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■オープニング本文 その日、泰国にある令杏と言う街で、清璧派の後継者である綾麗が、師範代の雷晃、それに知人の泰拳士である岳陽星は、令杏の救邑のお祭りの準備を手伝っていました。 例年より少しお祭りの予定が遅れたのは、今回お披露目される新しいお酒の蔵出しがずれ込んだからとのことだそうで、その分少々慌ただしい街中。 街のあちらこちらでは、既に龍の英雄と恐ろしい化け物の人形劇の支度がされていたり、何やらお酒の支度などがされていたりと、大変に忙しい様子、綾麗達は主に警備絡みのことで忙しく立ち働いていたようなのですが。 「私に客人ですか?」 一息ついて滞在している宿へと揃って戻ってくれば、そこへ尋ねてきた人物が居るとのこと、部屋へと通して貰えば、その長身の人物は綾麗や雷晃にとっては見知った人物、但し、普段と装いや様子が違っていました。 この日も長剣を身に着けていましたが、今まであった時にはいつも持って居た八極轟拳の紋章があるものと違い、裕福そうな大層きちっとした身なりの武人といったところ。 「本日は、主の使いとしてやって参りました」 そう言って周囲に様子を窺っていたり聞き耳を立てている者が居ないことを確認する人物、黄遼燕はきちんと頭を下げると、改めて口を開きます。 「我が主は清璧派掌門、綾麗殿への縁談の申し込みを希望されております」 「は?」 幾度か危ない橋を渡って情報などを伝えてくれた遼燕ではありますが、敵対している現状で出てくる言葉ではない為、怪訝な表情を浮かべる綾麗に微苦笑を浮かべる遼燕。 「まぁ、建前も小細工も、現状と互いの状況を理解している上ではただの時間の無駄でしかありませんね。有体に言えば、我が主は要望が通れば手間が省けるとはいえこのはなしが通るとは思っておらず、実際のところは……」 「断られることを見越し、面子を潰すこととならぬよう使者を丁重に持て成させ滞在させる、それが狙いということですかな」 雷晃の言葉に頷く遼燕は、いわゆるぶっちゃけた話をすることにしたようで。 「実のところ、我が主はともかく八極轟拳としては、反旗をと蜂起した清璧派は別として令杏に手を出す旨味はありません。一度取り返された土地、手を出して失敗すれば無能と証明するようなもの。敢えて火中の栗は拾わないものでしょう」 とはいえ一度轟拳に落ちたことがあるので周囲はその辺り敬遠し合って狙ってきていない現状、また清璧派との関係もあるでしょうが、遼燕はそう説明して。 「八極轟拳……いや、それより、じゃあなんで令杏に滞在しようとしてんだよ、あんたは」 「そこです。なぜ令杏に朱梅山が執着していたのか、そして白子冥が未だ探りを入れようとしているのか、そこに我が主は興味があるとのことで……このような形でこちらに窺うこととなりまして」 警戒するかのようにみる陽星ですが、そもそもこんな話が纏まるなんて思っていませんし、我が主もその辺は分かって居ますよ、そう言って遼燕は肩を竦めます。 「梅山って誰だっけ」 「えぇと……ギルドの孔遼君が叉焼って呼んでいたあれです。……それでその、白子冥というのはどなたのことでしょう?」 「え? ……その、いえ、轟拳外では何と呼ばれているのかまではわからないので……ですが、この令杏に直接出向かず手のものを使ってくるあたりから、顔が知られている人物なのでは?」 既に討ち取られた朱梅山絡みで知っていたようで、白子冥が前から令杏や清璧派を窺っていたことを知ったためか、もともと八極轟拳内では暗殺拳士だってことだけしか知られていなかったことから、具体的な活動までは知らなかったとのこと。 「手のものと言っても、うまく懐柔した拳士を一人送り込むようだという情報を耳にしただけですので、あまり大きな話にはならないと思いますが……」 「このお祭り期間に、やってくる拳士ですか……」 できる限りの情報はお話ししますので、そう告げる遼燕の言葉に、綾麗は深く溜息をつくのでした。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
