見つかるのは良いことで。
「わぁ、凄いわね」
 小さな鉢ですが、幾重にも重なる白い花びらに、絵筆で描いたかのようにすみれ色が散りばめられており、見た目にも涼やかなそれは、職人さんに聞いてみれば、何年も前に若い夫婦が赤ん坊を抱いてやって来たときに大層気に入いって買い求めていったそうで。
「今回この花は二つだけしか、持ってこられなかったんだが……」
 その花の鉢は二つあり、手の中のお小遣いと見比べて悩む様子を見せるすみれですが。
「ふたつ、ください! えっと、別々につつんで!」
 そう言って二つの包みを受け取ると、フェンリエッタは嬉しげなすみれに笑いかけます。
「見つかって本当に良かったわ。……折角の市だし私もお土産に買っていこうかな」
 同じ並びの幾つかを見ながら朝顔に目を向けると。
「朝に咲いて夕方にはしぼんでしまう……そんな朝顔の花言葉は儚い恋、か」
 少し寂しげに呟くフェンリエッタ。
「私は……どうかしら。私の気持ち、私の恋……私のこれから」
 つい考え込んでしまうようですが、その考えを振り払うように頭を振りきょとんと見上げてくるすみれに笑いかけると、自分用と来月に誕生日を迎える親友へのお土産を選ぶことにして。
「その青みがかった薔薇のような牡丹咲きと……あと、そこにある紅の花火みたいな撫子采咲きがいいわ」
 フェンリエッタは朝顔を受け取ると、待ち合わせ場所でみんなに見せてあげましょう、とすみれに微笑みかけるのでした。
「職人さんのお話では、すみれさんとフェンリエッタさんが向かった方に、それらしい花があるそうですね」
「では今頃見つけているか」
 違う通りを探していたのは綾麗とゼタルはひと鉢ずつ買う事にしたようで、綾麗は白い花を、ゼタルは青い花を包んで貰って。
「綾麗君には、御両親の想い出などあるかい? ……まだ、そこまで記憶は戻っていないだろうか」
「物心つく前に両親とも亡くなったそうで……」
「不躾な事をすまない」
 ゼタルの言葉に首を振ると、綾麗は軽く首を傾げて。
「ゼタルさんのご両親は?」
「僕の親は……うん、母は早くに亡くなっている。父は健在だ」
 言って何処か笑むように続けるゼタル。
「厳格だが良き理解者でね、僕には官僚の道を勧めてくれたが……世界を旅し見聞を深めたい僕の意思は尊重してくれた」
 だから君や皆に会えた、そう告げるゼタルに綾麗はどこか嬉しそうな様子で笑みを浮かべると、朝顔を抱え話しながら待ち合わせの方へと足を向けるのでした。
「おや?」
 舞華と利諒の姿を見かけた火麗は、一杯誘おうとして、すみれと一緒であることに気が付いて目を瞬かせます。
「あ……おねーさん、これっ!」
「あたしにかい?」
「うんっ、ちゃんと、顔を上げてたら、見つかったよ! だから」
 どうやら朝顔を見つけたのを火麗にも見て貰いたかったよう、笑みを浮かべて頭を撫でてやれば、有難うと言って鉢を受け取る火麗。
「お姉さんもお兄さんも、ありがとう!」
 ぺこりと頭を下げればゼタルは頭を撫でてやり、舞華は途中で見つけた可愛らしい飴を買い求めていたようですみれへと渡して。
「またね!」
 どうやらそろそろ孫娘が帰ってこなくて心配でやってきた様子の祖父に気が付いて、鉢を大事そうに抱えながらすみれが笑顔で手を振ってから走っていくのを見送った一行は。
「あたしは河岸を変えて呑みに行くつもりだけど、みんなもどうだい?」
「あ、食事もお酒も良いところを知っていますよ」
「それは楽しみだ」
「突然行って席は足りますか?」
 風もほんの少し涼しくなってきた頃合い、通り近くのお店の座敷を借りて、中庭を眺めながら買ってきた鉢や見た朝顔の話に花を咲かせる一行。
「これから先も色々大変な事続くだろうけどこの奇麗な朝顔とそれを眺めながら飲む酒の美味さのためなら頑張れるさ」
 笑みを浮かべると火麗は、自身の目の前にある朝顔の鉢に軽く杯を掲げて笑みを深くするのでした。