ゼタル・マグスレード(ia9253)
26歳・男・陰
紅 舞華(ia9612)
24歳・女・シ
嵐山 虎彦(ib0213)
34歳・男・サ
草薙 早矢(ic0072)
21歳・女・弓 |
■リプレイ本文 ●白子冥の目的は 「……で、縁談って何だ。余程良い男でないと綾麗は嫁にはやらないと私は心に決めている」 「あ、あの、舞華さんっ」 紅 舞華(ia9612)がずずいと黄遼燕へ言うのに慌てた様子の綾麗、遼燕は目を瞬かせてから申し訳なさそうな困ったような表情を浮かべます。 「ましてや政略結婚など論外」 「気分を害するお話を持ってきて、申し訳なく思っています」 「舞華さん、そもそも、こういう形のお話を受けることはありませんから……」 きっぱりと言う舞華にあわあわとしている綾麗の言葉を聞いて、どことなくほっとした様子を見せるのは、令杏に来てからずっと難しい顔をして居たゼタル・マグスレード(ia9253)。 「しっかし……建前とは言え、急に縁談だ、なんてぇ言われたらゼタルは驚いちまっただろうなぁ」 「……嵐山君」 呵々と笑う嵐山 虎彦(ib0213)に何と言って良いのか分からない様子のジト目で見るゼタルですが、嵐山は悪ぃと言いながらもどうしても笑みが浮かぶようで。 「情報を持ってきてくれてありがとう、遼燕さん。このままの関係が続けばいいんだがな」 羅喉丸(ia0347)の言葉に驚くような表情を浮かべた遼燕は、少しだけ寂しそうな笑みを浮かべると、そうですね、と呟くように言います。 「ふむ、あやしい泰拳士……妖しい? 怪しい?」 聞いていた話を反芻してから、篠崎早矢(ic0072)はどんな泰拳士なのだろうかと眉を寄せてちょっと考え込んでしまっているようで。 「しかし、白子冥か……こちらに顔が知られている心当たりなんて言ったら、やはり梁蒼仙ではないだろうか」 「まぁ、ほぼ間違いないとは思うけれど、用心に越したことはないから、慎重に判断が必要だろうね」 羅喉丸の言葉に頷きながら言うゼタル、嵐山は顎を擦りつつ肩を竦めて。 「しっかし、まだしつこく綾麗のお嬢を狙ってるなんざ、全く、懲りない輩だ」 「結局の所、目的は大体想像が付くが、あちこちに手を出しているようだし、今一つ執着の理由がわからないからな」 「白子冥が、と言うことですよね? 私の見た範囲ですが、異常なまでの虚栄心、言うなれば英雄願望があるようです、無論非常に歪んでいますが」 舞華の言葉に遼燕は、そういった事情から一部で言われている清璧白龍の再来に執着しているのではないかと述べて。 「そう言った意味では、綾麗さんは分かり易い象徴ですからね」 「解放された後の令杏の危機に現れたし、潰えたと思われた清璧山は復興中。人によっては清璧の祖の道を辿っているからという訳か」 遼燕の言い方に少しだけきつめの口調で言うゼタル、言葉の様子に察せられるところが分かるか少し困ったように遼燕は目を伏せると。 「私の主はそう考えるだけの計算すら出来ないので今回のことも思いつきのようですが……ただ、綾麗さんを娶って、若しくは成り代わってその地位を欲しがる者が居るというのは無い話ではないのでは」 「当人の気持ちや考えを置いて置けば、手っ取り早いと考える訳か。到底許せる話ではないな」 「武人の誉は己が勝ち取ってこそであろうに」 怒った様子の舞華、現状良くは分からないものの、何やら他人のものを奪うのが手っ取り早いと思っている不埒な輩が居ると言うことは分かったかふんっと鼻を鳴らす早矢。 「ま、当人が警戒されてると分かって顔は出さねぇってんだ、その泰拳士とやらから事情をよぅく聞くこととしようじゃねぇか」 嵐山がにと笑うと、一同落ち合い方やどういう形で回るのかなどという打ち合わせを進めるのでした。 ●泰拳士 「あいつか? あいつが怪しい奴なんだな? よし、きっさまあああ……」 「あわ、違います、あの人はあそこの商人さんの護衛ですっ」 ぶんと強弓を振り手早く構えようとする早矢に慌てて止める綾麗。 早矢は綾麗に護衛としてついており、綾麗が巡回がてらお店や人形劇を行っている芸人達と言葉を交わしている側では、ゼタルが周囲の警戒をしつつ距離を保っていました。 「護衛?」 綾麗の言葉に眉を寄せて相手を見る早矢、まだ少し離れたところから見ていた為、相手は怪訝そうな顔でちらりと見たりしています。 堂々と綾麗について長い弓を身につけきっちりと革の弓鎧を身につけている姿は、清璧との交流が復活した令杏からすれば、開拓者の存在を知ることとなった為かそれなりに頼もしく見えるようですが。 「……珍しいこともあるな」 綾麗があわあわとしている姿というのはそう頻繁に見るものではなく、それでいて少しだけ年相応の様子にも見えて符を手にしたゼタルは少し口元に笑みを浮かべます。 「む……確かにあの様子は、泰拳士、と言う風体ではないな」 ふぅ、吐息をついて弓を下ろす早矢、綾麗が商人に話しかけられて何事か確認して居れば、ゼタルは物陰にさっと入ると符を小鳥へと変じて周囲を改めて空から確認して。 「どうしても武芸者が多くなるのは仕方がないが……」 どちらにしろ綾麗が周囲の目を引くのは立場上仕方がないことのため、あまり大きな騒ぎにならないうちに見つかるといいのだが、と呟くように言うのでした。 「さてと……前に比べて、さらに盛況になって居るようだな」 白に青、金の縁取りの清璧派の装束を身につけて詰め所を出ると、ぐるりと改めて周囲を見渡す羅喉丸は、護衛に先駆けて一度祭りを見て回ってから来ており、その時に清璧の救邑英雄譚を見ており、だいぶ観客を見渡す余裕もできていた様子。 「まずは仕事を果たさなければな。祭りの後も笑顔が続くように、災いをもたらすかも知れない芽は早い内に摘むに限るからな」 楽しげな人々の姿に思わず笑みが浮かぶと、気を引き締めて歩き出す羅喉丸。 「武人もいるようだが、大部分が商人の護衛か純粋に祭り目宛てのようだな」 実際の所街中心の舞台で行われた派手な人形劇は、目にも楽しく動きも派手で華やか、それを噂で聞いて楽しみにやってくる人の気持ちもわかって。 「あとは、街の人たちがずいぶんと落ち着いたこともあるのかもな」 前の祭りの時にはまだ令杏は八極轟拳から解放されたばかり、清璧との交流も戻っていなかった非常に不安定な頃であったのを思い返して言うと、街の人たちから声をかけられるのにそう納得した様子で頷く羅喉丸。 「ん……? あれは……」 と、そんな羅喉丸の視界に入ったのが一人の男、中肉中背、身形装備は普通の泰拳士ですが、目に付いたのは少し離れたところにいる綾麗へと向ける睨み付けるような視線です。 「利用されている泰拳士、か……あの人物がそうだったとして、どんな話を聞いているか、だな」 眉を寄せて呟くと、羅喉丸はうろうろと怪しい動きをしている泰拳士の後を追うのでした。 少し前に遡ります、舞華も周囲を平服に着替えて回りながら怪しい動きをしている者が居ないかと探しているところでした。 「ここに顔を出せないとなると蒼仙の事だろうが……」 そう言いながら舞華が探して居るのは、伝承や綾麗に付いて興味を持っていそうな、挙動不審な泰拳士のようで。 そんな中、ちらちらと人形劇を見ては、辺りを見渡す中肉中背の男がいました。 「あれは……」 お祭に荒っぽい人間がちょっと混じったりする事はよくあることではあるも、何やら人を捜しているようであるその様子が、少々引っかかったからでもあり。 「……ん」 見ていれば男の目的の人物は程なく見つかったよう、その視線の先に居たのは綾麗でした。 清璧派の女性と言えば他に該当者が居ないこともあり、どういった思惑で探していたのか注意深く調べていれば、男は綾麗の側に早矢の姿を見て、護衛と判断したか舌打ちをするのに気が付き、間違いないと見てすと歩み寄る舞華。 「あ、すみません」 「ん? あぁ、いや……」 とんっとぶつかってから申し訳なさそうに謝る舞華、その様子はゼタルの人魂の小鳥と、男を注視していた羅喉丸も見ており、申し訳ついでに何かの縁だからと側の酒家へ誘う舞華に、綾麗の方も気になるも、ちょっとばかり鼻の下を伸ばして泰拳士は付いて行きます。 「今回のお祭は評判の新酒が楽しめると伺いまして……貴方は何がお目当てですか?」 賑やかな屋台? 評判の人形劇? と尋ねる舞華に酒を杯に注いで貰ってそれを呷れば、ちょっとばかり気分も良くなるし、何より酒に誘ってくれるような相手は好意的にこちらを見ているに違いないなどと都合良く考えたか、声を潜めて口を開く男。 「む……いや、ここだけの話だが、とんでもない悪人のことを探りにやってきたのだ」 「悪人、ですか?」 「ああ、滅んだ門派の後継者を騙って、救世主気取りの女が居ると聞いてな」 後継者の証しを奪い、門派の生き残った重鎮を籠絡して入り込んだ禄でもない奴だと言う男、内心を隠して、まぁ、と驚いた風を装う舞華に更に声を潜めながら男は続けます。 「騙し討ちでそれを奪われたという男に頼まれやって来たのだ。無念であり、騙される民のことを思うとと、それはもう心が痛むと。こう、穏やかな風貌に落ち着いた物腰で、己のことより民のことを考えるなどと……」 悦に入って舞華に話す男、どうやらその男の風貌や様子は蒼仙その人のようであり、真の清璧の後継者は自分であり、卑劣な手によって陥れられたと吹き込まれてきたよう。 「それにしても、お主は、酒が、強い……」 そこまで言い掛けて、良い気分になったか卓に突っ伏す男、酒家の協力もあってか側で話を聞いていた羅喉丸も出て来ると、舞華は溜息をつきます。 「随分と都合の良い話を吹き込まれているようだが、放っておけば厄介なことになりそうだ」 「暴れないでくれたのは良いけど、この調子であちこちに余計なことを吹聴しかねないから、扱いが難しいな」 酔い潰れたその泰拳士の男を前に舞華と羅喉丸が眉を寄せて話していれば、外からは賑やかな声が聞こえてきて。 「止まれええええ!! 貴様が不審な拳士か! ご用あらためである!!」 「待って下さい! その人はうちの門弟です!」 丁度酒店の側を通る綾麗と早矢の会話に、近頃ではすっかりと清璧派に親しみを憶えている様子の令杏の人々が面白がってみていたりするのを眺めながら、改めて二人は男の処遇に悩む様子を見せるのでした。 ●救邑祭の風景 「おう、一つどうだ?」 にぃと笑ってお酒を勧める嵐山に小さく礼を言うと、杯を受け取り一口呑んで小さく息を吐く遼燕。 綾麗とは程良く距離を取って祭りの様子をのんびりと眺めながらまわっていた嵐山と遼燕は、途中の屋台で買った焼餅を囓り、壊れかけの壁に添って並べられていた長椅子に腰を下ろして祭りの様を眺めて居て。 「……良い街ですね。祭りの最中だからと言えばそれまでですが、活気に満ちていて、前向きで」 「解放されるまで耐えた奴らの街だからねぃ、腹を括れば強くも前向きにもなろうってもんだ」 いける口だなと笑って酒を勧めながら言う嵐山の言葉に少しだけ考える様子を見せる遼燕、嵐山はその様子を暫し横目に杯を舐めていますが、落ち着いている様子に口を開きます。 「遼燕、お前さんの所の主に関して聞きたいんだが……」 言い辛ぇことだろうけどよ、その言葉に少し困った笑みを浮かべると、尋ねるのは当然のことでしょう、と小さく呟いてからゆっくりと息を吐くのに改めて口を開く嵐山。 「主とともに奴らに与しているようだが……正直なところ、あんまりお前ぇさんが悪い奴に見えなくてねぇ」 なんで奴らに付いているのか、その問いに手の中の杯を弄ると遼燕は重い口を開いて。 「……私の主は……言ってしまえば武芸にしか興味の無い若様でした。そんな人が、家屋敷を略奪されたときに思ったのだそうです、『力在る者が奪って何が悪い』と」 生まれたときから傍に居て世話をしていた遼燕は、たまたま出かけた主に従って出ていて略奪を防げなかったことを悔やんだそうですが、主は居合わせなかったことを残念がっただけだそうで。 ただ、それ迄はただ我が儘な武芸馬鹿のお坊ちゃんが、それ以降遼燕に対して妙な執着を見せるようになったそう。 「恐らく、主は私が何をやっても離れていかないと分かった上で、私を試して楽しんで居るのでしょう。ただ、私が従ってさえいれば、略奪や虐殺は行わないと……」 主を食客として留まらせている轟拳絡みの商人の悪辣な行為に荷担するときは、大概用事で出され遠ざけられるも、期日までに用を済ませて戻らねば付近の村を襲うと楽しげに話す主を、それでもまだ見捨てることが出来ないと自嘲気味に笑うと、遼燕は。 「私も、主に引き摺られていたのでしょうね。こんな当たり前の日常の姿すら、忘れていました」 そう呟くと、令杏の祭とその人々をじっと見つめているのでした。 ●平凡で平穏な日常 「で、足止めをしている泰拳士をどうするんだい?」 「そうですね……申し訳ないですが、清璧山に暫く留まって頂いて、どういう話を聞いたのか、あと誤解も説かないといけないですし……」 こちらを伺う泰拳士という不安要素が無くなったからか、比較的のんびりと警備がてらに祭りの中を歩く一行、ゼタルが尋ねればふぅと小さく溜息をついて答える綾麗。 「自分の立場というものを考えることにもなりましたけれど……私は私なのだと改めて思いました」 そう言って笑みを浮かべてゼタルを見上げれば今回のことに存外動揺していないのに少しほっとするゼタル。 「去年はここの屋台のが絶品だった」 「な、なるほど……いえ、確かに美味しいですが……」 所謂お持て成しとして祭りを案内する嵐山に舞華が合流すれば、既に食い倒れの様相を呈して来て目を白黒させる遼燕。 「ふむ、やはり曲者に尋問するなら私は威しの係を……」 「いや、まだ話し合いから始めるようだから、脅して尋問したら拗れるんじゃないか?」 弓をぐるりと回していう早矢に、あの様子だと話し合いで済むか難しいが、と微苦笑気味に言う羅喉丸。 広場で大きな人形劇が始まる為に自然集まってくれば、綾麗と顔を合わせた遼燕はしみじみと口を開いて。 「本当に良い街ですね……」 遼燕の言葉に綾麗は笑みを浮かべて頷いて、それを見てからゼタルへと目を向ける遼燕は。 「滞在の口実とはいえ、気分を害したこと、改めて謝罪します」 「ん……いや、こちらこそきつい対応をしてしまっていたなら、すまない」 「ほら、折角の新酒だ、皆で頂こう」 互いに謝罪していれば、舞華が呼ぶのに卓へと向かいながら、ゼタルは卓へと向かう綾麗を見ながら、今後このような事が増えるのだろうか、と小さく口の中だけで呟くのでした。 |